五芒星に関する一資料

 
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投稿者 SP' 日時 1999 年 9 月 15 日 15:12:07:

 以下『プラトンと五重塔』(宮崎興二 著、人文書院)p85-98より。文中「☆」は原文では星形正五角形(五芒星)のマーク。


 現在、地球上には、一六〇を越える国ぐにがあり、それぞれは、国民が考えに考えぬいた国旗を持っている。
 本書にとって喜ばしいことは、その国旗の大半がきわめて整理された幾何学的図形で占められていることである。その典型が、いうまでもなくわが日の本の国の完全な円であろう。
 昼の太陽をイメージさせるこの日章旗の円に対して夜の星をイメージさせるマークが星形正五角形である。
 なんと、アメリカ、ソ連、中国を初め、ほとんど全世界の約三分の一がこの星形正五角形を採用している。中国と国交のないイスラエルはダヴィデの星(星形正六角形)であるが(図10−1)。
 なぜ星形正五角形が場所を越えた大スターとしてこんなに人気を得ているのか。
 地球的規模で考えると、星形正五角形が最初に現われたのは、紀元前七世紀ごろの古代ギリシアの壺絵においてである、とされる。証明にうるさい数学者がいうのだからまちがいないだろう。
 しかもその数学者たちがいうことには、紀元前六世紀ごろの古代ギリシアの数学者で図9−10(七八頁)を見つけたピタゴラスは星形正五角形を自分の秘密主義の学校のマークにしていた。ひと筆書きできるうえに、黄金比という美しくかつふしぎな比が図10−2のようにいたるところに見られ、しかも、母体の正五角形自身がふしぎにも図9−10に入っていないからであった。だから、星形正五角形には、見つかった当初から神秘的であやしげな意味が与えられ、中世の西洋でピタゴラスが神の一人にまつりあげられるや、その神秘性はますますあやしく光りだした。

 わが国でも、平安時代中ごろからキラキラし始めている。『今昔物語』などによると、平安時代中ごろ、いまの大阪の繁華街阿倍野橋の近くで安倍晴明(九二一〜一〇〇五)という人が生まれた。生誕地には現在、安倍晴明神社が建てられている。
 母親は、なんと、歌舞伎で有名な信太の森のキツネだったらしい。
  恋しくば訪ね来てみよ和泉なる信太の森のうらみ葛の葉
という歌は、晴明の父安倍保名と母ギツネ葛の葉の恋物語を詠んでいるという。
 このような出生の秘密があるだけに、晴明は幼少のころから普通人には見えないような鬼の姿をまざまざと見る能力を備えていた。長じて、京都の、いま晴明神社の建っている近く(堀川今出川)に居を移したが、超能力を使って自在に遠くにある門を開け閉めし、蔀を上げ下げしたという。
 このような超能力は、伏羲伝来の陰陽道に通じるものであり、西洋伝来の占星術に通じるものである。
 というわけで、晴明自身が使っていたかどうかは定かでないが、いつのころからか星形正五角形が晴明紋とか、晴明ききょうとか、たんにセイメーとか呼ばれて、魔除けの必要のあるところで好んで使われるようになった。

 どこにどんなふうに使われているかについては史学者の岡田保造氏がくまなく調べられている。
 たとえば、京都の晴明神社には、軒瓦の一枚一枚から、ちょうちん、錠前にいたるまで、ありとあらゆる場所に☆が彫られ示されている(図10−3)。ふつうの家の瓦屋根でも、双眼鏡で見ると、鬼門(北東の隅)や裏鬼門(南西の隅)の方角の瓦にはしばしば☆が小さく目だたないように刻まれているらしい。
 大阪の安倍晴明神社には残念ながらそれらしい彫刻はなにもないが、境内に、伏見稲荷大社の奥の院にあるのとうり二つの、逆だちしたキツネの像が建てられていて晴明の母親を忍ばせる。さては、と思って伏見稲荷へ行って捜してみたところ、境内の伏見神宝神社の拝殿の左右に大きな☆が円盤とセットにされて、剣と鏡のかわりに置かれていた(図10−4)。定規とコンパスよりもっとすごいと思って宮司に聞いてみると、晴明とはなんの関係もなく、ただ夜空の星を暗示しているだけである、とのことであった。
 大阪城や金沢城はじめ多くの城の城石に大きく目だつように刻まれた(いまは風化してほとんど目だたない)のはそのどちらの意味なのであろうか。
 城石に刻まれるぐらいだから、戦争のときの小道具や大道具、たとえば明治維新前後の軍旗や軍帽などにも大きく染めぬかれぬい込まれている。出陣する武士は、武者ぶるいのかわりに片足を☆のかたちに踏んで身の安全を願ったほどであった。

 函館の五稜郭(図10−5)を取り巻く政府軍と幕府軍の衝突事件はそのような中で起こった。
 五稜郭の平面は正確な☆ではなく、むしろ図のように正十角形を二種類のひし形で分割したとき現われる。この二種類のひし形は、図9−10(七八頁)に見られるような平行移動の周期は持たず、いわばでたらめに平面を覆っていくことで有名で、ペンローズのタイル貼りといわれている。これがイギリスの天才的物理学者ロジャー・ペンローズによって発見されたのは一九七〇年代に入ってからであった。わが国ではなんとそれより百年以上も前から知られていたかも知れない、ということになる。
 これはおもしろい、と思ったのか、五稜郭に集まった当時の奥羽列藩同盟の軍旗は正確な☆ではなく、五稜郭ふうにちょっとふくれている(図10−6)。そのためか、政府軍に反抗して五稜郭にたてこもった幕府軍の榎本武揚は愛用の正六角形の机とともに玉砕のうき目にあった。

 身の危険を感ずるのは武士だけではない。三重県鳥羽で長時間海中にもぐってアワビ取りをする海女は、タオルや刃物の柄にいつも☆をぬいとったり彫ったりしていた。これをセイメーという。

 岡田氏秘蔵の品でご自身の研究室のドアに掛けてある図10−7は、この鳥羽近くの二見が浦の松下社の護符である。岡田氏が右手で持っているのは、さきに説明した山形県笹野の蘇民将来であって、じつは松下社も蘇民将来をまつっている。だから松下社のある森を近所の人は蘇民の森という。ところが、松下社は、同時に須佐之男もまつっているのである。須佐之男は高天が原で暴れたためか伊邪那岐、伊邪那美、天照大神、月読命の一家がめでたく集う伊勢市内から追放され、たんぼのあぜ道のようなところにJRの無人駅があるだけのへんぴな松下の地に、親友蘇民将来ともどもまつられるはめになった。この蘇民将来になぜ☆がつくかというと、安倍晴明の『金烏玉兎集』という日月陰陽に関する書物の最初に蘇民将来のいわれが説明されているからである(ただし、ある十二個の文字についても説明してあり、正六角形との関係もうかがわれる。ようするに五も六も八も円もみんなめでたく蘇民将来に関係する)。
 このように、ふつうの観光客が行ってもなかなか見つからないのに岡田氏の行くところ☆のないところはない。ホシを訪ねて三千里、とまわりからいわれるだけのことはある。

 もちろん、岡田氏の行かないところにも☆はある。
 たとえば、わが国の誇る和算の世界でも、礒村吉徳という人の書いた『算法闕疑抄』(一六六〇)には、与えられた長さの糸で晴明ききょうを作るとき、中にできる小さな正五角形の面 積はいくらか、という問題が出ている。
 『算法闕疑抄』は、その序文冒頭で、伏羲の発明した八卦について触れているのであり、占いに関係する晴明紋が出てくるのはあたりまえかも知れない。

 和算における☆は、江戸時代ごろからの建物の設計方法としての規矩術(コンパスと定規による設計術)に応用されている。
 その一つが「五角枡の法」といわれるもので、図10−8のように、いくらでも増殖する大小の☆の積み重ねから斗キョウ(柱の上の飾りもの)の寸法を割り出してしまう。一種のパズルである。
 また、国立民族学博物館には「宮大工の技術」というビデオテープがあって、指矩(伏羲の持っている曲尺)の使いかたをていねいに教えてくれるが、その最後の応用問題として、宮大工が正五角形の断面をした柱を☆を利用しながら作るところが出てくる。どのようにして☆を決めるかのかんじんなところは、大工の秘中の秘である。
 それにしても、せっかく作った正五角形の断面をした柱などどこへ使ったのであろうか。なんとしても見てみたいものである。(中略)

 天照大神や月読命をまつる星形正六角形の伊勢神宮に対して、須佐之男をまつる松下社は☆をシンボルマークとする。
 ☆と星形正六角形は、それぞれを生む正五角形と正六角形の違い、とくに前者は黄金比に関係して、すきまを残しながら図11−1のように一見不規則に平面を覆っていくのに対し、黄金比に関係しない後者は、すきまを残さずに図9−10(七八頁)のように秩序正しく平面を覆っていくなど、によって、十七世紀のドイツの天文学者ケプラーによって、正五角形は不安定な生の世界を、正六角形は動かない死の世界を表現する、などといわれる。
 しかし、両者はわが国自慢の竹籠細工(図11−2)などでは、正六角形のみでは丸く閉じたボールはできない(だからサッカーボールには五角形が加わっている)、といった幾何学上の理由により、必然的に共存しあうときが多く対立する図形としてみるのには無理がある。
 筆者はかつてダヴィデの星のバッジを胸に光らせながらやって来たイスラエル人を京都の晴明神社へ案内したことがあるが、☆を見ても、なにがめずらしいかというだけであった。



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