『青の炎』超ダイジェスト版4

 
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投稿者 一刀斎 日時 2000 年 1 月 17 日 01:05:38:

回答先: 『青の炎』超ダイジェスト版3 投稿者 一刀斎 日時 2000 年 1 月 17 日 01:04:50:

これでいい……。
そのまま駆け足で階段を下りると、自転車置き場に行って、チェーンを外した。
いよいよこれで、最後だ。
もう二度と、この学校へ足を踏み入れることはないのだ。
ロードレーサーにまたがり、ゆっくりとペダルに力を込めた。
美術室の窓を見上げたが、太陽がガラスに反射していて、彼女の姿は、見えな
かった。
校門を出て、134号線へと向かう。
頭の中には、思考が渦巻いていた。
警察にすべてを告白した場合、辛い未来が待っていることは覚悟しなければなら
ない。
昨日の晩、インターネットで調べたばかりの情報だった。泥棒やヤクザなどと同
じ、代用監獄に入れられ、自殺防止のため、ズボンのベルトや眼鏡まで取り上げ
られる。手錠をかけられ腰縄を打たれて、取調室と房を往復する毎日。素直に罪
を認めたとしても、取り調べは、今までとは比べものにならないくらい、厳しい
ものになるだろう。
殺人が、二件とも周到な計画に基づいていることが、相当、情状を不利にするで
あろうことは、わかっていた。何も考えずにナイフを抜いて人を刺すようなヤツ
の方が、まだ、可愛気があると見なされるのだ。家裁から逆送され、刑事裁判に
かけられるのは、まず確実だったし、長期の刑に服さなければならない可能性
は、極めて高かった。
過去の判例からすると、少年犯罪としては最も重い、懲役六〜八年の不定期刑が
相場らしい。
つまり、出所したときには、二十三歳から二十五歳になっている。まだ若いと
も、言えるかもしれない。だが、本来なら人生のうちで最も輝かしいはずの時期
を、塀の中で過ごすことになる。
その後も、人生のあらゆる局面において、さまざまな不利がつきまとうだろう。
だが、それは、自分にとって、甘んじて受けなければならない罰たのだ。いかな
る理由があったにせよ、二人の人間の命を奪った以上は、一生、十字架を背負っ
ていかなければならない。
しかし……。
秀一は首を振った。
そのために、母や遥香までが、過酷な罰を受けなければならない理由が、あるの
だろうか。
今朝見たばかりの夢を、思い出す
。事件は、血に飢えたマスメディアの好餌となり、センセーショナルに報道され
るに違いない。
何しろ、現役の高校生が周到に計画し、実行した、連続殺人なのだ。過去に例を
見ない出来事だろうし、周辺のあらゆることがニュース種となるだろう。学校の
成績はどうだったのか。交友関係はどうか。近所の評判は。
そして、家族は……。
曾根と結婚していた母は、すべてのプライバシーを暴かれ、世間の下劣な好奇の
目に曝されることにたる。そして、曾根の実の娘である遥香も……。
そんなことだけは、絶対に、許すわけにはいかなかった。自分が、逮捕、起訴さ
れる前に、事件に幕を引くためには、被疑者死亡というシナリオしか残されてい
ない。
今の段階では、警察、検察も、まだ、確実な証拠は得ていないはずだ。だとすれ
ば、かんじんの被疑者が死んでしまえば、自白を得ることもできなくなるため、
書類送検ぐらいで一件落着となる可能性が、きわめて高い。
その場合、遺族への影響を考慮して、おそらくメディアに対する発表も、行われ
ないだろう。
もう、これしか、方法はないのだ。
秀一は、自分に言い聞かせた。汗の湊んだ掌をシャツで拭ってから、ロードレー
サーのグリップを強く握り締める。
照りつける太陽の下、ロードレーサーは134号線を全力疾走する。潮風が、鼻
腔の奥をいがらっほくした。
不思議なくらい、恐怖は感じなかった。
ただ、これでやっと、苦しみから解放されるのだという思いがあった。
(略)




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