英国で「脳死患者は痛みを感じる可能性がある」という医学論争が勃発

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投稿者 佐藤雅彦 日時 2000 年 8 月 21 日 21:29:25:

  英国で「脳死患者は痛みを感じる可能性がある」という
    医学論争が勃発

●“死体”であるはずの「脳死」患者が身体を動かして病院関係者を驚かせることは、さほど珍しいことではないそうです。 生物学的に死んでもいない人間を、医者が匙[さじ]を投げたというだけで「医学的には死んだ」と勝手に決めてしまったのが「脳死」なのですから、「脳死」患者の生物学的な生命活動を目の当たりにして仰天する医療関係者が出てくるのは当然でしょう。

 患者を治すのが仕事の医者の手に負えない「脳の機能の不可逆的な停止」状態を「脳死」と定義してきたわけですが、よくよく考えてみるとこんなに御都合主義的な「死」の定義はない。
 
 まずもって「機能」(function)という言葉ですが、日本のバカ医学者たちは、この言葉を意味すらよく考えずに惰性で使っているが、英語の「function」というのは「割り当てられた仕事をやり遂げる働き」という意味でして、もっと簡単にいうと「所定の働き」。

 ……で、この「割り当て」とか「所定」が意味するところは、医学者や生理学者が経験的に憶測してきた当て推量の「生理学的任務」に他ならない。 その「任務」をこなすのは個々の細胞なり組織なり器官ということになるわけですが、個々の人体部品がそれぞれに割り当てられた「所定の働き」をまっとうして、人体が有機的構成体(organism)として一定の働きを完遂する、という考え方は、結局、人間を(神の被造物として)一定の“天命”を受けて精進する時計のような機械細工と考える、ユダヤ・キリスト教的な“人間機械論”のイデオロギー以外の何ものでもない。

 だいたい、漢語の「機能」って言葉そのものが“人間機械論”を象徴しているわけですけどね。

●端的に言えば、医学者が個々の人体部品に見いだした「機能」というのは、究極の目的のために個々の人体部品に“割り当てられた”――と学者が推測する――単純な“所定の働き”なのであって、それは学者の解釈にすぎない。

 しかも、技術的な限界を抱えた観察手段によって“人の目”で見て判る“所定の働き”に、どうしても限定されてしまう。 そういう観察対象が観察できなくなったことを「機能の停止」だと勝手に決めつけ、大雑把な政治的線引きで「二度とふたたび“所定の働き”が復活することがない」と決めつけたのが、「××機能の不可逆的停止」という言葉のお寒い内実だ……。
 
●だから「脳死」の定義には哲学なんてあったもんじゃない。 哲学的な骨格が最初から破綻しているのだから、「倫理学」なんてものも成り立たない。 あるのは御都合主義的な詭弁だけ。

 つまり、「脳死」をめぐる言説は、科学ではなくプロパガンダや情報戦の範疇[はんちゅう]の事柄にすぎないのです。

●医者が匙[さじ]を投げたら「医学的な死」と呼べるなら、我々の周囲は「教育学的な死」や「道徳的な死」をとげた“生きた死体”だらけだと言うことになる。

 医者が世のため人のために「脳死」患者という「医学的には死体」の存在から内臓を切り取ることを許されるなら、「教育学的な死」や「道徳的な死」をとげたゾンビを成敗して何が悪い、っていう理屈だって成り立つでしょう。

 私は「脳死=個体死」ドグマにもとづく臓器移植法(=「脳死」患者生体解剖認可法)の制定は、功利主義的な御都合主義にもとづく殺人を公然と容認した“画期的な出来事”だと考えていますが、そういう法律の制定と前後して、一見“不条理”な殺人が爆発的に増えているのは、実にスジが通っていると思いますね。 

●「脳死」患者が臓器摘出手術の際に運動や血圧急上昇など「痛みを感じている」としか思えない徴候を示す現実を、日本でももっと真剣に直視すべきだと思いますね。

 

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●●争点1913●●

●http://www.telegraph.co.uk/et?ac=003318335120745&rtmo=a2sHwaeL&atmo=gggggg3K&pg=/et/00/8/20/ntran120.html

2000年8月20日(日)

「脳死状態」の臓器寄贈者が痛みに反応する可能性はあるか?

  (アンドリュー・アルダーソンとジェニー・ブース記者)

  ソフィー・パーク(11歳)は、2度にわたる心臓移植手術をもしも受けていなかったら、今頃きっと死んでいたはずだ。 今月の初め、ソフィーは“ドナーカード保持者100万人増加”キャンペーンを開始した。 ソフィーの母親と厚生大臣のハント卿もこれを後押しし、さらに政府の国民保健局(NHS)と薬品販売のブーツ社までがこれに協力して、一大キャンペーンへと成長した。

  ところがソフィーの家族は昨日、仰天するような事実を知った。「“すでに死んでいる”臓器寄贈患者でも自分の臓器を摘出されている最中に痛みを感じている可能性が高い」という懸念をめぐって医学的な論争が起きているというのだ。そして、この論争のせいで、他の患者が臓器移植を受けられなくなるのではないか、と不安に駆られた。

  ソフィーの母親のジェーン・パークは、たとえ正当な議論であっても、議論が行なわれたというだけで臓器移植プログラムが何年か後戻りしてしまうのではないかと不安を口にしている。 パーク夫人は(イングランド南西部の)グロスターシア州に暮らしているが、今回、次のように語ってくれた――「臓器寄贈患者と移植プログラムがなかったら、ソフィーは今日生きていなかったはずです。 だから人々に臓器の寄贈を躊躇[ためら]わせるようなことは、なんであれ不安に思えるんです。 いま現在、途方もなく多くの人々が、臓器移植を心待ちにしているんです。自分に適合する臓器を持った寄贈者が現われないものかと、首を長くして待ち望んでいるのです。 今回の医学論争は、まちがいなく我々の不安のタネになるでしょうね。もしもこの論争がきっかけで世間の人々が臓器寄贈に二の足を踏むようなことになれば、なおさらですけど」。

  今回の論争の火付け役は、ノーフォーク・ノリッジ病院の顧問を務めている麻酔専門医のフィリップ・キープ博士であった。彼は「“脳死状態[ブレイン・デッド]”の臓器寄贈患者でも臓器摘出の最中に痛みを感じている可能性が高い」という懸念を持った。 こうした不安から、彼は、現行の移植用臓器摘出ガイドラインを改訂して「臓器摘出の前に寄贈患者に麻酔をかける」ことを義務化しないかぎり、ドナーカードを持たないことにした。

  キープ博士(58歳)は、(英国)王立麻酔科医師協会(RCA)が発行している『麻酔』誌(Anaesthesia)に「 多くの専門医も、実際、この問題に不安を感じている」と訴える投書を行ない、ここから今回の論争が始まった。

  今週の末、ノリッジの自宅で、彼は我々の取材に対して次のように語ってくれた――「看護婦たちは、もう心底動転していますよ。なにしろ(“脳死状態[ブレイン・デッド]”の患者の)身体にメスを刺し込んだとたん、患者の心拍と血圧が急上昇するのですから……。この状態で放っておけば、患者はやがて動きだし、のたうち回りだします。そして臓器摘出手術なんかできない状況になってしまうんです。だからうちの病院の外科医は、つねに我々にこう要請してきました。臓器寄贈患者に麻痺をかけてくれ……とね」。

  集中治療学会(ICS)は昨年、医師たちの意見をまとめて「臓器寄贈患者に麻酔をかける必要はない」という移植用臓器摘出ガイドラインを定めたが、今回、キープ博士はこれを痛烈に批判したわけである。そして他の専門医たちも、キープ博士の意見を支持している。

  いったんはドナーカードを手にした臓器寄贈志願者たちが「臓器摘出の際に痛みを感じるかもしれない」という話に恐れをなしてカードを破り捨ててしまう、という可能性が噴出したのは、昨日のことである。

  キープ博士は言う――「私は臓器移植には大賛成です。だから移植用臓器を獲得するために、あらゆる努力をすべきだとは思うのですよ。しかし、臓器摘出を受けている患者に麻酔をかける必要を認めない以上、現行の手続きで臓器摘出を行なうのは大いに問題があるのです」。

  さらに彼はこうも語った――「私がドナーカードを持たないと決めたのは、まさにそれが理由だからです。自分の臓器が取り出される前に誰かが確実に麻酔をかけてくれると判れば、私だってドナーカードを持ちますよ。私と同じ不安を持っている人はたくさんいるでしょうが、そうした人たちも(臓器摘出前に麻酔をかけると保証されるなら)ドナーカードを捨てるなんてことはしないと思いますよ。臓器寄贈患者に確実に麻酔投与が行なわれるなら、臓器寄贈の志願者は今後増えていくと思いますがね」。

  「私は、こうした(脳死状態の)臓器寄贈患者が確実に“まだ生きている”と言っているのではありません。それに、こうした患者が痛覚を保持していると主張しているわけでもないのです。私が主張しているのは、こうした患者は実際のところ、生きているのか死んでいるのか、はっきりとは判らないのだ、ということなのです。そしてこうした患者が何らかの形で痛みを感じられるものなのかどうかも、はっきりとは判らない。現状がそうである以上、私はドナーカードを持つ心境にはなれないのです。」

  この論争の中心的な争点は、「脳死(brain dead)という用語がいかなる状態を指すか」という問題と、「患者の心臓が止まってしまったら、もはや肺・肝臓・心臓を移植用臓器として使うことはできないのか」という問題である。

  キープ博士は言う――「現状では、必要な臓器をすべて摘出し終えるまで、臓器寄贈患者の心臓を(人工心肺を使って)動かし続けておかなければならないのです」。

  現在、臓器移植の待機患者は5500人を数える。 昨年、移植手術を受けて命拾いした患者は2800人。その大部分は、腎臓移植だった。 英国の病院における臓器移植実施の調整役を果たしている「UKトランスプラント」の広報官によれば、国民保健局(NHS)の臓器寄贈登録に掲載された臓器寄贈志願者は800万人にも達しているが、実際に寄贈を行なう人数は減っているという。 彼女は言う――「1990年には1009人の臓器寄贈者がいたのですが、その数は年々歳々減り続けています。昨年なんて、寄贈者はたった815人しかいなかったんです。暗澹[あんたん]たる状況でして、不安は増す一方です。臓器移植の待機患者は1990年以来、毎年4パーセントの割合で増え続ける一方なのですから」。

  現在受け入れられている「脳死」の定義は1970年代に決められたもので、その内容は「脳全体のすべての機能の不可逆的な停止」というものである。 ところが現実には、脳機能の監視装置(脳波計)が“高次脳”(高級な神経活動を司る大脳)の活動の証拠を示しているのに、臓器の摘出を平気で行なう場合が多く、キープ博士以外にも、この点に不安を感じている麻酔専門医は多い。 なにしろ、“高次脳”が発する脳波がいったい何を表わしているのか、いまのところ誰も判らないのであるから……。

  『麻酔』誌(Anaesthesia)の編集人であるマイケル・ハーマー教授は、キープ博士の主張には同意できないと言い、「麻酔専門医の99.9パーセントは私と同じ意見だろう」と語る。 彼は言う――「キープ博士がセンセーショナルに語っている場面(つまり臓器摘出中の“脳死”患者の反応)を、私はこれまで見たことがないし、私の知っている人でそんな光景に出会った者など一人もいませんよ。まったく問題はないのです。“脳幹死”の患者から臓器を摘出してもよい、と決めた現行の移植用臓器摘出基準は、絶対的な信頼性があります。これについては皆、絶対的な確信を持っていますよ」。

  しかし集中治療学会の会長を務めるジャイルズ・モーガン博士は、もっと慎重な態度をとる。彼に言わせれば、“臓器寄贈患者の福祉[ウェルフェア]”について心配する態度こそ健全なのであって、現に彼自身、いまだに臓器寄贈患者に麻酔を施してから臓器摘出を行なっているという。 「どうしてそんなことをするか、ですって? それは私が人間だからですよ。人間ならば、不快なことはしたくないでしょ。麻酔なしで臓器摘出をするなんて、心にトラウマ(精神的外傷)が残りますからね」。

  25歳の娘を先月「脳腫瘍」で失った両親は、昨日、こんな話をしてくれた。……彼らは躊躇[ちゅうちょ]なく、娘の臓器を7人の患者に分け与えることに同意したという。 彼女の肝臓は、「余命24時間」と宣告された瀕死の男性に移植された。腎臓は2人の別の患者の元へ行った。心臓弁と角膜も、別の4人に移植され、移植前よりもましな健康状態になった。 この女性の父親は陸軍の元軍医である。身元を明かさないよう頼まれたので、これ以上のことは書かないが、彼は愛娘が臓器摘出注の痛みを感じてなかったと信じている。彼はこう言った――「私たちは、その(“脳死”患者が臓器摘出時に痛みを感じているかも知れないという)点については、不安は全くありませんでした。 脳幹機能の確認検査が行なわれた際に、私自身、立ち会っていましたから。医師たちの比類のない愛情と手当を受けることができたことに、私は満足以上のものを感じています」。

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●http://www.telegraph.co.uk/et?ac=003318335120745&rtmo=3mSKq3SM&atmo=rrrrrrvs& pg=/et/00/8/20/ntran20.html

2000年8月20日(日)

臓器寄贈患者の苦痛をめぐる論争で
 「移植外科は打撃を受けることになる」

  アンドリュー・アルダーソンとジェニー・ブース記者)


  英国の厚生当局は、「“脳死”状態[ブレイン・デッド]の臓器寄贈患者でも臓器摘出の最中に痛みを感じている可能性が高い」という主張をめぐって目下起きている一大論争のせいで、この国の臓器移植事業が数年ぶん後戻りしてしまうのではないか、と不安におののいている。

  麻酔専門医たちは、現在、臓器摘出を受ける寄贈患者[ドナー]に痛みを感じさせないようにするために、すべての臓器寄贈患者に麻酔をかけるべきだと要求している。

  しかし政府や患者団体などがこの論争で恐れているのは、麻酔医たちの関心とは別のことだ。つまり臓器寄贈をしようと思っている一般市民がこの論争を知って、ドナーカードを破り捨ててしまうのではないかと心配しているのだ。

  医学専門誌の『麻酔』(Anaesthesia)にこの問題を提起したフィリップ・キープ博士は、病院の顧問を務める麻酔専門医である。彼は移植外科手術の実態を生々しく告発した。 彼は語る――「看護婦たちは、もう心底動転してしまう。なにしろ(「脳死」状態[ブレイン・デッド]の患者の)身体にメスを刺し込んだとたん、患者の心拍と血圧が急上昇するのである」。

  キープ博士自身、「臓器摘出の際に寄贈患者に麻酔をかける」ことを義務化するガイドラインが新設されないかぎり、ドナーカードを持つ意思はまったくない、と宣言している。 彼は、集中治療学会(ICS)が昨年策定したガイドラインを撤回するよう求めている。このガイドラインは、医師たちの意見をまとめたものであるが、「臓器寄贈患者への麻酔は必要ない」と言い切っている。

  厚生省のスポークスマンは、今回の論争を、80年代にあるドキュメンタリー番組が「臓器寄贈患者は自分の臓器が摘出されている最中にも“意識を持っている”可能性がある」と報じたことで起きた騒動(いわゆる「パノラマ」事件)とまったく同じだと語っている。 このスポークスマンは言う――「これは我々にとっては全く恐るべき事件ですよ。前回の騒動の時も、臓器寄贈志望者の数が原状に戻るまでに何年もかかったんですから。寄贈者はすでに“脳死状態”になっていて、もはや痛みなんか全然感じていないことは、疑う余地すらないわけですからね」。

  エヴァンス夫妻(ジョン・エヴァンスとマーガレット・エヴァンス)は、息子を失ったあとで自分たちも臓器寄贈登録を行ない、臓器移植が必要な患者の家族を支援する目的で「英国臓器寄贈者協会」(BODS)を創設した。この夫妻も、「“脳死状態”の患者でも痛みを感じている可能性がある」と示唆する議論が出てきただけで臓器寄贈患者の遺族は「非常に動揺する」と、懸念を表明している。   臓器摘出時に“脳死”患者に観察された身体の運動は、彼らに言わせれば“まったくもって無意識的な運動”なのだそうだ。 エヴァンス氏は言う――「あのような現象は、クビをちょん切ったニワトリでも走り続けるのと全く同じなんです。だいたい、この問題で騒いでいるのは麻酔医でしょ。連中は神経学者じゃないですからね」。


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●http://www.telegraph.co.uk/et?ac=003318335120745&rtmo=lnv7bzFt&atmo=lnv7bzFt&pg=/et/00/8/20/ntran220.html

2000年8月20日(日)

分析:「死んでからも痛みを感じる」とすれば、
    なおさらクローン作りの研究が必要になってくる

    (アラスデア・パーマー記者)

  仰深い人たちは、その可能性をまったく疑っていない。 ……が、少なくとも医学の世界では、そうした考え方をする者は少数派にすぎないと相場が決まっていた。 科学者たちにとっては、「いのちが終わるときは、どんな感覚能力もそこで終わりを迎える」というのが“定説”であった。

  ところが王立麻酔科医師協会(RCA)の公式雑誌である『麻酔』誌(Anaesthesia)に警告めいた書簡が掲載され、「“死んだ”患者でも自分の臓器が摘出されている最中には、外科医が振るうメスの痛みを感じることができるのかも知れない」という懸念が高まってきた。

  この書簡の執筆者によれば、臓器摘出を受けている患者は“死んでいる”にもかかわらず、身体を動かして苦痛を表わし、血圧も急上昇するという。

  その情景は想像するだけでゾッとするが、実際には、こうした現象が観察されたとしても「死体が痛みを感じている」証明にはならないし、どんな感覚であれ“死体”に残っている結論をこの現象だけから引き出すわけにはいかない。

 “死活的重要臓器[バイタルオーガン]”を切除される患者は、「脳死」状態になったと確認されることが絶対的要件である。つまり、脳の機能が停止し終えていなければならないし、その停止は不可逆的で、二度とふたたび“機能再開”など起こらぬことが確認されなければならない。生命維持装置の助けを借りて、心臓や肺のように脳以外の多くの臓器が働き続けているとしても、脳だけは不可逆的に機能停止になっていなければならない。

  まともな人なら、たとえ心臓が拍動を続け肺が空気中の酸素を体内に取り込み続けても、それを理由に「“脳死”患者は自分の心臓が動いていることを体感し、自分の呼吸が聞こえている」とは考えないだろう。 そんなことは、あるわけがない。理由は簡単……。感覚作用を可能にしている中枢機関の脳が、働いていないからだ。 それゆえ、「脳死」患者が身体を動かしたり血圧が急上昇したとしても、「“脳死体”が痛がっている」ことを意味するわけではない。

  心臓が鼓動を続けているあいだは、たとえ脳の活動が完全に消失し、そのせいで感覚が完全になくなったとしても、身体が自動的に反応することは起こりうる。 ただし、「脳死」患者が身体を動かしたり血圧が急上昇すれば、誰だって不安になるのは無理のない話だ、外科医とて、その例外ではなかろう。そして外科医の中には、「脳死」患者から移植用臓器を切り取る際に麻酔を用いる者だっているだろう。 集中治療学会の移植用臓器摘出ガイドラインでは、そうした麻酔は不要だと決めているが、外科医が気休めのためにこうした警戒策をとっても、間違いではない。

  だが、ここで見落としてならないのは、「“脳死”患者にも痛みを感じる能力が残っている」ことを証明する科学的論拠が全くないとしても、だからといって「脳死になっても痛みを感じるのかも知れない」という大衆の人々の不安を和らげることは到底できないということだ 。 『麻酔』誌に掲載された書簡が広範に報じられたことで、大衆の大部分はこうした不安を抱くことになろう。 その結果、ドナーカードの所持者が減ることは確実だ。

  移植用臓器が絶望的に不足している以上、“潜在的な臓器寄贈者”の数を増やすために可能なことなら何でも行なうというのは絶対的な要請である。 移植用臓器を摘出する前に“脳死”患者に麻酔をかけることにすれば、“潜在的な臓器寄贈者”たちの不安は和[やわ]らぐから、臓器寄贈志願者を増やす一助にはなろう。 だが、臓器移植を必要とする患者と、利用できる臓器寄贈者との、圧倒的な“需給ギャップ”は、この方策でも解決できない。

  移植用臓器の危機的な不足は、臓器移植を必要としている患者本人の幹細胞から新たな臓器をクローン培養できるようになるまで、いつまでも続いていくはずだ。 臓器のクローン作りが実現すれば、臓器移植そのものの必要性も、移植が間に合わずに死者を出すことも多い膨大な“待機患者リスト”も、消滅するであろう。 これこそが、クローン技術の実用化にむけた研究を続けて行くべきだという、最も大きな理由のひとつなのである。


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