性フェロモン剤が効果大

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投稿者 明星 日時 2000 年 8 月 30 日 08:14:36:

性フェロモン剤が効果大/「大島ナシ」

県の担当者らが、性フェロモン剤でどれくらい害虫が減ったかを調
べた  「大島梨(なし)」で知られる前橋市上大島、下大島町周
辺のナシ園で、性フェロモン剤を使った害虫の駆除が大きな成果を
上げている。JA前橋市などによると、今年度から一斉に導入し、
8月までの調査で食害が激減したことが分かったという。効果に合
わせて、今後は殺虫剤の散布の回数を段階的に減らす方針。収穫期
を迎え、JA前橋市は「『安全で環境に優しい』をPRしたい」と
している。

 8月下旬、たわわに実った同市上大島町のナシ園。棚のあちこち
に、性フェロモン剤の入った赤いチューブがくくりつけてある。県
の担当者らが300個の果実を調べたが、虫の被害は1個もなかっ
た。「去年までは、1割程度の食害があったんですよ」と県中部農
業改良普及センター主任の高瀬好男さん(39)。

 同センターによると、チューブに詰めた性フェロモン剤は、周辺
の生産者131戸(計45ヘクタール)が4月末に設置した。例外
なく、果実の食害がほとんどなくなったという。

 導入を決めたのは、消費者の安全志向の高まりや、周辺の住民か
ら寄せられた、殺虫剤の散布による環境悪化への不安の声。生産者
の高齢化が進み、散布の労力を省く狙いもある。2月の会合で導入
を決めた。

 殺虫剤は年15回ほど散布する。今年は性フェロモン剤を試しな
がら、以前と同じ頻度で使った。来年からは効果を見極めながら、
7、8回に徐々に減らしていく予定だ。

 周辺で生産されるナシやモモのほとんどは、生産者がそれぞれの
直売所で販売する。JA前橋市は、取り組みを紹介したチラシ5万
枚を作り、客に配布してもらっている。「おいしいだけでは受け入
れられない時代になった。農薬ゼロにするのは難しいが、削減の努
力を消費者にPRしていきたい」と、JA前橋市の女屋篤さん(4
2)。  県によると、性フェロモン剤は、県内では嬬恋村のキャ
ベツや、尾島町のヤマトイモなど野菜の栽培に導入されている。今
後は榛名町のナシやモモ、利根郡のリンゴなどの果物にも広げたい
考えだ。

 高瀬さんは「大島の取り組みが、ほかの地域の参考になるように
したい」と話している。


「性フェロモンを利用した害虫防除への可能性」<連続>

    環境修士 木村 貴好平成11年10月22日


■その1. 害虫防除

 レイチェル・カーソンの「沈黙の春」はご存知でしょうか。農薬
といった分野に限らず、農業、地球環境、自然に対する考え方といっ
た大きな範囲にわたって、地球という一つの世界を私たちに気付か
せた著作です。発表当時アメリカでは、農薬会社の売り上げを脅か
すといった感情から、「未婚の女性に典型的なヒステリー症」など
のレッテルでカーソンの人格まで否定されるような報道もされたこ
ともあったのです。しかし、発表から30年以上たった今、もうかれ
ば何をしてもいいといった二十世紀の極端な経済のあり方に対する
一つの防波堤であったことは明らかになりました。

 殺虫剤も、「沈黙の春」以降いかに人間や鳥、魚などに影響を与
えずに、目的とする害虫に効果をあたえる製剤のより高度な研究へ
と導かれる様になったことを考えると、農薬の母としての地位をカー
ソンに捧げても(本人はいざ知らず)いいように思えます。農業と
は、一部の人のふところを富ます目的ではなく、必要以上の肥料・
農薬市場でもなく、国の産業バランスの帳尻を合わせる所でもない
のです。地球環境(持続可能や生態系、多様性など)、人間として
の幸福といったことへ、農業がいかに貢献できるかといった意識が、
必要となってくるのではないでしょうか。 そこで害虫防除も、一
昔前の殺虫剤による根絶がクリーンな防除であるという消毒思想か
ら、おおきく転換を迫られてきています。殺虫剤に虫が強くなって
きているといった抵抗性の研究成果に加え、生態系や環境問題への
関心から「環境」「安全」「エコライフ」といった在りようが新た
な価値を生むようになってきているからです。そうした動きをうけ
て、合成農薬一品で害虫を絶滅させる手段より、被害のさまざまな
要因を総合的に考え、防除手段を組み合わせてもちいて、経済的に
プラスを生み出し、持続的な農業が営めるレベルで、害虫を低密度
に管理するといった考え方に移りつつあるのです。

 その中の管理法の一つとして、フェロモン製剤の利用があげられ
ます。フェロモンはその種内で用いられる情報を伝える化学物質で
す。名前はホルモンに似ていますが、ホルモンは生物の個体をひと
つの個体として、生理的にコントロールしている物質で、人間の成
長ホルモンや甲状腺刺激ホルモン、植物のサイトカイニンなど多く
が知られていますが、これらは個体の成長や生理に作用するもので
す。フェロモンはこれに対して、種を種たらしめている、個体同士
の交信作用をもった物質と考えてよいでしょう。従来の殺虫剤はそ
の農場にすむ害虫を食べてくれる天敵の数まで減らしてしまうもの
でしたが、フェロモン製剤は目的とする害虫のみの個体数を制御す
るために利用価値は大きいと考えられています。

 メスがオスを呼ぶ性フェロモンの他にも、キクイムシが協力的に
生活をするため同種を集める集合フェロモン、アリやアブラムシが
危険を同種の仲間に知らせる警報フェロモンなど、フェロモンもそ
の機能によっていくつかの分類がされています。


■その2. フェロモン研究の歴史

 ”フェロモン”で検索してこのページに誘引されてしまった、そ
の方には申し訳ないのですが、少々まじめなフェロモンに関する話
題です。フェロモンという名称は、ギリシャ語の「フェライン(運
ぶ)」+「ホルマン(刺激する)」からつくられました。

アンリ・ファーブル 昆虫の配偶行動に「匂い」のような物質がは
たらいていることを調べた人は、昆虫記のファーブルです。その中
の「オオクジャクガ(オオクジャクヤママユ)の夕べ」という章で、
昼間に羽化した一匹のメスをあみかごに入れておいたら、二十匹ち
かくのガが集まってきたことが書かれています。さてこの異様な光
景に驚いているだけでは発見になりません。まず、すべてのガがオ
スであったこと、またオスの触角を切り取った場合はそのオスは再
び飛んでこないことを確かめます。 そして、この離れたオスとメ
スの間になにが隠されているのかを調べるために4年間かけて、視
覚、匂い 、音などが通信に関係するのではないかと仮説をたてて確
かめてゆきます。オスはメスの入ったガラスケースよりメスの匂い
のついたかごや小枝に引き寄せられてゆきました。メスがオスをひ
きつける信号は、匂いのような発散物という結果が明らかになりま
した。 のちにフェロモンとして教科書に載り、実用化の研究がす
すめられ多くの研究者が従事するようになったそのもとは、この南
フランスの田舎にすむ老人の、未知なるものへの深い愛情から発し
ていることは、心のどこかに留めておいてよいものです。

 このメスとオスの間に介在するフェロモンは性フェロモンと呼ば
れ、生物の個体維持をこえて、種の維持としての制約に関する強力
な作用をもつものです。とくにガのような夜行性の動物に発達が見
られるほか、近距離での種のマークとして大切な働きをになってい
ます。

 そして、この種内のコミュニケーションにはたらく物質を、単離
・同定した人物は、性ホルモンの研究でも知られるドイツの有機科
学者ブーテナントでした。ブーテナントは500 ,000匹のカイコから
6.4mgの性フェロモンを単離し同定しました。ボンビコールと名付
けられたこの物質は、後に化学的に合成され、自然物と同じくオス
を興奮させる効果が確かめられました。こういった20年をかけて得
られた一連の業績は生かす愛として、あとに多くの研究を生み出す
力を持っています。他種の性フェロモンへの関心など基礎的な研究
と、それとリンクして応用的な利用に対する関心の方向があるでしょう。


■その3. 性フェロモンの基礎的研究

 そこでまずボンビコール以降の性フェロモンの研究の基礎的分野
のいくつかを紹介しましょう。 多くのガ類は誘引剤である性フェ
ロモンを、尾端の分泌腺より放出します。そのときにメスはおしり
を高くかかげるコーリングという姿勢をとるものがあります。メス
はいつでも性フェロモンを放出しているかといえば多くはそうでは
なく、種によって、このコーリングを行う時刻が決まっているもの
もあります。似たような成分をもつ種では、夕方にコーリングを行
う種と、明け方に行う種と、活動時間帯を時刻ですみわけている例
が知られています。昆虫の種類によっては体の表面の成分や、脚か
ら分泌する成分が性フェロモンであるものもあります。さしずめ脚
線美に惹かれて集まるようなものでしょうか。

 また、ある種の性フェロモンが、単一の物質のみである例はむし
ろ少なく、いくつかの成分から構成されていることがわかってきま
した。例えば、ハスモンヨトウの性フェロモンは、
(Z,E)-9,11-tetradecenyl acetateと(Z,E)-9,12-tetradecenyl
acetateの2成分が同定されています。両者は10:1の混合比で存在
し、前者のように量が多く活性に不可欠な成分を主成分、主成分の
誘引性を共力的に強める作用をもつ残りの成分を微量成分と呼びま
す。種によって微量成分は何種類も必要なものがあり、この微量成
分の同定が、フェロモン製剤の実用化に大きくかかわってくること
があります。4成分を性フェロモンの構成に用いている種では、どの
一つの成分が欠けても十分な効果を示さないこともあります。野外
のトラップでは誘引されないようなことがあると、未知の微量成分
がある可能性が考えられるのです。

 この主成分と微量成分の構成比は、同じ種類でも地域によって大
きく異なっている例があります。このことが、混合比を決定した研
究でもちいた昆虫の採集地からはなれた農園では、あまり効かなかっ
たという原因を生み出すこともあります。その半面、種の分化といっ
た同種内の地域変化の拡がりとその変異の過程に対する考察に興味
深い問題を提供しています。

 さらに微量成分の働きに関しては、同じ成分を主成分にもつ近縁
種でも、微量成分は異なる成分をもち、お互いにその微量成分が別
種を敬遠させる効果をもつ例も知られており、微量成分のブレンド
が性フェロモンの機能に様々な彩りを添えているようです。

 また報告例は少ないのですが、ガのオスが性フェロモンをもち、
逆にメスを誘引する種も知られています。オスの性フェロモンの機
能には他に、近距離でメスをなだめたり、コーリングを中止させた
り、交尾の受け入れを促したり、他のライバルオスを退けたり、自
分の重要性をアピールしたり、卵の防御物質になったりと様々な報
告がされており、統一的な見解を示すためにはこれからの研究がま
たれるところと思われます。

 性フェロモンに関して面白い例として三例ほど。ドクガ一種の卵
に寄生するハチは、ガの性フェロモンを探索の合図に利用している
ということです。サラグモの一種は、メスが性フェロモンを含んだ
巣をかけオスを誘引しますが、オスは近づくと他のオスがひかれて
来ないように、巣糸を丸めてしまうそうです。交尾後メスがかける
巣糸には、性フェロモンは含まれていません。クモといえばナゲナ
ワグモは、網を張らず、先に粘液のついた糸をまるで投げ縄をまわ
すように振り、この動作で近くに来た獲物であるガを捕らえていま
す。このクモは運だのみで縄をまわし、偶然通りかかったガを捕ら
えているのでしょうか。いいえ、この粘液にひかれてくるガの性フェ
ロモンが含まれていたのです!。これで6分に一匹という頻度で、ガ
を誘引しているのです。性フェロモンを利用しようと考えたのは、
人間だけではなかったようですね。


■その4 実用化に向けて

 現在日本で防除用に実用化されているフェロモン製剤は約20種
(1999年)です。400種の鱗翅目性フェロモンが同定されているこ
とから考えると、まだ少ない段階にあるでしょうか。 性フェロモ
ン製剤は、防除する害虫以外に影響を与えず生物への毒性は低いこ
と、容易に分解され環境汚染の心配がないこと、扱いが安全で簡単
なことなどの利点があげられます。合成フェロモンを封じ込めた分
解性のチューブを、飛行機でばらまく方法がアメリカのような広大
な農地では用いられています。また、お茶のように、直接殺虫剤が
ふれることに抵抗が感じられる作物へは、利用が推進されています。
 それでは性フェロモンは害虫防除としてどのように利用されてい
るのでしょうか。 


 1) 大量誘殺法

 まず性フェロモンの利用を思いつくとすれば、ゴキブリホイホ○
のようなトラップを想像する方が多いと思います。性フェロモンで
オスを誘引し、 水や粘着板などで近づいたオスを殺し、次世代の発
生をおさえる方法です。オスがメスよりも早く発生する種で特に有
効です。日本ではハスモンヨトウ、ナシヒメシンクイなどで防除試
験がされました。他にはサトウキビに被害を及ぼすコメツキムシに
対して実用されています。 大量誘殺法で効果を出すためには高い
捕獲率を必要とするため、実用に至っている製剤はいまのところ少
ないといえます。

 2) 発生予察法

 しかし、この特定の種のみをターゲットに誘引することは、その
ほとんどを集めて殺さなければ利用価値はないかといえば、そうで
もありません。昆虫は、ほぼ毎年同じ時期に発生するとはいえ、年
によっては寒い年もあつい年もあり、作物の生長と同じく変動があ
ります。そこで害虫の成虫になる時期を知ることは、殺虫剤の処理
を行う時期をつかみ、施用量・回数を減らすためにも大切です。以
前は誘蛾灯などを用いた、ガが光に集まる習性を利用した予察がさ
れていましたが、この方法では目的とする種以外のその他多くを捕
獲してしまいますし、効率もあまり良くありません.。そこで、特定
の種のみを選んで誘引する性フェロモンの利用が考えられたのです。
発生予察用のフェロモン製剤は、40種ほどが登録されています。 
これにより殺虫剤の使用頻度を下げ、より効率のよい時期に散布す
ることができ、間接的に環境保全に貢献する方法といえるでしょう。

 3)交信撹乱法

 いちばん性フェロモンの特質を生かし、有効性をあげている使用
法は交信撹乱法です。直接フェロモン源へ誘引する1)2)と異な
り、高い濃度の性フェロモンを作地へ放出し、オスがメスを見つけ
にくくする方法です。オスは満たされた合成フェロモンで、いわば
鼻がなれてしまい、メスの発見を撹乱されて交尾できない個体が増
えます。そして次世代の発生数をおさえるといった方法です。日本
では13種(1999年)の製剤が登録され、約10,000ha(世界では
約400 ,000ha)において実用されています。  最初に交信撹乱剤
が成功をおさめ、フェロモン剤の機運を高めた例は、アメリカのワ
タにつくワタアカミムシの防除でした。かつて年に2回ほどまいてい
た 殺虫剤が効かなくなり(虫がつよくなり)、10〜15回/年もまか
なくてはならなくなりました。そこで殺虫剤とほぼ同額のフェロモ
ン剤をもちいて交信撹乱をおこなったところ、次世代の害虫の発生
を抑え、収穫量を増やすことが出来たのです。日本ではネギにつく
シロイチモジヨトウの防除、ウメのコスバシバの防除などを性フェ
ロモンでおこない明らかな防除効果が認められました。とくに一度
実の中に虫が入ると殺虫剤が使用しにくい果樹への利用は、関心が
高まりつつあります。フェロモンを満たすことが容易なビニルハウ
ス等施設園芸においても効力を発揮するという考えもあります。

 殺虫剤を使用する回数・量を減らし、環境におだやかで、生物の
もつ特性を利用した人知を含む優雅な防除法として、天敵を利用し
た防除と並んで関心の高い防除法ですが、まだ問題も多い部分もあ
ります。しかし、コストの問題が最重要なのではありません。需要
の高いものが値下がらなかった事はないでしょう。フェロモン剤は
昆虫の死骸が見られるものではないので、殺虫剤ほど効いているか
どうかの判断がすぐわからないところに問題があります。フェロモ
ン剤の特性は害虫の発生量を抑えるところにあり、全滅させること
ではありません。人体を含め環境への影響を考え、生産者と消費者
の理解がひろまることによって、もっと大規模な利用と研究が待た
れる分野であることは間違いないと思われます(ただし殺虫剤を危
険視するような報道でいたずらに恐怖心をかき立てられることもな
いと思います。殺虫剤もいかに環境に影響を与えずに、害虫のみに
効くような製剤を開発する方向で研究がすすめられていることも書
き添えておきます) 。





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