不良債権処理の「わずかな実現可能性」(フォーサイト8月号)

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投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 8 月 18 日 20:44:46:

カオスの中から、ようやく明快な解答が浮かんできた。
しかし実態が見えるほどに、償却の困難さは増す。そして、来るべき“痛み”とは――  

本誌取材班

小泉政権が経済再生のための最優先課題として掲げた不良債権対策。その多くの根本的な疑問には、これまで長らく明快な解答が示されてこなかった。
日本の銀行はいったいどれだけの不良債権を抱えているのか。その大部分をどのような手段で、どのようなスピードで償却していくのか。償却によって引き起こされる“痛み”とはどのようなものになるのか。
解答が示されないが故に、不信が不信を呼ぶ構図。それをいかに消し去るかは、小泉政権の命運自体を握っている。それは、小泉政権の信任投票とでも言うべき先の参院選のメインテーマが、“痛み”の問題に集約されていたことからも明らかだろう。
「不良債権対策は自民党が勝ってからが本番。選挙が終われば間をおかずに動き出す」
参院選の前から金融関係者の間で囁かれてきたこんな予想が、第一ハードルを越えた改革政権のもとで、いよいよ現実味を帯びつつある。日本経済の健全化という至上命題のもと、払わねばならない犠牲の実像がようやく姿を現そうとしている。
金融庁の密やかな“告白”
今年三月末時点で主要十六行が抱える不良債権の総額は六十兆六千億円――。
この六月、衆議院予算委員会での答弁のため金融庁が提出した資料に、従来とは異なった形で算出された不良債権額が盛り込まれていた。これまで不良債権は、実質的に経営破綻を来した貸出先に対する「破産更生等債権」、貸出先に破綻懸念のある「危険債権」、その前段にある貸出先への「要管理債権」という三段階に分類され、その総額こそが金融機関の不良債権総額とされてきた。今年三月末の数字で言えば、十八兆円だ。
ところが金融庁は新たに、「要管理債権を除く要注意先債権」という概念をもぐりこませてきた。これまでの三段階よりはリスクが低いものの健全とは呼びがたい債権の額を、初めて明示したことになる。当の「要注意先債権」は主要十六行で四十二兆六千億円。これも不良債権とするなら、総額は六十兆六千億円となる。
 言うまでもないが、不良債権をめぐるすべての議論の根本は、不良債権の定義にある。金融機関が持つ貸出債権のうち、どのようなものを不良とみなすのか、そしてその総額はどれほどなのか。金融当局や国内の金融機関といった当事者たちは騒ぎを大きくすまいと甘め・控えめに、情報を充分に把握できない外資をはじめとするウォッチャーたちは疑心暗鬼にかられてキツめ・派手めに……。さまざまな定義や数字が飛び出してくるだけで、インサイダー、アウトサイダーの双方が納得できるものは皆無だった。不良債権対策が遅々として進まなかったのも無理はない。
その点で、金融庁による今回の密やかな“告白”は大きな意味を持つ。「本当にこれだけなのか?」「まだ隠しているのでは?」という国民や世界の金融市場参加者の疑念を払拭することで、議論の足場を固め、有効な手を打とうという姿勢に、日本の金融当局がようやく転じたことを示すからだ。
一方で七月十八日、米系ゴールドマン・サックス証券が、全上場企業を対象に財務・経営分析を行なった結果、問題企業向け融資の総額は三月末時点で二百三十七兆円にのぼるというリポートを発表している。これは銀行株の大幅下落、ひいては日経平均が一万二千円を割り込む株安のきっかけとなった。
金融庁の唱える六十兆六千億円が主要十六行に限った不良債権額だとしても、ゴールドマンの打ち出した二百三十七兆円との乖離はあまりにも大きい。だが、ゴールドマンの数字は「問題企業向け融資」の総額であり、そのまますべてを不良債権とカウントするのは厳しすぎるとの見方をとる金融関係者の方が、大勢を占めているようだ。
情報公開を唱えてきた金融政策通の与党若手幹部らは「『いま病院に通っている人は全員、三年以内に死ぬ』と言っているのと同じ」「実態がそれほど巨額なら、有効な不良債権対策などありえない」と反発。別の米系証券会社の金融アナリストたちからも「ゴールドマンの試算が示すのは、銀行借入の比重が高かった日本企業の体質の問題」「金融庁の“転向”で悪材料はほぼ出尽くすメドが立った」といった声が聞こえてくる。
少なくとも小泉政権の不良債権対策は、金融庁が新たに打ち出した数字をベースに進んでいくし、それはマイナスに評価すべきことではないというわけだ。

必要なのは“転落組”対策

だが、政権と当局がいったん重い腰を上げれば後は一気呵成に進む、とはいかないのが不良債権処理。前述のとおり、金融庁示すところの広義の不良債権は主要十六行分だけで六十兆円を超えている。一方、小泉政権が「骨太の方針」で示した目標は、二、三年以内に不良債権問題の解決をはかる、というものだ。
不良債権の償却にどれほどのコストと時間がかかるのか、米リーマン・ブラザーズが金融庁の不良債権額をベースとして六月に打ち出した試算をみてみよう。日本の銀行が不良債権について行なっている保全策は、その分類(=貸出先の危険度)に応じて異なる。債権額に対して「担保の価値+貸倒引当金」をどれだけ積むかを示す保全率に差があるのだ。
三月末の大手十六行の保全率をみると、実質的に経営破綻を来している貸出先に対する破産更生等債権の場合、一〇〇%であるのは当然として、破綻懸念の強い貸出先への危険債権については八二・八%、破綻リスクの低めな要管理債権には五一・〇%となっている。だが、企業の設備投資、個人消費の冷え込みに公共投資の抑制、米国経済の減速などが加わり、日本企業の業績低迷には出口が見えない。破綻懸念先が実質破綻先へ、要管理が破綻懸念先へ、という貸出先の“転落”は今後も続く(要注意先が要管理へ、そしてノーマークの貸出先が要注意先へ、という“転落”も同様)。現状の保全率を維持しているだけでは、貸出先の破綻に対応しきれなくなってくる。
そこで必要になってくるのが保全率の引き上げだ。リーマン・ブラザーズの試算では、今後三年間で、危険債権について八二・八%から九〇%へ、要管理債権で五一・〇%から六〇%への引き上げが有効とされている。保全率アップとは、担保および貸倒引当金の積み増しなのだが、担保についてはすでに取れるものは取り尽くしているのが現状。さらに、担保の中心となっている不動産は値下がりがこれから三年の間も止まらない可能性が高く、担保価値は時間とともに下がっていく。そのため、具体的には各銀行は、まず担保価値減損分の穴埋めを行なったうえで、貸倒引当金の積み増しを行なわなければならない。
実際にかかるコストとしてリーマンの試算は、担保価値の下落分の充当に三兆二千億円、貸倒引当金の積み増しなどに九千億円、計四兆一千億円が必要になると弾き出している。
不可欠なのは、緊急を要するこうした“狭義”の不良債権への手当てだけではない。金融システム全体の信頼性を回復させるには、“広義”の不良債権である要注意先債権や、その予備軍についても保全率を引き上げなければならないのだ。自民党の故・梶山静六元幹事長が生前打ち出した金融システム安定化策、いわゆる「梶山プラン」では、金融機関の債権総額に対して、一般貸倒引当金を現状の五%程度から、二〇%にまで引き上げる案が示された。これを実現するのに必要な引当金の積み増し額はリーマンの試算によれば、主要十六行合計で六兆五千億円。引当率の引き上げを梶山プランよりも緩やかな一五%までとしても、四兆三千億円が必要になる。
こうした金額を、“狭義”の不良債権の対策にかかる四兆一千億円と合わせると、リーマンの言う「クレジットコスト」、つまり主要十六行を対象とした金融システムの健全化に必要な費用は、三年間で計八兆―十一兆円にのぼる。
一方、このコストを負担するべき銀行の業務純益はといえば、同じ十六行の合計で三兆五千億円(今年三月期)。ちょうど三年間、儲けのすべてを吐き出せば、なんとか帳尻が合う形にはなる。
だが、三年分の業務純益を銀行から剥ぎ取るという策は非現実的だ。金融業界では国際競争が激化し、大手行ほどIT投資やM&Aに巨額の資金が必要になっている。いま、銀行に過分の負担をさせることは「日本の金融産業の衰退を決定的なものにしてしまう」(金融庁関係者)おそれが強い。
話はこんな建前だけにとどまらない。大手行のなかにさえ再編を経てもなお、株安のたびに債務超過転落(そして破綻)という危機に瀕する金融機関が複数ある。ムーディーズ、フィッチといった欧米の格付け会社は七月の株価下落を受けて、日本の大手銀行に対する格付けを軒並み引き下げたり、引き下げの検討に入ったりしている(その主な理由は、不良債権に対する保全率の低さだ)。負担に耐えられない大手行の存在が炙り出されれば、金融システム不安は再燃する。
そもそも、日本の金融システムの再建をさらに三年も待っていられるのかという疑問が欧米の当局や市場参加者の間で持ち上がってもいる。緊縮財政や特殊法人廃止・民営化といった公的セクターの改革を打ち出すことで国内の人気を維持している小泉政権だが、訪米した与党三党の幹事長やジェノバ・サミットに出席した首相らが、欧米、特に米国からまず要請されたのは不良債権問題の抜本的解決だ。
銀行の負担を軽減するという意味でも、金融システム健全化が急がれるという意味でも、求められる落としどころは絞られてくる。不良債権償却のスピードアップ、および、それとセットになった公的資金の再投入だ。

「生贄が必要になる」とも

しかし実態が見えるほどに、その工程の困難さは増す。不良債権処理を急げば、貸出先企業の経営破綻と、それによる離職者の急増は避けられないし、公的資金再投入は銀行経営、金融行政、そして政治の責任追及と不可分だ。金融業界、借り手である産業界、金融庁と経済産業省、与党に小泉政権。思惑は決してひとつではないインサイダーたちの見方が一致する点、それは、この夏、遅くとも秋のうちに「生贄が必要になる」ということだ。
「もうひとつのダイエー」と呼ばれ、経営再建の途上にある流通大手、マイカルの株価がついに九〇円を割り込み、ゼネコンの業界団体である日本建設業団体連合会の会長(大成建設会長)は、第二次債権放棄の可能性に言及し始めた。経済産業省の政務官が柳沢伯夫金融相に噛みつき、自民党内には日銀総裁の任免権を総理大臣に与える日銀法改正の検討がスタートした。生贄の山羊を引っ張りだそうとする動きはすでに水面より上にまで出ている。
「破綻懸念先の代表として大手のゼネコンか流通企業が倒産、首相は政治的決断で柳沢さんか速水さん、あるいは両方を更迭。そんなところじゃないですか」。きっかけとなる大型倒産に注目しているという外資系証券の金融アナリストは言う。「ポイントは夏休み、それに秋の連休。タイミングが読みにくいのは米国株の急落でしょう」。
これまで遅々として進んでこなかった日本の不良債権処理は、様々な思惑が乱れ飛ぶ中で、いよいよ最大の山場を迎えている。




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