「あさひ銀行」明日なき漂流 (「選択」2001年9月号)

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投稿者 sanetomi 日時 2001 年 9 月 03 日 05:39:17:

「あさひ銀行」明日なき漂流

〜 頼みの東京三菱も「救済」断る


 かつてこれほど醜態を晒した都市銀行があっただろうか。自らの窮状から脱出したいがために、合併先を求めて右往左往し、手当たり次第に経営統合をもちかける。あさひ銀行の漂流ぶりは今や金融界の嘲笑を買うばかりである。ほぼ1年前、大見得を切って三和銀行、東海銀行との三行統合を離脱したあさひ銀は、金融危機の波に呑まれて「沈没寸前」の様相を呈している。
「包括的な資本提携をお願いしたい」。7月末、あさひ銀の伊藤龍郎頭取は東京・丸の内の東京三菱銀行本店を訪ねて同行の三木繁光頭取に、提携を申し入れた。あさひ銀に対する数百億円の資本参加と、個人・中小企業向けビジネスなどのリテール(小口金融取引)部門での業務提携を提案したという。しかし、「三木頭取はその場で交渉を断った」(東京三菱銀関係者)。


相手選ばず片思いの「ピエロ」

 あさひ銀にとって、東京三菱銀は「最後の望みの綱だった」(あさひ銀幹部)とされる。あさひ銀は東京三菱銀との統合をにらんで、いくつかの布石を打ってきたつもりだった。あさひ銀は海外業務からの全面撤退を決める際、東京三菱銀に海外顧客向けサービスをすべて委託することを決定し、この分野で提携にこぎつけた。
「脈ありだ」とあさひ銀は思い込んだに違いない。東京三菱銀の役員たちからは「ATM(現金自動預払機)や店舗交換など、提携範囲拡大の意向すら聞こえてきた」とあさひ銀幹部は言う。東京三菱銀は、経営体力こそ他の大手銀行グループをリードしているとは言え、顧客基盤では三井住友銀行やみずほフィナンシャルグループに大きく後れをとっている。
 とりわけ個人を中心にリテール分野は、かねてから最大の弱点だと指摘されている。「リテールバンク」を標榜した戦略で一部アナリストらから一定の評価を得ていたあさひ銀との経営統合が実現すれば、そうした弱点をカバーできると考えても不思議ではない。
 だが、東京三菱銀は交渉を事実上、打ち切った。
 あさひ銀が振られたのは東京三菱銀だけではない。「1年前から、あさひ銀の一方的な“片思い”が続いている」(金融庁関係者)のが横浜銀行だ。
 かつて日銀は、あさひ銀行に横浜銀行・千葉銀行を加えた「三行統合」を画策したことがあった。いわゆる「首都圏銀行」構想である。
 あさひ銀の思惑はこの構想の延長にある。かつては大蔵事務次官経験者が頭取ポストを占める横浜銀の力を恐れ、加えて自力での神奈川、千葉地域への進出に対する過度の自信から「首都圏銀行」の実現を自らご破算にしたという。「ところが一転、窮地に陥って話を蒸し返してきた」(横浜銀関係者)というのだ。
 三和銀、東海銀との統合から離脱を発表した昨年7月、あさひ銀は金融庁に対して「横浜銀、千葉銀との提携を視野に入れていますので安心してください」と説明し、統合破棄を強行した。
 ところが、これはあさひ銀の勝手な思い込みに過ぎなかったことがほどなく判明する。千葉銀からはその直後に、にべもなく振られた。横浜銀とは中小企業向けローンの分野で商品開発や顧客紹介などの協力まで合意したものの、経営統合については、平沢貞昭会長から「全く考えていない」ときっぱり断られたとされる。
 東京三菱銀、横浜銀との「虚しい提携交渉」を進めながら、あさひ銀はあおぞら銀行とも交渉を始める。あおぞら銀は98年12月に経営破綻した旧日本債券信用銀行である。今年6月初め、あさひ銀はあおぞら銀を買収して経営権を握るソフトバンク、オリックスを訪れ、共同持ち株会社の設立を申し入れたと伝えられるが、これも水泡に帰す。一方、三井住友銀行とは一定の距離を置いての生き残りを目指す住友信託銀行にも、あさひ銀は資本参加を要請したが、本格交渉に発展する気配はない。あさひ銀がこんなピエロを演じているのは「国有化の淵」にいるからである。


熾烈をきわめる内部抗争

 2001年3月期のあさひ銀の決算は、業務純益こそ前期比微増の1667億円だったが、不良債権処理後の最終損益は98億円の赤字に転落。不良債権残高も連結ベースで1兆4005億円と前期に比べて4923億円増加し、貸出金に占める不良債権の比率は6.79%と一年前より2.3ポイントも上昇した。経営内容は着実に悪化していることがわかる。
 しかしこのことだけ見れば、多くの都市銀行とさほど変わらない。あさひ銀の最大の問題は、98年3月、99年3月と合計で6千億円の注入を受けた公的資金(優先株など)の配当が2002年3月期に、早くもできそうにない状態になりつつあることである。
 2001年3月期のあさひ銀の配当原資である剰余金は418億円。都市銀行では大和銀行、東海銀行よりは多いものの、保有している有価証券の含み損を加味すれば、実質的には3百億円程度のマイナスだった。今期から銀行にも時価会計が導入され、有価証券の含み損の約60%分が自己資本、つまり剰余金から減額される。「公的資金の配当は、株価の大幅な上昇でもない限り無理」(銀行アナリスト)という。
 あさひ銀より剰余金が少ない東海銀は、有価証券の含み損があさひ銀より小さいうえ、三和銀との合併によって救われる見通しが立っている。あさひ銀より経営が危ういと見られてきた大和銀は、8月初旬に発表した「近畿大阪銀行、奈良銀行との共同持ち株会社」の設立によって、「まやかしではあるが、配当のめどは立った」(大手銀首脳)。銀行は銀行法によって法定準備金を資本金と同額に確保しておかなければならない。しかし「銀行持ち株会社は銀行ではない」との理由から、法定準備金を資本金の4分の1に減らして、剰余金を積み増せる「特例措置」を金融庁が認めたからである。
 あさひ銀も大和銀と同様、「持ち株会社の設立に向けて動き出した」と幹部は話す。ところが「全く進まない」という。「営業地域を東京、埼玉、それ以外の3つに分割する有力案が潰されたからだ」という。あさひ銀で、今も隠然たる力をもつ横手幸助元頭取(特別顧問)が強力に反対しているためだとされる。内部関係者によると、「埼玉地域を独立させれば、旧協和銀の収益力の弱さが露呈し、旧埼玉銀勢が勢いを増して自らの地位を揺るがしかねないと怯えている」という。「伊藤頭取以下、旧協和銀の人たちは、誰も横手元頭取に逆らえない」(あさひ銀幹部)。あさひ銀の「ドン」横手元頭取の頑迷ぶりにより、持ち株会社設立による“急場しのぎ”すらできない体たらくなのだ。
 あさひ銀の旧協和銀、旧埼玉銀の内部抗争は熾烈だ。7月中旬、金融界を驚かせる人事が発表された。あさひ銀の経営の要とも言うべき久保哲男・執行役員企画部長が突然、企画部長職を解かれたのである。
「久保さんは三和銀、東海銀との経営統合からの離脱を先導したニューリーダーだった人物。あさひ銀の再編をめぐって、旧協和銀OBと旧埼玉銀勢の板挟みで悩んでいた」(大手銀幹部)という話が伝わってくる。解職の表向きの理由は「体調不良」で、あさひ銀は「銀行内部の対立で詰め腹を切らされたなどということはない」と説明する。しかし金融界では「久保氏は横浜銀との統合交渉の責任者だった。しかし旧埼玉銀勢が東京三菱銀との交渉を進めようとしたため、路線対立が鮮明になり、責任をとらされたらしい」と見ている。
 旧協和銀出身のある有力OBは「旧埼玉銀はしょせん田舎地銀。旧埼玉銀の役員は提携交渉もろくに進められない」と周囲に対して露骨に不満を示す。明確な経営戦略を打ち出せないのは、旧埼玉銀の人材不足と、危機感の欠如と指摘し、旧協和銀は独自に再編交渉に乗り出している。かねてから関係の深い日興證券や第一生命保険にあさひ銀への出資を求め、水面下で独自の再編を模索している。
 ところがこのことが旧埼玉銀を刺激する。「2年前に東海銀との提携を発表した直後にも、旧協和銀勢は東海銀に相談もなく、常陽、群馬、千葉の各地銀に再編話を持ち歩き、東海銀の不信感を買った」(あさひ銀幹部)。
「東海銀に主導権を握られることを恐れた旧協和銀が、独自に動いた」わけだ。こうした動きが東海銀との提携を遅らせ、しまいには三和銀の参画という、あさひ銀にとっては好ましくない事態を招き、あげくの果ては離脱につながったと嘆く。旧埼玉銀は「旧協和銀が何もかもぶち壊す」との怨念を抱くほどである。
 あちこちの金融機関と交渉し、すべてが表面化してしまうのは、こうした内部対立が原因と見る向きは多い。
「あさひ銀は、提携話を持ち込むたびに、『その話は内部でまとまった話なのか』と逆に聞かれ、立ち往生している」(金融筋)という有様だ。


どこも尻込みする問題企業群

 あさひ銀の提携が進まない原因は、経営内部の抗争だけが原因ではない。最大の問題は不良債権問題である。
 金融界で、「あさひ銀の五つの爆弾」と呼ばれている問題企業がある。青木建設、昭和リース、共同抵当証券、不二サッシ、地産グループである。
 青木建設は言うまでもなく、「最も危険なゼネコン」と囁かれている不良企業の代表格のような存在だ。金融庁は昨年暮れ、あさひ銀に対する立ち入り検査で、青木建設の査定を槍玉にあげた。あさひ銀の青木建設向け融資残高は昨年9月時点で880億円だが、金融庁はこの貸し出しをすべて「破綻懸念先」に分類すべきだと主張したという。青木建設の再建は、二十年間かけて借入金を返済し、経営を立て直す計画。しかし国内受注は減少の一途で、「再建にはもう一度銀行による債権放棄以外に手立てはない」という切羽詰まった状況にある。
 あさひ銀の関連会社の昭和リースは、これまでにあさひ銀が多額の支援を実施してきたものの、なお有利子負債を約1兆円抱える問題企業。共同抵当証券は日興證券が今年3月に保有株式をあさひ銀に売却したため、あさひ銀の連結対象になった。日興證券幹部によると「あさひ銀主導で巨額の不良債権を抱えており、いずれ清算となれば1千億円近い損失が表面化すると見られている」。不二サッシ、地産グループも経営不振が続き、あさひ銀の「隠れ不良債権」とされている。このほか昭和地所、大栄総合開発、大栄不動産などにもあさひ銀は6百億〜8百億円もの融資残があり、今後の経営を大きく揺さぶるに違いない。「東京三菱銀があさひ銀との統合を避けたのも、経営内容を詳細に調べ、支えきれないとの結論が出ていた」からだと囁かれている。
 ここに来てより深刻な問題だと指摘されているのが旧埼玉銀の取引先である松栄建設、松栄不動産との取引だ。関係者によれば、同社グループは埼玉地場の大手ゼネコンで、借入金は総額1500億円あるが、大宮西口開発事業が地元の反対で事実上凍結され、2百億円もの債務超過に陥っているという。
 あさひ銀の伊藤頭取は八月初旬、藁をも掴む思いで大和銀に経営統合を申し入れたという。まさに「手当たり次第の再編詣で」だ。大和銀は明確な返事はしていないが、あさひ銀の内部抗争や不良債権問題がくすぶる限り、再編は難しいと見られている。
「一度、国有化されて今の経営陣を一掃しない限り、あさひ銀と組む銀行はないだろう」。ある大手銀の頭取はこう話す。漂流するあさひ銀に未来は見えない。

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