戦慄の銀行「最終処理」〜 業界丸ごと「会社更生」方式(雑誌「選択」10月号)

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投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 10 月 03 日 10:41:16:


対岸の火事ではない。世界貿易センターがあっけなく崩壊したように、日本の巨大な銀行システムも灰燼に帰しかねないのだ。大手スーパー、マイカルの破綻でいよいよ過剰債務企業の清算が幕を開けた。来年四月実施予定のペイオフ(預金払い戻し)解禁で、銀行の整理・淘汰は否応なく加速する。ジャングルの掟が支配する大混乱か、それとも決死の覚悟で「銀行最終処理計画」に踏み出すのか。小泉純一郎首相はもう一刻の猶予もない。
それは「巌流島の決闘」にも見えた。9月18日午後7時、首相官邸に乗りこんだ三人。内閣特別顧問の樋口廣太郎アサヒビール名誉会長、元日銀マンの木村剛KPMGフィナンシャル社長、そして森昭治金融庁長官である。表向きは不良債権問題に関する勉強会ということになっていたが、官邸筋によれば数時間も激論が戦わされたらしい。

●「三酔人」のスレ違いに終わる

木村氏が建設、流通などの大手不振企業に的を絞った引き当て強化を訴えたのに対し、森長官は現行の金融行政を正当化する弁に終始したとされる。小泉首相はほとんど発言しなかった。
木村氏の主張は極めて明解だ。すなわち、不良債権問題の本質は中小企業向け融資にあるのではなく、建設、流通など借り入れが1社数千億円から数兆円にのぼる大手企業向け融資にある。その企業は約30社に絞り込まれる。だから、「要注意先債権」のうち大手30社に絞って厳格な検査を実施して、目いっぱい貸倒引当金を積ませるべきだ、というのである。
その結果、自己資本不足に陥る銀行も出てくるに違いない。その銀行には、国から常駐の監督官を派遣して、思いきりリストラを迫る。それでも立ち直れないなら、公的資金を使って整理してしまう・・ざっとこんな具合だ。
この案に飛びついたのは竹中平蔵経済財政担当相。「不良債権は30社問題」という歯切れのいいキャッチフレーズがお気に召したらしい。銀行への公的資金投入論が閣内で支持を得られず、孤立していたが、事あるごとに「30社問題」を強調し始めた。そしてこの案を21日発表の構造改革「工程表」に盛り込むハラだった。木村氏は竹中経済相の「代理」だったのだ。
対する森長官も、柳沢伯夫金融担当相の身代わりに官邸に差し向けられた。伏線は9月上旬の柳沢金融相の英米歴訪にあった。釈明しようと行脚した柳沢金融相は不信の眼差しにさらされ、国際通貨基金(IMF)のホルスト・ケーラー専務理事らに不良債権処理の遅れを容赦なく叱責された。渋っていたIMF特別査察を受け入れる、とロンドンで表明せざるを得なかったことは象徴的といってよい。
本来なら竹中経財相と柳沢金融相と首相とで、膝を交えて話し合えばよいのだが、不良債権問題をめぐる閣内の溝は深まるばかり。主要経済閣僚が閣外に去ることも考えられた。そこで閣僚対決を避け、柳沢氏ではなく森長官が「代理」で官邸に赴いたのだ。
もう一人の参加者である樋口内閣特別顧問は、不良債権処理と一体になった過剰債務企業の再生を「産業再生委員会」を通じて行うべきだという意見の持ち主。9日付の朝日新聞やNHKテレビなどで、日銀資金を活用した過剰債務企業処理の必要性を述べたことから脚光を浴びた。その直前には渡辺喜美衆院議員が小泉首相に進言し(本誌四十ページ参照)、樋口氏と渡辺議員も会っているから、単なる思い付きとは言えない。
この「産業再生委」構想には柳沢金融相自らが「国家の過剰介入だ」と強く反発し、産業再生の実務の第一線に立つ経済産業省も腰が引けている。
結局、18日の官邸「勉強会」では、三人の議論は「三酔人経綸問答」ばりのすれ違いに終わり、不良債権問題の抜本処理策は打ち出されなかった。ということは、現状維持を前提にする金融庁の言い分が目先通ったのだ。
案の定、21日に発表された工程表では「市場の評価に著しい変化の出ている企業への融資については、金融庁が主要行に対して特別検査を実施し、隠れている不良債権を洗い出す」と言うにとどまった。

●「木村リスト」30社に疑心暗鬼

もちろん、こうした小出しの漸進主義・・旧日本軍の愚策とされる「戦力の逐次投入」の手法で、海外の金融当局や市場参加者を納得させられるとは、当の金融庁自身も思っていまい。ある金融庁幹部は「要注意先の大口債権に対して一気に引当金を積み増したら、大手行といえども資本不足に陥ってしまう」と漏らす。相変わらずの小出しは、大手行の資本不足の実態を表に出さないための苦肉の策なのだろう。
だが、今回の工程表は皮肉にも「株価の急落や格付けの大幅引き下げ」を不良債権のメルクマールとして明言してしまった。これを機に、株式市場による問題企業へのアタック(株の集中売り浴びせ)が強まるのは必至だ。例えば、工程表の発表と同日に8月中間決算の下方修正を明らかにしたダイエーは、その標的になりかねない。決算の下方修正を受けて、米格付け会社ムーディーズがダイエーの社債格付けを「B(好ましい投資対象の適正さに欠ける)1」から「Caa(安全性が低い)1」に引き下げたからだ。
「Caa1」は投機的等級11段階の上から7番目。住友、三和、東海、富士のメーンバンク4行は鳩首協議し、さっそく「今後も支援姿勢に何ら変わりがない」とのコメントを発表したが、ダイエーの株価は25日に30%も急落した。
素直に見れば、このケースは工程表の「市場の評価の著しい変化」に当たり、「金融庁の特別検査」による「隠れた不良債権の洗い出し」が必要になりそうである。前期まで正常債権で、破綻時には要注意先に分類されていたマイカルのケースで、査定のいい加減さが知れ渡っているだけに、工程表で謳った立派な総論は日本の金融行政の命取りになりかねまい。
そうでなくとも、株式市場はすでに「木村リスト」の大手30社はどこか・・で疑心暗鬼に陥っている。市場にはKPMGフィナンシャルが作成したとされるリストが出回った。メリルリンチの債券リサーチ、週刊ダイヤモンド、週刊文春が5月に報じたみずほ三行の要注意先企業リストのなかからピックアップした資料が添えられている。
「木村リスト」ではD不動産、F不動産、Hコーポレーションなどとイニシャルで29社が並ぶ。これだけでは判じ物だが、メリルの資料や雑誌記事と照らし合わせると、社名が否応なく浮かび上がる。もっともKPMGはリスト作成の事実を否定している。
 問題の29社向けの有利子負債残高を足すと20兆円強になるが、鉄鋼、造船、化学、自動車など大型再編を要する企業がここでは抜け落ちている。竹中経財相が考えているのと違って、大手30社問題が片付いたからといって、それを処理すべきなのはもちろんだが、不良債権問題の濃い霧はすぐに晴れそうもない。
デッドラインは着実に迫る。来年4月からのペイオフ解禁だ。銀行が破綻しても預金などは全額保証されず、払い戻しの上限は一千万円となるため、預金者は危ない銀行の情報に極めて敏感になっている。定期預金から流動性預金への資金シフトが顕著になってきたのも、流動性預金のペイオフ解禁が1年遅れの2003年4月になるからだ。それだけでも預金者が不安心理に駆られていることを物語る。しかもこうした流動性預金は、経営不安の噂が流れたらいっぺんに流出する可能性があり、巨大な取り付けリスクが潜む。

●銀行の自助努力にはもう頼れない

米国からも津波が襲ってくる。9月11日の同時多発テロで、米国景気の一段の冷え込みは必至だ。トヨタ自動車株の急落は事態を雄弁に物語る。日本経済を支えてきた「大黒柱」の自動車産業まで厳冬入りするばかりでなく、銀行にとってほとんど唯一含み益のあった株式が含み損に転じ、自己資本を直撃することをも意味する。もちろんウォール街の金融センターを直撃された外国人投資家が、日本株を換金売りする流れが止まるはずもない。
これでは、銀行が自助努力で這い上がるシナリオなど「絵に描いた餅」にひとしい。柳沢金融相が8月28日に示した不良債権処理の試算では、2000年度には4兆3千億円だった主要15行の不良債権処理損は2001〜03年度には3兆円に減るにすぎず、04〜07年度にようやく6千億円から1兆円に減少することになっていた。不良債権の残高(2001年3月期末で17兆4千億円)が半減するのは7年後という悠長な話だ。
これでも金融関係者は口々に厳しすぎるとこぼすが、この試算は政府の経済再生シナリオを前提にしたものだ。ところが、米同時多発テロを機に竹中経財相自ら国会で「再生シナリオの達成は困難になった」と認めている。試算は、甘すぎるとさえいえる。
どうすればいいのか。小出しに代わる代案はあるのか。小渕前政権の「何でもあり」で辛うじて乗り切った3年前の長銀危機以降、銀行が抜本リストラを怠ったため、病はいっそう重くなっている。かつて故梶山静六・元自民党幹事長が唱えたような資本強制注入だけでは、「最終解決」にならない。
結論を急ごう。論理的な帰結は「即時・一括・強制」処理しかありえない。それも一行や二行の話ではない。経営が破綻した企業を更生させるのと同じように、日本の銀行業界全体をそっくり「更生」下に置くのだ。業界まるごと「民事再生法」を適用させるといってもいい。要点はこうである。

▼JR方式 要注意先債権以下の問題債権を一括して公的勘定に移行させ、国鉄清算事業団のように国が「受け皿銀行」を設けて債権の管理・処理にあたる。銀行経営陣を総退陣させるとともに大幅リストラのうえ、正常債権だけの新勘定で業務を再開させる。

▼塩漬け 問題債権を公的勘定に移行させる際の買い取り価格は簿価ではなく市場価格とする。その資金手当てを直ちに国債発行で賄えば国債相場が暴落するので、将来の税金負担による穴埋めを約束する「アコード」(合意)を定め、日銀資金を「受け皿銀行」の債権買い取り資金とする。

▼産業再生 問題債権の貸出先である企業または産業の再編・整理のために「産業再生委員会」を新設し、「受け皿銀行」と協力して処理にあたり、売却可能な債権は民間に譲渡する。

▼私権制限 経営陣パージに怯える銀行側は「財産権の侵害」と抵抗するだろうから、政府が信用秩序を守るための「非常事態」を宣言し、有無をいわさず問題債権を召し上げる。売れないものは償却するほかない。

▼ペイオフ再延期 現状では混乱回避のためにペイオフの再延期はやむをえない。解禁するなら、名寄せなどによる事実上の総背番号制を敷いて、名寄せを拒否する預金者は「受け皿銀行」の旧勘定に残し、名寄せを受け入れる預金者だけ新勘定への移行を認める。これによってマネーロンダリングなどアングラに汚染された銀行を浄化する。

▼郵貯も同時 郵貯も民営化し、民間銀行と同じく名寄せを条件として新勘定に移行させる。財政投融資先の特殊法人とは切り離し、これも塩漬けにしたうえ、民間と同時では混乱するから追って処理することとする。

▼新規参入 新勘定の銀行業界には通信、エレクトロニクス関連企業などからの新規参入を積極的に促す。決済システムはすでにデータ処理業務と変わらないためで、これによって新しい血を入れ、銀行界の旧弊を一掃する。

●RCC=「受け皿銀行」の難点

では、「旧勘定」から「新勘定」への移行をどうやるか。終戦直後のように銀行預金を封鎖して、問題債権分を一括切り捨てたうえで、新円に切り替える手段も考えられないわけではない。米有力エコノミストのフレッド・バーグステン氏らが唱えるバンクホリデー(銀行の一斉業務停止)はこの案に近い。だが、同時テロ以降、世界の金融市場が動揺しており、世界第二の経済大国がこの案を実行することは米欧にも許容されにくい。だとすると、銀行に対し一斉検査を行い、問題債権への強制引き当てと強制資本注入が入り口になる。優先株ではなく普通株による資本注入を行い、一時的な国家管理の下でリストラを強制するのだ。
「受け皿銀行」としては整理回収機構(RCC)の名が挙がっている。工程表でRCC強化が盛られたのはその布石で、長期国債引き受け(マネタイゼーション)や不良債権直接買い上げを避けたい日銀も乗り気だ。しかし、RCCはもともと破綻懸念先以下の債権の回収機関である。そこへ要注意先以下の債権を紛れ込ませると、整理すべき先と生かすべき先がごったになって、壮大なモラルハザードをもたらす恐れがある。
だから産業再生委員会のような第三者機関を作って、問題債権を腑分けする必要が出てくる。この腑分けがきっちりできないと、新生銀行のようにむざむざ国民の資産が外国資本に簒奪される事態になりかねない。元米連邦預金保険公社(FDIC)総裁のウィリアム・シードマン氏が9月に来日したのも「二匹目のドジョウ」を狙った動きの一端と見る見方さえある。
以上の提案が非常識と思うなら、傾いた日本丸とともに沈むしかない。金融システムと実体経済が複合破壊される事態とは、トマス・ホッブズの「リバイアサン」でいう自然状態である。
「そこでは人の生は、孤独で貧しく、汚らしく、残忍で、しかも短い」

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