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人物探訪: 亀井正夫 〜「おまけの人生」で国鉄改革 投稿者 てんさい(い) 日時 2002 年 7 月 21 日 11:19:25:

________Japan On the Globe(250) 国際派日本人養成講座_______
_/_/
_/ 人物探訪: 亀井正夫
_/_/         〜「おまけの人生」で国鉄改革
_/ _/_/_/  原爆攻撃を奇跡的に生き延びた亀井正夫が
_/ _/_/ 「おまけの人生」をかけて国鉄改革に挑戦した。
_______H14.07.21_____38,852 Copies_____514,851 Views________

■1.それじゃ、あなたも私も馬鹿ということですか?■

 亀井君、国鉄の再建をやってくれんか。国鉄をなんとか
しなけりゃ日本経済はどうなってしまうかわからない。君
やってくれよ。ボクも命を張ってやるつもりだから、どう
しても引き受けてくれ。お国のためだ。

 昭和58年6月、臨時行政調査会(臨調)の土光敏夫会長は、
国鉄改革の行方に危機感を抱き、国鉄再建監理委員会の人選に
頭を悩ませた。いろいろな人に当たってみたが、最後にこう言
って頼んだのが、臨調で第3部会長を務めた亀井正夫・住友電
工会長だった。

 亀井は、なにも大阪の人間を引っ張りださなくとも、東京に
有能な方々がたくさんいらっしゃるじゃないですか、と断った。

 君のいう通りだ。ボクもそういう人たちにあたって
みたよ。しかし、誰もやらん。賢い人はたくさんおる
けれども、こんなドロにまみれるような仕事は誰もや
らんのだよ。それで、君やってくれ。ボクもやるんだ
から。

 それじゃ、土光さん、あなたも私も馬鹿ということ
ですか?

 まぁ、そうだなぁ。ボクも君も馬鹿なんだ、やろう
よ。

 当時の国鉄は累積債務37兆円、このまま破綻したら日本経
済は大混乱に陥る。90歳の土光に「体を張る、お国のため
だ」とまで言われては、亀井にはもう断る術はなかった。

■2.一人一人の人間を大切にしなければいけない■

 亀井は大正5年、神戸に生まれた。昭和14年東京帝国大学
法学部を卒業すると、住友本社に入った。住友本社の直営事業
として、日本で金の産出量が一番多い北海道北見の鴻之舞金山
があったが、戦争が始まって金があっても物が買えないという
時代で、閉山して資材や人員を軍需産業に回そうという国策が
たてられ、亀井はしょうわ18年、人事課員として1ヶ月山に
籠もって、5百人の職員を住友グループ内に配転するという業
務についた。

 あらかじめ、住友グループ各社に照会して、受け入れ先を作
っていく。その上で、一人一人に面接して、家庭事情や勤務地
の希望などを聞いて、なるべくそれに合った仕事を見つけてい
く。

 鉱山で気の荒い連中も多く、何かのきっかけで暴動でも起き
たらと、それこそ命がけの仕事だったが、それぞれの人間に愛
情を持って接していくことで、無事に終わった。一人一人の人
間を大切にしなければいけない、ということを、亀井はしみじ
みと教えられた、という。

■3.何か大きな力に恵まれて生かされている■

 昭和20年8月6日、亀井は法務見習い士官として、広島城
内の天守閣近くにある将校宿舎にいた。爆心からわずか3,4
百メートルの所である。8時15分、B29が2機飛んできた。
たったの2機なので、今日は偵察だろうと思って空を見ている
と、突然ガーンとものすごいショックを受けて吹き飛ばされた。
その瞬間、青白い閃光がパーッと走るのが見えた。

 頑丈な建物は一瞬のうちに潰れ、他の9人の同僚はすべて圧
死、亀井だけが偶然に梁と梁の間にはさまって、圧死をのがれ
た。からだを動かしてみると、崩れ落ちた建物の間に真夏の日
差しが差し込んでいる。その光に向かって、必死に板や柱を押
しのけて自力で脱出した。

 美しい広島城は跡形もなくなり、杉の大木がへし折れて先端
が燃えている。城内でラジオ体操をしていた女子挺身隊や女学
生たちが、見るも無惨にやけどをして、ごろごろ転がっている。
潰れた建物が燃えて、中から「助けて」という絶叫が聞こえて
くる。まさに地獄の光景だった。

 ちょうど、妻の父が広島駐在で、広島城と宇品の中間あたり
に住んでいた。廃墟とした広島の街並みの間を歩いて、何とか
実家にたどり着くと、妻が生きていたのかとびっくりして出迎
えた。終戦を経て8月末になると、放射能の影響が出てきた。
頭髪がすべて抜け落ち、40度の高熱が続き、医者は「もう、
だめだ」と思ったという。しかし、翌年3月には奇跡的に健康
も回復し、大阪に戻って住友電気工業に採用された。

 亀井は自分の人生は昭和20年8月6日に終わっていて当た
り前、それ以降の一日一日は、何か大きな力に恵まれて生かさ
れている、と感じた。その恵みに対して、恩返しをしなければ
いけない、そういう気持ちをずっと心の底に持って、仕事に取
り組んでいった。

■4.まことに申し訳ないことですが、■

 昭和48年に亀井は社長に就任したが、その翌年はオイルシ
ョックによる急激な景気の冷え込みで、仕事量が35%も減少
してしまった。1万人以上の従業員を抱えて、たちまち赤字に
追い込まれる。

 しかし、亀井は人減らしではなく、住友の事業精神である人
間尊重の立場を貫いて、残業をなくす事で対応した。現場の作
業員は残業代ゼロで、1〜2割の収入減となる。しかし、管理
職は管理職手当てがついているので、残業に関係なく収入は変
わらない。

 ここで亀井は管理職賃金の一割カットという手段を日本で初
めて採用して世間を驚かせた。欧米のマスコミも「なぜ人を減
らさず賃金を減らすのか?」と何社も取材に来た。この賃金カ
ットにより、現場と管理職の間に、一緒に頑張って危機を乗り
越えようという機運が出て、コスト削減の効果が見る見る現れ、
やがて減収ながら増益に転じていった。

 実は、管理職の賃金カット程度では、金額的には知れている。
真の狙いは「全員一丸となって不況を乗り切らねば」という気
持ちの引き締めを社員に徹底させる所にあった。さらに社員の
会社に対する信頼を維持するために、特別の文書を配布して、
事情を説明した。

 まことに申し訳ないことですが、特別措置として十月分
給与より・・・。家庭においても物価上昇による生計費の
支出増のため大変苦しいことと思いますが、・・・緊急措
置としてご理解いただき協力いただくようにお願いいたし
ます。

 一人一人の人間を大切に、という気持ちが滲み出ている文面
である。3,4年後に景気が回復した時には、人員整理をした
会社は人手不足で困ったが、同社はそれをしていなかったため
に素早く対応できて、発展の基盤となった。

■5.瀕死の国鉄■

 昭和56年から58年まで第二次臨調の第3部会長として、
地方行政組織、許認可、補助金問題などに取り組む。それが終
わった途端に、土光から国鉄再建監理委員会の委員長を頼まれ
る冒頭のシーンとなった。

 当時の国鉄は昭和60年度には年間売上げは3兆3千億なの
に、なんと2兆6千億もの赤字を出していた。それを土地売却
益15百億と、政府助成金6千億円で穴埋めしても、なお毎日
約50億の赤字垂れ流しとなる。こんな状態をほぼ20年続け
てきて、累積債務37兆円、すなわち国鉄の売上げの11年分、
国民一人あたり37万円にあたる借金が積み上がった。

 国鉄は明治の開業以来、陸上交通の大動脈として独占的な地
位を占めてきたが、高度成長期に入るとバス、トラック、飛行
機、船など多様な交通機関にシェアを奪われていった。昭和3
5年と57年でシェアを比較すると旅客で51%から24%へ
と半減、貨物では39%からわずか7%へと激減していた。

 それでも官営のために赤字垂れ流しも平気、なおも政治家の
圧力で、採算無視の新幹線やローカル線建設が続けられる始末
だった。全国35万人も巨大企業が一律運営のため、地域に密
着したサービスもできない。生産性向上運動が一度は試みられ
たが、戦闘的な組合により潰されてしまった。

 国鉄労働組合(国労)が北海道で大会を開いて、全国ネット
ワークを分断する分割民営化への反対を決議したのだが、その
時に本州から参加した代議員は全員が飛行機で集まったという
笑い話が伝わっている。

■6.国鉄改革への戦い■

 亀井が国鉄再建監理委員会の委員長を引き受けると、脅迫状
や脅迫電話が大量に押し寄せた。しかし、原爆の直下で奇跡的
に命拾いした昭和20年8月6日以降の人生は「おまけ」のよ
うなものだと考えている亀井にとっては、バカになってやり通
すだけだった。

 予算委員会、運輸委員会など、国会には36回出て、野党議
員のいやがらせ質問も受けた。しかし、私利私欲を離れた亀井
の答弁は一点のやましさもない堂々としたものだった。野党は
民営化は譲っても、分割だけは絶対に許さないという姿勢で、
事業部制をとって権限移譲したらいいじゃないか、と主張する。
亀井は事業部制をとっても、銀行は一支社長が融資を頼んでも
相手にしない、権限移譲を理想的に進めていったら分割なのだ、
と主張して説得していった。

 また当時30万人の国鉄が、私鉄並みの生産性を発揮するに
は、18万3千人体制にしなければならない。定年などの自然
退職を除くと、約9万人を整理する必要があった。野党や国労
は亀井は「首切り」に来たと陰口を叩いていた。

 そこに亀井は「人員がだぶついて大赤字になっているのだか
ら人員の配置転換はする、しかし一人も路頭に迷うものは出さ
ない」と明言した。成算があったわけではないが、住友での経
験から改革には労使の信頼が基本だということを信念としてい
たからである。これには社会党も参ってしまった。亀井は自ら
の約束を実現するために、全国の経営者協会や府県知事などに
国鉄職員の再雇用を頼んで歩いた。

 自民党からも当初は「電線屋が何を言う」「社長になりたい
から民営化したいのだろう」などという中傷が流された。また
関連分野に天下りしている国鉄OBは、自分たちの地位が失わ
れる事を恐れて、自民党に改革反対を強く働きかけた。しかし
当時の自民党幹事長・金丸信が「あなたのような第三者だから、
公平な将来を見通した案をつくっていただけたので、金丸信が
政治生命に代えてもこれは通してみせます」と亀井に明言した
所から、自民党が賛成に廻り、民社党、公明党が共鳴して、大
勢が決した。

■7.6千億の補助金受取りから、1千億の納税へ■

 昭和62年4月1日、国鉄は地域別の旅客6社(東日本、西
日本、東海、北海道、四国、九州)、そして貨物部門のJR貨
物に分割民営化されてた。さらに37兆円の過去の債務のうち、
26兆円を切り離して国鉄精算事業団に負担させ、事業団は国
鉄の遊休地とJRの株を売却することで、債務の圧縮を図るこ
ととなった。

 国鉄改革から10年を経た平成8年度の運輸白書では、それ
までの成果をまとめている。経営面での成果を何よりも物語っ
ているのは、それまで毎年6千億円もの政府助成金をつぎ込ん
でもなお赤字が穴埋め出来なかったのが、分割・民営化後は本
州3社を中心に黒字に転換して、逆に1千億円もの税収をもた
らしていることである。

 黒字化の原動力となったのは、やはり分割・民営化による経
営努力であろう。旧国鉄時代では大都市近郊においても私鉄に
通勤客を奪われ、のんびりしたローカル線でしかなかったもの
が、スピードアップや増発により利便性を増して私鉄と張り合
うようになった。今日の10代、20代の若者は、私鉄各社も
JRも格別の違いはないように思っているだろうが、その事自
体が、毎年のように運賃値上げやストを繰り返していた国鉄時
代を記憶している年代から見ると隔世の感がある。

 国鉄時代に生産性向上運動が一度は展開されたが、国労など
の反対により潰されてしまった。国鉄改革では9万人もの人員
を整理する必要があったので、まかり間違えば国労が社会党を
巻き込んで、徹底抗戦に出る恐れがあった。そうなれば分割・
民営化構想も絵に描いた餅に終わっていただろう。そうならな
かったのは、「一人も路頭に迷わせない」と明言し、なおかつ
それを誠実に実行した亀井の「一人一人の人間を大切に」する
姿勢が組合側からも信頼を得たからであろう。

■8.日本人の自己改革能力■

 日本が今まで行ってきた自己改革は、すべて外圧のもとで行
われた。明治維新は西洋諸国の脅威のもとに行われ、戦後の改
革は占領軍の指令によって行われた。

 それが今回の(国鉄改革)の場合は日本人が自らの頭で
考え、国民の代表である国会が十分時間をかけて審議して、
自己改造改革をやったという初めてのケースではないか。
そういう意味で、日本人は外圧によらない自己改革能力を
持ったのだという自身を持って、21世紀に向かっていっ
たらどうか。この自己改革能力があれば、農業の問題も住
宅の問題も知恵を絞れば解決できんはずはない、、、

と、亀井は語る。その自己改革はグローバル・スタンダードな
どという輸入物ではなく、「一人一人の人間を大切にする」と
いう日本で生まれ育った経営哲学に基づいたものであった。

 亀井は毎年原爆記念日の8月6日になると、ああ、また一年
儲かったと思ったという。亀井は本年6月23日、享年86歳
でなくなった。もうすぐ8月6日がまた来る。「おまけの人
生」をお国のために捧げ尽くした亀井は、今年は草葉の陰で国
の行く末を見守っているだろう。
(文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(234) 土光敏夫〜個人の生活は質素に、社会は豊かに
月5万円の質素な生活をしながら、数千万円を女学校に寄付する
財界総理の人生哲学。
http://macky.nifty.com/cgi-bin/bndisp.cgi?M-ID=0367&FN=20020330053124
b. JOG(232) 伊庭貞剛〜君子、財を愛す、これをとるに道あり
銅の製錬で発生する亜硫酸ガスから、近隣農業をいかに守るか、
半世紀に及ぶ苦闘が続いた。 亀井正夫が尊敬した住友の経営者。
http://macky.nifty.com/cgi-bin/bndisp.cgi?M-ID=0367&FN=20020316160419

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
1. 亀井正夫、「和魂洋才のすすめ」★★★、竹井出版、H3
2. 亀井正夫、「改革への道」★★、創元社、S59
3. 「平成8年度 運輸白書」★
http://www.mlit.go.jp/hakusyo/transport/heisei08/8index.html

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