テロ事件に関する危険なデマ:ウェブで広まった「イスラエル黒幕説」ブライアン・カーライル

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投稿者 dembo 日時 2001 年 10 月 10 日 14:19:12:

テロ事件に関する危険なデマ:ウェブで広まった「イスラエル黒幕説」(ブライアン・カーライル, Slate)
2001 年 10月 9日
http://journal.msn.co.jp/articles/nartist2.asp?w=73153

イスラム諸国には、9月11日の同時多発テロにイスラエルが関与していたと信じている人が多いという。その証拠としてあげられているのが、世界貿易センタービルで働いている4000人のイスラエル人がテロ事件当日、病気を理由に会社を休んだという「噂」である。しかし、これはインターネットを利用して広められた悪意に満ちた「デマ」にすぎない。


カタールの衛星テレビ局アルジャジーラは10月7日、米英軍によるアフガニスタン空爆開始直後、オサマ・ビンラディンのビデオ映像を放映した。このビデオによる声明がいつ収録されたものであるかは定かではないが、この中でビンラディンは次のように述べている。
「神は米国の一番脆弱な部分を攻撃した。今後も米国が[イラクとPLO(パレスチナ解放機構)に敵対する]従来の政策を転換しないかぎり、イスラムの息子たちはこの戦いを続けるだろう」
つまり、9月11日の同時多発テロは「イスラム教徒」による犯行であったことを実質的に認めているわけである。
しかし、ここに驚くべき事実がある。イスラム諸国には、9月11日の同時多発テロにイスラエルが関与していたと信じ込んでいる人が多いというのだ。その証拠としてあげられているのが、世界貿易センタービルで働いている4000人のイスラエル人がテロ事件当日、病気を理由に会社を休んだという「噂」である。そして、この「噂」は現在、複数のウェブサイトやネット上の掲示板に掲載されており、無数の電子メールを介して広められている。中東の新聞や放送局には、これを「事実」として報道してきたところも少なくない。しかし、この「噂」の出所はいったいどこで、どのようにしてここまで広がってしまったのだろうか。

●確認がとれない情報と存在しない編集者
まず第一に、「4000人のイスラエル人」という数字はどこから来たのか、という疑問がある。反ユダヤ主義などの偏見と戦う団体「反名誉毀損委員会(Anti-Defamation League)」のホームページによれば、テロ攻撃当日、イスラエル大使館はニューヨーク在住の4000人のイスラエル人(実際に世界貿易センタービルで働いていた人はほとんどいなかった)の安否を気遣う声明を発表したという。(しかし実際にこの声明が発表されたかどうかについては、同大使館の定例記者会見でも確認を取れなかった。)
インターネット検索サイトのNexisとGoogleによれば、テロ攻撃にイスラエルか関与したという発言は、9月17日にレバノンのテレビ放送局アルマナーが放映した「調査報道特集」の番組中に初めて登場した。ところがロサンゼルス・タイムズ紙によれば、レバノンのイスラム教シーア派武装組織「ヒズボラ」は、アルマナーでいつでも好きな内容の番組を放送でき、同放送局のホームページには「ユダヤ人に対して効果的な心理戦を演出すること」が局の存在意義であると明記されているというのだ。
上記の番組が放映された翌日(9月18日)、米国のウェブサイト「インフォメーション・タイムズ」(http://www.informationtimes.com/)は「4000人のユダヤ人が9月11日に世界貿易センタービルに出勤しなかった」と題する記事を掲載した。記事の内容は「アルマナーテレビの調査報道特集にもとづく」とされていたが、実はインフォメーション・タイムズがイスラエルを「犯人」扱いしたのはこれが初めてではなかった。テロ攻撃の翌日、同サイトは「テロリスト政府のイスラエルが、[容疑者ではないと]断言はできない」という記事を掲載したのである。
インフォメーション・タイムズの責任編集者は、サイエド・アビーブという人物で、住所は「ワシントンDC、NW 15丁目、549番、ナショナルプレスクラブ8階」とされているが、プレスクラブに問い合わせたところ、そのような人間が同ビルにオフィスを構えている事実はなかった。またアビーブなる人物がサイトに載せている電子メールのアドレスに繰り返し送られたメッセージは、送付不能で戻ってきた。ワシントン市内の電話番号案内のリストにも「インフォメーション・タイムズ」は載っていない。
しかし、このサイトに掲載されている「4000人のユダヤ人」に関する記事は、電子メールで簡単に転送できる。これだけ短期間に広まったのはおそらくそのせいだろう。


インフォメーション・タイムズの記事は、次の3つの主張を行っている。
1) ヨルダンの新聞「アルワタン」からの引用として、「イスラエル人が(9月11日に)会社を休んだのは、イスラエルの国内治安機関シャバクからの情報を得てのことだ」と主張。しかしここで引用されているアルワタン紙の社説を実際に見たと主張しているのは、アルマナーテレビだけで、ヨルダン大使館の広報担当者によれば、同紙自体も発行部数の少ない無名の新聞にすぎない。そしてアルワタンの情報源といえば、匿名の「アラブ外交筋」に限られているようなのである。(確かに、アルワタンと呼ばれる新聞社のサイトは複数存在するが、いずれもヨルダンで発行されているわけではなさそうだ。たとえば次の3つのサイトをご覧いただきたい。
http://www.watan.com/
http://www.alwatan.com/
http://www.alwatan.com.kw/
(関連サイト(1)〜(3)を参照)
2) イスラエルの新聞「イェディオト・アハロノト」を引用し、イスラエルの秘密警察が、シャロン首相が9月11日にニューヨークを訪問しないように仕向けたと主張。
3) イスラエルの新聞「ハアレツ」を引用し、世界貿易センタービルが瓦礫と化したテロ現場を職場のビルの屋上から撮影していた5人のイスラエル人をFBI(米連邦捜査局)逮捕(挙動不審者として拘束)したと主張。
しかし、NexisやGoogleといった検索サイトでいくら探しても、インフォメーション・タイムズが主張するような、シャロン首相や5人のイスラエル人に関する報道を確認することはできなかった。

●インターネットは諸刃の剣
ところが数日のうちに、この「話」は世界中の新聞で紹介されることになる。たとえば、9月21日付けのロシアのプラウダ紙には、イリナ・メレンコ記者の署名入りで、インフォメーション・タイムズのものと酷似した記事が掲載された。同紙はウェブサイト上にこの記事を掲載してから数時間後、「重大で愚かな誤報」として記事を削除したが、この記事にはまだここから(http://english.pravda.ru/main/2001/09/21/15846.html)アクセスできる。(関連サイト(4)を参照のこと)
また9月21日のシカゴ・トリビューン紙には、パキスタンのある新聞(名前は記されていない)が、似たような記事を載せたと報道した。9月23日にはSlateでも、ピーター・マースがイスラマバードからのレポートとして、地元の親タリバン政治家が反米デモで4000人のユダヤ人の話を伝えた、と報じた。さらに9月26日、パキスタンの新聞「ビジネスレコーダー」は、同紙のハキームという名の編集者への手紙という形で、アルマナーのものとほとんど一字一句同じ文章の記事を掲載した。これと同日、ニューヨーク・タイムズ紙は、これと同じ話がイスラム系の慈善団体のニュースレターに掲載され、エジプト系の中学校教師が準備した授業内容にも盛り込まれていた、と報じた。


10月4日には、シカゴ・トリビューンがサウジアラビアの新聞(名前は記されていない)にもこの話が載っていると伝え、10月8日発行のタイム誌では、パキスタンからのレポート(ティム・マクガーク記者の署名原稿)として、この「風説」がパキスタンの寺院やウルドゥ語の新聞にかなり大々的に広まっている、と伝えた。
9月28日には、USA トゥデイ紙が、「世界中のイスラム教徒」がイスラエルを同時多発テロの真犯人に仕立て上げようとしているという内容の記事で、この話を紹介した。しかしこの記事には、この話がどこから湧き出たものであるのかという説明が欠けていた。ビレッジボイス誌も、10月2日に同様の記事を掲載した。デマを暴くことを自らの使命とするウェブサイト「Snopes.com」も、この話は信用できないとして批判している。
インターネットを武器にする輩にとって、こうしたデマを瞬時に広めることなどいとも簡単である。しかし、インターネットを正しく使えば、こうした過ちを訂正することも容易なはずだ。
(ブライアン・カーライルはSlate編集者)


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