ブッシュ政権のタカ派キーマン、ウォルフォウィッツ(デビッド・プロッツ,Slate)

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投稿者 dembo 日時 2001 年 10 月 18 日 07:52:54:

ブッシュ政権のタカ派キーマン、ウォルフォウィッツ(デビッド・プロッツ,Slate)
2001 年 10月 16日

ブッシュ政権の対テロ政策は今、パウエル国務長官派とウォルフォウィッツ国防副長官派に2分されているという。政権内随一のタカ派であるウォルフォウィッツは、米軍による一方的な軍事行動や軍拡を支持しており、今回の同時多発テロを早くから「予測」していた数少ない人間の1人と言われている。いまやラムズフェルド国務長官のより目立つといわれるウォルフォウィッツとはどういう人物なのか。


9月11日のテロで米国中が大きな衝撃を受けた中、この種の出来事をある程度まで予測していた人がいるとすれば、ポール・ウォルフォウィッツ国防副長官ではないだろうか。30年にわたり新保守主義の国防専門家として鳴らしてきた彼は一貫して、おそるべき事態を招く、あり得そうにもない出来事が起こる可能性を指摘してきた。「米国は、『とても起こりそうにない』、『うまくいきそうもない』、『奇妙な』事態に備えなければならない。そうした事態はいつか必ず発生するからだ」と繰り返し主張してきたのだ。また、過剰とも思えるものも含めて、ありとあらゆる対応策を考慮に入れてきたことでも知られている。
そのため、世論に迎合することにかけては天才的な現政権内で、ウォルフォウィッツが独自の道を貫く存在として、上司であるドナルド・ラムズフェルド国防長官より目立ってしまうのも無理はない。9月11日のテロから3日後の記者会見で、ウォルフォウィッツは、米国は「テロを支援する国家を壊滅させる」つもりだと言い放った。彼はまた個人的にも、米国がタリバンとサダム・フセインの両方を転覆させる広範な戦争を展開するよう、精力的に圧力をかけてまわった(公には発言していないが、ウォルフォウィッツは9月11日のテロにサダム・フセインが関与していると疑っている可能性がある。少なくとも、そう考える人々と緊密なつながりを持っているからだ)。


「国家を壊滅させる」というウォルフォウィッツの発言は、コリン・パウエル国務長官により公の席で非難されることになった。同長官は報道陣に対し、ウォルフォウィッツが「どう考えようと勝手だが」米国がめざしているのは「テロの撲滅」だけだと語ったのだ。また、ウォルフォウィッツが熱心に主唱するサダム・フセイン打倒のシナリオも当面は却下された。パウエルをはじめとする政府首脳が、そうした広範な戦争は各国間の協力態勢を損ない、アラブ同盟国を怒らせることになると明言したからだ(この件に関し、政府首脳の誰がどちらについたかは、注1を参照のこと)。
と言っても、パウエルもウォルフォウィッツの言い分を100%却下したわけではない。米軍によるアフガニスタン空爆は、明らかに打倒タリバンを目標としており、オサマ・ビンラディン本人の殺害だけをめざしたものではない。それに、米国がインドネシアやフィリピンのテロ・グループに対する攻撃も考慮しているとの報道もある。ロバート・ライトは「Earthling」という記事の中で、ウォルフォウィッツの主張する広範で一方的な軍事行動に異を唱えている(ウォルフォウィッツとパウエルがぶつかり合うのは、今回が初めてではない。注2を参照のこと)。

●合理主義者でモラリスト
保守的な外交政策を唱える者は普通、2種類に分かれる。1つめは、キッシンジャー型の現実主義者で、米国は、たとえどんなにたちの悪い相手であろうと、権力バランスを維持するためなら、どんな政権とでも協力できるし、国家の安全保障の前には民主主義の理想も最小限の重要性しか持たないと信じている。そして2つめは、ロバート・ケーガンをはじめとするウィークリー・スタンダード誌など、道徳的観点を重視する新保守主義者だ。彼らは、米国の軍事力をバックに、地政学的影響などお構いなく世界中に米国的価値観を普及させたがっている。ウォルフォウィッツは、冷徹な合理主義者であると同時にモラリストでもあり、上の2つの考えどちらとも共通点をもっている。
コーネル大学数学教授の息子として生まれたウォルフォウィッツは、外交政策では冷酷な打算がきわめて重要だと確信している。数学と化学を専攻した彼は、大学院で転向した政治科学の分野でも可能な限り分析的な手法を取り入れた。シカゴ大学では、保守派の核戦略家アルバート・ヴェールステッターの愛弟子となった。ヴェールステッターは、原爆を使った戦争を本気で研究することは可能であるばかりでなく必要だと考えていた。ウォルフォウィッツは、考えられない事態について考えるという能力をここで身に付けたのだ(ウォルフォウィッツはまた、アラン・ブルームの教えも受けた。ソール・ベローはブルームを題材にした小説「レイベルシュタイン」で明らかにウォルフォウィッツをモデルとした人物を登場させている)。
ウォルフォウィッツはまた、熱心な新保守主義思想をたっぷりと吸収してきた。70年代初頭、国防省若手職員として、保守主義者に対し、ソ連は信頼するに足りず米国の弱腰を利用するだろうとして、緊張緩和への反対を熱心に説いた。また、キッシンジャー派なら控えるような機会にも、民主主義擁護を声高に唱えた。80年代終盤の駐インドネシア大使時代には、独裁者のスハルトとその追従者に対し、政治を開放することの必要性を説いてみせた。米国に追従する専制君主をやみくもに支援するのではなく、フィリピンに民主主義を導入するよう強く求めたのだ。

●諸外国への影響は考慮せず
ウォルフォウィッツは、保守派の夢想家とみなされることが多い。それも確かに真実ではあるが、彼を分析するなら他にもっと有益な方法がある。ウォルフォウィッツの哲学には次の4本の柱がある。
1)知的好奇心、
2)意外な事態を予想する一貫した姿勢、
3)米国は強力であるとの信念(それに諸外国とのかかわりに対する疑念)、
4)絶対に未然に防げるという信念の4つだ。
米国は「何だって?わが国が不安を抱くなんてことがあるわけないだろう」という危険を顧みない自己満足に陥ってきたが、ウォルフォウィッツは、そうした姿勢に繰り返し不満を表明すると共に、その態度に揺さぶりをかけてみせるという野望を抱いてきた。
やがて国防省と国務省で官僚として出世の階段を上るに連れ(ニクソン以来、クリントンを除くすべての大統領に仕えてきた)、あり得ない事態を予想してみせると共に米軍展開を熱心に主張するウォルフォウィッツは、先見性が高いとする評価と、ばかばかしいという評価の両方を受けるようになった。1977年にウォルフォウィッツは、イラクがクエートに侵攻しサウジ・アラビアを脅かすと予見し、その結果米国は湾岸地域への米軍展開戦略を見直すことになった。だがこれとは対照的に、1992年には、ロシアがリトアニア共和国の分離を阻止しようとするなら米軍を派遣するべきだと提案して、大きな反感を招いた。


ウォルフォウィッツは、攻撃を未然に防ぐことができると固く信じている。米本土ミサイル防衛(NMD)構想に熱心なのは、敵はまさかこちらに向けてミサイルを発射することなどないだろうと考えている米国の態度は無謀だと考えるからだ(いかにもウォルフォウィッツらしく、ミサイル攻撃が引き起こすかもしれない国内の大混乱についてはひどく心配しているのだが、ミサイル防衛を実行すれば必ず発生する地政学的な混乱についてはほとんど気に留めていない)。ウォルフォウィッツは、過剰と思える行動も実際にはより大きな意味での平和のためには不可欠だと考えている。だからこそ、サダム・フセインを今すぐに倒さなければならないというわけだ。というのも、フセインが実際に何か恐ろしいことをするかどうかはわからないが、そのつもりであることはわかっているというのがその根拠だ。なにしろ、大量破壊兵器を製作中だし、何千人もの自国民殺戮に手を染めてきた相手なのだから、今やメガトン級の矯正を試みるより、キロトン級の防止策の方が効果的だというのである。
ウォルフォウィッツは、米軍による一方的な軍事行動を支持しており、それが諸外国を不安定にすることになろうが特に気にとめていない。今回協力していくことになったといってもアラブ諸国のことはしょせん殺し屋集団とみなしており、そうした国々の安全保障になどあまり興味がないようだ。

●パウエルへの刺激に
彼のタカ派的合理主義は、抑制されることがなければ、恐ろしいことになりかねない。だが、抑制はきいている。パウエルが非難した後、チェイニー副大統領も勝手な言論を慎むよう彼に注意したらしい。また、ウォルフォウィッツ本人も、「国家を壊滅させる」との発言の2日後、ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)に対し、米国が「テロに対する国家的支援を止めさせる」つもりだという意味で言ったと弁明し、トーンダウンを図った。以来、誠実な副長官として、ヨーロッパに出向きNATO加盟各国の国防大臣と会談するという役割を果たしている。ワシントンでは誰でもそうだが、ウォルフォウィッツも権力志向がきわめて強いので、つまらないことで上司と公の場で衝突してキャリアを棒に振るつもりなどない。
一部の評論家からは、ブッシュ政権がウォルフォウィッツ派とパウエル派に分断されていることに失望の声も聞かれる。だが、こうした緊張は役に立つものだ。ウォルフォウィッツのような悲観的預言者もときには必要だ。彼は一方的軍拡論と広範な戦争を強く主張しすぎている。その一方で、パウエルは多国間共同政策と、腹黒い同盟相手への配慮を強く主張しすぎている。パウエルを刺激して行動に移らせるにはウォルフォウィッツが必要だし、ウォルフォウィッツに暴走を許さないためにはパウエルが必要となる。米国は両者共にじょうずに利用していけばよいのだ。ただし大統領は、どちらか一方の肩を持つことのないよう十分に分別を働かせる必要がある。

【注1】
ブッシュ政権内での議論については基本的に公表されていないので、誰がどの立場をとっているのか正確にはわかりにくいが、可能な限り推測してみた。

●諸外国との連携推進派
コリン・パウエル国務長官:
慎重なことで有名なパウエルは、今回の対テロ戦争においては、どちらかと言うとあまり評判のよくないシリアやサウジ・アラビアなども含めて、ブッシュ政権ができるだけ広範な連携を結ぶことを望んでいる。連携の目標はアルカイダを一掃することに限定したいとしており、タリバン政権の転覆には固執していない。イラクをはじめとするテロ支援国家との戦争にまで範囲を拡大することには反対だ。
パウエルの主張はリチャード・アーミテージ国務副長官とリチャード・ハース国務次官(政治立案を担当)という2人の側近に支えられている。アーミテージとウォルフォウィッツは長い間仲よくやってきたが、ハースとウォルフォウィッツは長年衝突してきた。
ブッシュ・シニアの政権時代に国家安全保障担当補佐官を務めたブレント・スコウクロフトも非公式にだが、政府首脳部の相談に乗っていて、パウエルの時間をかけたアプローチを支持しているようだ。

●タカ派
ウォルフォウィッツは、ブッシュ政権のタカ派の中でも最も有名だ。タリバンを打倒し、イラクにまで戦争を拡大するよう主張しながら、同盟諸国との協力関係を損なわないでおくことは気にかけていない。チェイニー副大統領のルイス・リビー(別名スクーター)首席補佐官ももっと踏み込んだ戦争を支持していると言われる。
レーガン政権時代の高官で保守派の国家安全保障の専門家リチャード・パールは、ウォルフォウィッツの親友で、ブッシュ政権でも事実上の顧問を務めており、やはりウォルフォウィッツの立場を支持している。

●不明
ドナルド・ラムズフェルド国防長官はウォルフォウィッツの路線支持と思われているが、公にはどちらに賛成とも表明していない。チェイニー副大統領の立場も確かではない。リービーの意見によく耳を傾けるのだが、慎重な姿勢ととることが多い。コンドリーザ・ライス大統領補佐官(国家安全保障問題担当)がどちらの立場なのかも、判断材料がない。

【注2】
湾岸戦争当時国防次官だったウォルフォウィッツは、ジョージ・ブッシュ(シニア)大統領を説得、経済制裁の効果が現れるまで米国は待つべきだとするパウエルの主張を退け、イラクに対する戦争を始めさせることに成功した。だが、その後クエート解放に成功すると、パウエルは大統領を説得して戦争終結にこぎつけた。このときは、打倒サダム・フセインを掲げて戦闘続行を望んだウォルフォウィッツをだしぬいた形になった。ウォルフォウィッツは以来10年間、米国がフセインを倒すよう圧力をかけ続けている。


(著者のデビッド・プロッツは米国MSNSLATEのワシントン支局長)
(翻訳:畑 佳子、MSNジャーナル編集部)


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