イスラム世界 憎悪の構図(Yomiuri Weekly)

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投稿者 いがらし 日時 2001 年 10 月 27 日 07:20:16:

イスラム世界 憎悪の構図
(Yomiuri Weekly 11月4日号)

星条旗が、ブッシュ大統領の人形が燃え上がる。
反米デモが、アフガンの隣国パキスタンだけでなく、インドネシア、エジプト、オマーンなどにも広がった。
イスラム世界を覆う反米、嫌米の嵐。
なぜ、アメリカはこんなにも嫌われるのか。

本誌取材班

 都内のパキスタン料理専門店。午後1時。いつもなら客で賑わつているのだが、店内は閑散としている。客は欧米の若いビジネスマンが1人だけ。
 パキスタン人のスタッフは「いつもと変わらない。今日は、たまたまお客さんが少ないだけ」
 と言うが、米国への同時多発テロ以降、客は減っている。もう1軒のパキスタン料理専門店でも、状況は同じ。午後8時を過ぎても、客の姿はない。
 イスラム圏の食材、雑貨などを販売している専門店のレジに立つパキスタン人が、ぼつりとこう言う。
「パキスタンでは政治、経済が混乱して、大変」

☆在日パキスタン店でも

 印刷物のコーナーに並ぶ雑誌の表紙を飾っているのはビンラーディン。マイクを握って、力強く演説している。その下には、米軍の戦闘機とおぼしき怪しげな、コウモリのような物体が浮遊して、爆弾を投下している。絵柄から受ける印象は、ビンラーディンが正義で、米軍は悪者だ。
 これらの店で働くパキスタン人には、敬虔なイスラム教徒が多く、ビールなどのアルコールを一切置いていないところも、店の近くに礼拝所を設けているところもある。日本にいるイスラム教徒の大半は穏健派といわれ、同時多発テロ後も沈黙を守っている。しかし、その胸中は大きく揺れ動いている。パキスタン料理専門店の周辺からは、こんな声が聞こえてくる。
「米国はソ連をアフガニスタンから撤退させ、そして、今度はソ連に代わる新しい敵であるイスラムという存在を作り上げた。ビンラーデインは、米国からすれば(標的としては)最適な存在。米国は、アフガニスタン国民は敵ではないとしているが、相次ぐ誤爆で民間人が犠牲となっている。アラブ・イスラム諸国の反米感情は日増しに高まっているよ」

☆パレスチナ発反米マグマ

「アメリカはイスラムを攻撃するな」――。空爆が始まった10月7日(現地時間)以降、パキスタンやインドネシアなどのイスラム諸国では、市民や学生が反米、ビンラーディン支持を訴えたデモを実施、アメリカ資本の飲食店を襲撃し、パレスチナ自治区では死者3人を出す流血の惨事を引き起こした。各国の政府や指導者は、「われわれをとるか、テロリストに付くか」と迫るアメリカに対し支持の姿勢を示しているが、民衆は必ずしもアメリカには付いていない。
「アメリカを嫌うマグマは、世界中につながって流れています」
 と話すのは、中東問題に詳しい評論家の最首公司さん。
 この「反米マグマ」が引き起こした一つが、今回の同時多発テロ。そのエネルギー源となったのはパレスチナ問題であり、アメリカに抑えつけられてきたイスラム勢力、それも貧乏くじをひかされてきた一般の民衆たちだ。
 東北文化学園大教授(中東政治・経済)の小山茂樹さんが言う。
「イスラム圏の人たちは、これまで人権、主張を抹殺されてきた。その怒りが積み重なっている」
 最も辛酸をなめてきたのが、パレスチナ人だ。ちょっと歴史をおさらいしてみよう。第2次世界大戦で大量虐殺を経験したユダヤ人は、イギリスの委任統治領だったパレスチナに移住を開始。国連が1947年に、イスラエル、パレスチナの分割決議を採択し、48年にイスラエルが建国。これを後押ししたのが、当時、世界の覇権をめぐり争っていたアメリカとソ連という。
 その後、イスラエルと周辺アラブ諸国(エジプト、ヨルダン、シリア、レバノンなど)の間に4度の中東戦争が起こり、結果、イスラエルがパレスチナの地をほぼ支配下に収めた。特に第3次中東戦争以降、多くのパレスチナ人が30年以上にわたり、流浪の歳月を送る。
「米ソの思惑など知らず、パレスチナと周辺諸国の人たちは戦争に巻き込まれ、尊厳は踏みにじられた」と、小山さん。
 そしてこの間、アメリカは、国連決議を無視して67年以来、パレスチナやシリア領ゴラン高原を占領しているイスラエルの支援を続けている――というのが概略である。ここに米への憎悪の根源が潜んでいるわけだ。
「中東諸国は、イスラエルはパレスチナの占領地から出ていけと言っている。アメリカはそうした声をきちんと聞くべきです」(小山さん)

☆米中枢部占めるユダヤ人

 なぜ、米はそれほどまでにイスラエルに肩入れするのか。周知の通り、アメリカ人の多くはキリスト教徒だが、政治、経済、社会の中枢部にはユダヤ人脈が存在する。国家の意思決定にこうした人脈を無視できない。こういう、いわくあるアメリカが、中東和平の仲介役に立ってきたこと自体、皮肉なことであった。
 それでも、アラブ諸国は、イギリスよりは、アメリカに憧れと好意を抱き、武器供与を受けるなどしてきた。この結果、アメリカは中東の地域紛争に深く関与し、内戦につながる混乱にも拍車をかけてきた。冷戦時はソ連への対抗が主目的だったが、ソ連崩壊後は他に比類する国家なき状態で、「世界の警察官」として存分に振る舞ってきた。
 90年代初め、イラクがクウェートに侵攻して始まった湾岸戦争も、アラブで発生した問題はアラブ諸国で解決しようとする働きがあったにもかかわらず、アメリカがブレーキをかける形になった。この時、イラクと戦う人民軍を組織しようとしたビンラーディンは、サウジアラビア王室がアメリカ軍を受け入れたことに、「聖域に異教徒を招き入れた」とショックを受け、さらにクウェート解放後もアメリカ軍が駐留し続けたことで、怒りを増幅させたといわれる。イスラム教徒が最も嫌うのは、イスラム領域への異文化の浸透や宗教に対する冒涜や弾圧などだ。

☆国連は米の事務局

 近著に「世界を揺るがすイスラムネットワーク」がある拓殖大・海外事情研究所教授の佐々木良昭さんがこう言う。
「エジプトとサウジアラビアといったアラブ諸国のなかで最もアメリカに近い二つの国が、アメリカでの権力拡大を狙うアメリカの利益のために湾岸戦争に導いた。国連は、まるでアメリカの事務局のように変貌。パレスチナ問題でも国連に代わり、アメリカがイニシアチブを取り始めた」
 94年に「中東・北アフリカ経済サミット」の第1回会議がモロッコのカサブランカで開催されたときのこと。主導権をとったアメリカは、中東和平が進むなか、パレスチナ地域の和平が確実に進展していくためには、経済的な発展が同時に進行しなければならないという考えをとった。
「ところが……」
 と、佐々木さんが続ける。
「それぞれの独自の国の法律を無視し、アメリカの法律が最も理想的として、アメリカの法律でサミットが運営されるようになった。こうして、アメリカは世界各国に経済圏を作っていった」
 さらに、アメリカのアフガニスタン攻撃の背景には、アメリカが世界中のエネルギーを独占する狙いがあるという。アメリカはインド洋からパキスタン、アフガニスタンを経由して、中央アジアまで幅100`の不侵入エリアを設けた。防御のためとはいえ、パキスタン領土であっても、パキスタン航空機の侵入を許さないといった厳しいものだ。
「アメリカの狙いは、カザフスタンの石油とトルクメニスタンの天然ガス。これらをアフガニスタン経由でインド洋に持ってきたい」(佐々木さん)
 もちろん、各国の指導者はアメリカと手を組むことで利権を享受できる。大国アメリカの意思に反発するのは、恩恵を受けず、国の中をかき回されたうえ、貧困に苦しみ、難民としてさまよう民衆たちだ。こうした国内の二重構造の中で、指導者は揺れ動く。
 ここにきて、アメリカは、歴史的な外交政策の転換を打ち出した。ブッシュ大統領は今月2日、イスラエルの生存を前提としたパレスチナ国家樹立への支持など、新たな中東和平提案を表明、一国主義を脱却し、次なる国際秩序を構築することへの意欲を示した。
 が、一方、こうしたアメリカの姿勢をあざ笑うかのごとく、同17日には、イスラエルの観光相が暗殺された。パレスチナ解放機構(PLO)の中の強硬派グループが、犯行声明を出すなど、情勢は振り出しに。いや一層緊迫の度合いを強めている。

☆憎きグローバリズム

 さらに、イスラム諸国の人たちに限らず「西欧社会も含めて最も嫌われているのが、アメリカの「グローバリズム」だ。イコール「アメリカイズム」といわれ、自らが最強となったうえで、「競争原理」を持ち出し、アメリカが勝者となるように導く。最近では、地球の温暖化防止を目指す「京都議定書」を、自国の産業保護のために離鋭し、環境派の反感を買った。
 グローバリズムに対する反発は、テロなどの激しい形に限らず、各国の市民の間に少しずつ累積しつつある。こちらの「反米マグマ」は、前出の最首さんによると、キラウェア火山のようにダラダラ噴出するタイプ。しかし、静かに、着実に噴き上げているのだ。
 プッシュ大統領は再選を狙い、歴史に残る仕事をしようと、極端なグローバリズムを駆り立てている。そうなればなるほど、アメリカは嫌われていくことになるだろう。


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