イスラムは平和的な宗教か(後編)――ブッシュが「イエス」ビンラディンが「ノー」というわけ(シース・スティーブンソン,Slate)

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投稿者 dembo 日時 2001 年 10 月 29 日 19:25:37:

http://journal.msn.co.jp/articles/nartist2.asp?w=79173

イスラムは平和的な宗教か(後編)――ブッシュが「イエス」ビンラディンが「ノー」というわけ(シース・スティーブンソン,Slate)
2001 年 10月 25日
米国のブッシュ大統領は「イスラムは本質的に平和な宗教であり、テロリストは真のムスリム(イスラム教徒)ではない」と強調する。だが、イスラムを信仰しているといいながら、ビンラディンらの言動は平和的とは言い難い。イスラムのなかに暴力を許す要素はあるのか。さらにイスラムを特別視してしまっていいのか。


シカゴ大学教授のフレッド・ダナーは著書『イスラム初期の征服事業』(リンク1)で、イスラムは本質的に征服志向を内在しているのではないかという仮説を提示している。
「イスラムの教義上のメッセージそのものが、(当時の)一部またはすべての支配的エリート層に、自分たちは『イスラム国家の政治的支配領域を最大限に広げる、宗教上の責務を負っている』という意識を植えつけた可能性がある。つまり、エリート層がイスラムの征服運動を組織したのは、それを神の定めた使命と考えたためではないか」

●イスラム拡張主義とキリスト教拡張主義の闘争の歴史
征服運動は剣によるものだったが、それに伴うイスラムへの改宗は個人の自由意志に基づいていたと、多くのムスリム学者は主張している。しかし改宗が進んだのは、征服によって得られる戦利品の魅力がものをいった結果でもあると、ダナーは指摘している。
国際人道倫理同盟のロイ・ブラウンは、ISISのサイトに寄稿した文章(リンク2)で次のように述べている。
「イスラムが平和と愛の宗教であるかのように装うことは自己欺瞞(ぎまん)である。……イスラムとは『服従』、神の意志への服従の意味であり、イスラム教は『改宗か、さもなければ死か』を迫る征服の宗教だった」
フリー・インクァイアリー誌のポール・クーツは、同じISISのサイトでこう指摘した(リンク3)。
「イスラムの歴史を調べれば、イスラムが剣を使って覇権を拡大したことに気づく。ムハンマド自身、兵力数万人の軍団を作り、敵を打ち倒し、情け容赦ないやり方でイスラムを広めた」
ただし、クーツは同じ文章で十字軍にも言及している。確かにキリスト教もまた拡張主義的な性格をもち、世界中で伝道活動を展開している。暴力を使って勢力拡大をはかることはなくなったが、十字軍時代のキリスト教世界が武力による征服を試みたことはまぎれもない事実だ。

●2つに分かれる世界
1400年間をイスラム拡張主義とキリスト教拡張主義との闘争の歴史と位置づけている。それによると、最近の300年間はイスラムにとって敗北の時代であり、イスラム文化の内部で異教徒の浸食を受け入れがたいものとみなす衝動が強まっている可能性があるという。ルイスは他の多くのサイトの主張に沿う形でこう述べている。
「現在、多くのムスリムが回帰しつつあるイスラムの古典的な立場によれば、世界と全人類は二つに分けられる。一つはムスリムの法と信仰が優位を占める『イスラムの家』、もう一つは『不信仰の家』あるいは『戦争の家』だ。後者を最終的にイスラム化することは、ムスリムの義務とみなされている」
ムスリムは今、「不信仰の家」が急激に広がり、イスラム国家の内部にも足がかりを築きつつあると感じている。今や西洋文化は「イスラムの家」にもしっかりと根を下ろした。ルイスは次のように述べている。
「(ムスリムが)真に邪悪で受け入れがたいと考えているのは、異教徒が真の信徒を支配することである。彼らにとって、真の信徒が異教徒を支配するのは適切かつ自然なことだ。それによって聖なる教えを守り、異教徒に真の信仰を受け入れる機会と刺激を与えることができるからである。だが、異教徒が真の信徒を支配するのは冒涜的で不自然なこととみなされる。異教徒による支配は宗教と社会道徳の堕落を招き、神の教えに対する侮辱、ひいては棄教につながるからである」
歴史家のポール・ジョンソンはナショナル・レビュー誌のサイトで、イスラムは異教徒に対してきわめて不寛容だと指摘している(リンク5)。
「イスラム法が施行されているすべての国で、かつての信仰への再改宗は強制的なものかどうかにかかわらず、死によって罰せられる」
とはいえキリスト教も、暴力的な不寛容と決して無縁ではなかった(たとえば異端審問の宗教裁判など)。どんな歴史であれ、長い歴史には暗い側面がつきものだ。したがってイスラムの歴史全体を検証するよりも、現代的・社会的側面に目を向けるほうがムスリムの蛮行につながった可能性のある原因を探しやすいかもしれない。歴史家のサミュエル・P・ハンチントンは著書『文明の衝突』で、ムスリムによる大量破壊行為の背後にある潜在的要因をいくつか提示している(次の批判的な書評を参照・リンク6)。

●非暴力という考え方
この書評から一部を引用すると、ハンチントンは、(1)イスラムは「剣の宗教」であり「非暴力という考え方がない」こと、(2)ムスリムの間にはいかなる方向への同化も困難にする「受け入れ拒絶因子」が存在することを要因にあげ、さらに現代特有の問題として、(3)イスラム世界には中心的な位置を占める有力な「中核国家」が存在しない点、(4)アラブ世界の人口分布における「若年層の突出」が多くの問題を引き起こしている点を指摘している。(ハンチントンは1997年のデービッド・ガーゲンとのインタビューでも、この「若年層の突出」理論を繰り返している。リンク7)。
さらに、ナショナル・レビューのシニアエディターを務めるデービッド・プライス=ジョーンズは同誌の記事で、現代イスラム社会は政治的にも経済的にも破綻しており、ムスリムは自分たち自身を見つめる代わりに、「この苦境はわれわれの責任ではない。すべては西洋の誤りが招いた結果であり、戦いによって状況を正すべきだ」と確信するようになったと主張している。
いくつかのサイトはバーナード・ルイスと同様、かつて偉大な文明を築いたイスラム社会が、今では傷口をなめながら反撃を狙っているというイメージを強調している。
人類学者のシンシア・マフムードはシカゴ・トリビューン紙の記事(リンク8)で、「ムスリムの間には、かつて自分たちは世界の先頭に立っていたという強い意識がある」と語っている。さらにイスラム世界では、イラク人やインドネシア人、アフガン人といった国別のアイデンティティーよりもムスリムとしての自己アイデンティティーが強く、一つのイスラム教国との戦いはいずれイスラム全体との戦いに発展すると延べている。最後にニュー・リパブリック誌のフランクリン・フォーエは同誌のサイトで(リンク9)、ビンラディンとその支持者に最も大きな影響を与えたのはワッハーブ派の思想だと指摘した上で、サウジ王家と深い関係にある現代イスラムの「中心的な運動」の一つであり、アメリカ国内にあるモスクの80パーセントを主宰するワッハーブ派は決して極端な少数派ではないと主張している。

●単純なレッテルを貼ることの危うさ
以上の検討の結果、イスラムを暴力的な宗教と結論づけることは可能だろうか。
エドワード・サイード(編集部注2)は(ルイスやハンチントンへの反論を含む)雑誌ザ・ネーションの論文(リンク10)で、「イスラムは暴力的か」という問い自体がばかげていると主張している。対象が「イスラム」であれ「西洋」であれ、その特徴を単純なレッテルで表現することは不可能だと、サイードは言う。
「明らかにハンチントンもルイスも、あらゆる文明の内的ダイナミズムや多様性を十分に考慮していない。……あるいは一つの宗教全体や文明全体を語ろうとする試みには、煽動と純然たる無知の要素が多分に含まれるという当たり前の可能性への配慮も不足している。あくまで西洋は西洋であり、イスラムはイスラムなのだ」
だが、そう言ってしまえば身もふたもない。確かに西洋とイスラムは、互いに単純なレッテルを貼り合っている。だが、それは誤りだと主張したところで、問題は解決しない。結局のところ、この問いは個々の信徒の問題に戻ることになる。イスラム原理主義者は暴力的であり、その暴力の根はコーランのなかにもイスラム文化の歴史のなかにも存在する。それと同時に、イスラムは世界中に10億の信徒を抱える宗教であり、多様な人種や肌の色、国籍のムスリムが数百種類の異なる宗派や運動に所属している。平和を愛するムスリムもまた、イスラムの信徒なのだ。


(編集部・注1) バーナード・ルイス(Bernard Lewis)。ユダヤ系イギリス人のイスラム研究の世界的権威。著書に『アラブの歴史』(みすず書房)、『イスラーム世界の二千年』(草思社)など。
(編集部・注2) エドワード・サイード(Edward Said)。アメリカの代表的な中東系知識人。著書に『オリエンタリズム』(平凡社)、『イスラム報道』(みすず書房)など。


関連リンク

http://www.fordham.edu/halsall/med/donner.html
リンク1:Fred Donner. The Early Islamic Conquests
http://www.secularislam.org/wtc2.htm#September%20lessons
リンク2:September Lessons
http://www.secularislam.org/wtc2.htm
リンク3:STATEMENT BY IBN WARRAQ ON THE WORLD TRADE CENTER ATROCITY
http://www.theatlantic.com/issues/90sep/rage.htm
リンク4:The Roots of Muslim Rage
http://www.nationalreview.com/15oct01/johnson101501.shtml
リンク5:Relentlessly and Thoroughly
http://www.kashmirgroup.freeserve.co.uk/huntingd.htm
リンク6:'The Politics of Anxiety’
http://www.pbs.org/newshour/gergen/january97/order_1-10.html
リンク7:Many World Orders
http://chicagotribune.com/features/lifestyle/chi-0110080025oct08.story?coll=chi-leisure-hed
リンク8:Face to Face with Jihad
http://www.thenewrepublic.com/102201/foer102201.html
リンク9:Blind Faith
http://www.thenation.com/doc.mhtml?i=20011022&c=1&s=said
リンク10:The Clash of Ignorance
Islam: A Peaceful Religion?
By Seth Stevenson
http://slate.msn.com/
Slate

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