“新秩序”構築のチャンス〜ヘンリー・キッシンジャー氏の地球を読む〜テロ撲滅〜聖域の一掃カギ〜各国協調へ機運高まる【ヘンリー・キッシンジャー元米国国務長官】(読売新聞11/19朝刊)

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投稿者 FP親衛隊国家保安本部 日時 2001 年 11 月 19 日 18:00:35:

二〇〇一年九月十一日午前八時四十分過ぎ、ハイジャックされた旅客機の一機目が世界貿易センターに激突した時、米国と世界の新しい関係が始まった。このテロ攻撃は米国に対して、自らのぜい弱さを思い知らせると同時に、この国を新しい形の戦争に引き込んだ。戦線もなく、相手からの具体的な要求もない。そして、幾つかの戦争がそうであるように、交渉ではなく、米国が勝利する以外には解決できないのである。
この挑戦に対して、米国民は不屈の団結をもって立ち上がった。外交政策に関する党派的な論議は棚上げされた。ブッシュ大統領が雄弁に提起した、地球規模のテロを打倒するための戦略に関して、深刻な意見対立は全く存在しない。この新しい戦争は、大きな影に包まれている。だが、勝利を導くために何が必要であるのかを、明確に定義することは可能である。
一九八〇年代のレバノンでの人質事件から、九八年のケニアとタンザニアでの米国大使館爆破事件、そして二〇〇〇年のイエメンでの米駆逐艦爆破事件に至るまで、テロリストの攻撃が発生したのは、米本土から遠く離れた場所だった。そしてこの間、米国は、テロリストをかくまう諸国に継続的に圧力をかけることをためらってきた。
だが、いまや新たな対応が求められている。適切な視点から、テロリストの見直しが行われるだろう。彼らは無慈悲だが、無尽蔵ではない。いかなる恒久的な領土も支配してはいない。もし、すべての国々の治安部隊が彼らの活動を妨げ、どこの国もかくまわなければ、彼らは無法者となる。そして彼らは、ただ生き延びるために、ますます苦労をしなければならない羽目に陥るだろう。
もし、アフガニスタンやコロンビアで起きかけたように、彼らが国土の一部の私物化を試みた場合には、軍事作戦によって追い詰めることができる。安全な逃避地を一掃することが、対テロ戦略のかぎを握っている。そして、こうした聖域の圧倒的多数は、テロリストの目標の少なくとも一部に同調する国家の黙認によって発生する。
アフガニスタンでの軍事作戦は、タリバンの打破とウサマ・ビンラディン一派の解体に限定されるべきだ。軍事力を用いて国家を建設しようとすれば、旧ソ連を消耗させたような泥沼に、米国もまた陥ることになるだう。広範な基盤を持つ連合政権の創出は、一般論としては望ましい。だが、歴史的な経緯から見て、奨励はできない。

●諸国の利害一致

恐らく、カブールには支配範囲の限られた中央政府があり、様々な地方では部族自治が優先する形に落ち着くだろう。その基本的な作業は、米国その他の先進諸国の寛大な経済支援の下に、国連の主宰で行われるべきだ。イラクを除くアフガニスタン近隣諸国とインド、米国、そして軍事作戦に参加した北大西洋条約機構(NATO)諸国から構成される、連絡グループの設置も望ましい。
ブッシュ大統領は、反テロ作戦をアフガニスタン以外の場所にまで推し進める決意を、頻繁かつ強力に表明してきた。いずれは具体的な政策によって、この方針表明を補うことになる。反テロ同盟の作戦範囲が明確になるのは、その時点である。
テロリストの安全な逃避地の定義は何か。テロ資金の流れを断ち切るため、各国が取るべき措置は何か。順守違反に対する懲罰は何か。その際の力の行使の是非と、その実こういった問題が、対立を生む可能性がある。湾岸戦争の際には、米国に単独でも行動するよう求める圧力が、同盟体の接着剤となった。同様に対テロ戦争においても、米国ならびに、見解を共にする同盟諸国の決意が必要とされる。
そして、確固たる政策に国際的な支持が集まるための条件は整っている。対米テロ攻撃が、主要諸国の間に、驚くべき利害の一致を生んだからである。東南アジアから欧州の辺境にかけて出現した、幾つかの黒い影のようなグループに脅かされることは、だれも望まない。だが、単独で対抗する手段を持つ者は、ほとんどいない。
NATOの同盟諸国は、この安全保障機構が東西冷戦後も必要かどうかという論議に終止符を打った。アジアの同盟国である日本と韓国は共に工業化された民主主義国であり、米国と同じ信念を共有している。国内のイスラム原理主義勢力に深刻に脅かされているインドも、歩調を合わせなければ失うものが多い。
ロシアは南部国境をイスラム諸国に接しており、やはり共通の利害を持つ。中国もまた、西部の地域に同様の懸念を抱えている。加えて、二〇〇八年の北京五輪までに、余裕をもって地球規模のテロ活動を終わらせたいと念じている。皮肉なことに今回のテロ攻撃は、これまで世界秩序の必要を説かれても知らぬ顔だった国際社会に、共同体意織を目覚めさせたのである。

●越えられぬ一線

イスラム世界の態度は、もっとあいまいだ。多くのイスラム諸国は、原理主義に探い懸念を抱いているものの、民衆の声に縛られ、公式には対米支援を誓約できないでいる。少数ながら、テロリストの主張の一部に同情的な国もあるかもしれない。
米国が、伝統的な友人であるサウジアラビアやエジプトなどに、理解ある態度を示しているのは適切である。これらの国々の指導者たちは、一触即発の国内条件によって、譲歩の必要を余儀なくされたことを、十二分に自覚している。そうした状況を彼らが克服するのを助け、情報の共有を促進し、テロ資金の流れの規制を改善するため、ブッシュ政権があらゆる努力を払わなければならないのは明白である。
ただ、これらの国々の政府の足元が危うくなるほど圧力をかけてはならない。どんな後継政権が生まれたにせよ、米国の利益と当事国の民衆にとって、より悪い結果を短期的にはもたらすだろう。しかし、どのような政策にも、越えられない一線がある。国の公的メディアがテロ行為を提唱、正当化し、潜在的犠牲者の安全にとって不可欠な情報を隠し、自国領土を拠点にテロ集団が活動するのを許すような国家を、同盟国の仲間として扱う理由は全くない。
こうした熟慮が特にあてはまるのは、イランである。地政学的に言えば、米国とイランの関係改善が望ましい。だがイランは、米国務省と米議会の超党派委員会が共に報告したように、地球規模のテロに対する指導的な支援者の役割を演じている。それを放棄することが、イランを反テロ同盟に迎え入れる大前提である。イランと欧米の関係は、双方が必要性を感じた時にのみ繁栄し得る。
欧米の側だけでなく、双方が根源的な選択をしなければならない。程度は異なるが、同じことがシリアにもあてはまる。

●冷戦の遺物清算

テロに対する戦争は、単にテロリストを追跡して捕らえることだけではない。国際的なシステムを鋳造し直すための、驚くべき好機が訪れている。何よりも、それを守り抜くための戦争なのである。NATO諸国は、共通の危機に直面していることを理解している。ここから、共通の目標に関する、新たな定義に向かうことができる。
冷戦時代に敵側だった諸国との関係においても、その遺物を清算し、それ以上の関係になることは可能である。いまや帝国を失ったロシアと、大国の地位に浮上しつつある中国のために、新しい役割を見いだすことができるだろう。インドも、地球規模の重要な役割の担い手になりかけている。中東和平プロセスも直ちに再開されるべきだ。イスラエルによる反テロ作戦が成功したいま、もはや和平交渉がテロに対する譲歩と見なされることはないからである。
だが、好機を生かすためには、しなければならないことがある。やればできるはずのことを前にしてしり込みし、こうした様々な展望が消滅するのを、手をこまねいて眺めていてはならない。

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