米国テロ事件・キューバの中立が語るもの

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投稿者 dembo 日時 2001 年 11 月 20 日 06:42:36:

米国テロ事件・キューバの中立が語るもの:ハバナ・クレイジー 〜ウソがマコトになるとき〜
http://journal.msn.co.jp/articles/nartist2.asp?w=87363

2001 年 11月 19日
服部 雅博

「我々につくか、テロリストにつくか」。ブッシュ米大統領が世界に二者択一を迫るなか、キューバは、アメリカにもテロリストにもくみしない独自の立場を貫いている。中立でいられるのはキューバが石油に支えられた大量消費の豊かな物質生活とは無縁だからかもしれない。が、それゆえにひとつの理想を世界に示せたのではないかとも思えるのだ。


●「テロ支援国家」キューバの対応
アメリカ合衆国には、「テロ支援国家リスト」というものがある。テロリズムを支援したり、そのスポンサーとなっている、と米国政府がみなしている7カ国を名指したリストで、キューバはこれに該当している。(筆者注1)
アメリカ合衆国領土から140キロメートル程度しか離れていない社会主義国家キューバは、米国と長く深い確執を有し続けてきた。いわゆる冷戦が終了した現在においても、両国には国交がない。
しかし、9月11日の米国大規模テロ事件では、両国はこれまでにない歩み寄りを行った。事件発生から数時間後にはキューバ外務大臣が、急遽(きょ)、事件への関与の否定とテロリズム非難の会見を行い、同時に米国民への「連帯」を表明した。
米国内の事件に対し、キューバ政府がこれほど早急に声明を出したのは、異例のことだった。また、被害者を含む米国民に連帯を表明することも稀(まれ)だ。
キューバ国民の間でも、テロ非難と被害者への同情を示す声があがっていた。
「恐ろしいことだ!」と、私の古い友人マリオ・エルナンデスは言った。「多くの人間が死んだんだぜ。ひどいことをしやがった」
一方米国も、事件発生直後から積極的にキューバに接触した。米国内の唯一のキューバ側窓口である、在米キューバ共和国利益代表部を自ら訪問し、テロに関する様々な情報を求め、また情報交換を行った。
この時点での両国のやり取りは、異例に友好的であった。
キューバ政府は、テロを痛烈に非難した。637回の暗殺計画を潜り抜けてきたフィデル・カストロは、「テロは非人道的であり、戦いの手法としてばかげている」「テロは非難され、叩かれなければならない」と述べた。同時に彼は、その解決は交渉によってなされるべきであるとも強調していた。
米国内では、キューバとの関係改善を求める声があがった。
元在キューバ米国利益代表部署長のワイン・スミスや、通常はカストロ批判を行っている亡命キューバ人団体、人権団体など16の個人・団体が共同で、米国当局に対しテロ支援国家リストからキューバを外すべきかの再考を促す要請書を提出した。

●一転して非難がエスカレート
このようにテロ事件を機会に改善に向かいかけた両国関係だったが、事件解決の手段としてアメリカが軍事力の行使を強調し始めると、キューバは、あからさまな米国批判を始めた。
9月下旬頃にはキューバは、「米国は、戦争を挑発している」と非難。国連主導による解決を求めた。
キューバの指導者フィデル・カストロは、米国はビン・ラディンが犯人である具体的証拠を示せていないとして、「素朴な疑問として、アメリカの指導者らは、なぜそんなに傲慢(ごうまん)なのだ?」と嘆いた。
そして、アメリカから独裁者と呼ばれているフィデルの方から、「ブッシュの計画は、国際法も国際的な慣例も無視した、圧倒的な力で行う、世界的軍事独裁である」と非難した。
米英によるアフガニスタン空爆が始まるとフィデルは、米国非難をさらにエスカレートさせる。
空爆駆使開始から4日後の10月11日深夜に始まった演説では、「この戦争は、まったくもってヒステリーだ」と断言。アメリカは「組織的な犯罪輸出者」であり、「米国こそが、テロリストである」と、75歳の指導者は翌朝まで5時間に渡ってまくしたてた。
さらに「テロリストの攻撃は、残忍で狂気な行為である。しかし、その悲劇が、無実の人々を虐殺する無謀な戦争を始めることに利用されてはならない」と、熱意を持って語った。

●テロリズムとキューバ
フィデル・カストロの並々ならぬテロ否定には、自らの体験に基づく哲学があった。
米国による、フィデル・カストロらへの暗殺計画というテロリズムは、はっきりと判明しているものだけでも、「ブルータス作戦」「マングース作戦」「AMーLASH作戦」がある。これらは、大統領、大統領直属の国家安全保障会議、CIAらによって計画、承認、実行(未遂)されてきた。
さらに大規模なテロとして、CIAと反カストロ亡命キューバ人によるキューバへの空襲と武力侵攻がある。これはCIAが主となって計画し、時の大統領J.F.ケネディが承認したもので、米国では「豚の湾事件」、キューバでは「ヒロン浜侵攻」と呼ばれている。
加えて米国が保護する亡命キューバ人によるカストロへのテロ計画は、無数に行われてきた。キューバは、米国側によるフィデル暗殺計画数を637回と算出している。
米国がカストロ暗殺にこだわったのは、政権の座に就いた彼が徹底した対米独立の態度を見せたからだ。このフィデルの姿勢は、これまでキューバを「裏庭」として半植民地状態にしてきた米国の利益に大きく反した。
数多くテロの標的となってきたフィデル自身は、バティスタ軍事独裁政権に対しゲリラ戦を闘っていた時、指導者バティスタの暗殺は選択肢にはまったくなかったという。
軍事独裁体制そのものが問題であり、その中の個人を殺害したところで社会は変わらないと信じていたからだ。
彼のゲリラ戦は、独裁者の国外逃亡によって勝利するが、圧倒的に戦力の劣った革命軍の勝利の背景には、多数の民衆の支持があった。
「我々は、テロリストのやり方を実施したことは、決してない。我々は、倫理を有している。どんな戦争も、倫理を有していなければならない。もし我々に倫理がなかったなら、あのゲリラ戦争に勝利してはいなかっただろう」
今回の米国テロ事件に関してフィデルは、過去を振り返りつつこのように述べている。
手段として倫理ある戦争を肯定し、また自国内では反体制派を弾圧し絶対的権力で民衆を支配するフィデル・カストロだが、それらとテロを明確に区別したうえでテロリズムを一貫して否定し続けてきたのだった。

●「新自由主義」に抵抗して
米国大統領ブッシュは「あらゆる地域の全ての国家は、今、選択をしなければならない。我々側につくか、テロリスト達側につくか」と強要し、一方オサマ・ビン・ラディンは「いまや世界は二つに分けられた。信仰を持つ者と、異教徒とに」と宣言したが、これをフィデル・カストロは大問題視している。
彼は、「巨大で権力ある国のみならず、全ての国家が、ジレンマにたたされている。誰もが、戦争かテロ攻撃の脅威から逃れることが出来ない。米国政府側かテロリズム側かどちらかにつかなければならない、と我々すべてが命令されているのだ」と述べている。
そんな極端な二者択一強制のなかで中立を保っているキューバは、稀有(けう)な存在であろう。
フィデルは、アメリカの自由競争を基調とした世界戦略は貧富の差を拡大し富を偏在させるとして、徹底非難してきた。
今回の事件に関しても彼は、米国流の価値観を世界に強制することは怒りと謀反を育むだけだと主張し、「(アメリカが唱える)新自由主義は、大災害でしかない。これは、最悪の危機である。この世界は、間違いなく、爆発する」と警告している。
さらに続けて、「イスラム教徒らの強烈なナショナリズムと深い宗教的感情が、金や約束事によって骨抜きにすることが出来ると考えたのは、米国とNATOの金持ち同盟国にとって大変に大きな過ちだ」と述べているが、これは、物質的なものよりも精神的なものを重視するフィデルらしい見解であろう。
フィデル・カストロは、「人類の最も偉大な業績というものは、物質的なものではなく、良心とモラルの形態であり、それは世界を変え歴史を前進させるのだ」という、ほとんどクレイジーと呼べるほどの信念を持っているのだ。

●キューバの中立が語るものとは
米国大規模テロ事件でのキューバの中立は、石油に支えたれた大量消費の豊かな物質生活のためのパワーゲームとは無縁であったがゆえ、到達できた立場であろう。
そのキューバ共和国の暮らしは、先進諸国と比べると、物質的には決して豊かとはいえない。国民にも不満の声は多い。
配給だけでは満腹にならない。長らく肉を口にしていない。バスはいつも満員だ。断水は多いし、アパートのエレベーターは故障したまま。娯楽は少なく、家財道具はとてもシンプル。そして自家用車は夢の夢だ。
「なんでもかんでも、不自由だぜ、ここキューバでは」と、エルナンデスは言う。
国民の不満は、しかしながら、直接的かつ全体的なカストロ政権への否定に結びつくわけではない。それは「この問題をなんとかしてくれ」という、批判を含んだ要望のレベルであるのだ。
そんなキューバ人たちは物質的に質素な暮らしを不満に思う一方で、(90年代に破綻が見られたとはいえ)教育や医療の無料など社会福祉が充実し、安全で平等な環境下で生活を楽しんでいる。
近所の者が寄って楽しむドミノゲーム。いつ終わるとも知れないおしゃべり。路上野球に夢中になる子供たち。手作りのアクセサリーでデートに出かける少女。情熱だけを武器に女を口説き続ける青年。道で出会う知人たちと大げさに繰り返される挨拶のキス。揺りカゴの赤ん坊を見に来る隣人たち。
それは、何かに「白ける」ということのない暮らしだ。
また主にスペイン系白人とアフリカ系の黒人およびその混血からなるこの国では、最高の親友が自分と正反対の肌の色であることも珍しくない。夜道の一人歩きにそれほど危険はなく、子供の誘拐などありえない。路上生活者も皆無に等しければ、病院にかかれずに亡くなる人間もいない。
この生活様式がカストロ政権によって強制された価値観によるものであれば、それはフィデルの主張と矛盾することにもなるが、いずれにしても米国テロ事件においてキューバ政府が示した中立の背景にはそんな暮らしが存在しているのだ。
一方、自由主義と物質生活に浸かりきった経済先進国の我々にとって、キューバの暮らしやその政府の手法は、とうてい受け容れられるものではない。
自己利益のため、アメリカがイラクのサダム・フセインを挑発し悪に仕立てて起こした湾岸戦争によって中東支配の足場を作ったことと、イスラエルに関する米国のダブルスタンダードの政策に怒って、オサマ・ビン・ラディンは「米国民よ」と呼びかけながら、次のように宣言していた。
「パレスティナに平和が訪れない限り、(イスラム教の預言者)ムハマンドの聖なる地から異教徒の軍隊が全て出て行かない限り、米国に平和は訪れないだろう」
そんな構造のテロ事件において、米国の矛盾と偽善に満ちた論理にも、極端な二元論でテロ行為を正当化する加害者ビン・ラディンの論理にもくみしないフィデル・カストロの主張は、利害関係に塗れていないがゆえ、ひとつの理想を示すものとなっている。
(*1該当国は、北朝鮮、イラン、イラク、シリア、リビア、スダーン、キューバの7カ国。アフガニスタンは該当していない)


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