今日の危機的問題&戦後50年間の世界秩序  ノーム・チョムスキー講演

 ★阿修羅♪

[ フォローアップ ] [ ★阿修羅♪ ] [ ★阿修羅♪ 戦争・国際情勢5 ]

投稿者 dembo 日時 2001 年 12 月 01 日 15:27:52:

ノーム・チョムスキー 講演(1998.11.14.)
http://www.kyoto-seika.ac.jp/seika30/fNorm.html

今日の危機的問題
http://www.kyoto-seika.ac.jp/seika30/norm01.html

今日の危機的問題のいくつかについて話をしたいと思います。
危機という言葉はあまりにも何回も使われて、しかも無神経に使われています。その結果、その意味が薄れているところがありますが、危機という言葉が非常に適切であるという場面もあります。
一つは近代世界の危機です。これは本当に現実の危機だと考えています。
二つめは、大量破壊兵器の存在です。それをどういうふうに管理するかということについては、その可能性がまったく見えていません。
もう一つは、環境問題と我々は言いますが、エコロジカルな危機です。これも遠いところにあるわけではなく、その結果がどれくらい破滅的になるかということも予測ができないという問題です。

大きな危機や核兵器(あるいは大量破壊兵器)、そしてエコロジカルな危機よりはずっと小規模ですが、本当にリアルな危機があります。その一つが、世界秩序の基本的な制度の危機です。
第二次世界大戦が終って国連は50年を経過しますが、その世界秩序の制度について非常に厄介なあり方が浮き彫りになってきています。
それらの制度は、それだけを取り出して考えることはできません。その性格、あるいは進化、そして現状は、国民国家からでき上がっている世界の権力関係を反映しています。もっと現実的に言えば、私的な権力の制度、つまり経済的なやり取りをとりしきる巨大企業のネットワークを考慮しなければならなくなってきています。
この20年間でとりわけ重要なのは、国際的な秩序を圧倒してしまった金融財政の諸制度があります。それらがつくりだした世界経済の状況は、ある経済学者たちの言葉を借りれば、「無国籍グローバル・カジノ」というふうに言われるようなものです。この傾向をコントロールしなければ、本当に破滅に向かう可能性があります。
世界にはいくつか権力の中心部(政治的センターや経済的センターなど)がありますが、この問題はそこでの主要な関心事になっています。もう何年も前に実はわかっていて、今さら何を問題にしてるのかという感じはしますが、力のある人たちのところでこれが危機だという認識が生まれています。

戦後50年間の世界秩序
http://www.kyoto-seika.ac.jp/seika30/norm06.html

50年前につくられた世界秩序の諸制度、それが被った状況、そして今後の展望について少ししゃべりたいと思います。

50年前に作られた諸機関・諸制度に指導的な役割を果たしたのは、いうまでもなく第二次世界大戦の勝者たちでした。主としてアメリカ合衆国です。
大戦による恐ろしい壊滅的な状態のなかで、アメリカは歴史に前例のない権力の位置を手にしました。文字どおり世界の富の半分、それから途方もない安全保障、そして軍事的な権力を握りました。
アメリカの産業システムは、すでに20世紀初頭に世界で最大の生産性を誇り、主要な競争相手が戦争でたいへんひどいダメージを受けて壊滅的になっていたにもかかわらず、戦争の数年の間にもアメリカは繁栄をしてきたのです。
アメリカに次いで世界の秩序を戦後つくりだす役割を果たしたのはイギリスでしたが、以前は世界を制覇する勢力であったのが、戦後はせいぜいアメリカのジュニア・パートナーにすぎなくなりました。これは、イギリスの外務省も不承不承認めざるを得ません。

戦後の国際システムには三つの基本的な構成要素がありました。
国際政治秩序、これは国連憲章に明文化されています。それから民衆の権利、これは世界人権宣言に定められています。三つ目、国際経済秩序、これはアメリカとイギリスが設計したブレトンウッズ機構(*)
です。
50年たって、世界秩序の三つの柱はどうなったでしょうか?
*ブレトンウッズ機構/戦後の金融秩序を取り決めたブレトンウッズ協定に基づいて設立された国際通貨基金(IMF)と世界銀行(国際復興開発銀行)の両者を総称したシステム

国連憲章の中心原理は、武力による威嚇や武力行使を容認しないことです。例外はきわめてわずかのはずですが、この半世紀の現実の世界において、この原理は実質的には適応することができませんでした。
(例外として許されている武力としては二つあり、)第一番にあげられるのは、次のような場合です。あらゆる平和的な手段が失敗に終ったと安全保障理事会が裁定すれば、武力に訴えることができます。
そして二番目は、第51条に定められています。非常に狭い定義ではありますが、武力攻撃があって安保理が何らかの措置をとるまでの間は、攻撃を受けた国や集団は自衛をしてもよろしいと自衛のための武力が容認されています。強制力をもってこの法を実行するメカニズムは、アメリカを筆頭とする大国以外にはありません。
しかしとりわけこの15年間、実際においても、また公式的な見解表明においてもその大国が示したのは、国連憲章の原則への侮蔑以外の何者でもなかったと思います。
例えばアメリカは第51条について「武力攻撃とは将来の攻撃に対する自衛、そしてアメリカの利益の防衛」と公式解釈を表明しています。アメリカがこの数年間繰り返し、またこの数週間のうちにも繰り返しているように、アメリカが必要と認めれば武力行使の権限は与えられると宣言しています。
そしてなおこのアメリカのドクトリンは、アメリカ国内や欧米のほとんどの主流知識層の意見によって批判されることはまずありません。それどころか拍手喝采を受けています。
実質的に国連憲章は死んでしまい、生きている部分は力の強いものの武器として利用されています。時にこの武器が使われて、ひどい犯罪行為を防ぐこともありますが、その武器を使う方法はまったく無節操なものです。
世界秩序の第二番目の柱、世界人権宣言はどういうふうになっているでしょうか?
今年(1998年)の12月に50周年を迎えるわけですが、普遍性(ユニバーサリティ)が基本原理になっています。つまり、そこにあげられているいろいろな権利は、どこの人たちにも同じように適用されるということです。
このことに対してわが意を得たとばかりに、相対主義への危険性を語るコメントが山ほど出てくるのはまちがいありません。人権宣言にあげられている権利よりもアジア的価値観やその他特定の利害が優位であるべきだという要求がある一方、「世界人権宣言にこう書いてある。アジア的価値観はけしからん」とそれを非難することが流行っています。
ある意味では的を射た非難・批判かもしれませんが、実際には偏っています。どういうことかと言いますと、「アメリカが相対主義陣営のリーダーである」という事実を少なくても欧米では耳にすることがないからです。
アメリカは世界人権宣言に定められている経済的・社会的・文化的な権利をあからさまに拒否しています。レーガン政権の国連大使、カーク・パトリックは世界人権宣言のこういう条項を「何の値打ちもないもので、サンタクロースへのお手紙」と言ったのです。
国連ではその2〜3年後、社会的・経済的権利の条項に開発への権利を厳密に普遍化する内容が提案されましたが、アメリカは単独で拒否権を発動してなきものにしました。その際、ワシントンからの代表は「そんなものは権利というものではない」と言い切ったのです。「中味のない器であって、本末転倒に思える。危険な扇動だ。」と言葉を並べて、アメリカは開発への権利条項を葬ってしまったという経緯があります。
その他にもいろいろな点で世界人権宣言の条項が遵守されているかどうか記録をたどってみると、豊かな恵まれた社会でもそれ以外のところでも同じように惨憺たるものです。世界人権宣言は、実質的には中味のない器のままです。
こういった権利を遵守するよう一般公衆が行動しない限り、この状態は続くしかないと思います。少なくても、より自由で民主的な社会ではその行動が可能です。

ブレトンウッズの秩序、つまり世界秩序の第三番目の柱ですが、これはどうなっているでしょうか?
このシステムは二つの指導原理に基づいていました。貿易を自由化する努力が必要であるということが第一の原理です。そして第二の原理は、為替レートを固定し、資本の流入・流出を規制することによって金融財政をコントロールすべきだということです。
この二つめの原理の根拠の一部には、金融の自由化は貿易の自由を阻害するだろうという一般的な仮定をもとにした経済理論(多分正しかった理論だったと思いますが)がありました。しかし、一番大きな根拠は自明のことです。資本の自由な流れは、民主主義と福祉国家を掘り崩すことになるだろうと理解されていたことです。
戦後すぐの時期、民主主義と福祉国家という理想はたいへん人気があって、とうてい無視できるものではありませんでした。ブレトンウッズの枠組をつくった人たちの説明はこうでした。
「発明家や投機家、要するにお金儲けをしたいという人たちの利益のためにではなく、雇用・所得・社会事業などといった国民の利益のために政府が通貨政策や税政策を進めるにあたっては、資本のコントロールが必要だ。」

ブレトンウッズのシステムは、多少なりとも25年ほどは機能していました。この25年は、社会契約の拡大をともなった経済と生産性の高度成長の時期、つまり黄金時代と呼ばれる時期でした。
しかし1970年代の初めからは、アメリカが先に立ち、それからその他の主要な金融センターがそれに同調してこのシステムは解体されました。
議論の余地のまったくない明白なことですが、それ以降、主要な産業社会では経済と生産性が高度成長を進めることができない、低成長の時代でした。大多数の人たちの所得は停滞するか、あるいは減少して貧富の格差は急速に広がり、社会事業は崩壊しました。南北というわけ方であれば、南の多くの諸国にとってこの時期は非常に破局的な時期でした。アメリカでも全人口のごくわずかの部分が途方もなく裕福になる一方、労働条件は悪化し、貧困や飢餓、その他の悪状況が拡大した時代です。

現在のアメリカ経済は好況と言われていますが、戦後の歴史の中では最も遅い景気回復の時期です。しかも大多数の国民が手にしたものは、膨れ上る借金以外にほとんど何もない。つまり未曾有の、今までになかった好況です。
それから「おとぎ話の経済」が熱心に語られていますが、それが当てはまるのは少数の特権層だけで、アメリカの全世帯の4分の3はいままでの収入の水準を維持するために、いままでよりも多くの時間働かなければなりません。

一方で国際的な資金の流れが爆発しました。爆発的増大という言い方がありますが、これは圧倒的に投機的なものです。
1970年からの激的な変化ですが、現在この時点までにすでにたいへん天文学的な額の資金が世界で動いています。自分の手元から出てどこかに投資され戻ってくるまでの往復が1週間以内の短い時間ですんでしまう資金、それが全体の約80%を占めているような経済が動いています。当然ながらこの資金の動きは、実際の経済には何の貢献もせず、むしろしばしば有害です。
1970年以降の時代は、為替レートと為替市場が極端に変動した時期でもありました。為替レートは非理性的な群衆行動にますますさらされるようになりましたが、実はこれは金融市場の古典的な特徴です。国際経済の標準的な言い回しを使えば、パニック、マニア、それからクラッシュ(日本語ではニュアンスが変わるかもしれませんが恐慌、熱狂、暴落)というものに支配されてしまった状況です。
お金持ちも非常に苦しい立場に置かれるようになり、上層部に深刻な憂慮が高まりつつあります。それはどうしてかというと、この非常に脆い経済構造全体が崩壊するという恐怖が、現実のものになりつつあるからです。

私がここまできちんと触れることのなかった危機。大規模で、しかもなくてもよいはずの人間の苦しみや、とうてい放置できないはるかに長期的でたいへんな結果になるにちがいない、そういう危機は言うまでもなく問題です。しかし端的に言えば、戦後の国際秩序の枠組にも多くの深刻な問題があるということです。

これらの問題に冷静かつ、現実的に向かい合わなければならないと思います。
オプティミズムという言葉がありますが、その根拠を提供するのは現実主義(リアリズム)だと思います。
この恐るべき20世紀を経験した我々が発言するのは実は難しいことですが、人間の営みと意識の多くの側面で最初の頃にあった進歩を、さらに拡大する実質的な進歩があったことも事実です。その道のりはたいへんに苦しくて遅くて、しばしば逆戻りするような歴史でしたが、やはり現実の進歩もありました。この数年を見ても、残酷な専制政治のいくつかが崩壊しました。それから、たいへん心強い科学の理解が発展しました。また、明るい未来を希望すべきその他の理由がいくつもあります。

とりわけ、より恵まれて自由のために有意義な手段を勝ち取っている社会では、選択枝は少なくありません。それが進むべき正しい道であれば、根本的な制度的変更もありえます。
人類は進化の歴史に突然現われて、他の生き物に大いに害を及ぼし、あっという間に消滅するという進化上のエラー(まちがい)であるという見込みは小さくありません。しかし、私たちのまわりにある苦しみや不正を黙って甘受する必要はまったくありません。


フォローアップ:



  拍手はせず、拍手一覧を見る


★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
投稿コメント全ログ  コメント即時配信  スレ建て依頼  削除コメント確認方法
★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/  since 1995
 題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
掲示板,MLを含むこのサイトすべての
一切の引用、転載、リンクを許可いたします。確認メールは不要です。
引用元リンクを表示してください。