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【JMM4/28】ダウ・日経平均下落と日本経済の行方
http://www.asyura.com/0304/hasan25/msg/871.html
投稿者 愚民党 日時 2003 年 5 月 03 日 00:44:27:

                              2003年4月28日発行
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         第2章 長期円高予想の罠
         第3章 インフレとの戦いの結末
         第4章 デフレと相対価格調整に関する誤解
         第5章 過剰貯蓄をどうするか 財政政策の検証
         第6章 インフレ・ターゲットは呪術経済学か?
         第7章 円安誘導政策の有効性
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▼INDEX▼

■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第216回目】

■ 回答者(掲載順):
  □中島精也  :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト
  □真壁昭夫  :エコノミスト
  □山崎元   :UFJ総合研究所 金融本部主任研究員 兼 企業年金研究所取締役
  □津田栄   :エクゼトラスト投資顧問株式会社 顧問
  □杉岡秋美  :生命保険会社勤務
  □菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 シニアストラテジスト
  □岡本慎一  :生命保険会社勤務
  □北野一   :三菱証券 エクィティリサーチ部チーフストラテジスト

■ 『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』

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 ■ 先週号の『編集長から(寄稿家のみなさんへ)』
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Q:406への回答ありがとうございました。

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■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』【メール編:第216回目】
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====質問:村上龍============================================================

Q:407
 短期間でイラク戦争が終われば、アメリカ及び日本経済は早期に回復し、場合によっ
ては戦前よりよくなる、という指摘もありました。しかし戦争がほぼ終結したにも関
わらず、ダウ、日経平均とも下がり、未だ回復していないようです。なぜでしょうか。

============================================================================
※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
______________________________________

 ■ 中島精也  :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト

米国版ハイテクバブル崩壊に伴う過剰設備、過剰在庫の調整は9.11同時テロを契
機に一気に加速し、2002年前半には過剰設備はテレコム業界を除けばほぼ完了、
過剰在庫も調整完了したというのが、ちょうど1年くらい前の米エコノミストの見方
でした。

但し、過剰ストックが調整されれば、景気が回復するという従来の景気循環論に基づ
く彼らのV字型回復予想は半年も経たないうちに修正を余儀なくされ、「困惑してい
る」というコメントが目立ちました。そして、投資が思ったほどに盛り上がらない理
由として地政学的なリスク、不確実性の増大といった要因があげられました。

確かに、現地でヒアリングしてみると、企業経営者はリスクの増大に備えて、守りの
経営に徹しているようです。よって、不確実性が減少しない限り、前向きの投資には
慎重な姿勢を崩さないだろうと思われます。その意味でイラク戦争が早期に終結した
ことは不確実性要因の1つが消滅したわけですから、景気指標も株価もポジティブに
反応してしかるべきですが、中東から不確実性要因がすべて消え去ったわけではない、
こともまた事実でしょう。

最近、「ネオコン」の台頭がジャーナリズムで取り上げられていますが、ブッシュ大
統領はテロ撲滅のため相当に大胆なプランを練り、実行しようとしているようです。
実は最近まで米政府の要人であった人と中東政策につき議論したのですが、ブッシュ
大統領はテロの温床はパレスチナ問題にあり、この抜本解決のため中東諸国を次々と
民主化し、最終的にテロリストのいない親米・親イスラエルのパレスチナ国家をつく
ろうとしている、と言ってました。

その米国が考える中東諸国の民主化プロセスの第1幕がアフガン戦争、第2幕がイラ
ク戦争とすれば、幕はまだまだ続くわけです。これが本当なら不確実性は容易には払
拭できません。企業経営者はここらあたりをじっくり見ているのじゃないでしょうか。
そうだとすればイラク戦争終結で即、投資再開ということにはならないでしょう。

これは世界の投資家にも同じことが言えます。戦争終結後も中東の投資家はドルを売っ
ていると市場から聞こえてきます。彼らもブッシュ政権の中東政策を懸念してドル離
れを進めているのかもしれません。また、ブッシュ政権の財政赤字増大も懸念材料の
1つです。欧州の投資家も対米投資に二の足を踏んでいます。経済成長を海外からの
資本流入に依存している米国にとって、このような海外投資家の慎重なスタンスは懸
念材料であることは確かでしょう。加えて不正会計スキャンダルの後遺症もあり、米
国株をめぐる環境は決して芳しくありません。

イラク戦争が終わったばかりで、景気についての判断を下すには時期尚早ですが、上
記の如く不確実性という雲がまだ垂れ込めているのは事実であり、少なくとも、もう
しばらく模様眺めの時期が続くのかなと感じております。

日本については積み残しの不良債権問題、進まない規制緩和、そして経済活性化のた
めの税制改革も暗礁に乗り上げたままですから、国内的に成長要因を見出すことは難
しいと思います。結局は米国頼りという他力本願にすがるしかない状況ですが、肝心
の米国がまだ視界不良ですから日本の景気もぱっとしないと言うしかありません。

それでも個々の企業ベースではデフレでも利益が出る体質への転換を進めていますが、
残念ながら株価の急落により、せっかくの企業努力で得た利益も株式評価損の計上で
吹き飛んでしまいます。実際、日本の株価は持ち合い株の解消売り、厚生年金基金代
行返上に絡む売り圧力という構造的下げ要因が支配しており、通常のマクロ景気の回
復やマクロ政策でどうこうなるものではありません。構造的な売り圧力に対しては、
本格的な受け皿創設とか構造的対策が必要ですが、今ひとつ政府の対応も迫力不足と
いうしかありません。

いずれにせよ、日米ともにイラク戦争終結で雲が晴れて快晴、とはいかない要因が多
く、先行きに楽観は禁物だと思います。

               伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト:中島精也

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 ■ 真壁昭夫  :エコノミスト

イラク戦争が経済活動にとって、大きな不確定要素だったことは確かです。しかし、
その不確定要素がなくなっても、株式市場が不安定な展開を続けているということは、
経済の基礎的な状況(ファンダメンタルズ)に、依然、不安要素が多いということで
す。つまり、イラク戦争というファクターを除外してみても、経済の先行きに明るい
構図を明確に描きにくいのが現状だと考えられます。それを反映して、株式市場など
も不安定な展開になっているのでしょう。

80年代後半、日本は資産バブル状況にありました。その時期、企業は資金を調達し
て多額の設備投資を行い、生産能力は飛躍的に拡大しました。その後、90年代前半
にバブルが崩壊し、バブル期の供給能力の拡大は、結果的に、過剰な供給能力という
格好で残ってしまったのです。政策当局はバブルをつぶすために金融を締め、意識的
に、資産価格を下落させました。そのため、日本経済は大規模なバランスシート調整
を余儀なくされました。それが、90年代から2000年代の経済の低迷の原因の一
つになったと思います。

米国でも、90年代後半にITバブルが発生しました。その頃、ニューエコノミー論
が台頭し、米国経済の高度成長が長く続くことが標榜されていました。日本のケース
と同様に、米国企業は多額の資金を調達して、通信・情報分野などを中心に積極的に
設備投資を行いました。しかし、高度成長は予想されたほど長続きしませんでした。
2000年に入り、株式市場は下落に転じ、経済も減速することになりました。そう
なると、多額の設備投資の結果として、資本ストックが過剰設備となり、供給能力過
剰の状況になったのです。

そうしたバブルの後には、必ず、バランスシート調整が必要になります。つまり、高
い資産を購入した人、あるいは企業は、資産価格の下落によって、その下落分の損失
を一度きれいに処理しなければなりません。そうしないと、いつまでも損失を抱えた
ままの状況が続き、前向きな経済活動を行なうことが難しいからです。そして、資産
価格の下落の度合いが大きければ大きいほど、バランスシート調整の規模も大きくな
ります。

私は、米国経済が90年代後半のITバブルに伴なうバランスシート調整を、すべて
完了したとは思いません。エンロンやワールドコムなど大手企業が破綻していること
を見ると、企業部門はだいぶ調整が進んでいると思いますが、一方、家計部門はまだ、
完全に調整を終えたとは考えにくいのです。過去数年間、米国の家計部門は金利水準
の低下と住宅価格の上昇で、住宅ローン(モーゲージ・エクイティ・ローン)の借り
増しなどによって、消費を続けているという状態だと思います。

しかし、借金をして消費を続けることには限界があります。借金はいつか返済しなけ
ればならないからです。こうした兆候は少しずつ現れてきていると思います。米国の
小売販売統計を見ると、消費の伸びは鈍化傾向にあります。そして昨年、米国の個人
破産の件数は、史上最高レベルに達しています。また、2000年の春先にピークを
つけた米国の株価は、その後、緩やかではありますが下落基調を辿っているように見
えます。ニューヨークダウ平均株価で見ると、ピーク時の約12,000ドルから約
30%程度落ちています。

株価下落によって、株式保有率の高い米国の家計は、負の資産効果を受けることが考
えられます。今までは、金利引下げや住宅価格の上昇で、株価下落の負の資産効果を
相殺してきた格好ですが、今後は、一段の金利低下も見込みにくいと思います。さら
に、住宅価格の上昇傾向にも頭打ち傾向が見え始めているようです。こうしたことを
考えると、米国経済を引っ張ってきた個人消費が、今後も長期間に亘って、高い経済
成長率を支えることはかなり難しいのではないでしょうか。

米国のGDPの約70%を占める個人消費に陰りが出てくるようだと、米国経済の減
速傾向は鮮明化することが懸念されます。現在、米国経済が世界を牽引していますか
ら、牽引役の米国にパワーがなくなってしまうと、世界経済全体に減速感が出てくる
と思います。このように、経済の先行きに明るい構図がかけないと、株式市場も上昇
過程を辿ることは出来ません。結果的に、主要国の株式市場が不安定な展開になるの
だと思います。

                           エコノミスト:真壁昭夫

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 ■ 山崎元  :UFJ総合研究所 金融本部主任研究員 兼 企業年金研究所取締役

 主に株価について考えます。正直に申し上げますと、私も、ご質問のようにイラク
戦争が今回のような期間と戦闘で終わった場合には株価が上がる公算が大きいと思っ
ていたので、その後の株価の動きは少々意外でした。

 反省も兼ねて、私の見通しがなぜ外れたかを振り返ってみます。イラク戦争が短期
で終了した場合に株価が上昇するだろうと考えた根拠は、
(1)戦争それ自体は「米国の財政赤字拡大から景気サポート余地が小さくなって米
   景気低迷」「安全面での危険と経済面での不確実性から世界的に消費低迷」
   「原油価格高騰の可能性」といった要因から企業収益および株価にとって悪材
   料であるが、
(2)悪材料であることについて内外の市場参加者は十分に理解しており、
(3)ある程度の戦闘長期化の可能性も含めて(2)の認識を株価に反映させている
   はずであって、
(4)戦闘が短期で終わる見通しがはっきりすれば(2)に於いて想定されている平
   均的な事態よりも状況は好ましいから、株価に対してはプラスの影響があるは
   ずだ、
ということでした。

 上記の推論には崩れる可能性のあるポイントが複数あります。たとえば悪材料の大
きさを市場参加者が案外小さく見積もっていたかも知れませんし、悪材料という評価
を株価に十分反映させていなかったのかも知れませんし、或いはそもそも「平均的な
事態」として戦闘の短期終結を多くの人が想定していたということかも知れません。
どれが、どの程度という評価は難しいのですが、「人々は開戦時にイラク戦争をかな
りネガティブに見ていたはず」だから「短期で戦闘が終結したことはポジティブな状
況変化だ」と理解したあたりが勝手読みになっていた可能性が大きいと思えます。

 また、イラク戦争後の情勢に関して上記の(1)の論点を考えると、イラクの戦闘
は短期で終わっても相当数の米軍が中東地域に駐留する費用も含めると米国の財政支
出への圧迫は大きいでしょうし、世界各地におけるテロの危険は戦前よりもむしろ高
まっているような感じがしますし、今のところ高騰はしていないまでも原油価格は高
止まりしています。イラク戦争の悪材料のうち、解消したのは戦闘長期化の可能性だ
けで、しかも今後シリア等との交戦が無いとも言えません。

 加えて、当然のことですが、イラク戦争以外の要素も株価に影響を与えます。今の
諸企業の決算・業績関係のニュースは日米ともまちまちないし案外企業の健闘が目立
つ状況ですが、イラク戦争から国内経済に目を転ずると、たとえば金融庁が銀行に注
入した公的資金の普通株への転換(いわゆる銀行の国有化)を今年度を基点に二年も
先延ばしするといった、相変わらずの停滞感を固定化するような政策が発表されてい
ました。これは、過去一年のような銀行の不毛な自助努力の期間を二年延ばすわけで
すから、貸し出し圧縮からのデフレ的な圧力が継続すると共に、銀行の経営が抜本的
に改まることも無い、ということであって、相当の悪材料です(実感できない方は銀
行株の株価推移をご覧下さい)。

 さらに、日本株の場合には、企業年金によるいわゆる「代行返上」の売りといった
需給上の悪要因も加わって、株価の低迷が続いています。この影響は、少なくとも今
年度の上期まで残りそうですが、もともと企業年金が企業のリスク負担能力以上のリ
スクを負担していたことに起因するもので仕方がありません。代行返上に起因する売
りは、基本的に業績などへの評価に基づく売りのような情報や投資判断に基づく売り
ではないので、個人投資家は買いたい銘柄が安く売られるようなチャンスを待つとい
う態度で見ていればいいと思います。

 ところで、上記のように、「材料」と呼ばれるような、何らかの情報があって、こ
の情報に見合って株価が変化するだろうという考え方は、典型的には株価が正しい水
準にあって、絶えず情報を正しく反映する場合に妥当します。割安・割高の程度が変
わらなければ、材料と株価の関係については同様の関係が期待できますが、株価水準
の調整が加わると、株価の動きを「材料」(≒情報)で説明することが難しくなりま
す。

 現在の日本の株価水準ですが、大まかに言って主要企業の多くについて「割高」が
解消する最終局面にあるように思えます。もちろん、「割高」から「フェアバリュー」
を超えて「割安」にまで株価が下落する可能性はありますが、日本の株価を説明する
ためには、レベル調整の要素も含めて考える必要がありそうです。

 割高・割安という判断の考え方ですが、これは投資家が株式に要求するリターンと
株式が投資家に提供できるリターンとのバランスで決まります。前者については、た
とえば信託銀行各行の今年度の年金運用計画における国内株式の期待収益率は平均す
ると約6%でした。これは、前年度までの9%から場合によっては10%以上といっ
た水準から見ると随分現実的になりました。

 仮に投資家に6%のリターンを提供するためには、一年当たりに現在の株価に対し
て企業が純利益を幾ら提供できているかという比率(「益利回り」といいます。PE
Rの逆数を利回りとして読んだものになります)と利益の恒常的な成長率の合計が6
%あればいいという計算になります。これは、たとえば益利回りが6%(PERは約
16.7倍)あって、利益成長がプラスでもマイナスでもない、ということなら達成
できます。

 たとえば、代行返上で売られている代表的な銘柄としてよく名前が挙がる武田薬品
工業株は、24日現在4260円(終値)ですが、2001年度の連結純利益に対す
るPERは約16倍で、今のところ2002年度、2003年度共に増益予想です
(Yahoo!ファイナンスの株価検索の<リサーチ>欄にあるアナリスト予想を見
ました)。もちろんその先の収益も問題ですが、この種のファンドマネジャー好みの
銘柄で絶対水準に於いて「割高ではない」と言えそうな水準になった銘柄が幾つも登
場してきたことは喜ぶべき事のように思います。

 もちろん、投資家の期待リターンに対して、まだまだ割高と思える銘柄がまだたく
さんありますし、逆に既に相当に割安ではないかと思える銘柄もありますが、日本の
場合、株価全般の下落には、これから投資する投資家にチャンスが与えられることと
共に、株式市場が正常な機能を果たすための条件が整いつつあること、といったポジ
ティブな側面があると思います。

 ただ、日本の株価全般の割高さが今後解消に向かうとしても、さらに悪材料があれ
ば、もちろんその後も株式のリターンはマイナスになり得ます。たとえば、米国が今
後消費の低迷から不況に陥るというようなことがあれば、米日共に株価が下落しても
おかしくないわけで、リスクはいつもあるということなので、投資家は自分で対処で
きる範囲内でリスクを取ることが重要です。

     UFJ総合研究所 金融本部主任研究員 兼 企業年金研究所取締役:山崎元

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 ■ 津田栄  :エクゼトラスト投資顧問株式会社 顧問

 本来、景気は戦争により変化させられます。それは先行きに対する不透明感が不安
心理となって、消費や設備投資などの経済活動を慎重にするからです。すなわち、需
要の減退を招くからです。ただし、戦争が短期間で終われば、需要の減退が一時的に
なり、それほど大きく景気を変動させる要因にはならないとみられます。つまり、短
期的な戦争による景気への影響は一過性に過ぎず、終わってみれば、景気の方向は元
に戻るからです。

当初の短期終結による楽観的な予想は、イラク戦争のよる先行き不安が戦争前の一時
的な景気減速・株式の軟調の原因という前提にたっています。つまり、イラク戦争が
長期化しなければ、需要の減退が早期に収まり、不安心理で萎縮していた経済活動が
急回復し、景気が堅調となり、株式は景気先取りから急上昇すると見ていたと思われ
ます。この見方は、景気の本来の流れが上向きのときにいえるのではないでしょうか。

 今回、アメリカ経済は、景気が下向きであったといえます。その中でのイラク戦争
でした。イラク戦争前から、9.11テロ以降景気を支えてきた個人消費に、陰りが
出てきています。自動車ローンのゼロ金利や過去最低水準となった住宅ローン金利を
利用して、家計は消費を続け、住宅投資を行って来ましたが、その結果として、家計
の債務は膨張し、返済額が可処分所得に対して約14%も占めるといわれるほど、危
険水域にあります。

しかも、家計は株式保有率が高く、株式の下落が逆資産効果として家計消費の抑制に
働いています。また、低金利の元でローンの借り換えによる支払い金利の減少と可処
分所得の上昇、住宅価格の上昇による融資枠の拡大などにより消費を拡大してきた流
れが、金利の底打ち感、住宅価格の頭打ちなどにより、逆に回りはじめてきたことで
す。

 また、企業部門でも、90年代に積み上げてきた設備投資が過剰となり、その調整
がいまだ終了しきれていません。しかも欧州の景気減速や日本のデフレにより、外需
が期待できなくなってきています。そのなかで企業業績が悪化、それが雇用削減、失
業率上昇となり、個人所得が減少することで消費の低迷、売り上げの減少につながっ
ています。こうして個人及び企業の両部門の悪化が相乗作用しあっています。しかも、
イラク戦争による先行き不安から、個人消費における買い控え、消極的な設備投資を
加速させています。

一方、これまでの個人消費の堅調な動きが、経常赤字を過去最大の5000億ドルに
拡大させ、ブッシュ政権の景気浮揚策と公的部門の拡大、加えてイラク戦争における
戦費で、3000億ドル超の財政赤字が確実となった今、長期金利の上昇懸念ととも
にドル安が危惧され、海外からの資金が流出し、アメリカ経済の資金循環に黄色信号
がともる可能性が出てきています。これに今後、アメリカに対するテロ懸念が高まれ
ばこの危険がさらに現実となります。

 こうした景気の流れから、消費や設備投資の消極姿勢が戦争による一時的なもので
はなく持続的なものであるため、短期終了しても、簡単に景気が質的に変化するはず
がありません。しかも、今後のブッシュ政権の中東政策が民主化に主眼を置いている
とすれば、テロの危険が恒常的になり、また中東における戦争は簡単に終わらず、不
透明感は払拭されないままになります。こうした点を捉えて、ダウ平均は軟調で不安
定な動きになっているといえます。

 日本の場合は、もっと悪質です。アメリカの場合と異なり、デフレの深化、個人消
費・設備投資の低迷など内需が深刻な状況になりつつあるなかで、景気は外需で何と
かしのいできたのですが、それも欧米の景気減速、中国のSARS(新型肺炎)によ
る需要減から限界がきており、景気底割れの可能性も出てきています。特に、アメリ
カの経済の先行き不透明で、今後の景気に自信が持てないといえますが、実は、その
自信が持てない根本的な原因は、小泉首相の中途半端な構造改革、そのことが既得権
益層を元気付け、日本がより構造的な問題を抱えてしまっていることです。

本来ならば、不良債権の早期処理を行い、金融システムの安定化とともに金詰りによ
る経済活動停滞からの脱却を図り、デフレ経済から抜け出すメドを付けるべきでした
が、妥協と先送りにより、依然として不良債権問題が解決しないままになっています。
しかも、銀行の自助努力としての強引なまでの資金調達によって株式市場から資金を
吸い取ったため、企業の経済活動に支障をきたし、株式の下落による含み損で企業業
績の悪化を招いています。

 あるいは、家計をはじめとして企業でも経済活動を活発化させるために、需要の回
復を図る政策も同時に行うべきですが、今の小泉政権は、全く逆の需要を減退させる
政策を採っています。国民に期待させた税制改革も、官僚の論理を優先させ、民間を
萎縮させる内容になっただけです。しかも、医療保険・年金保険・雇用保険などの社
会保険においても負担増・給付減は、経済にマイナスに働いています。

こうした中で、小泉政権は、イラク戦争という先行き不安が、景気悪化の原因と見な
し、真の原因を認識しようとしません。その結果、政府は、自ら景気悪化を作り出し
たという事実とその責任を理解できません。それが、経済の現状に対する無関心とな
り、経済や金融に対する危機感のなさにつながっています。そして、そのことが、株
式市場における無力感となり、先行きの経済の悪化から企業業績は期待できず、株式
投資を敬遠して、年金の代行返上としての株式売却に拍車をかけているといえます。

これは、イラク戦争という外部要因ではなく、失政という内部要因による状況が戦前
からあって、イラク戦争が短期に終結しても、需給ギャップの縮小やデフレ対策など
根本的な解決がなされない中では、簡単に株式市場が戻ることは不可能ということで
す。したがって、この無策状況が続く限りイラク戦争後における景気回復期待は無理
であり、経済がメルトダウンするリスク及び株式市場が下落を続ける可能性が高まっ
ていくといえましょう。そして、現実には、水面下で、金融危機、経済危機のリスク
は深まっています。

 最後に、戦争は、経済における心理だけでなく、そのことにより経済の実態面に質
的な変化を与えることもあり得ます。それは、戦争によって人間の行動そのものが、
戦前とは異なる行動様式に変化し、戦後も元に戻らなくなることです。そして、景気
が下降曲線にあって、戦争が起これば、景気に不安定要素が加わることで、下降曲線
をさらに急角度に屈折させ、戦争が終了しても、景気が一段と悪化した状況になりう
ることを、私たちは覚悟しなければなりません。

                エクゼトラスト投資顧問株式会社 顧問:津田栄

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 ■ 杉岡秋美  :生命保険会社勤務

米国市場は、戦争開始前の底値の水準からは回復し、「有事の底値での株式は買い」
のジンクスは生きていたと考えて構わないと思われます。米国株に関しては、戦争
の予感で悲観論に振れすぎたことと、発表されつつある第一四半期の企業収益が思っ
ていたほど悪くなかったということが影響しているのだと思われます。

しかし、編集長のご指摘通り、日本株に関しては泥沼を抜け出背ない状況が続いてい
ます。日本では、ソニーの決算が思った以上に悪かったというネガティブサプライズ
もありましたが、日本の金融市場でそれ以上に目立つのは、目を覆うばかりの債券の
買いです。長期国債の利回りが1%を割れたのにびっくりしていたのは昔の話で、こ
こ一週間は0.6%台の前半にまで低下しています。これは、驚くまでのデフレ心理
が金融市場に働いていることを意味しています。イールドカーブ分析をしたわけでは
ありませんので感覚的な議論ですが、これは今後10年間物価が下がり続け名目GD
P成長率も低下を続けるような経済を前提としないと成り立たないはずです。

ここまで、債券が買われ長期金利が低下することに関しては、企業・金融機関ともに
バランスシートに不安を抱えたままでリスクを取ることができないので、日銀の量的
金融緩和で供給されたマネタリーベースはそのまま、銀行セクターの中で債券の買い
に向かわざるを得ないのだと解釈されます。

株価の低迷と、長期金利の驚くべき低下に表れたデフレ期待の高まりをみると、つい
に日本経済は、実態面でもデフレのスパイラルに突入したのではないかという懸念に
駆られます。デフレ期待が著しく進行すると、期待がそれ自身を実現してしまう可能
性が高まるからです。金利は下がっても、デフレ期待の亢進の方が先行していますの
で、実質金利は上がったままで企業の設備投資や、個人消費に盛り上がる余地はあり
ません。あらゆる資産の中で、現金の保有が一番有利な選択となり、企業は借金の返
済に努め流動性をため込み、個人は貯金に励みます。

もちろん中長期的には、これだけ一方的で急速なデフレ心理の広がりに対して、市場
の価格メカニズムを通じた対抗力が働くことが期待できます。例えば、株価が下がる
と配当利回りが上昇してきます。代表的な高格付け、国際優良銘柄である、キャノン、
トヨタ自動車の配当利回りはそれぞれ0.7%、1%程度です。これだけでも、国債
を10年持つよりも高利回りなのですが、これに将来の利益成長率を加えたものが、
株式の期待収益率であると考えることができます。利益成長率を仮に3%とおけば、
キャノンは3.7%、トヨタ自動車は4%の利益を期待できることになります。国債
の10年保有の0.6%台の前半という期待収益率と比べればはるかに有利であると
いう投資判断も成り立つ状況が生まれつつあると言うことができます。もちろんデフ
レで3%の利益成長も怪しいという不確実性も高まっていますので、デフレ期待と、
割安性の進行の追いかけっこが続くわけですが、株が下げつづければ、どこかの時点
で割安性が上回ることは確実です。それがいつかを判断できないのが苦しいところで
す。

この、デフレ心理の爆発は、方向性はまるっきり逆さまですが、ちょうど不動産バブ
ルや株価バブルの亢進期を思い起こさせます。経済学の世界では、バブルの研究によ
り市場の不完全性への理解が進みましたので、一時的なデフレ心理の亢進が異常な株
価の低下を生み、それ自体が更にデフレ心理に追い討ちをかける循環のメカニズムが
存在することの理解も進みました。ただ、その程度とそこからの回復のタイミングを
予想するのは、現在の経済学にも荷が重い様です。

                         生命保険会社勤務:杉岡秋美

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 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 シニアストラテジスト

私も4月に入り日本がこれほど下がるとは予想していませんでした。足下欧米株は急
反発しました。日本でも小型株で上昇している銘柄はたくさんあります。3月末に比
べて独DAX指数は約2割、米ナスダック指数は約1割上昇、日経ジャスダック平均
も約5%上昇したのに対し、日経平均、特に主力株や銀行株は下落基調が続いていま
す。

最近の株式市場では株式需給に対する注目が高まっています。4月は通常持合解消が
減少したり、年金による新規株式運用で株式需給が改善する時期ですが、今年は違っ
たようです。銀行株の下落理由として、最初に言われたのが、大手銀行の増資を引き
受けた事業会社や保険会社が、3月末に保有銀行株の減損処理をしたこともあり、銀
行株を売却しているという話です。

次に言われたのが、年金の代行返上による株式売却です。年金の代行運用とは国の年
金制度の一部を、企業年金である厚生年金基金が責任を持って運用することをいいま
すが、株価低迷を背景に、代行部分を負担と感じる基金が増え、最近代行返上が急増
しています。代行返上をする際に株式を一旦売却する年金が増えています。年金制度
は複雑であるため、ここで説明することは不可能ですが、最近は代行返上の理解なし
に株式投資することは難しい状態です。

今月に入り各証券各社が代行返上のレポートを出したため、DaikoHenjyo は英語でも
外国人投資家間に定着しました。私どもでは代行返上により株式売却額予想を約3兆
円と推計しておりますが、仮定の置き方の違いで売却予想額は2兆から5兆円まで幅
広くあります。1月から3月には代行返上による株式売却が約1兆円あったと推計さ
れますが、4月に入ってはまだそれほど多く出ている感じではありませんでした。む
しろ統計上は年金などの国内投資家より外国人投資家の株式売却が多くありました。
ヘッジファンドよりは実需の売りの方が多かった印象です。

昨年末から今年3月にかけて、日本株の対世界相対パフォーマンスが良かったこと、
外国人投資家が日本株を買い越したことなどから、グローバルファンドの日本株比重
が中立の約6割から8割程度へ高まったようです。そこへ代行返上の理解普及、福井
俊彦日銀総裁の誕生、銀行保有株の評価損や外形標準課税導入に伴う業績下方修正、
時価会計延期見通しなど、外国人投資家にとってはネガティブなニュースが増えたた
め、日本株売却が増えました。

今も日本株の比重がまだ高いと感じている外国人投資家が多いようなので、当面外国
人売りが続きそうな感じがあります。残念ながら日本には株式の自然な買い手がおら
ず、制度上売らざるを得ない投資家ばかりなので、外国人投資家が買わないと通常株
式は上がりません。

そこに出て来たのが24日に発表されたソニーの業績発表の失望です。日本を代表す
るソニーの業績下方修正が外国人投資家の売りなどを通じて、株式市場全体に悪影響
を与えつつあります。当面株式市場は下値模索の展開になりそうですが、明るい材料
になり得るものとしては、米国景気が予想以上に回復する可能性や、6月末の株主総
会に向けて機関投資家の議決権行使の動きが増えることなどでしょうか。

            メリルリンチ日本証券 シニアストラテジスト:菊地正俊

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 ■ 岡本慎一  :生命保険会社勤務

本題に入る前に事実を数字で確認しておきましょう。イラク戦争が株式市場に対して
動揺を与え始めたのは、昨年の12月位からだと思います。11月末を基準にし現在
の日米株価の位置を大雑把に把握しておきます。

NYダウは11月末8,896ドルで、4/24現在8,440ドルです。約5%の
下落で戦争前の水準は下回っています。しかし、この間の最安値は3/11の7,5
24ドルです。約1か月間で12%上昇していることになります。それほど悪いパ
フォーマンスではないでしょう。

一方、日経平均株価は11月末9,215円でしたが、4/25には7,699円と
なり安値を更新してしまいました。11月末からの下落率は16%以上に達します。

単純にいうと「ダウ、日経平均ともに下がり、未だ回復していない」のではなく、
「日経平均だけが下落している」といえます。だとすると日本株の下落はイラク戦争
が原因ではなく、他の日本独自の要因で発生したと考える方が自然でしょう。

私は株価下落の主因はデフレだと考えます。一般物価の下落率が比較的小さいもので
あるため「デフレは沈静化している」とか「デフレの悪影響は軽微である」との指摘
も増えてきました。また一般物価のデフレに対して、株価の下落が厳しいため「日本
の問題はデフレではなく資産デフレだ」との意見も多くあります。

しかし、本当にデフレの影響は軽微でデフレと資産デフレは別物なのでしょうか。簡
単なモデルでそうした考え方が事実誤認であることが確認します。株価は、将来利益
の合計を現在価値で計算したものです。最も簡単に記述すると、

利益÷(割引率ー将来の利益成長率)

となります。「将来の利益成長率」は「インフレ率」と「実質的な利益成長率」に分
けられます。ここで割引率を5%とし実質利益成長率を2%としましょう。そうする
と、インフレ率が▲1%の時の株価は、インフレ率が+2%の場合の4分の1となり
ます。資産価格は長期間の見通しで値付けされますから、デフレ率が小さくてもその
効果は非常に大きくなるわけです。あくまで大きな仮定を置いたモデル上の計算です
が、小さなデフレが大きな資産デフレをもたらすことを確認するには十分でしょう。

また、普通の経済では将来の利益成長率が低下すると同時に割引率が低下し(分子が
小さくなり)株価を下支えます。しかし、今の日本の金利は短期が0%、長期が0.
6%で低下余地がなくなっています。日本では金利が0%の壁にぶつかっており、他
国に比べ利益成長期待が少し低下しただけで資産価格が大きく下がってしまいます。

資産デフレの最大の敵はデフレです。「戦争だから株価が下がる」、「米国株が下が
るから日本株も下がる」のではなく、皆が「デフレは続く」と信じているから株価が
下がっているのだと思います。

                         生命保険会社勤務:岡本慎一

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 ■ 北野一  :三菱証券 エクィティリサーチ部チーフストラテジスト

そもそも、イラク戦争を金融市場の参加者が意識し始めたのは11月頃であったと思
います。11月8日にイラクに対し「査察受け入れ」を要求する国連安保理決議14
41が全会一致で採択され、11月27日に実際に査察が始まったころから、市場参
加者は、イラク戦争を相場材料として意識し、その投資行動にも変化が認められたと
思います。すなわち、不確実性を前に、リスク回避の姿勢を強めていったのでした。

まず、11月末の各金融商品の価格をおさらいしておくと、次のようになります。N
Yダウ:8,896ドル、日経平均株価:9,215円、原油価格:1バーレル当た
り26.89ドル、米国10年債利回り:4.20%、ドル円相場:122円64銭、
ユーロドル相場:1ユーロ=0.9942ドル。

リスク回避姿勢を強めた市場参加者は、こうした金融商品に対し、株売り、ドル売り、
債券買い、原油買いで臨みました。NYダウが、安値を記録したのは、戦争が始まる
直前の3月12日、価格は7,416ドルでした。11月末からの3ヶ月で、16%
ほど下げたことになります。

この3月12日の各金融商品の価格と11月末以降の変動率を再びチェックすると、
NYダウ:7,416ドル(▲16.6%)、日経平均株価:7,943円(▲13
.8%)、原油価格:37.83ドル(+40.7%)、米国10年債利回り:3.
58%(▲0.62%)、ドル円相場:117円12銭(▲5円52銭)、ユーロド
ル相場:1ユーロ=1.1023ドル(+0.10ドル)となります。

こうした値動きを見ながら私が考えたことは、戦争が終わるなら、取りあえず11月
末の水準まで、株買い、ドル買い、債券売り、原油売りといった逆の動きが出るので
はないか、という単純なことでした。

実際、イラク戦争の事実上の終結に向けて、こうした動きが、それなりに活発になり
ました。4月24日現在でみると、NYダウは8,440ドルまで上昇し、11月末
→3月12日の下落幅の69%を回復しました。原油価格は、26.64ドルですか
ら、ほとんど元に戻りました。米国10年債利回りは、3.92%なので、同じく利
回り低下幅の55%ほど回復しました。

ただ、ちょうど、バクダッドが制圧される頃までは、巻き戻しの結果としての株高・
債券利回り上昇・ドル高・原油安が同じように進んでおりましたが、ここ2週間は、
これらの連動性は崩れてきております。すなわち、株が上がっているのに、債券の利
回りが低下したり、原油相場は株や債券とは関係なく、乱高下したりとそれぞれが独
自の動きを見せるようになってきました。ある意味で、もっとも独自の動きをみせて
いるのは、日本株でしょうか。本日の日経平均株価の終値は7,699円と3月12
日よりも、さらに244円安くなっております。

イラク戦争に関心が集中していた頃は、「戦況次第」という言葉のもと、判断停止→
付和雷同という行動パターンになっておりましたが、戦争への関心が薄れるとともに、
それぞれの市場参加者はそれぞれに注目するテーマに目が移っていった格好です。適
切な喩えでないかもしれませんが、ワールドカップの期間中、日本代表であった選手
が、大会を終えて、それぞれのチームに戻り、それぞれの仕事を始めたような感じだ
と思います。

さて、ご質問は、「短期間でイラク戦争が終われば、アメリカ及び日本経済は早期に
回復し、場合によっては戦前よりよくなる、という指摘もありました。しかし戦争が
ほぼ終結したにも関わらず、ダウ、日経平均とも下がり、未だ回復していないようで
す。なぜでしょうか」でした。

この場合の「回復」を、取りあえず、戦争の影響が払拭されるという意味で捉えるな
ら、せいぜい11月の水準に戻ることをターゲットに考えるべきだと思います。その
意味では、動きの速い金融商品の価格は、実体経済に先駆けて、11月末の水準を目
指して回復基調にあったとはいえると思います。ただ、実体経済、すなわち、企業の
投資や家計による消費がどの程度「回復」しつつあるのかについては、まだ統計も出
そろってないので確認はできません。従って、金融市場における「回復」の動き自身
も、半信半疑で、まだ途中段階にあると考えても良いでしょう。

その意味では、一つの仮説、すなわち「短期間でイラク戦争が終われば、アメリカ及
び日本経済は早期に回復する」を否定するのは、まだ証拠不十分で、むしろ、先々週
ころまでは、この仮説はそれなりに機能していたとも言えると思います。むろん、こ
うした有力な仮説が否定されたなら、あるいは妥当性に疑いが生じたなら、別の仮説
を考えねばならないことは言うまでもありません。

さて、それを考える際の一つのヒントは、金融商品間の連動性が薄れてきたことだと
思います。ともすれば、別の仮説として、「イラク戦争はアメリカ帝国の衰亡の始ま
り」といったものも浮上してきそうですが、こういう大きな仮説を証明するためには、
金融商品の変動が、大きなテーマのもとに説明できる相関の体系をもっていることが
必要でしょう。そういう相関の体系は、今はないように思います。むしろ、判断停止
という呪縛がとけて、それぞれの市場がそれぞれの興味で動き始めているというのが、
現在の状況ではないでしょうか。

         三菱証券 エクィティリサーチ部チーフストラテジスト:北野一

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■■編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:407への回答ありがとうございました。最近、このエッセイをほとんど書い
ていませんでした。先々週はソウルでいろいろと取材をしてきましたが、次の小説の
ための取材なので、そのことについて書くわけにはいきません。なかなかエッセイを
書けないのは、歯痛を除けば、イラク戦争の影響がもっとも大きいと思われます。

 わたしは朝鮮戦争が終わる頃に生まれました。朝鮮戦争の記憶はありませんが、そ
のあとベトナム戦争や湾岸戦争、一昨年のアフガニスタン戦争などいくつかの戦争の
ニュースに接してきました。しかし今回のイラク戦争ほど、無力感に捉われたことは
ありませんでした。いつまでも無力感にとどまっていてはいけないのでしょうが、こ
の無力感を忘れてしまってもいけないのだろうと思います。

 無力感は、現実感を希薄にしがちです。起こってしまったことを受け入れるのが簡
単ではないからでしょう。しかし、わたしの無力感はアメリカの軍事行動がその主た
る原因ではなく、日本政府の対応も、その原因のすべてではありません。イラク戦争
は世界の枠組みを変えてしまった感がありますが、実はこれまで隠されてきた何かが
露わになったということではないかという気がしています。そしてその隠されていた
ものは、冷戦後のアメリカ一極主義とか、国連主導の限界とか、米欧の対立とかでは
なく、国家とは何か、国家は個人に対し大前提的にどういう装置を備えているのか、
というようなことではないかと思います。

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Q:408
 先週、ソニーの株が大きく下落し、それに合わせるように日経平均もバブル後の最
安値を更新し、ソニーショックなどと言われました。ソニーはこれまでずっと付加価
値の高い製品を作り続け、あるいは新しいビジネスモデルを作って、それは「ソニー
神話」などと呼ばれてきました。ソニー株の下落は、何かを意味しているのでしょう
か。つまり、何かを象徴しているのでしょうか。

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                                   村上龍

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