現在地 HOME > 掲示板
> 戦争２６ > 799.html
★阿修羅♪
|
現在地 HOME > 掲示板
> 戦争２６ > 799.html
★阿修羅♪
|
|
(回答先: トルコが「自民族保護」と言っていること関連：イラク内少数民族「トルコマン」 投稿者 YM 日時 2003 年 3 月 22 日 19:40:04)
勝又郁子『イラク わが祖国に帰る日』P61〜
クルディスタン自治区へのチェックポイント
バグダードからティグリス川に沿っておよそ三五〇キロ走ると石油産業と商業の都市モースルだ。紀元前にアッシリア帝国の中心都市として栄えたニネヴェの対岸に築かれたこの古い町は、古来、地中海とペルシャやインドをつなぐキャラバンが行き交う商業の中心地だった。モースルという地名も東西南北をつなぐ場所という意味を持つという。だから多くの民族や宗教、宗派の人々が暮らすイラクのなかでも、モースルのモザイクは際立っている。クルド人、トルコ系のトルクメン人、アラブ人、アルメニア人、アッシリア人、宗教的にはイスラム教徒、キリスト教徒、かつてはユダヤ教徒や、ゾロアスターやイスラムの影響を受けたヤジディ教徒も暮らしていた。イラク政府のアラブ人入植政策によって今ではアラブ人が増えているが、それでもモスクに集まる人のなかに多くのクルド人やトルクメン人の姿が見える。湾岸戦争とその後の民衆蜂起で南部の商業都市バスラの人口が減ってからはバグダードに次いで人口が多い。経済制裁下では、トルコやシリアとの国境貿易、つまり〃おおっぴらな密輸〃の基地としての顔ももつ。
モースルから北へさらに五〇キロほど行くと、ファイダという小さな町がある。バグダードから来た我々はこの町のはずれにあるチェックポイントから先へは進めない。湾岸戦争後に自治を始めたクルディスタン自治区との境界なのだ。といっても、チェックポイントを通過するタクシーやバス、トラックは多い日には数百台にもなる。トラックはモースルから自治区を通過してトルコに入る。トルコから日用生活物資を運び込み、モースルからはトルコ向けにガソリンやディーゼル燃料を輸出する。自治区は、クルド勢力が湾岸戦争後に蜂起し、多国籍軍の庇護のもとに中央政権の関与を一切排して始められた。国際社会が認める自治区だ。イラクの中央政権にとっては、自治区の存在は違法であり、反乱者の解放区にすぎない。
だが、経済関係となると話は別だ。経済制裁下にあって、トルコから運ばれる物資がイラクに流れる。欧州の品もトルコ経由で入ってくる。自治区は、自治区内で物資を消費するだけでなく、トルコとイラクを結ぶ中継貿易によって潤う。北イラクを通過する物資や石油製品に、自治政府は〃関税〃を課すことで、自治の財源となる収入を得られる。イラク中央政府も自治区を経由する石油製品の輸出でドルを稼ぐ。大統領の長男ウグイが、自治区の貿易会社からマージンを受け取っているのも公然の秘密だ。ただ、イラク攻撃の可能性が高まり、フセイン政権に代わる新政権の構想が取りざたされるようになると、自国のクルド勢力が自治区のクルド勢力に接近することを嫌うトルコが、自治区に圧力をかけはじめ、国境貿易を締めつけるようになった。そのために、トラックの数はめっきり減っている。
自治区の人々は、比較的簡単に検問を通過できる。イラクの兵役を終えている一般人であれば、まず問題はない。自治区からバスでバグダードの病院や買い物に行ったり、親類や友人を訪ねる女性専用のツアーもある。チェックポイントの兵士が目を光らせるのは、車に武器が隠されていないかどうかだけだ。逆の場合は大きな危険が伴う。イラク政府の支配下にある地域から自治区へ入るには、自治区に住む親類を訪ねる場合でも許可を必要とする。自治区への亡命者が後を絶たないためだ。
自治区で、モースルから逃げてきたアラブ人に会ったことがある。「モースルは無法地帯だ。金さえ出せばなんでもできる。犯罪も見逃される。許されないのは政府批判だ。自分は少しずつ蓄えた金を渡して逃げてきた。クルド組織を通じて米国に亡命を申請してもらう」と言っていた。自治区には、クルド人のほかにトルクメン人やアッシリア人が暮らしており、いくつもの政党や文化組織が存在する。こうした民族の居住地域は自治区の外、つまり中央政権の支配下にも広がっている。そこから自治区に逃れてくる人は多い。クルド人やトルクメン人やアッシリア人だけではなく、アラブ人もいる。軍や政府の高官もいる。
題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。