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ホメーロスとは何者か―ヨーロッパ、西洋文明の見直し―【小田実】
http://www.asyura2.com/0311/bd32/msg/536.html
投稿者 愚民党 日時 2003 年 12 月 24 日 20:15:30:ogcGl0q1DMbpk
 

http://www.odamakoto.com/jp/Seirai/021224.shtml

 私は、今、ホメーロスの「イーリアス」の翻訳にとりかかっている。訳していて、あらためて考えることがある。ホメーロスとは何者か。これは1960年にギリシャをはじめて訪れて以来ずっと考えて来た疑問だ。

 ホメーロスはふつう「ヨーロッパ、西洋文学の父」だとされている。しかし、ヨーロッパも西洋もただの土地の名ではない。ヨーロッパ文明、西洋文明あってのヨーロッパ、西洋だ。ホメーロスの生きた紀元前8世紀の世界にその名の文明があったのか。当時のヨーロッパ、西洋はただの黒い樹林のひろがりだったのではないか。同じことは、「西洋哲学の始祖」ソクラテス、「西洋歴史の父」トゥキディデス、「西洋医学の開祖」ヒポクラテス諸氏にも言える。ホメーロスよりかなりあとだが、彼らが生きた時代、ヨーロッパ、西洋はこれまたただの黒い樹林のひろがりで、その名の文明はまったくなかった。

 なかったものの「父」やら「始祖」「開祖」やらにはなれない。逆に言うと、その子孫を僭称することはできない。無関係なはるか昔の偉人を先祖と称して自分をえらく見せるのはサギ師がよくやることだ。ホメーロス、ソクラテスらはギリシア人、ギリシャをふくめての地中海世界の人間―その先祖であったことはたしかだが、それはどんな先祖であったのか。今ギリシア、地中海世界に少しでも旅すれば判ることだが、その地の住民は、私たちがヨーロッパ人、西洋人と言うとすぐさま思い浮かべる金髪、長身、脚はまっすぐ長いというたぐいの、まさにギリシャ彫刻のごとき人間群ではない。第一、彼等の肌色は純粋の「白」ではない。もっと色がついている。もっと「黒い」。

 しかし、これがもともとホメーロス、ソクラテスらが生きた古代ギリシア世界だったのだと言い出したのが、15年前、1987年に出版されて物議を醸した、そして今もって是か否かで論争がつづいている(「東地中海世界について聖書以来もっとも論議された本」と評した人もいる)マーティン・バナールの「黒いアテナ」と題した一冊の書物だ。「アテナ」はアテネの護(まも)り神としてあった女神でここでは総称してギリシアのことだが、その名が総称しての古代ギリシアは、ヨーロッパ、西洋文明の父祖の地としてふさわしい、そう当然のこととして人が考える「白いアテナ」ではなかった。バナールに言わせると、もっと色のついた、「黒いアテナ」だった。

 本の中身は「黒いアテナ」につけられた副題がよく示している。「古代文明のアフロ・アジア的根(ルーツ)」。完成すれば四巻になる(今二巻目までが出ている)この本の一巻目につけられた副題は「古代ギリシアの偽造1785−1985」。

「偽造」ということばはきついが、「偽造」は現在に至るまで200年間行なわれて来たことになる。

 バナールは今はアメリカ合州国のコーネル大学の教授だが、もともとイギリスのケンブリッジ大学で中国学を専門にしていた60歳代半ばの学者だ。ベトナム反戦運動に参加し、同時に当時イギリスでは事実上何の研究もされていなかったベトナム文化を研究、日本史も勉強した。のち、「東地中海」に研究対象を移し、ヘブライ語、エジプト語を勉強し(彼には少しユダヤ人の血が入っている。そう彼は言う)、さらにギリシア研究に至って、彼は重大な「発見」を二つする。ひとつは、ギリシア語の語彙の半分はインド・ヨーロッパ語系のものだが、あと25%は西セム語系(ヘブライ語―古来のユダヤ人の言語もそこに入る)、20−25%はエジプト語だという「発見」だ。しかし、なぜかくも混交が起こったのか。ただの通商交易で起こるわけはない。それは、かつて古代ギリシアがエジプトと西セム語系言語をもつ古来のユダヤ人のフエニキアの「植民地」であったからだ。これはバナールの第二の「発見」だが、そうだとすると、当然、古代ギリシアには、「黒い」エジプトもその構成要素のなかに入って、古代ギリシアは「白いアテナ」ではなくて、「黒いアテナ」になる。パナールはそう強力に証拠とともに主張した。

 これだけでも大論争がまき起こってふしぎはないが、もうひとつ重大な主張を彼はまた証拠を集めてやってのけた。それは、侵略と植民地支配で力をつけて世界の中心にのし上がったヨーロッパ、西洋が、近代に入って自分たちの文明を古代ギリシアに始まるものとして、ここ200年のあいだに、元来が「黒いアテナ」であった古代ギリシアを「白い」自分たちの先祖にふさわしく「白いアテナ」に「偽造」したという主張だ。

 私には、こうした大論争に加わり得るほどの知識はない。ただ、1960年以来の私の実際の「ギリシア体験」から、バナールの主張は正しいと考えている。そしてまた、「文明の衝突」というような派手なことばで現代の世界を語ろうとする言説が横行するなかで大事だと考えている。「衝突」をうんぬんするまえに、「白」のなかにも「黒」があると考えるのが、今、必要なことだ。ことに、「白」を「文明」と決めつけ、「黒」を打倒、撲滅すべき「野蛮」とする昨今の世界の風潮のなかで大事なことだ。

私には、世界の「テロリスト」一掃をとなえ、イラクなど「黒い」「悪の枢軸」攻撃を呼号するブッシュ氏の背後に彼の考える「白いアテナ」が見えかくれする。

しかし、ブッシュ氏よ、「白いアテナ」はほんとうは「黒いアテナ」だったのだ。

http://www.odamakoto.com/jp/Seirai/021224.shtml

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