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「ジョージ・ソロスの宣戦布告」 (寺島実郎の‘発言’ )
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投稿者 エンセン 日時 2004 年 5 月 12 日 18:14:56:ieVyGVASbNhvI
 

 

寺島実郎の‘発言’

世界 2004年5月号 連載「脳力のレッスン」

「ジョージ・ソロスの宣戦布告」

 「ソロスが動いた」―この20年、国際情勢で不可解な事態が進行した時、この言葉が何度となく囁かれた。欧州、アジア、ロシアでの金融危機のみならず、天安門事件、旧ソ連・東欧の崩壊から金相場の変動まで、何かといえばソロスの影が噂された。国際社会は陰謀で動いているとする「陰謀史観」にとっては、かつてはKGBとCIA、そしてソロスは訳の分らない事態を説明する上で極めて都合のよい存在なのである。情況が混迷すると思考回路の単純化が進行する。今日では、いかなる不幸も「国際テロ組織アルカイダ」か「国際ユダヤ資本ジョージ・ソロス」のせいにしておけば説明がついたような錯覚に陥るから怖いのである。
 実際、現代世界を論ずる上で、ジョージ・ソロスほど議論の対象となってきた人間はいない。実に興味深い存在である。何よりも、背負ってきた歴史の重さが言葉を失わせる。1930年にハンガリーのブタペストにユダヤ人として生まれ、ナチス・ドイツの迫害を受け、戦後は共産主義の圧制から逃れてイギリスで学んだ後、一九五六年に米国に移住、一代で「ヘッジファンドの帝王」とまでいわれる金融界の巨頭にのし上がった。また、驚くほど多様な表情をもった人物でもある。文字通り「世界一の慈善活動家」であり、ソロスが「世界を開かれた社会にするために」という主旨で行ってきた寄付の総額は100億ドルを超すという。「哲学者ソロス」という面も無視できない。ロンドン留学時代のソロスはK・ポパーの弟子であり、ポパーの「開かれた社会」という概念に強い影響を受けた。民主化され開放された社会を目指す活動を支援し続けるソロスは、K・ポパーの実践者ともいえる。
 そのソロスがこの秋の米国大統領選挙に向けて燃えている。なんとしてもブッシュ大統領を政権から引きずり下ろすという。経済人の彼が、それほどまでに危機感を高めて政治に関与しようとしている理由は何か。それは、9・11事件以降のブッシュ政権下のアメリカが本来持っていたはずの価値を見失っていることへの危機感である。ナチと共産主義の支配を体験したソロスは、真に自由で開かれた社会にとって、アメリカ自身が脅威となりつつある現実に衝撃を受け、「我々自身が間違っていることもある」というのが開かれた社会の理念であることを確認するために闘うというのであるFORTUNE誌2003年11月3日号は、「ジョージ・ソロス対ジョージ・ブッシュ」というカバーストーリーを載せ、「億万長者慈善活動家はカウボーイ大統領に怒り狂い、自らの主張のために資金を投入する」と報じた。

ソロスの宣戦布告書「アメリカ単独覇権主義の破綻」
 「ブッシュのアメリカ」に対するソロスの宣戦布告の書とでもいうべき本が出版された。「アメリカ単独覇権主義の破綻」(現題"The Bubble of American Supremacy-Correcting the Misuse of American Power ",Public Affairs Books、2003)である。縁あってこの本の日本語版の監訳を引き受けることとなり、改めて精読して現在の米国へのソロスの問題意識が鮮明になった。極端にいえば、ソロスとは何者なのかが極限状況の中で鮮明になった本といえるであろう。  正直なところ、私はソロスの実像について疑念を拭えないでいた。投機家であり慈善活動家であり哲学者である人間など胡散臭いと思ってきた。自分自身が「グローバル資本主義の推進者」でありながら、「グローバル資本主義の欠落と危険」を指摘し続けるソロスの姿勢に疑問を抱いてきた。しかし、今回の本は、経済・金融の分野だけでなく政治・安保の分野まで踏み込んだアメリカ論であり、世界論である。誤魔化し無く「体制との距離」を明示してみせたわけで、自分自身を白日の下にさらけ出したともいえるであろう。つまり、リスクをとった本なのである。  
 1990年代末からのソロスは、「グローバル資本主義の危機」(98年)、「ソロスの資本主義改革論」(2000年)、「グローバル・オープン・ソサエティ」(2002年)とグローバリザーションが進行する中での福祉の解体というテーマに挑戦し、市場原理主義を制御する新たな世界経済システムについて独自の構想を提示してきた。そのソロスが、経済における市場原理主義の過剰と政治における米国の単独覇権主義への傾斜が相関していることに気付き、国際責任を自覚した方向への米国政治の変革を意識し始めたとうことなのである。
 イラク戦争から一年、米国の世論にも微妙な変化が見られる。8割の国民が支持する形で踏み込んだイラク戦争であったが、戦闘には短期間で勝利したものの、むしろイラクの秩序は液状化し、イラクに支払うリスクとコストに米国民の心も凍りつき始めた。3月末時点での米軍のイラクでの死者は560人を超した。イラク戦費と駐留経費は2004年末までに2000億ドルを超すと予想され財政赤字となって米国民にのしかかりつつある。依然として、米国民の五割以上の人が「イラク戦争は戦うに値する戦争だった」としており、「サダム・フセインのような危険な専制体制を崩壊させたことは意義があった」と自らを慰めているのだが、本音の部分で「これ以上イラクの話は沢山だ」という萎えた気持になりつつあることも確かだ。民主党の大統領候補として序盤の段階で先行していたディーンが失速したのも、「イラク戦争に一貫して反対してきたこと」の過剰なアピールに対する国民心理の冷却があったというべきだろう。  
 静かなるイラク問題からの後退を米国民は望み始めているといえる。とくに、多くの良識的な米国民は、イラク戦争を境に世界の世論が9・11テロ後の米国に向けられた「同情と共感」から「嫌悪と軽蔑」に変化したことを感じとっている。ソロスのこの新刊も正にその心理を代弁し、アメリカの進路に警鐘を鳴らすものとなっているのである。

ソロスとの二度の面談
 私は二度ソロスという人物と面談したことがある。一度目は、私がニューヨークで仕事をしていた1990年の7月であった。その時、既にソロスの名前は国際金融の世界では轟いていた。私がソロスの名前を最初に耳にしたのは、86年にソロスが中国に対して「中国改革開放基金」として年間100万ドルを寄付することを約束したという報道であった。実は、この基金こそ中国の保守派が趙紫陽を攻撃する材料となり、89年の「天安門事件」の導線となったといわれる。ソ連邦崩壊の前年であり、東側といわれていた世界の改革開放に関っていたソロスにソ連邦の将来について質問した記憶がある。
 彼は「ペレストロイカ」を進めるゴロバチョフ体制下のソ連の将来について極めて悲観的な展望を語っていた。ソ連のIT化に関連した議論の中で、「ソ連とのビジネスモデルで儲けることなど今後10年は考えないほうがいい。私は、あくまで改革開放のため東側に関っているのだ」と語っていたのが印象に残った。旧ソ連・東欧に対しては、コメコン(東欧経済相互援助会議)のアドバイザーとして財政金融政策に強い影響力をもっていたソロスは、改革推進のための情報と資金を提供する中核としての役割を果たし、英「エコノミスト」誌をして「鉄のカーテンを崩した男」と呼ばしめた。
 二度目の面談は1997年の7月であった。やはりマンハッタンの五七丁目の彼の事務所での面談で、アジア金融危機が始まる直前であった。ソロスに7年前の面談の時の彼の「ソ連観」が的確であったことを語ると、笑いながら受け流し、話題を「オープン・ソサイアティー財団」の活動に移した1995年に故郷ブタペストに「中欧大学」を創設し、毎年2000万ドルの運営維持費を20年間寄贈するのだと眼を輝かせていた。またその時点で、既にソロスは国際金融市場の発展にそれを制御する国際機関の発展が追いついていないという問題意識に言及していた。
 ソロスの評価はまだ定まらないであろう。しかし、私はこの人物に経済人としての時代との向き合い方を見る。彼が時代の不条理と真剣に格闘していることは間違いない。


http://mitsui.mgssi.com/terashima/0405.html


「一本の鎖」:地球の運命を握る者たち‥‥あとがき
http://www.asyura2.com/0403/bd35/msg/149.html

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