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『レオ・シュトラウスとカール・ポパーの対話』 ― その4 ―
http://www.asyura2.com/0403/idletalk9/msg/769.html
投稿者 小魚骨 日時 2004 年 6 月 03 日 17:18:59:5fM4yUMte5cr2
 


ポパー「哲学史の常識に従いあなたも私も哲学の始まりをソクラテスに求め、ソクラテス以前とりわけソフィストについてはほとんど言及しないで済ませました。ソクラテスもソフィストと言えないことはないわけですが、ソフィストについてはどのようにお考えですか?」

シュトラウス「このようなことを言っていいのか戸惑う気持ちもありますが、近代哲学は、ソフィストの言説の剽窃とまでは言わないとしても、ソフィストによってとっくに表明されていた内容の蒸し返しでしかないと思っています。デカルトのコギト、カントの理性批判、ヘーゲルの弁証法、ニーチェやハイデガーの実存主義などなど、歴史の進歩によって生み出したとされる近代哲学が打ち出したとされるものは、実のところソフィストの言説の焼き直しでしかないと言えます。もちろん、体系化や論証の洗練度には見るべきものがありますので、コアは変わらないという意味でです」

ポパー「そのような見方は生前には一切述べていませんよね。西洋における近代哲学の隆盛よりも、十世紀前後のイスラム的ユダヤを含む中世イスラム世界の哲学論争の方が質的に高いという見方は示されていますが...あなたの見方に従えば、近代哲学は哲学以前とされるソフィストの時代に戻っただけということになってしまいます」

シュトラウス「哲学者全員を敵に回してしまうような愚を犯せますか?(笑)自然法思想、社会契約説、神の実在に関する不可知論、無神論、理性批判、弁証法、実存主義といった近代的とされる言説のコアは、ヘラクレイトス、プロタゴラス、ゴルギアス、リュコフロンなどの言説にすべて含まれているものです。近代のほとんどの哲学者にとっては、彼らの著作がプラトンやアリストテレスの引用以外にはほとんど残っていないことが幸いでしたね」

ポパー「悲劇というか喜劇ですね。人類の知性的進歩の成果とされている近代哲学が、哲学史的にはプレ哲学とされる内容のリファインでしかないということになるのですから...確かに、対外通商の拡大がもたらした民主政アテネという土壌で、個人主義的にならざるを得ないよそ者が知的活動をリードしたという歴史的現実は、近代興隆期の欧州によく似ていますよね。アテネには民主政を憎悪し寡頭政復帰をめざす貴族層もいたわけだし、ソフィストの教育対象は民主政のなかで選ばれるべき支配者予備軍でした。そうであれば、民主政の妥当性や政治的実践能力が言説の中心になるのは当然ですね。ソクラテスは、政治的中立というか、政治的実践を避けていましたが」

シュトラウス「だからこそ、歴史決定論や進歩なる観念を疑えと言っているのです(笑)近代ではびこるようになった国家や組織から自立して行う知的活動で生活資を得るというスタイルもソフィストが最初です。ソクラテスは、反民主政だったと思っています。彼の教え子から寡頭派の有力者が3人も出ました。そして、それが命取りになるとともに、プラトンのソクラテス擁護につながっていった。そのおかげで、ソクラテスはソフィストの汚名からは逃れることになります」

ポパー「今回のお話を伺って、あなたの言われる「回帰」という概念の現実的意味性が見えてきた気もします。ほとんどの人が気づかないまま、最高の知的活動である哲学が既にプレ哲学時代までは回帰しているとも言えますね。そして、今の世は、ペロポネソス戦争前後のポリス連合ギリシア世界に似ているはずだと...それなら、その先にあるものは...」

シュトラウス「東地中海地域でしかなったギリシアと世界化が目前になっている現代を同一視する気はありませんが、比喩としてはおもしろいかもしれませんね」

ポパー「あなたを師と仰ぐアラン・ブルームが『アメリカンドリームの終焉』で価値相対主義が蔓延した米国の状況に警告を発しましたがその状況が変わったとは思えません。そして今では、アラン・ブルームの流れを直接汲むとされるネオコンが、民主主義や自由を普遍的価値として掲げ、それを世界化するために軍事力を行使する政策を推し進めている。軍事力行使の非はともかく、それは価値相対主義を世界化することです」

シュトラウス「外面的にはおっしゃる通りです。民主主義や自由こそが価値相対主義の土壌です。ネオコンが私を師と考えているのなら、民主主義や自由を掲げるのはマヌーバーだとまでは言いませんが、隠しているものがあると考えるのが自然ですね」

ポパー「次回は差し障りがない範囲で、ネオコンについて思うところを聞かせていただければ思っています」

シュトラウス「政治家ではなく哲学者であらんとする私にとって、そのテーマはあまり気が進みませんね(笑)少し考えさせてください」

ポパー「それなら、あなたの理想とする国家について少し語ってもらうかたちにさせてもらいます」


(続く かどうか)
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「『レオ・シュトラウスとカール・ポパーの対話』 ― その1 ―」
http://www.asyura2.com/0403/idletalk9/msg/718.html

「『レオ・シュトラウスとカール・ポパーの対話』 ― その2 ―」
http://www.asyura2.com/0403/idletalk9/msg/739.html

「『レオ・シュトラウスとカール・ポパーの対話』 ― その3 ―」
http://www.asyura2.com/0403/idletalk9/msg/761.html

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