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中井正一におけるメディウムとミッテルに関する一考察  後藤嘉宏
http://www.asyura2.com/0502/bd39/msg/173.html
投稿者 愚民党 日時 2005 年 3 月 08 日 09:58:22: ogcGl0q1DMbpk

論文題目  中井正一におけるメディウムとミッテルに関する一考察

――中井の2つの媒介概念と、資料、官庁資料、本、図書館 


http://www.slis.tsukuba.ac.jp/~ygoto/study-mainachievement-dr.htm
                                                                   氏名   後藤嘉宏

 

  

論 文 内 容 の 要 旨

国立国会図書館初代副館長(1948-52在任)を務めた中井正一(1900-52)は、京都大学哲学科美学専攻に学び、戦前、映画づくりを実践するなかで、映像メディアを射程に組み込んだ、独自の美学理論を構築したとされている。さらに、戦前、彼は『美・批評』(1930-35)『世界文化』(1935-37)などの同人誌を実質的に主宰し、『土曜日』(1936-37)という隔週刊新聞を出すことで、言論活動を実践した。とくに『土曜日』は読者の積極的な投稿によって作られる新聞をめざしたという点で、画期的な試みがなされたと評される。このように中井の戦前の理論と実践は、戦後において、美学分野のみならず、マス・コミュニケーション論(新聞学)の分野で大いに着目された。

それと同時に、国立国会図書館支部図書館制度の構築などによって、官庁資料の組織化を試みた、彼の戦後の国立国会図書館における活動は、図書館情報学の分野で注目されてきた。

本研究では、加藤一英が1977年に書いた論文「中井正一の哲学美学思想と図書館思想」(『図書館学』30)、あるいは佐藤晋一が1992年に著した著書『中井正一・「図書館」の論理学』(近代文芸社)などで、一部の研究者が試みている、戦前の美学者・中井と図書館界に脚を踏み入れた戦後の中井との、継続性と異質性に関する考察を、改めて進めていこうとしている。それによって、マス・コミュニケーション論と図書館情報学との接合も図りたいとの展望を持っている。

とくに本研究では、中井のメディウム、ミッテルという2つの媒介概念を手がかりに、このような戦前の中井と戦後の中井とを、統一的に理解しようと試みている。このメディウムとミッテルとはともに「媒介」という訳語に相当する概念であり、双方ともに「媒介物」つまり「媒体」の意味と、「媒介すること」すなわちコミュニケーションの意味があった。では双方の概念の相違はどこにあるのか。メディウムとは知識人と大衆との間に距離があるものと考え、双方を異質なものとみなす媒介である。あるいは知情意、人間の部位相互のように、基本的に交わりあうことのない領域相互の媒介である。あるいは体系や理論、本などのように知識人固有の媒介物は、メディウムの媒介物である。具体的には、知識人が一方的に大衆に話しかけるような、一方向的なマス・コミュニケーションの状況もこれに相当する。他方、ミッテルは知識人と大衆とを基本的に対等と考えるような、同質なもの相互の媒介である。したがって、コミュニケーションの双方向性は、このようなミッテルの媒介に関連性が強く、中井が戦前実践した、読者の投稿で作られる新聞『土曜日』の刊行なども、このミッテルの媒介を目指したものと考えられる。またこのミッテルの媒介では、知識人の専有物であると考えられる理論というものの解体が目指される。さらに映画に注目する中井が重視するメディアである、カメラのレンズなどは、大衆と知識人の立場を対等にするし、透明な媒体としてミッテルの同質的な媒介を推し進めていく点で、ミッテルの媒介物であると考えられる。

このようなメディウム、ミッテル両概念による中井研究は、前記の加藤も佐藤も試みていない。このメディウム、ミッテルに最初に着目したのは、稲葉三千男である。稲葉は1969年に発表した論文「中井正一の“媒介”論」(『新聞学評論』18)において、中井にはメディウムの媒介からミッテルの媒介への志向が一貫してあったと指摘する。他方杉山光信は、1978年に発表した論文「言語・映画の理論と弁証法の問題――中井正一論の試み――」(『東京大学新聞研究所紀要』23)において、中井に両方の志向があり、結局は「メディウムに支えられたミッテル」が目指されたといい、稲葉を暗に批判する。また木下長宏は、1995年の著書『中井正一――新しい「美学」の試み』(リブロポート)において、稲葉、杉山両者への言及はないものの、中井が結局はメディウム、ミッテル問題を解決し得なかったと評する。さらに北田暁大は、2000年発表の論文「《意味》への抗い――中井正一の映画=メディア論をめぐって」(『マス・コミュニケーション研究』56)において、稲葉の主張の延長上に自らの論を展開している。これらの研究以外、この問題に関しては、拙稿があるのみである。

 中井のメディウム、ミッテルについての彼自身のテキストは極めて錯綜している。またいくつかの矛盾も存在する。しかし本研究ではその矛盾を解きほぐすことを試み、基本的に、中井の美学・哲学論文においては、戦前から戦後にかけて一貫して「メディウムよりもミッテルを」という志向が強く、戦後に記された彼の図書館論も、比較的有名な彼の標語「「実体概念」としての図書館から「機能概念」としての図書館へ」(中井正一 1951「図書の未来」)という表現にもみられるように、通常はその傾向が強い。しかし図書館論と同時期に書かれた彼の出版論を仔細に検討すると、彼には「メディウムに支えられたミッテル」を目指す志向が強いことが分かる。このことは何を意味するか。一つは彼自身が自らの晩年を意識して、本というメディウムの媒介物への拘りを示したということであろう。さらに、二つ目として、結局はレンズのような透明なミッテルの媒介は、コミュニケーションの対等性、双方向性をもたらす反面、理論や体系を壊し、異質なもののない世界を現前させるという問題が挙げられる。そのような世界において人々は、単なる断片的な情報の羅列で満足する可能性がある。近未来の図書館像を「「実体概念」としての図書館」として、データベースシステムの先駆けのように捉えていた中井であるだけに、このような本や資料が検索媒体と化すような現代的状況への懸念も、人一倍早く察知していたようにも思われる。

 本研究は4編構成からなる。第1編「研究の方法的議論」では、本研究の方法論を議論する。第2編「中井正一の哲学・美学理論にみられるメディア論」では、中井の哲学・美学理論を論じる。彼の哲学・美学理論において、ミッテルの媒介が中心になっており、戦前、戦後問わずこの分野の著述においてメディウムからミッテルへという志向が概ね読みとれる点を指摘する。第3編「中井正一の図書館論・出版論におけるメディア論」では、中井が戦後に書いた、図書館論・出版論を論じる。図書館論全体と出版論とで相違があるし、図書館論にも種々の議論があるものの、総じて戦後のこれらの著作において、中井がメディウムに支えられたミッテルを志向している点を論じる。以上の2編は中井のテキストや実践に内在した分析であるのに対して、最後の第4編「媒介者の権力性−−中井正一と現代」は、このような中井の中にある矛盾の意味、あるいは最終的にメディウムに支えられたミッテルを目指したことの、現代的な意義を論じようとしている。結局理論や体系を解体し、本が検索媒体と化す状況において、知識人と大衆、送り手と受け手とが対等になる状態が導かれるが、そうなるとかえって、本や知識人や理論体系以外の新たな媒介者が必要とされて、かえってその新たな媒介者の権力性を懸念しなければならなくなる可能性が生じる。その問題を中心にこの最終編は論じた。

 本研究は、以上の4つの編を通じて、中井がメディウムに支えられたミッテルを求めたことの意義を彼の揺らぎに即しながら内在的に分析し、さらにそのことの現代的意義も併せて考察しようとしている。さらにそれら「媒介」概念の検討を通じて、資料、官庁資料、本、図書館というメディアの意味を根底から問い直そうと試みている。

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