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2004年: アメリカ人にさようならを言う方法を、人類はいまだに発明していない 矢作俊彦
http://www.asyura2.com/0505/idletalk14/msg/569.html
投稿者 馬場英治 日時 2005 年 8 月 21 日 18:44:39: dcAX/x0KhXeNE
 

(回答先: 蘇生する合の手(馬場さまへ) 投稿者 ぷち熟女 日時 2005 年 8 月 20 日 19:37:48)

矢作俊彦『ロング・グッドバイ』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4048735446/249-4035757-6385905

横浜、横須賀。アメリカ人、中国人が、闊歩する街。主人公はその街の刑事。酒場で
知り合い、消えた友人は、本当に自分に犯罪の片棒を担がせたのか?圧力や妨害
を受けながら、一人、主人公は、真相を探します。暗躍する公安やアメリカ軍、やくざ。
最後の最後まで、深まる謎。真相を探る過程で明らかになる事実、発生する事件が
つながり、そして真相は・・・?

http://www.mypress.jp/v2_writers/tokyodog/story/?story_id=841021
04/12/26(日)16:05 | 読書感想日記-書評/本あれこれ


 矢作俊彦著『ロング・グッドバイ THE WRONG GOODBYE』(角川書店/1800円)
読了。

 タイトルはもちろん、レイモンド・チャンドラーの代表作『長いお別れ』へのオ
マージュである。「LONG」を「WRONG」に変えてあるあたり、いかにも矢作らしい。
 物語の終盤には、「飲む相手は間違わなかった。しかし、別れを言う相手を選び
損ねたな」という、タイトルに対応した決め台詞も用意されている。

 矢作の初期作品『リンゴォ・キッドの休日』で登場し、『真夜中へもう一歩』など
の作品の主人公となった、神奈川県警の刑事・二村(ふたむら)永爾の物語である。

 この作品は、『リンゴォ・キッドの休日』や『真夜中へもう一歩』よりもよくでき
ている。二村永爾シリーズの集大成だと思う。私は矢作のハードボイルド作品では
短編連作の『マンハッタン・オプ』がいちばん好きだが、長編ではこれがベストでは
ないか。

 かつて矢作は「ハードボイルドなんか好きじゃない。チャンドラーが好きなんだ」
との名言を吐いたが、この作品はタイトルのみならず隅から隅まで、チャンドラー
へのオマージュで成り立っている。

 『長いお別れ』が、探偵フィリップ・マーロウとテリー・レノックスとの「男の友
情」の物語であったように、この『ロング・グッドバイ』も、二村と謎めいた日系米
兵ビリィ・ルウとの苦い友情の物語だ。

 マーロウとレノックスも、二村とビリィ・ルウも、ともに酒場で出会う。そして、
物語の最後にはともに友情の終焉が待っている。
 『長いお別れ』の最後の一文は「警官にさよならを言う方法はいまだに発見され
ていない」であったが、『ロング・グッドバイ』は「アメリカ人にさようならを言う方法を、
人類はいまだに発明していない」と結ばれる。

 ただ、矢作は『長いお別れ』を「パクッた」のではない。物語の大枠をそっくり借
り、チャンドラー流の比喩やワイズクラック(登場人物が口にする気の利いた警句・
軽口)がちりばめられてはいるが、これはあくまで矢作俊彦の作品世界である。

 ビリィ・ルウの謎の失踪に否応なくかかわりを持たされた二村は、その責任を問わ
れて捜査本部から外され、単独で事件の真相を探っていく。これは、刑事を主人公
にしながら私立探偵のような行動をさせるために用意された設定だ。
 やがて、米軍基地の治外法権を利用した産廃処理という巨大利権をめぐる犯罪が、
明らかにされていく。

 終盤の謎解きがいささか性急にすぎて、ミステリとしては粗雑な作りという気がし
ないでもない。
 だが、それでもいいのだ。チャンドラーの小説がそうであるように、これは謎解き
よりも文体やセリフ、物語の雰囲気をこそ味わう小説なのだから。

 矢作という作家は、天才肌にありがちなムラっ気を濃厚にもっていて、ときどき平
気で小説を投げ出してしまう。
 たとえば、『コルテスの収穫』という長編は、「文庫書き下ろし全3巻」という触
れ込みで始まりながら、第3巻が出ないまま未完に終わっている(!)。
 だからこそ、矢作については次のように言われてきた。


 戦後生まれで「偉大な作家」と呼ぶに値する唯一の、いや村上春樹とならぶ作家で
ある。しかしまた、同時に彼ほど読者を落胆させ、裏切り続けてきた作家はいないだ
ろう(福田和也『作家の値うち』)


 しかしこの『ロング・グッドバイ』は、矢作には珍しく、最後まで丹念に書かれて
いる。やればできるじゃないか、という感じである。

 この作品の美点は数多い。
 まず、横浜の街や酒や車などについてのこだわりの描写に、品のよいユーモアと詩
情があふれていて素晴らしい。たとえば――。


 私が子供時代、この国ではバナナがまだ高級品でパイナップルは缶詰の中に生える
と信じられていた。そのころ横浜のPXには本物のパイナップルが山積みされていた。
そこは別世界だった。空気の匂いさえ甘やかで、一歩踏み込むとディズニー映画の登
場人物になったような気がした。 


 また、アイリーン(海鈴)という名のヒロインを始めとした登場人物がそれぞれ魅
力的だし、彼らと二村がかわす皮肉と感傷に満ちた会話も、気が利いていて愉しい。
こんなふうに――。


 「酔っぱらいは信用しないんだ。酔っぱらいは友達が多すぎる。酔っぱらいは毎晩
友達を増やす。そのうち誰が友達なのか判らなくなる。だから信用出来ない」
  *  *  *
「この年になると、人と別れるのは、そう辛くない。飯食って寝るのと同じ、普通の
ことだ。肩叩いて、また今度なって別れた者と二度と会えなくなっても、不思議でも
なんでもない。しかし、また今度でも何でもいい、別れも言わずにいなくなられるの
は、いくつになってもたまらないさ」


 静謐な詩情につらぬかれた、上質のハードボイルド。堪能した。

 なお、本書のどこにも注記がないが、この作品は、矢作が1995年に『別冊・野生時
代/矢作俊彦』というムックに書き下ろした長編『グッドバイ』を下敷きにしてい
る。
 したがって、「矢作俊彦が19年ぶりに書いたハードボイルド」という本書の売り文
句は、厳密には正確ではない。
 と、ファンならではの小ウルサイ文句をつけてみたりして……。


Hatena http://d.hatena.ne.jp/keyword/%CC%F0%BA%EE%BD%D3%C9%A7?kid=10579
「ロング・グッドバイ」矢作俊彦 http://blogs.yahoo.co.jp/snowkids1965/7624333.html
週間書評 http://www.so-net.ne.jp/e-novels/hyoron/syohyo/231.html

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