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琵琶湖は私たちに問いかけ続けている /三田村緒佐武
http://www.asyura2.com/0510/nature01/msg/423.html
投稿者 金十字架 日時 2006 年 4 月 16 日 13:09:52: mfAWtS4GF8MpY
 

(回答先: 琵琶湖:「謎」の微粒子 メタロゲニウム大量発生 (毎日新聞) 投稿者 ウソ捏造工場 日時 2006 年 4 月 16 日 08:11:18)

http://www.ses.usp.ac.jp/ses/nenpou/nenpou8/seitai/mitamura.html
◆転載◆


琵琶湖は私たちに問いかけ続けている
三田村緒佐武
環境生態学科

琵琶湖(図1)の年齢100万年の中,ここ50年たらずの間におかしくなってきた。これは,明らかに琵琶湖集水域に生活する私たちに起因する。琵琶湖の水は,琵琶湖と私たちの共存のありかたを,水の汚濁の進行のシグナルで私たちに問いかけ続けてきた。琵琶湖のいぶきが感じられる間に,私たちは琵琶湖とひざを交えて真剣に対話をすべきではないだろうか。”きっと今ならまだ間にあう”

1 琵琶湖が発信する環境シグナル
 かつて貧栄養湖に分類されていた碧い琵琶湖北湖も,高度成長期からの汚濁の進行(そのほとんどは植物プランクトンの増殖)に伴い,南湖と同じ中栄養湖にランクされていることが透明度が低くなってきたことからも理解できる(図2)。その間,琵琶湖が発信してきた汚濁シグナルのおもなものをたどってみると,1960年の浄水場におけるろ過障害に始まり,コカナダモ異常繁殖とセタシジミ減少(1965年),京阪神で問題になった飲料水のカビ臭(1969年),沿岸部の大型水生植物オオカナダモの異常繁殖(1971年), そして1974年には南湖の一部では海水浴ができなくなった。世間をにぎわせている外来魚対策も1975年のオオクチバス増加で気づいていたら琵琶湖生態系は今とは違っていただろう。さらに1977年にはウログレナ・アメリカーナによる淡水赤潮が発生し,県行政も琵琶湖の富栄養化対策を真剣に考えざるをえなくなった。そして,南湖に水の華(アオコ)が発生(1983年)し,1989年には湖水がコーヒー色を呈す事件が起こった。その原因はラン藻のピコプランクトンが1mlに数百万個体もの異常発生に起因する。アユのビブリオ病による大量斃死も同じ年であった。そして,1994年からは北湖にもアオコが発生するようになってしまった。北湖の湖底では硫黄細菌チオプローカが大量に発見され湖底環境にまで変化が忍びよんでいる。アユの冷水病(1995年)は稚アユを全国に供給して生活の糧にしていた漁業者にとって大打撃であったがいまだ解決できない問題である。また,これまで観られなかった大型ミジンコが北湖に出現(1999年)し研究者を驚かせた。付着藍藻の増加はエリ付着物として現われ(2000年)漁業者を困らせている。さらに,北湖の堆積物表面では2002年からマンガンノジュールを形成するメタロゲニウムが多く観察されるようになってきている(図3)。次に発信される汚濁シグナルはいかなる衝撃的な環境問題だろうか。それとも,あえいでいる琵琶湖に気づかない私たちへの発信をあきらめてしまうのだろうか。

2 琵琶湖が琵琶湖をつくり,琵琶湖に活かされる生活を求めて
今から30年近く前の信濃教育会の書物に,「私たちは,日々自然とともに生きている。自然は計り知れないエネルギーと安らぎを与え,私たちの心身を,より豊かに育てている。しかしながら,この偉大な母なる自然をどれだけ認識しているであろうか。**中略**。豊かな自然は,学問・芸術を生み,文化を育てる。信州は自然の宝庫で,全国に誇るべき幾多の学問や芸術を生みだした。私たちは今,その文化の累積に生きている。」のことばが掲載されている。自然との共生・共存はなにも環境時代の言葉ではなく,太古の昔から実践されてきた心ある人々の生活の知恵であり,信濃教育会にもあるように,その確認の歴史でもあった。しかし,人々の環境破壊はあまりにも大きくなりすぎ,総括と反省を脳裏と行動から忘れ去られるがごとくまでにしてしまった。ここにきて,再び環境修復に向けて行動をしようとしているわけだが,ただちに自然は私たちを許してくれるとは思えない。
環境学を学びこれを生かす責務を負う私たちが,西洋の科学技術文明のスパイラルから脱却し新たな文明の構築が急務であると思うのはアーノルド・トインビーと同様に当然のいきつく結論であろう。ただ,具体的に何をどうすればよいのかのイメージを共有するにはあまりにも私たち人類の歩んできた知識の範囲を超えてしまっている。人はこのまま滅びる運命にあるとことばでいうことは簡単である。しかし,新たな人間生存に対する哲学を構築できないならば,少なくとも現状の思想で少しでもその命を永らえる方策を見つけ出さなければなるまい。そのためには,目標とすべき未来の環境(琵琶湖)とはいかなるものかを見据える必要がある。見えないから目標に向かって行動することができない。未来のあるべき環境への合意形成をはかり前進するより道程はないような気がしてならない。
 琵琶湖環境の修復・保全がさけばれて久しいが,望ましい琵琶湖に改善されたとはとてもいい難い。近年さらに琵琶湖環境が訴えるいくつかの環境変化のシグナルがあるが,それは豊かさを求めるあまりの人間活動の増大に起因することはいうまでもない。
 信濃教育の原則「自然が自然をつくり,自然が私たちを活かす」を,私たちはものの豊かさと引き換えに心の豊かさを失ってしまったようだ。自然が自然をつくり,自然に活かされた生活を検証しようと,大氾濫原の大湖カンボジアのトンレサップ湖を訪れた。トンレサップ湖は,メコン川がつくったデルタにより支流トンレサップ川中流域の低湿地帯が湖に生まれ変わったのがその成因であるという。この浅い湖は,雨の多い雨季には乾季の10倍にも面積が膨れ上がり,バイカル湖の広さにも匹敵するという。通年の雨季でも3倍に膨張し琵琶湖10個分の湖が毎年誕生し乾季には消滅する。この雨季には,フランスの博物学者アンリ・ムオが130年前に再び発見して眠りを覚ましたあの神々の世界アンコールの遺跡にわずか十数kmにまで湖岸線が迫ることになる。アンコールワット観光の拠点の町シェムリアップからトンレサップ湖に通じる道端に点在するつくりの粗末な家屋は,雨季が近づくと軽々と引越しを済ませ新たな湖岸に漁の営みを変えることになる。これは,昔からの疑いのない生活のようにたんたんと行われる年中行事であるという。日本だったらさしずめ乾季の湖岸にスーパー堤防のごときを築き,エコトーン(水陸移行帯)を破壊して住空間拡大をはかり,湖(自然)と生活(人)との棲み分けをはかるに違いないと想像した。まさに,トンレサップ湖から恵みを得る民は,広大な湖とエコトーンに活かされた生活をしていたことになる(写真1,2)。
3 琵琶湖生態系に異変が生じている
 縦割り行政の弊害が叫ばれて久しいが,滋賀県では2001年に複数の関係部局等で構成される「琵琶湖生態系検討会」が発足した。庁内外の専門家で構成される「琵琶湖生態系研究会」が,琵琶湖生態系で生じる環境変動(環境問題にまで至っていない変化を含む)について生態系を総合的に把握してその原因の究明と対応策の検討を行っている。行政が琵琶湖環境の修復・保全に向け真剣に取り組もうとしている姿勢は画期的なことである。これが行政のあるべき姿であると研究会の成果を真摯に受け止め行政全般に波及していくことを望みたい。
さて,筆者も構成員の一員であるこの研究会が中間報告としてまとめた内容に私見を交えて紹介したい。琵琶湖生態系は,琵琶湖の沿岸帯,沖帯,深底帯,ならびにその集水域のサブシステムが有機的に密接に関わりこれらの総合体として機能している。しかし,研究会では,あまりにも琵琶湖生態系が多様かつ複雑であるため,それぞれ固有の特徴をもつサブシステム,とくに人の生活と密接に関わり住民にとって理解しやすい沿岸帯(水深が浅い南湖の生態系変動も検討課題としている)における生態系変動をテーマに上げて検討してきた。
植物プランクトン種組成に変化が
 琵琶湖の北湖に1977年に黄色鞭毛藻ウログレナによる淡水赤潮や1983年南湖に藍藻アナベナ(アオコ)が発生してから,琵琶湖の植物プランクトン種組成に大きな変化が観察されるようになってきた。例えば,シネココッカス(通称ピコプランクトン;1989年,北湖),ゴンフォスフェリア(1993年,北湖),アファノテーセ(1998年,北湖),オシラトリア(1998年,南湖),アファニゾメノン(1989年,南湖)など藍藻の発生が顕著になり,従来琵琶湖で出現していたプランクトン種が減少し経年の同調的季節変動パターンが崩れてきている。そして,新たに出現している植物プランクトンには粘性の鞘をもつものが多くなってきていることが特徴である。なお,1994年の大渇水以来,琵琶湖全域の湖岸帯で糸状性の付着緑藻スピロギラが大増殖するようになり,付着藻類にも異変が生じている。
 これら植物プランクトンの種構成の変化は,図4に見られるように窒素栄養塩(図では窒素栄養塩のほとんどを占める硝酸態窒素の分布変動を示している)の増加に伴い,植物プランクトン種間の栄養要求に対する競争関係が変化していることも考えられる。このことは,陸域からのシリカ供給の減少に伴い瀬戸内海の赤潮プランクトンが珪藻から他の種へ変化しているとの仮説と類似しているようにも思われ,琵琶湖の流入河川に建設されているダム・堰や農地・溜池などの止水域におけるシリカ除去(欠損)も琵琶湖の種構成変化に関係している可能性がある。琵琶湖生態系の変化という視点からも計画されているダムの是非について検討する必要があろう。また,エコトーン破壊を始めとする湖岸域における水質浄化機能が低下し,栄養塩が蓄積している沿岸小止水域での植物プランクトンの初期発生が関係することも考えられる。そして,地球温暖化や気候変動に伴う湖水温の上昇,瀬田川洗堰の水位操作に伴う湖流の変動など物理要因も影響を及ぼしている可能性がある。さらに,魚類相の変化に伴い食物連鎖系における食う食われるのトップダウン効果が水生生物群の相互作用に歪みが生じさせたことが,植物プランクトンに影響を及ぼすようになったことなども検証する必要があろう。
 しかしながら,植物プランクトンや付着藻の種構成とその現存量に関する基礎情報が不足していることや,生物群の相互作用は未解明であり,琵琶湖生態系の変化として特化するには至っていない。琵琶湖環境の修復・保全のためには,昨今の研究の成果主義にのみ価値を求める風潮をあらため,とくに,琵琶湖環境の地道なモニタリングが今までにも増して重要になってくることはいうまでもない。
エリ網に付着藻類がべったり
 琵琶湖を知りつくしているのは漁業者である。それは,琵琶湖に活かされ琵琶湖とともに生活を余儀なくされているためであろう。琵琶湖生態系の異変に最も早く気づくのは行政でも研究者でもなく漁業者である。エリ網に付着物がべったりつきエリ漁が思うようにできないと数年前から北湖でいわれてきた。調査の結果,南湖の付着物の主体は緑藻サヤミドロであり付着量も目立たないが,北湖の付着物は粘性をもつ糸状藍藻のフォルミディウムで網を洗っても落ちにくい。付着量は4月と9月にピークに達し5月から8月の間は付着物が減少する傾向がある。表面付近より少し深い深度で付着が顕著になることなどが明らかになり,この糸状藍藻は強光阻害を受けやすくいことが想像される。また,エリ網では,フォルミディウムを主体とし他の微小生物群を含む特有のミクロエコシステムを構成していることが解明された。
 研究会では,この理由として植物プランクトンの種構成の変化と同様に,琵琶湖水の窒素とリンの現存量比の増大と関係し,高い窒素とリンの比を好む藍藻が付着藻類でも出現するようになってきたと考えられた。また,北湖のエリ網設置深度は深い(8〜9m)ため大型水生植物が生育できず,付着藻類にとって網は優れた生育基質となり,北湖沿岸湖底に広く分布するフォルミディウム糸状藍藻がエリ網に付着し水温上昇に伴って網上で増殖し,さらに,糸状藍藻の粘性が他の生物遺骸や無機粒子などを付着させ厚い付着構造を形成していくのではないかと推測された。
 しかしながら,南湖でエリ網付着問題が生じないのはなぜか。また,この現象がここ数年前から顕著に見られるようになったのはなぜかなど不明な点も多い。
南湖を覆う水草の大繁茂
 琵琶湖における沈水大型水生植物の変遷をみると,第二次大戦後のまもなくの頃までは琵琶湖沿岸帯に広く生育していた。とくに南湖では近年の大繁茂に匹敵するほどの水草被覆面積であった(1953年の調査)が,1960年以降に急速に減少した。そして,1994年の異常渇水ののち被覆面積が著しく拡大して今日に至っている。1953年では在来種のみで占められていたがが,1960年代に入って外来種コカナダモが琵琶湖全域に繁茂し,1969年からオオカナダモも南湖で急速に分布を広めた。渇水期以降,再び在来種が回復している。南湖では近年沈水植物の大繁茂により透明度がよくなってきているが,航路障害や湖岸への水草漂着による景観悪化と悪臭が問題視されている。
 透明度の増加は,水草帯では湖流速が減少したためただ単に湖底堆積物の巻き上がりが少なくなったためか,沈水植物が植物プランクトンとの栄養要求あるいは光環境の奪い合いに優位であったためかの詳細は不明である。沈水植物は,栄養塩除去機能など水質改善と密接に関係することや,琵琶湖生態系本来の構成要素と考えられるため今後適正な保全対策が講じられるべきであると研究会では位置づけている。
なお,水草群落内の湖底付近では,とくに夜間の植物の呼吸の卓越と湖流速の低下が重なり貧酸素化が生じており,湖底堆積物からの栄養塩や有害化学物質の溶出による新たな環境問題をきたす可能性があることが研究室の卒業研究でも明らかになっている。また,航路障害や流れ藻による景観悪化問題は琵琶湖本来の自然現象であり,琵琶湖に活かされるという立場から私たちの生活のあり方を問い直す作業が必要になろう。
 しかしながら,大型沈水植物群落の水質浄化機能の詳細な機構は明らかでなく,また,魚類などの産卵・生育場所としての水草帯の役割などの評価も積極的に進めていく必要がある。
外来魚問題と魚類相の変化
 琵琶湖の魚類はその生態と生態系における役割がよく解っていない。これは魚類が遊泳生物であり,試料採集の難しさや調査に漁業者の協力が必要になることによる。漁業者は生活の糧になる魚種の生態はよく理解しているが,いわゆる売れない魚種にはまったく興味がないといっても過言ではない。近年,外来魚の現存量やその生態が比較的よくわかってきたのは,外来魚の増加が漁の対象になる在来魚に影響を与え漁業者にとって死活問題になってきたことや,琵琶湖生態系にただならぬ影響を及ぼすことが明らかになってきたからであろう。
さて,漁獲からみると,魚食性の外来魚オオクチバスやブルーギルは沿岸帯の魚類相のほとんどを占め,沿岸帯を生息・産卵の場とする温水性魚類が減少している。アユ,ビワマスなどは資源が比較的安定しているが,在来種の多くは減少しているか不安定な状況にある。春には外来魚種の現存量が増大しこの季節に産卵するフナ類,モロコ類などが減少することや,タナゴ類やワタカなど沿岸水域を生息場とする魚種の減少にも影響を与えていることが明らかになった。
琵琶湖には固有魚種を含め50種以上の魚類が生息し,特定の種が特出することなく相互の関係を保っていた。しかし,ヨシ群落や内湖の消滅・減少,湖岸の人工改変,流入河川やクリークの堤などで緩やかなエコトーンが分断されてきたことが魚類相の変化に関係していたことが明らかになりつつある。在来魚種による付着藻類や底生生物などの捕食の減少など食物連鎖におけるトップダウン効果としてさまざまな水生生物群に影響を与えるなど,湖内の物質循環系に影響を及ぼしているなどが研究会の議論である。
しかしながら,魚類相の変遷と琵琶湖ならびにその集水域の環境要因の変化との時系列的関係,魚種間および他の生物群との相互関係の詳細,在来種の生態系保全効果など今後解明しなければならないことも多い。
さて,琵琶湖の魚類あるいは漁業者の適正規模とはいかほどであろうか。もちろん,そこには琵琶湖本来の姿における適正規模ではなく水産資源という視点も加味する必要がある。漁業者は過剰に期待して琵琶湖を養殖水域と思い違いをしてしまっている(アユの放流がそれに近い)のではないかと心配するのは私だけではあるまい。
北湖の深層水は酸素がなくなるのか
 琵琶湖の有機汚濁の程度を知る一つとして、湖水の循環期直前(12月ごろの停滞期末期)の深層水の溶存酸素現存量を調べる方法がある。これは、琵琶湖が温暖一回循環湖(亜熱帯湖)であることによる。停滞期の深層水は決して大気とふれることなく、循環期になってはじめて深層水は湖面まで上昇到達して大深呼吸する。いいかえると、生産層で生産された自生性有機物や湖外から運ばれた他生性有機物は微生物酸化分解を受けながら深水層に達し溶存酸素を消費するため、深層水中の溶存酸素の減少の程度を調べることから、琵琶湖の生産や汚濁の程度を知ることができることを利用したものである。
 循環期前の深層水中の溶存酸素が1950年から減少している(図5)。この傾向は透明度の低下(図2)とも一致し、高度成長期からの人為的栄養塩流入負荷量の増大による植物プランクトンの増殖に起因する。北湖に広がる深底部は今津沖(本学の湖沼環境実験施設が毎月定期観測している定点がその中央部で水深は約90mである)では、1985〜1987年、1999年そして2002年に例年にない低酸素が観測され、深層水中にリン酸態リン現存量が高くなることが、滋賀県衛生環境センターならびに湖沼環境実験施設の観測結果から明らかにされている。とくに2002年には飽和度8%にまで減少した。この低酸素化は琵琶湖水の汚濁の進行とともに、春季の水温上昇が例年になく早く停滞期が長かった(深層水の酸素消費期間が長い)ことも一因していると考えられる。この広大な深底部では低酸素化に伴い湖底堆積物からマンガンが2価に還元溶出し、これを再び4価に酸化させるマンガン酸化細菌メタロゲニウムが大量増殖して粒上のマンガンノジュールがいくつも観察されている。
 地球の温暖化や気候変動により、琵琶湖の水温上昇に伴い生物生産が高くなり,微生物分解活性が高まることや停滞期が長くことにより,深層水中の溶存酸素がますます減少していくことが想像される。とくに,密度の高い溶存酸素をたっぷり含んだ春先の雪解け水が減少すると,湖底環境がますます悪化していくことが危惧される。その意味からも、流域で計画されているダム建設が琵琶湖環境に与える影響を検討するとともに、既存のダムにおいても冬季から春季にかけての放流計画の再検討を迫れることになるだろう。また、湖底直上水の低酸素化に伴い堆積物からリンを始めとする栄養塩の溶出が植物プランクトンの異常増殖をまねく可能性についても考慮しなければならない。
 しかしながら、低酸素のもとで湖底堆積物から溶出した栄養塩が、酸素飽和にある生産層水中にまで鉛直輸送されるのか。深層水の酸素消費に寄与する自生性あるいは他生性有機物の質と量に近年変化が生じているのかなど未解明の部分も多い。このことは、琵琶湖におけるCODとBODの乖離現象の解明の一つの視点すなわち難生分解有機物の増加とその運命に関する研究からも検証していく必要があろう。
底生生物にも変化が
 沿岸帯で底生生物を1969年と1995年に調査した記録がある。どのように変化したのだろうか。巻貝カワニナ類が減少(多くの琵琶湖固有種の減少)しヒメタニシが増加した。二枚貝シジミ類が減少しタテボシが増加した。また、ユスリカや他の無脊椎動物の現存量も激減した。これは底生動物の生息環境の堆積物粒子径が泥質化し砂泥質や砂質が減少したことにも起因するようである。
 前述したように,北湖の深底部では水温上昇と低酸素化の傾向にある。これに関係してか,1991年に硫化水素をエネルギー源とする硫黄酸化細菌チオプローカが発見された。底生動物ではミミズ類が個体数・現存量とも優占するが現存量は減少している。かつては北湖の湖底堆積物をエクマン・バージ採泥器で採取すると必ずといってよいほどユスリカ幼虫が採れ湖岸域ではユスリカ成虫の襲来があったことを記憶している。今ではユスリカ幼虫は実習学生に見せようとしても採取されず採れるのはイトミミズばかりである。そして,1994年以降ミズムシやコガタウズムシなど沿岸性の底生動物が深底部に侵入・繁殖するようになってきた。
 これは,沿岸帯で河川改修やダム建設により琵琶湖への土砂供給が減少したことや,農地からの濁水の流入や,富栄養化による植物プランクトン生産の増大が底質を変化させたことが関係する要因であろう。近年の深底部環境の変化から,今後,深底部で低酸素化が進行すると生物多様性や生息密度と現存量が減少することも考えられる。
 しかしながら,これら底生生物の変化の要因の詳細は明らかでなく,今後の研究会の検討課題である。

 以上は琵琶湖生態系研究会でおもに検討されたサブテーマであるが,これらは図6に示した琵琶湖生態系変動の一部である。琵琶湖のあるべき姿と現況を総合的に把握・検討し,琵琶湖環境を修復・保全していく必要がある。
4 碧い琵琶湖に復すために
昨年春に開催された「世界水フォーラム」でまとめられた世界湖沼ビジョンは,琵琶湖のゆくすえをも見据えた参加者の考え方であろう。「人間社会の生存と経済発展のために,その基盤をなす自然(琵琶湖)を劣化・枯渇させることなく存続しつづけることのできる社会へ移行する」という。私たちの課題が「持続可能な開発」であると再び位置づけている。私には持続可能な開発はありえるとは思えない。持続可能な琵琶湖集水域の空間には,おのずとその適正規模があるはずである。琵琶湖に負荷を与える近江盆地にははたして幾人の生活が許されるのであろうか。滋賀県民の物質的享受と琵琶湖環境の保全との両立はありえないことを肝に銘ずる必要がありその確認作業を急がなければなるまい。
自然との共生は自然の厳しさ過酷さのルールを身体で理解してはじめて共生圏に加わることができる。都会人が山村に住み移ったりエコツアーと称して自然界へ踏み入れたりだけではとてもこれを成しとげるための作業といえない。インディヘナやイヌイットが自然と共存させていただいている程度であろう。私たちは,琵琶湖生態系に活かされているという原点に立ち戻らなければならない。まさに,琵琶湖が琵琶湖をつくり,私たちはその手助けをするほか琵琶湖の再生はありえないことを基本として生活していく必要がある。
 琵琶湖の環境問題を解決するために湖沼生態系を十分理解しないで手を加えると湖の破綻をまねくことがしばしばある。湖の構造と機能を把握した上で,湖の環境改善と管理を行うことが望ましい。そもそも地球には「人が活動する場」「人と自然が共存する場」「人が浸入してはならない場」がある。いいかえると,人にその場を提供してしまった人工的都市環境,琵琶湖集水域のように人と自然がお互いに動的平衡を保ち共存しなければならない環境,そして,地球に数少なく残っているアマゾン奥地や極地など本来の自然環境の三つがある。今,私たちが克服しなければならない課題は,二つ目の人と自然が共存する場の環境問題である。琵琶湖の環境問題を解決する方法として「環境認識」「環境改善」「環境理念」があるが,その中でも身近な水環境に,関心をもつ,働きかける,理解する,の環境認識と,琵琶湖の環境問題をどのようにとらえ行動すべきかを考える哲学と倫理,ならびに未来の琵琶湖を託す人たちへの環境教育(環境理念)が重要である。環境問題が深刻な場合は別として,環境認識と環境理念をふまえ,その上で琵琶湖のあるべき姿を創造する(環境改善)するようにしなければならない。
琵琶湖のあるべき姿を構築するためには,まず,琵琶湖をよく知ることから始める必要がある。私たちが日常接している琵琶湖がどのような特徴をもつのかを世界の湖と比べてみることも重要である。その上で琵琶湖を科学し,琵琶湖を理解するように努めなければならない。さらに,琵琶湖の環境問題を考える上で,世界で生じている湖沼の環境問題を理解し,琵琶湖で現在問題になっているあるいは将来問題になる可能性のある環境問題を総括することも重要である。
 100万年かかって育まれた碧い琵琶湖を,今まさに私たちは瞬時に破壊しようとしている。私たちは,碧い琵琶湖をとりもどし曾孫に棲み良い環境を残せるだろうか。いま,私たちが行動しなければならないことは,自らの生活の自己完結をめざすことではないだろうか。私たちは,環境問題の解決に向けて,私たちの生活のあり方を根本から問い直すことが求められており,そのために,心の倫理,すなわち「環境倫理」を自らが構築していくことがますます重要になってくると思われてならない。


※図表は紙面の関係上省略した。


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コメント
1. 2021年5月29日 13:43:30 : 4D3OjxhHhg : TEswdkdERG1YZ0E=[488] 報告
琵琶湖の魚を食べたものとして、つくつく感じるね。自然破壊を、琵琶湖から水を引く京都水道の水質もあるから、政府、京都、滋賀は研究調査しろ!

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