★阿修羅♪ 現在地 HOME > 番外地4 > 520.html
 ★阿修羅♪
次へ 前へ
「需要が供給をつくる」 ケインズ理論の基本構造
http://www.asyura2.com/05ban/ban4/msg/520.html
投稿者 任那真司 日時 2005 年 10 月 04 日 13:36:08: .bjsXEixOlLHg

(回答先: 「こうやって暖めないと入れた時冷たいよ」(他にもっとイイ暖めかたがあると思う…) 投稿者 国松三郎 日時 2005 年 10 月 04 日 13:06:09)

c35-1 時代の要請としての『一般理論』
先ずケインズ経済学を巡る歴史的背景を概観すれば次のようになります。1929年にウオール街の株式暴落に端を発した世界恐慌は、その後全世界に波及し、物価の下落、生産や貿易の停滞、銀行や企業の倒産、労働者の失業という未曾有の事態を招き深刻な政治社会問題をもたらしました。この資本主義経済体制の全般的な危機状況のまえに、自由放任を基本とするそれまでの経済学の体系は根本的な再検討を迫られることとなりました。このような時代状況のもとでケインズは1936年に有効需要と流動性選好の概念を中心に据えた新学説『雇用・利子および貨幣の一般理論』を発表しました。こうしてケインズは古典派以来の自由放任主義の経済に代わって国家の経済への積極的介入をはかる修正資本主義に理論的根拠を与えました。

c35-2 ケインズ理論の展開と限界
ケインズ理論そのものは1930年代の大不況という歴史的背景のもとでの大量失業の原因究明という性格から短期静態論と呼ばれる伝統の域にとどまっていました。したがってケインズ理論の長期動態化を巡るいくつかの課題は後の経済学者にゆだねられることになりました。それは大きく次の三つの発展方向にまとめることが出来ます。

サムエルソン、ヒックスによる所得分配論・景気循環論への発展
ハロッド、ドーマーによる資本蓄積論・経済成長論への展開
トービン、クラインの貢献で知られる計量経済モデルによる経済予測への進展
一方、ケインズ理論も発表から70年近くが経過した昨今では、市場経済の地球規模化、一国資本主義の限界、社会資本投資の評価、国際公共財のあり方、環境生態系への対応などの面でその有効性の陰りが指摘されてきました。

c35-3 セー法則の否定としてのケインズ革命
ケインズ経済学はその思想性を巡ってしばしばケインズ革命と言われます。それはセー法則の否定によってそれまでの経済学の基本命題を塗り変えたことを指します。セー法則は別名「販路法則」とも呼ばれ「供給はそれ自身の需要をつくる」とするものです。貨幣はたんに交換の媒介手段であるから販売はその反面において購買である。したがって社会全体としては生産物の総供給は恒常的に総需要に等しい。その結果として部分的な過剰生産はあっても一般的な過剰生産はあり得ない。そこには商品はつくれば売れると言う不足の時代の前提があります。しかし現実には売れ残りとか不況が発生しますのでセー法則が成り立たないことは明らかです。つまりそれまでの経済学はケネーやマルサスなどを別とすれば生産系ないし供給側に立脚した経済学であり、消費系や需要側からの影響などの経済過程全般を視野に収めたものではありませんでした。

c35-4 ケインズの着眼点と接近法
大不況という現実問題に取り組むに際してケインズは非自発的失業の存在に注目して不完全雇用下における均衡の成立を論証しました。ケインズによれば次のようになります。消費と投資からなる有効需要の大きさが雇用水準を決定するのであり、国民所得は消費と貯蓄に振り分けられて行くが貯蓄と投資は利子率によって均等化するのではなく利子率は流動性を手放すことに対する報酬である。したがって投資と等しい貯蓄が形成されるような所得水準と雇用水準が決定される。これが不完全雇用下における均衡の成立の筋書であります。それ故に、完全雇用の水準を実現するためには金融政策並びに財政政策による有効需要の創出や調整が必要である。これを短く言えばケインズは従来の発想を反転して「需要が供給をつくる」とし貯蓄と投資を結び付ける要因を流動性選好に求めました。なお有効需要とは信用に裏打ちされた需要を意味し漫然とした欲望と区別します。

c35-5 経済学を巡る根本問題
上述の経緯に補足的な説明を付け加えます。ケインズは考えました。それまでの価格決定機構を基本とする経済理論は論理的に無矛盾なのに現実的に妥当性を欠くのは何故だろうか。彼の問題意識の根底には資本主義経済の自律性に対する疑問がありました。それは経済恐慌が発生し巷に失業者が溢れている現実を当時の経済学が説明し得ないギャップを意味します。個別の事象としてはセー法則も価格決定機構も正しいけど社会全体としては問題が生じる。これはミクロとマクロの「合成誤謬性」あるいは「集計問題」と呼ばれます。ミクロを企業としマクロを政府とすれば政府がこのギャップを政策的に調整すれば集計問題は解消するはずだ。この理論を構築して実施体制を整えたのが修正資本主義といえます。しかしケインズ理論にも問題は残りました。それはマクロ経済とは政府レベルではなく地球レベルではないか。価格理論は瞬間投入瞬間産出が前提となり時間・空間・主体の概念が欠落していて現実を説明していない。この2点はケインズ革命以前の経済学を巡る根本問題といえます。

c35-6 ケインズ理論の核心部分と残された課題
ケインズ理論の核心部分は図c35に空色で示した投資需要の決定機構にあります。ケインズ経済学の意義は、有効需要の原理を通してそれが成立する背景としてのマクロ経済の仕組みを解き明かした点にあります。次に図c35ケインズ理論の基本構造(以下「ケインズの図」と呼ぶ。)と図c30市場経済の仕組みを対応させて考察を加えると次のことが言えます。なお「ケインズの図」は末尾[参考文献]を参考にしてサイト作成者の責任において再構成したものです。

ケインズの図における各要素の配置は、基本的に市場経済の構図に対応している。
ケインズの図における流れの向きは時計回りとなっていて、これは市場経済の図に示す赤線つまり貨幣の流れの向きと一致している。これは貨幣(ケインズによれば有効需要)が経済過程の制御機能を持つことを意味する。
しかしケインズ理論における投資需要の決定機構は民間と政府の意思決定が混在していて市場経済の仕組みと対応していない。つまり官民役割り分担が不明確であり、政策名目で官側の過剰な関与を招いている。”修正”資本主義と呼ばれる所以はここにある。
貨幣による制御の考え方は交換モデルで述べた貨幣は情報の担体とする言明と通底している。そこで「共役的写像関係」と述べたことは、市場経済の図に示す実線と赤線の対応関係に相当する。赤線経路がケインズの図における時計回りの経路と対応する。
ケインズ理論におけるマクロ経済は国民国家が経済主体の単位であるのに対して電脳経済学は地球系が経済単位となっている。したがって現行経済系との結合は、国際貿易の仕組み、制度の国際化、国家間の調整、資源評価など各種基準の標準化を通して集計可能性が保証される必要がある。国家レベルあるいは地域レベルへの適用に際しては地域分割の手続き並びにそれに対応したマクロ数値の割り振りが必要となる。
このマクロとミクロの合成にはトポロジー理論が援用可能である。これはGIS/DB技術体系としてすでに現実化されつつある。
ケインズ理論における投資需要の決定機構は、代謝モデルにおいては金融商品あるいは負財の市場化を通して市場機構に吸収される。
一方のマルクスは貨幣の本質に迫る研究を完成させ史的唯物論において文化の概念を上部構造として定式化した。しかし、貨幣と情報の対応関係はもとより貨幣機能自体に対しても否定的だったのは惜しまれる。電脳経済学では終始一貫して情報蓄積を帰結とする物理要素の働きの文脈から経済過程を捉えている。
[参考文献]
(1) 図説経済学体系1 『経済学』 戸田 武雄監修 学文社 p178
(2) 有斐閣新書 『ケインズ一般理論入門』 浅野 栄一 有斐閣 p147
(3) 『J・M・ケインズの経済学』 D・ディラード著 岡本好弘訳 東洋経済新報社 p64

 次へ  前へ

▲このページのTOPへ      HOME > 番外地4掲示板

★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/  since 1995
 題名には必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
掲示板,MLを含むこのサイトすべての
一切の引用、転載、リンクを許可いたします。確認メールは不要です。
引用元リンクを表示してください。