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雨宮処凛が行く:遭難フリーター、の巻 = マガジン9条
http://www.asyura2.com/07/senkyo36/msg/180.html
投稿者 ダイナモ 日時 2007 年 6 月 06 日 19:56:56: mY9T/8MdR98ug
 

http://www.magazine9.jp/karin/070606/070606.php


朝、キヤノンの工場に行く前、納豆ごはんをかきこむぶっち。「顔面インパクト」という点では、21世紀の映画史でぶっちぎりトップのシーンだろう。(以下、写真はすべて映画『遭難フリーター』より)

 数日前、あるフリーターが「遭難フリーター」というドキュメンタリー映画を完成させた。何を隠そう、私はこの映画の「アドバイザー」というよくわからない肩書きであり、『遭難フリーター』というタイトルの名付けの親でもある(プロデューサーは映画監督の土屋豊氏)。
 監督であり、主役でもある岩淵弘樹(以下、ぶっち)は現在23歳、フリーター。出会ったのはもう4年前だ。たまたま用もないのに山形の大学に行った時、学生だった彼がいて、なんかよくわかんないけど酒飲んでるうちにその場にいた学生たちをイラクに連れていくことになり、開戦直前のバグダッドに学生2人、フリーター1人を「人間の盾」として連れていったのが03年(今考えるとそうとう無謀だよな・・・)。
 全員、イラクから無事生きて帰ったわけだが、その後、ぶっちは大学を留年したり、05年の郵政選挙の時は思わず小泉を支持したり、なぜか突然靖国神社に行ったりしながら、いつの間にかキヤノンの工場で働く「派遣労働者」となっていた。そんな彼の半生については『生きさせろ! 難民化する若者たち』でも書かせて頂いた。
 彼がキヤノンの工場に人材会社大手の日研総業から派遣された背景には、様々な事情がある。大学の奨学金をはじめとする借金。たった1単位足りなくて留年してしまったことから内定が取り消しになった就職。留年のために半年分の学費、54万円を親に頼らず工面しなくてはならないという現実。そして、東京に行きたいという夢。
 そうして彼は、東京ではなく、埼玉のキヤノンの工場に派遣される。映画はそんな彼の日常を綴ったものだ。朝6時台にけたたましく鳴る目覚まし時計。住んでいるのは派遣会社の寮。派遣会社から貸し出された自転車はタダで支給されているものの、なくしたら1万6000円とられるという規則がある。毎日毎日、プリンタのインクにフタをつけるという単調な仕事。自らの仕事を彼は「頭のいいオランウータンでもできる仕事」と表現する。そんなキヤノンの純利益は05年度で3800億円。しかし、彼の時給は1250円。月収は約19万円。ここから寮費や光熱費が引かれ、手元に残るのは12、3万円。毎月の借金返済は6万円。東京に住むためにお金をためたいが、絶望的にお金はたまらない。そして時給も、何十年働いたって「派遣」である限り、一円も上がらない(それどころか今年3月、キヤノンの埼玉の工場で働く派遣社員の時給は一斉に100円下がった)。


行くとこなくて、金もなくて、日雇い派遣のあと、マクドナルドで時間を潰すぶっち。所持金は1000円と少し。この後、漫画喫茶の5時間パックでなんとか仮眠をとってまた翌日の日雇い派遣へ。死ぬぞ。

 そんな彼の周りには、厳然たる「格差」が存在する。大手レコード会社に就職した元同級生。正社員としてバリバリに働く彼は、ぶっちに「努力が足りない」と言う。その彼は、「2万人その会社を受ける人がいたら自分が一番やっていた」と豪語するほど、就職活動に命を賭けた。なんと彼は、エントリーシートに10万円もかけたのだ(・・・)。高級な紙を使ったり、紙にその会社のマークの「透かし」を入れたり。そうやって彼は「会社」に猛アピールし、正社員の座を手に入れた。ここまでくるとカルトだ。
 かたや、ぶっちと同じくキヤノンの工場で働く派遣の若者は「正社員になりたい」「ボーナスがほしい」と肩を落とす。「なんか、派遣の人って顔が暗いよね」とぶっちと語り合う同僚は、元理容師。しかし、理容師でやっていけるかという不安から派遣に来たらしい。なぜなら、彼の両親も理容師だが、それだけでは食べていけず、清掃のアルバイトをしているからだ。

 ぶっちは平日はフルタイムでキヤノンの工場で働き、土日は東京に出てきて日雇い派遣のバイトをする。働いても働いてもお金はたまらず、手持ち300円で野宿する場所を探すような「遭難」DAYS。そんな彼は、テレビ番組に取材される。顔にモザイクをかけられ、夕食に具のないそうめんを啜るテレビの中の彼の姿は「不幸で貧しい派遣労働者」そのものだ。ある日、彼は酔っぱらった団塊オヤジに「フリーターなんて奴隷なんだ、フリーターのフリーは企業の自由なんだ、お前たちは奴隷なんだ」と絡まれる。フリーターの彼にまとわりつく「負け組」「奴隷」という言葉。
「俺は誰に負けた? 俺は誰の奴隷だ? 」
 怒りはある。だけど、どうすればいいのかわからない。そもそも、誰と闘えばいいのかわからない。いつの間に勝手に「負け」にされたのか。


同じく日雇い派遣のワンシーン。日雇い派遣の仕事内容は引っ越しや製本工場、東京ドームの案内係などなど。現代日本でフリーターにお世話になっていない人など誰もいない。もっと激しく感謝し、時給も上げるべきだ。

 日雇い労働で過ごす23歳のクリスマスイブ。その夜、一人で食べる牛丼。マクドナルドや漫画喫茶、路上で明かす夜。キヤノンの工場のロッカールームには、派遣社員はキヤノンの工場のゴミ箱を使うなという貼り紙が貼られている。世間で言われる「フリーター問題」とか「格差社会」とか「若者の貧困」とか、そんなこととは関係なく、映画の中には、ただ、必死で生きる23歳のぶっちがいる。「不幸で貧しい派遣労働者」というレッテルを貼られながらも、彼は真摯な試行錯誤のただ中にいる。

 私も含め、多くの書き手やマスコミが不安定な若者の姿をとらえてきた。その当事者からの逆襲が、このドキュメンタリー映画だ。格差とかフリーターとか負け組とか生涯賃金とか、それらモロモロに「うるせぇ、俺は生きてるぜ!!」と逆ギレしたぶっち。貧乏で、未来がわからなくて、不安で、生きづらくて、だけど無性にエネルギーには満ちていて、だけどそのエネルギーをどこに向けていいのかわからなくて、そんな「超青春映画」に、私は猛烈に感動し、泣いた。

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