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二百年の子供−童子について(羽鳥ログハウスの四季)
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投稿者 gataro 日時 2010 年 7 月 03 日 16:05:13: KbIx4LOvH6Ccw
 

http://blog.livedoor.jp/mozart08/archives/1048706.html

2010年07月03日
二百年の子供−童子について

今朝の朝日新聞に、「劇場の夢 いつまでも」と題した井上ひさしさんのお別れ会の記事が掲載されていた。丸谷才一さん、大江健三郎さん、栗山民也さんお三方の弔辞もあわせて掲載されており、その中で、丸谷才一さんの指摘が気になった。

平野謙が30年代初頭の日本文学について、芸術派と私小説とプロレタリア文学が並び立つという図式を示し、この図式が現代にも当てはまると指摘する。

「芸術派にあたるのはモダニズム文学で、代表は村上春樹の、アメリカ批評の用語で言えばロマンスでしょう。私小説は、作者身辺の事情に好んで材を取るという意味で大江健三郎ではないか。そしてプロレタリア文学を受け継ぐ最上の文学者は、井上ひさしに他ならない。その志は一貫して権力に対する反逆であり、つねにに弱い者の味方であった。」

プロレタリア文学の最上の継承者として井上ひさしさんを位置づける視点については、また別のところで考えてみることとして、大江健三郎さんを「私小説」の系譜に入れる文学観に、驚き、軽い違和感を覚える。

『個人的な体験』以来、障害を持つ子供との共生が一貫した小説の構図になっていること、それは正に「身辺の事情に材を取る」ことなのだろう。

一方では大江さん自身は「想像力」の重要性を言い続け、ある意味方法論として自らを呪縛するほどの虚構空間の広がり(神話的空間への憧憬と言っても良い)などは、私小説の対極あるいは「私」の向こうに突き抜けたところに在る永遠なり滅私の祈りのようなものなのだと思っている。

さて今回は『静かな生活』の番外編のような作品、『二百年の子供』である。

二百年の子供
著者:大江 健三郎
販売元:中央公論新社
発売日:2003-11-26
おすすめ度:
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いわゆる「ピンチ」の状態からの回避として、アメリカの大学に避難する父親と保護者のように同行する妻、残された子供たちは父親のふるさとである四国の山間の生家に滞留する。その不思議な冒険を柔らかな分かりやすい文体でかかれた作品。

他の大江さんの作品で何回も描かれる「童子」であるエイスケサンが、温もりを感じさせる等身大の若者として描かれており、もっとも自然に理解し受容できる。ファンタジな作品で逆にリアルな生身の人間として描かれると言う、いかにも大江さん的な逆説でおもしろい。

個人的には大江さんの作品は、私小説の系譜とは異なるものと理解している。では私小説的なものとは何かと問われると、それは非常に表現しにくいものであって、どんな作家であろうと個人の体験や経験、心情、心境などを土台にしなければ何も書けない。それをもって、ではすべての作家は「私小説」であるか。

大江さんの場合、身辺から材を取ってきても、目指すのは無私の高みであって、それは祈りのような個人の一途さこそ、私小説と一線を引いていると思う。大江さんは知の鎧の下に、存外、宗教への傾倒を秘めている。


 

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