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書評「映画は自転車にのって」〜批評を通して時代と格闘(レイバーネット)
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投稿者 gataro 日時 2010 年 12 月 16 日 08:45:19: KbIx4LOvH6Ccw
 

http://www.labornetjp.org/news/2010//1215sasaki
書評「映画は自転車にのって」〜批評を通して時代と格闘(レイバーネット)

 

レイバーネットTVの映画コーナー「今月の一本」でおなじみの木下昌明さ
んの映画批評集が出た。タイトルは『映画は自転車にのって』。なぜ「自転車」
なのか。前書きによれば、木下さんは新宿近くに住んでいて都心の映画館に自転
車でいけるうらやましい環境にあるらしい。それだけでなく、仕事をしながら定
時制高校に通っていた青年時代も自転車はいつも彼のかたわらにあり、それで映
画を観に行く習慣がついたという。自転車にのって観て来た数多の映画から数多
の評論が生まれた。今回、五冊目になる批評集は、2004年以後の批評をセレクト
しテーマごとに収録している。

 今回の批評集を読んでまず感じたのは、世界はますます労働者にとって過酷な
ものに変貌しつつあるということ、そして木下さんの視線は、新自由主義経済に
翻弄され、非人間的な労働と生活を余儀なくされる労働者たちに常に向けられて
いるということだ。映画批評を通しての時代との格闘、その成果が今回の批評集
である。

 サブタイトルの「チャップリンからマイケル・ムーアまで」が示すとおり、こ
の本の最初の章はチャップリンに捧げられている。木下さんは、恐慌や格差社会
を生み出す新自由主義(資本主義)批判の原点を映画に探しそれをチャップリン
に見出した。ここで注目すべきは、木下さんが映画を観て評論を書く普通の映画
評論家ではなく、現代の社会を考える道具として映画を使い問題を掘り下げてい
ることだ。だから読者は、その文章から世界や社会の諸問題に直面させられ様々
な思考を触発される。チャップリンの山高帽の紳士は、燕尾服は着ていても金持
ちになれない貧乏人であり、そこにこの社会のひきさかれた現実の姿がある。そ
して映画『モダン・タイムス』には、労働が人間をダメにするありさまがリアル
に描かれていた。70年以上も前にチャップリンによってすでに描き出された矛盾
こそ今もわたしたちを苦しめる元凶なのだ。それをあぶりだした木下さんの視点
は鋭い。

 ケン・ローチ監督の『この自由な世界で』評では、グローバリゼーションが「
個人の内面に侵入し、他人を思いやる人間的な感情を食い荒らし、それにかわっ
て酷薄で計算高い功利主義が注入されていく」と指摘し、「『この自由な世界で』
の“自由”とは、労働者が労働者を食う“自由”を意味することがわかる」と喝
破している。また、NHKスペシャル『フリーター漂流』評では、「人間がこわ
れていく。世の中のモラルの根っこは、労働現場を基盤に成り立っているが、そ
れがここでは完全に崩れていることがわかる。“現場”を支配しているのは、ど
こまでも使い捨ての論理だからだ」と派遣労働の本質を語っている。

 そうした現状を突破するためにわたしたちにできることは何か。木下さんは映
画批評のかたわら、労働運動の情報ネットワークである「レイバーネット日本」
の会員としても映像文化活動を担ってきた。第四章の「つくること・訴えること」
は、そのレイバーネットが主催するレイバーフェスタの3分ビデオ作りを取り上
げている。労働者や市民が自分の労働や生活を表現する3分ビデオ。木下さん自
身、レイバーフェスタで『娘の時間』を発表した。長時間労働に明け暮れる娘を
過労死させたくないという一点での作品作りだったいう。生コン労働者の闘いを
描いて大ヒットした土屋トカチ監督の『フツーの仕事がしたい』をはじめ、運動
周辺から生まれた作品作りにも木下さんはたえず寄り添い励まし続けてきた。マ
スメディアから見えなくさせられている「現場」を映像で掘り起こし労働者の対
抗文化を作ること、それを新しい社会の形成につなげていくことの大切さを木下
さんは訴える。

 最終章は「マイケル・ムーアの世界」。マイケル・ムーアは現代アメリカ社会
の矛盾を大胆に抉り出しその変革を呼びかけている。新自由主義が席巻する世界
を変革しようとする行動の映画人に木下さんは大いに共感する。『キャピタリズ
ム』について「21世紀資本主義の弊害を一つひとつ俎上にのせて、目にみえる形
で観客につきつける。・・・映画を媒体にこのように大胆に資本主義の“悪”に
切り込んだ作家はいただろうか――。」と絶賛。70年前のチャップリンの提起は、
現代のマイケル・ムーアに引き継がれ、果敢に闘われている。そしてユーチュー
ブ・ユーストリームの時代、映像を武器に世界を変えていく試みはますますさか
んになるだろう。

 最後にこの本の章立てについてふれたい。冒頭のチャップリンから最後のマイ
ケル・ムーアの間には、「映画から見えてくる世界」「韓流ドラマと民主化の関
係」「日本人の戦争と戦後」「つくること・訴えること」「内側からみた社会主
義」「老人になりきれない老人」の各章が並んでいる。現代社会の核心をつく構
成だ。それは中心テーマの労働問題と通底する内容をはらみ、わたしたちが直面
する課題をあざやかに提示している。木下さんはあとがきに次のように記してい
る。「わたしの主眼は、あくまでも人間社会そのものを問うところにある。」

佐々木有美

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木下昌明著『映画は自転車にのってーチャップリンからマイケル・ムーアまで』
(績文堂 定価2200円+税)
全国書店で発売中!(12月23日のレイバーフェスタ会場でも販売します)
注文 電話03−3260−2431 FAX03−3268−2431
メール info@sekibundo.net
http://www.sekibundo.net/new/new20.html

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佐々木有美


 

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