大城さんの「カクテル・パーティ」は芥川賞。その後、東峰夫氏が「オキナワの少年」も受賞〜沖縄県は独自の、しかも質の高い文化があり…／吉村昭

≪大城さんとの交友≫
　大城さんの「カクテル・パーティ」は芥川賞候補作となる確率がきわめて高いように思う。大城さんは、むろん大岡氏の文芸時評は読んでいて、それを喜んではいたが、芥川賞候補ということを私が口にすると、表情が暗くなった。のしかかるような不安を感じたらしい。
　私は、軽率なことを口にした、と悔いた。帰郷して間もなく、新聞に芥川候補作品が発表されて、その中に大城立裕氏の「カクテル・パーティ」とあるのをみた私は、安堵した。大城さんに対して抱いていた負い目のようなものが、幾分軽くなったのを感じた。
　それから半月後、親泊氏から「カクテル・パーティ」が受賞したことを電話で報せてきた氏の声ははずんでいて、沖縄は初めてのことです、と言った。
　その後、沖縄に行た度に大城さんと会い、酒を酌み交わす。…それから４年後、沖縄県出身の東峰夫氏が「オキナワの少年」で芥川賞を受賞し、私はその作品に大いに感心したが、「カクテル・パーティ」と思い合わせ、那覇で観た舞踏と歌劇を思い浮かべていた。沖縄県は独自の、しかも質の高い文化があり、それがこのような作品を生んだ源泉である、と思ったのである。

【出展】「その人の思い出」吉村昭／河出書房新社‘１１年
　

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