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データ民主主義って、知っていますか?〜グーグルの壮大な「試行錯誤型」経営
http://www.asyura2.com/09/it11/msg/781.html
投稿者 MR 日時 2012 年 11 月 13 日 07:32:14: cT5Wxjlo3Xe3.
 

【第47講】 2012年11月13日 三谷宏治 [K.I.T.虎ノ門大学院主任教授]
データ民主主義って、知っていますか?
〜グーグルの壮大な「試行錯誤型」経営
大統領選でオバマ陣営を支えた
グーグルの「A/Bテスト」

 今回は、壮絶な誹謗中傷合戦に終始したアメリカ大統領選挙でしたが、前回は少し違いました。2008年、グーグルでプロダクトマネジャーを務めていたダン・シロカーは、グーグルを休職してバラク・オバマ(2009年初から第44代アメリカ合衆国大統領)の選挙キャンペーンに加わることになりました。

 その2週間前、オバマがグーグル本社で講演したときの「私は、事実やデータに基づく選挙戦をやりたい。だから、エンジニアのみなさんの助けが必要だ」に惹かれた(*1)のです。

 ネット広報を担当したシロカーはまず、目標となる指標を定め(「オバマWebサイトへの訪問者数」→「Webサイトへの登録者」→「メールマガジンの登録者数」→「寄付金の額」など)、施策の効果を数字で測定し、その改善を図り続けました。

 結果として、シロカーは「Webサイトへの登録率40%増、メールアドレス300万件増、ボランティアの30万人増、寄付金6000万ドルアップ」に貢献した(*2)といわれています。それを支えたのが、彼がグーグルで経験していた「A/Bテスト」です。


*1 オバマは当時のCEOシュミットによる「100万の32ビット整数を効果的にソートするにはどうすればよいと思われますか?」というムチャ振りに「バブルソートを使うのは間違いでしょう」と的確に答えたという。
*2 シロカーによるブログ(2010/11/29)参照。

年間7000回の試行錯誤がグーグルを改善する

 A/Bテストとは、AとBのやり方を、両方試しにやってみて、よかった方を採用する、という方法です。もともとはダイレクトメールで用いられた手法で「どっちのチラシのほうが、レスポンス率が高いか」などをこれで決めていました。

 インターネット上では、これをもっと低コストで手軽に素早く行えます。

 たとえばWebサイト上で使う画像や説明文などを、複数パターン(新しいものを1つでもいい)を用意します。そして、それらを入れ変えたWebサイトを実際に並列で公開してしまうのです。サイトを訪れる人のうち、数%だけを(本人に知られぬよう)新しいパターンに誘導して、じっと様子を見るのです。

 そこで得られた、実際のクリック数やコンバージョン率などを基に、どのパターンが優れているかを見極めます。

 単純な例ではユーザー登録時の「必須入力項目」もあります。Long Formに比べて、業種や電話番号を削ったMedium Formでは登録率が2ポイント(20%)向上し、さらに従業員数などを削ったShort Formでは3.4ポイント(34%)向上しました。

       (コンバージョンアップ研究所「フォーム項目を4つ消したら、CVRはどれだけ上がる?」)
 2011年、グーグルはこういったA/Bテストを約7000回行ったといいます。

JOANNが行った「ミシンの大胆な販促」

 ネット・ビジネスでのA/Bテストのいいところは、「大きなジャンプが試せる」ことです。もちろん、小さな変更の効果を正確に測れることも利点です。しかし、ビジュアルの大幅な変更や、独創的なアイデアといったものは、これまでその効果を事前に予測しようがなく、大きなリスクを伴うものでした。

 でももしその大幅な変更が、リスクなく試せるなら?

 JOANN(ジョアン)は全米49州に790の店舗を持つ、アメリカ最大の布クラフトショップです。そのネットストア JoAnn.comでは、1万3000種類もの布地とともに、さまざまな家庭用縫製器具を扱っています。ミシンだけでも182種類!

 JOANNはWebサイトの改修に合わせて、さまざまな販促方法を試してみました。月間、100万人(1日3000人)以上の人が訪れるので、実験結果はすぐわかります。

 せっかくなので、普段はやらない、意味のなさそうなものも「ちょっと大胆に」やってみました。たとえば「ミシン2台買ったら1割引!」

 ……いったい誰が、一度に家庭用ミシンを2台など買うのでしょう?

 でもこのプロモーションは、圧倒的に高い販促効果をあげ、Webサイト訪問者1人当たり売上げを3倍以上(209%増)に引き上げました。ミシンを1割引で手に入れたいお客さんが、JoAnn.comの代わりにもう1台分のミシンの営業を引き受けてくれたのです。

 ああ、本当に世の中、やってみなくちゃ、わからない。

グーグルの「試行錯誤型」経営

 グーグルの根幹はその検索サービスにあり、その機能の改善が大切なことは言うまでもありません。しかし同時に、グーグルはその「情報」における地位を不動にするために、そしてそのミッションである「世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにする」に向けて、さまざまな新サービスを、導入(かつ撤退)し続けています。

 2003年、Pyra Labsを買収してブログサービスに参入。有料サービスも無料化され、「Blogger」は世界で最も使われているサービスに。2004年にはPicasaの買収によって、画像の保存・閲覧も可能になりました。

 2004年、メールへの参入。「Gmail」は大成功でした。同年、地図にも参入し、その「Google マップ」は、先日のiPhone5の地図騒動でも逆に名を上げました。「Google Earth」も同年です。人工衛星や航空写真データをデータベース化したKeyholeを買収してのスタートでした。

 2006年の「YouTube」買収は16.5億ドルをかけたものでしたが、グーグルの広告収入増にしっかり貢献しています。

 でも、順調なものばかりでは、ありません。

 2005年には動画コンテンツの検索・配信サービス「Google ビデオ」と、カスタマイズ可能な個人用ポータル「iGoogle」が導入されました。しかしいずれも最近、閉鎖(*3)が決まりました。

 2006年に始まったオンラインメモサービス「Google ノートブック」も、2009年に開発が停止され、2011年9月に提供終了となりました。

 2007年にスタートした知識共有ツール「Knol」は、Wikipediaにかなわず、2012年4月に停止され、2010年に鳴り物入りでスタートしたソーシャルサービス「Google Buzz」もTwitterなどに勝てず、2011年11月に閉鎖(*4)され「Google+」に統合という形になりました。

*3 Googleビデオは2012年夏に閉鎖された。iGoogleは2013年11月に閉鎖予定。
*4 ソーシャルサービスは同年6月からスタートした「Google+」への集中を図っている。

成長の原動力は
小規模ベンチャーのイノベーションから

 なぜグーグルは「本業」に特化せず、これほどまでに無節操(?)に、さまざまなITサービスを開発・買収しては提供し、閉鎖しまくって来たのでしょう?

 グーグルを2001年から10年間CEOとして率いたエリック・シュミット(現会長)は、2003年にこう言っていました。

「社会の中で、仕事も経済成長も、中小のベンチャー企業から生まれている。みんな、相変わらずフォーチューン・トップ500とかにしか注目していないが、ベンチャーが経済を動かすという原理は、米国以外の国にも当てはまる」
「新しいプレーヤーの数がきわめて多いことをわれわれは喜ぶべきだし、それはチャンスの多様性を生み出していることにもなる。そして、そうしたサイクルはすでにスタートしている」
(「Google CEOが語るIT業界復活のシナリオ」2003/7/19から要約)

 業界をひっくり返すような「破壊的(Disruptive)イノベーション」は、遠く離れたところから密かに始まるとクレイトン・クリステンセンは『イノベーションのジレンマ』(1997年)で主張しました。そして(グーグルのような)リーダー企業こそが、新しいイノベーションに乗り遅れて、「担当の変更」(*5)が起こるのだと。それを避けるためには、一見ムダな試行錯誤を、小さくいろいろやってみるしかないのです。

 グーグルにはこれまで幸いなことに(大量の)お金と、試行錯誤を積極的に行うリーダーシップがありました(*6)。

*5 シュンペーターが『経済発展の理論』(1912年)で主張した。ある業界でイノベーションが起こると、業界を担う企業が総入れ替えになること。
*6 2011年4月にCEOに復帰したラリー・ペイジは、同年秋以降、約30の商品・サービスを停止し経営資源の集中を図っている。

A/Bテストの新ルール
〜話し合わずにやってみて結果で決める

 グーグルがA/Bテストに最初に挑んだのは2000年2月のことだといいます。準備不足で所期の目的は達せられませんでしたが、「検索結果の表示時間がダイジ」という大きな教訓を得ました。やってみたからわかったのです。

 Amazonで買い物をすると、カートの中身の確認時に「○○とよく一緒に購入されている商品」というおすすめがでてきます。お金を払う(レジに進む)前に、もう一段の衝動買いを狙っているわけです。

 これを提案したグレッグ・リンデンは当時、上司たちから徹底的に否定されました。デモまでつくったのに、テストすら許されませんでした。憤慨したリンデンは、A/Bテストを勝手にやりました。そしてその機能がAmazonにもたらす膨大な利益を明らかにしたうえで、そういった反対意見を一気に葬り去りました。

 オバマの選挙運動を支援したシロカー(*7)は、そういったデータの力による「上下関係の消滅」を「データ民主主義」と呼びます。A/Bテストの結果データの前に、身分や地位の上下はなく、すべての民は平等なのです。

 だから選択肢を出して、つくって、試してみればいいのです。頭の堅い上司の許可を得ることも、みなで事前に合意を取ることも、顧客をムリに説得することも、必要ない!

 データ民主主義の下での「試行錯誤型経営」がもう始まっているのです。

 ……「でも、それはネット・ビジネスだけの話でしょ」と、思っていますか?

 そんなこともありません。ものづくりの世界でも、そういった「手軽につくって試す」試行錯誤型経営の波は、押し寄せてきているのです。そのことについて、詳しくはクリス・アンダーソン(*8)の『MAKERS』やティム・ブラウンの『デザイン思考が世界を変える』をどうぞ。

*7 シロカーはその後、グーグルの同僚とA/Bテストを含めたWebサイト最適化支援会社Optimizelyを立ち上げた。2012年の大統領選では、両陣営ともが採用して話題となった。
*8 クリス・アンダーソンは『フリー』『ロングテール』の著者でもある。

 読まれての感想やご要望を、是非、HPまでお寄せ下さい。Official Websiteの「お問い合わせ」で受け付けています。

参考図書
『イノベーションのジレンマ』クレイトン・クリステンセン(翔泳社)
『その数字が戦略を決める』イアン・エアーズ(文藝春秋)
『WIRED Vol.5』(コンデナスト・ジャパン)
『MAKERS』クリス・アンダーソン(NHK出版)
『デザイン思考が世界を変える』ティム・ブラウン(早川書房)

お知らせ:『一瞬で大切なことを伝える技術』の姉妹本『実例で必ず身につく! 一瞬で大切なことを伝える技術』が7/23に発刊となりました。好評です。新人研修等のテキストにも採用されています! 本の感想も合わせて、Official Websiteにお寄せください。
http://diamond.jp/articles/print/27763  

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