★阿修羅♪ > IT11 > 879.html
 ★阿修羅♪  
▲コメTop ▼コメBtm 次へ 前へ
SEの達成感を伝えたくて「なれる!SE」を書いています、キャラには原型の人がいますよ ライトノベル作家 夏海 公司氏
http://www.asyura2.com/09/it11/msg/879.html
投稿者 てんさい(い) 日時 2014 年 2 月 04 日 10:20:10: KqrEdYmDwf7cM
 

http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Interview/20140131/533808/?ST=ittrend&P=1

 「萌えるSE残酷物語」をコンセプトにした夏海公司氏のライトノベル「なれる!SE」は、新人エンジニアの桜坂工兵が、個性豊かな上司や顧客に囲まれて成長する物語だ。

 同作では、プロジェクトの修羅場でSEがバタバタと倒れる様など、IT業界の暗部がリアルに描写されていることでも話題になった。このライトノベルを通じてIT技術者にどのようなメッセージを伝えたかったのか、IT業界が抱える問題点は何か、などを作者の夏海氏に聞いた。
(聞き手は浅川 直輝=日経コンピュータ)

夏海さんのIT業界における経歴を教えて下さい。
「なれる!SE」作者の夏海公司氏(顔出しNGなので後ろ姿)
「なれる!SE」作者の夏海公司氏(顔出しNGなので後ろ姿)

 IT業界にいたのは10年ほどです。最初は金融系のSIer(システムインテグレータ)に就職しました。ある金融機関のメインフレーム保守担当として、COBOLのプログラムを書いていました。

 ただ、その顧客企業に特有の業務にばかり詳しくなってしまい、「技術者としてつぶしがきかなくなる」と感じたため、2〜3年後に第2新卒でベンチャー企業に転職したんです。

 その後は、外資系IT企業などいくつかの企業を転々としました。その間に、UNIXやLinuxなどのITインフラ、データベース、ネットワーク、アプリケーション開発など広範に体験させてもらいまいた。その後、いつのまにかラノベ作家になっていました。

いやいやいや、いつのまにかということはないでしょう。どのようなきっかけで作家に転向したんでしょうか。

 実は、勤めていた外資系企業が、円高などの環境変化で受注が減り、社内で仕事がなくなってしまいまして……。時間が空いたので、好きだった文章でも書いて応募してみようかな、と。

そこで、電撃文庫に原稿を送ったところ、2007年に賞(第14回電撃小説大賞 選考委員奨励賞)をいただきまして。2008年に初の単行本(「葉桜が来た夏」)が出ました。しばらくはITの仕事と作家業を並行していましたが、請け負った仕事に片が付いた時点で作家専業になりました。

IT業界を題材にラノベを書こう、と考えたきっかけは。

 最初のシリーズが完結した後、次をどうしようか、という話になったのですが、出した企画がことごとくボツになりました。なかなか突破口が見いだせなかった頃、編集担当の湯浅さんと飲みながら雑談していて、「SEの頃は大変なことがありまして」…と話したところ、そこに湯浅さんが飛びつきました。

 ライトノベルでは職業モノは人気がないのですが、SEならライトノベル読者層と重なり、親和性があるのでは、というのが湯浅さんの見立てでした。そこで2009年から執筆を始め、2010年6月に第1巻を発刊。あとは2〜3カ月に1冊のペースで発刊しました。

第7巻「目からうろこの?客先常駐術」では、目下デスマーチ中の客先常駐案件を描いて話題になりました。Amazonにも「良い意味で吐き気をもよおすリアル観」「ここまで陰惨な話をライトノベルで書いてしまって良かったのか」など、現役SEからの悲痛なレビューが並んでいます。

 やはり、半分は実体験を元にしています。あるSIerが構築・運用で入っていた案件で、その業者が途中で逃げ出しまして。その空いた穴を埋めるため、私を含む10人ほどのチームが入りました。

 とはいえ、やはり案件自体に無理があり、チームの一人が過労で倒れました。そこで代わりの業者を見つけ、引き継ぎ先を見つけて我々も撤退した…つまり、我々も逃げざるを得ませんでした。

第9巻「ラクして儲かる?サービス開発」では、独自サービス開発のコツから落とし穴まで、良くできた教科書のように読めました。

 この巻で取り上げた「IPv4-IPv6変換」は、サービス開発ではなく個別インテグレーションの案件で経験したものです。同じく別の技術で独自サービスを開発した経験もあり、それらの経験を組み合わせて書いたものです。

「なれる!SE」は、メッセージ性の高いライトノベルのように思えます。夏海さんは本作を通じ、IT業界のどのような面を読者に伝えたかったんでしょうか。

 本作のコンセプトは「萌えるSE残酷物語」ですが、残酷な面だけを描くだけなら、SE出身者なら誰でもできます。私の経験から、伝えたいと思ったことが二つあります。
「なれる!SE」の主人公、新人SEの桜坂工兵
[画像のクリックで拡大表示]

 一つは、SEならではの達成感です。大変な思いをしてシステムを作り上げ、カットオーバーさせたときの快感。あるいは、顧客からものすごい無理難題を押しつけられながら、「あ、こんな風にシステムを設計すれば要件を満たせる」と気づいたときの、「俺、すごいかも」という全能感。そこをきちんと表現したかった。

 もう一つ、「IT技術者といっても、いろんな立場があり、見え方が変わる」ということを書きたかったですね。例えばシステム構築のエンジニアを長くやっていると、自分以外の部署が馬鹿に見えてくるんですよ。「運用(部門)は頭が固すぎる」とかね。それが運用担当になると、「構築(部門)が馬鹿な引き継ぎしやがって」とか思うわけです(笑)。

IT技術者のそれぞれのポジションには、それぞれの正義があります。一つのトラブルも構築から見た側面と、運用から見た側面は大きく変わります。そこを表現したかった。

 PG(プログラマー)の視点とPM(プロジェクトマネージャー)の視点も大きく違います。PGをやっていたときは「PMは毎週の進捗管理だけで、なんであんなに高い報酬をもらってんだ」と不満を持っていました。それが、いざ自分がPMになってみると、調達・運用・手配、どこかの歯車が狂ったら“おしまい”という、恐ろしくプレッシャーのかかる職種であることが分かりました。

PMといえば、主人公の工兵が上司の藤崎さん(藤崎伊左次)にPMの極意を聞いたときの「みんなが気持ちよく仕事できるようにすること」という言葉が印象に残っています。

 この言葉は、以前に在籍していた会社で、先輩に言われた言葉を拝借したものです。「だから、納期は僕に任せて、君は気持ちよく仕事してくれよ」と。

 ITベンダーでは、いまだに単なる顧客担当者にPMという肩書きを付けるなど、PMを安易に捉える風潮があります。私もPMP(Project Management Professional)の勉強をしていたので分かるのですが、PMには体系化された方法論があります。

多重下請けに代表される、国内IT業界の商慣習についてはどのように捉えていますか。「多重下請けは必要悪」という意見もありますが…。

 難しい話ですね。本来なら(ユーザー企業のIT部門がシステム開発を主導する)内製という形が望ましいのですが、「プロジェクトに向け、今からIT技術者の採用を始めます」というわけには行きません。

 多重下請けは、リーズナブルな価格で、かつ短納期でシステムを構築するための必要悪という側面は確かにあります。PMとしてプロジェクトを立ち上げる際、孫請けだろうがひ孫請けだろうが、必要なスキルセットを持つ技術者を手配しないと、プロジェクト自体が回りません。

ただ、その弊害も大きい。私がいたプロジェクトルームでは、どこの会社に所属しているか分からない人ばかり。私がメンバーの面談を行っていましたが、レジュメ(履歴書)を見ていると「半年前まで寿司屋でバイトしていた」といったような未経験者が多かった…。

寿司屋のバイトからの転職で半年ですか…。

 IT企業で3カ月間研修を受けた後、そのままプロジェクトルームに送られていました。IT技術者の供給がそんな形で行われている以上、技術者の工数が買いたたかれるのは当然です。

 プログラミング経験のない人がIT企業にいきなり就職することのデメリットは、もう一つあります。プログラミングが非常につまらなくなることです。

 3カ月の研修でコーディング規約を学び、顧客の要求に忠実に、規約に従って黙々とコーディングする。これではつまらないのも当然です。

 本来のプログラミングの楽しさは、生活で面倒なことがあれば、自分でパソコンソフトやスマホアプリを作って自動化してみるといった、創意工夫にあります。そこの楽しさを体験しないまま、というのは良いことではありません。

 長期的にIT業界が目指すべき方向があるとすれば、「あれも欲しい、これも欲しい」というユーザー企業の要望を総花的に組み込むモデルではなく、「今後はこれが主流になります」といった提案型モデルに持っていくことですね。

 例えば独SAPのようなパッケージ導入のビジネスは、ユーザー企業に「このグローバルパッケージに合わせてください」と提案するモデルです。これならITベンダー側で、納期もコスト構造もコントロールできる。米アップルもユーザーに「慣れてください」というスタイルでしょう。受け身で引き受けず、自ら提案することです。

話題を「なれる!SE」に戻しますが、あの個性豊かなキャラクターをどのように造形したのか、教えていただけないでしょうか。

 基本的には、仕事で付き合いがあった方々のイメージを組み合わせてキャラクターを作っています。

 例えば、主人公のOJT担当である室見立華は、私の最初のOJT担当が原型です。小説での室見さんと同じく、平気でモノを投げつけるような方でした。……男性ですけど。そこに、同じく仕事で付き合いがあった「どう見ても外見が中学生な女性エンジニア」を重ねてキャラクターを作りました。

 そのOJT担当に、当時新人だった私は大いにシゴかれました。私が平日中ではどうしても仕事が終わらず、休日に会社に出社したとき、そのOJT担当も職場にいたんです。OJT担当には仕事がなかったはず、と聞いてみると「おまえのためにいるんじゃないぞ。やることがあったからいるんだ」と。そんなツンデレ的な性格が室見に反映されています。

 ユーザー企業のシステム部担当の橋本文月課長にも、これまた男性ですがモデルがいます。橋本課長のキャラと同じく「表情の読み取れない方」で、どうにか仲良くなろうと思ったら、実は飲み会ではかわいらしい、というギャップがあって驚きました。

意外とIT業界には可愛い(男性の)方が多いと…。最後に、次の巻に向けた抱負を聞かせて下さい。

 最新刊(第11巻)の最後で、室見さんの過去を知る人が登場しました。室見さんの過去については11巻まで引っ張った格好ですが、まず12巻でその点を解決させようかと。13巻からは新展開を考えていますが、まだ白紙です。

まだIT業界で取り上げていないテーマとしては、業務アプリケーション開発、でしょうか。

 うーん。架空の会社の業務フローを考えるのはさすがに大変なので、難しいかもしれません…。

 

  拍手はせず、拍手一覧を見る

コメント
 
01. てんさい(い) 2014年2月04日 10:29:30 : KqrEdYmDwf7cM : 0kUGInjLpY
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/Watcher/20120517/397148/?ST=ittrend

『萌えるSE』と「燃える営業」、永遠の闘い
2012/05/21
谷島 宣之=コンピュータ・ネットワーク局編集委員 (筆者執筆記事一覧)

出社すると、机の上に妖しい物が置かれていた。文庫本が2冊あり、表紙カバーには下着姿で微笑む美少女のイラストが描かれている。美人を眺める機会に巡り合えば嬉しいと思うものの、少女を愛でる趣味は無い。

 あまり顔を見せないことに対する嫌がらせか、それとも誰かが文庫本を置き忘れたのか。とにかく文庫本を裏返し、表紙が見えないようにしてから電子メールを確認する。日経コンピュータ編集部の記者から「SE本を差し上げます」というメールが来ていた。

 「SEについてしばしば書いておられますが、今時の実態をご存じないようです。お渡した2冊を読んでみるとよろしいのではないかと思います」。

 この記者は最新技術に強く、取材力も筆力も英語力もあり、人前で話をするのもうまい。なかなかの人物なのだが欠点もあり、その一つは先輩に対する口の利き方を知らないことである。

 「確かに最近は取材していないが、日本の情報システム開発現場なら20年以上歩き回ってきた。クラウドの話ばかり追いかけている君とは違う」。

 後輩記者から来たメールを読んで腹が立ち、上記のごとく返信しようと書きかけたが、大人気ないと考え直し、応答せずに後輩のメールを削除した。

 続いて文庫本を手近のゴミ箱に叩き込もうと持ち上げたが、本を捨てることには抵抗がある。昔から買った本は溜め込むたちで、出版社に勤務するようになり本をますます捨てなくなった。とりあえず文庫本2冊を鞄にしまい、家に持って帰ることにした。

 家族に見られたくないので夜が更けてから文庫本を取り出し、表紙カバーをまじまじと見た。題名は『なれる!SE』と『なれる!SE 2』という。SEを“SYSTEM ENGINEER”ではなく、“SYSTEMS ENGINEER”と表記している点に好感が持てたが、後は駄目だ。

 「2週間でわかる?SE入門」だの「萌えるSE残酷物語登場!」だの「システムエンジニアの過酷な日々をコミカルに描く問題作!」だの不快な文言が並ぶ。ご丁寧に「過酷な日々」に「デスマーチ」とルビが振ってあった。

 手にとって開いてみると、美少女のカラーイラストが数ページにわたって載っており、中には着替えをしている絵もある。むっとして本を引っくり返し、後ろから開いて「あとがき」を読もうとすると、「SEだけにはなるな」といきなり書いてあった。さらにむっとする。

 著者である夏海公司氏は大学のゼミ時代に担当教授からそう言われたそうだが、結局SEの仕事に就いた。しかし激務に追われ、入社後数年で退社し作家に転身した。

 「最前線から逃亡しておきながらSEを茶化す本を書くとはけしからん」と思ったが、こちらは記者の仕事しかしておらずSEの経験はまるでない。

 中身を読まずにむっとしていても仕方がないのでカラーイラストを開かないように注意しつつ本文を読み始めた。


その晩のうちに2冊を読み終え、翌日仕事を終えてから書店に向かった。当時の最新作『なれる!SE 3』を購入するためである。

 「なれる!SE」シリーズは「電撃文庫」に収められている。まったく知らなかったが、ライトノベルという世界では有名だそうだ。書店に入り電撃文庫が並ぶ棚に近づこうとしたが、美少女のイラストが表紙カバーを飾った文庫本が平台にずらりと並んでおり、近寄りがたい。

 我慢して棚の前まで行き、目当ての本を見つけ手にとると、美少女はスーツを着ており少し安心する。それでも、この表紙カバーの電撃文庫を店員に差し出すまでに多少の時間を要した。

 「1年間で降りてしまったものの日経コンピュータ誌の編集長を務めた自分が『話題の萌えるSE残酷物語』と帯に書かれた本を買ってよいのだろうか」。

 逡巡したものの、読みたいという気持ちが勝り買って帰った。『なれる!SE 3』の出来栄えはさらに素晴らしく、正直に書くと今でも読み返している。

 それ以来、シリーズの新刊が出ると直ちに買い、その日のうちに読む習慣がついた。現在『なれる!SE 6』まで刊行されており、4冊も買うと慣れてしまい、電撃文庫の棚の前に立っても恥ずかしくない。

 恐ろしいことに、美少女イラストに慣れるどころか見るのが楽しみになってきた。特に『なれる!SE 6』の本文ページに入っている白黒イラストがお気に入りで、時々本を開いて眺めている。

 誤解を避けるために書いておくと、イラストに描かれた女性の発言が痛快なので読み直そうとすると、隣のページにあるイラストが目に入るから「お気に入り」と書いたのであって、イラストだけに執着しているわけではない。主人公とは別のIT企業でエンジニアをしている彼女の発言を引用しておく。

 「エンジニアを馬鹿にする人間は会社を問わず私達の敵です。(中略)それに自分達のPM(プロジェクトマネジャ)を虚仮にされて黙ってられるほど、我々は我慢強くありませんから」。

「与えられた納期は死んでも守る」

 ここまで書いた文を読み直すと、『なれる!SE』を読んだことがある人は笑ってくれただろうが、そうでない読者にとっては一体何の話か分からないかもしれない。簡単にシリーズの内容を紹介する。

 主人公は男性のSE兼営業マンと女性のSEの2人で、中小システム開発会社に勤めている。男性は新入社員で女性は上司兼教育係という設定である。

 男性主人公が自社を紹介するくだりがある。

 「ネットワークに関する高度なスキルを持ち、大手より低コスト・短納期で対応可能なベンダー。(中略)最強のネットワークアーキテクトと運用エンジニアを擁し、休日深夜も業務時間、月月火水木金金、与えられた納期は死んでも守る、不眠不休のスペシャリスト集団」。

 主人公の女性は表紙カバーにイラストで登場する美少女で、中学生にしか見えないものの卓越した技量とプロ魂を持つ年齢不詳の「最強ネットワークアーキテクト」という設定になっている。本文を読んだところ、下着に見えたのはキャミソールという上着らしい。キャミソールは何かとウェブで検索してみると下着という説明が出てきたが、まあどうでもよい。

 見てくれにとどまらず、性格も極端に設定されている。彼女はツナばかり食べるし、怒るとドライバーを振り回し、ネットワークスイッチを投げつけ、機器で埋まったラボの中で5メートルを一瞬にして移動する。ただし仕事はできるし、泊り込みも野宿も辞さない。

「あんたの終電なんてお客さんには関係ない」

 「仕事の締切は今日中って言ったでしょ?あんたの終電なんてお客さんには関係ない。スキル不足で仕事ができ上がらないなら、その分、かける時間でカバーするだけよ」。

 彼女はこう言い放ち、新人の男性社員を鍛えていく。

 著者の夏海氏がSEをしていただけあって、話の中身はITの世界の現実を踏まえている。これまで刊行された6冊には次のような人物が登場する。

 短納期かつ理不尽な注文を出す顧客とそれを直ちに受けて現場に押し付ける社長、社員同士でありながら「死んでください」「おまえが死ね」といったメールを深夜にやり取りするシステム設計・開発者と運用担当者、仕事を丸投げする横暴な超大手システムインテグレータの不遜な社員たち、各社から集められた現場担当者と顧客の間で板ばさみになったプロジェクトマネジャ、全国を飛び回りネットワーク機器を交換していくカスタマエンジニア。

 全巻を通じて描かれるのは顧客と現場のSEの間に挟まった男性主人公の苦闘と、最後の最後になって技術面の難題を鮮やかに解く女性主人公の活躍である。

 見習いSEの主人公はひょんなことから提案書をまとめる仕事やプロジェクトマネジャをやらされる。時には営業役を務めて商談を社長につないだりする。営業側に立った男性主人公はもう一人の主人公である女性SEに無理を言わざるを得なくなり、両者はしばしば対立する。

 営業とSEの対立は大昔からの懸案と言える。本来なら顧客と現場SEの間を調整するのは営業の役割だが、なかなかそうはいかない。

「理屈通りに動くならエンジニアなんていりません!」

 このシリーズはとにかく会話が面白いので、いくつか引用してみよう。主人公の女性SEが「何が起こるのか分からないのが現場なんです!理屈通りに話が動くなら私達エンジニアなんていりません!」と噛み付いたとき、顧客は次のように答える。

 「あー、はいはい。あなた方お得意のリスクとかバッファって奴ね。(中略)私らにはそういうの通じないから。今までそういうのを全部削らしてコストカットしてきたんで、うち」。

 主人公2人が勤める中小システム開発会社の社長は、現場のSEたちの負荷をまったく考慮せずに仕事を受注し、押し付けてくるくせに、顧客について主人公の男性にこう話す。

 「目先の金をケチって運用を買わんくせに、いざトラブルが起こると平気で問い合わせしてきおる。それも初期構築の瑕疵だとか営業対応の範囲内だとかへりくつをこねおってからに。どんな内容であろうとエンジニアを動かす以上金がいる。その事実が連中にはさっぱり分かっておらん」。

 顧客を非難しているばかりではない。男性主人公の父親は息子にこう助言する。

 「大事なのは結局、お客さんの欲しいものは何かだろう。おまえの話を聞いていると(中略)書かれているから答えを準備しているようにしか聞こえん。(中略)お客さんが本当に何を欲しがっているか、分かっているのか?」。

 「書かれている」というのは大手電子部品商社が出したRFP(提案依頼書)のことである。その商社のシステム本部に所属する女性課長は男性主人公にこう宣言する。

 「私はコンサルティングファームの仕事に限界を感じ、ユーザー企業の情シスに入りました。以来、たった一つのことだけを守り今日まで仕事し続けています。(中略)自分達のシステムは自分達でコントロールする。(中略)これが全てです」。

「エンジニアが技術をよそに投げて何が残るの?」

 RFPを巡る提案合戦を描いた第3作の大詰めで「行き場をなくした家出少女のよう」に落ち込んだ女性主人公は、業界の“伝票通し”についてこう吐露する。

 「おかしいものはおかしい。エンジニアが技術をよそに投げて何が残るの?私達の何に顧客はお金を払うわけ?問い合わせ窓口?伝票処理?そんなもので私達は日銭を稼いでいくの?冗談じゃないわ。私はそんなことをやるためにこの会社に入ったんじゃない」。

 過去の挫折経験から「自分達のシステムは自分達でコントロールする」と決めた女性課長と、同じく過去の挫折経験から「私達が作って私達が運用する。それ以外に技術屋の動きなんてありえない!」と決めた女性主人公が対峙する第3作は、胸がすく結末を迎える。

 「こんな調子のいい話が現実にあるはずがない」と『なれる!SE』シリーズを批判するのは野暮である。今回引用した登場人物の数々の発言を読めば夏海氏の意図がどこにあるか自明であるし、その意図を表現するために、ばかばかしいほど極端な舞台が必要だったのである。

 批判を野暮と書いたが、絶賛も野暮かもしれない。愛読者が力んでいるだけなのでご容赦いただきたい。

 最後に愛読者として希望を述べたい。SEを冠したシリーズである以上、どこかで業務アプリケーション開発の話を正面から取り上げてほしい。これまでの6冊はバックアップセンターの構築やネットワーク運用の話が中心であった。

 とはいえ、考えてみると業務アプリケーション開発をネタにして横暴な大手インテグレータや滅茶苦茶な要求を出す顧客といった悪役に主人公たちが立ち向かい、勝利を収める話は作りにくいかもしれない。提案やインフラ設計やトラブルシューティングであれば一発逆転劇を書ける。残念ながら業務アプリケーションを巡る揉め事はなかなか解決できないことが多い。

 もう一つの希望は、自分達のシステムをコントロールし続けている女性課長の登場場面が増えることである。この「橋本課長」のファンになったからだ。第4巻でも重要な場面に登場したが、第5巻では出番が無かった。最新刊(第6巻)は初の短編集になっており、橋本課長が主役の一編があり嬉しかった。


  拍手はせず、拍手一覧を見る

フォローアップ:

この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます(表示まで20秒程度時間がかかります。)
★登録無しでコメント可能。今すぐ反映 通常 |動画・ツイッター等 |htmltag可(熟練者向)
タグCheck |タグに'だけを使っている場合のcheck |checkしない)(各説明

←ペンネーム新規登録ならチェック)
↓ペンネーム(2023/11/26から必須)

↓パスワード(ペンネームに必須)

(ペンネームとパスワードは初回使用で記録、次回以降にチェック。パスワードはメモすべし。)
↓画像認証
( 上画像文字を入力)
ルール確認&失敗対策
画像の URL (任意):
  削除対象コメントを見つけたら「管理人に報告する?」をクリックお願いします。24時間程度で確認し違反が確認できたものは全て削除します。 最新投稿・コメント全文リスト

▲上へ      ★阿修羅♪ > IT11掲示板 次へ  前へ

★阿修羅♪ http://www.asyura2.com/ since 1995
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。
 
▲上へ       
★阿修羅♪  
この板投稿一覧