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ノーベル賞研究が導く未来 再生医療の扉を開いたiPS細胞  量子コンピューター 創薬の宝庫
http://www.asyura2.com/09/nature4/msg/835.html
投稿者 MR 日時 2012 年 10 月 19 日 00:15:35: cT5Wxjlo3Xe3.
 

ノーベル賞研究が導く未来

再生医療の扉を開いたiPS細胞

2012年10月19日(金)  The Economist

2012年のノーベル生理学・医学賞、物理学賞、化学賞の受賞者が決定した。受賞研究はiPS細胞、量子状態の測定、受容体の構造解明に関するもの。これらの業績は、未来の社会をどのように変えていくのだろうか。


 今年のノーベル生理学・医学賞は、幹細胞研究の分野で重要な発見をした英国のジョン・ガードン博士と京都大学の山中伸弥教授が受賞した。通常の体細胞からiPS細胞(人工多能性幹細胞)と呼ばれる細胞を作り出す方法を確立した功績によるものだ。

 授章理由には挙げられていないが、この研究は、動物の成体からクローンの作製を可能にするものでもある。潜在的には人間のクローンも可能だ。

 幹細胞とは、それぞれ特定の機能を持つ細胞がそこから分化していく元の細胞だ。身体のすべての細胞は幹細胞に由来する。幹細胞自体も、大もとの胚性幹細胞(ES細胞)から作られる。ES細胞は、ほかの多くの(場合によってはすべての)種類の細胞に分化し得るという意味で「多能性」を持つ。

「胚から採取する必要のない細胞を」が始まり

 多能性ES細胞は研究者にとって非常に有用なものだが、それを人間の胚から採取して利用することについては倫理的な議論がある。実際、その議論こそが、そもそも山中教授が、ES細胞を不要にできるかもしれないという考えのもとに、この研究を始めるきっかけとなった。

 また、この種の細胞を医療(傷ついた組織の修復など)に役立てようとするのなら、大量に入手できる必要がある。さらに、患者のDNAに適合するものであれば理想的だ。ガードン博士と山中教授の業績は、こうした目的の実現につながるものだった。

 ガードン博士の授章理由となった論文は、半世紀前の1962年、博士が英オックスフォード大学で研究を行っていた時に発表したものだ。ガードン博士はこの研究で、アフリカツメガエルというカエルのオタマジャクシの細胞から取り出した核を、同じ種のカエルの除核した卵に移植した。その卵は後に健康な成体に成長した。

 この研究が明らかにしたのは、少なくともアフリカツメガエルでは、個体の発生の過程を通じてDNAは変化せず、潜在的に多能性は維持されるということだった(後にほかの種でも同じであることが証明された)。このことは、卵と一切関わりなく、完全に成熟した個体の体細胞で同じことができる可能性を示していた。

 それを実際に行ったのが山中教授だった。山中教授と京都大学の研究チームは、成体のマウスの細胞に重要な働きをする4つの遺伝子を挿入した。これらの遺伝子はそれぞれ、転写因子と呼ばれるタンパク質を暗号化している。転写因子はDNAの発現を制御する。これら4つの遺伝子が共に働いて、細胞に、自身が胚の一部だと思い込ませる。

人間の組織をオーダーメードで修復する道を開く

 山中教授は2006年に実施した最初の実験で、完全なマウスを作り出しはしなかったものの、マウスの体細胞を使って多能性を持つiPS細胞を作製することに成功した。後に、そこから雌のマウスの子宮に移植してやれば成体にまで成長することになる胚も作製された。

 翌2007年には、人間の成人の細胞で同様の4つの遺伝子を活性化させ、ヒトiPS細胞を作り出すことにも成功した。

 この結果、原理的にはヒト・クローンの可能性が開かれた。ただしこれまで(知られている限りでは)これを試みた研究者はいない。ほとんどの国でそのような実験は禁止されている。

 とはいえ、この研究から、人間の組織をオーダーメードで修復する道も開かれた。例えば皮膚の細胞をいくつか採取し、そこから望みの種類の細胞を誘導して当人の体に移植してやれば、免疫系による拒絶反応のリスクもない。

 臨床応用の開発はまだこれからだ。だが、それが実現した暁には、バードン博士と山中教授は、再生医療というこのまったく新しい分野の開拓者と呼ばれていることだろう。

物理学賞では量子コンピューターに道

 物理学賞は、パリにある高等教育機関コレージュ・ド・フランスのセルジュ・アロシュ博士と米国立標準技術研究所のデビッド・ワインランド博士に贈られた。2人は、ネコ狩人である。両博士に狩られたネコは、「シュレーディンガーのネコ」という。

 シュレーディンガーのネコとは、「生きていると同時に死んでいる」という仮想のネコのこと。オースリトアの理論物理学者エルビン・シュレーディンガーが1935年に発表した思考実験で有名になった。

 この思考実験は、量子の世界の奇妙な性質をわかりやすく説明するために考えられたもので、量子が同時に2つの状態で存在し得る結果として、1匹のネコの生と死を「重ね合わせる」ことができる。

 しかしその重ね合わせの状態は非常にもろく、簡単に壊れてしまう。そのためこのネコ(正確に言えば、このネコのように振る舞う原子より小さな粒子)を実際に捕獲するのは極めて困難な作業となる。

 それでも、量子コンピューターと呼ばれるマシンを構想するには、この重ね合わせが決定的な役割を果たす。こうしたマシンは多数の演算を並行して行うことができるが、各重ね合わせ状態がそれぞれ演算の一部を担うのだ。しかし、そのコンピューターを動かすには、重ね合わせを壊すことなく操作できなければならない。

1980年代に量子を測定し、操作する方法を考案

 アロシュ博士とワインランド博士は、1980年代初頭にそれぞれ別の研究チームを率いて、重ね合わせを維持したまま量子を測定し、操作する方法を考案した。アロシュ博士は研究にフォトン(光子。光などの電磁放射の粒子)を用い、ワインバーグ博士は原子を使った。

 アロシュ博士は超伝導で作った2枚の小さな鏡の間にフォトンを行き来させて閉じ込めた。次に、ここに「リュードベリ原子」を入れて、フォトンと「もつれ」させた(これもまた量子の世界の奇妙なプロセスだ)。

 リュードベリ原子は、周囲の電子に細工をして通常の原子より1000倍ほど大きくしてある。もつれのプロセスにより、原子を測定することで、フォトンの量子状態(つまりネコの生死)が分かる。このときフォトン自体は壊れず、重ね合わせも保たれる。

 アロシュ博士はこのように原子を使ってフォトンを調べたが、ワインランド博士は逆に、フォトンを使って原子を探った(フォトンとしては、入念に調整したレーザー光パルスを用いた)。

 対象とする原子は周囲の電子をはぎ取り、真空、極低温の電場の中に捕捉してある。レーザー光パルスは原子のエネルギー状態を可能な限り低くし、冷却を進める。さらにパルスで、原子を2つのエネルギー状態の重ね合わせにもっていく。こうして原子は、謎のネコの役を演じる。

 ワインランド博士のチームをはじめ、いくつかの研究チームは、主張を証明するために、閉じ込めた原子を使って簡単な計算を既に実演してみせているが、量子コンピューター自体は、まだSFの世界の話だ。

 それでもワインランド博士は、この原子を使って実際に動く史上最も正確な時計を作った。その時計のゼンマイは2つのもつれた原子だ。片方を使ってもう一方の固有振動を読み取る。

 この振動は極めて正確に測定できる(もつれが壊れないので測定が妨害されることもない)ため、ワインランド博士の時計は、仮に137億年前の宇宙の誕生時に動き始めたとして、現在でも約5秒しかくるっていないはずだという。

化学賞は創薬の宝庫となる受容体の研究に

 最近のノーベル化学賞は、生理学・医学賞か物理学賞でもおかしくない研究が受賞することが多いが、今年もその例に漏れず、医学賞的な研究だった。

 受賞者は米デューク大学のロバート・レフコウィッツ教授と米スタンフォード大学のブライアン・コビルカ教授だ。両教授は「Gたんぱく質共益受容体(GPCR)」と呼ばれる受容体の基礎研究を行った。

 GPCRは細胞表面の膜の中に浮かぶたんぱく質で、細胞の外部環境からの信号を細胞内に伝達する役割を果たしている。GPCRは、細胞の外側の部分で、例えばアドレナリンなどの小さな分子(受容体に結合するこのような物質はリガンドと総称される)と結合すると、自身の形を変える。

 この変形により、細胞膜の内側でGPCRに結合していたGたんぱく質という別のタンパク質の一部が細胞内に放出される(Gたんぱく質と呼ばれるのは、グアニンという塩基を含む分子と結合しやすいため)。

 すると今度は細胞内で一連の化学的連鎖反応が生じ、細胞の振る舞い方が変化する。どのように変わるかは、どのGたんぱく質が放出されるかによって決まり、どのGたんぱく質が放出されるかは、どの受容体が刺激されるかによって決まり、それはさらにどのリガンドが結合するかによって決まる。

 GPCRは(ヒトゲノム計画のおかげで)これまでに1000種類ほど発見されている。これら多様なGPCRにより、生体内には細胞同士が適切なリガンドを分泌することで互いに制御し合う高度なシステムができあがっている。

医学の世界の知見に革命をもたらした2人

 製薬業界は、この受容体のネットワークの中に多くの創薬ターゲットを見出している。

 例えばGPCRの中には、アドレナリンまたは近縁のノルアドレナリンに反応するものが9種類ある(それぞれ異なる反応をする)。薬理学者は、9種類のうち主に1つだけ(βアドレナリン受容体の1種)に作用する「β遮断薬」を作り、これでアドレナリンの働きの一部(心拍の調整に関わる機能)を模倣する方法を編み出した。

 この薬は、ほかのアドレナリン受容体、例えば闘争・逃走反応を引き起こす脳の受容体には作用しない。

 研究者はこのように、アドレナリンが作用する全ての受容体を知っているため、望まない作用を最低限に抑え、副作用のリスクの低い薬を作ることができる。

 レフコウィッツ教授は、放射性物質で目印を付けたリガンドを使い、世界で初めていくつかの受容体を特定し、1986年にβアドレナリン受容体遺伝子の塩基配列を同定した。GPCRの遺伝子で配列が確認されたのは世界初だった。ほかの8つのアドレナリン受容体についても、すぐに同じ研究が行われた。

 もともとレフコウィッツ教授と共同研究を行っていたコビルカ教授は、スタンフォード大学に移り、X線結晶構造解析という方法でβアドレナリン受容体の構造を解明した。

 コビルカ教授が確認したところでは、この受容体を構成するアミノ酸の鎖は、細胞膜を出たり入ったりして、7回貫通していた。この形は全てのGPCRに共通することが分かっている(そのためGPCRは「7回膜貫通型受容体」とも呼ばれる)。

 両教授の業績は医学の世界の知見に革命をもたらした。現在市場で売られている薬の約半分は、GPCRへの作用で効果を発揮する薬なのである。

©2012 The Economist Newspaper Limited.
Oct. 13-19, 2012 All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。


英国エコノミスト


1843年創刊の英国ロンドンから発行されている週刊誌。主に国際政治と経済を中心に扱い、科学、技術、本、芸術を毎号取り上げている。また隔週ごとに、経済のある分野に関して詳細な調査分析を載せている。


The Economist

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コメント
 
01. 2012年10月19日 07:56:41 : OGtnfuqrPw
相変わらず権威に弱い。量子コンピュータもまだまだ理論的段階。実験と言ってもほんの初期にすぎない。製品になるにはまだ先。iPS細胞も一部のものを除きまだまだ先の話。治療に入ったとしてもその後の何十年も観察しないと後遺症も分からない。受容体ビジネスはブロッカーですでに商品化されているが、逆にさまざまな弊害や後遺症や副作用が出ている。しかしそういうものを調べる研究者がすくなく、作ったり売ることには積極的だが、弊害の研究には消極的だ。科学世界の構造的問題があり、科学者は常に権威サイドに組みする。一般人は企業や科学者のためのモルモットのようなものである。将来の利便を語る前に、今の不都合の真実を語るべきだ。

02. 2012年10月19日 11:21:10 : FbmNeHyo0g
>1
>科学世界の構造的問題があり、科学者は常に権威サイドに組みする。一般人は企業や科学者のためのモルモットのようなものである。将来の利便を語る前に、今の不都合の真実を語るべきだ。

というのは、少し科学の現実社会での役割を過小評価しているのでは。
もちろん、イケイケドンドンでよいとは思わないが、副作用や悪影響にも十分目配りしつつ、科学を推進すればよいのでは。

「科学者は常に権威サイドに組みする」というより、権威が成果を上げた科学者を取り込もうとし、科学者も現代では大きな資金なしで大きな成果は上げられなくなっているので、権威に頼らざるをえません。
とはいえ中には、反権威の立派なやせ我慢の科学者もおられて、それはそれでよいのではないでしょうか。


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