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失はれた日本(昭和の日に) 西岡昌紀 http://www.asyura2.com/09/reki02/msg/349.html
* http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1473935335&owner_id=6445842
昭和53年(1978年)か昭和54年(1979年)の事と記憶します。当時、私は、東京大田区の久が原と言ふ町に住んで居ました。(私が生まれたのは、大田区の山王と言ふ場所ですが、当時は、久が原と言ふ町に住んで居ました。)久が原は、池上の近くの町で、静かな町で、今も比較的緑が多い所です。 その久が原に、或る神社が有りました。その神社は、さほど高い場所に在る訳ではありませんでしたが、東の斜面に面して居て、神社の東側には、少しばかり、東の方を見下ろす様な景色が見られました。そして、見下ろす様な風景の先には池上本門寺の緑と、そこに立つ本門寺の五重の塔が遠望されました。 神社の境内には、古い大きな木が数本立って居ました。そして、私がそこに移り住んだ頃、そこには、素晴らしい物が有りました。 それは、境内に立つ古い社(やしろ)でした。当時、私がそこで読んだ説明に依れば、その社は江戸時代に建てられた物で、茅葺(かやぶき)の古いその社が、大きな木の下に静かに立って居るその光景に、私は、心を打たれました。 久が原に引っ越した当時、私は、高校生でした。それから、私は、引っ越して来た家のすぐ近くに在ったその神社に、度々足を運ぶ様に成りました、特に、当時飼って居たシェパードと二人で毎日の様にその神社に散歩に行った事は、私の大切な思ひ出です。
本当に残念な事でした。もちろん、私にはどうする事も出来ません。私はに、犬と一緒にその工事を見つめ、新しい社が建てられるのを見て居る他は、何も出来ませんでした。ところが、それから暫く経った頃、私は、その失はれた社(やしろ)について、或る話を聴く事に成ります。
Aさんは、そこで、新しく建てられたトタン屋根の社を苦々しい顔で見ながら、「Das war viel schoener.(あの方がずっと美しかったのに)」と言って、少し前までそこに立って居た江戸時代からの茅葺きの社を懐かしがりました。私は、Aさんが、私と同じ事を感じて居る事を知って、ドイツ人である彼も同じ気持ちだったのだなと思ひました。すると、Aさんは、神社の東側に広がる風景を前にして、こんな話を語ったのです。 「戦争中、ここに住んで居たドイツ人の男性が居ました。彼は、戦争中、ドイツ学園の教師として、日本に住んで居た人です。」 ドイツ学園と言ふのは、日本在住のドイツ人の子供たちの学校です。ドイツ学園は、今は横浜市に移転しましたが、戦前は、大森駅に近い山王に有りました。(戦後も永く山王に在り続けました)そこ(久が原)からドイツ学園までは、私の感覚では、歩いたら、かなりの距離(東に3キロか4キロくらい)ですが、戦争中、そのドイツ人の教師は、久が原の自宅から、職場であるドイツ学園まで、毎日、徒歩で通って居たのだそうです。
「私は、ドイツで、そのドイツ人に会った事が有ります。彼は、この神社をとても懐かしがって居ました。毎朝、早朝、ドイツ学園に歩いて行く前に、彼は、この神社に寄ったそうです。その頃(戦争中)、この神社の前には、畑(Feld)が広がって居て、その畑が広がる光景の向こうに、あの塔(本門寺の五重の塔)が立って居るのが見えたのだそうです。毎朝、この場所で見たその光景がいかに美しかったを、彼は、私に語りました。」 Aさんのその話に、私は、戦争中、誰も居ないその神社の境内で、一人立って、神社の前に広がる当時の田園風景を見つめるそのドイツ人教師の姿を思ひ浮かべました。そして、今は住宅や建物でひしめくその風景が、一面の畑と、その彼方に見える丘の上の五重の塔であった当時の光景を想像しました。かつて、そんな光景と、そこに立ってその光景を見つめるドイツ人の姿が、私が立って居る同じ神社の境内に有ったと言ふのです。 Aさんは、こう言ひました。 「彼は、そして、あの古い建物(社)をとても懐かしがって居ました。」 私は、何も言へませんでした。 Aさんは、そして、こう言って、その話を終えました。 「ドイツで会った時、彼は、私に『あの場所は、今、どう成って居る?』と尋ねたのです。」
日本は、どれだけ多くの美しい物を失って来た事でしょうか。 平成22年4月29日(木) 西岡昌紀(内科医) http://archive.mag2.com/0000248573/00000000000000000.html *
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