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(レビュー)『ひまわり』−−或るドイツ人捕虜の話    西岡昌紀
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投稿者 西岡昌紀 日時 2011 年 5 月 22 日 18:18:59: of0poCGGoydL.
 

(映画批評)


ひまわり HDニューマスター版 [DVD]
DVD ~ ヴィットリオ・デ・シーカ


或るドイツ人捕虜の話, 2011/5/13

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30年以上前の事である。NHKのテレビで、各界の様々な人々に、15分か20分位の時間を与えて、その人の信条や体験、意見、等を自由に語らせると言ふ番組が有った。「テレビコラム」と言ふ名の番組であったと記憶する。良く見て居たその番組に、或る時、ロシア文学者の内村剛介氏(1920年−2009年)が登場した事が有った。 内村剛介氏は、ソルジェニーツィンの作品の翻訳などで知られたロシア文学者であるが、氏は、満州でソ連に捕らえられ、戦後、永きに渡って、シベリアに抑留された体験を持つ人物である。その内村剛介氏が、或る夜、その番組に登場して語った氏の抑留体験の話は、私にとって、忘れられない物である。
 その番組の中で、内村氏は、自身がシベリアで体験した事柄を独白する様に語った。その中で、私が忘れらない話は、内村氏が、シベリア抑留中に出会った一人のドイツ人捕虜の話であった。記憶なので、不正確な点は有ると思ふが、その番組における内村氏の回想を再現する。


「その収容所に、僕にドイツ語を教えてくれたドイツ人の捕虜が居た。アデナウアーの方が、外交が上手かったのか、ドイツの捕虜たちは、日本人捕虜よりも先に(ドイツに)帰国する事に成った。それで、私は、彼と別れる事に成った。その時、帰国するそのドイツ人が、僕にこんな事を言った。『自分には、ドイツで自分を待って居る妻が居る。だが、ドイツの女が、男を作らずに10年も待って居るとは思はない。だから、自分は、妻が自分がシベリアに居る間に作った男が3人までだったら、もう一度、妻と(結婚生活を)やり直す積もりだ。しかし、それより多かったら、やめよう思ふ。』。」


即ち、シベリアには、日本人捕虜のみならず、多くのドイツ人が多数抑留されて居た。その中の一人で、内村氏と親しくなったドイツ人捕虜が、ドイツに帰国する直前、こう言ったと言ふのである。そして、そのドイツ人は、内村氏にこう尋ねたと言ふ。


「『君の妻はどうなんだ?』と、そのドイツ人は私に尋ねた。彼がそう尋ねるまで、私は、そのドイツ人が言ふ様な事は、全然考えた事が無かった。私は、妻は、自分を待って居ると思って居たし、事実、待って居た。そこで、私は、大陸の人々と、私たち日本人は、時間に対する感覚が違ふと、思ったのだった。」


 私の記憶による再現なので、一字一句同じ表現ではなかったと思ふが、これが、内村氏が、その番組で回想して居たそのドイツ人捕虜の言葉であった。旧枢軸国(ドイツ、オーストリア、ルーマニア、ハンガリー、イタリア等)の兵士で、ソ連の捕虜と成った兵士たちの中に、このドイツ人の様な人々は、本当に多数居たに違い無い。彼らの多くは、日本人捕虜と同様、シベリアで命を落とした筈であるが、生き残った者の中には、このドイツ人捕虜の様な人生を生きた者も多かった筈である。−−この映画(『ひまわり』)は、ソ連の協力を得て撮影された映画なので、ソ連が、ソ連に攻め込んだ旧枢軸国兵士を人道的に扱った事を西側の観客に印象ずけようとして居る面が有るが、実際には、このドイツ人捕虜の様な人々が多数居た事を忘れるべきではない。

 この映画の背景には、内村剛介氏が出会ったこのドイツ人捕虜の話の様な歴史の悲劇が有った。この映画の物語は、星の数の様な、そうした無数の悲劇の一つに過ぎないのであるが、それを「戦争の悲劇」と言ふ決まり文句でまとめてはいけないと、私は思ふ。五十歳を過ぎて、つくずく思ふ事は、漱石が『こころ』の中で先生に言はせた様に、恋は罪だと言ふ事である。「罪」と言ふのは言ひ過ぎだとしても、恋は人間の業である。恋は、誰かを幸福にする一方で、他の誰かを不幸にする物でもある事を、この映画の物語は語って居る。「戦争の悲劇」と言ふ言葉だけで、この映画を語ってはいけないと、私は思ふ。この映画を作ったデ・シーカ監督自身が、離婚を経験した後、二つの家庭を持って生きたのは、偶然であろうか?

(西岡昌紀・内科医/ヨーロッパの大戦が終結して66年目の5月に)


 

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