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デパートを発明した夫婦(鹿島茂著 講談社現代新書1991年の「愚者の楽園」サイトでの案内)
http://www.asyura2.com/09/reki02/msg/625.html
投稿者 五月晴郎 日時 2012 年 5 月 05 日 23:40:58: ulZUCBWYQe7Lk
 

http://www.geocities.jp/nanamaru28/syo/jk/kasima.html

天才商人ブシコー夫妻が”発明”したデパートとは・・・
19世紀のパリに興った流通業の革命

『馬車が買いたい!』『明日は舞踏会』などで、わかり易く、面白く、19世紀のパリの文化・風俗を紹介してくれた著者が、今度は、世界初のデパート<ボン・マルシェ>を作った天才商人ブシコー夫妻の足跡を紹介してくれた。


とにかく驚きの連続でした。
デパートの原型のようなものを想像して読み始めたのに、彼らが次々と実現させるシステムやアイデアは現代の私たちが知っているデパートと何ら変わらないのです。寧ろ、事によっては今の方が劣っているケースさえあります。
彼らの踏み出した1歩が月までのものだとしたら、その後のデパートの進歩は蟻の1歩と言っても良いでしょう。


19世紀後半はパリの街が劇的に近代化を遂げた時期でもあります。道路や乗合馬車などの交通網の整備は、大規模店でも採算が取れるだけの集客能力、商品の流通など、彼らの<デパート>というアイデアの実現には欠かせないものでした。

それまでは、辻馬車を雇えない多くの市民は歩いて行ける場所にある店で否応なく買い物をしなければならなりませんでした。
店同士の競合はなく、客は、横柄な店員から高く売りつけられないように、粗悪品を押し付けられないようにと、常に緊張を強いられていました。入ったが最後、何も買わずに出て来るなど不可能でした。

しかし、そんな買い物の苦痛を払拭し、商品を見て楽しむ(ウインドー・ショッピングと言う発想)、居るだけで楽しい(商品ディスプレーやイベントの充実・・・それまではそんな発想は無かった)店舗というコンセプトの<マガザン・ド・ヌヴォテ(流行品店)>と呼ばれる新しい形態の店もチラホラと出来始めていました。
アリスティッド・ブシコー氏もそんな店の一つで修行をしていましたが、独立。<マガザン・ド・ヌヴォテ>のコンセプトを更に縦横に押し広げた<デパート(百貨店)>を創設したのです。

季節ごとのセール、客の動線を作り出す売り場の配置、在庫を最小限に抑える流通システム、返品を可能にする、世界規模のカタログ通信販売、そして何より、デパート(百貨店)のデパートたる所以である、多岐多彩な商品の販売を実現。
そして店舗そのものも、規模や設備を<マガザン・ド・ヌヴォテ>から飛躍的に充実させたのです。宮殿のような豪華な店舗、色鮮やかで工夫を凝らしたディスプレー、溢れる商品。こんな空間に足を踏み入れると、ついつい財布の紐が緩んでしまうのは、今の私たちも変わりません。そして、その傾向が強いのが女性である事も・・・。
前例の殆ど無いところから、これだけの事を考え出し、実現させるのは、まさに天才技です。

これだけでも驚きに値するのに、<雇用>面でも彼らは旧態を一新します。歩合制と能力主義の昇進で雇い人のやる気を喚起する一方、定期昇給・退職金制度・年金制度・持ち株制度で愛社精神を持たせるよう努めました。
ホワイトカラーつまりは<サラリーマン>という身分を誕生させたのも彼らなのです。

でも、一番驚いたのは、彼らが既に大々的に<消費者教育>を行っていたことです。デパートの顧客層である中産下層階級(プチ・ブルジョアジー)の上昇志向を刺激して、1つ上の中産上層階級(アッパー・ミドル)のライフスタイルを目指させました。
<ライフスタイルの提案>・・・今でも商業コンセプトでよく使われる言葉ですが、これも彼らの発明なのです。
「お客様でしたら、このくらいの物はお持ちになりませんと・・・。」こんな販売員の言葉に、つい予算をオーバーさせてしまう経験があれば、彼らの戦略がどれほど有効かわかるでしょう。
しかし、彼らの戦略はもっと大規模で巧妙です。
実際のアッパー・ミドルはデパートなどには買い物に来ません。高級専門店で誂えるのです。それが出来ない層に、あたかもアッパー・ミドルになったかと錯覚させる・・・それが彼らの基本戦略なのです。
つまり、デパートの提供する商品やサービスはアッパー・ミドル御用達品の廉価版で、あくまでもプチ・ブルの財布で買える範囲の<最高級品>でしかないのです。飾ってある絵画も本物ですが名も無い作家の作品、顧客を招待するクラシック・コンサートも奏者は従業員です。
それでも、高名な画家の絵画には手が出ず、オペラ座などには足を踏み入れられない彼らにとっては、充分にアッパー・ミドル気分を満足させてくれる空間だったのです。
まことに巧妙な戦略と言えましょう。彼らの<消費者教育>は現代日本の私たちにまですっかり染み付いています・・・と言うより、今の日本人が一番優秀なブシコー夫妻の教え子なのだそうです。
パートで稼いで買ったブランドバックを持ちパリにツアーでやって来て、短い日程で十二分に堪能しようと地下鉄で市内を駆け回る日本人は、フランス人の目に奇異に映るのだとか。
ブシコー夫妻の教育は成功を収めましたが、フランス人の抱く厳然たる階級意識の根本まで消滅させることはありませんでした。ブランドバックを持てるような人は、庶民の足である地下鉄になどには決して乗らないのだそうです。(鹿島さんの他のエッセーより)

話を元に戻すと・・・
ブシコー夫妻、特にブシコー未亡人は、当時は勿論、今でもパリの人々から熱い崇敬を抱かれているそうです。
彼らは商売には貪欲でしたが、私生活は清廉で、生前から活発に貧民救済の慈善活動に私財を投じていました。死後も、社員や元社員に遺産を分配し、<ボン・マルシェ>は実質的に社員たちの会社にしましたが、更に余った遺産で、病院、養老院、未婚の母親のための施療施設を設立し、利益の多くを社会に還元したのです。

産業の活性化、流通システムの構築、消費者層の教育、雇用制度の刷新、利益の還元など、彼らはデパートを発明しただけではなく、近代資本主義の基礎を作り上げた、まさに天才商売人だったのです。

(2004.4.1)  

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