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(インタビュー)ジェノサイドと現代 トーマス・バーゲンソールさん(朝日新聞)
http://www.asyura2.com/09/reki02/msg/775.html
投稿者 gataro 日時 2013 年 9 月 20 日 11:11:27: KbIx4LOvH6Ccw
 



(インタビュー)ジェノサイドと現代 トーマス・バーゲンソールさん

朝日新聞デジタル 2013年9月19日
http://www.asahi.com/shimen/articles/TKY201309180722.html

 20世紀は大量虐殺(ジェノサイド)の時代だった。その最大のものは、第2次大戦中のナチス・ドイツによるユダヤ人への虐殺だろう。今もシリアをはじめ、世界各地で迫害が続く。人間はなぜこのような残虐なことが出来るのか。私たちはどれだけ学んだのか。ナチスの強制収容所でかろうじて生き延び、戦後、人権問題の専門家として活躍してきたトーマス・バーゲンソール氏が初来日した際に、聞いた。


 ――11日に都内で行われた講演会で「ナチス・ドイツによる大量虐殺は、過去の話でもなければ、どこか遠くの国のことでもない」と話しました。どういうことですか。

 「特定の条件下であれば、いつでも、どこの国においても、ジェノサイドは起こりえます。あれは第2次大戦中のドイツが行ったことで、今はもう起こりえない、ということではありません」

 ――その条件とは。

 「社会の中の不寛容です。政治的なものもあるし、経済的なもの、民族的なものもあります。そして憎悪。力を持つ集団が別の集団を憎悪し、それがジェノサイドを引き起こします。表面的には何もないように見えても、すぐ下ではびこっていることを意識してほしい」

 ――なぜ人間は、あれほど残虐になれるのでしょう。第2次大戦中、強制収容所のナチスの軍人たちは、どういう人たちでしたか。

 「彼らは、家では普通の生活をしている人たちでした。戦争の状況下でなければ絶対にやらないような凶行をした人が、家に帰り、手を洗って子どもたちと遊ぶということをしているわけです。もともとは普通の人たちが、特定の条件に置かれるとそういう行為に走る、ということがあります。自分の仕事に有利だとか、家庭を守るためとか。抵抗できないということはあります」

 「上司・上官に対しては忠誠を誓い、目の前の制度に対しては責任を担いたい、貢献したいと考えている人たちが、そういった行動に走ってしまうわけです。経済的な理由もあるし、政治的な理由もあったでしょう。もっと昇進したい、そうすれば収入も良くなる、と。そういう状況で何かに抵抗することは難しいと思いますね」

 ――ということは、人間が人間に対して想像もできないような残虐な振る舞いをすることが、日本でも、どこの国でも起こりうると。

 「ええ。どこででも起こりえます。例えば失業者が急増し、社会不安が起きた時とか、政治的な対立が深まった時などに。米国でも日本でも起こりうると思います」

 ――では、私が加害側の一員になる、ということもありえますか。

 「ええ。こんな実験がありました。大学生を対象に、ある集団は捕虜に、別の集団は収容所の警備兵に分けました。すると、警備兵役の学生たちは時間がたつにつれて残虐さを増していったのです。状況が人間をどう変えるかがわかります」

 「ドイツの特徴としては、伝統的に人々が(上からの)指示に従いやすいということがあります。命令に対して抵抗することがあまり起きない、上からの命令に逆らうことが言いづらい、ということがあります」

   ■     ■

 ――多くの説では、ナチス・ドイツによって600万人のユダヤ人が虐殺されたと言われています。

 「数字が問題なのではありません。数字は犠牲者を非人間化してしまう。彼らは一人一人が夢と希望を持つ存在でした。親であり、子であり、仕事を持つ人たちでした。芸術家や、学者や、医師や、弁護士でした。彼らが生きていたら、社会にどう貢献できたでしょう。世界はどうなっていたでしょう。すべてが損なわれてしまいました」

 「これはユダヤ人だけの話ではないし、過去の、歴史の話でもない。人類全体の悲劇であり、人類全体が被害者です。『二度と起こしてはならない』と言い続けるだけではいけません。それを人々が受け止めなければ、むなしいままで終わってしまいます」

 ――そうならないために、私たちは何をすべきでしょう。

 「第2次大戦後、国際社会は進歩し、多くの国際法が生まれました。ジェノサイド条約が国連によって採択されましたが、これはもっとも広く批准されている人権条約です。人種差別撤廃条約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約など。国際刑事裁判所も設立され、大きな一歩を歩み始めました。国際社会が政治指導者を裁けるようになった。とはいえ、まだまだ長い道のりです。これだけ国際法があるにもかかわらず、残念ながらルワンダやカンボジア、バルカン半島、そして今もシリアなどで虐殺は続いています」

 「米国ではユダヤ人虐殺(ホロコースト)を記録するため記念館が造られ、私も主要委員の一人です。被害者の遺品を集めましたが、私は過去を展示するだけではだめだ、これは人類全体の人権の問題であり、現代の問題と関連づけるべきだ、と主張しました。反対もありましたが、実現しました。過去の悲劇の展示だけなら『歴史の墓場』です。人権の観点から未来につなげ、人類全体が二度と起こしてはならないと訴えることが重要です」

 「大事なことは教育です。未来の世代に対する私たちの義務です。他者に対する憎悪を扇動するような動きが出てきても、それを拒絶すること。それを教えることです」

 ――具体的には。

 「なるべく早く、小さい時から教えて欲しい。公教育で。小学1年生から始めてもいい。皮膚の色や目の色、発音が違っていても悪い人ではないと認識させることが大事です。ゲストを呼んで話を聞く、というだけではいけません。教育制度全体に組み込んでほしい。学年が上がるにつれて、なぜ人は悪いことをするのか、どうやったら悪い指示や命令に抵抗できるのかなど、具体的な内容に入っていけばいいと思います。高学年になれば過去のこと、ホロコーストを教えることも大事です」

 「これは学校だけでなく、政府機関や警察、軍隊など、あらゆる分野で全体的に取り組むべきです」

   ■     ■

 ――都内の講演会では、大学の先生からこんな質問がありました。学生たちに日本が朝鮮半島や中国大陸で戦争中に行ったことを教えようとしたら、学生から「知りたくない、受け入れたくない」と拒絶された、どうしたらいいか、と。

 「よくないですね。非常によくないですね。若い人たちが過去を知り、真実は何であるかを知ることはとても大事です」

 ――でも、多くの国では、負の過去を子どもたちに教えることに強い抵抗があります。「国を誇る気持ちが薄れていいのか。国を誇れるような教育をするべきだ」という人たちが少なくありません。

 「そのアプローチは間違っていると思います。若い人たちが、自分の国には悪い過去があったけれども、とても近代的で民主的になった、今はこう改めたと知ることによって、むしろ誇りに感じると思います。過去を知りたくないというのは言い訳に過ぎないと思いますね」

 「私が日本で出会った若い人たちの中には、自分はこれから世界で何ができるのかとか、広島や長崎への原爆投下の是非などを尋ねてきた人たちがいます。私は感銘を受けました。あの子たちこそ希望です」

   ■     ■

 ――バーゲンソールさんは強制収容所で、常に死の恐怖に直面していました。あれだけ厳しい経験をしている時も希望を持ち、その後も人間不信に陥らずに希望を持っているのは驚きです。どうして持てるのだと思いますか。

 「希望を持ち続けることは、人間として自然なことです。たとえ処刑の直前であっても」

 「収容所を出た時の私の心は憎悪でいっぱいでした。12歳の頃です。本にも書きましたが、家のバルコニーに機関銃を据えて、道を歩くドイツ人たちに向かって復讐(ふくしゅう)したいと思っていましたから。それが消えるのにはずいぶん時間がかかりました」

 ――どのようにして消えたのですか。

 「年齢を重ねるにつれて分かってきたことがあります。憎悪がある限り戦争は起き、戦争が起きれば相手を殺してしまい、また憎悪が生まれる。それはどうしてもやめさせなければならない、ということです。ですから、私は国際法や人権を学びました。憎悪をやめること、やめさせること。そして憎悪が政治家たちに影響を及ぼす状況を作ってはいけない。このほかに解決はありません」

 「もし私たちが『憎悪のサイクル』を持ち続けたら、世界はどうなるでしょう。ドイツとユダヤの対立は、続けてはならないと思います。むしろ大事なことは、我々の孫たちや、さらに子孫の世代が仲良くできること、殺し合わない環境を作ることです。その始まりの部分を我々の世代が作らなければならないと考え、これまでやってきました」

 (聞き手 編集委員・刀祢館正明)

     *

 Thomas Buergenthal アウシュビッツから生還した元国際司法裁判所判事 1934年、旧チェコスロバキア(現在のスロバキア)に生まれる。39年英国へ逃れるため両親とポーランドへ移ったところ、ドイツ軍が侵攻。42年に労働収容所、44年にアウシュビッツへ移送され、両親と別々に。45年に解放され、46年に母親と再会したが、父親は収容所で死亡していた。

 51年、17歳の時に米国へ。ニューヨーク大学法科大学院とハーバード大学法科大学院で博士号を取得。2000年から10年まで国際司法裁判所判事を務めた。著書に「アウシュビッツを一人で生き抜いた少年」(朝日文庫)など。


 ◆キーワード

 <ナチス・ドイツのユダヤ人虐殺> ヒトラーが率いるナチス・ドイツはアーリア民族優位と反ユダヤを掲げ、ユダヤ系市民の法的権利を奪い、居住区(ゲットー)に強制移住させた。第2次大戦中の1942年以降、「最終解決」としてアウシュビッツなどの強制収容所へ移送。強制労働を科し、毒ガス使用や射殺などで大量殺害を行った。約600万人が犠牲になったとされる。

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<参照>

『夜と霧』(フランクル)より

 精神医学では、いわゆる恩赦妄想という病像が知られている。死刑を宣告された者が処刑の直前に、土壇場で自分は恩赦されるのだ、と空想しはじめるのだ。それと同じで、わたしたちも希望にしがみつき、最後の瞬間まで、事態はそんなに悪くないだろうと信じた。


 

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