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リコールで表面化したトヨタ式カイゼンの限界 = 新しい設計思想への契機へ(大前研一)
http://www.asyura2.com/10/hasan67/msg/292.html
投稿者 Orion星人 日時 2010 年 2 月 18 日 11:58:11: ccPhv3kJVUPSc
 

http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20100216/210884/?P=1
2010年2月16日

 2007年に自動車生産台数でついにGMを抜き、世界のトップに躍進したトヨタ自動車。だが、欧米などの大規模リコール(回収・無償修理)の影響で、トヨタは2月4日、2010年3月期の営業損益に1800億円規模の影響が出る見通しだと発表した。トヨタは信頼回復に向けて真摯に取り組んでいかなければならない。
リコールを引き起こしたのは構造上の問題ではないか
 トヨタ問題の発端は、2009年8月に米国で起きた死亡事故である。このときトヨタは「運転席のフロアマットがずれ、アクセルペダルがフロアマットに引っかかって戻らなくなった」と発表した。そこで同社はフロアマットの交換やアクセルペダルの形状変更などで対処した。
 ところが今年1月、米国でアクセルペダルの戻り方に問題があるとして、8車種約230万台のリコールを発表した。これはフロアマット問題とは別で、アクセルペダルが摩耗によって戻りにくくなるという問題だった。これを受け、米国で8車種の販売・生産を1週間停止した。
 さらに2月になって波紋を呼んだのが新型プリウスをはじめとする4車種でのブレーキ問題だ。滑りやすい路面を低速で走るとき、瞬間的にブレーキの効きが悪く感じるという。トヨタは当初、「運転感覚の問題」としていた。つまり同社は「構造的な欠陥ではない」と主張していたわけである。
 しかし私は以前から、「フロアマットや運転感覚の問題ではない」と指摘していた。これだけ多くのクレームが発生するからには、やはりエンジン・コントロール・ユニットも含めた構造上の問題があると思っていたのだ。

【一連の騒動で、昨年秋から販売が低迷】

 トヨタは2月5日の記者会見で、ブレーキが効きにくくなる原因をアンチロック・ブレーキ・システム(ABS)にあると発表した。この制御プログラムに問題があり、このプログラムを変更することで改修するとした。ここに至って、ようやくトヨタは構造的欠陥を認めたわけである。
 このリコールには新型プリウスのほか、ハイブリッド車の「SAI」と「レクサスHS250h」が含まれる。国内で約22万台、全世界で約40万台がリコールの対象になるという。今最も売れている自動車がプリウスであり、環境対策の戦略車として位置づけていただけにイメージダウンは免れまい。
 一連の騒動によって、昨年秋からはトヨタ車の販売量は低迷し、2010年1月の対前年同月比はマイナス15.8%と大きく落ち込んだ。
 トヨタにとってはタイミングも悪かった。生産台数と販売台数が世界一になってすぐに、経営陣が代わるというドタバタの中で、トヨタは順序立てて、一歩ずつゆっくりと進めていたことだろう。ところが、そこに世界的な金融危機が襲い、今回このリコール問題が追い討ちをかけたのだ。

【トヨタのクルマで起こったことは他社のクルマでも起こり得る】

 トヨタのリコール問題を、欧米による「日本たたき」、「GMを抜いたトヨタへのねらい打ち」と報じるメディアもあるが、それは早急なものの見方だ。
 米タイム誌2/15日号がトヨタ問題を取り上げていたが、その論調は決して厳しいものではなかった。それによると、現在2億4600万台のクルマが米国の道路を走っているという。リコールは米自動車メーカーでも大規模に発生しており、フォードは2009年に1400万台、1996年に700万台、GMは1971年に650万台、1961年に600万台となっている。それに比べれば今回のトヨタは600万台弱だ。要するに、リコールは米自動車メーカーの「お家芸」という認識であって、特別にトヨタが目の敵にされているわけではないことがわかる。
 まして新型プリウスのようなハイブリッド車の問題について言えば、電気系の回生ブレーキとエンジン系の油圧ブレーキがあり、その切り替えのタイミングで一瞬ブレーキが効かなくなる感覚がするのであり、その意味では、トヨタの言う「運転感覚の問題」は的外れではない。これはプログラムの問題だから、修正すればすぐに対応できる。さほどシリアスな問題ではない。
 トヨタにとって今回のリコールは自分たちの対応能力を超えた問題だったことは間違いない。だが真摯な対応を続けていけば、いずれ解決するだろう。
 解決できないとすれば、プリウスのブレーキ問題がプログラムだけに起因するのではなく、コントロールユニットの設計そのものの異常に由来すると判明した場合である。自動車部品メーカーが量産効果を出すために部品の共通化が行われている今、トヨタ車で起こったことが他社のクルマで起らないとも限らない。もし、そんなことになれば自動車業界はシリアスな状況に追い込まれ、自動車自体が「もっと簡単で素直な方向」に向かうキッカケになるかも知れない。

【技術が飛躍的に進歩し、複雑になりすぎている】

 トヨタが品質に問題を抱えたのは最近のことである。むろん、これまでも小さな問題がなかったわけではないが、今回のような“原因不明” の大規模リコールにつながるような品質問題はなかった。日本車と言えば、「安心、安全」が世界共通の認識であり、事実その通りだった。
 では、どうしてこのような事態になったのか。理由はいくつか挙げられるが、私は「トヨタはあまりにも巨大になってしまった」ことが第一に指摘できると思う。トヨタは今、その巨大さゆえに全体を見渡せる人材がおらず、迅速な判断ができない状態になっている。また、2009年6月に社長に就任したばかりの豊田章男氏に今回の責任をすべて取らせる体制もできていないだろうから、対応が後手後手に回ってしまった。
 トヨタは、いろいろと問題や批判はあるにせよ、優秀な会社だと私は思っている。だから、トヨタが問題を隠蔽しようとしたとは見ていない。対応が遅れた原因は、ひとえに全体を見て迅速に判断する体制ができなかったのだと思う。
 対応が後手に回ったという点では、技術の飛躍的な進歩も大きな影響を与えている。その昔、自動車のチーフエンジニア(主任技師長)はエンジンの構造から車体まで良く理解していた。ところが現在は、40代で中核として働いているエンジニアは入社以来、細分化された専門分野ばかりを担当しており、全体を見渡す機会が少ない。
 いや、そもそも「全体を見渡す」こと自体が不可能に近いのだ。何しろエンジンのコントロール・ユニットは今や2万以上のコマンド(命令)を処理する複雑なものになっているのだから。こうなるとリコールの原因究明に時間がかかるのは当然である。

【積み上げ式によるカイゼンの限界、技術の進歩における管理の限界】

 トヨタのお家芸でもある「カイゼン」の影響もあるだろう。カイゼンとは小さな作業を一つひとつ見直して、全体として品質向上やコスト削減を実現するものだ。その活動自体は大変結構なことではあるが、一方では小さな部分を見過ぎるため、全体を見渡せる人材が育ちにくくなるという弊害もある。小さな優れたものを積み上げていくというトヨタ式のやり方では、もはや大きな安全は担保できないレベルとなっている。
 今回のリコール問題は、積み上げ式によるカイゼンの限界、技術の進歩における管理の限界、という二つの限界をあぶり出した。おそらくこの問題は10〜20年後、トヨタの、いや日本の産業史における一つのターニングポイントとして捉えられるようになるだろう。
 すなわち「複雑系の管理」をするための新たな取り組みが必要なことが浮かび上がってきたのではないか、というのが私の仮説である。
 わたしは原子炉の技術者であるが、巨大なシステムの安全は個別の設計者がベストを尽くしても達成できない。個々の技術者が正しい判断をしても、それを全体としてみるスーパー技術者がしっかり全体の最適化をしていないと、事故が発生した場合には有効に機能しない。
 また個々の技術者は自分の設計したところで事故が起こることを極端に恐れ、かなり余裕のある安全係数を盛り込む。したがって全体から見るとトンデモナイ安全係数の積み重ねとなり、コスト高となるが、それで全体の安全が高まるわけではない。不必要な贅肉が付いている分、安全性や機敏な対応性能が低くなることもあるのである。

【複雑系を管理する全体設計で問題が発生しているのではないか】

 トヨタの問題はエンジンを初めとしたコントロール・ユニットにおいて、この複雑系を管理する全体設計の分野で問題が発生しているのではないか、と言うのが私の推測である。フロアマットとかアクセルの戻り、というような単純な問題でレーシング(エンジン回転が制御できないほど高速で回る)する問題が多発するとは考えにくいからである。またそうした問題が発生したときには当然ブレーキを踏むわけで、それでもエンジンが高回転し続ける、とも考えにくい。おそらく何らかの原因でエンジンを加速する命令系統に指令がいっている状態に入っている、と考えるのが自然である。
 これはECU(エンジン管理システム)の設計の問題か、半導体チップの製造欠陥の問題である。今までもトヨタだけではなく、数限りないメーカーがこの欠陥を出している。ECUは文字通りクルマの制御に置いては中央演算処理装置に相当する心臓部門で、今では数万に及ぶ情報(インプット)を受け多様なコマンドを発している。人間の大脳と小脳の役割を併せ持つものである。
 先に述べた私の推論に戻れば、もし原因がECUにあるとすれば、全体の設計を司るチーフエンジニアに匹敵する人が不在か、あるいは機能不全に陥っている可能税が高い。

【大半のバグは事前に検出されるが、必ずしも完璧にはできない】

 原子炉の例で述べれば、運転している人の気が動転しておかしな作動をしていることを検知すれば直ちに炉心を停止する、という回路を組む。あるいは、その場合には異常を第三者に知らせて、複数の人のチェックを仰ぐ、という指令回路を含むこともできる。
 こうしたさまざまな工夫をする人が主任設計者の主任たる理由である。考えられるあらゆる異常に際して、どのようなチェックと回復回路を組むのか? これは個々の要素を担当している技術者にはできない。全体としての設計思想を司る人にしかできないことなのである。
 もちろん複雑な回路は半導体の中に埋め込まれたロジックに盛り込まれている。そのロジックが正しくても、製造工程でバグが出ることもあるし、半導体の回路設計に落とす段階でケアレスミスをすることもある。これはあらゆる状況で試運転すれば大半のバグは事前に検出されるが、必ずしも完璧にはできない。
 ゲーム会社などではゲームが完成した暁にすぐ出荷するわけではない。小、中学生を何百人と呼んで発売前のゲームに興じてもらう。理由はサラリーマンや担当者がマニュアルに沿ってやったチェックでは出てこないような「想定外」のバグを子供達がいじりまくっている間に見つけだすことが多いからである。それでも実際に出荷して何百万もの人にいじくりまくられて初めて発見されるバグもある。

カイゼンではない、「新たな思想」で取り組むべき
 トヨタの今回の一連の「バグ」は、こうしたよその業界では普通に起こり、普通に工夫してきた生活の知恵、業界の知恵、そして技術者としての「大局的な常識」に問題があるように思えてならない。
 トヨタは世界を代表する優良企業ではあるが、今のクルマの複雑系と取り組むには数年に一度、その取り組み方に関して大きな見直しをする必要があるのではないか。日本以外の工場も50カ所を数え、車種もおそらく世界一であろう。従来の延長線上で努力とカイゼンを重ねても安全性は増さないし、万一誤動作や誤作動が起こったときの回復回路の設計思想そのものも、数年に一度はゼロからの吟味を入れなくてはならない。
 年間1000万台近い生産をしているということは、地球上で1億人近い人が毎日、トヨタ車に命を預けていることになる。これが弁護士ラルフ・ネーダーの主張したかつてのGMなどアメリカ車の如き「走る棺桶」とならないためには、今回のクレーム処理だけでは足りない。
 クルマの安全はすべての人の共通の願いである。日米問題でも、トップメーカーに対するジェラシーの問題でも、何でもない。トヨタ自身が現代のクルマづくりに関して、カイゼンという積み上げ型の思想では対処できない問題にどのような「新たな思想」で取り組むのか、というより大きな問題の入り口に立っているのだ、という認識で取り組んでもらいたい。


 

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