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政府は需要を増やすことができるか  JMM [Japan Mail Media]  
http://www.asyura2.com/10/hasan68/msg/151.html
投稿者 愚民党 日時 2010 年 5 月 18 日 21:56:28: ogcGl0q1DMbpk
 

                             2010年5月17日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.584 Monday Edition
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▼INDEX▼

 ■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』

  ◆編集長から

  【Q:1111】

   ◇回答(寄稿順)
    □真壁昭夫  :信州大学経済学部教授
    □飯田泰之  :駒澤大学准教授、財務省財務総合政策研究所客員研究員
    □菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
    □北野一   :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
    □中島精也  :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト
    □中空麻奈  :BNPパリバ証券クレジット調査部長
    □杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務
    □山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
    □津田栄   :経済評論家
    □土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部教授

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        ■■ 編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:1111への回答、ありがとうございました。先週「カンブリア宮殿」収録の
あと、番組としてちょうど200回を迎えたようで、記者会見が用意されていました。
媒体は一般紙の他にスポーツ・芸能紙も多く、小池栄子さんの力だなと思いました。
200回記念番組を企画するミーティングも何度か行いました。そこで、わたしはゲ
ストの「年齢別分布図」を作ってみることにしました。

 約4年間に出演したゲストを、「経済人」に限定して分布図を作ったわけですが、
60代以上に集中するという予想通りの結果となりました。朝青龍や松井秀喜選手な
どスポーツ選手は除外しました。若い経営者が多いほうが活力がある社会だと一概に
言えませんし、たとえばスズキ自動車の鈴木修氏のように非常にアグレッシブで、か
つ経験も豊富な経営者は大変に貴重だと思われます。

 ただ、20代の経営者のゲストがゼロで、30代が数名というのは、あまりにも少
なく、何かを象徴しているのかも知れません。電子書籍の大波を前にした出版社の対
応について以前書きましたが、大きな変化を前にして、年寄りの経営者には「逃げ切
り」のインセンティブが働きます。変化への適応を考え実行するのは大変な労力を伴
いますし、おそろしく面倒です。何もせず、自分が退職するまで会社が保つことのほ
うが安易で、経営者個人として考えると合理的です。

 日本航空の再建のために京セラ創業者の稲森氏が就任したときに、日本には「経営
のプロ」と言われる人材が本当に少ないんだなと痛感しました。おそらく長い間、経
営のプロを必要としない時代状況が続いたのかも知れません。

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■次回の質問【Q:1112】

 日本ではある時期から、廃業率が開業率を上回っています。開業率を向上させるた
めには、何が必要なのでしょうか。

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                                  村上龍
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■ 村上龍、金融経済の専門家たちに聞く
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 ■Q:1111

 デフレ傾向が続いていて、需給ギャップが問題となることが増えた気がします。現
在の財政状況で、政府は需要を増やすことができるのでしょうか。

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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 現在、わが国の経済には、GDPの約6%(約30兆円)の需給ギャップがあると
いわれています。つまり、経済全体の供給能力が、実際の需要を上回っているという
ことです。需給をバランスさせる方法として、企業が保有している生産設備を廃棄し
て、供給能力を削減することが選択肢として考えられます。しかし、それを実行する
と、賃金水準に大きな変化がない場合には、失業率が上昇することが懸念されます。

 そのため、政策当局の観点からすれば、需要を増やすことによって、需給ギャップ
を埋めることが好ましいはずです。簡単な方法は、政府が公共投資を打って、需要を
注入することが考えられます。今まで、自民党政権は、90年代初頭のバブルの崩壊
以降、基本的に、公共投資を行い、建設業の分野に需要をつけることによって、需給
ギャップが拡大することを回避し、雇用を維持する政策を行ってきました。

 ところが、現在の財政状況をみると、従来型の財政政策を打つことには限界が見え
ています。ギリシャの例を引くまでもなく、財政状況が悪化すると、国の信用力が低
下することが明らかになったからです。そうしたソブリン・リスクは、わが国にとっ
て、決して対岸の火事というわけではありません。特に、現在の民主党政権では、財
政規律が一段と弛んでいるように見えます。

 そうした状況について、国内にいるとあまり深刻に感じませんが、海外のクレジッ
トアナリストなどには、かなり深刻な状況に写っているようです。財政の関する数字
だけみると、37兆円の税収に対して、国債発行額が44兆に上っているわけですか
ら、ある意味では、そうした懸念は当然といえるでしょう。

 問題は、どうやって需要を、供給能力に見合ったレベルまで引き上げるかです。一
番手っ取り早いのは、画期的な新商品を開発して、国内外の需要を喚起することです。
例えば、現在、話題になっている3Dテレビが、かつてのカラーテレビのような商品
に育つと、需要はかなり大規模に拡大することが考えられます。新商品の開発は、基
本的に民間企業が独自に行うもので、政府などの政策当局が関与する部分ではありま
せん。政策当局は、企業が新製品開発を行いやすい環境を整えることなどが主な役割
になると思います。

 もう一つ、需要不足に関して考えられることは、海外の需要の取り込みがあります。
わが国企業の技術力は、今でも相対的な優位性を持つ分野が多いといわれていますか
ら、そうした優位性を有効に使うことができれば、新興国の需要を取り込むことがで
きるはずです。わが国の輸出動向を見るとアジア向け輸出が伸びており、企業が積極
的に、アジアの主要新興国の需要を取り込む努力を行っているようです。

 ただ、新興国の需要取り込みに関しては、世界的に競争が激しくなっています。特
に、大規模なプロジェクトなどについては、欧米諸国も国を挙げてプロジェクトの受
注に注力しているようです。例えば、現在注目されている原子力発電所のプロジェク
トでは、中東やベトナムの案件でわが国企業が受注を逃したようです。国を挙げたセ
ールスが必要であれば、政府は、臨機応変にそうした役割を果たす必要があると考え
ます。

 人口減少、少子高齢化の進展などの条件を考えると、今後、短期間に国内需要を大
きく伸ばすことは難しいと考えられます。国内需要を拡大する方策を考えると同時に、
海外需要の取り込みを念頭に置いた政策運営が必要だと思います。むしろ、国内・海
外需要という分類自体、既に必要ないとも言えるでしょう。

 そうした視点から考えると、現在の財政状況の制約下でも、政策当局が果たせる役
割は十分にあると思います。わが国の企業再編は遅れているとよく指摘されますが、
確かに、同一分野での企業数は、他の主要国と比較してかなり多い分野が多いと思い
ます。企業数が多いと、自然と技術者などの経営資源は分散することが考えられます。
そうなると、個々の企業の競争力を高めるのは難しいでしょう。M&Aの環境つくり
など企業再編に向けた誘導策も有効になると思います。

                       信州大学経済学部教授:真壁昭夫

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 ■ 飯田泰之  :駒澤大学准教授、財務省財務総合政策研究所客員研究員

 私たちの所得を決める要因は二つに分けることが出来ます。一つが所得を生み出す
底力・実力、そしてもうひとつはその潜在力を発揮できるか否かというコンディショ
ンです。これを一国経済にあてはめたものが生産効率や技術力で決定される潜在GD
P、そして潜在GDPと実際のそれとの乖離である需給ギャップです。潜在GDPが
達成されている、またはそれを上回る現実の経済活動が行われていれば好況、実際の
GDPが潜在水準に到達していなければ不況というわけです。

 需給ギャップ、なかでも実際の産出が潜在能力を下回るデフレギャップの状態で必
要とされる政策はなんなのでしょう。今回は少々理論的な整理をさせていただきたい
と思います。ポイントとなるのは「(仮に放っておいたとしたならば)デフレギャッ
プが解消されるのはどのくらい先なのか、または永遠に解消されないのか」という点
です。

 経済不振への一つの対応策が、経済の効率化です。効率化を進めることで将来期待
される所得水準をあげる。将来の所得水準が高いと予想されるのだから、現時点で、
消費・投資が活性化する。それをもって現時点のデフレギャップを埋めるというわけ
です。小泉=竹中路線ともよばれる構造改革主義はこのような発想に基づく不況脱出
を提案します。

 第二の対応策がコミットメント(拘束力)を伴う金融緩和政策による不況脱出の方
法です。これは世界の金融政策・財政政策当局が依拠するニューケインジアン型の経
済理論に依拠した政策提言です。換言すると「将来景気が改善したときには、その景
気回復が十分大規模で長期になるように金融政策はサポートを怠らない」と約束する
ことで、現時点での(将来の好況に備えた)消費・投資を誘発することで需給ギャッ
プを埋めるという思考法です。

“将来の”所得向上、“将来の”大型景気による“現時点”での需要喚起という点で
両者には共通点があります。つまりは、将来時点では需給ギャップがない経済である
ということを前提にした議論なのです。したがって、現在そして将来もデフレギャッ
プは解消されないとしたならば、これら生産効率改革、金融政策改革には有効性がな
いということになるでしょう。

 このような永遠に(または事実上永遠に近い長期間にわたって)自然な需給ギャッ
プの解消が予想されない場合には、財政政策による直接的な需要創造が提言されるこ
とになります。さらに、永遠に需給ギャップが解消されない、恒常的なデフレ圧力の
ある経済環境下では財源として貨幣発行利益を用いることが出来ます。貨幣発行によ
る無限財源調達が可能である以上、財政危機の問題は生じません。そのため、財政出
動はまさにフリーランチといってよい妙手ということになります。

 現下の経済状況に対する対策として効率向上・金融政策を用いるのか、それとも財
政政策を用いるのかについては、「仮に放っておいたとしてもデフレギャップは解消
されるのか」が判断の分かれ道です。

 10年以上、見方によっては20年近い不況を経験した私たちは、ともすると「デ
フレギャップが永遠に解消されないのではないか」と考えがちです。しかしながら、
90年代後半、2000年代半ばの景気回復を見る限り「デフレギャップが永遠に解
消されない」と考えるのは少々現実と離れてはいないでしょうか。さらに昨年末以来
の新興国の回復、今後の欧米の動向などを考えると外需依存ではあるものの、一応の
ギャップ解消はあり得るのではないかというのが私の考えです。

 将来時点で需給ギャップのない経済環境が成立するとしたならば、即効性のある需
給ギャップ解消法は一刻も早い金融政策の発動と、その継続のための法的な拘束力の
整備です。そして、将来需給ギャップが解消されたときの果実をより大きくする経済
の効率化、生産性向上も重要でしょう。金融政策と生産性向上、現代マクロ経済学の
標準的な処方箋こそが今求められているのではないかと思います。

        駒澤大学准教授、財務省財務総合政策研究所客員研究員:飯田泰之

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 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト

 政府が公共事業など財政支出を増やす形で、需要を刺激することは、現状でも不可
能でないものの、副作用の方が大きく、効果も限定的だと思います。ある意味では、
ギリシャ以上に財政状況が悪い日本にとって、市場が財政赤字に警鐘を鳴らしたユー
ロ危機は、対岸の火事でありません。1990年のバブル崩壊以降、何度も繰り返さ
れた公共事業を中心とした景気対策は、短期的な景気下支え効果があっても、日本の
長期不況脱出に役立たなかったことは明白です。

 政府はお金を使わない方法で、需要を刺激すべきでしょう。その手法としては、規
制緩和、政府首脳による海外への営業活動、消費者の期待を変えることなどが挙げら
れます。

 5月9日の日経は、政府が中国人の個人観光ビザの発行要件を大幅に緩和する方針
と報じました。今までは、年収340万円程度以上の富裕層に限られていたのを、5
0万円程度まで緩和し、中間層を広く取り込むといいます。ビザの発行地域も内陸部
まで広げるといいます。中国人旅行客は、マナーの悪さが指摘されることもあります
が、1旅行者当たりの日本での支出額は欧米人を上回ります。賃金が伸びているうえ、
人民元高による購買力増加も予想される中国人に、日本に旅行に来てもらい、消費支
出してもらうのは、コストがかからない需要喚起策だと思います。

 政府首脳による海外への営業活動では、最近、前原国土交通相と仙谷国家戦略担当
相が、ベトナム政府に対して、日本企業への原発プラントの発注を働きかけました。
前回、ロシアに受注をさらわれたので、政府が危機感を抱いて、日本企業の受注を支
援するものです。政府は、米国の高速鉄道建設でも、日本の新幹線方式の採用を働き
かけています。政府が民間企業の事業をどれほど支援してよいものかは、意見が分か
れるところですが、日本は他国政府に比べて、営業活動をやらなすぎたといえます。
政府は、アジアの需要を日本の内需として取り込むと主張してきました。日本から、
商品をアジアに輸出すれば定義上は、外需ということになりますが、日本のアジア現
地法人が受注増加に伴って、日本国内での間接的仕事が増えれば、内需へ波及します。

 政府は、観光、環境、健康を日本の成長産業にするといいます。観光は上記の中国
人ビザの緩和、環境は原発輸出促進に加えて、水ビジネスの海外受注の後押しもして
います。健康産業は、少子高齢化時代に成長が期待される産業ですが、医療は政府の
財政赤字が絡むので、医療費が増えても、民間企業が儲かるような形にはなかなかな
りませんでした。日本の富裕層が海外で医療行為を受診しても、外国人が日本に医療
行為を受けるために、訪日するという話は聞きません。日本のサービス産業は、サー
ビス精神は旺盛だと思うのですが、言葉の問題があります。日本人の英語教育をもっ
と充実させるか、医療産業の規制緩和が必要でしょう。

 日本には1500兆円もの個人金融資産がありながら、将来不安のために、使われ
ないと長年言われてきました。子供手当も制度上の様々な不備があり、少子高齢化の
流れを変えるには至らないでしょう。期待されて就任した長妻厚生労働相も、年金改
革で目立った成果をあげられていません。財政赤字が巨額にのぼる中、消費税引き上
げなしに、国民の将来不安が低下するとは思えません。消費税引き上げ前に、国会議
員や公務員がまず痛みを甘受するという意味で、国会議員の定数削減や公務員人件費
削減が必要でしょう。鳩山政権は沖縄米軍基地問題に忙殺されて、経済問題への取り
組みが不十分になっていることが残念です。

               メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊

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 ■ 北野一   :JPモルガン証券日本株ストラテジスト

 経済学には、「開放経済のトリレンマ」という仮説があります。(1)金融政策の
自律性、(2)資本の自由移動、(3)為替相場の安定の三つのうち、同時に達成で
きるのは二つだけで、一つはあきらめなければならないというものです。米国の経済
学者のロドリクは、これに倣って、「世界経済の政治的トリレンマ」という仮説を提
唱しております。彼によると、(1)国際的な経済統合、(2)国民国家、(3)大
衆政治の三つを同時に達成できないということになります。

 これは、最近の欧州の財政危機にも現れております。欧州統合は、(1)と(2)
を実現するために、(3)を犠牲にしているところがあります。(1)、(2)に関
連する為替や金利は、もっぱらエリートが少数で決定しますが、(3)の財政政策に
ついては、民主的なプロセス(大衆討議)を経て決定されます。それを上から押さえ
つけているのが欧州統合の仕組みです。ユーロに参加したいなら、財政赤字はGDP
の3%以内に抑えろといった格好です。ゆえに大衆の反乱は不可避であり、それがギ
リシャで噴出したとも言えるでしょう。

 逆に、日本をこの構図で考えると、(2)と(3)を実現する一方で、(1)を今
のところあきらめているということになるでしょう。したがって、欧州ではユーロに
参加するためには、「財政赤字のGDP比は3%以内」と問答無用で押さえつければ
よいところを、日本では国民の合意の下にしか財政政策を決定することができません。
したがって、ここでは国民を説得することが必要になってきます。コミュニケーショ
ンが重要になってきます。

 ただ、あまりにコミュニケーションを重視するために、言い換えると、説明に分か
りやすさを追求するあまりに、誤解も生まれているように思います。たとえば、国家
財政は時に家計にたとえられることがあります。税収が37兆円しかないのに、92
兆円の予算を組むのは、お父さんの月収37万円なのに、支出が92万円もあるよう
なものだといった感じです。ここで、一番違うのは、お父さんは少なくとも自分で稼
いでいるのに対し、国家は自分で稼いでいない、財やサービスを生産する事業を行っ
ていないということです。

 国家の歳入は、自分の稼ぎではなく、税金という形で、個人や企業から調達したも
のばかりです。国債も将来は税金によって償還されるべきものですから、税金の一種
です。本来は、お金に色はないのですが、税金という形で調達したら黒字、国債なら
赤字と色をつけていることになります。むろん、国債を償還するのは将来の日本人の
税金なので、それは不公平ではないかという議論もありますが、今ひとつ曖昧にされ
ているのは、その将来とは具体的に何時か?ということです。私たちの子供なのか、
孫の世代なのか、それだけでも20〜30年も違ってきますが、案外、デッドライン
が示されることはなく、明日にでも破綻するような議論が毎年のように繰り返されて
おります。お父さんの借金は世代をまたぐことはありませんが、国家の借金は世代を
またぐことが可能だし、永久債という償還が前提になっていない債権すら存在します。

 日本人に元気がないとすると、(3)大衆政治の過程で、あまりにも悲観的な将来
ばかり吹き込まれている影響もあるのではないかと思います。一方、ギリシャは、
(3)大衆政治を無視されているので、怒りが爆発し、一見、「元気」にみえるのか
もしれません。ちなみに、私は、財政赤字が大きいから日本人に元気がないのではな
く、日本人に元気がないので、要するにデフレなので、財政赤字が膨らんでいると逆
の因果関係で考えております。

 ところで、足元の需給ギャップの拡大は、08年秋のパニックにより金融インフラ
が機能不全に陥った結果、「一時的」に金融サービスを前提とする需要(自動車や住
宅の購入)が消えたことによる影響と、その現象を「永続的」な下方屈折と思い込ん
だことによる供給力の削減のあわせ技だと思います。すでに、金融機能に回復の兆し
が認められますから、今後は耐久財への需要が回復し、これに供給力の復元も加わり、
需給ギャップは縮小に転ずるでしょう。政府は、こうした逆回転(自律的回復)をも
たらすうえで、呼び水効果を果たしたと思います。

 もっとも、呼び水は、所詮、呼び水ですから、一定の役割を果たした後はお役ごめ
んです。現在は、こうした政府の役割がフェードアウトしていく局面です。いわゆる
「出口」を模索している状況です。ギリシャ問題もあるいはそうかもしれませんが、
最近、市場が動揺する局面がありますが、基本的には、役割を果たし、市場から退出
しようとする政府に対し、「もうちょっといてよ」という市場からのシグナルという
ことではないでしょうか。今は、こうした「駆け引き」を市場と政府で繰り返した上
で、適切な退出の時期、政府による需要の創出が不要になる時期を模索しているとい
うところではないでしょうか。

                 JPモルガン証券日本株ストラテジスト:北野一

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 ■ 中島精也  :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト

 物価は基本的には需給バランスで決まりますので、需給ギャップが拡大すればデフ
レになりますし、需給ギャップが解消されるとインフレになります。08年のリーマ
ンショック以降、我が国の需給ギャップは8%、40兆円まで拡大し、その後、輸出
の持ち直しから需給ギャップは縮小傾向にありますが、依然として6%、30兆円規
模の大幅なギャップが残っています。なかなかデフレ脱却には道が遠いというのが実
態です。

 さて、今回は政府が需要を増やすことができるか、という質問ですが、やり方次第
ではできるというのが答えかと思います。政府が需要に影響を与えることのできるル
ートは歳出の増減や税制改革という財政政策を通じて、もう一つは規制改革など制度
変更を通じてか、と思われます。

 一般に道路建設などの公共事業は政府による直接的な歳出増加策ですが、高度成長
時代には他の需要をも誘発する呼び水効果(乗数効果)も大いに期待されていました。
しかし、それは当時の日本経済自体、道路インフラが著しく未整備であったことから、
道路網を整備することで物流コストが下がり、生産性を上昇させて経済成長を後押し
したからであり、インフラがほぼ整備されてしまっている現在では、公共事業は地方
経済活性化事業としての役割がより強まっており、財政の呼び水効果は余り期待でき
ません。よって、財政状況が悪化している現状では需要政策として積極的に採用すべ
き政策とは思われません。

 次に定額給付金や子供手当てなどの直接給付、授業料無償化、所得減税などは家計
の可処分所得を増やし、結果的に消費需要を増やすことにつながります。しかし、一
部は貯蓄に回りますので、財政赤字の増加要因となり、持続性のある政策かとなると
疑問です。財政政策は需要創出につき効率的でなければいけませんので、そういう意
味ではエコポイントやエコカー減税などの支援策の方が望ましい施策かと思われます。
ただ、これもやりすぎると、需要の先食いになってしまいますので、おのずと限界が
あると言えましょう。どうも需要サイドに着目して需要を刺激しようとしても難しそ
うな感じがします。

 むしろ、供給サイドに着目して、法人税減税、投資減税、科学技術研究費への予算
の重点配分、高等教育への予算拡充、そして規制改革を推進することで、供給サイド
に活力を与えて、民間が魅力的な商品開発やサービスの提供を可能にするようにする
ことが、結果的に需要を誘発する最善の策ではないかと考えます。前回の2004年
ころの景気回復期に情報通信分野でデジタル家電ブームと称される消費ブームがおき
たことが1つの例です。

 政治家の中には財政支出拡大で需給ギャップを埋めてしまおうという乱暴な議論も
まかり通っているようですが、公的債務が膨らみ、ギリシャの二の舞になっては困り
ます。あくまで財政節度は守りつつ、限りある財政資源と制度改革を駆使して、民間
の需要を刺激することが、現下の財政状況下で求められる唯一の策ではないかと思わ
れます。

               伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト:中島精也

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 ■ 中空麻奈  :BNPパリバ証券クレジット調査部長

 需要を増やすことが出来るのか、を、潜在成長率をあげるにはどうしたらいいの
か、に置き換えて考えることにします。その場合の答えは、荒唐無稽に見えるかもし
れませんが、次の三つと考えます。第一に人口を増やすこと、第二に生産性をあげる
こと、第三に日本の技術力を海外に売り込むこと、です。

 一つ目の人口を増やすには、どういう対策があるでしょうか。第一に、日本で出産
率があがることを目指す。それには、子供を持つことにインセンティブを与えればよ
いと思います。子供手当てや補助金のばらまきは有効でしょう。それも現状想定より
増額し、下手に働くより子供を産む方がよっぽど経済的便益が大きいところまでばら
まけば効果テキメンではないでしょうか。不妊治療に対する補助金設定や保険対象と
することや、代理出産制度に関する法整備なども必要でしょう。それが無理なら、第
二に、移民を受け入れることを考える。米国型の潜在成長力の維持スキームを真似る
のです。移民を受け入れると治安が悪くなる可能性は否定しませんが、それは日本人
が嫌がる仕事を誰かに押し付けようとするからです。むしろ、アメリカンならぬジャ
パニーズ・ドリームを海外の人が日本で実現していこうと意気込んでやってくる日本
を作るのです。日本で学びたい!と世界中の若者が日本に押し寄せ、日本語を学び、
日本に住みたいと願う。それが成長率を押し上げる。夢のようです。

 二つ目の生産性をあげることのためには、何をすればいいでしょうか。技術の不連
続を作ればいいのですが、たとえば、電気自動車や水素自動車などは現在で考えられ
るものの一つの姿でしょう。新しくてすばらしいものには、必ず需要が生まれます。
買い替えが起こるような大きな流れを作る新技術の発展を支えることが重要になりま
す。携帯電話がここまで普及したのは、技術力と人々のニーズが合致したからです。
携帯電話のお陰で(せいで、かも知れませんが)、生活パターンすら変わりました。
世の中の流れを変える製品は、生活パターンを変えてまで、需要を作り上げる例は携
帯電話だけではありません。技術が飛躍的に高まれば、生産性があがり、付加価値は
増大化するはずです。夢のようです。

 三つ目の日本の技術力を海外に売り込むことのためには、何が必要でしょうか。我
々日本には、すばらしい技術がいっぱいあります。アナリストをしていると、いろん
な製造業の会社にインタビューに行く機会がありますが、このところ、日本製品は技
術が高すぎて、技術者のための技術になってしまい、必要のないスペックを提供し、
ニーズに合わないことが多くなってしまったという流れの話をよく聞きます。今はD
VDに取って代わられたビデオデッキですが、従前、技術の高いベータと一般的なV
HS仕様で売り出された時、VHSに軍配があがったことは記憶が新しいのではない
でしょうか。日産自動車の友人が、車検制度がある以上、5〜10年では自動車の買
い替えニーズはあるのに、同社の塗装ペンキは20年から30年色落ちしないんだと
言っていたこともその例だと思います。30年も色落ちしないペンキが素晴らしいの
は当たり前としても、10年で買い換えるのに、30年色落ちしないペンキ分のコス
トが価格に上乗せされているとすれば、消費者には無駄でしかありません。だけど、
無駄かもしれないそんな技術力は、活用すればかなり有効な活用が可能なはずだし、
それが、この国には溢れているように思います。そこで、それら技術を集め、日本国
として他国に売り込むのです。もちろん、円安にしたり、円圏(円を基軸通貨とする
経済圏のこと。過去によく議論されていましたが、最近耳にしません)を作ることで、
競争力が復活するかも知れませんが、グローバル社会に一人勝ちでいいというわけに
はいきません。資源はないが技術はある、の心意気を輸出することに切り替えます。
夢のようです。

 経済学の教科書的に答えれば、需給ギャップを埋めるには、世の中に出回っている
供給量に対して需要量がバランスしてないのを解消すればいいはずです。現状は総供
給が総需要を上回った場合の差、デフレ・ギャップがある状態です。これを調整する
には、総需要に見合うように総供給が減るか、総供給に見合うように総需要を引上げ
るか、ということになります。

 ただし、政府がこれまでやってきた需要創出策は、それこそばらまき公共工事(無
理に穴を掘って道路をもう一度埋める、といった・・・)によるものが多かったよう
に思います。地方に需要を、といっても、竹下内閣にあった“ふるさと創生政策”な
どのばらまきは、後がつづかなかったことはよく知られるところです。無理やり補助
金を使うことに躍起になったがゆえ、金のこけしが飾られました。でもそれでは、一
回きりの需要しか創出しないことは明らかでしょう。一回きりでも需要を作れば需給
ギャップを埋めることに有効ではありますが、それは、問いにあるように財政赤字を
さらに増やし、将来的な日本の調達コストを上昇させることに繋がって行き、あまり
得策ではないと思われます。

 これまでとは異なる構造改革を行わない限り、日本の潜在成長力を引上げることは
最早無理、というところまで来ていると思います。構造改革を行って、日本の潜在成
長力を引上げるために、日本が黄金の国の輝きを再び取り戻せるかどうか。いつか
行ってみたい、いつか住んでみたい、いつか勉強に来てみたい、いつかビジネスをし
てみたい、国に日本がなること。いつか使ってみたい、いつか買ってみたい、製品を
日本が作り続けること。それを妨害するような決まりやルールや法制度があれば、そ
れを改善していく(一例で言えば、介護士になるために日本に来て実際に現場で活躍
しているのに日本語検定試験で基準を満たせず本国に帰らなければならないような
ケースは改善する余地があると思います)こと。そうした積み重ねの上、上記の夢を
実現していくことが、日本の潜在成長力を引上げていくことに、きっと繋がるはずで
す。

                 BNPパリバ証券クレジット調査部長:中空麻奈

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 ■ 杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 デフレの時の政府の最大の武器は、政府支出を増やして直接需給ギャップを直接埋
めることです。この最大の武器が財政赤字を理由に封じられ、デフレ圧力を高めてし
まう支出削減や増税が、声高に求められているところに、現在のつらさがあります。

 政府の高水準の債務残高が深く国民や政治家の頭に刷り込まれているなか、さらに
赤字を拡大して財政を拡大する余地があるかどうかが問題でしょう。現在の金融市場
を見れば、政府の赤字は、国内貯蓄と国際収支の黒字で十分にファイナンスされて、
低金利の状況が続いていますので、ここからは国債増発は容易そうに見えます。

 少子高齢化の進展で貯蓄が取り崩されるため、この状況は、将来のある時点では反
転せざるを得ませんが、いくつかの研究機関がレポートを出している処によると、反
転までは10年ぐらいの時間的猶予があるとのことです。この10年ぐらいというの
は、解釈次第で長いとも短いとも言えますが、つまるところ、10年ぐらいの間に帳
尻を合わせる必要があるが、需給ギャップ解消のための国債増発が許容できない水準
ではない、と解釈すべきだとおもいます。

 政府がギャップを埋めるためにできることは、デフレ効果のある財政規律回復政策
はとりあえずおいておいて、需要刺激政策を前倒しにする時間差攻撃です。日本の金
融市場を考えれば、そのぐらいの余裕はありそうです。

 国の借金の残高は、どうしても個人の借金残高との比喩で語られ、少ないほうが望
ましく完済することが求められるという形式で考えられてしまいます。

 国家の借金と個人の借金の違いで、最も理解が難しいことに、国家の借金は完済す
る必要はないし、逆に完済は望ましくないと言う点です。国民は人間ですから寿命が
あり、その生きる時代によって、税の不公平や消費できる財の損得はありますが、国
全体で言えば国内でファイナンスされる限り、経済主体と時間軸間での資源配分やり
とりにすぎず、借金地獄で国家破産ということにはなりません。(ただし、これは財
政支出にムダが多くてもかまわないということではありません。)

 国家財政=サラ金観は直感的でわかりやすいので、一般国民はもちろん、政治家も
これからは逃れらないようです。鳩山首相は、昨年の選挙戦の時に早々と国債発行額
上限44兆円という目標を掲げ、その後修正の動きはあったようですが、菅財務大臣
になると再び44兆円を強調し消費増税を既定路線とするなど、官僚ペースが目立つ
展開になっています。44兆円には麻生政権時の予算での国債発行額で、経済的な意
味は大きくないのですが、数字が一人歩きしています。

 時間差攻撃により、現在、財政支出の拡大が許されるということであれば、政府の
使える武器は数多くあります。公共投資も減税もありえるでしょうが、現実的なとこ
ろは、選挙時のマニフェストで景気刺激効果を狙っていた物を、額面通り実施するこ
とでしょう。効果について異論はありますが、子育て手当てや、高校無償化、高速道
路の無料化などの早期完全実施が求められるところです。

 これらの政策が功を奏し、外的条件にも恵まれれば、景気は回復期を迎えると思わ
れます。そこでの成長がなるべく高くなるように、さまざまなサプライサイドの成長
戦略や人口・移民政策などに政府が関与する部分が出てくることになります。この時
点で、デフレ的な増税が導入され、税収が拡大安定することで、現政権の新機軸の政
策が持続可能なものとなります。

                       生命保険関連会社勤務:杉岡秋美

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 ■ 山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 デフレと需給ギャップについて簡単に整理すると、需給ギャップがデフレの原因に
なり、「デフレ期待」が需給ギャップの大きな原因になっている、という関係になり
ます。どちらかを大きく方向転換することが出来れば、他方もいい方向に変わる可能
性が大きいということです。

 需給ギャップを埋める直接的な方法は財政赤字を拡大して需要を追加することで
しょう。ただ、二つ問題があります。一つは、ご質問でも言及されている日本の財政
状況の問題で、もう一つは、財政赤字拡大が可能であるとしてそれがどの程度有効か
です。

 日本の財政赤字が限界に達しているという話はよく聞くのですが、幾つか怪しいと
ころがあります。先ず、今年度予算の約44兆円の新規国債発行がなぜ可能で、それ
以上がダメなのか、線引きがハッキリしないことです。本当に危機的なら、そもそも
現状で弊害が表れるのではないでしょうか。

 端的に言って、他の赤字は仕方がないけれども、新規の継続的支出として子ども手
当の満額化(対象となる子供一人に2万6千円)は阻止したいのだ、という具合に見
えます。そのために、財政赤字が「危機的」でもう財源がない、と言っているのでは
ないでしょうか。また、菅直人財務大臣の就任以来の発言を追うと、財務省が消費税
率の引き上げを急いでいる様子が窺えます。

 財務省は「たくさんお金を取って、たくさん支出する」ことで権限を拡大できる官
庁ですが、彼らのタイムスパンは(現役の官僚が天下りできる時点のさらに先まで)
長い。なぜなら、権限の現世利益として最も分かりやすい「天下り」のためには、財
務省が将来も継続的に重要な支出や徴税に関わることが受け入れ側から見て期待でき
なければなりません。また、彼らの立場を考えると、官僚が裁量的に関わることがで
きない「子ども手当」は、これを認めると権限の源泉になるべき他の支出余力を制限
しかねない「悪い支出」なのでしょう。財政に関して、財務省に限りませんが、現在
の日本を左右している集団として最も強力な官僚集団の利害はこの辺にありそうです。
「財政赤字が大変なのだ」という閉塞感は、この利害のために演出されたものである
と理解することが可能でしょう。

 財政赤字の弊害は、金利上昇とインフレですが、日本ではそうしたことが起こって
いません。その反対に「デフレ傾向」で困っているのが現状です。

 仮に財政赤字の拡大による需要追加が可能だとして、もう一つの問題は、財政政策
の有効性です。バブル崩壊以来の経緯を振り返ると、財政赤字を拡大したときには景
気にプラス効果があるらしいものの、その後が続かない、といったパターンが続いて
きました。どの程度の「呼び水」効果があるのかは、正直なところよく分かりません。
おそらくは、短期的な需要の追加効果が少しはあり、「その効果は、将来の増税期待
で100%相殺されるので無意味だ」ということにはなっていないのではないでしょ
うか。

 他方、金融緩和を一歩進めるためには、日銀が、長期債を買ったり、あるいは信用
リスクを取って商業債権などを買うといった方法があります。あるいは、他国との利
害の問題や政策の公平性の問題があるので私はあまり気が進みませんが、円安に向け
て為替介入を行う方法もあります。また、市中に出回る通貨を増やすために何らかの
形で政府が信用リスクを取る方法もあるでしょう。これらの方法の中には、将来の政
府の負担が増えて財政的な赤字要因になるものもありますが、直接財政赤字を増やさ
ずに行うことができる政策もありそうです。

 たとえば、日銀が「消費者物価上昇率が2%を超えるまでは、決して政策金利の引
き上げを行わない」と宣言してデフレ期待を削減し、残存期間の長い長期債を買い入
れてベースマネーを供給すると共に長期金利の低下で投資を喚起する、といった追加
的な緩和措置を取るといいのではないでしょうか。効果の大きさはやってみなければ
分かりませんが、デフレ期待がインフレ期待の方向にシフトすることで需要を喚起し
て需給ギャップが埋まり、同時にデフレも解消する方向に向かうはずです。効果の、
少なくとも「方向」はプラスでしょう。

 また、インセンティブの仕組みを大きく変えることまで視野に入れると、需要を喚
起するのに最も手っ取り早いのは、法人税の大幅引き下げでしょう。仮に法人税をゼ
ロにして、その分を他の税金で取ることを考えると(所得税の累進強化と消費税の組
み合わせでいいと思います)、外国から日本への投資が激増することが考えられます。
これは、おそらく立地としての日本の競争力を強化する最強の手段です。海外からの
投資の流入は日本の居住者がお金を受け取り支出することになるので、需要創出に劇
的な効果がありそうです。

 もちろん、ビジネス立地としての日本の競争力向上の為には、法人税ゼロの他に、
ビジネス全般の規制緩和の必要性や空港の整備、相当数の外国人の受け入れ、外国語
への対応(たとえば行政の)、など多くの課題がありますが、税金を理由に、シンガ
ポール、香港からオフィスが大挙日本に移転するような状況を作れば、日本の需要拡
大は可能でしょう。

 企業は最終的には個人の所有する契約の束であり、個人の消費なり所得なりに課税
すればいいという考え方に無理はないと思います。但し、法人税ゼロは、税理士の仕
事を著しく削減するのでまず実現しないのではないか、という気はします。

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
                 ( http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/ )

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 ■ 津田栄   :経済評論家

 09年度末の国の借金(国債、借入金、政府短期証券の合計)が景気対策による新
規国債発行急増で882.9兆円と前年度比36.4兆円増え、これに加えて地方債
などを加えた公的債務残高になると1000兆円を超えていると言われています。そ
うしたなかで、現在の日本におけるデフレ状況を脱するために需要を増やして需給
ギャップを緩和し、解消する方法があるかというと、現在のデフレの深刻さを考える
とこれまでの方法からあまりないといえましょう。まして、民主党政権のように、さ
らに借金を重ねてまでしての大規模な財政支出、つまりお金のバラマキ政策では財政
を悪化させ、デフレを一段と悪化させるかもしれません。

 そもそも、日本のデフレは、バブル崩壊以降十分に解決されないままきたため、新
たな段階に入っていると考えています。90年代後半から顕著になってきた日本のデ
フレは、世界経済が堅調に推移する中で、設備、雇用、債務の3つの過剰に象徴され
る国内だけの構造的問題であったといえます。そうしたデフレ状況から抜けだそうと
して、たび重なる公共事業などの景気刺激策を採ってきて、財政赤字は90年代以降
急激に膨らんでいったといえましょう。しかし、構造的な問題の解決ができないまま、
デフレは進行していったといえます。

 そのなかで、小泉政権のもと、竹中大臣が進めた金融機関の不良債権処理などの構
造改革により、デフレからの脱却を図って、成功したかに見えました。しかし、実際
は、構造改革の内容や手順が不十分であったためにデフレ構造を残したまま、欧米の
堅調な経済に新興国の急速な成長が加わって世界経済が伸びたことにより、輸出主導
で経済が回復し、デフレから抜け出せたかのように見えただけでした。そして、この
時にデフレ構造を完全になくさなければ、新たな危機が来た時には、さらに大きな問
題が起きると思っていましたが、現状をみると現実にそれが起きています。

 今回の金融・経済危機は、世界的な、というよりアメリカ、ヨーロッパなどの先進
国を中心に起きているといえましょう。しかも、日本がたどった同じ道をアメリカ、
ヨーロッパが進んでいます。サブプライム問題を切っ掛けに起きた民間部門のバブル
の崩壊を食い止めるために大規模な財政支出、金融緩和と市中への大量の資金供給を
行って、景気回復を図っていますが、思うように市中の資金が回らず、また不良債権
の処理と低金利を利用した国債投資に向かい、景気の回復は緩慢です。

 その間にも先進国の財政赤字は膨らみ、民間の債務が政府の債務に切り替わり、し
かも膨らんでいるというのが現状でしょう。全く同じ道を歩んでいるかのようです。
そしてこの後に来るのは、景気低迷の中のデフレ状況でしょう。とはいっても、日本
ほど酷くなるかというと、まだ金融・経済、社会が柔軟であるため、どこかで食い止
められる可能性はあります。その場合には、失われた10年にまではいかないでしょ
うが、これまで堅調な経済を続けるために世界を巻き込んで経済のひずみ・不均衡を
生みだしてきましたから、その解消には相当の時間とコストが必要になってくるので
はないでしょうか。

 一方、日本は、硬直的な経済構造のもと、高い物価水準から大きく変化できず、需
給ギャップを抱えたままデフレ構造を内在化させてきて、体質的に抜け出せない状況
にあるといえます。それは、経済のグローバル化の進展で大きく世界経済が変化して
いるにもかかわらず、80年代までの冷戦構造から脱却できず、旧西側諸国の中での
経済を維持しようとしてきたからだといえます。それは、高付加価値・高価格の商品
を中心として欧米向けの輸出で経済拡大を図る構造に表れています。

 しかし、経済のグローバル化とIT技術の進展で、新興国の成長とともに価格の下
落が進行して、もはや日本の経済モデルは合わなくなっています。本来、遅くとも景
気回復の中で大胆に構造改革をして、そうした世界経済の変化に合わせて、デフレ体
質を排除すべきであったのですが、現実は、目先の欧米の景気拡大にあわせて輸出主
導で景気回復したことに慢心して、改革が遅れてしまったといえます。

 その結果、アメリカ、ヨーロッパを中心とした金融・経済危機による悪影響をもろ
に受けて、現在のデフレ状況が続いています。それは、世界経済の中心が、これまで
の欧米から新興国にシフトしつつあるなかで、欧米にべったりであった日本が主体的
に経済構造を変えてこなかった結果であり、そのことで、需要の減退を招き、現在G
DPの6%、30兆円という大幅な需給ギャップとなってデフレが持続的になってい
るということになります。

 つまり、低賃金、低コストにより急速に競争力をつけてきている新興国に対して、
日本企業が、過剰な設備の廃棄に加えて、国内における雇用および賃金などの調整を
図って競争力維持を目指しているために、失業率の高止まり、所得の減少を通じて、
需要が構造的に伸び悩む状況にあるといえます。しかも、企業の行き残りのために生
産拠点を国内から消費地である新興国に移す動きを強めていますから、雇用・所得面
で需要の伸び悩みは深刻になる可能性があります。

 そう考えると、以前も書きましたが、こうした世界経済の変化の中で、構造的なデ
フレを作っている大幅な需給ギャップは、需要不足が慢性的になっていて、むしろ供
給過剰といえるかもしれません。しかも、日本の少子高齢化、人口減少が続くことに
なると、需要の減退が構造的といえるかもしれません。もちろん、その結果として労
働力人口が減ることになり、潜在成長力の低下につながって、供給力が落ちてきます
から、需給ギャップは縮小するのではないかという考えもありますが、それ以上に需
要の減退が大きければ、簡単に縮小するとは言えません。

 そうすると、構造的な需要不足、あるいは今の需要が不足しておらず、現実的であ
るとするならば、供給が過剰から現実の需要に見合うまで低下する、つまり潜在成長
力が落ちて、現実の成長力に近づくまで、需給ギャップは解消しないことになります。
まして、財政を出動して従来の景気刺激策で需要を引き上げようとしても、構造的な
需要不足を変えることは容易ではなく、むしろ非効率な景気刺激策として効果が小さ
く、今でさえ膨大な財政赤字をさらに増加させ、将来に対する不安を一層拡大させて
しまう結果になるかもしれません。

 そして、何もしなければ、高水準の物価が低下し続け、新興国の物価水準が上昇し
て逆転するまで、企業は国内におけるリストラを続け、需要不足が慢性的になります。
そのことが、さらに将来不安につながって、少子高齢化、人口減少と袋小路に入って
しまいます。では、どうすればいいかというと、企業が国内にとどまれるように大幅
なコスト低下につながる政策が必要になります。そのためには、まず法人税など企業
に掛けられる税金を例えば20%とか25%まで大幅に引き下げる(一時的に0もあ
るかもしれません)ことで企業が国内にとどまり雇用を増やし、従業員の給与を維持
することで、需要が喚起されます。

 加えて、ドラスティックな構造改革を行って、規制の廃止・緩和を大胆に行うこと
で、物価水準が大きく低下し、企業収益も家計所得も実質的に向上するように仕向け
ることです。もちろん、こうなってくると財政が必要になりますが、その場合には、
法人税減税、所得税減税の一方で、消費税を20%か25%ぐらいまで引き上げ(食
料品などを非課税として低所得者層を配慮)、直接税よりも間接税中心に税体系を大
きく変更するなど、これまでの構造を大きく変えることが必要でしょう。(もちろん、
一時的に税収不足はあっても、企業・消費活動が活発になれば、税収が増えてくるは
ずです)そうすれば、需要が慢性的な不足から回復して、需給ギャップの緩和、デフ
レの解消につながっていくのではないでしょうか。

 最後に、構造改革には、今行われている事業仕分けでは間に合わないように思いま
す。細かな事業を仕分けるのではなく、省庁の再編・縮小、また税金が投入されてい
る独立行政法人や公益法人などは教育や科学技術など国のプロジェクトを除いて原則
廃止するなど、大胆なことしなければ、構造改革は進みません。また、公務員の解雇、
公務員給与の大幅引き下げなどを含めた公務員改革を行わなければ、構造改革、規制
撤廃・緩和は絵にかいた餅になります。もちろん、その前に国会議員の大幅削減(例
えば半分)、給与の大幅カット(極端に3割から4割カット)をまず行って範を示す
べきでしょう。そうなれば、民間の活力が出て、需要が回復してくるのではないで
しょうか。

                             経済評論家:津田栄

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部教授

 景気が低迷する状況で、政府債務が未曾有の規模に達しているにもかかわらず財政
政策による景気対策を求める声がやみません。金融政策が平時のように機能しない現
状では、なおさらかもしれません。

 政府が財政政策によって需要を増やすことができるかどうかは、まず財政政策に対
する人々の期待(予想)に依存します。確かに、流動性制約(借入制約)に直面して
いる家計が相当数存在していて、そこに給付・手当てや減税によって可処分所得を増
やすことができれば、それにより家計消費が増えるという需要増加が見込まれます。
しかし、たとえ流動性制約に直面していても、目下の財政政策が(公債増発によって
賄われて)将来の増税(あるいは年金等の給付減)を惹起させるならば、将来の可処
分所得が減ると予想され、その将来時点で流動性制約に直面する恐れがあるなら、今
年の財政政策は今年の消費を刺激せず貯蓄に回る結果になる可能性があります。

 したがって、目下の財政政策が将来の経済状態にどのような影響を与えるかについ
て、政府が国民にきちんと説明してそれにコミットできなければ、政府が望むような
効果を目下の財政政策によって起こすことはできません。そして、単に説明するだけ
でなく、それが家計の貯蓄・消費行動の経済合理性と整合的で、実現可能性がある形
で(論理的に)説明できなければなりません。もしそうしたメッセージを政府が発す
ることができれば、そうした財政政策は家計の期待にうまく働きかけて所望の結果を
得ることができるでしょう。

 ただ、未曾有の政府債務を抱える現在、明るい将来を期待させるに足る給付増や減
税を行う余地はほとんどないといってよいでしょう。目下の給付増や減税は、さらな
る政府債務の累増をもたらし、それが将来の財政負担増を惹起させ、目下の家計消費
増加への効果は望み薄です。

 目下の家計の可処分所得増をもたらす形での財政政策は、前述の通りですが、それ
以外に需要を増やす方法はあります。しかし、それは「有効需要原理」の発想からで
はなく、供給を刺激することを通じて潜在需要を掘り起こすというものだといってよ
いでしょう。

 例えば、医師不足によって不十分にしか受診できていない患者や、介護師不足によ
り不十分にしか介護サービスが受けられていない要介護者です。こうした事例では、
患者や要介護者の可処分所得を増やしたからといって直ちに医療や介護の消費を増や
せるわけではありません。これらには、医師や介護師、すなわち供給側の体制をきち
んと整えるような政策が必要です。供給不足によって潜在需要が顕在化していない、
ということもできます。医師や介護師の報酬を増やしたり、待遇を改善したり、増員
することでこうした問題を解消することができます。

 こうした事例では、政府は、供給側に働きかけることで需要を増やすことができま
す。特に、(その是非は別として現状として)公的関与の強い分野でそれがより実行
可能となります。医療や介護はそうですし、環境規制もそうでしょう。温室効果ガス
排出を抑制する技術の採用を義務付けるといった規制により、そうした技術の採用を
積極化するという潜在需要の掘り起しが可能となります。

 ただし、医療や介護の分野で需要を増やすためには、増税や社会保険料の引上げが
必要となります。特に前述した効果を顕著に発揮させるには、増税や社会保険料の引
上げは不可欠です。医師や介護師などに対する報酬を増やすためには、財源がなけれ
ばできません。その財源は無駄な財政支出を削減すれば捻出できるかもしれませんが、
その無駄な支出によって生み出されていた需要が減ります。もちろん、無駄な支出は
なくすに越したことはありませんが、本問のテーマである「需要の増加」という観点

で言えば、無駄な支出でも生み出している需要はあるわけで、無駄な支出をなくせば
それだけ需要は減ります。したがって、政府が生み出す需要という観点で見れば、無
駄な支出を削減することで医療や介護のための財源を捻出するよりも、新たに増税や
社会保険料の引上げを行えば、その分だけ需要は増える(というか、供給側に働きか
けることで潜在需要が顕在化する)といえます。

 増税や保険料引上げを目下行えば、目下の家計の可処分所得が減ります。その分目
下の消費が減るという可能性は当然あります。しかし、現在の家計の消費性向は低迷
しているわけで、家計の可処分所得を増やしても貯蓄に回る可能性が高いということ
は、逆に家計の可処分所得が減っても大きく消費が減るというわけではない可能性が
あります。むしろ、増税や保険料引上げという名の「強制消費」をしてもらい、それ
を医療や介護など家計が欲するが供給側の体制不備で需要が潜在化してしまっている
部分で「消費」を増やしてもらえれば、家計の効用は高まります。もちろん、増税や
保険料引上げが、家計が欲しないもの(例えば、車がほとんど通らないような道路)
への財政支出に充てられては意味がありません。そして、前半で述べたように、その
財政支出が、社会保障制度の強化といった、将来に明るい期待を家計に抱かせるもの
であり、政府がきちんとコミットしている(制度改善を法定化できればそれも可能)
必要があります。

 逆説的ではありますが、政府が需要を増やせる余地があるとすれば、それは供給側
に働きかけることで潜在需要を顕在化する方法があります。それには、自発的な消費
を渋っている家計に対して、政府にしかできないが家計が真に欲しいているものを供
給するための財源として増税や保険料引上げという「強制消費」をさせることが必要
です。

                     慶應義塾大学経済学部教授:土居丈朗
                 < http://web.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/ >

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ●○○JMMホームページにて、過去のすべてのアーカイブが見られます。○○●
          ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
JMM [Japan Mail Media]                 No.584 Monday Edition
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部
【WEB】   ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )
----------------------------------------------------------------------------  

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コメント
 
01. 2010年5月19日 00:32:43: EyXKQNE9Fk
>>逆説的ではありますが、政府が需要を増やせる余地があるとすれば、それは供給側
に働きかけることで潜在需要を顕在化する方法があります。それには、自発的な消費
を渋っている家計に対して、政府にしかできないが家計が真に欲しいているものを供
給するための財源として増税や保険料引上げという「強制消費」をさせることが必要
です。

 とんでもない話です。おそらく増税とは消費税の事なんでしょうか。
 将来に保障も安心もない現在余計な出費は極力抑えているのに、よりにもよって「強制消費」ですか。
 年金の少ない人やワープワでぎりぎりの生活の人は餓死しろとでもいうのでしょうか。
 政府が行うべきことは姑息に需要を増やすことではなく、まずはみんなが安心して生活できる社会にすることではないでしょうか。
 懐に余裕があって将来の心配がないとなれば、大概の人は余計なもの(環境には良くない?)を購入しますからいやでも需要は増えます。


02. 2010年5月19日 09:24:49: Fnb8iE2GEs
昔のJMMは、論者全員が構造改革派や緊縮財政派であったが、

この投稿では、少なくとも2名の論者はリフレ派に転向したようだ。

世の中全体がリフレ容認に向かっているのでしょうか?


03. 2010年5月21日 16:00:56: Bo9HfYwpKA
読む価値があるのは杉岡秋美さんのだけ。
それ以外は話にならん。

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