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医療、介護、環境・観光が雇用を確保し、利益を産む条件  【JMM [Japan Mail Media]】
http://www.asyura2.com/10/hasan68/msg/732.html
投稿者 愚民党 日時 2010 年 6 月 21 日 21:09:16: ogcGl0q1DMbpk
 

JMM589M] 医療、介護、環境・観光が雇用を確保し、利益を産む条件

                              2010年6月21日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.589 Monday Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/

▼INDEX▼

 ■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』

  ◆編集長から

  【Q:1116】

   ◇回答(寄稿順)
    □真壁昭夫  :信州大学経済学部教授
    □水牛健太郎 :評論家
    □菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
    □杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務
    □北野一   :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
    □山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
    □津田栄   :経済評論家
    □金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
    □中空麻奈  :BNPパリバ証券クレジット調査部長
    □土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部教授


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        ■■ 編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:1116への回答、ありがとうございました。W杯の対オランダ戦は、面白く
ない試合でした。日本代表は、格上の相手に対し当然ディフェンシブに戦うわけです
が、速攻の反撃がほとんどできないので、「堅守遅攻」とも言うべきサッカースタイ
ルにならざるを得ません。日本の強みは中盤でのつぶしなので、どうしても相手のい
いところを消すサッカーになってしまいます。勝てば何の問題もないのですが、負け
ると、「いったいどうやって点を取るんだろう」と寂しい気持ちになってしまうので
す。

 最近、日本が持つ資源について考えるようになりました。「日本は資源を持たない
国なので貿易によって外貨を稼ぐしかない」という加工貿易という言葉を中学校のこ
ろに学びました。確かに石油やウランなどの鉱物資源はきわめて貧弱ですが、現代に
おける資源は単なる原材料・物的資源だけではありません。

 21日夜の「カンブリア宮殿」では漢方薬のツムラを取り上げます。ツムラは、有
名な商品だったバスクリンなどからも手を引き、漢方処方薬に特化して、利益を上げ
ています。漢方は、間違いなく日本の資源です。原材料はおもに中国などに依存して
いますが、技術と人材では世界的に高いレベルにあります。ただ、漢方薬といえば、
西洋医学の新薬に比べると、いまだに軽視されているような印象があります。

 理由はただ1つ、「脱亜入欧」の名残ではないでしょうか。慈恵医大を創設した高
木兼寛は、脚気の原因と予防法を確立したことで有名ですが、もともとは漢方医でし
た。戊辰戦争の野戦病院で西洋医学に触れ、その知識と技術に驚愕します。そして彼
はそのあと漢方医の道を捨て、西洋医学の徒となり、大変な貢献を果たすわけです。
まったく新しいことを学ぶために、それまでの自分の知識や技術を否定するという方
法は、急激な近代化、時代変化に対してはやむを得ないことでした。

 「日本のいいところを残して」西洋から学ぶ、というような余裕はなかったので
しょう。脱亜入欧という基本姿勢は、これまでいやというほど刷り込まれたので、い
まだ深くわたしたちに刻まれています。ただし、伝統的なものの無自覚な否定は、本
来自分たちが歴史的に積み上げてきた人的・技術的資源を見逃すリスクがあるのでは
ないでしょうか。すでに持っている知識・技術・人材を組み合わせて活用してイノベ
ーションを考えるのは、非常に合理的であり、効率的でもあります。

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■次回の質問【Q:1117】

 菅直人首相が、10%の消費税率引き上げに言及しました。参議院選のマニフェス
トにも明記されるようです。消費税率引き上げでは、我慢とか痛みとか、悪い面ばか
り言われます。消費税率が上がると、どんないいことがあるのでしょうか。

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                                  村上龍
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■ 村上龍、金融経済の専門家たちに聞く
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 ■Q:1116

 菅新政権は、医療・介護・環境・観光分野に資源を集中して成長をはかるという政
策のようです。医療、介護、環境・観光がビジネスとして雇用を確保し、利益を産む
ためには、どのような条件が必要なのでしょうか。

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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 菅新総理の所信表明演説を聞いて、よく分からない言葉がいくつか出てきました。
その一つに、経済政策に関する“第3の道”という言葉がありました。演説の内容で
は、公共事業中心の経済政策が第1の道であり、“第2の道”は、市場原理主義に基
づき、供給サイドに偏った、生産性重視の経済政策と言っています。ところが、肝心
の“第3の道”については、「経済社会が抱える課題の解決を新たな需要や雇用創出
のきっかけとして、それを成長につなげようとする政策です」と述べています。

 正直言って、菅新総理が、何を言おうとしているのか分かりません。色々な人に、
新首相の所信表明演説の内容について尋ねてみましたが、殆どの人が、「言っている
ことがよく分からない」との返事でした。経済の専門家の一人は、「最初から何も期
待していない。意味があることを言っていると考えない方がよい」という醒めたアド
バイスもありました。相変わらず、政治家の演説は美辞麗句が並ぶもので、意図して
いることを聴衆=国民に、分かり易く伝えるインセンティブが低いとの印象を持ちま
した。

 それは兎も角として、“第3の道”を考えると、おそらく、現在、わが国が抱える、
医療や介護などの分野で、新規に雇用を創出することで、経済成長を促進しようとい
うことだと推測します。

 ここで、成長分野の候補として上げられている、医療、介護、環境、観光の四つを
考えます。前二つの医療と介護のグループと、後ろ二つの環境、観光のグループは分
けた方が理解しやすいと思います。先ず、医療と介護は、基本的にシニア層が必要と
するサービスと考えられます。元々、国が運営する医療と介護は、社会保障政策の一
環であり、マクロベースの経済の中で、所得を移転する仕組みと考えられます。

 つまり、国が、制度として一定の保険料を徴収し、その原資を、そうしたサービス
を必要とする人たちに再配分するシステムです。したがって、その原資=保険料負担
を、どこかから稼ぎ出さなければなりません。原資を稼ぎ出すことができれば、医療
や介護などの分野で新たに雇用を創出することができるはずです。別に新総理が所信
表明演説しなくても、今でも、十分にできるはずです。

 問題は、医療、介護の分野は、政府が公的なシステムとして運営していることです。
公的システムの一つですから、当然、財源が必要になります。ところが、現在の財政
状況を考えると、簡単には、財源を捻出することはできないでしょう。新しい雇用を
創出する為には、どこかの財政支出を削って、その分を充当すればよいのですが、実
際には、それは口で言うほど容易なことではないはずです。

 ということは、医療、介護の分野で新たな雇用を創出する為には、国としての稼ぎ
を増やすことが必須の条件となるでしょう。突き詰めて考えると、わが国企業が競争
力を増して、輸出でより多くの利益を稼げるようにしたり、画期的な新技術や新製品
の開発で、国内外の需要を拡大することが必要になります。つまり、わが国の企業に
より強くなってもらうということです。

 次に、環境と観光について考えます。環境ビジネスに注力するとは、環境改善のた
めの技術などを開発することをイメージしていると考えられます。それが実現できる
と、環境ビジネスは、それ自体、付加価値=収益を生むことが考えられます。観光に
ついても、国内外から観光客が増えると、その分の儲けが生まれます。ですから、環
境や観光は、医療や介護と違って、所得を再配分するのではなく、新たに所得を生み
出すことになります。軌道に乗れば、雇用を創出することができるはずです。

 ただ、環境と観光では、政府の係わり合い方が異なるでしょう。環境ビジネスに関
しては、新技術の開発等は、どうしても民間企業が中心になるでしょう。一方、観光
に関しては、国や地方自治体の関与の割合が高いと思います。

 成長分野の選定については、民間企業に任せるようにすべきだと思います。政府や
官僚が、成長分野を選ぶより、民間企業の専門家の方が、より的確な判断ができると
考えるからです。むしろ、今後、政府は規制緩和や法人税率の引き下げなど、企業が
自由に経済活動を行なえる環境を整備することを優先すべきだと思います。

                       信州大学経済学部教授:真壁昭夫

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 ■ 水牛健太郎 :評論家

 最近日本では製造業の生産拠点の海外への移転が急速に進行しています。その対策
として法人税の軽減などが打ち出されていますが、アジア地域の人件費の安さと、こ
れら製品の市場自体がアジア中心になってきていることを考えると、移転を食い止め
るのはなかなか難しいものがあるでしょう。バブル崩壊以降、日本は技術立国、世界
にもまれな「“ものづくり”の国」であるとして、第二次産業に特別の価値を置く世
論形成がされてきた感がありますが、メーカーがこぞって海外に出ていく現在の状況
をみると、あれは一体何だったのか、実にむなしいものがあります。そういえば“も
のづくり”という言葉自体、メーカーが日本での生産に見切りをつけたせいか、ばっ
たりと聞かれなくなりました。

 こうした情勢と「医療・介護・環境・観光分野」への注目は表裏一体のものでしょ
う。これらの分野は、太陽電池の生産など環境分野に関連した製造業を除くと、サー
ビス業、つまり第三次産業に属する分野ということになります。そして、これらの分
野は確かに、トータルな差別化に成功すれば、国内外の富裕層を対象にして高い収益
を上げる可能性があり、日本の人件費の高さを補ってなお競争力を発揮できる分野だ
と言えます。

 こうした可能性がいちばん見えやすくなっているのは観光分野です。最近では中国
人観光客の存在感が日に日に増しており、観光ビザの発給要件の緩和が予定されてい
ます。彼らには北海道をはじめとする日本の自然の美しさ、街並みが落ち着いて整っ
ているところ、銀座などの買い物の便利さや日本で買うブランド品の信用性の高さな
どが高い人気を集めているようです。

 自然の美しさ、街並みや、買い物の便利さにしても、少なくとも数十年の蓄積あっ
てのもので、新興国が簡単に真似できるようなものではありません。例えば風景の美
しさといっても、いまから五十年前の日本は公害問題に悩んでおり、各地の川は悪臭
を放っていました。そもそも景観の美しさに意味を見出すような価値観そのものがマ
イナーなもので、貧しさもあって違法建築やバラックも多く、街並みもぐちゃぐちゃ
していました。東京オリンピックの前年の1963年に日本橋の上に首都高速道路が
通されたのは象徴的な事例です。それから数十年を経て、自然の美しさが尊ばれるよ
うになり、首都高速は日本橋の上を通ったままですが、街並みは多少落ち着き、川も
美しさを取り戻しました。

 こうした長年の蓄積が必要であることは医療、介護、環境などに関しても言えるこ
とでしょう。その意味では、アジア諸国の中で先頭を切って近代化に着手した日本は
一日の長があり、こうしたインフラに、確かに日本人の特徴であると言える丁寧で細
やかな仕事ぶりをうまく結びつけることができれば、海外の富裕層が日本にわざわざ
来てでも味わいたい魅力的なサービスを生み出すことができると思います。事実、医
療に関しても国内の一部の病院では海外の富裕層がやってきて受診するいわゆる「医
療観光」が新たな収入源になってきているようです。

 要するにこうしたサービス分野の可能性は、歴史的な条件に基づく優位性がまだま
だ維持できそうだということであり、また、うまくやればそれをブランド化して高収
益が期待できるということです。逆に言えば製造業(“ものづくり”)のやりきれな
さは、やれ日本人の感性だの創造性だのともっともらしいことを言っても、結局は狭
い範囲での技術とコストの競争になり、生産拠点はさっさと海外に移ってしまい、企
業は何とか生き延びても日本人労働者の収入は減らされる一方の未来が見えてしまっ
ていることにあります。

 それに比べればサービス業はまだ夢があります。ただ、サービス分野中心の成長に
舵を切るにしても、課題は山積しているのは確かです。医療・介護に関していえば、
海外からの医療観光の本格化どころか国内の高齢化社会への対応すら十分できていな
い状態で、成功例はまだ例外に過ぎないでしょう。介護分野の労働条件の過酷さもお
おいに気になるところで、制度的にもまだまだ政府のやるべきことは多いように感じ
ます。

                             評論家:水牛健太郎

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 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト

 増税して、福祉や雇用を充実させ、人々の将来不安を取り除き、経済成長に結びつ
けようという菅首相の経済政策は、「ケインジアン」をもじって「カンジアン」と呼
ばれ始めています。菅内閣は、鳩山前内閣が財政ばらまきだけで、成長戦略がないと
の批判を受けて、財政再建と成長戦略の両立を図ろうとしています。経済産業省が6
月3日に発表した「産業構造ビジョン」は、インフラ輸出、環境エネルギー、医療・
介護・健康など戦略5分野で、83兆円の市場創出と258万人の雇用創出を目指す
としました。財政難のため、政府資金投入より、規制緩和で、成長産業の育成を目指
す方針です。

 観光産業は、7月1日からの中国個人旅行客へのビザ緩和で飛躍的な伸びが期待で
きるでしょう。私は最近、欧米アジアの投資家を訪問しましたが、中国人旅行客への
ビザ解禁は、海外投資家から最も評価が高かった政策です。子供手当てでは人口減少
に歯止めがかからず、将来的には移民が必要になると考える投資家が多いためです。
日本で移民が解禁されるには10年以上の年月がかかると考えるため、当面は昨年1
00万人に留まった中国人の訪日旅行客にもっと来てもらって、日本での消費支出を
増やしてもらう必要があるでしょう。

 環境関連企業は、CO2削減を巡る国際交渉の頓挫や、鳩山前政権の支援策が十分
でなかったため、株式市場での注目度が低下しました。日本の環境産業はかつて国際
比較優位を維持していましたが、民間企業の投資や政府のサポート策が不十分だった
ため、太陽光など日本が比較優位だった分野でも、競争力を低下させています。早め
に地球温暖化課税を導入して、得られた税収を環境産業に注ぎ込むスキームを確立す
る必要があるでしょう。環境への投資を促進するための、グリーン税制なども考慮す
べきでしょう。

 2000年4月に始まった介護保険制度は、今年10年目を迎えました。介護で民
間企業が儲けることは難しいとの見方が定着しているため、「カンジアン」の発表に
もかかわらず、パラマウントベッドを除いて、介護関連企業の株価は冴えない動きと
なっています。社会福祉関連企業でも、持続的に利益を伸ばせるような制度改正を行
う必要があるでしょう。介護業界では、かつての雄だったグッドウィルなどで不正事
件があり、介護サービスを提供する民間企業に対する不信が芽生えました。公的サー
ビスを行っている民間企業も、襟を正す必要がありあすが、ある程度利益成長できる
スキームを確立しないと、民間からの投資は期待薄です。公的支出だけでは、財政赤
字の制約がかかり、ヘルスケア市場の成長が望み薄になります。

 6月17日に発表された民主党のマニフェストは、2020年度までの平均で、名
目成長率3%超、実質成長率2%超の経済成長を目指すとしました。日本の過去10
年間の名目GDP成長率の平均は-0.5%であり、3%成長は1991年度以来達
成されたことがないため、野心的な目標といえます。所得の再配分だけに集中した昨
年衆院選のマニフェストに比べて、経済成長重視の戦略を打ち出したことは評価され
ますが、3%名目成長のための具体策が力不足でしょう。方向性は正しいものの、小
さな支援策の集まりで、3%成長が達成されるとは考え難いです。マニフェストに含
まれた数少ない目新しい政策は、沖縄振興策に「地域の特性を活かせる施策の先行実
施」が含まれたことです。これがカジノ解禁を意味するなら、観光産業の大きな変化
となるでしょう。

               メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊

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 ■ 杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 今回、政権が成長戦略という場合、経済政策の枠組み上、二つの狙いがあると考え
られます。まず、需要が足りないので、ケインズ財政政策を打って、完全雇用の状態
を回復したいという意図があるでしょう。また、成長分野に積極的に資源配分をして
生産性の高い産業を育成し、潜在成長率を高めたいという野心があるでしょう。経済
のメカニズムとしてはかなり違いがあるので、この二つ意図は明確に区別しておくべ
きでしょう。

 まず完全雇用を達成するための財政政策ですが、医療・介護サービスは公共財とし
ての性質が非常に強いので、支出の恰好の対象となります。市場に任せておいたので
は適切な供給量が決まりませんので、多かれ少なれ行政機関が最初から介入し、法律
でサービスを定義し、サービス供給量や、資源の投入量まで決めていくことになりま
す。産業規模は公的な資金の投入量次第ですが、医療・介護は労働集約型のサービス
産業なので、投入した公的資金あたりの雇用創出量は、他の産業より完全雇用回復の
役にはたちそうです。

 高齢者人口が増えるにつれ、当面これらに対するニーズの拡大がみられるのは確実
です、これにうまく金を付けてやれる仕組みを整備すれば、ニーズは有効需要となっ
ていきます。現実的には、税金や保険料を原資にした公的資金を十分つぎ込むしかな
いでしょうが、その意思決定さえできれば、当面この分野で雇用量を増大させる算段
はできそうです。ただ、そのあとさらに生産性をあげ資本の蓄積の過程を経て、将来
にわたる経済成長のエンジンになっていくという姿は、非常にイメージしにくいのだ
と思います。医療ビザをつくって、海外から患者を呼び込むといったアイディアもあ
るようですが、長期的な発展を目指すだけの海外患者数の確保は難しいのではないで
しょうか。高齢化がピークを迎えるのはあと10年ぐらいでしょうから、雇用を吸収
しておけるのもそこまでで、あとはゼロ成長がつづくでしょう。

 医療・介護の分野での資源配分は、行政・官僚機構のさじ加減の面が大きく、これ
らの決め方次第で、利用者の満足度、雇用の吸収量、利益等が決まってきます。行政
機関は、維持には向いているかもしれませんが、イノベーションだとか成長を取り扱
うのは最も不得手ですから、医療・介護の分野は十分なサービス供給と雇用量を確保
すべき分野ではないでしょうか。
(最近、私は86才になる父のために、老人施設を探しましたが、公的も民間ふくめて
新しい施設はどこも清潔で立派でした。古い老人ホームのイメージを壊すのには十分
でしたが、反面つねに人手不足のようにみうけられました。人を雇うという視点より、
設備の充実に力点を置いた行政の基準を反映しているのだとおもいました。)

 環境分野は、世界的に環境配慮が高まる中、日本企業の相対的な優位性が高まって
いる場所です。ここに政府が何らかの役割を果たし、成長産業創出を促進したいとい
うことですが、例えば途上国のインフラ整備にたいして、借款や援助を付けるだとか、
基礎研究開発に対して国家予算を潤沢付けるとかの予算措置でなどが候補でしょう。
ベンチャー・キャピタルやベンチャー企業に対して、出資したり補助金を付けると
いったこともありえます。日銀が最近乗り出したように金融をつけやすくしたり、税
制上の整備も行うつもりなのでしょう。借款や援助は受注獲得に露骨に効きそうな分
野ですが、研究やベンチャーにたいする出資は、目利きが難しくだれがやっても成功
率は低いので、引くに引けなくなり肥大化するのは明らかですので、責任をとれない
政府は手を出すべきではなく、制度設計にとどめるべきでしょう。

 観光は、国レベルで観光ビザ取得を緩和して、中国のニーズの喚起をはかっている
ところです。中国の社会が豊かになり、消費が伸びていく限りにおいて成長が見込め
る有望産業です。地方の地域社会に直接売上がおち、また労働集約型のサービス業で
すので地域での雇用が生まれやすいところがメリットです。地域のコミュニティが街
づくりとあわせて観光資源開発を競いますので、大企業と中央政府の組み合わせでは
なく、地方と民間中小企業の組み合わせでの産業振興が図れる良い機会となるでしょ
う。

                       生命保険関連会社勤務:杉岡秋美

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 ■ 北野一   :JPモルガン証券日本株ストラテジスト

 6月18日に閣議決定された「新成長戦略」を素直に読めば、医療・介護・環境・
観光などを戦略分野とする今回の新成長戦略が成功するための条件は、卓越した「政
治的リーダーシップ」の存在ということになるのでしょう。

 昨年末に発表された「新成長戦略(基本方針)」に、次のような記述がありました。
「(失われた20年における日本の)失敗の本質は何か。それは政治のリーダーシッ
プ、実行力の欠如だ。過去10年間だけでも、旧政権において10本を優に越える
「戦略」が世に送り出され、実行されないままに葬り去られてきた。その一方で、政
官業の癒着構造のなかで、対症療法的な対策が続いてきた」。

 今回の「新成長戦略」には、やや表現を変えて次のように書かれております。「こ
れまで、日本において国家レベルの目標を掲げた改革が進まなかったのは、政治的リ
ーダーシップの欠如に最大の原因がある。個々の団体や個別地域の利益を代表する政
治はあっても、国全体の将来を考え改革を進める大きな政治的リーダーシップが欠如
していた」。

「戦略」と「実行」というのは、確かに重要なテーマであるように思います。私事で
恐縮ですが、日本の金融機関から米国の金融機関に転職した時、肌で感じた差は、
「戦略」と「実行」の扱われ方でした。日本の会社は、「戦略」を書きあげたところ
で満足し、「実行」は疎かになりがちでした。米国の会社は、「戦略」なんて二流で
良いと割り切り、「実行」に注力しているように思います。

 むろん、どちらが良いというわけではなく、一長一短があります。一に「戦略」、
二に「実行」の場合、コミットメントは強くなりますが、柔軟性はなくなります。逆
に、一に「実行」、二に「戦略」ならば、コミットメントは弱いけれども、良くも悪
くも変化への対応は早くなります。「新成長戦略」は、リーダーシップの欠如→戦略
の失敗という論理で書いておりますが、私は、リーダーシップ云々もさることながら、
そもそも、立派な戦略がまず存在して、それが実行されるべきだという発想から疑う
べきだと思います。

 今回の「新成長戦力」の基本理念は、どうやら「課題解決型」という言葉にあるよ
うですが、「戦略」、「戦略」と連呼するところに、すでに課題を見誤っているよう
な気がしてなりません。

 もし、強いリーダーを求めるなら、そして、その強さが、その実行力を意味するな
ら、我々が求めるのは、「戦略なんて二流でいいよ」と嘯くリーダーでしょう。その
意味で、菅首相が、どんな気持ちで、この「新成長戦略」を受け取ったのか興味はあ
ります。

 ところで、「新成長戦略」を読むにあたって、その論理に注意しながら読んだので
すが、今ひとつ分かりませんでした。冒頭から躓きました。「閉塞感が続く主たる要
因は、低迷する経済、拡大する財政赤字、そして信頼感が低下した社会保障である」
とありますが、「体調が悪い主たる要因は、発熱と、喉痛と、下痢だ」と言われてい
るようで、釈然としませんでした。彼らが「要因」と言っているのは、「症状(病
状)」のことでしょう。

 そのさらに先を読んでいくと、どうやら「病状」を悪化させたのは、「第一の道」
(政府の失敗)と、「第二の道」(市場の失敗)だという話になります。要するに、病
状が悪化したのは、医者が悪かったからだということです。だから、新しい医者に変
えましょう。それが「第三の道」であり、政権交代の意義であると。ここでも、閉塞
感の要因ははっきりせず、病気が治らないのは、医者が悪いからだと論理がすり替
わっております。

 ちなみに、ここでの政権交代の意味は、自民党から民主党への政権交代ということ
なのでしょうが、この文章を読んでいると、実のところ、民衆によって選ばれた自民
党も民主党も駄目だといわれているように読めて仕方がありません。リーダーシップ
の問題というよりも、リーダーの決め方が悪いということです。医者が悪いという話
から、裏口入学の医者は駄目だという話にさらにずれて行っているような感じです。

 しかし、それにしても、日本の閉塞感の主因は、政治的リーダーシップの欠如なの
でしょうか。優れたリーダーが登場することによって、「元気な日本」に復活するの
でしょうか。なんか、違うような気がします。それって、日本に「メッシ」がいれば
ワールドカップで優勝できると言っているのとあまり変わらないように思います。結
局、課題解決型という割には、課題が見えてこない文章です。

 日本を覆う閉塞感の背景と、解決すべき課題を見出したいなら、「新成長戦略」も
さることながら、藻谷浩介さんの新著「デフレの正体-経済は「人口の波」で動く
-」(角川ONEテーマ21)と小峰隆夫さんの新著「人口負荷社会」(日経プレミ
ア)を併せて読むことをお勧めします。私は、必ずしも彼らの意見に100%賛成で
はありませんが、これら本には、閉塞感の主因に迫る「クールヘッド」と、課題解決
に向けた「ウォームハート」を感じます。

                 JPモルガン証券日本株ストラテジスト:北野一

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 ■ 山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 成長分野は民間のビジネス的な努力を通じて結果的に決まるべきものなので、政府
が特定の分野に肩入れするかのごとき方針を発表することは本来余計です。しかし、
政治的には、「成長戦略」と呼べるような何らかのプランを示す必要があったので
しょう。

 但し、資源を集中するとする分野の選択には興味深い点があります。かつてであれ
ば拘ったにちがいない「もの作り」と「IT」が成長分野として挙げられていません。
アジアの新興国と「もの作り」で競争するのは大変です。ITは業種としては世界的
に成長分野ですが、世界の市場をリードできそうな日本企業がいまのところ見当たり
ません。いくらか情けない感じがしますが、現実的な業種選択です。

 医療・介護に関しては、病院の株式会社化を認めたり、介護の労働力として外国人
をもっと受け入れやすくしたりといった、両分野のビジネス的な規制緩和があるとい
いのではないでしょうか。日本の医療がどの程度の競争力を持つかについては疑問も
ありますが、外国人が日本に来て医療サービスを受けやすいようにするために、ビザ
の発給条件を緩和することも有効でしょう。

 環境分野は国内・国外両方に需要がありそうです。国内の需要に関しては、環境対
策の投資に対する減税は、環境に対する負荷の外部不経済に対する対策として、一応
の筋が通りそうです。海外の環境関連プロジェクトに対する売り込みは、低利の公的
融資まで踏み込むと「やり過ぎ」(納税者のお金で特定の業種・企業を優遇しすぎる
という意味で)になるでしょうが、政府が対外セールスに協力するくらいのことまで
はやっていいでしょう。

 観光分野に関しては、外国人の受け入れ態勢の強化に尽きます。ビザの発給条件の
緩和、空港の規制緩和、外国語教育の強化などが有効でしょう。

 何れの分野に関しても、基本的な方向性は規制緩和であり、敢えて共通点を探せば、
あらゆる意味で外国との距離を近づけることが日本経済を成長させる上での鍵になる
ように思えます。人口が減り、高齢化する中で国内だけの需要に頼るよりも、成長率
が高い外国の需要に上手く乗ることを考えるべきでしょう。

 ただ、何れにしても、成長のために努力することは民間の企業と個人の役割であり、
政府はその邪魔をしないことが重要でしょう。政治のリーダーシップで成長を目指す
べきだというのは、誤った期待でしょう。政府や政治家に対して余計な期待を持つこ
とで、フェアでない支出が行われたり、公的な関与による資源配分が増えてかえって
効率が下がったりする可能性が高まります。

 本来は、そもそも政府が成長分野を適切に決めることが出来のかという点について、
大いに疑問があります。従って、医療・介護・環境・観光が成長分野だという前提も
疑って掛かるべきではないでしょうか。

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
                 ( http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/ )

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 ■ 津田栄   :経済評論家

 菅新政権は、第三の道と称して、増税によって得た財源で、政府が今後伸びると判
断した産業分野にその税源を投入することで雇用を増やし、需要を拡大して経済成長
を目指すという政策を採ろうとしています。その成長産業として税源投入しようとす
る分野が主に医療・介護・環境・観光ですが、現在の状況では、ビジネスとして本当
に雇用を確保し、利益が出るのか、少し疑問を感じています。

 そうした成長分野について、6月18日に発表された新成長戦略として「国家戦略
プロジェクト」に、具体的な内容が書かれています。医療・介護分野では、高度医療
の普及拡大、国際医療交流などを挙げ、研究費や人材の投入、高度医療の評価手続き
の簡素化などにより2020年までに新たな医療機器・医薬品の創出や再生医療市場
の拡大などを目標に年間7000億円の経済効果、外国人患者の受け入れ拡大、外国
人医師・看護師の国内診療の受け入れなどにより、50万人の来日、年間1兆円の経
済効果を目指しています。

 しかし、医療機器や医薬品の世界のシェアは約1割、アメリカや欧州が大半を占め
るという圧倒的な強さがあり、しかも中国などの新興国の伸長著しいことを考えると、
今後世界的な競争が激しくなるなか、現状のように多くの規制、スピードの遅い判断
の中にあって、そう簡単に成長分野に育つのか、疑問を感じています。もちろん、日
本の医療技術は世界的にも高い水準にありますが、円高もあって競争力が弱いといえ
ます。今後医療最先端技術を世界に売っていくには、いかに迅速に承認をして市場に
出していくかにあります。そのためには、医療機器の承認などにおける規制を大幅に
緩和し、欧米よりも早い承認を行っていくことや、あまり薦めませんが、技術・製品
開発に補助金を出していくことなどが必要ではないでしょうか。

 その点は、医薬品においても、同じです。日本の医薬品は、承認が欧米に比べて大
幅に遅れていて、土俵にも登れないことが多いといえます。もしビジネスとして雇用
や利益を生みたいならば、やはり医薬品の迅速な承認が求められるとともに政府の支
援は必要かもしれません。そのために、臨床・治験期間の短期化などが必要です。今
回の国家戦略プロジェクトにも挙げられている、未承認薬の使用許可のために混合診
療(健康保険外の自由診療と保険診療の併用)の拡充などがその道につながります。
しかし、医薬品のネット販売の規制を含めて、医薬品においては競争を進めるために、
多くの規制があり、その大幅な緩和が必要といえます。また、医療機器と同様、医薬
品の開発には莫大な開発コストがかかります。その軽減が何らかの形で進めることが
求められます。

 また高度先端医療技術においても、確かに日本は高いと言えましょうが、それはご
く一部であって、全体に占める割合は小さいはずです。しかも、移植手術においては
海外では事例が多数あるのに対して日本では規制があるために少なく、技術的に他国
に後れをとっているといえましょう。そうした状況下で、他国の水準に追い付くには
時間がかかるのではないでしょうか。またそうした先端高度技術を学ぶ場、医師など
はこれからです。そして、こうした技術を使った医療はチームで行う必要があり、優
秀な看護師の育成も求められます。そこには相当の費用が掛かります。
 
 一方、国際交流医療についても、そんな簡単なものではないことは、中国人の方と
一緒に行っている事業から体験的に言えます。それは、がんの早期発見が可能なPE
T検査を受けたいという中国人のニーズに応えようとしたのですが、日本の料金が高
すぎて、安いマレーシアなどのアジアの国などに流れるという結果になっています。
アジアを中心とした外国人の患者は、確かに、日本の高い医療を受けたいと思ってい
ますが、治療費用や検査料を下げるなどして競争力を持たせなければ、来てくれる保
証はありません。むしろ、アジアなどの新興国の医療技術も伸びてきていますからそ
の差は縮まっている上に、まだ中間層の所得水準は低いことを考えると、期待したほ
ど来ないかもしれません。やはり、医療を成長産業にするには、規制や相当の補助な
どが必要だと言えましょう。

 介護についても、同じように規制が多すぎて、それがコストを押し上げて、経営の
ために過重労働、低賃金の介護職員を生み、定着を阻んでいます。つまり、介護施設
における規制、資格制度による規制や参入者の規制などが介護に必要な雇用の障害に
なっているといえましょう。今後必要なのは、社会福祉法人以外の事業主体の参入を
認めたり、使用施設の細かな規制を緩和するなどです。こうした規制緩和なしでは、
雇用は期待通りには増えないでしょう。それよりも、たとえ、雇用が増えたとしても、
介護という国内需要の増加に合わせたものでは、所得が国内の中で循環するだけで、
介護産業自体は成長するかもしれませんが、一方で衰退していく産業がある中では、
それのみでは経済全体の成長にはつながりません。むしろ、それを追い求めれば第二
の公共事業になっていきましょう。その点から、そのノウハウや人材を海外に輸出し、
出ていくことが必要であり、それが日本経済全体の成長につながると言えましょう。

 環境分野についてですが、「国家戦略プロジェクト」では再生可能エネルギーの拡
大加速、「環境未来都市」づくりを掲げ、風力、小水力、バイオマスなどの再生可能
エネルギーの全量買い取り制度の導入や次世代送電網導入、風力や地熱発電の建設促
進などで10兆円の再生可能エネルギー市場にする一方、必要な規制緩和や税制措置
を盛った環境未来都市整備促進法(仮称)を制定し、そのもとで培われた未来都市づ
くりのノウハウを中国などの海外に輸出して50兆円超の環境・エネルギー市場と1
40万人の新規雇用を生み出すとしています。

 確かに、日本の環境技術は競争力を持っていますし、期待はできますが、太陽光パ
ネルを見るように、これまでの政府の対応は補助をやめるなど冷たいもので、企業の
努力は低下していったのが実情でしょう。もちろん、風力発電や原子力発電では、企
業努力をしてきましたから、その高い技術を維持してきました。あるいは水事業につ
いても、日本企業はハード面で高い技術を持っています。しかし、その技術をつない
でより高い付加価値を生むソフト面で弱く、日本企業は下請けに甘んじています。そ
れを強化するには、政府の大規模な規制緩和や支援が必要になってきます。しかし、
それでも、世界のライバルに追い付くのが精一杯かもしれません。

 ただ、企業は、国内で政府の支援で再生可能エネルギーを買い取ってもらい、建設
も促進してもらえるのであれば、利益が出るでしょうし、その点では、国内の再生可
能エネルギー市場を生み出す経済効果はありますが、一方で国内企業優先では割高に
なってしまう可能性があります。また、未来都市づくりにしても、青写真がない限り、
既存の都市をどのような形に変えていくのか見えないなかで、風土や文化の違う海外
に本当に売り込めるのか、見当がつきません。国内では、政府主導でこうしたことが
行われれば、これまでのダム・橋・建物などに代わる別の形の公共事業になる可能性
があります。しかも、そうした技術は、世界でも進めているなかで、果たして競争力
を保って海外に輸出できるのか分からず、見通しは甘いように感じます。

 また、観光分野については、「国家戦略プロジェクト」では総合経済特区の創設、
訪日外国人増と休暇取得の分散化を掲げ、ピザ発給の手続き迅速化、祝日法改正など
により訪日外国人2500万人、経済効果10兆円、56万人の新規雇用を目指すと
しています。国内では、もっと観光をしてもらおうと休日の分散化を目指しています
が、所得が伸びない限り、期待したほどにならないかもしれません。訪日外国人では
急速に増加する中国中間層に期待しているかもしれませんが、彼らは、実利を求めて
いますので、買い物にはお金を使いますが、ホテルなどの宿は安いところを探すと聞
いています。そうであれば、期待したした人数が来ても、それが期待した経済効果に
なるのかは分かりません。

 もちろん、中国人には、今の旅館やホテルの料金は、円高もあって高いと思ってい
ますが、それでも所得が増えている限り、日本への憧れがあって、来たいと思ってい
ます。今後、訪日したい中国人に対する制限を緩和して来てもらうことを目指すには、
料金を下げることが求められましょう。それには観光業界に課せられた規制や目に見
えないしがらみを排除することが必要です。そうでなければ、訪日を期待する中国人
はどこかで頭打ちをして、伸びなくなると思います。それは、その他の外国人にも言
えましょう。

 こうしてみてくると、成長分野として医療や介護、環境・観光を見てきましたが、
それを伸ばし、成長産業にしていくには、大幅な規制緩和と政府の大規模な支援が必
要になってきます。それは、政府がこうした産業を成長産業と位置付けること自体問
題があるのですが、その特定な産業に税金を投入するという点で公平性を著しく害し、
問題が大きいと言えましょう。しかも、政府主導でやるとなると、第二の公共事業に
化してしまう恐れがあるといえましょう。また、世界が大きく変化し、進歩していく
中で、日本がこうした戦略で雇用を増やして経済成長できるのか、疑問が残ります。
そういった点で、この第三の道、国家戦略プログラムは官僚の書いた自分に都合のい
い、大甘な政策に見えます。やはり、民間で成長産業を見い出し、それを伸ばすよう
に、政府が法人税減税や規制緩和などを行って影から支援するのがいい方法ではない
でしょうか。

                             経済評論家:津田栄

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 ■ 金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務

 この設問を前にして戸惑いを感じている点があります。それは、菅新政権の「医療
・介護・環境・観光分野に資源を集中して成長をはかる」という政策が、どのような
道筋で政策目的を達成するのか、という想定に関して、私自身の理解とメディアなど
を通じての議論での前提がずれているように感じているためです。

 菅首相が表明した「経済社会が抱える課題の解決を新たな需要、雇用創出、成長に
つなげる政策」の意図としては、例えば、介護サービスの内容や支援体制を充実させ
ることなどによって、家計の抱える問題の解消が家計の活性化を通じて経済活性化に
つながるとの考え方と理解していました。これは育児サービスなどにも当てはまり、
貴重な財源を振り向けたとしても、そこで新たな雇用需要創出につながると同時に、
なによりも家計の活性化という外部性によって、経済への波及効果の高い効率的な財
政支出となるとの発想があったはずです。

 特に、介護や保育などを含めたサービス産業の本質は、「労働の取引」にあります。
つまり特化と交換によって社会の産出物が増加することが、産業としての付加価値に
なります。例えば、保育所を増やし保育士を雇うことで高学歴の専門職を持つ女性の
就業継続が可能になる、あるいは、介護サービスによって経験豊富な社員の介護のた
めの早期退職を避けられる、といったことです。

 実際、新成長戦略策定に当たって厚生労働省が提示した推計では、医療・介護およ
び子育て支援の追加需要はそれぞれ約17兆円、約1.5 兆円(2020 年時点)、
2020 年までの年平均成長寄与度は0.3%としていますが、一方で、就業促進
策等を実施することで、女性のM字型カーブの解消等により高齢者、女性、若者等の
就労促進を図った場合の2020 年度の労働力人口は施策により約290 万人増加
し、同じく年平均成長寄与度は0.3%としています。

 もし、そのような考え方に従えば、医療・介護あるいは保育サービスなどの分野に
関しては、いかに効率良くサービスを拡充・提供できるか、が論点であり、雇用需要
創出の規模はあくまでも二義的であるばかりではなく、限られた予算の中で政策目的
を効率的に実現するという観点と反するものです。

 一方で、菅首相のブレーン経済学者であり内閣府参与の小野善康氏は週末のテレビ
番組に出演し、「増税しても、使い道を誤らなければ景気に良い影響を与える」主旨
としては、税収が雇用に直接使われることが正しい使い道だと主張する一方、「政府
が『賢い使い道』を選択できるという前提には立っていない。」と指摘していました。
それでは、「穴を掘ってでも」という考え方とどこが違うのか、という疑問も禁じえ
ませんでした。

 たしかに、いまどきは「政府が『賢い使い道』を選択できる」という考え方は不人
気ですし、「外部性」という言葉を不用意に使うことも少なくなりました。しかしそ
の議論を全面的に受け入れた場合、結論は「小さな政府」しかありえなくなります。
もちろんそのような考え方も一方ではありえますが、ここは民主党としては重要な論
点のはずです。「賢い使い道」を妨げているのが官僚機構によるエージェンシー問題
であれば、「政治主導」により「官僚を排除する」あるいは逆に「官僚を取り込む」
ことで克服することを主張すべきでしょう。また、そもそも「政府が『賢い使い道』
を選択することはできない」という前提に立つのであれば、政府による使途を選択す
る国民の判断能力も否定することになり、民主党の大衆政党としての自らの存在意義
を否定することにもなります。

 ここで本題に戻り、医療・介護・環境・観光分野を成長産業として経済の牽引役を
担わせたいということであれば、雇用の確保よりも、まず利益を産むことであり、そ
の前提として経済的付加価値の拡大が重要となるでしょう。経済政策の評価、特に有
権者による選択においては、雇用創出効果を経済的付加価値の拡大効果以上に評価す
るバイアスが指摘されていますが、これは経済的には非合理的な選択と考えらます。

 経済的付加価値を拡大するためには、最終的に消費される時点での市場価格を引き
上げることが必要です。医療・介護については、規制緩和によってサービスの品質の
向上に見合った医療費や介護費用の引き上げをはかることは容易ですが、それが国民
全体の厚生とは相反します。特に、健康保険財政を維持する上で、医療費の上昇に歯
止めをかけると同時に、医療機関が高額な医療の提供に偏らないようにするため、現
在では高額な高度医療を希望する場合は、関連する医療に対して健康保険の適用を認
めないなど牽制措置が用意されています。そのため、高額の医療費負担を余儀なくさ
れている患者などからは混合医療を求める声も強く上っていますが、慎重な制度設計
が必要といえるでしょう。

「環境」については、現在、このテーマと無関係なビジネス分野はないほど普遍的な
テーマとなっており、これを特定分野として支援していくには焦点が拡散しているよ
うに思います。現実的には、環境に関連した技術開発の支援、ないし、雇用規模に注
目するのであれば、廃棄物処理関連の分野が重要となるでしょう。(日機連の分類で
は、公害防止・水利用と廃棄物処理・リサイクルが併せて環境ビジネスの約9割を占
める、とされています。)ただし後者については、自治体レベルでは事業効率化の観
点から積極的な民営化が進められている地域も多く、政府が公共事業として関与する
ことには違和感も生じるでしょう。廃棄物の最終処分場の問題など政府あるいは広域
レベルでの関与・調整が求められる分野もありますが、これは基地問題並みに地域間
での負担の分担についてセンシティブな分野です。

「観光」については、世界全体では農業を除けば最大の就業人口を擁する産業ともい
われ、新興国や発展途上国でも実質的な「輸出産業」として重要な位置付けとなって
いる例も少なくありません。日本にとって観光産業が、資源輸出に相当するのか、
サービス輸出に相当するのか、という論点はありますが、冷静に競争力を評価する必
要があるのではないでしょうか。

結論としては、医療・介護あるいは保育サービスなどの拡充を核として「経済社会が
抱える課題の解決」を通じて経済の活性化をはかる、という考え方には同意します
が、「医療・介護・環境・観光を成長分野として」経済成長をはかる、という考え方
には違和感があります。

                外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 中空麻奈 :BNPパリバ証券クレジット調査部長

 条件はたった一つ、“お金を儲けるためのビジネスモデルを構築すること”、これ
に尽きるのではないでしょうか。医療にしろ、介護にしろ、それが必要な人が多い、
すなわちニーズがあることを考えれば、成長産業であることは間違いありません。で
も現在は下手に規制や公的な役割が大きくなっており、通常の成長産業にするのには
弊害が多そうな気がします。

 本当にビジネスとして履行していくためには、公的な支援体制、年金や保険、福祉
制度の枠組みを民間業務との間で整理することが必須だと思います。規制が多くある
医療や介護ビジネスは、まずはそこを取り外すことが必要ではないでしょうか。たと
えば20以上の病床数があってはじめて病院と呼ばれるようになり、これが公立病院
だと交付金が入ってきたりします。それを狙うために、意味の無いベッド数を増やし
たりする病院などがあることは報道を見ていれば明らかでしょう。○○以上であれば
△△という交付金がもらえる、××以内にすれば△△が申請できメリットが大き
い、、、などなど。介護も同じです。市役所の人が来て、介護認定をする。1から5
まで。5になれば、ほとんどのサービスが無料だけれど、1であれば、ほとんど何も
受けられないに等しい。それだけの損得に絡む認定を誰かが既得権益で行うことにな
れば、賄賂の温床になることも想像に難くありません。お金がなくて医療を受けられ
ない人に資金を回すことは国として必要でしょうが、それが下手に病院や医師、福祉
従事者に入り込むと、ビジネスラインに乗らない隠れた資金の流れが出てきてしまう
温床を作ることになるのです。

 グッドウイルの折口氏がかつてコムスンに資本参加して、介護ビジネスに乗り出し
た時にミーティングをさせてもらったことがあります。そのときは、3K的な介護ビ
ジネスは慢性的な人手不足だが、うまく利益につなげて、みながハッピーになるモデ
ルを作りたいと仰っていたことを思い出します。結局は失敗に終わったのも、下手に
公的な支援金が出てきて、それを使わねば損であるという目線が出てくるからではな
いでしょうか。どんな仕事でも営利目的なら収益から税金を払うのが当たり前なの
に、医療や介護ビジネスだったら、交付金がもらえる隙間があるのは、やはりおかし
いと言う気がします。そうした交付金は徹底的に個人にのみ属しておき、個人がサー
ビスを選択させればよいのではないかと思います。公的な支援は選択が出来ないよう
な場合の受け皿程度を残せば十分ではないでしょうか。

 個人に年金を渡して、医療や介護ビジネスについては選択させることが、利益に結
びつくには必要なのです。そもそも、医療や介護などを含めたサービス産業の価格の
明確化が求められることになります。美容院では最近、美容師のランク付けをして、
それぞれいくらという値段を決めています(もっともその美容師のランクが検証でき
ないのは、問題ですが)。求めるサービスの質に見合う値段かどうかはわからないけ
れども、それが選べるのは一歩前進だと思います。翻って、病院はどうでしょうか。
これはすべて“運”や“縁”の世界(もちろん、偉い人やお金持ちはそういうサービ
スも既に買っているのでしょうから、事情は違うでしょうが)です。たまたま申し込
んだ時に見てもらった医師が主治医になるケースがほとんどです。その先生よりもっ
といい先生がいるかもしれないし、実は先生を名乗っているけれどもまったくだめな
先生かもしれないし、というようなことが日常的に起こっているわけです。患者側に
はまったく選ぶ権利がない。この先生はこれまで同じような症例の患者を500人見
てきた経験がある、とか、手術は何度した、とか。若い先生で経験はないが、その代
わり、丁寧に見てくれるとか。医療サービスはサービスだけれども、すべての技術料
は同価値で無差別です。それはやはりおかしい。経験の浅い若い医師が一律にだめと
いうわけではもちろんありませんし、年を取っていればそれでいいわけでもありませ
んが、患者側は先生を選ぶ権利が一般には与えられないのに、国で定められた点数方
式での支払いを強要されるシステムはやはり利益を生む形には程遠いとは思います。

 おそらくこうした今我々が常識に思っているすべての医療制度を見直さなければ、
利益をあげるビジネスモデルにはならないと考えます。漫画の世界ではありますが、
ブラックジャックのように大抵の病気を治せる医者を我々は自らが価格帯に応じて選
択できていいし、そうすれば、医者側の方にもインセンティブになるのではないで
しょうか。医療関係については、同質・同根の問題が多くあると思います。そこを全
面的に是正しなければ、医療ビジネスに公的資金を突っ込めば突っ込むほど、交付金
の悪用が増えるだけのように思えるのは考えすぎでしょうか。

 また、観光ビジネスですが、これは、医療や介護とまったく異なり、世界中から観
光客を呼び込むことが必要です。ビザの問題等はあったにせよ、観光客が来なかった
ことには規制等が問題だったわけではない気がします。観光客を呼び込むために、日
本政府がやれることは、W杯やオリンピック、万博の開催招致程度ではないでしょう
か。私は外資系に長く働いていますが、海外にいる同僚たちは、大抵の人が日本旅行
に興味を持っています。観光地としての日本はかなり魅力的に映っているのです。富
士山、桜、京都、大阪、六本木、北海道のスキーなどなど。でも、ビジネス以外で日
本に旅行したことがある同僚は、がくっと減るのが現実です。なぜでしょうか。彼ら
は、日本に行くお金がないわけではありません。遠いから、と言っているけど、それ
も最大の要素ではありません。「日本語が出来ないからうまく楽しめないかも」とい
うことと、「言葉のハンディキャップを補って自由に楽しめる程には、決して安い場
所でもない」ということです。考えてみれば、とってつけたように外国表示のある看
板以外は、日本人の社会になりすぎているようではあります。

 しかしながら、最近は、秋葉原や大型量販店では、至るところに中国語と韓国語が
並んでいます。東京ディズニーランドに並んでいても、放送は、日本語、中国語、韓
国語、英語と繰り返しています。民間はビジネスチャンスだと思えば、英語のみなら
ず、中国語だって韓国語だって無視しない。と考えれば、日本を訪れる観光客が増え
れば増える程、自ずと日本も観光立国に向けて勝手に進むことになります。

 政府がやるべきは、観光ビジネスに対して意見をすることでも、アイデアを出すこ
とでもなく、民間がその機会を満喫できるように、最初の一歩を踏み出させることだ
と思います。それが、オリンピックなど世界が目を引くような出来事の招致というこ
とになるわけです。一回先鞭がつけば、あとは放って置いても、日本が持っている文
化はそれなりに海外勢の胸を打つものばかりだと考えるからです。

 ただし、消費税をあげる議論の中、一つ考えておくべきは外国人に対する税還付制
度の整備だと思います。近い将来、消費税が10%になり、長い目では20%になっ
てもおかしくはないという議論がある以上、外国人の買い物に対する税還付は必要不
可欠です。欧州にいけばリファンドのシステムがあることをご存知でしょう。もちろ
ん高額商品に限り、日常品にかかる税金はそのままでいいという制度を、そのまま日
本でも流用したらよいと考えます。

 菅新政権が打ち出した医療・介護・環境・観光分野に資源を集中して成長をはかる
という政策自体は、閉塞感ある日本の経済分野に対して必要な目線だと考えます。た
だし、一律にこうしたらよいというものでは決して無いとは言わざるを得ません。医
療や介護については、規制を撤廃したり、公的な役割を著しく減殺させることが必要
だと思いますし、一方で、観光ビジネスは基本的に呼び水をつけるだけでよいと考え
ます。もはや一律にこうすればこうなるという結果を呼び込める程、簡単な処方箋は
描けなくなってきているのです。ただし、 “お金を儲けるためのビジネスモデルを
構築”することがすべての大前提になることは言うまでもありません。

                 BNPパリバ証券クレジット調査部長:中空麻奈

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部教授

 6月18日に閣議決定した「新成長戦略」で示された成長分野は、細部の差異はあ
るものの、基本的には2006年6月に経済産業省がまとめた「新経済成長戦略」
(これを受けて7月の小泉内閣で決定された「経済成長戦略大綱」)、2008年9
月に福田内閣で閣議決定された「新経済成長戦略のフォローアップと改訂」等で触れ
られていたものと大差はないと思います。「新しい成長」が可能な産業分野は、自公
政権も、民主党中心の政権も、基本的には同じ認識を持っていることが、今回の「新
成長戦略」で確認できたと言ってよいでしょう。「新成長戦略」の中で「強い経済」
と謳っていますが、実は2006年の「新経済成長戦略」の冒頭にも「世界に存在感
のある『強い日本経済』(中略)を目指す」と書かれています。ちなみに、ここ4年
ほどの「成長戦略」をめぐる変遷を改めて見ると、「新」の後に、自公政権では「経
済成長戦略」、民主党政権は「成長戦略」と、名前のつけ方を敢えて変えている点は、
「(あまり意味のない)腐心」の跡が伺えます。

 こうした成長分野で、ビジネスとして雇用を確保し、利益を生むためには、生産性
向上が不可欠です。確かに、目下の経済状況では、需要不足が問題視されていますが、
中長期的な経済成長を目指すなら、供給面の成長は欠かせません。「新成長戦略」で
示された「日本経済の成長力と政策対応の基本的考え方」では、(1)需要面からの
成長、(2)供給面からの制約、(3)資金循環面からの制約という項目立てとなっ
ており、需要面を中心とした成長を促すことが明確に示されています。さらに付け加
えれば、「新成長戦略」の中で「第二の道」として「供給サイドに偏った生産性重視
の経済政策」を否定しています。また、「生産性の向上は重要であるが、同時に需要
や雇用の拡大がより一層重要である」とも記されています。

「供給サイドに偏った生産性重視の経済政策」を否定し、需要面を中心とした成長を
促すことで、医療、介護、環境・観光がビジネスとして雇用を確保し、利益を産むこ
とができるでしょうか。私の認識では、確かに需要側への働きかけにより雇用はある
程度確保できるとは思いますが、高収益産業として利益を生むような産業にするには、
生産性向上がなければ実現しないでしょう。

 典型的な例で言えば、介護の分野で、介護師の報酬が低いことも一因となって、十
分な介護師が確保できず、介護サービスの潜在的な需要がありながら十分に対応でき
ていないという事例で見てみましょう。介護サービスの潜在的な需要を掘り起こす
(顕在化する)ように、介護報酬を改定したとします。これにより、改定前と比べて
介護師の待遇がよくなり、失業者が介護師として雇われるようになるなど、雇用が確
保されるということはありえるでしょう。しかし、介護師の年収がどしどし上がるよ
うになるには、2つの方法しかありません。どしどし介護保険料引上げや増税や自己
負担の増額などを行って介護報酬を大幅に増額するか、介護師の労働生産性を高めて
より少ない費用でより多くのサービスを提供できるようにするか、です。前者なら、
介護師の報酬は増えるかもしれませんが、介護師の生産性が高まっていないのに介護
サービスを受ける側の負担や国民の税負担が増えるとなると、国民は不相応に割高な
介護サービスを受けざるを得なくなってしまいます(当然、そうした状況で負担増を
政治的に認めてくれるはずはないでしょう)。そうなれば、残された道は、介護師の
生産性を高めて、国民の少ない負担で、より多くの介護サービスが提供できるように
するしか、介護分野がビジネスとして雇用を確保し利益を産むことができる方策はあ
りません(介護分野は、株式会社も参入可能なので、ビジネスとして考えてもよい分
野ではあります)。

 特に、医療や介護は、非営利的に行われている分野でもあるので、経済成長との関
連で極言すれば、次の選択のうちどちらかしか実現できない可能性があります。1つ
は非営利組織にも(利益追求ではない別の動機付けを与えて)生産性向上を促して、
それが原動力となってこの分野の(付加価値の)成長が起きることです。もう1つは、
国民の健康や高齢者の生活環境を向上することを重視して、生産性向上は強く促すこ
とはやめることにし、これによりこの分野は経済成長の源泉となるのをあきらめるこ
とです。

 私の印象でいえば、現在医療や介護の分野で従事されておられる方々は、後者を欲
する方が多いのではないかと思います(これは、良し悪しの問題ではありません)。
その印象が正しければ、菅内閣が「新成長戦略」で、医療や介護も成長分野として挙
げたとしても、「言うは易し行うは難し」と見るべきでしょう。医療や介護の潜在需
要(これはまだ多くあると思います)を掘り起こしただけでは、先の例で言えば介護
師の雇用は確保できますが、報酬を大幅に増やすのは困難でしょう。より端的に言え
ば、(国民が介護保険料引上げや増税等に応じず)介護報酬を引き上げられないこと
を制約とすれば、介護は労働集約的ですから、労働生産性を高めて、介護師が1日に
携われる仕事を増やせれば介護師の報酬は増えますが、労働生産性を高められないな
ら介護師の報酬は増えません。

「新成長戦略」を中長期的に「有言実行」するなら、本文で書かれている以上に生産
性の向上に力点を置いた政策に取り組まなければならないと考えます。

                     慶應義塾大学経済学部教授:土居丈朗
                 < http://web.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/ >

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
 ●○○JMMホームページにて、過去のすべてのアーカイブが見られます。○○●
          ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
JMM [Japan Mail Media]                 No.589 Monday Edition
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部
【WEB】   ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )
----------------------------------------------------------------------------  

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