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「総合エンターテインメントの殿堂」をつくれ/小山薫堂(放送作家/脚本家)
http://www.asyura2.com/10/hasan68/msg/850.html
投稿者 gikou89 日時 2010 年 6 月 29 日 01:50:40: xbuVR8gI6Txyk
 

(回答先: 中国に「ヘンリー・フォード現象」、その善悪−W・ペセッ 投稿者 gikou89 日時 2010 年 6 月 29 日 01:49:24)

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20100621-00000002-voice-pol

◇日本人のサービス精神がウケている◇

 いま、日本のポップカルチャーが「クール・ジャパン(カッコいい日本)」といわれ、注目を集めています。「クール・ジャパン」現象のきっかけとなったのは日本のマンガだと思いますが、それがアニメーションから映像世界全体にまで広がっています。

 たとえばアメリカでは、日本発のテレビ番組がブランド化しています。私はいまアメリカ人プロデューサーと、あるテーマの番組を制作しているのですが、当初から「日本で番組をスタートさせ、その後、アメリカで放映したい」という話がありました。テーマ自体は日本文化特有のものではなかったので、「なぜわざわざ日本で?」と聞くと、「日本発の番組にしたほうが、アメリカでイメージがよく、ブレークしやすい」というのです。アメリカから日本にプロデューサーがやって来て番組をつくり、それを逆輸入するといった現象が起きているわけです。

 また、アメリカで人気があるテレビ番組のジャンルの一つにリアリティー番組(視聴者参加型で、素人出演者たちが直面する体験を楽しむ番組)がありますが、そのベースとなっているのが日本のバラエティー番組というケースも少なくありません。

 日本の番組の何が海外の人を惹きつけるのかといえば、日本的な「繊細さ」や「細やかさ」、さらには観る人に対する「サービス精神」というようなものではないかと感じています。

 そもそもクール・ジャパンのさきがけとなったマンガやアニメは、ストーリー性にしても描写にしても、海外のもの(ディズニー作品は別として)に比べて一つひとつが繊細で細かくつくられている。同じようなイメージが、テレビ番組についても抱かれているわけです。

 実際、アメリカをはじめ海外の映像作品は、全体的に“大味”で“単純”です。お金は掛けていても、編集が荒い。視聴者に対するサービス精神もあまり感じられません。一方、日本のテレビ番組は、数秒みただけで興味を惹きつけるような編集をしたり、誰にでもわかるようにテロップを入れるなど、細かい配慮がなされています。

 この「サービス精神」は、日本人の「企画力」にも結びついています。海外の人からみて、日本は企画やアイデアがあふれている国のようにみえる。実際、いまハリウッドに行けば、多くのアメリカ人から「ハリウッドにはアイデアがない。日本にはたくさんあるので、それがほしい」という声が掛かります。

「企画力」のポイントは、人を喜ばせたり、楽しませたり、感動させたりすることで、これはまさに世界のなかで日本人が秀でている能力といえるでしょう。日本では、お客さまを丁重にもてなし、見送るときは相手がみえなくなるまでお辞儀をするといった文化があります。相手をなによりも尊重する文化が根づいている日本人は、自然と観る人が喜ぶ企画を生みやすいのです。

 ヨーロッパの場合、日本への関心が高いのはテレビよりも映画です。フランス芸術文化勲章であるコマンドール章を受章した北野武さんが監督を務めた『アウトレイジ』が、カンヌ国際映画祭に出品され、話題となりましたが、とくにフランスでは、日本人監督の作品には注目が集まります。

 私が脚本を務め、アカデミー賞外国語映画賞を受賞した『おくりびと』も、海外で最初に興味を示したのはフランスのプロデューサーだったと聞きました。

 日本では『おくりびと』に関して、納棺師が主人公であることから、日本の様式美や伝統文化の珍しさに注目が集まったようにいわれます。ですが、じつはそれ以上に、作品のなかに流れる「親子愛」や「夫婦愛」といった、ほのかな優しさが評価されたというのが実感です。邦画には、人間の機微に触れるもの、優しさや感動、情を表現した作品が多く、日本人が観て面白いものや感動するものに、海外の人も同じく感動しているのです。

 少し前、ケニアの環境保護活動家、ワンガリ・マータイさんが提唱した「MOTTAINAI(モッタイナイ)」という言葉が、海外ではやりました。「捨てるのがもったいない」という日本独特の考え方が、環境問題とうまく結びついたからでしょう。そのような日本人が当たり前にもっている思想には、海外で受け入れられる要素が十分にあるのです。

◇東京をポップカルチャーの都に◇

 しかし、そのようなクール・ジャパン現象をみていて心配なこともあります。これがたんなる「ブーム」として、一時的な関心で終わってしまうのではないか、ということです。

 たとえばいま、中国経済の台頭には著しいものがありますが、同時に、中国から新しいアーティストや文化が登場し、世界の関心がそちらに移ってしまうことは、十分考えられます。

 というのは、日本文化が海外で注目を集めた要因の一つは、村上隆さんをはじめ、海外で活躍するポップアーティストの存在が大きかったからです。ルイ・ヴィトンとのコラボレーションが有名ですが、ルイ・ヴィトンが村上さんに白羽の矢を立てたのは、おそらく日本という巨大マーケットを意識した部分があるのでしょう。日本人アーティストを起用することで、ヴィトンへの親近感を深めてもらおう、というわけです。

 同じように今後、急成長する中国マーケットを見越して、中国人アーティストとのコラボレーションを考える高級ブランドが出るかもしれません。デフレでマーケットが萎んでいる日本のアーティストを使うより効果的というわけで、そこから中国の著名アーティストが誕生し、それに伴って、日本文化への関心が薄れるということも、ありえない話ではないと思います。

 クール・ジャパン現象を一過性で終わらせないためには、日本から文化を発信するというだけでなく、人びとが新しい文化を求めて日本に集まってくる仕掛けをつくる必要があるのではないか。そう私は考えています。

 麻生前政権時代、日本のマンガやアニメなどを一堂に集める“アニメの殿堂”構想がありました。当時は、「マンガ好きの麻生首相は漢字が苦手である」といったニュースや、「ムダ遣いの典型」との批判で、悪いイメージばかりが重なって、廃案になってしまいました。

 この構想自体、私は悪くないものだと思っていました。せっかくマンガやアニメという大きなソフトが日本にはあるのだから、それを活かす方法をもっと前向きに考えればいいのでは、と。いっそ、マンガやアニメのみならず、映画や映像、ポップアートなどを含めた「総合エンターテインメントの殿堂」をつくってもよいと思います。いわばMoMA(ニューヨーク近代美術館)のエンターテインメント版です。

 そこでは、日本の名作をはじめ、世界中のコンテンツをみられるようにする。絵画などのミュージアムは世界中にあまたあれど、エンターテインメントに特化したミュージアムはどこにもありません。日本が率先してそのようなミュージアムをつくれば、世界中から人や情報が集まり、日本のブランディングにも大きなプラスとなるのではないでしょうか。

 アニメについてはいま秋葉原が牽引しており、すでに一部のポップカルチャーの中心になっていて、世界から人が集まりはじめています。同じように青山・原宿はファッションの街、西麻布はクラブシーンの街といった具合に、街ごとにカルチャー色を強く打ち出すのも面白いでしょう。

 あるいは、ロケ地としての日本をアピールするのも手です。映画のエキストラを募集すれば1万人ぐらいすぐに集まる、となれば、日本で撮影したがる映画監督は増えるにちがいありません。京都の映画村も、そのような可能性を秘めているように思います。

 ただしそのためには、日本の街はもっと「融通がきく」ようにしたほうがいい。ニューヨークがロケ地として好まれるのは、2ブロックぐらいなら道路使用の許可が簡単に出るからです。東京都の石原知事は頭が柔軟なほうですが、それでもまだ日本は、ニューヨークの柔軟さに敵いません。

 たとえば首都高を舞台にするため、1日封鎖するとなれば、多くの人が反対するでしょう。しかし面白い映画を撮るためなら喜んで協力する、といった意識を日本人がもてば、東京は柔軟な街になります。そして日本を舞台にした映画や映像が増えれば、「韓流ブーム」で韓国を訪れる日本人が増えたように、日本に関心を示す人もさらに増えることでしょう。

 街と文化の関係が密接になって、それを束ねる場所が東京のどこかにあり、そこからいろんなものが発信されていけば、東京はニューヨークやロンドンに並ぶ、ポップカルチャーの中心地になれるように思います。ハリウッドが映画の都であるならば、東京がポップカルチャーの都になればいい。

 新しい文化を創り出すということに関して、まだまだ日本人は消極的です。デフレでマーケットが収縮している、といいましたが、政府も企業も国民も、みながお金を切り詰めて、必要最小限しかものを消費しない、という風潮になっているのは残念なことです。

 しかし、文化が生まれる背景には「ムダ遣い」があることを忘れてはなりません。中世ヨーロッパでは、メディチ家が考えられないような「ムダ遣い」をしたからこそ、ルネッサンスが花開きました。

 そのような「ムダ遣い」を、日本企業にも求めたい。ユニクロのような勢いのある企業は、儲けたお金を自分たちの成長に使うだけではなく、ファッションなど日本文化のレベルを上げたり、面白いものにするためにも活用してはどうでしょう。いわばお金を出す大人と、出させる若者という、パトロンと才能の関係です。お金持ちがお金を上手に「ムダ遣い」したとき、そこに新しい文化が生まれるのです。

◇若者に「経験の大切さ」を教えたい◇

 クール・ジャパンを絶やさないためのもう一つの要素が、「クリエイター」の育成です。先に日本は企画が生まれやすい土壌であることに触れましたが、技術の進歩、とくにインターネットの発達によって、クリエイターが生まれにくい状況になっていることは否めません。とくに若い人間と接していると、彼らの多くは意識が世界に向いていない、と感じます。たとえば、世界を旅行したいという若者が明らかに減っているのです。

 人は、知らないからこそ新しい場所に行きたいという気持ちが高まります。たとえば、ベネチアという街が「水の都」であると聞き、写真がほんのわずかしか手に入らなければ、「どんな街だろう」「もっとみたい」と好奇心がかきたてられ、そこから「行きたい」という気持ちが生まれるわけです。

 実際、インターネットがこれほど普及する前は、少しでもチャンスがあれば行動に移さないと、情報を手に入れることはできませんでした。手に入れた情報も、ストックする場所は自分の中しかなかったのです。

 ところがいまは、ほしい情報はすぐ「そこ」にあり、何でも知っているという「錯覚」に陥りがちです。いわば外付けハードディスクがたくさんある状態で、あえて自分のなかに情報をストックする必要もありません。これは世界を狭くするだけでなく、企画力や発想力を弱めることにもなります。

 企画やアイデアを生み出すためには、「自分のなか」に多くのストックをもつことが不可欠です。新しい発想というのは化学反応と同じで、自分のなかのストックと、新たに自分のなかに取り込んだ何かが出合い、それが融合して生まれるからです。

 自分のなかに何もなければ、閃きは生まれません。閃いたつもりでも、たいていそれは、ほかの誰かがすでに考えたものです。

 クリエイターを育成するために、いま若者に必要なのは、経験することの尊さ、楽しさを知ることです。たとえばおいしいものを食べると、幸せな気分になる。この幸せな気分は、一度味わったらやみつきになるでしょう。新しいアイデアが閃いたときも同じであって、そうした経験をたくさん積ませることが大切です。そうすれば自分のなかにストックをもつことが大事であって、いつも何かを考える習慣がどれだけ大事であるかもわかります。私は現在、東北芸術工科大学で企画構想学科長を務めていますが、ここでも学生たちにそうした経験を積んでもらうことが、主たるミッションです。

 いま世界が、コンテンツの宝庫として日本に注目しています。日本のクリエイターにとって、さらに大きなチャンスが到来しているのです。インターネットが若者の企画力を弱めているといいましたが、インターネットの発達によって、自分の作品を自由に発表できる場が増えていることも事実であり、場合によっては、日本人の優秀なクリエイターを、日本よりも海外メディアが先に評価することもある。

 資源のない日本にとって、ソフトと、ソフトをつくる才能は非常に大きな資源であることを認識し、クール・ジャパンという追い風があるいまこそ、これをどう発展・持続させていくかを、みんなで考えるべき時期なのではないでしょうか。
 

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