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単独為替介入の効果・影響力は?    JMM [Japan Mail Media]  
http://www.asyura2.com/10/hasan69/msg/746.html
投稿者 愚民党 日時 2010 年 9 月 27 日 23:03:19: ogcGl0q1DMbpk
 

                            2010年9月27日発行
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JMM [Japan Mail Media]                 No.603 Monday Edition
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                        http://ryumurakami.jmm.co.jp/
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▼INDEX▼

 ■ 『村上龍、金融経済の専門家たちに聞く』

  ◆編集長から

  【Q:1130】

   ◇回答(寄稿順)
    □真壁昭夫  :信州大学経済学部教授
    □北野一   :JPモルガン証券日本株ストラテジスト
    □菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト
□中空麻奈  :BNPパリバ証券クレジット調査部長
    □杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務
    □山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員
    □津田栄   :経済評論家
    □金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務
    □土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部教授

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        ■■ 編集長から(寄稿家のみなさんへ)■■

 Q:1130への回答、ありがとうございました。尖閣諸島沖での中国漁船衝突事
件の顛末に、わたしはびっくりしました。民主党が唱える政治主導というのは、大き
な外交問題に発展した事件解決の結果責任を地検に押しつけるということだったので
しょうか。5年前、『半島を出よ』という長編小説を発表したとき、福岡を占拠した
北朝鮮コマンドへの日本政府の対応の描き方について、「いくらなんでもこれほどま
でにバカではないだろう」というような指摘がありました。

 わたし自身も、「本当にここまでバカだったら現実的にはやばいな」と思いながら
書いたのですが、どうやら現実は作家の想像以上に深刻であるようです。中国漁船の
船長を逮捕し、10日間の勾留延長が決まったとき、強硬な中国に対し、当然日本政
府は何らかの外交カードを用意しているはずだと思いました。少なくとも最悪の事態
を想定して対処しているのだろうと思ったのですが、結局、政府は何も対抗策を示さ
ないまま、船長を突然釈放し、しかも那覇地検にその責任を押しつけました。最悪、
釈放するしかカードがないのだったら、潔く指揮権発動によるべきだったと思います。

 ここまで無策・無能・無責任を晒したことの弊害は計り知れないと思われます。ど
う考えても、地検には「我が国民への影響や今後の日中関係を考慮して」処分保留に
する権限はありません。地検が勝手に「我が国民への影響を考慮して」不起訴や処分
保留にしたら、すでに危うくなっている検察という捜査・訴追機関への信用はさらに
低下します。そして最大の問題は、非常に多くの国民が自尊心を傷つけられたと感じ、
鬱憤をつのらせたことです。このような鬱憤は、外交にとどまらず、政治・経済にも
甚大な悪影響を及ぼすはずです。

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■次回の質問【Q:1131】

 アメリカにデフレへの警戒があるようです。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-17331220100922?rpc=122
 いったんデフレに陥ると、脱却するのがむずかしいという指摘もあります。デフレ
からの脱却は、どうしてむずかしいのでしょうか。

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                                  村上龍
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■ 村上龍、金融経済の専門家たちに聞く
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 ■Q:1130

 政府・日銀は先週単独で為替介入を実施しました。実質的にどのような効果・影響
力があったのでしょうか。またその効果・影響力はどのくらい持続力があるのでしょ
うか。

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※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
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 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 今回、わが国の政策当局が、一日の規模としては過去最大級の介入を行ったことに
は、二つの大きな効果があったと思います。一つは、政府が、円高傾向が進むことに
対して、介入を含めた対応策を取る姿勢を示したことです。

 今まで、わが国の政府高官は、為替に対してあまり明確な発言を行わなかったこと
もあり、海外の投機筋などから、「日本政府は、口では円高傾向が進むことに懸念を
示しているものの、具体的な対応策を取らないのではないか」との観測も流れていた
ようです。しかも、欧米諸国は自国通貨安を容認する政策を鮮明化させていることも
あり、円が、買い仕掛けの対象になっていたと考えられます。

 それに対して、今回、わが国の政策当局が大規模な加入を行ったことで、国内外に、
政府としての為替に対する基本姿勢を示しました。それは、投機筋などによる短期的
な為替市場の振れに対しては、相応の効果があると考えられます。というのは、短期
的に急激な円高が進む場合には、これからも、円売り・ドル買い介入を行うことを宣
言したことによって、投機筋などのオペレーションの余地を狭めることが想定される
からです。短期的にみると、その効果は小さくないと思います。

 もう一つの効果は、取り敢えず、円高傾向に一服感を出したことです。介入が実施
される直前には、1ドル=82円台まで円高が進んでいました。今回、介入のタイミ
ングがやや予想外であったことや、介入の金額が2兆円といわれるほど大規模であっ
たこと、さらには、東京市場だけではなく、当日のロンドン、ニューヨーク市場にも
オーダーを出して、介入の追い打ちをかけたことによって、為替レートは対ドルで8
5円台にまで戻っています。

 海外のあるヘッジファンドのマネジャーは、「今回の大規模介入によって、それま
で持っていた円買い持ち・ドル売り持ちのポジションを損切りさせられた」と言って
いました。彼らのポジションの巻き戻しが、円安方向に動かしたと思います。その意
味では、少なくとも、一時的に為替レートを円安に戻した効果はあったと考えます。

 問題は、そうした効果の持続性です。為替専門家の多くは、効果は短期的で、持続
性については限定的との見方が有力です。そうした見方の背景には、今まで、わが国
の単独介入の効果が長く続いたケースがほとんど見当たらないことがあるのでしょう。
直近では、2003年から2004年にかけて、わが国は、今回同様に円高阻止のた
めに大規模介入を行いました。しかし、その効果は長くは続かず、結果的に、市場の
勢いに飲み込まれてしまうことが太宗でした。そうした過去の経験則は、市場参加者
の記憶の中にも残っているはずですから、「今回も、日本単独の介入では円高傾向は
止められない」という連想が働くことになります。

 もう一つ忘れてはならない要素は、欧米諸国の自国通貨安政策に変化が見られない
ことです。不動産バブルの後始末が終了していない欧米諸国は、財政・金融政策の手
詰まりから、自国通貨安政策を採って輸出を振興し、それによって景気の回復を促進
させる政策意図は明確です。為替は二国間の通貨の交換レートですから、為替政策に
は、必ず、相手がいることになります。わが国が円安を逆転させるということは、人
為的にドル高にすることになります。それは、米国政府の意図に反することにつなが
ります。

 また、わが国の外国為替特別勘定の制約などを考えると、為替介入を永久に続ける
ことはできません。どこかの時点では、介入を引かざるを得なくなるはずです。それ
らの要素を合わせて考えると、為替介入の効果は長く続かないと考えるべきでしょう。
海外の投機筋や為替ディーラーなどは、今のところ、取り敢えず様子を伺っていると
ころですが、どこかの時点で、再度、円買いを仕掛けてくる可能性は高いとみられま
す。その時、介入で、どれだけ抵抗できるかはわかりませんが、いずれ、政府の防波
堤が破られる局面が来ると思います。

 為替介入は、基本的に、円高の問題を解決する方策ではなく、短期間の急激な円高
を止めて、しばし時間を稼ぐ対応策だと思います。短期間の急激な為替の変化は、多
くの場合、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)とは関係なく、投機筋などのオ
ペレーションが影響していることが多いですから、それを介入によって、市場が理論
的に適正な動きに戻るまで時間を稼ぐことには相応の合理性があると思います。

 一方、ファンダメンタルズを適正に反映するような、中・長期的な円高傾向につい
ては、国内経済の競争力を強化するなど、地道な対応によって対処することが必要に
なると思います。二つの円高傾向を分けて考えると、その対応策もわかりやすいと思
います。

                       信州大学経済学部教授:真壁昭夫

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 ■ 北野一   :JPモルガン証券日本株ストラテジスト

 今、まさに熟柿が落ちそうな時、子供が柿の木を揺さぶってみたとしましょう。果
てして、柿は落ちてきました。柿が落ちたのは子供のせいでしょうか。おそらく、子
供が何もしなくても、柿は落ちたことでしょう。今回の為替介入にも同じことが言え
るかもしれません。効果があったかどうかは何とも言えません。介入がなくとも、早
晩、ドル円相場が85〜86円程度に戻っていても不思議ではなかったと言えます。
実際、米国金利で推計したドル円相場は、その程度の水準でした。8月末以降、それ
まで連動していた米国金利とドル円相場のかい離が目立つようになりました。米国金
利が上昇に転じているのに、ドル安円高が止まらなかった。このかい離が修正するき
っかけを介入がつくったとも言えますが、介入がなくてもかい離は修正されたかもし
れません。

 ここに三枚の図表があります。順番に言葉で説明していきましょう。まず、一枚目
は、2003年から2004年3月にかけてのドル円相場と介入金額の推移です。こ
の間に、日本の当局は、35兆円のドル買い円売り介入を実施しました。当初は、1
16円台をつけると必ず介入していたので、この辺りが防衛ラインであることは、誰
の目にも明らかでした。しかし、結局、ドル円相場を維持することはできず、100
円近くまで、ドル安円高が進みました。

 二枚目は、2005年のドル円相場と介入金額の推移です。ご案内のように、この
1年間に日本の当局は、一銭も介入を行っていません。しかし、年初に100円前後
であったドル円相場は、年末までに120円台を回復しました。三枚目は、2003
年に120円を割り込んで、2005年に120円を回復するまでのドル円相場と、
同じ期間の米金利の動きです。ドル円相場は米金利の低下をなぞるようにドル安円高
になり、金利上昇を受けドル高円安に戻っていきます。この三枚を同時に中学生にみ
せるとしましょう。介入の効果があるという生徒は非常に少ないのではないでしょう
か。

 単独介入は駄目で協調介入なら効くという話も本当でしょうか。確かに、1985
年のプラザ合意の際には、先進国が協調してドル売り介入を実施したこともあって、
ドル安が急激に進みました。一方、1995年の超円高の際には、G7で「秩序ある
反転」が謳われ、ドルが値を戻しました。しかし、この2回は、今回とは比べものに
ならないほど、為替相場が歪んでいたところです。1980年代半ばの実質実効ドル
レートは、平均から2標準偏差以上、割高に買われていました。1995年の実質実
効円レートも、平均から2標準偏差以上、割高に買われていました。いずれも、平均
に向けて修正がいつ入っても不思議ではない状態でした。偶々、協調介入が、その背
をポンとついたということかもしれません。逆に2007年は、実質実効円レートが
平均から2標準偏差以上、円安になっておりましたが、何の介入もないなか、平均回
帰(円高)が起こりました。単独介入なら効くが、協調介入なら効かないというのも、
半ば神話のようなものではないでしょうか。そういうことにしておく方が、何かと有
利な人がいるのかもしれません。 

 単独介入より、協調介入の方が好ましいとすれば、それは効果云々ではなく、代償
を支払わずに済むということでしょう。一般論として、国際交渉で例外扱いを要求す
ると、必ず代償を要求されます。単独介入の場合、外国から何らかの代償を要求され
る危険性が高くなります。一方、協調介入ならお互いさまということになるのではな
いでしょうか。

 その事例としてJMMのQ1125をもう一度思い出してみたいと思います。「円
高が進んでいるようです。以前、為替(外国)といえば対ドルでした。今は、ユーロ
が誕生し、中国元の存在感も増して、複雑になっている気がします。現在の円高を、
どのように考えればいいのでしょうか」という質問でした。この回答のなかで、私は
次のような話を紹介しました。「8月17日付の日本経済新聞の社説は、「為替介入
に米国の理解を得にくいのは想像に難くない。しかし日米は経済の面で幅広く結びつ
いており、米国と何らかの取引をする材料があるはず」とまで書いておりました」。
その時に、2003年の介入の際に、自衛隊のイラク派兵が交渉材料になったのでは
ないかと書きました。

 今度は、何だったのでしょうか。気になるのは、「9月7日、沖縄県の尖閣諸島・
久場島の沖合15キロの海上で、中国のトロール漁船が、違法操業を捜査しようと追
いかけてきた日本の海上保安庁の巡視船を振り切ろうとして衝突し、船長らが公務執
行妨害で海保に逮捕される事件が起きた」ことです。田中宇氏のメールマガジンによ
ると、この海域では、1978年に日中平和友好条約を結んだ際に、ケ小平の提案で
領土紛争を棚上げして以来、「日本側は、台湾や香港の船を激しく追尾しても、中国
の船を拿捕・逮捕したことはなかった。日本も中国も、民間に「尖閣(釣魚台)を守
れ」と主張する政治活動家がいても、政府としては対立を避ける姿勢を互いに採って
きた」と言います。それにもかかわらず、「今回、日本の当局が中国の漁船を拿捕し、
船長を起訴する方針を固めたことは、日本が政府として中国との対立を決意する、対
中国政策の劇的な大転換を意味する」と指摘しておられます。

 田中氏は、その上で、なぜ、劇的な大転換が行われたのについての理由を日本側は
これ、米国側はあれと整理しておられますが、ここに為替介入という要素は取り上げ
られておりませんでした。しかし、8月17日の日本経済新聞の社説を思い出すとき、
為替介入と、対中国政策の転換が「取引」であった可能性も全くは無視できません。
むろん、偶々、タイミングが重なっただけという可能性の方がはるかに高いでしょう
が。

 それにしても、あまり効果が期待できない為替介入を、必要以上に祭り上げると、
外国に格好の交渉材料を与えることになるので、注意が必要でしょう。おにぎりと熟
柿を交換するならまだしも、おにぎりと柿の種を交換させられる破目に陥ることすら
あります。

                 JPモルガン証券日本株ストラテジスト:北野一

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 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト

 9月15日の単独為替介入は、予想より効いたと思います。円の対ドルレートは8
2円台から86円台まで下落しました。効いた理由は、タイミングと介入水準にあり
ます。菅首相や野田財務相は介入をほのめかす発言をしていましたが、民主党代表選
の翌日というのは驚きでした。私は市場に事前にあった「菅再選なら円高&債券高&
株安、小沢勝利なら円安&債券安&株高」との予想は誤りだと思っていましたが、9
月23日に予定されていた日米首相会談で米国のOKを取ってから介入するのだと思
っていました。介入水準も、95年の高値である80円前後まで待つのだと思ってい
たら、82円台後半での介入でした。菅首相や野田財務相はあまり経済や市場には詳
しくないといわれますので、誰がこのタイミング&この水準での介入をアドバイスし
たのか興味あるところです。

 今回の介入規模は1日の規模として約2兆円と、過去最大級だったことも、介入が
効いた理由です。円高&ドル安が行き過ぎとの見方が市場にあったため、介入が効き
やすかったともいえます。メリルリンチが世界の投資家に毎月アンケート調査してい
るファンドマネージャー調査9月号によると、円が過大評価(過小評価を引いたネッ
ト)という意見が62%→72%と増えて、2002年調査開始以来最高になってい
ました。逆に、新興国通貨がー49%→ー44%、米ドルがー23%→ー18%と過
小評価されているという意見が多くありました。

 しかし、9月21日のFOMCの声明文を受けて、円の対ドルレートは再び84円
台に上昇してきました。為替介入は一度で効いた試しがないため、次回の介入水準が
注目されます。FRBは声明文で、「委員会が雇用最大化と物価安定の目標に長期的
に適合したと考えるインフレ率を、現在の基調的インフレ率が下回っている。経済活
動をサポートし、物価が目標と整合的な水準に長期的に戻るために必要であれば、追
加緩和の用意がある」と述べました。日銀の金融緩和は、事前にマスコミに漏れがち
で、政府の要求に応じて、消極的に緩和を行う姿勢と対照的です。

 為替がどのように決まるかは多くの理論があり、為替の予想は株や債券の予想より
も難しいといわれます。リーマンショック以降は、中央銀行のバランスシートの変化
率に応じて、為替が動いているようにみえます。日銀のバランスシートの拡大の仕方
が、他国の中央銀行より小さいので、円高になっているといえます。過去10年間の
消費者物価変化率(生鮮食品とエネルギー除くコアコア)はゼロ近辺で推移しており、
日銀の金融引き締めのタイミングから判断すると、ゼロインフレを目標にしているか
のようにみえます(2%以下のプラス領域というのが日銀の正式な見解ですが)。日
銀の目標は「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」で
すが、FRBのように雇用も目的に入れるべきと、日銀法改正の議論も出ています。

 今回の介入は非不胎化と解釈されたのも、効いた理由です。日銀の当座預金残高は
9月14〜22日に14.5兆円→17.1兆円と2兆円強増えました。しかし、北
原道夫日銀企画局参事役は、日銀は為替介入の非不胎化を機関決定していないと述べ
られました。最近「日銀デフレ大不況」を書かれた若田部早大教授は「日本にお金が
ジャブジャブにあるというのは、誤りである。外国のお金より、日本のお金が少ない
から円高になる」と述べられました。為替介入を効果的にするためには、日銀による
追加緩和が必要でしょう。

               メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊

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 ■ 中空麻奈 :BNPパリバ証券クレジット調査部長

 単独での円売り介入は6年半ぶりの実施でもあり、ある程度サプライズと受け止め
られました。官房長官が防衛ラインは82円台と口走ったこともあり、もともと82
円台に対してマーケットは過剰に注目していました。一部では80円台までは容認姿
勢を決め込むとの見方もありましたが、1ドル82円台から86円台まで急速な円高
是正が進んだことは、一定の効果といえるでしょう。先週ちょうどロンドンに出張中
だった私のショッピング意欲を削ぐには効果覿面でした。その他では、株価の買戻し
が見られたことや、CDS市場のインデックスでは前日の99bpから97bpへ2bpの
タイト化が見られました。円高・デフレという構造問題には日本が逃げることなく対
応していくしかなく、ねじれ国会であろうとそれを実行できるということを実証した
こと自体は意味があったのではないでしょうか。

 ただし、2兆円も使った割にはその程度の影響であり、反応は薄かったと言わざる
を得ません。日本の円売り介入が大きくても、Fedのバランスシートは2兆2千億
ドルまで膨れ上がっているため、少々ではFedもその影響を気にしないということ
もあります。また、非不胎化介入であるとの解釈も出ているようですが、日銀が発表
する無担コールオーバーナイトレートは、介入前からほとんど変わらずで0.09%
前後となっていることから、やはり不胎化介入なのではないかと考えます。仮にそう
だとすれば、円高・デフレと言う構造問題に日本政府が対応できているとはとても思
えないという結論が出てしまうことになります。

 加えて、2兆円も使って円高是正をしたものの、それが"焼き石に水"の円防衛に
過ぎなかったことは、効果がすぐに剥落してしまったことからもわかります。21日
の米国FOMC後、すぐに84円台に戻ってしまいました。一回で為替介入が成功す
ることはないにせよ、これには日米の政府当局の毅然とした態度が取れるかどうかの
違いが反映しているように思えます。FRBは「必要なら追加緩和する用意がある」
と表明、景気低迷が長期化、デフレ懸念が出てきていることにも警戒感を強める発言
をしています。また、米下院歳入委員会のレビン委員長は日本の為替介入につき「事
態を混乱させる」と不快感を述べたと言います。米国景況感が冴えないままよりは、
中間選挙を意識するなら、米国の競争力確保、輸出産業の支援のためにもドル安は
"都合のいいコト"です。世界景況感やそれぞれの選挙などの政治スケジュールを見
るだに、日本が単独で円高阻止に入っても効果が長続きするわけはありません。

 オバマが主張するように、"強いドルは米国の国益"(本音はどう考えてもドル安容
認に見えますが)ですし、そうであるならば"強い円は日本の国益"でもあるハズで
す。しかし、今の日本の極端な円高は輸入業者のメリットやM&Aを仕掛けやすい環
境の方を喜ぶというわけにはいかないような、なんだかババ抜きのババが回ってきた
ような感じに思えます。円高が続き過ぎれば、輸出業者の収益力には必ず負の影響が
出てしまいます。輸出割合の大きい自動車や電機セクターなど日本の基幹産業の元気
が落ちていくことになり、望ましいはずもありません。

 そうなると、今回の単独介入がそれなりの意義があったと言われるためには、これ
からの日本政府の姿勢をいかに示せるのかということになるのでしょう。円はいくら
であるべきと考えるのかの指針です。この目標値がわかることで日本政府の考え方が
見えてくるかどうかがポイントではないでしょうか。米国が委託介入を受けるような
ことがあるのか、そこまでの覚悟ができているのかを含めて、日本政府の"円"に対す
る考え方と円の水準を通して日本の産業や暮らしを守っていくのだという強硬な姿勢
を示して欲しいものです。さらに、為替介入に加えて、政策金利のゼロ%に向けた引
き下げと量的緩和の再導入などデフレ脱却を強く示せるかどうか、が重要であること
は言うまでもありません。それがなければ、先週の為替介入については影響力や効果
は語るに落ちる程度のことになってしまうのではないでしょうか。

                 BNPパリバ証券クレジット調査部長:中空麻奈

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 ■ 杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 今回の介入は1日で2兆円、1日の介入規模としては過去最大とされていますが、
外国為替市場の取引では、通常の輸出入のための為替取引や投機資金の取引の方がは
るかに大きく、これだけでは大きな力にはなりません。今回のように、他の主要国が
自国通貨安を安くしたいという意図を持ち、これからさらに金融緩和を進めていこう
という時に、為替介入だけでは力不足です。

 今回、とりあえず為替介入が効いて86円台まで円安が進んだのは、日本の金融当
局が、場合によっては日本もさらに金融緩和を進めるという意思表示をしたと、他の
市場参加者に思わせたからに他なりません。人々のファンダメンタルの期待に影響を
及ぼさないまま、ただドル買い介入をしただけなら、それまで金融当局は、金融緩和
は出来るだけやりたくなささそうなポーズをとり続けていただけに、投機筋はただド
ルを売り続けたでしょうが、今回はさらなる金融緩和の可能性を匂わせた点が勝因で
した。

 そう思わせた一つの要因は、今回の介入がドルを買った円資金を市場から吸い上げ
ず、資金を市場に新たに供給するという、非不胎化介入を行ったと理解されたことで
す。これは、為替介入と同時にさらなる金融緩和を行ったことを意味し、金融当局が
スタンスを変えたという意味合いがありました。実のところ、非不胎化介入〜不胎化
介入の効果については諸説あり、日銀自体はこの議論には全く乗ってこないのですが、
これまでは介入と同時に律儀に資金を吸収していた不胎化介入だったのが、今回回収
しなかったとすれば、介入と同時に追加緩和したという理解でよいのではないかと思
います。

 円高阻止の観点から言えば、金融緩和だけではなく財政当局が国債追加発行にまで
踏み込めばさらに、当面のデフレ緩和期待が薄れ円安に進んだと推論されますが、そ
の点は菅政権は、財政健全化路線で頑ななようです。

 今後、他の主要国が金融緩和に向かい自国通貨安を望んでいるという状況は変わら
ないとすれば、投機筋が再び円買いを仕掛けてくる時があるとと考えられます。その
とき、日本の政策当局が、単独でどれだけ介入を続け、また更なる緩和のポーズをと
り続けられるかどうかが問われることになります。

 すでに、ゼロ金利に近いところまで政策金利が下がっていて、追加の緩和余地はな
さそうに見え、日銀もそう説明していますが、実際にゼロ金利にもどすところまでを
含めて、まだ何枚かは追加緩和のカードは残っていると思われます。また、さらに円
高とデフレが進行するようであれば、国債増発による財政拡大の余地も含めた財政政
策を動員される可能性まで視野に入れなくてはならないでしょう。

                       生命保険関連会社勤務:杉岡秋美

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 ■ 山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 介入について考えるとき、個人的には「介入は嫌いだ」という感情がどうしても湧
いてきてしまいます。為替市場は売り買い両方のポジションを取る人々によって成り
立っています。彼らは、刻々と変化する情報を必死に解釈ながらフェアに戦っていて、
その結果、その時点では、売り方買い方双方がほどよいと思う為替レートが成立しま
す。この為替市場に、売り買い何れかのポジションを敵視するかのように、政府が納
税者のリスクを使って参入するという行為は美しくありません。

 もっとも、市場の参加者にとっては、介入の有無やその効果も解釈すべき情報のう
ちなので、介入があることをアンフェアだと思う必要はないかも知れないのですが、
まるで、競馬にあって「主催者による八百長がときどきあり得ることを前提に馬券を
買って下さい」と言われているような気分です。

 さて、個人的な好き嫌いを離れて今回の介入を見ると、政府がやったことにしては
上手くやったな、という感じがします。民主党代表選で為替介入に消極的と見られた
菅氏が勝って円高が15年ぶりに82円台に入ったところで介入したわけですが、
1.円を積極的に買い進むのポジションが溜まったところで介入したので損切りのドル
買い・円売りを誘発できたこと、2.円買いに特に積極的な参加者を叩くことが出来た
こと、3.欧米政府に根回し済みだったので直ぐには反発がなかったこと、4.レベルで
介入したのかスムージングの介入なのかが分かりにくくて余韻(円買いしたい向きか
ら見ると不気味さ)が残ったこと、5.大きな金額を集中的に使ったので後に恐さが残
ったこと、6.民主党代表選の後だったので政治に影響を与える介入との批判が避けら
れたこと、などが上手かったと思う点です。

 その後、ドル・円の為替レートはしばらく85円台で推移して、一週間少々が経過
すると、84円台前半まで戻ってきました。

 この効果をどう見るかですが、介入がなければ円高がもっと進んでいた可能性がか
なりあったことを思うと、なかなか大きかったと見ることも出来ますが、短期間で似
たレベルに戻ってきたことを思うとさしたる意味はなかったと考えることも出来ます。

 今回の日本の為替介入については、既に、ヨーロッパからもアメリカからも批判の
声が出ていて、今後も、同様の介入を続けていくことは難しいと私は思います。今回
の介入については、為替市場の参加者に対して、今後円を買い進む際に「介入がある
かも知れない」との警戒感を抱かせる程度の効果が残るとしても、この警戒感も徐々
に薄れていくでしょう。ドル安材料が出たときに、円高の更新を止めるに十分な効力
が残るとは思えません。

 結局、日本は、金融緩和を一段と進めて、期待インフレ率を上げて実質金利を下げ
るような政策を実行することで、為替市場での円安を実現するのが一番いいのではな
いでしょうか。追加的な緩和手段が残っている以上、これらを早急に使うべきでしょ
う。

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
                 ( http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/ )

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 ■ 津田栄   :経済評論家

 15日の政府・日銀の為替単独介入は、14日の民主党代表選で菅首相が再選され
たのを見て、これまでの政府・日銀の言動から為替の動きに当面何もしないだろうと
タカをくくっていた市場が82円台へと円高に動いた局面で実施されましたから、市
場は政府・日銀の不意を突いた介入に驚き、一気に86円近辺へと円安に振れました。
この時点で見れば、一応成功したといえます。しかし、その後86円を超えて円安に
まで至らず、また再度84円近辺まで戻ってきた点を見ると、為替単独介入、あるい
は為替介入そのものの限界を表しているようです。

 さて、日本政府・日銀の為替単独介入の効果、影響力ですが、市場に対して蔓延し
ていた政府・日銀は当面介入しないであろうという考えを否定し、一時的に円高進行
を食い止めたという点で効果があったといえます。そして、一日としては2兆円とい
う過去最大の規模で、かつポジション的に円買い・ドル売りポジションが過大に積み
上がったところでポジション解消を巻き込んで押し上げるように介入したことが、市
場に対する強い警告となった点で効果があったといえます。また、今後も日本政府・
日銀は介入すると言っていることで、いつ介入するか疑心暗鬼になり、介入で損をす
るかもしれないような円買い・ドル売りポジションを簡単に取ることができないとい
う心理的な影響力を市場参加者に与えたといえましょう。それは、すぐに円高に戻ら
なかったことに表れています。

 しかし、為替は相手あってのものであり、一日に膨大な資金が動く為替市場に対し
て、為替介入はあまりにも小さいため、政府・日銀は介入によって思い通りに為替市
場を動かすことができるものではありません。それは、過去の介入事例で成功したこ
とが少なかったことに示されています。もちろん、関係国の了解や理解があれば、協
調介入や支持という行動になって、市場に対して関係国が今の為替市場の動きを認め
ない強烈なメッセージを伝えることになります。その時は、市場への影響力も大きく、
介入効果を持続させることができます。しかし、今回は単独介入であって、アメリカ
やヨーロッパなどの関係主要国の理解が得られたか不明です。

 先月為替関係者と話し合った時には、これまで6年間介入しなかったために、介入
の手続きや仕方を知り尽くした政府・日銀の関係者が一線を退いて、全く知らない人
たちが担当者になっているので、アメリカやヨーロッパなど関係主要国との連絡がう
まくいくのか疑問だ、また自国通貨安により輸出を伸ばして景気浮揚を図りたい欧米
にとって協調介入はもとより単独介入の理解を得るのも無理ではないかという意見か
ら、当面介入はできないのではないかという声が多かったように思います。しかも、
アメリカ政治に詳しいシンクタンクの方が、民主党政権になって以来アメリカとのパ
イプが細くなっていると言っていたので、これまで頭でっかちで現実的な対応ができ
ない政府を見ると、重要な問題で交渉したり、取り引きしたりすることができるのか
危ういと感じました。

 そうした点から、今回の介入は、もちろん為替関係者の予想を出し抜いた意外な介
入だけに、一旦は急激な円高阻止につながりましたが、反面欧米には介入の打診を伝
えたのでしょうが、何の反応もなく、また論評もなく静観しているところをみると、
欧米の主要関係国からの理解は得られてはいないように見受けられます。むしろアメ
リカ議会からは、中国の元安批判の中で行われた日本の為替介入に対して不快感が述
べられ、ヨーロッパでもEU財務相会合議長からの批判が伝えられるなどを見ると、間
接的ながら反対の立場を採っているのではないでしょうか。そうした欧米の立場を考
えると、今回の介入は、孤独な介入であって、円高を阻止するのは容易ではありませ
ん。

 もちろん、何もせず手をこまねいて見ているだけでしたら、日本経済は深刻になる
こともあり得ますので、介入はやむを得ない選択であったかもしれません。しかし、
為替介入は、あくまで巨大な市場へのショックであり、メッセージでもありますから、
一時的な効果しかないと言われます。それは時間稼ぎであり、それまでの間に円高要
因が緩和できるかが問題となります。その円高要因で難解なのは、欧米主要国をはじ
め多くの国が2年前のリーマンショック以降の金融経済危機の影響で落ち込んだ成長
を回復させるために自国通貨安を望んでいることです。裏返せば、円高問題の解決に
は、この欧米の経済が回復して、自国通貨安のメリットが薄れてくれることです。

 しかしながら、21日FRBの「必要なら追加緩和する用意がある」という声明に
あるように、アメリカの景気低迷の長期化を懸念していることから、さらなる金利低
下が促され、その結果としてドル安が進行する可能性が強くなっています。ましてや、
オバマ大統領の輸出倍増政策は、暗にドル安を志向していることを表しています。ま
た、ヨーロッパにおいても、同様にユーロ安志向しているといわれます。この流れは、
長期にわたるとみられ、簡単に変化するものではありません。その点で、為替介入に
対して欧米の理解は当分得られないまま、一旦始めた介入は止めることはできず、か
つ孤独な介入として市場と対峙せざるを得ないといえます。

 その点で、介入効果の持続性は、そんなに長いものではないといえます。また市場
への介入の影響力も、欧米などの理解がない単独介入であることを早晩市場が見透か
してきますから、時間の経過とともに薄れてくるといえましょう。そして、市場は、
景況感から金利が低下傾向にある欧米とデフレで実質金利が高止まりしている日本と
の対比から実質金利差が縮小しているとみて、リスクの小さい円に注目して円が買わ
れる可能性があり、80円割れがありうるかもしれません。それを阻止するには介入
では限界といえます。介入により円高修正しても一時的効果で時間稼ぎにすぎません
から、その時間の間で、自分たちでコントロールできない海外要因の解消に期待せず、
まず国内要因で持続的な円高修正を図っていくべきであるといえます。

 Q1125にも書きましたが、今回の円高問題は、海外要因のほか、長期的デフレ
に陥っている日本の構造的な経済問題という国内要因が背景にあると考えます。そう
した国内要因解決のためには、一つには、金融政策として一段の金融緩和を進め、実
質金利の低下を促すことです。従来ならば為替介入で市中に流れた円資金を回収して
きましたが、今回は回収しないまま市中に放置する非不胎化政策を採用してると言わ
れますが、それも一つの金融緩和政策といっていいでしょう。しかしそれでも金利の
低下が大きく見られないところを見ると、日銀はもっと積極的に一段の金融緩和政策
を打ち出すべきなのでしょう。

 それよりも、デフレが深刻化させている最大の問題は、非効率な経済構造があって、
成長期待が持てないことです。ここの問題を解決するには、規制緩和などの構造改革
を行い、成長が期待できる経済構造に変えることです。そうした長期的な成長戦略が
政府に求められているといえます。今は、介入による一時的な効果を利用しながら、
一段の金融緩和を積極的に進めて、デフレの緩和を図り、そうした時間稼ぎのなかで、
長期的な成長戦略を着実に進めて、円高対策を図っていくことが必要なのではないで
しょうか。そうでなければ、円高問題を先送りするだけで、その先には予想外の円高
を招き、デフレを深化させて、デフレスパイラルに陥るようなもっと大きな経済問題
を引き起こすことになるのではないでしょうか。

 しかしながら、日銀の白川総裁は、依然として、何か問題があれば金融政策を考え
ると慎重姿勢を崩しておらず、一段の金融政策には積極的ではありません。待ちの姿
勢は市場に誤ったシグナルを送る可能性があります。また社会政策を経済政策と勘違
いする政府において、菅改造内閣の顔触れでも金融・経済に詳しい閣僚が少なく、ま
た戦略性を持った人が入閣していないために、介入の一時的効果で満足して、今後起
きる市場の動きに対する対策が後手後手になるのではないかと危惧しています。こう
した、目先の問題の解決に奔走して、戦略を持たず、現実的な対策を考えない政府や
円高問題を自分の問題としてとらえず消極的な政策に終始する日銀では、介入の効果
も影響力も早いうちに消えていくのかもしれません。

                             経済評論家:津田栄

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 ■ 金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務

 為替介入の目的である「為替市場の安定維持」という大義名分に対して、実施手段
である市場介入の手法自体の正当性には疑義もあります。また、各国の経済政策との
利害からも政府・日銀による単独での為替介入の是非が問われる中で、介入による効
果・影響力を純粋に推定することはかなり難しいといえます。

 市場介入とは端的には、公的資金による市場取引のインパクトを利用して特定の市
場参加者に損失あるいは利益を発生させることで市場を誘導するという手法、といえ
ます。そもそも、損失を受ける参加者が円高によって利益を狙っていた投機家であれ、
購入代金の手当てを予定していた輸入業者であれ、公的部門には特定の市場参加者を
罰する権限はありません。もちろん、市場介入はあくまでもオペレーションによって
市場で形成される為替レートによるインパクトを利用するものであって、市場参加者
が市場で形成される為替レートによって利害を受けることは当然であり問題はない、
という考え方が前提ではあります。

 しかし、通貨当局である財務省・日銀には、効率的な価格を形成する市場の参加者
としては適切とはいえない面もあります。第一に内部者であるという立場と同時に、
市場参加者として利益目的も実需目的も持たない参加者という異質性が指摘されます。
前者に関しては、かつてのマレーシア中銀などが内部者としての立場を利用し投機利
益を追求するという行動に出て金融市場での批判を受けていました。一時期は有力な
投機筋と見なされ一定の影響力を持っていましたが、結果的には投機損益の帳尻とい
う点では明らかな失敗と見なされています。また、後者に関しては、旧西ドイツの通
貨当局は為替介入による損失の発生に対して厳格なスタンスにあると市場では見られ
ていました。そのため、各国の通貨当局との協調介入の際も、一定の為替レートの誘
導に成功すると、今度は旧西ドイツの通貨当局による反対売買に対して市場が疑心暗
鬼になる、といったこともしばしばありました。こうなると為替介入の効果そのもの
が揺らいでしまいます。通貨当局の市場取引への参加というのは、どうしても矛盾を
孕んだものとなります。

 また一方で、通貨当局の行動は、利益目的も実需目的も持たない半面、通貨政策の
観点から方向性が事前に明らかです。逆にいえば、介入実施の判断とタイミングの選
択が秘匿されない限りは、為替介入の効果は極めて限定的といえます。実際に市場で
は、投資行動の方向性と規模が事前にかなりの程度まで把握される実需筋と同様、通
貨当局の行動も、通貨投機機会の一つとして捉えられています。

 さらに、これまで為替介入を実施してきた結果、百兆円を超す外貨準備という形で
公的部門のバランスシート上に外貨リスクを負うことについての国民負担の問題もあ
ります。ただし、1兆7百億ドルものドル・ロングポジションを抱える投資家のドル
買仕掛けに市場が反応するのも、損失による痛みを感じない公的資金としての性格が
威圧感を与えているからにほかなりません。

 今回の為替介入の効果・影響力の持続力という点に関して、通貨当局あるいは政府
与党内でどの程度の期待感があったのかは明らかではありません。本格的な為替相場
の方向性の転換をはかるという意味での政策全般での取り組みが見られなかったこと
は、今回の為替介入が予想外ないし少なくともかなりの意外感を持たれたタイミング
であったことの裏返しでもあります。あえて効果の持続性よりもタイミングを重視し
たことから、9月末の企業の中間決算期を意識した、との見方も一部ではありました
が、効果・影響力の持続力という点では妥当な目標ではあったかもしれません。

 タイミングの意外感という中には、民主党代表選挙が終了し内閣改造が予定される
時期、という要素もありました。為替介入の実施は財務相の決定事項ということです
が、仮に為替介入を実行した財務相を直後の内閣改造で交代させた、となると市場に
誤ったメッセージを送ることになりかねませんでした。その意味では、為替介入実施
が財務相の単独の判断とすると、内閣での地位保全活動とも受け取られかねないだけ
に、この点については、意外感以上に不適切との印象を持ちました。

                外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎

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 ■ 土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部教授

 為替介入に関する経済学の実証分析は、最近でもいくつか出されており、その研究
結果に基づいて議論したいと思います。

 そもそも、為替レートがファンダメンタルズだけで決まっていれば、為替介入をし
ても効果はないでしょう。しかし、為替レートではバブルが生じる可能性が、経済学
的にも指摘されています。実際の為替レートで、ファンダメンタルズから乖離してバ
ブルが生じている場合、ファンダメンタルズに近づけるような為替介入は意味を持ち、
効果があるといえます。

 円ドルレートに関する最近刊行された研究として、Jer-Yuh Wan and Chung-
Wei Kao (2010) Effects of Japanese intervention on yen/dollar exchange rate
volatility, "Applied Economics Letters" vol.17があります。この研究によると、
日本の為替介入について、1995〜2004年にかけての円ドルレートのデータを
用いた時系列分析を行ったところ、為替レートの水準に対してもボラティリティの抑
制に対しても為替介入は有効だったとの結果が示されています。特に、「大規模介
入」が有効だったとしています。「小規模介入」は効果がないとする点や1990年
代後半の為替介入が有効だったとする点では、先行研究のTakatoshi Ito (2003)
Is Foreign Exchange Intervention Effective?: The Japanese Experiences in
the 1990s, in Paul Mizen ed. "Monetary History, Exchange Rates and
Financial Markets" vol.2 Edward Elgar(NBER Working Paper No. 8914)や、
Toshiaki Watanabe and Kimie Harada (2006) Effects of the Bank of
Japan's intervention on yen/dollar exchange rate volatility,
"Journal of the Japanese and Inte rnational Economies" vol.20の分析結果と整
合的な結果となっています。

 実際の円売りドル買い介入と口頭介入の効果を比較すると、1992〜2004年
の円ドルレートのデータで分析したJean-Yves Gnabo and Jerome Teiletche (2009)
Foreign-exchange intervention strategies and market expectations:
Insights from Japan, "Journal of International Financial Markets,
Institutions and Money" vol.19によると、口頭介入も円売りドル買い介入と似たよ
うな効果があるとの結果が示されています。口頭介入であれ円売りドル買い介入であ
れ、市場参加者の期待に働きかける明確なシグナルを発するものである必要がありま
す。

 為替介入の頻度については、1991〜2005年の円ドルレートのデータで分析
したTakeshi Hoshikawa (2008) The effect of intervention frequency
on the foreign exchange market: The Japanese experience,
"Journal of International Money and Finance" vol.27によると、高い頻度での為
替介入は、為替レートのボラティリティを抑制するのに効果があり、低い頻度での為
替介入は為替レートの水準に大きな効果を持つとの結果が示されています。

 ここで挙げていない同種の研究はまだあり、上記の結果と(若干)食い違う分析結
果も出されているようですが、私が理解する限り、上記の結果が現時点で説得的なも
のであるといえます。私の印象で言えば、日本の為替介入は、巷間で言われているほ
ど効果がないわけではなく、経済学の研究では、それなりに効果があることが示され
ています。また、協調介入でないと効果がないとか効果が小さい、とする見方もあり
ますが、私が知る限り、日本が他国と協調して介入したときの効果が日本だけで介入
したときの効果よりも顕著に大きい(ないしは前者は効果があって後者は効果がな
い)といった研究結果は見当たりませんでした。その意味では、日本が単独で介入す
るなら、効果が上がるようなスタンスで臨めば、為替介入の効果が期待できる、とい
えるでしょう。

 今後、どうすれば為替介入の効果が期待できるかについては、この文脈で拠り所と
されている近年の文献として、Lucio Sarno and Mark P. Taylor (2001)
Official intervention in the foreign exchange market: Is it effective and,
if so, how does it work?, "Journal of Economic Literature" vol.39や、彼らの
共著書Lucio Sarno and Mark P. Taylor (2004) "The Economics of Exchange
Rates," Cambridge University Pressが挙げられます。これらによると、為替介入は、
介入の意図を広く明示して市場参加者の期待に働きかけること、外国為替市場におけ
る「協調の失敗(coordination failure)」を解消することが、効果をあげる上で重
要だと指摘しています。為替介入の意図を公にすることは、準備段階では極秘にして
サプライズ効果が期待することとの間に矛盾を生じさせることであり、その点では悩
ましいことですが、為替介入が持つシグナル効果をいかに発揮させるかが重要である
といえます。

                     慶應義塾大学経済学部教授:土居丈朗
                 < http://web.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/ >

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 ●○○JMMホームページにて、過去のすべてのアーカイブが見られます。○○●
          ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )
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JMM [Japan Mail Media]                 No.603 Monday Edition
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】128,653部
【WEB】   ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )
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コメント
 
01. 愚民党 2010年9月28日 00:16:27: ogcGl0q1DMbpk : VbQ4LawWRo
円高の要因のひとつに、中国が、やがて紙クズになるであろう米国国債を売っているという一説がある。

米国経済をデフレに持っていくのがブレンジスキー地政学のクローンであるオバマ大統領であるが、日本は米国国債が紙クズとなるまで運命共同体だ・・・とほほ・・・・


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