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リーマン以降も経済縮小が続く日本
http://www.asyura2.com/10/hasan69/msg/775.html
投稿者 一言主 日時 2010 年 10 月 04 日 17:46:21: AlXu/i8.H/.Es
 

リーマン以降も経済の縮小を止められない日本

先般、9月28日の国税庁のまとめで民間企業の平均給与が、2千9年度、405万9千円となったと発表になった。これは前年度比5、5%減で、1989年のバブル期と同じ水準にまで落ちたということだ。

その前年2千8年度が前年度比1、7%減の429万6千円で、2年連続の記録を更新する減少となっている。

このような所得が下がっている状況下でも、経済が成長しているというような論調がまだ5主要新聞やメディヤで続いている。それは単に実質GDPの成長率だけを取って、成長といっているからだ。

実際は所得が伸びない、そして税収も増えない、全くの縮小経済でありデフレ循環が非常に厳しく深刻になっていることを示しているのである。
(民間賃金、年収300万円未満の労働者の比率が40%に達している。)

特にひどいのは、内需であり、壊滅的であろう。生産量を伸ばしているのは、輸出産業関連の外需頼み企業がほとんどである。これ以上の内需関連産業の淘汰は、日本の製造業死滅を意味し、政府関係だけでも1千兆を超える借金を返す担い手がなくなることだ。

このような低落は、リーマン後まだ最初の底も来ていないということだ。2番底の心配するより下降を早く止めなければならないのだ。

現状は、名目GDPの成長が実質GDPの成長を下回っており、生産量増加の割に所得が伸びず、労働生産曲線が右下がりで、生産量が増えるにつれ、所得が減少していくデフレ特有の収穫逓減の法則が成り立っているのである。

借金をして、ものをたくさん作り、それを損して売って日銭を稼いでいる国の生産量の伸びだけをカウントする事は無意味なことである。

しかも生産量が伸びている企業は、そのほとんどが外需に依存したものであり、国内の内需だけを見ればなんら成長していないことは誰しも既に分かっていよう。

現在、実質GDPの成長率が鈍化し、その成長が止まろうとしている。それは実質GDPを伸ばしていた原資がなくなっただけなのである。自律回復する経済成長ではない。

このように今まで行われて来た経済政策は、悪戯に生産量を増やすだけであり、付加価値が伸びる分けでも賃金が増える分けでもない。自律拡大する分けでもない。返ってデフレを増長していることがわかる。

主要新聞や、政策担当者の主張している経済政策は、とうの昔に破綻しているのである。乗数効果も、労働生産曲線が右下がりであるので、デフレにはなんら効果を持っていない。乗数効果の期待できない公共投資など、ばら撒きそのものである。お金をどぶに捨てているのとなんら変わらない。

リーマンショックが2千7年10月だから、その後すぐ麻生政権の莫大な14兆円の経済対策がなんら効果を上げていないのは明らかだ。その後の鳩山政権での国民新党の横槍で行われた7兆円の補正予算ももはや早くも水泡となった。

このような成長政策と言われる従来からの社会資本への投資や新分野への助成金や福祉関係への雇用促進などは、デフレ下では、余計にデフレを推進するのである。

ようやく民主党政権になり資金の投資方向が変わるかと期待していたのだが、ここに来てまた元のもくやみになってしまった。

いままた菅政権で同じような補正予算を組んでそれを通そうとしている。こんなものを通すのに時間や労力を掛けても無駄であり、効果のない借金を増やすだけなのである。

民主党政権になって2期目も全く自民党時代と同じ事を言わねばならないとは、想像できなかった。麻生政権や菅政権などの経済的政策隘路は早送りして次の政権に早く移らねばならないのに、また1年やるのだろうか。日本経済の復活の単なるじゃま(隘路)にすぎない。

今こそ大胆に予算を組み替え、予算の配分をデフレ解消方向にもって行かなければならないのだ。しかしこの時にこの首相では、日本の破綻は免れないのかもしれない。デフレは少しのやり方を変えるだけで簡単に直すことができる。


デフレでは、全体の貯蓄額より借金の方が多い状態である。そのため働いて得た所得から常に借金が棒引きされるため、消費が限定される。それが労働生産曲線を右下がりにするのである。

(2千10年4ー6月期の政府部門債務残高(国、地方自治体)1035兆2060億円;2千10年4ー6月期の民間企業債務残高 1000兆2518億円 この合計は軽く1500兆円の個人金融資産を上回っている。)300万以下の低所得者が40%に達そうとするときに過剰な貯蓄が消費の足を引っ張っているなどという主張はもはや通らないだろう。

生産量や労働力を増やすほど、1生産量単位の所得や1労働力単位の所得が少なくなってゆく理由である。

今回のリーマン後の実質GDPの成長も、成長のスタート時より、現在の方が所得が減少しているのである。2千2年から2千7年の間のいざ凪を超えたと言われた実質GDPの成長も、その始まりの所得より、終わりの所得が低下していたのである。

このようにデフレ下では、消費の拡大を伴わない生産量の増大は、所得を低下させ、国民所得を縮小させることが、統計的にも明らかになっている。

現在の民間賃金の年収が既に、1989年の水準まで下がってしまった。バブルの崩壊後、そして消費税を5%に引き上げ後、リーマン後も、日本は経済を縮小させているのである。その間も日本はどれだけ実質GDPを成長させただろうか。所得を生まないから成長だったのである。

この2年の間の矢継ぎ早の14兆円、7兆円といった破格の経済対策にもかかわらず、以前の1990年後半や2千年初頭の頃と比べても全く景気の浮揚感がなく、しかも予想外の早さで低所得化が進んでいる。

デフレが深刻化しつつあることが明白である。
しかも借金の増える割合が非常に早くなっている。
再び同じように4兆、5兆円の補正予算組んでも同じでなんら効果がなく借金が増えるだろう。

菅政権が取ろうとしている政策は、なんら今までと変わる事なく、相変わらずの生産量や労働量を増加させるものである。それは確実に所得を低下させるだろう。
このような借金だけが増える予算に対してみんなの党や、国民新党も賛成であるため、日本経済は現在救いが無い状態になっている。

デフレの解消のためには、消費を増やす政策が必要であり、そのためには、予算の大規模な組み替えにより、生産量を増やす政策を削り、消費を直接増やす政策に重点を置くべきなのである。

高速代金の全線3割負担や、ガソリン税の減額により、我々の負担を減らし、その分を消費に回させる政策がデフレを解消させるのである。またデフレの解消の特効薬は消費税を下げる事であることを付け加えて置く。


一言主。http://www.eonet.ne.jp/~hitokotonusi/  

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コメント
 
01. 2010年10月04日 19:02:28: Bd5Kltkcpw
 来年 激しいインフレが...
 下記は米国の先週末の記事ですが, 対岸の火事と見過ごせますか?

[Rampant Inflation In 2011? The Monetary Base Is Exploding,
Commodity Prices Are Skyrocketing And The Fed Wants To Print Lots More Money]
(2011年の激しいインフレ? 通貨ベースは爆発。
物価が急騰しています。そして、FEDは ずっと多くのお金を印刷したがっています。)
http://theeconomiccollapseblog.com/archives/rampant-inflation-in-2011-the-monetary-base-is-exploding-commodity-prices-are-skyrocketing-and-the-fed-wants-to-print-lots-more-money

最近 Chicago Board of Tradeで 小麦先物取引は 63%上昇しました。
しかし、小麦だけではありません。
「インフレーション・カクテル製造中」と題する最近のコラムで
リチャード・ベンソンは昨年より並はずれた値上げを見た商品の多くを記載しました。

 Agricultural Raw Materials(農業原料): 24%
 Industrial Inputs Index: 25%
 Metals Price Index(金属物価指数): 26%
 Coffee: 45%
 Barley(大麦): 32%
 Oranges: 35%
 Beef: 23%
 Pork: 68%
 Salmon: 30%
 Sugar: 24%
 Wool: 20%
 Cotton: 40%
 Palm Oil: 26%
 Hides(獣皮): 25%
 Rubber(ゴム): 62%
 Iron Ore(鉄鉱石): 103%

現在、それらの値上げが 生産の鎖に入るとき、
あなたは それがインフレを招くわけではないとでも思っていますか?
生産者と小売業者が それらのコストを消費者に転嫁しない などと思いますか?
もう現実に直面するべき時です。
それらのコスト増は流通システムいっぱいに濾過するでしょう、
そして、あなたの給料は 速やかに 同様に上昇する事はないでしょう。
インフレーションは来ます。
多くの情報通の投資家が、たった今 何が起こっているかを理解しています。
それが 金と銀が現在 暴騰している原因の1つです。
金の価格は金曜日に連続6日の最高値更新。
また 銀は 最近 格段の利益を齎しました。
更に 米国造幣局は 公式に American Silver Eaglesの卸売価格設定を
1.50ドルから2.00ドルまで上げました。

また 連邦政府が多くのお札を印刷したがっている更なる鳴動があります。

金曜日 ニューヨーク連邦準備銀行のウィリアム・ダドリーの談話。
http://www.cnbc.com/id/39456190
http://plaza.rakuten.co.jp/555yj/diary/201010030003/
 合衆国がたった今経験している 高い失業率と低インフレ率は容認できない...
 景気見通しが 間もなく 雇用とインフレーションの両方のために、
 より良い結果を見るようにならないとすれば、更なる行動が保証されるでしょう。
彼の所見で
 連邦政府の貸借対照表の 5,000億ドルの増加に匹敵すると
言及しました。
これらの所見を作っているのが ただのジョーでないと覚えておいてください。
これはニューヨーク連邦準備銀行のPresidentです。
ここは全ての地方連邦準備銀行の中でも最重要機関です。

最近の 数週間 まるで
さらに多額のお金の投入を伴う経済的氾濫の見通しから
FED職員の涎の音を聞くことができるかのようです。
この時点までに、死にかかっている米国経済を刺激するために
それは ほとんど 働いていません。
アメリカ国民が 経済状況に ますます苛立ちを感じていることに
連邦準備制度理事会とオバマ政権は神経質になっています。
それで、さらに多くのお金で経済をあふれさせて、
さらに多くのインフレーションを引き起こすことで 所期の目的を達成するでしょうか?
いいえ、インフレGDPが何であるか?
それはオバマ大統領と連邦政府とって この一言を 可能にするだけ。
“Look the economy is growing again!”(再び経済成長に向かう兆し)

しかし、私たちは米国で生み出された商品とサービスの価値が
Paper moneyの洪水で5%上がりますが、
本当の物価上昇率が10%であれば、
暮らし向きは良くなるのですか?悪くなるのですか?
それを見積もるのに 天才である必要はないでしょう。
経済成長の数字に騙されないでください。
より多くのお金が 持主が変わっているので、
それで 米国経済が順調であることを意味してはいません。
事実上、多くのアメリカ人家庭が
次のインフレーション津波によって財政的に引き裂かれるでしょう。

ちょっと 考えてください。
半ガロンのミルクが 10ドルであり、1かたまりのパンが 5ドルであるときに、
あなたの給料は どれくらい上昇して行くでしょうか?
過去の記事に それはあります。
[1年間5万ドルで過ごす4人の平均的なアメリカ人家族]
には信じられないほど難しい。
http://theeconomiccollapseblog.com/archives/can-a-family-of-four-survive-on-a-middle-class-income-in-america-today

それで、激しいインフレが始まるとき、どのくらいのお金が必要でしょうか?
そして、あなたは、あなたの雇い主が
このインフレーションの全てに追随するために
実際に昇給してくれると思いますか?
これらのどんな経済状態でも、そうはしません。
事実上、平均家計収入は 合衆国全体 津々浦々 下落しています。

ベン・バーナンキ議長は 今年、
連邦準備制度理事会が爆発している米国債を融資するのを助けるために
「インフレ時に紙幣を乱発しない」と米国議会に約束しました。
あなた方のどれほどが 当時 彼を信じていましたか?
あなた方のどれほどが 連邦準備制度理事会は責任を持って行動して、
通貨供給量とインフレーションを抑える術を試みると実際に信じていましたか?
現実は、連邦準備制度理事会システムが
 慢性インフレと絶えず拡張している国債(借金)
でもって 全てを物語っています。
あなたとあなたの家族が掻き集めることができたどんな富も、
インフレーションという隠された税で 月を追うごとに削られ続けているでしょう。
そして 残念ながら 上述の如く インフレーションは非常に悪くなろうとしています。

それで、何か楽観主義の余地がありますか?
何か 私たちが今後 ものすごいインフレーションを見ないという望みでも ありますか?


02. 2010年10月04日 21:18:01: LVWQ39Y23M
デフレの先にあるのがハイパーインフレーションの気がするんだけど?
恐慌ってのは豊作貧乏みたいなもんでしょ?

03. 2010年10月04日 22:57:44: mHY843J0vA
大体、デフレ回復後はオーバーシュートで強めのインフレが起こる
そのときは、金融政策や財政政策がすぐには効かないため政治的な批判も強まる
過去の経緯から、日銀や財務省は、それを恐れて過激な手段をなかなかとれないのだろう


 村上龍、金融経済の専門家たちに聞く
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■Q:1131

 アメリカにデフレへの警戒があるようです。
( http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-17331220100922?rpc=122 )
 いったんデフレに陥ると、脱却するのがむずかしいという指摘もあります。デフレ
からの脱却は、どうしてむずかしいのでしょうか。

============================================================================
※JMMで掲載された全ての意見・回答は各氏個人の意見であり、各氏所属の団体・
組織の意見・方針ではありません。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 ■ 真壁昭夫  :信州大学経済学部教授

 確かに、バブル崩壊後のわが国の経済状況を考えると、デフレ脱却が難しいことが
分ります。デフレから脱却が難しい理由について、直ぐに思いつく三つのポイントに
ついて述べます。

 まず一つ目は、我が国を取り巻く世界的な経済状況です。1989年にベルリンの
壁が崩壊すると、それまで資本主義経済の中に殆ど入っていなかった旧共産圏諸国が、
世界経済の枠組みの中に入ることになりました。それをきっかけに、物理的な国境の
意義が低下する、いわゆるグローバル化が進展しました。

 特に旧共産圏諸国は安価で豊富な労働力を持っている国が多かったこともあり、そ
うした労働資源を使って、旧共産圏諸国は工業化の道を歩み始めました。それに伴っ
て、世界的な供給能力はかなり大きく拡大しました。世界的に供給能力が拡大します
から、需給関係は緩むはずです。それまでの、世界的なインフレ体質は、基本的にデ
フレ体質に変化することが想定されます。特に、賃金水準が高いわが国では、90年
代中盤以降、中国など賃金水準の低い諸国からの低価格商品の流入によって、物価水
準が低下する、"価格破壊"と呼ばれる経済現象を経験したことは記憶に新しいとこ
ろです。

 経済がグローバル化し、各国の賃金などの生産要素の価格が、世界的に一定の水準
に収れんするという、"生産要素価格収斂の法則"の動きが働き、わが国の賃金水準
に下落圧力がかかることになります。海外からは安い製品が流入し、国内では賃金水
準の下落=賃金デフレが進むと、どうしても物価水準が下落しやすくなり、そのサイ
クルから抜け出すことが難しくなります。

 二つ目は、デフレギャップを埋めることには痛みを伴うことです。デフレから抜け
出す一つの方法として、供給が需要を上回るデフレギャップを埋めることが考えられ
ます。デフレギャップを埋めるためには、供給能力を削減することが想定されます。
しかし、供給能力を減らすためには、設備の廃棄や人員の整理が必要になります。リ
ストラは失業者の増加などの痛みを伴います。

 そのため、政府は、そうした痛みを嫌って、公共投資などによって一時的に需要を
注入する方法を選択しがちです。ところが、一時しのぎの需要注入では、供給サイド
の変革が起きにくいため、なかなか根本的な解決策にはなりにくいことになります。
結果的に、わが国の場合、90年代初頭から多額の公共投資などによって需要を注入
したものの、本格的なデフレギャップの解消に至っていないのが現状です。

 三つ目は、人々のデフレ心理を払しょくする方法が限られるからです。理論的には、
デフレやインフレは貨幣の現象ですから、中央銀行が市中に多額の流動性を注入して、
人々の心理の中に、「今後、お金の価値が下がるだろう」という心理を作り出すこと
ができれば、人々の貨幣保有意欲を減殺させて、消費を活性化することができるはず
です。わが国のデフレが本格化した90年代後半以降、米国の経済学者は、「日銀は
ヘリコプターからお金をまけばよい(いわゆるヘリコプターマネー)」と提唱しまし
た。

 当時の日銀としても、金融政策を超緩和の状態に維持し、最終的には市中に必要量
をはるかに上回る量的緩和策を実施しました。それでも、人々のデフレ心理を完全に
払拭することができず、デフレ状態から本格的に脱却することはできませんでした。

 現在の米国は、未だ本格的なデフレ状況に入っているわけではありません。しかし、
足元の経済状況を見ると、ディスインフレ(インフレではない状態)の状態が続いて
いると考えられます。米国の様に、歴史的にインフレ期待の高まりやすい国で、中央
銀行が積極的に流動性を注入しているにも拘わらず、需要が大きく高まっていない状
況を見ると、人々の心理状態を短期的に大きく変化させることの難しさがよくわかる
気がします。

                       信州大学経済学部教授:真壁昭夫

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 ■ 中島精也 :伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト

 デフレとは物価が持続的に下落していく状況を指しますが、それはGDPギャップ
がマイナス、すなわち需要が供給を下回る状態が持続するからです。デフレをもたら
すGDPギャップの発生は供給要因というよりは、需要が長期的に低迷することが原
因だと見ています。通常の景気循環では需要が一時的に減少しても、財政や金融政策
を使って需要喚起を図ることで、需要が持ち直してマイナスのGDPギャップが解消
し、物価はプラスに転じます。しかし、財政金融政策を駆使しても、需要が長期にわ
たり低迷するということは、異常な事態が起きているからに他なりません。それがバ
ランスシートの悪化です。

 バブル崩壊以降に生じた日本のデフレ、また、最近のアメリカや欧州で広がってい
るデフレ懸念も、恐らく根っこは同じと推測されます。それは経済の各部門でバラン
スシート悪化が進行して、経済が需要が増えにくい構造に、いわゆる袋小路に陥って
いるからだと思われます。日本のケースではバブル時に高値で土地や住宅を買った企
業や家計にとり、保有する土地や家屋の資産価値が急落しましたが、負債の額は全く
変わりませんでした。多額の借金を返済しなければいけませんので、企業は利益が出
ても設備投資に振り向けることができず、また家計は給料をもらっても、消費を増や
すことができません。負債の重荷で支出を増やせなかったわけです。

 米国のケースでは住宅バブル崩壊、サブプライムローン問題勃発、リーマンショッ
クなどにより、住宅や商業用不動産、株式などの資産価値が急落しました。家計は住
宅価格下落でバブル崩壊時点の日本の家計と非常に似通ったバランスシート悪化に見
舞われています。商業用不動産に融資している地銀は今年すでに120行程度が破綻
しました。貸し渋りも深刻化しているようです。よって、地銀に借り入れを依存して
いる中小企業は資金繰りが苦しく、雇用を増やすこともままならない。ここに米失業
率高止まりの原因を垣間見ることができます。

 悪化したバランスシートを改善するには、資産価格が上昇するか、悪い資産を処理
するかの2つしか方法はありません。しかし、バブル時に値がついた資産価格は元々、
均衡価格から遠く離れた価格でしょうから、バブルがはじけた後にそのレベル付近ま
で価格が戻ることは先ず無理でしょう。よって、悪い資産を処理することが決定的に
重要となるのですが、大きな損失が生じますので、よほど財務内容の良い企業でなけ
れば処理をしたがらないというのが、日本のバブル崩壊時の経験です。このように一
度悪化したバランスシートの改善は容易には進みません。

 要するにバブルが崩壊すると、悪化したバランスシートが長期間残る傾向にあり、
その結果、需要の停滞が長引き、GDPギャップが改善しないので、デフレが長期化
する。一度、デフレに落ち込むと、デフレからの脱却が難しいというのはバランスシ
ートの悪化という厄介な代物を抱えることになるからだと思います。

               伊藤忠商事金融部門チーフエコノミスト:中島精也

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 ■ 菊地正俊  :メリルリンチ日本証券 ストラテジスト

 一旦デフレの罠に落ちてしまうと、消費者や企業がデフレを前提に行動するため、
デフレから抜け出すことが難しくなります。人々は消費者物価が下がり続けると予想
すると、消費を先延ばししたり、値下げ要求が厳しくなります。足元の消費が抑制さ
れると、景気が悪くなり、物価下落に拍車がかかります。企業はコモディティ価格が
上昇しても、販売価格を引き上げれば売上数量が減ると懸念して、値上げに慎重にな
り、企業収益が悪化します。デフレ下では現金保有が合理的行動になりますので、家
計は株式に資金を回さず、企業も投資よりも余剰金融資産を保有しがちとなります。

 最近、世界の資本市場では欧米経済に、デフレ、超低金利、巨額の財政赤字、株式
から債券への資産シフトといった日本が1990年以降苦しんできた現象が起こるか
もしれないとして、日本化(Japanification)という言葉が聞かれるようになりまし
たが、欧米主要国が日本のような長期デフレに陥るとは考えにくいと思います。1)
日銀の不十分な金融緩和、2)不況時に雇用削減ではなく、皆で賃金引き下げを受け
入れようという日本の労働慣行、3)株主利益を無視して、値下げ競争を行う企業行
動、4)低価格商品の輸出国となった中国に対する地理的な近さ、5)デフレの始ま
りが労働人口の減少期と一致してしまったことは、日本に限った現象であり、欧米で
は見られないためです(1や5が欧州で少し当てはまるかもしれませんが)。

 日本がデフレから抜け出ることが永遠に不可能なのでしょうか? 白川方明日銀総
裁は「デフレの背後にある根本的原因には、成功期待の低下がある。日本経済の実質
成長率や生産性を引き上げていくことが重要な課題だ」と述べられました。日銀首脳
は、デフレは人口減少や成長率低下を背景とする日本の実態経済が主因であり、金融
政策にできることには限界があるとの見解を持っているようです。一方、外国人投資
家、特に米国投資家にはインフレやデフレは貨幣的な現象であるとのマネタリスト的
な考え方を持つ人が多います。人口減少が問題ならば、日本以上に少子高齢化が酷い
ロシアや韓国は日本以上のデフレになってもおかしくありませんが、両国ともインフ
レ気味です。

 日銀はお金をじゃぶじゃぶに供給しているといいますが、リーマン・ショック以降
は他の中央銀行よりバランスシートの拡大率が小さかったため、円高になっているよ
うにみえます。2010年9月に白川総裁は、日銀の金融緩和は他国より控えめだと
いう指摘に対して、日銀資産の名目GDP比は、米国や欧州より高いため、日銀が一
番緩和していると反論されました。変化率と絶対額のどちらでみるのが適当かの議論
ですが、最近為替は中央銀行の資産の名目GDP比の変化に反応しているようにみえ
ます。

 米国のバーナンキFRB議長が民間時代に、日銀はトマトケチャップでも買うべき
だと発言した有名な逸話があります。マネタリストの大御所だったミルトン・フリー
ドマンは、「インフレはいつでもどこでも貨幣的現象だ」と述べました。ヘリコプタ
ーからお札をばら撒けば、インフレになるという極論もあります。ヘリコプターから
1万円札をばら撒くのは現実的でないでしょうが、政府が高額紙幣を発行して、日銀
に持ち込んで1万円札に換金して、国民に配るというのは現実的な政策として考えら
れるでしょう。インフレ期待が高まれば、お金をもっと使うでしょう。デフレ下での
ゼロ金利は、実質金利が高いことを意味するため、日銀は人々のインフレ期待を高め
るような政策を取る余地があるでしょう。
 
               メリルリンチ日本証券 ストラテジスト:菊地正俊

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 ■ 北野一   :JPモルガン証券日本株ストラテジスト

 日本の食料及びエネルギーを除く消費者物価指数は、1998年からほぼマイナス
の値を取り続けております。これをデフレと呼ぶならば、既に10年以上の長きにわ
たってデフレが続いていることになります。「日本の経験」としては、デフレからの
脱却は確かに難しいといえます。

 さて、その上で考えねばならないことは、こうした「日本の経験」は一般化できる
のか、それとも日本固有の現象なのかということだと思います。私は、「日本の経験」
は一般化できない、日本固有の現象であると考えております。そうであるならば、問
題は、(1)日本は何故デフレに陥ったのか、そして脱却できないのか、(2)米国
は日本のようなデフレに陥る危険性はあるのか、の二点になると思います。

 まず、日本がデフレに陥った理由は、次の三つの組み合わせであると思います。
(1)生産性の低迷、(2)労働人口の減少、(3)銀行の問題。(1)と(2)に
より、日本の潜在成長率は、世界平均よりも低くなります。潜在成長率に等しいと言
われる自然利子率も当然低くなります。もっとも、これだけではデフレに陥ることは
ありません。日本が必要とする低い自然利子率に見合う低い金利を用意してあげれば
良いからです。

 しかし、日本の「金利」は逆に高止まりしております。例えば、株主が要求するリ
ターンも一種の金利ですが、これはグローバル化の進展によって世界的な水準を要求
されるようになっております。要求リターンの逆数であるPERが世界的に収斂して
きているのがその証左です。日本は、こうした株主資本に頼ることなく、銀行借り入
れを有効に利用すべきですが、借り手・貸し手双方の問題意識が乏しく資本コストを
下げることができません。これらを纏めて、(3)銀行の問題と呼ぶことが可能で
しょう。

 要するに、自然利子率(日本の体力に見合った金利)が低いにも拘わらず、世界水
準の高い金利を使うはめに陥っているということです。従って、実質的な金融引き締
めが続いている。その結果、デフレ期待が醸成され、実際のインフレ率も低下してい
る。この10年間、日本と米国のインフレ率格差は約2.5%という状態が続いてお
ります。これは構造問題であり、(1)〜(3)の結果であると言えるでしょう。

 さて、この2.5%のインフレ格差というのは実にいやらしい数字です。というの
も、米国の実質的なインフレ目標が2%だからです。米国のインフレ率ー日本のイン
フレ率=2.5%、米国のインフレ目標=2%なら、日本のインフレ率がプラスにな
る可能性は、ほぼゼロです。その結果、日銀の金利政策は、半永久的に消滅したと言
えるでしょう。

 仮に、米国が3%以上のインフレ率を許容する国ならば、他力本願ながら、日本の
インフレ率もプラスになる可能性があり、そうなると日銀のゼロ金利政策の意味合い
がぐっと増してきます。要するに、マイナスの実質金利をつくることが可能になるの
です。しかし、現実はそうではなく、日本の実質コールレート(コールレートー消費
者物価上昇率)は、この10年間、一度もマイナスになることはありませんでした。

 ここでいったん、これまでの議論を纏めるとこういうことになります。日本のデフ
レには、構造的な側面と循環的な側面がある。構造的なデフレは、日米インフレ率格
差2.5%という数字に表れている。一方、実際の日米のインフレ率は、この2.5
%という格差を維持しながら、上がったり下がったりという循環変動を繰り返してい
る。ただ、残念ながら、米国のインフレ目標が2%なので、米国のインフレ率は2%
で頭を押さえられる危険性がたかい。その結果、2%ー2.5%=ー0.5%という
ことで、日本のインフレ率はプラスにならない。というか、ならなかった。

 では、米国がデフレに陥るのかと言えば、上述の三つの条件が当てはまるかどうか
を検討すれば良いことになります。まず、米国の就業者一人当たり実質GDPの伸び
率は、この第1四半期に4.8%増と1959年以来の高い伸びになりました。生産
性の伸びは衰えていないと思われます。また、国連の推計によると、米国の人口の増
加率は、概ね世界平均並みです。さらに、米国はグローバル化を背景に、引き締めを
しても長期金利が上がらないこと(コナンドラム)を憂えた時代があったように、グ
ローバル化で金利が下がらない日本とは立場が全く異なっております。

 それにも拘わらず、米国の日本化懸念、言い換えると「日本の経験」の一般化が根
強く行われているのは、バブルが崩壊し、金融システムが麻痺すれば、次に待ってい
るのはデフレといったシークエンシャルな連想が支持を集めているからだと思います。
FRBの元金融政策局長であったラインハート氏の論考「After the Fall」は、その
典型でしょう。

 ここで、我々が注意深く検討せねばならないのは、以下の諸点です。まず、リーマ
ンショックはバブル崩壊なのか、むしろ逆バブル生成ではなかったのか。資産デフレ
と言っても、米国の不動産価格には少なくとも底入れの兆しが認められる。20年近
く下げ続けている日本の不動産とはそもそも価格上昇率において大きな差があったの
ではないか。金融システムについても、米国のC&Iローンは、既に2ヶ月連続で前
月比増加している。信用収縮にも歯止めが掛かりつつあるのではないか。ニューノー
マル論を受けて、日米ともに資本ストックの伸び率をゼロ近傍にまで落としたのは過
剰反応ではなかったか。経済の長期低迷の前には、これとは逆の資本ストックの過剰
な積み上がりが認められるものです。今回には、それがない。

「デフレに陥ると、脱却が難しい」という恐怖心が、最近の債券バブルの背景にある
と思いますが、私は、「日本の経験」は一般化できないし、米国はデフレに陥ること
もないと考えておりますので、債券バブルも早晩破裂するだろうと考えております。
なお、最近、山田久氏の『デフレ反転の成長戦略』(東洋経済)等で議論されている
日本の賃金の下落は、生産性の低下の大きな要因であり、上述の(1)に含めて考え
れば良いと思います。

                 JPモルガン証券日本株ストラテジスト:北野一

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 ■ 杉岡秋美  :生命保険関連会社勤務

 リーマンショックは、住宅バブルの崩壊がきっかけでした。これは、不動産バブル
がはじけて始まった、日本の失われた20年の経験と明らかに重なるように思われま
す。日本では、土地の値上がりを背景として、信用が拡張し異常な好景気をもたらし
ましたが、アメリカも同様に住宅の値上がりを背景として信用が拡張し長い消費ブー
ムが続きました。

資産価格のバブルがはじけると、これまで拡張していた分の信用が逆転するのです
が、それに依存していた、消費や投資が急激に低下することになります。家計や企業
のバランスシートには大きな負債が残り、返済は続けなくてはならないのに資産の価
値は下がったままです。景気は落ち込み返済原資である収入や売上も下がっています
ので、消費や投資にまわせる分はますます減っていきます。

 そのままではジリ貧なので、残った大きな負債と価値の低下した資産を、売却して
整理してしまうのが得策ですが、大きな損失を計上することで破産の危機を早めるこ
とにつながりかねず、余裕のある主体しかこの方法はとれないでしょう。

 アメリカの例では、値下りした住宅とローンは返済が行き詰ると、強制的に競売に
かけられ弁済に回ります。そこで完済できなくても債務者の責務はそこでお終いです
が、埋め切れなかった分を負担する金融機関のバランスシートが毀損することになり
ます。金融機関は、これまでのような信用を供与することはとても出来ません。家を
失った債務者も、失業率が高止まりするなかで、生活を再建し消費水準を元に戻すの
は困難です。

 もともと、アメリカの消費水準は自宅を担保にしたローンによって、ドーピングさ
れていましたから、その分の消費も消えてなくなっているのですから、その分もあわ
せてもとに戻るのは当分望めそうもありません。

 結局、今話題になっている日本とアメリカのデフレの場合、家計、企業、金融機関
それぞれのバランスシートが、その負担割合に応じて毀損しますので、資産バブルが
はじけてできた負債の処理には、相当な時間を要することになります。ただ単に在庫
が多すぎる程度の景気後退であれば、製品価格が下り、金利が低下することにより、
需給の調整が短期間になされて行きますが、今回のようにバランスシートの両側に資
産と負債が劣化したまま残っている場合は、それをきれいに処理するには、非常に時
間がかかることになります。

                       生命保険関連会社勤務:杉岡秋美

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 ■ 山崎元   :経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員

 デフレからの脱却が難しいのは、一つは金利がゼロよりも下がらないこと、もう一
つはマネーを経済に行き渡らせることが難しいことにの二つの制約によるものです。

 金融緩和は政策金利を引き下げて長短の金利を低く誘導し、民間の資金需要を喚起
しますが、デフレに対する予想(デフレ期待)が定着すると、金利をゼロにまで下げ
ても、プラスの「実質金利」が残ります。それ以上金利を引き下げることができない
ので、直接的には金利低下の効果(投資や消費の喚起)を使うことができなくなりま
す。

 一層の効果を得るためには「デフレ期待」を「インフレ期待」の方向に動かすこと
が必要になります。

 世間を眺めると、このプロセスについて理解の齟齬があり、議論が粗雑なために、
デフレの解消が可能であるかないかについて両極端な意見が存在するように思います。

 極端な意見とは、一つは「日銀がお金を刷れば(ベースマネーの供給を増やせば)
簡単にデフレは解消する」という意見であり、もう一つは「金利がゼロまで下がって
しまうと金融政策にできることは何もない」というものです。

 日銀が「お金を増やす」標準的な手段は、国債を買い入れることです。国債を買い
入れた代金は、民間銀行が日銀に保有する当座預金口座に振り込まれます。通常の経
済環境下では、金利がつかない当座預金口座に準備預金として要求される必要額以上
の残高を持つことは無駄であり、これを「ブタ積み」などと称しますが、ゼロ金利の
下では、ブタ積みの機会費用がゼロになるので、銀行はこのお金を日銀当座預金に残
したままにすることに無駄を感じません。

 民間に「銀行が貸せる」と思う貸出先の資金需要があれば、ブタ積みの資金は貸し
出しに回るはずで、いわゆる信用創造の過程を通じて銀行システムの外で回るお金の
量が増えますが、デフレ期待が定着して資金に対する需要が細っている状況下では、
貸し出しが増えず、「お金を増やした状態」になりません。日銀が金融緩和してもブ
タ積みが積み上がるだけです。

 この点について語らずに、「日銀がお金を刷れば(供給すれば)デフレは簡単に脱
却できる」というのは些か無責任な議論でしょう。この状況をどう解釈するかが、デ
フレ対策について「ある」とする意見と「ない」とする意見の分かれ目であるように
思われます。

 私は、デフレ対策は「簡単ではないが、まだ手は複数あり、小出しにせずに速やか
に実行すべきだ」と考えています。

 一つには、将来の金融政策を約束することでしょう。たとえば「消費者物価の対前
年比上昇率が2%(数字は議論のあるところでしょうが最低ラインは2%でしょう)
を三ヶ月続けて超えない限り、政策金利は引き上げない」と日銀が約束することです。
インフレーション・ターゲッティングのような一般的な枠組みをルール化してしまう
方法もありますが、一回限りの約束ではあっても、福井総裁時代の量的緩和解除から
ゼロ金利解除のような「あまりに速やかな金利引き上げはない」と約束することに
よって、デフレ期待を改善することが期待できます。

 ベースマネーの供給がブタ積みになっても、ブタ積みを積み上げ続ける「量的緩和」
には、日銀の異様な決意を示すとともにブタ積みの解消には時間がかかるので政策金
利のゼロ水準が長く続くだろうという「時間軸効果」(ゼロ金利の長期化予想が長期
金利の低下を促す)が期待できるという意見がありますが、これは、前回、ブタ積み
を速やかに解消してしまったので、効果的であるようには思えません。

 数ヶ月単位の期間で資金を供給する「新型オペ」も同類の効果のものですが、デフ
レ継続に対する期待がすっかり定着してしまった現状では、「数ヶ月」では、効果が
薄いでしょう。作用原理から考えて、上記のような「日銀のインフレ約束」の方が効
果的ではないでしょうか。

 日銀がこうした約束を渋る場合、日銀法を改正して、政府が日銀に政策目標を指示
することを明確化して、政府がインフレ状況の達成をコミットすることによっても、
同様の効果が得られるでしょう。

 別の手段としては、日銀が通貨供給のために買い入れる対象を変えることで、これ
は幾つかのバリエーションがあります。日銀は、現在、ベースマネーの供給のために、
主に残存期間が短くなった国債を買っています。これを、以下のようなものに変更す
る選択肢があります。

1)長期国債を購入して、長期金利の低下を通じて、資金需要の喚起を促す、
2)為替市場に介入して、円安を通じて景気回復および資金需要を喚起する、
3)商業手形などを日銀がリスクを取って(あるいは政府が保証して)買い入れる
 「信用緩和」を行い、資金需要を喚起する、
4)株式を買い入れて(広くETFで買い入れるとする意見が多い)、資産価格に働
  きかけて資産効果で資金需要を喚起する、
5)REIT(不動産投資信託)を買って資産価格に働きかけて、資金需要を喚起す
  る、
といった選択肢です。

 1)は日銀がバランスシートで取る金利リスクを高めるとともに、財政の直接ファ
イナンスに近づきます。2)は為替市場への直接介入に対する外国の反発を考えると
現実的ではないと、私は思います。3)は貸し出しのリスクを日銀ないし政府が取る
ので資金需要の拡大が期待できますが、損失が出た場合には財政的な手当が必要にな
る可能性があります。4)は、日銀ないし政府が民間企業の大株主となるので、企業
統治上好ましくないでしょう。5)もREITに組み入れられている不動産に購入が
偏り、特定の会社を利することになり、あまり筋がいいとは思えません。

 1〜5の対策は、なにがしか財政政策と絡み、「純粋な金融政策」ではないとする
意見もありますが、目的に対して効果的なら、実行すればいいだけのことです。どの
選択肢を取るかには、それぞれの政策の副作用に対する判断と財政当局との調整が必
要です。私個人の意見としては、1)は直ちにできるし、米国がFRBが行った政策
に近い3)も有力ではないかと思います。2)4)5)は副作用が好ましくないと思
います(論者によっては、2)や4)5)を強く推す意見があります)。

 少し異なるアプローチとしては、市中に出回るお金を直接増やして「貨幣価値を薄
める」ことが考えられます。たとえば、減税なり給付金の支出を行うなりして、国民
の手元のお金を増やし、これを日銀がファイナンスすることで、いわばお金を配って、
市中のお金を増やし、インフレを作る方法があるでしょう。また、政府が財政政策を
通じて景気を刺激するいわゆる「景気対策」も資金需要の喚起と市中に出回るお金の
増加にはプラスの効果があるはずです。

 こうした方法は財政面のウェイトが大きな政策になります。一つには財政状況に対
する判断の問題があり、もう一つには政策の分配面での公平性の問題を検討しなけれ
ばなりません。

 分配面に関しては、たとえばベーシックインカムや負の所得税のような積極的な再
分配の意図を持つ政策を組み合わせることが考えられ、これは、社会保障の再構築と
しても有効だと思いますが、残念ながら簡単に実現するとは思えません。

 一方、財政面での判断の問題ですが、財政赤字拡大の主たる影響は金利の上昇とイ
ンフレの昂進ですが、現在、長期金利が低く、且つインフレではなくデフレが問題の
状況であることを考えると、資金需要にとってマイナス方向に働く「財政再建」は、
デフレ下で急ぐべきではないと考えるべきでしょう。長期金利が低いことからみても、
日本の政府の債務に対しては過度ともいえそうな信認と需要があり、現実に、デフレ
という形で日本政府の債務の実質価値は上昇してきました。

 上記のように、デフレ期待がいったん定着してしまうと、銀行貸し出しの増加につ
ながる資金需要が起きにくいので、民間経済に出回るマネーの量を増やすことが簡単
ではありません。そして、日本がこれまで経験してきたように、デフレ期待は、デフ
レが長く続くほど強化されます。日銀単独でできる政策は直ちに実行すべきでしょう
し、財政的な要素の絡む政策も早めに投入すべきでしょう。小出し・後出しのアプロ
ーチは、デフレからの脱却をより難しくします。

 中央銀行や政府が、手段はあるのになかなかそれを実行しない、あるいは実行でき
ない傾向があることが、「デフレ脱却は、むずかしい」と考えられる最大の理由かも
しれません。

              経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員:山崎元
                 ( http://blog.goo.ne.jp/yamazaki_hajime/ )

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 ■ 中空麻奈 :BNPパリバ証券クレジット調査部長

 デフレからの脱却が難しいのは、麻薬のような部分を併せ持つからではないでしょ
うか。つまり、デフレにより、目先何らかの条件が緩むことによって(価格の低下な
どがそれです)、幸せになったと勘違いできる可能性があるため、必ずしもデフレを
全否定できずに来てしまう面があるからだと思います。

 消費者がモノを買うとき、同じモノが昨日の値段より安ければ買う意欲が増してき
ます。セール期に赤い札に誘われてしまうのは、同じ品質の商品をお得に買うことが
できるからです。セール期に限らず、デフレによって、価格破壊が起きた場合、消費
者は消費を焦らず、これこそ底値だというところまで待つことになります。このとき、
買いたいものの値段が下がるのを待っている消費者にとってデフレは決して悪者では
ないはずです。

 デフレはお金の価値が上がっていくという解釈もできます。今焦って消費せずとも、
明日になれば、今日の1.2倍のものが買えるようになれば、デフレ様々です。どう
しても必要なモノでない限り、来年まで消費を待つことで、今の倍のクオリティのも
のが同じ価格で手に入ることがなんとなく感じられる時、誰が消費を急ごうとするで
しょう。

 価格が下がる商品と提供する品質のマトリックスを考えたとき、それがちょうどい
い頃合いの商品を提供することができた企業は、収益を上げていくことに成功します。
デフレ期だからといって、モノが売れないわけではなく、バリューのあるものを提供
することに皆が厳しくなるだけですから、売れるモノを提供する企業は勝ち組になれ
るわけです。

 このように、デフレの進行によって、消費者が"お得"だと感じてしまう部分があ
ること、これがデフレのもつ麻薬のような部分。これが残るため、本来はデフレスパ
イラルに陥っているにもかかわらず、その深い罠に気づかず、落ち込んでいくことに
なるため、デフレ脱却ができなくなるから、ではないでしょうか。

 デフレが進行すれば、消費者が受け取るべき賃金も低下、失業率は上昇、雇用市場
に閉塞感が台頭します。目先の価格破壊に喜んでいた消費者も、手に取る現金が減っ
てくることに気づき始めると、もうデフレの罠から抜け出せない状況に。企業側にし
ても、価格が落ちてくれば、当初はコストの低下で利益にうまみもあるのかもしれま
せんが、すぐにトップラインの落ち込みに気がつき、生産調整や雇用調整を考えざる
を得なくなります。銀行だってそうです。さして努力をせずとも、今消費を避けて、
お金の価値が十分に上がってから投資しようと考えるお金が、預金として集まるよう
になるため、です。その預金が、投資先のない現状のマーケットを鑑みれば、国債保
有に形を変えることになるわけですから、デフレが進行して困ってきている状況でも、
国債に関わる資金の流れは堅調、ということになります。こういった現象面は突き詰
めていくと問題につながるのですが、預金が集まってしまう銀行も、国債の消化が順
調になる国も、デフレ進行による苦痛を感じるのは、デフレスパイラルに完全に陥っ
た後、ということになるのです。

 デフレを貨幣価値の向上ということで打開策を考えてみたとしても、金融緩和にも
限度があります。日本の金利と同様な傾向をたどってきた米国にしてみれば、現状の
日本のデフレ経済にある問題を金融緩和で止めようがない事実に対して、大きな懸念
に映っているのは当然のことでしょう。だからこそ、FRBは大いに日本を気にし、
世界中から避けたいものとして、"日本化"があげられてしまうことになるのです。
このところ、ロンドンなどの同僚と話す場合に、欧州は日本化をしないで済むであろ
う、いや済まないかもしれない、といった恐怖シナリオとして、日本のことが語られ
ているのが、日本人としてはどうにも気分の悪いところです。しかし、デフレを止め
るためには、麻薬が抜ける時のような痛みを伴うことになることは我々自身覚悟して
おくことは必要だと思われます。


                 BNPパリバ証券クレジット調査部長:中空麻奈

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 ■ 金井伸郎  :外資系運用会社 企画・営業部門勤務

 歴史的に見ますと、デフレは決して例外的な現象ではなく、資本主義市場経済は過
去にはかなりの長期間にわたってデフレを経験してきたことがわかります。実際のと
ころ、むしろ20世紀の前半まではデフレが経済の基調であったかのようにも見えま
す。米国の事例でも、1860年代の南北戦争の前後に物価水準がほぼ2倍となるイ
ンフレを経験していますが、その後20世紀初頭までは物価の下落基調が続いたこと
で、ほぼ南北戦争前の物価水準近くまで戻っています。20世紀に入っても、第一次
・第二次の両大戦時には大幅なインフレとなる一方で、それ以外の平常時ではむしろ
デフレ基調でした。世界大恐慌という特殊要因はありましたが、両大戦間では19年
間で約3割も物価水準は下落し、第二次大戦後でさえも年間で物価上昇率がマイナス
となる年もありました。

 こうした流れが大きく変化を見せたのが1960年代後半以降であり、ベトナム戦
争終結後もインフレが継続するようになりました。このように経済の基調を大きく変
えた要因としては、経済における公共部門の影響力が拡大してきたことが挙げられる
でしょう。公共部門の拡大は、インフレと引き換えに、「不況がち」の資本主義市場
経済の体質を相対的に安定度の高いものに変えてきたともいえます。

 しかし一方で、政府による経済活動への介入や規制がもたらす経済の非効率性が耐
え難い水準にまで達したことから、80年代以降は再び、公共部門を縮小し市場経済
の役割を強化する構造改革の動きが各国で起こったことも周知の通りです。20世紀
は「市場」対「国家」の相克の歴史でもありましたが、その中で生まれた社会主義諸
国においても、体制の転換や市場経済の導入が行われています。また、多くの新興国
でも、中央集権的な開発経済から、市場経済重視の経済運営に大きく軸足を移してき
ました。90年代に入ってからのディス・インフレの背景には、こうした世界的な潮
流があったことが指摘できます。

 また、世界的な市場経済重視の流れの中で発展してきたグローバル・キャピタリズ
ムの下での企業間の競争も、グローバルな規模での価格収斂を通じて、先進国での賃
金低下とディス・インフレをもたらした要因の一つといえるでしょう。これは、経済
のグローバル化を肯定的に支持するか否か、の立場に依らず事実として認識せざるを
得ないところです。

 たしかに足許では、景気対策や金融システム支援等の公的資金支出の拡大によって、
先進国における財政赤字や公的債務の増大が問題化しているため、上記の説明には違
和感があるかもしれません。しかし、財政赤字の拡大については短期的な税制出動の
影響といえますし、公的債務の増大については80年代以降の構造改革において租税
負担率を軽減してきたことも背景にあり、必ずしも公共部門の縮小という社会の方向
性が変わったわけではありません。

 従って、設問にもあるように、日本や米国をはじめ先進国の多くでデフレへの警戒
が指摘されている一方で、金融政策の枠組みを超えた「デフレ対策」、特に公共部門
の拡大につながる施策には反対意見も根強いのは当然です。デフレからの脱却の難し
さ、という観点からは、デフレ脱却のための対策にはどこまでのコンセンサスが成立
しているのか、という点も冷静に考えてみる必要があります。

 例えば、国民の間でも現在の不況に対処するための経済対策を待望する向きは多い
ようですが、純粋にデフレ解消のための対策を求める声が強いとは限りません。しか
し、これは国民の多くが経済的に無知であるから、と断定することはできないでしょ
う。実際、デフレの影響については、失業あるいは企業や金融機関の破綻に伴う損失
など、不利益は一部に集中して負担される側面を持つと同時に、購買力の拡大という
形で利益が薄くかつ幅広く享受される面があります。実は、年金生活者などの退職者
層や安定した雇用所得を享受する正社員など国民の多数派を占める既得権益者層はデ
フレによる受益者といえます。もちろん、彼らを直ちに「デフレの共犯者」とするこ
とはできませんが、彼らの利害を無視した政策的な選択が困難なことは事実です。

 藻谷浩介氏が『デフレの正体』で指摘されているように、日本経済の内需縮小傾向
の背景には、生産年齢人口の減少という大きな構造的要因があることも事実でしょう。
そうした現実を受け止めた上で、日本経済が長期的に活力を維持できるような処方が
必要なのであって、短期的な景気拡大が根本的な解決策ではないことや、マクロ政策
による「デフレ対策」が無効であるとの指摘は重要と思います。

 特に、現在のデフレが単なるディス・インフレの範疇を超えた異常な状況であると
して、現状でも既に超緩和状態にある金融政に対して更なる積極的な緩和策を求める
声は根強いものがあります。しかしながら、一段の金融緩和策によって流動性を供給
しても、そもそも資金需要のない所では、デフレ解消につながる物への需要の拡大に
は限界があります。そのため結局は、政府の信用を通じた需要創出が必要となります
が、これは政府の信用低下を通じて将来における所得再分配機能の低下につながるリ
スクがあります。現状の低金利環境を受けて、政府による信用拡大を求める声もまた
強いですが、実際にデフレが解消し、インフレに転じれば、政府による信用の拡大は
急速に困難となり、インフレ環境の下で経済格差が拡大する中で、公共部門が十分な
所得再分配機能を果たせないという状況も想定されます。

 従って、以上を勘案しますと、経済対策としての選択の余地が限られていることや、
純粋な「デフレ対策」に対しての政治的なコンセンサスが必ずしも成立していないこ
とも、デフレ脱却のむずかしさの要因と考えてもよいのではないでしょうか。

                外資系運用会社 企画・営業部門勤務:金井伸郎

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 ■ 津田栄   :経済評論家

 デフレは、物価が持続的に下落する経済現象をいいます。物価が下がるのは、喜ば
しいように見えますが、それは一時的なものであればそう言えましょう。しかし、継
続的に物価が下落するとなれば話は違ってきます。それは、物価の下落が続くことで、
お金の回りが悪くなって、経済を冷え込ませることになり、ひいては個人の所得の低
下、生活の悪化につながるからです。そして、それが玉突きのように物価下落と景気
低迷が循環的に起きて抜け出せなくなるからこそ、デフレ脱却が難しいと言われるの
です。

 すなわち、デフレは、モノの価格が下がれば売り上げが減り、そこで収益の落ちた
分企業が賃金を下げ、雇用をカットする動きを取ると、家計は所得減から消費を控え
ることになり、その結果モノが売れなくなり、それに対して売ろうとしてさらにモノ
の価格を下げるという悪循環に陥り、景気悪化を伴うことになるからです。そして、
一旦デフレに陥ると、物価下落で実質金利が高止まりするため債務負担が高まり、債
務者はその返済を優先する一方、設備投資を縮小し、リスクのある株式投資などを避
けて現金で保有することを選好しますから、資金の循環が滞り、それがボディーブロ
ーのように経済の活力を奪い、国力を落とし、そこから回復することを難しくします。
それは、過去の歴史で見られるように、デフレが国の没落につながり、再び成長する
には相当の時間を要することになります。

 ところで、デフレは、物価が下がり続けることですが、その物価の下落のきっかけ
は、多くはバブルの崩壊によりそれまでの過剰な需要が急激に縮小して、需要が供給
を大きく下回ることから始まります。もちろん、技術革新などによって生産性が向上
することで価格が下落することもあり、その場合は需要が減退していないので、あま
り問題になりません。しかし、バブル崩壊による急激な需要不足から生まれる物価下
落は、経済の低迷を誘い、それが一段と需要を減退させて、物価をさらに下落させる
という形で、循環的な物価下落と経済低迷の同時進行という悪いデフレを起こすこと
になります。

 このデフレからの脱却がどうして難しいかですが、一旦デフレに陥ると、バブルに
よる過剰な需要に合わせて供給も過剰になっているなかで、バブル崩壊とともに需要
が急減した結果、過剰な供給が残るために、その供給の適正化に時間がかかり、設備
廃棄や従業員のリストラという痛みが伴う一方で、その間過剰な債務の負担に苦しみ、
消費・投資の減退を招いて、需要の低迷が続くことになるからです。同時に、バブル
期に上昇した株式や不動産などの資産価格も大きく崩れ、それが回復するまでは、消
費が抑制されることになります。そして、そうした需要不足・供給過剰問題や資産価
格問題を解消させようとすること、すなわちバランスシート調整に長期間かかるから
です。

 つまり、バブル期において膨張した需要に応える形で企業は設備投資を行い、また
個人も含めて土地・家や株式などの資産を取得し、その価格上昇で膨らむ資産を背景
に、借り入れなどの債務を膨らませて両建てとなっているバランスシートが、バブル
崩壊で資産価値が急落する一方債務である負債がそのまま残るために急速に悪化する
ので、リスク負担を避け投資活動を控える一方過剰な債務の縮小・整理の動きを取っ
て、バランスシートを調整しようとしますが、経済の低迷でそれが容易ではないとい
うことです。こうして需要の減退から経済・物価の低迷が長期にわたって続き、循環
することになり、その間資金の巡りが悪くなり、経済は活力を失い、回復に相当の時
間と犠牲を払うことになるため、デフレからの脱却がより難しくなるといえましょう。

 また、デフレは、政府が財政出動により需要喚起を図ったり、中央銀行が金融緩和
政策を採用しても、これまで思うような結果になりません。もちろんしないよりした
ほうがいいのですが、景気刺激策として公共投資を行っても、特定の需要を喚起する
だけで経済全体の需要回復につながらず、金融緩和しても実質金利が高いために凍り
ついた資金循環を容易に溶かすことはできず、供給された資金も融資が不良債権化す
るリスクを恐れるために金融機関内に滞留して国債投資などで運用されるだけとなり、
財政出動や金融緩和という政策の効果は一時的となってしまいます。その間にも、国
の債務が増加し、身動きが取りづらくなっていきます。つまり、デフレ脱却の手段が
容易に見つからないことも難しくしているといえましょう。

 もう一つ、デフレの問題では、多くが、その背後に、国内外の経済構造問題、金融
における信用問題があることです。そして、その解決でも時間がかかることが、デフ
レ脱却を難しくしているといえます。まず国内外の経済構想問題ですが、デフレがバ
ブル崩壊に起因しているとした場合、バブル形成期では、需要の拡大とともに、それ
を満たそうとして国内だけでなくコストの安い国外の供給能力の増大が進められ、そ
れが海外の経済を刺激する一方、バブル崩壊とともにデフレが発生すると簡単には経
済の回復ができないなかで、海外では刺激された経済が発展し、国内外にあった経済
力格差が縮小し、逆転するという国際的な経済構造の大変化が起きます。そして、国
内の経済構造は、そうした世界的な経済構造の変化に対応しきれず、デフレの長期化
という問題を抱えることになります。こうした内外の経済の平準化が進行している間、
世界経済構造の変化に合わせて国内の経済構造を改革しない限り、デフレは容易に解
消しないことになります。

 一方、バブル崩壊によりデフレが発生すると、企業にとって売り上げや収益が減少
する一方実質金利の上昇により債務負担が増加することになって、その返済が難しく
なり、金融機関にとっては不良債権になります。そして、デフレが進行すると、企業
破綻や個人破産の増加により、不良債権が増えることになり、金融機関にとって資本
不足懸念などの信用問題が起きることになります。また金融機関は貸しはがしや貸し
渋りでこの難局を切り抜けようとしますから、企業にとって資金繰りが難しくなって、
経営の縮小・廃業あるいは倒産になる一方、個人にとっても多くが所得の減少、失業
という状況に陥ることになり、需要が減少し経済はより冷え込むことになります。そ
うした状況を打開するために、金融における信用不安を解消し、回復させるには国民
の税金である公的資金を注入したり、不良債権を解消するうえで倒産や失業などの相
当の犠牲と苦痛を強いる一方、そこまで至るのに相当の時間がかかることになります
ので、デフレ脱却は相当難しい問題になります。

 今回、デフレは日米欧の先進国で問題になっています。日本は、90年の土地・株
の資産バブル崩壊からディスインフレ、そしてデフレに突入し、一旦はゼロ近辺の物
価上昇率になって脱却できるかのように見えましたが、08年の世界的な金融・経済
危機で再び表面化し、今でも緩やかな物価下落が続いています。もちろん、デフレ脱
却のための政策が採られてきましたが、その政策の緩慢なスピード感、不十分な内容、
効果不完全のなかでの中止というちぐはぐな対応など問題が多く、その結果国の債務
が膨らみ身動きが難しくなるなかでデフレが定着してしまったともいえます。

 その意味で、日本は90年代後半からデフレが続き、欧米に先んじてデフレを経験
し、未だ脱却できていないといえましょう。一方の欧米は、08年のサブプライム問
題により住宅・金融バブルが崩壊して金融・経済危機を招き、一気に需要が急減し、
景気対策や金融緩和政策を採ってもその効果が不十分で景気の回復力が鈍く、財政赤
字は膨らむ一方で、物価が低迷する状況が続いていることから、日本と同じようなデ
フレに入り、容易に脱却できない状態になる、つまり日本化するのではないかと警戒
しています。

 すなわち、日米欧の先進国のデフレ問題は、これまで述べてきたように、多くの点
で似ています。こうしたことの背景には、市場経済のグローバル化とIT技術の発展
があり、それらがこれまで築かれてきた世界経済の歪みを解消する形で、旧東側諸国
や途上国を生産から消費へと市場を拡大させて経済を活性化させる一方、既に発展し
てきた日米欧の先進国の膨らんだバブル的な経済を崩壊させて、需要急減とともに市
場価格の世界的な平準化により、物価の下落と経済の低迷に追い込んでいるといえま
す。

 ただ、日本と欧米の経済構造の違いもあって、デフレ脱却の様相も異なると思いま
す。日本は、依然として非効率な経済構造を抱えているなかで、少子高齢化と人口減
少に直面しており、ここに需要の持続的な減少があるためにデフレを一段と長期化す
る恐れがあります。しかも、非効率な経済構造が一向に改善されない上に、財政赤字
はもはやGDPの2倍近くまで膨らみ、名目長期金利は1%を割って、景気対策、金
融政策などの打つ手が限られてきています。その点で日本のデフレ脱却は、ますます
困難を極めています。

 一方の欧米は、経済における効率性追求は続けられている一方、少子高齢化は日本
ほどひどくありませんし、人口は増加しています。また財政赤字は膨らんでいると
いっても、多くの主要国はGDP比1倍以内にあって、名目長期金利もまだ下げ余地
があるため、デフレに陥らないかもしれませんし、もしデフレになってもその脱却の
ために大胆な政策をしようと思えば、まだまだ余裕があるといえましょう。そういっ
た点で、デフレ脱却が難しいと言っても、日本と比べて欧米の場合はもう少し可能性
がありますし、期間は短いかもしれません。

                             経済評論家:津田栄

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 ■ 土居丈朗  :慶應義塾大学経済学部教授

 皮肉っぽい回答をすれば、中央銀行が自ら流通させている通貨の価値を自らの手で
落としたくないから、と言えるかもしれません。

 デフレは「止められない」のではなく、「優等生的に止めるのが難しい」というこ
とをもっと周知させる必要があると思います。そうでないと、いつまでも、「デフレ
は必ず止められる」という強い主張と、「中央銀行は通貨供給量を直接制御できない
から、物価水準を直接制御できない」という極端な主張とが、平行線のまま相容れな
いものとなり、他方の意見を聞き入れないような形で政策方針の決定がなされかねま
せん。

 デフレはしかるべき手段を講じればいつかは止められますが、デフレを止めようと
して、誤った手段を用いると(一時的にでも)ハイパーインフレや悪性インフレに
陥ってしまう恐れがあるので、慎重に手段を選択しなければならない、というのが穏
当な理解だと考えます。別の言い方をすれば、現在のマイナス1〜2%の物価上昇率
の状態から、(一度もプラス4%以上の物価上昇率にしないようにして)プラス2〜
3%の物価上昇率の状態に、1〜2年間で緩やかソフトランディングさせるような金
融政策は、相当高度な「政策手腕」がなければ実現が難しいでしょう。それは、単に
通貨供給量の制御だけではなく、人々の期待インフレ率もそうしたソフトランディン
グ(=前述の「優等生的に止める」)を予想させるように働きかけなければ実現でき
ないわけです。

 しかし、デフレを「優等生的に止める」のが難しいからといって、デフレをあらゆ
る手段を講じても絶対に止められない、と断じるのは誤りです。デフレは、一般物価
水準の持続的な下落のことですが、その裏表の現象として、通貨価値の持続的な上昇
が起きています。通貨価値の持続的な上昇を止めることこそ、デフレを止めることに
なります。ならば、通貨価値を下落させる手段を講じれば、デフレは止められます。
人の世でもそうであるように、自らの価値を高めることは、一朝一夕ではできません
が、自らの価値を落とすことは一瞬のうちにでも起こりえます。一瞬のうちに自らの
価値を落とすことは、人間の所作ならばさほど難しいことではありません(ただ、平
常なら本能的にそうしたくないと自制するのも人間ですが)。

 そこで、思考実験(もちろん、私がそうすべきだと言いたいわけではなく)ですが、
人の価値と同じように、通貨価値も、一瞬のうちに落とすことは、その覚悟とそれと
整合的な手段を用いさえすればさほど難しいことはありません。自らの価値を落とす
ことが世のためになるとなれば、価値を落とす所作の方が(価値を高めることに比べ
て)簡単ですから、通貨価値に関しても、通貨価値を落とす政策手段を講じれば良い
でしょう。デフレ論争が経済学界(マスメディアでなく)で華やかかりし頃、コン
ファレンス終了後の懇親会の場で、あるアメリカの経済学者が私に「日本でデフレを
止められないというなら、日銀総裁にアルゼンチン人でも起用したらどうか」(※ア
ルゼンチンは1980年代にハイパーインフレを経験)と半ばジョークを言ったほど
です。日本円に人々が思うほどの価値はない、という政策スタンスとそれと整合的な
手段を用いれば、一瞬のうちにデフレは止まるでしょう(敢えて付言すると、私はそ
うした手段を講じるべきと言いたいわけではなく、もしそうすればこうなる、と思考
実験的に論述したまでです)

 ただし、デフレを「優等生的に止める」ことにはなりません。デフレが止まったと
思った次の瞬間に高率のインフレが起きているでしょう。デフレも経済現象として問
題の多い現象ですが、悪性インフレも問題の多い現象です。悪性インフレになること
が事前にわかっていて、それでもデフレを止めるために極端な政策をとる方が良いと
言うには、デフレ下での経済厚生(社会的厚生)と悪性インフレになった時の経済厚
生を比較考量するといった吟味が必要です。とはいえ、1つだけ歴史的事実を付け加
えれば、世界の中央銀行は、デフレを止めた経験よりもインフレを止めた経験の方が
豊富で、インフレを止める手段の方が実効性のある手段を多く知っています。

 デフレに陥った後に残された政策方針は、伝統的な政策手段が効果を失うなら、困
難は多いがデフレを「優等生的に止める」、つまりマイナス1〜2%の物価上昇率の
状態から、(一度もプラス4%以上の物価上昇率にしないようにして)プラス2〜3
%の物価上昇率の状態に、1〜2年間でソフトランディングする政策に挑戦するか、
一時的に高率のインフレになることを甘受してでもデフレの状態を直ちに止める政策
を講じた後に、高率のインフレを収束させる政策を講じるかの、(極言すれば)どち
らか究極の選択を迫られているのだと思います。前者はできれば理想的だが実現が難
しい、後者はできれば避けたい状態が一時的に生じるが実行は相対的に容易、という
ことで、どちらかが自明に望ましいと言えないところが、悩ましい選択であり、政策
選択において主張の対立が生じるところでしょう(中央銀行が自ら流通させている通
貨の価値を自らの手で落としたくないという潜在的意識が強いなら、前者を選ぶで
しょうが)。

                     慶應義塾大学経済学部教授:土居丈朗
                 ( http://web.econ.keio.ac.jp/staff/tdoi/ )

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04. 2010年10月04日 22:59:14: PPAJr6WqwQ
>>01さんへ

スタグフレーション=不況下のインフレ
は警戒しなければならない。

それはマネーの増加分が、投機市場に向かうからだ。

商品先物市場などに向かえば、価格が上がる。

銅が値上がりしたとか小麦が値上がりしたとか、言われている。

しかし、所詮バブルであり必ずはじける。

だがその間不況下の物価高は起こるわけであり、実体経済が影響を受けないわけではない。

量的緩和策などが間違った政策なのがそれでもわかる。
消費税の引き下げ等実際の消費者の購買力をつけることが大切である。


05. 2010年10月05日 14:59:55: xBDiuVvtlY
>デフレの先にあるのがハイパーインフレなんじゃ
正解。デフレ→スタグ→ハイパーインフレって悪いシナリオ
インフレは悪くてデフレは良いんだよなんて一昔前に言ってた頭のおかしい人たちも結局同じ向きの破綻願望者だってこった
とにかく今は縮小状態からマイルドインフレにもっていかなくてはいけない
一般的に言う「景気が良い」状態のことね
金融面では政策金利では下限があるから「量的緩和」それも大規模なもので実質金利を下げさせなければいけない。需要が無いとか投資余地が無いとかのレベルじゃなくこんなに金利高けりゃどこも借りたがらないしね。緩和は政治側も市場側も要請していること。ただ当の日銀が御追従のマスコミや学者が大反対キャンペーンするだろうけどね。それこそ消費税の比じゃない(これは今の日本経済に対して誰が、どこが正しいこともしくは間違ったこと言ってるのか見極める視点になると思います)
財政面では消費税減税というのもアリだと思うが政治的な難しさを考えると乗数減ってきてても公共投資の方がいいと思うけどね。それか負の所得税とか

06. 2010年10月05日 16:55:46: bFFv0TxGZw
阿修羅さんへ
デフレ脱却を過去にやった首相がいる。
「高橋是清」
今までの首相は「井上準之助」と同じことしかやっていない。

歴代首相の面々、恥ずかしいでしょ。
それとも恥ずかしくないほど無知で馬鹿なの?


07. 2010年10月05日 18:24:19: PPAJr6WqwQ
井上準之助と同じことをしておいて自分を高橋是清と思っている元財務大臣がいた。

見ていて恥ずかしい限りですね。

藤井さん。


08. 2010年10月05日 19:22:33: sHPxwwSZ46
ああ、あの耄碌爺w
井上的な思想で日本はもっとデフレの苦しみで産業を淘汰しなければ
そうすれば次の時代の産業が生まれてくるなんて言ってる馬鹿もいたなw
「良いデフレ」だっけw
実際はこの10年で産業も人心も破壊されただけだったw
創造的破壊どころかただ破壊しただけ
もう平成政府日銀官製デフレとして経済学の教科書に後2,3世紀語り継がれるレベルだねw

09. 2010年10月05日 23:13:56: q53vPqpj2Q
日本経済は思うに、鬱病でしょ。
希望が持てない状況に追い込まれているから鬱病になる。
鬱病だから希望が持てない。
欝で希望が持てないから状況を変える行動力がない。
悪循環。

鬱病を治すには、薬を飲むも好し、環境を変えるも好し。
つまりあらゆる景気活性化策をやるのもいいが、
国民が希望を持つような何か心に効く薬のようなものが必要だ。
国民に出来ることからすることも行動療法として大切。

そしてこれらを同時に行うことが大切。
やり過ぎないことも。


10. 2010年10月06日 17:13:00: KnAJ48bhn6
今時、ネットショップでも中国からダイレクト個人輸入でも

できる時代だというのに、ハイパーインフレで脅す意図は何?


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