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金利上昇続けば世界経済も重大な岐路に 
http://www.asyura2.com/10/hasan70/msg/391.html
投稿者 tea 日時 2010 年 12 月 17 日 00:04:38: 1W1IXELjjF6i2
 

バーナンキのQE2が当初の目的である金利低下を果たせないことに多くの批判が集まっている。

QE後の金利上昇は、FXの世界では昔から知られている経験則だが
その原因が投機要因なのか、国債償還リスクによるものなのかは明確ではない。

バーナンキが、それを知らなかったとも思えないので、確信犯なのかもしれないが
そうだとしたら、益々、その意図が不明となる。

彼の論理に従えば、さらなるサプライズ緩和の連続になる可能性もあり、その時は、本当に、世界の商品バブルが爆発し、途上国から治安崩壊の連鎖が発生する可能性は高い。

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2010年12月15日 12:49 pm JST
 
 
タグ: コラム, 金融市場, 金融政策, FOMC, FRB, QE, バーナンキ, 量的緩和

ロイターコラムニスト 田巻 一彦

*投稿における見解又は意見は当該コラムニスト自身の見解や分析であって、ロイターの見解、分析ではありません。

14日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、米長期金利の上昇をけん制する文言が声明文に盛り込まれることはなかった。バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長は、市場へのメッセージを発信することで長期金利の低下を促す対応をする可能性があるが、それでも米長期金利の上昇が継続するようなら、来年の早い段階で米国債買い入れ増などの対応を検討すると予想する。しかし、マーケットが買い入れ増に対して長期金利上昇という反応を示す可能性も残されている。もし、そうなればバーナンキ議長が主導してきた量的緩和第2弾(QE2)は有効な対応策を見い出せないまま、重大な岐路に直面することになる。米長期金利の上昇につれ、1.3%台が視野に入ってきた日本の長期金利動向を予想する上でも、バーナンキ議長の今後の対応は一段と注目されることになるだろう。

<FOMC声明文で長期金利上昇けん制せず>

FOMC声明文では「景気回復が継続していることを示している」とし、前回の「生産および雇用の回復ペースは依然として遅いことを示している」から景気判断を強めた。しかし、6000億ドルの国債買い入れ額は維持され、買い入れペースや全体的な規模は必要に応じて調整するとの表現も変更されなかった。14日の米債市場では、景気判断が強まったものの緩和方法に変更がなかったことで、将来のインフレ懸念が強まったとの見方が出たという。その一方で最近の米長期金利の上昇をけん制する何らかのメッセージが声明文に入ると期待していた向きの失望感も広がり、米長期金利は3.47%に上昇にして取引を終え、15日の東京市場の取引時間帯に7カ月ぶりとなる3.5%台に一時上昇した。

米長期金利の上昇要因を整理すれば、年末商戦の好調さに示される足元での米景気の堅調さと巨額の米国債買い入れによるインフレ懸念、さらにブッシュ減税の継続でにわかに台頭してきた財政赤字への懸念の3点が挙げられるだろう。さらに米長期金利上昇に対するバーナンキ議長のけん制を期待していた向きが、失望して米国債を売った分も加わっただろう。上記の要因が短期的に弱まる気配がないなか、米長期金利はさらに上昇する可能性が高い。ある市場関係者によると、米金利の3カ月物と10年債のイールドスプレッドは過去に最大で390bpまで拡大している。その最大値まで拡大したとすると、米長期金利は3.9%まで上がる可能性があるという。

<バーナンキ議長は長期金利上昇を容認しない>

そこまでの一本調子の米長期金利上昇をバーナンキ議長が容認するだろうか。長期金利を低下させ、その経路で景気拡大を図るというQE2の本来の目的について、バーナンキ議長やFRB高官が講演やその他の手段を使って市場に説明するだろうと私は予想する。長期金利の上昇は、住宅ローン金利の上昇を伴って住宅ローン債務者の財務状況を悪化させる。家計のストック調整はより長期化する方向に動き、債務者の財務状況悪化は銀行の不良債権増加につながり、よくなる兆しを見せ始めている実体経済に冷水を浴びせるだろう。こうした事態を回避するためにマーケットへの情報発信を増やすとともに、長期金利上昇が続くようなら、これを抑え込むために国債買い入れ増や買い入れを止めたモーゲージ担保証券(MBS)などの買い入れ再開などの検討を開始するとみている。

この予測には反論もあるだろう。中国などの新興国だけでなく、米国内からも共和党がQE2の政策方針に反対の意向を明確にし、さらにFRB内部に将来のインフレリスクとの関連でバーナンキ議長の方針に反対のメンバーがいる。2011年にはFOMCの投票権を持つメンバーの中に反対票を投じる可能性の高い地区連銀議長が加わる。したがって今の状況では、現在の政策を維持するのが精いっぱいではないかとの意見もあるかもしれない。しかし、どこかの国の政治家のように、反対があればたじろいで決断を先送りすることはないと私はみる。失業率が9%台で高止まりし、物価上昇率が低下する基調を維持するなら、何らかの新たな対応を模索すると思う。

<劇薬・米国債買い入れ増でさらに金利上昇するリスク>

ここで問題なのが、米国債買い入れを増やす決断をした場合に、米長期金利の上昇テンポを加速させないかという点だ。金利が上がりやすい市場心理に傾かないよう、FRBは事前のマーケットとの対話に力を注ぐだろうが、その努力が無に帰すリスクは残る。米国債買い入れ増によって米長期金利の上昇基調がより鮮明になった場合にバーナンキ議長が切るカードが残されているのかどうか。QE2路線の根本的な見直しを迫られる可能性もあると考える。その意味で、これから展開されるとみられるFRBによる「市場との対話」セッションは、その成否が米市場だけでなく、世界全体の市場動向を左右することになりそうだ。

円債市場にとって、米長期金利の動向が最も重要な要素に踊り出てきた。このまま米長期金利が上昇を継続した場合、1.3%目前まで上がってきた日本の長期金利はさらに上がることになるだろう。15日発表された12月日銀短観では、大企業製造業の業況判断DIが7期ぶりに悪化し、先行きの3月予測はマイナスに落ち込んだが、こうした実体経済面での調整色があっても、短期的に長期金利を押し下げる力は弱そうだ。直近の円債価格下落で、国内銀行勢などの市場心理が悪化し、国債買いの主体がパワーダウンしていることも大きく影響している。米債市場との連動性が高まるなら、FRBの動向に注目せざるを得ない。バーナンキ議長はじめFRB高官の発言を日銀総裁やその他の幹部発言並みにフォローする東京市場の参加者が、急速に増えることになると予想する。
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3件のコメント
2010年12月16日
11:29 am JST

 現時点の米国債の長期金利の上昇は、市場に資金需要が出始めたことによるものと考えます。また、日本の金利上昇は、彼らのリスク許容度が高まり、日本を投資先の一つとして一時的に方向を変えたからです。バーナンキ氏がこのままQE2を続行することは疑いの余地がありません。
 今、共和党との妥協の産物の減税法案が成立しようとしていますから、市場はQE2+減税=6,000+8,600億ドルを考えてきた訳です。従って、バーナンキ氏が現段階で一層の金融緩和策を唱えるということはないでしょう。
 今後、米国政府は中期債か長期債の発行増を行うでしょうから、FRBはこれを吸収していく必要があります。これを市場は想定し出したのでしょう。でも、バーナンキ氏はQE2の初期の目的は貫くと思います。
 さて、日本の金利上昇ですが、いい金利上昇でしょうか?それとも悪い金利上昇でしようか?私達にとってはこれこそ大事なことだと思います。もしや、来年度予算関連法案が通らないなどということになってしまったら?!?!?・・・。
- 投稿者 静香に 語る
2010年12月15日
9:31 pm JST

債券安・金利上昇は、昨今の景気回復や株高が背景にあると観るべきであり、「市場からの警告」という見方は、ちょっと飛躍していると考える。三ヶ月か半年も経てば、今の金利上昇を冷静に分析できるようになるだろう。

こういう議論になると、ハイパーインフレという言葉を使いたがる人が必ずいる。そういう人々がどういう論理を展開するのか見物だ。
- 投稿者 Le Roi
2010年12月15日
4:48 pm JST

 振返れば米国債の金利が下がりだしたのはドバイショックが引き金であったようです。ギリシャ問題は国債買いを加速させましたが、アイルランド問題は反転、逆風をもたらし始めたようです。QE2による国債買い取りの影響も相まっているのでしょうか。
 考えてみれば当然のことで、6000億ドルの国債買いとりはドルを刷ってばら撒いているのと同じことですからね。ゼロ金利と「この金」は企業の投資をどれだけサポートしているのやら、そうではなくて、銀行をサポートするもののような気がします。もしそうなら、何ゆえにそれほど銀行をサポートする必要があるのか、隠された何かがあるのでしょうか。
 日本の失敗と同じ轍は踏まないという大義名分のようですが。
 ドバイショック以前のFRBは国債金利(当時は3.5%程度でしたでしょうか)の抑制に非常に神経を使っていました。大きな入札がある度に、前週あたりから、恣意的と思われる情報操作?による統計数値の提示をし、毎回、保守化を促し、入札を凌いできた印象を私はもっています。
 しかし、これからはマイナスの指数が提示されても保守的なマネーでさえ、国債買いには動かなくなるのではないでしょうか。
 ようやく国債の危険性が認識され始めたようです。ポルトガル、スペインの問題が現実化すると、ますます、米国債の金利は上がるのではないでしょうか。
 日本国債の金利が米国債のそれに連動し始めてどのくらいになるでしょうか、それが気がかりです。かつては、異次元の国債のように単独で安い金利を維持してき得たのですが。先物市場の攻撃が怖いですね。
 来年は国債の激動の年になるのではないでしょうか。

 来年は
- 投稿者 山のアナちゃん  

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コメント
 
01. 2010年12月18日 03:26:17: cqRnZH2CUM
米国と日本は、どちらもGDPギャップに苦しんでいるが
現在は縮小傾向にある
それが順調に続くのかどうかは、世界経済(とりわけ新興国景気)、国内外の金融財政政策、ミクロの企業や個人努力にかかっている


 business.nikkeibp.co.jp/article/money/20101207/217438/ 
「再びのデフレ」の背景にあるGDPギャップの拡大とは
金融政策についてその目的と手段を知る〈1〉

* 2010年12月17日 金曜日
* 村田 啓子

デフレ  GDPギャップ  CPI  企業物価指数  物価  インフレ  期待インフレ率  金融政策  消費者物価指数 

 今回からは金融政策についてお話します。日本の政策金利は現在、実質的にゼロ金利となっており、欧米でも政策金利は極めて低い水準となっています。今回はまず、金融政策と関係の深い物価について考えていきましょう。

デフレーションの定義

 日本は現在緩やかなデフレ状況にあります。はじめにデフレとインフレの定義を正確に理解しましょう。物価というのは財・サービスの価格を総合的に捉えたものです。デフレーションは一般物価水準が持続的に下落することです。物価がどんどんと、あるいはじわじわと下がっていく状態です。

 これに対し、インフレーションは一般物価水準が持続的に上昇する状態です。食品、家賃、テレビ、パソコンなどいろいろな財、様々なサービスの代金を総合した一般物価水準が持続的に上昇する状態をインフレーションと言います。

 インフレは貨幣価値が下落していくことでもあります。今日100円で買えたものが、明日には100円で買えなくなってしまうというのは、100円というお金の価値が下落するということです。一方で、物価が下落し、貨幣価値が上昇するのがデフレーションです。  

 デフレは景気が低迷している状態で起こることが多いので、メディアではデフレを景気後退という意味も含めて使っている場合もありますが、正確にはこれは正しくありません。デフレーションはあくまでも物価の話です。景気が良くても悪くても物価が持続的に下がっていればデフレです。

2度の石油危機を経て物価は安定へ

 次に、戦後の物価の動きをみてみましょう。グラフ1は日本の戦後の物価水準の動向を示したものです。消費者物価が消費者の購入する財・サービスの価格を総合したものであるのに対し、国内企業物価は企業が企業間で取引を行う時の価格を総合したものです。消費者物価は総務省、企業物価は日本銀行がそれぞれ作成・公表しています。内閣府が作成しているGDPデフレータという指標もありますが、一般にはこの2つが物価の代表的な指標といっていいでしょう。

 金融政策との関連では、消費者物価がより重要です。グラフ1を見ると、1973年から74年にかけてCPIが跳ね上がっています。この背景には、72年に通貨が切り上げられた後、為替レート(1ドル=308円)を維持するという立場から、黒字縮小のために景気刺激策を採用し、金融政策を緩和したことがあります。これが日本列島改造論とも相まって物価高騰を招きました。

 金融政策は73年には引締め政策に転換されたのですが、その効果が十分でないうちに石油危機が起こり原油価格が高騰、人々のインフレ期待が刺激され「買いだめ」が発生するなど、「狂乱物価」と呼ばれるような状態を招くに至りました。

 次に物価高騰がみられるのは1979年から80年にかけてですが、これはイラン革命により起こった第2次石油危機によるものです。日本は第1次石油危機の苦い経験の反省から、外的ショックによる物価上昇が内生的なインフレに転換することを回避するために、金融政策運営においても迅速かつ着実な引き締めが行われ、インフレ期待の過度な上昇を招くことなく物価を鎮静化することができたと指摘されています。

 その後の日本は円高及び世界的な原材料価格の下落、政策当局に対する信頼及び80年代半ば以降は円高もあり、物価は安定しました。

バブル崩壊後…物価安定からデフレへ

 バブル崩壊後、のちに「失われた10年」といわれるほどの低成長が続くなか、90年代半ば頃にはCPI上昇率はゼロ近傍にまで低下していきます。若干の改善がみられた時期もあったのですが、現実のGDPと潜在GDPの乖離を示すGDPギャップ(需給ギャップ)は、1997年後半以降マイナス成長が続いたことから再び拡大しました。

 こうした需給の緩みは、原油価格と海外市場の低迷を反映した輸入価格の下落、規制緩和などと相まって、物価に下落圧力をもたらしました。1997年に上昇が見られますが、これは消費税率引上げ(3%→5%)の影響による一時的なものです。

 98年頃から消費者物価の低下がみられるようになり、景気後退も相まって「日本はデフレではないか」「日本がデフレスパイラルに陥る危険はないのか」といった議論が過熱しました。経済白書が「過剰雇用」「過剰設備」「過剰債務」の「3つの過剰」を日本経済の抱える問題点として指摘したのもこの頃です。幸い日本がデフレスパイラルに陥ることは避けられましたが、2000年に入り景気にやや改善が見られるようになっても、消費者物価は緩やかに下落するという状況が続きました。

 当時の議論ではデフレと景気後退を混同した議論も多くありましたが、2001年3月に「持続的物価下落をデフレと定義すると、現在、日本経済は緩やかなデフレにある」と、月例経済報告等関係閣僚会議で政府として初めてデフレが定義し報告されました。これは、当時日本では消費者物価(CPI=Consumer Price Index)が既に約2年にわたって下落していたことなども踏まえた判断です。

 その後、景気が回復する過程で、CPIも上昇に転じ、2006年5月にデフレという状況ではなくなりましたが、2008年秋にリーマンショックが起き、世界経済が急速に冷え込み物価も再び徐々に下落するようになります。

 月例経済報告による物価の判断をみると、2009年6月に消費者物価は緩やかに下落を始めたとし、同年11月に再び「消費者物価は、緩やかな下落が続いている。(中略)こうした動向を総合してみると、持続的な物価下落という意味において、緩やかなデフレ状況にある」としています。
 この日(2009年11月20日)行われた経済財政政策担当大臣記者会見をみると、当時副総理でもあった菅大臣は、緩やかなデフレと判断した根拠として、(1)消費者物価が6カ月連続で前月比マイナスとなったこと、(2)名目GDP上昇率が実質GDP上昇率を下回る状況が2四半期連続で生じたことに加え、(3)需給ギャップの大幅なマイナスが続いていると見込まれること、の3点を挙げて説明しています。

物価情勢を考える上で重要なGDPギャップ

 需給ギャップ(GDPギャップ)についてもう少し詳しくみてみましょう。GDPギャップは以下の式で表されます。

 GDPギャップ(%)=(GDP−潜在GDP)/潜在GDP×100

 GDPは日本国内で生産したものの付加価値であり、需要と等しくなります。潜在GDPは、現存する生産要素、すなわち資本ストック及び労働力をすべて活用した時に達成されるGDPです。潜在GDPを実際に計算する時には、資本ストックや労働力(これは労働時間なども考慮します)を過去の水準からみて平均的に活用した場合の水準を用います。

 グラフ2を見ると、GDPギャップはバブル崩壊後マイナスが続いています。

 リーマンショック後、GDPギャップはマイナス8%程度まで落ち込み、今もまだマイナスが続いています。これがゼロまで近付いてくれば、需給が見合うところまできたということで、今度は物価の押し上げ要因になっていきます。

 なお、先進国を見ても、GDPギャップとCPIは連動しています。そもそも財・サービスの価格は市場の需要と供給から決まることを考えれば、これはむしろ当然のことともいえます。

 先進国のGDPギャップを計算しCPIの動きと比較してみると、GDPギャップがゼロを切る、つまりマイナスからプラスに転ずる頃に各国の金融政策運営変更が行われることも良くみられています。GDPギャップは政策当局にとって重要で、一国経済の需給の状況を見る上で重要な指標の1つになっています。

 また、グラフ2に示された、CPIの「生鮮食品を除く総合」は「CPIコア」とも呼ばれています。生鮮食品を除く理由は、CPI総合指数の場合、例えば、今年のような猛暑といった天候不順により野菜や果物などが値上がりしてCPIを押し上げるという、一時的な要因による変動が強く反映されることがあるためです。CPI総合のみならずCPIコアもみることにより、このような生鮮食品に起因する一時的要因による変動を見分けることが容易になります。

 2005年頃から08年頃にかけては原油価格が高騰しました。日本の原油依存度は低下してはいますが、原油価格が高騰が続けば物価に影響を及ぼします。総務省からは「CPI(食料[除酒類]・エネルギー除く総合)」という指標も公表されています。2008年はCPIコアには上昇がみられますが、エネルギーを除いた指数では下落率が縮小した程度で、08年の上昇は原油価格高騰の影響が大きかったことが分かります。

 また、内閣府ではCPI、CPIコアに加え、制度変更などによる変動も考慮した「CPIコアコア」という指標も作成し景気判断に役立てていいます。

 既にみたように、CPIとGDPギャップは連動しており、需給の状態が良くなればやがてデフレも解消することが期待できます。日本は技術力、教育水準及びこれまで蓄積した資本ストックにより供給能力は高くなっています。一方、需要面では輸出市場では競争が激しく、国内需要も消費、設備投資など、供給力の強さに比べて需要が追いついていません。ここに構造的な問題があるのです。

 需要が供給力にようやく追いつくところまで来た頃に世界金融危機が起こって再び需要が落ち込んでしまったため、需要を後押ししようと、政府も様々な政策措置をとり、日本銀行も金融政策運営で努力をしていますが、デフレの状況は続いています。

世界の物価安定とその背景

 次に世界の状況を見てみましょう。90年代以降の世界経済にみられる特徴の一つとして、物価安定が挙げられます。G7諸国のCPI上昇率を見ると、2回の石油危機を経て物価上昇率はほぼ2%〜3%程度で安定するようになります(グラフ3)。

 このような世界的な物価安定の主な理由は3つあります。1つは原油依存度の低下などから、原油価格変動が国内物価にもたらす影響が低下していることです。先進国のデータを使って検証してみると、日本だけでなく、主要先進国における原油依存度が技術の向上もあって低下し、原油価格変動により輸入価格は変動しても消費者物価に与える影響は小さくなっています。

 2つ目は、経済構造や企業の価格設定行動が変化していることです。これはグローバル化の進展、規制緩和によって、コスト上昇圧力があっても、企業が価格に転嫁しにくくなっているということです。

 3つ目は、マクロ経済政策運営の変化と、それによる期待インフレ率の低下です。70年代に物価高騰に見舞われた先進国は、それを教訓として、80年代以降マクロ政策運営においても物価安定を重要な政策課題とするようになり、期待インフレ率も低下していきました。

 このマクロ経済政策運営の変化は2つあります。

財政金融政策運営の変化が世界的な物価安定に貢献

 まず、先進国だけでなく途上国でも財政バランスを意識した、より緊縮的な財政政策がとられるようになったことです。これは世界的な潮流です。国の財政は放っておくと赤字化しやすいという特徴があります。しかし、過去の経験を踏まえ、先進国、途上国ともに財政バランスを意識した緊縮的な財政運営が取られるようになりました。

 もう1つは金融政策運営の改善です。70年代はじめにはドルと金の交換停止(ブレトン=ウッズ体制の崩壊)により、新たな変動為替レート制の下で、各国が拡張的な金融政策運営を行いました。しかし各国の中央銀行は、その後の世界的なインフレーションの経験を踏まえ、80年代に入ると金利水準の変更という政策手段により、為替レートを中間目標、物価安定を最終目標とする金融政策を採用するようになりました。

 また、最近では将来のインフレ期待を重視した先見的(forward looking)な金融政策運営が行われるようになり、期待インフレ率の抑制、安定化に寄与しています。1年先、2〜3年先を考えた金融政策運営をするようになったのです。

 次回は、日銀の金利政策の目標と手段について解説します。

(次回につづく)
このコラムについて
日本経済のゆくえ

経済学という“道具”で世の中を見ると、それまでとは違った視点で物事を考えられるようになるといいます。どうやら、経済学は役に立つ学問のようですが、これまで敬遠していた人、あるいは、ゼニカネのことばかりで物事を考えるのはいかがなものか、とお考えの方も多いのではないでしょうか。このコラムは、これまで経済を本格的に勉強したことのない人に向けて、難しい数式は抜きに、経済学のイロハから、現実の経済政策や日本経済の諸問題について教えていただくオンライン版の“市民大学”です。三鷹市が開催する市民大学総合コースで2010年5月から始まった講義をベースに構成しました。

⇒ 記事一覧
著者プロフィール

村田 啓子(むらた・けいこ)

首都大学東京大学院社会科学研究科教授、オックスフォード大学経済学博士。1986年東京大学経済学部卒業、同年経済企画庁入庁。OECD経済局、内閣府などを経て2008年より現職。著書に『データで斬る世界不況 エコノミストが挑む30問』、『政権交代の経済学』(ともに共著、日経BP社)。


02. 2010年12月18日 03:32:14: cqRnZH2CUM
大前研一は米国の10年BS不況を予想している
確かに下押し圧力として強烈に効いているのは間違いないが
オバマとバーナンキの活躍?で、統合政府の負債にかなりの部分が既に置き換わっているので、
このままなら低成長ではあっても、日本のようなデフレに陥る確率は低いのではないか
ただし茶党勢力が政治を支配して、緊縮政策を行う場合は、一時的にはデフレ化する可能性も高まるか


http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090409/145180/
日本の轍を踏むアメリカの経済事情
2010年12月16日
 米国経済の重要な指標の一つに住宅価格がある。米不動産調査会社リアルティトラックが12月2日に発表した調査によると、住宅ローンの返済不能で 金融機関に差し押さえられた住宅の販売価格は2010年7‐9月に全米平均で16万9523ドル(約1440万円)になり、一般住宅の販売価格の平均値を 32%下回っていた。
差し押さえられた住宅が続々と競売にかけられている
 サブプライムローン(信用力が低い個人向け住宅融資)問題が表面化する以前の米国では、住宅の価値は右肩上がりで上昇していった。住宅を持ってさ えいればそれを担保に借金ができ、さらに好条件の不動産を買って値上がりを待つ。こういう循環のもとで個人の消費行動が拡大していったのである。
 ところがサブプライムローン問題が表面化しこの循環が崩れると、当然のことながら住宅価値は下落した。ローンが払えなくなった人が続出し、金融機関に差し押さえられた住宅は急増した。
 いま米国には、差し押さえられた住宅が1000万戸ほどあると言われており、毎月6万5000戸から7万戸が競売にかけられている。その競売価格が一般住宅より32%も低いというのだ。この価格差がどうして生じるかと言うと、それはまさに銀行の姿勢にある。
 米国の銀行はサブプライムローン問題やリーマンショックで打撃を受け、米国政府によって(つまりは国民の血税によって)救済された。ところが疲弊した銀行にとっては、差し押さえている住宅はお荷物でしかない。だから、適当な価格でどんどん売っているわけである。
 仮に政府が救済せずに、銀行の存続が約束されていなかったらどうだろうか。彼らは必死になって差し押さえた住宅を高く売ろうと努力したに違いない。米国銀行のいい加減さは日本の銀行とまったく同じだ。その米国銀行の忘恩の徒ぶりは米国経済全体に悪影響を及ぼしている。
米国がそう簡単に蘇るマジックはない
 リアルティトラックの調査結果だけを見れば、一般住宅は差し押さえ住宅よりかなり高いように思われるだろう。だが実際には、一般住宅は値下がりを起こしている。差し押さえ住宅価格が低迷しているのだから、一般住宅も引きずられるように下落しているのだ。
 かつて経済を牽引していた住宅だが、今では値下がりが続いているため個人消費が伸びず、景気は低迷したままである。住宅価格の下落が発端となって、経済全体が上向かないという悪循環に陥っている。住宅バブルと逆の動きである。
 ブッシュ前大統領の8年間で住宅価格は平均2倍になった。その値上がり分を抵当に入れてお金を借り、老後の住宅を南部の暖かいところなどに求めていた。住宅が現金自動預け払い機(ATM)代わり、と言われた所以(ゆえん)である。
 住宅価格の下落は今のところ2007年頃のピークから25%くらいだが、“ATM”としての余裕がなくなっていることは間違いない。日本と違って 米国の場合、株が上がるか住宅価格が上がる場合に「資産効果」として景気が良くなることが多い。日本では株や住宅を抵当に入れてさらに他のものを買うとい う習慣はあまりないが、米国ではクリントン時代には株価の上昇が、そしてブッシュ時代には住宅価格の上昇が経済を牽引してきた。
 いまその両方ともが低迷している。それが財政出動で赤字が増大するという「オバマのジレンマ」の原因となっている。
 ではどのくらいこの状況が続くのであろうか? 先に述べた数字にそのヒントがある。1000万戸の空き家が月6万戸を上回るペースで競売にかけら れているということは、消化するのに10年はかかるということである。これを早めることもできるが、その場合にはすでに市場価格よりも32%安く売ってい る現状から、さらに下げなくてはならないだろう。
 つまり資産効果が相当長期にわたってプラスに転じない可能性が高いことがわかる。日本の失われた20年の「轍(てつ)は踏まない」はずの米国ではあるが、そう簡単に蘇(よみがえ)るマジックはない、と見て間違いないだろう。
米国雇用を生む企業が見当たらない
 次に米国の失業率を見てみよう。米労働省が発表した統計によると、11月の失業率は9.8%で前月比0.2ポイントの悪化となった。2009年に オバマ政権が発足してから今日までずっと、失業率は10%の水準に張り付いており、改善の兆しが見られない(下のグラフを参照)。
 もっとも失業率の問題はブッシュの最後の年に相当悪化し始めていたので、オバマ大統領だけの責任とは言えず気の毒な面もあるのだが。

 米国の失業率が高い理由は、(日本と同じく)企業の国外流出に歯止めがかからないことにある。もちろん米国内にあって大きな利益を出している企業もある。しかし、そういう企業に限って従業員数は少なく、雇用規模はせいぜい数百人程度だったりする。
 たとえば日本でも話題になったグルーポン社はその一例だ。同社は、飲食店などが発行する各種クーポンの共同購入サイトを運営しており、創業からわ ずか2年ほどで年商約170億円、時価総額1000億円を突破するほどに急成長した。しかし、こういう少数精鋭的な企業がいくら増えても、米国全体の失業 率を大幅に改善することはない。
 ではゼネラル・モーターズ(GM)のように、数十万人規模で雇用を生み出してくれる企業が業績を回復すれば米国の失業率も改善するかと言えば、そ れもまた疑問である。GMは11月に再上場したが、しかしその「成功」は米国内で労働者を大幅に削減し、中国に大幅シフトして収益を上げる体質にしたから だ。つまり、かつてのように雇用を再び大量に確保できるというわけではない。
 米国内を見渡して、これから多くの人を雇えるような企業が見当たらないのが現状である。消費財メーカーも高収益を維持しているが、主として新興国 の寄与が大きい。オバマ政権は、民間で雇用を増やせないのであれば、政府が人を雇って失業率を下げるというプランを掲げているが、これは効率が極めて悪い のは言うまでもない。それどころか政府の累積債務が対国内総生産(GDP)で100%を超えてきているので、国債の乱発はドル暴落の危険性をはらんでい る。
リーマンショックの余震はまだ続いている
 12月6日付の米タイム誌が「過去の10年を振り返る」という趣旨の記事を掲載していた。タイトルは「What Really Happened 2000 - 2010」。21世紀になって最初の10年を振り返る年末の企画だ。
 つらつら記事を眺めると、この10年間でいろいろなことが起こっていたものだなあ、と改めて思う。もっとも象徴的なのは2001年の米同時多発テロ「9・11事件」だろう。そこから始まったテロとの戦いのニュースは絶えることはなかった。
 NYダウの推移を見ると、2008年9月のリーマンショック後はまさに「断崖絶壁」という感じで下落した。「すでに回復した」と言う人がいるが、 下のグラフを見てもらいたい。1万3000ドルから大きく落ち込んでようやく1万〜1万1000ドルのもみ合いとなっていることが左のグラフから読みとれ る。
 また、毎日の騰落をプロットしてみるとリーマンショックの震度8は収っているものの、余震が継続していることがわかる。かつては前日比4〜5ドル でも一喜一憂していたが、今では100ドル以上の乱高下は珍しくない。世界の金融市場は本質的に不安定になっていることが読みとれる。

 その一方で、経済不安を反映して資金の逃避先となったゴールド(金)は上昇の一途をたどった。米国の借金について見ると、2000年当時から142%も増えている。さながら「日本に追いつけ、追い越せ」といった具合だ。
 先ほど解説した失業率も、近年は10%に張り付いたまま下がる気配すらない。
借りたデベロッパーも貸した銀行も地獄に向かっている
 住宅価格を見ると、意外なことに2000年当時よりも今のほうがまだ高い。2000年当時の全米平均の住宅価格は16万3000ドルだったが、現 在は22万3000ドルである。住宅バブルだったころは30万ドルに達しそうな勢いだったから、急落ぶりばかりが強調されているが、10年前に比べれば住 宅価格は上がっているのである(下の左グラフ、青線)。

 上の左グラフで赤線は商業用不動産の価格推移である。こちらのほうが下落率が大きい。ほとんど10年前の価格に戻ってしまった。しかし右側のグラ フを見ると、売れ残った、あるいは建ったまま空室の多い不動産がこれから建設時の借入金をどう工面するかが大きな問題であることがわかる。150兆円くら いの資金手当が今後4〜5年で必要なことがわかる。空室率が劇的に下がり、賃貸料が上昇しない限り、この借金は返せない。借りたデベロッパーも貸した銀行 も地獄に向かっているのだ。
 米国の二番底が商業用不動産によって引き起こされる、という説があるが、まさにそれが上のグラフということになる。米国経済の混迷はまだまだ続く だろうし、日本の轍を踏まないとする「米国の決意」は単なる願望に過ぎない、という歴史をたどることになる可能性も十分あるのだ。
 年末にあたり来年はどうなるか、ということも気になるだろうが、過去10年を振り返り、次の10年を見渡してみることも必要である。近視眼的なものの見方をしているとわからないことでも、10年という長いスパンで見直せば違った側面が見えてくるものだ。
■コラム中の図表は作成元であるBBT総合研究所(BBT総研)の許諾を得て掲載しております■図表、文章等の無断転載を禁じます■コラム中の図表及び記載されている各種データは、BBT総研が信頼できると判断した各種情報源から入手したものですが、BBT総研がそれらのデータの正確性、完全性を保証するものではありません■コラム中に掲載された見解、予測等は資料作成時点の判断であり、今後予告なしに変更されることがあります■【図表・データに関する問合せ】 BBT総合研究所, http://www.bbt757.com/bbtri/
大前研一の「「産業突然死」時代の人生論」は、09年4月7日まで「SAFETY JAPAN」サイトにて公開して参りましたが、09年4月15日より、掲載媒体が「nikkeiBPnet」に変更になりました。今後ともよろしくお願いいたします。また、大前氏の過去の記事は、今後ともSAFETY JAPANにて購読できますので、よろしくご愛読ください。


03. 2010年12月18日 03:38:14: cqRnZH2CUM
一方で、中国は不動産バブル崩壊の危機に直面している


http://www.gci-klug.jp/mitsuhashi/
三橋貴明第80回 インフレとバブル崩壊に挟まれた中国経済
2010/12/14 (火) 14:42
 中国のインフレ懸念が強まってきた。
『2010年12月11日 ブルームバーグ「中国11月CPI、前年比5.1%上昇に加速−利上げ圧力増す」
 中国の11月のインフレ率は2年4カ月ぶりの高い伸びに加速した。中国当局が追加利上げに動く新たな理由となるものだ。
 中国国家統計局が11日発表した11月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比5.1%上昇した。10月の4.4%上昇から加速し、ブルームバーグ・ニュースが29人のエコノミストを対象にまとめた予想中央値の4.7%上昇も上回った。
 11月の生産者物価指数(PPI)は同6.1%上昇し、エコノミスト28人のどの予想をも上回った。予想中央値は5.1%上昇だった。
 中国は10月に2007年以来となる利上げに踏み切ったが、CPIの力強い伸びや資本流入を受けて新たな措置を迫られる可能性がある。中国人民銀 行(中央銀行)は10日、市中銀行の預金準備率を引き上げると発表した。金融システムから資金を吸収するのが狙いで、この5週間で3回目。(後略)』
 実は、例により日本ではほとんど報道されていないが、09年前半の中国は、インフレよりもむしろデフレに悩んでいたのである。
 07年8月のBNPパリバショック、さらに08年9月のリーマンショックにより、世界の需要は急減した。09年の世界の貿易は、総額が12兆 2950億ドルと、対前年比で23%も減少し、歴史的な大収縮を記録した(この事実自体が、なぜか日本ではほとんど報道されなかった)。
 中国の08年における輸出依存度(=財の輸出÷名目GDP)は31.6%と、経済規模から考えると極端に大きい。外需の収縮は、中国経済の片輪を奪ったのも同然で、同国では主力の製造業において工場閉鎖などが相次いだ。
 特に、沿海部では外資系が次々に工場を閉じ、撤退していく有様に至ったのである。たとえば、青島からは韓国企業が、広東からは香港系や台湾系企業が一夜にして逃げ去るという事態が頻発した。要するに、夜逃げである。
 外資系企業の夜逃げを防止するため、中国政府が急遽、施行したのが、悪名高き「中国民事訴訟法231条」である。231条とは、民事問題を抱える 外資系企業の法定代表人、財務担当者、それに「主要な責任者」の国外出国を不可能にするもので、明確な国際法違反である。何しろ「刑事事件」の容疑者など ではなく、「民事問題」を抱えた企業の「主要な責任者」を出国禁止にしてしまうわけだ。
 この場合の民事問題とは、何らかの債務を負っているという意味である。無論、債務を放り出して夜逃げした韓国企業などは責められるべきだが、この 法律はいくら何でも行き過ぎである。というよりも、共産独裁国家ならではの無茶苦茶な法律なのだ。何しろ、司法制度が出鱈目な中国において、たとえば不当 に賠償を請求された会社の「主要な責任者」が、直接的な債務の関係者でないにも関わらず、中国から出られなくなってしまうのだ。要するに「出国をしたけれ ば、金を払え」という話だが、現実に不当な債務を背負わされた日系企業の取締役が、突然、中国からの出国を禁止されるケースなどが出始めている。
 話を戻すが、07年から翌年にわたり、外資系企業が撤退したのは、要するに中国国内及び海外の「需要不足」が明らかになったためである。厳密には、中国が保有する「供給能力」に対する需要不足が明らかになったわけだ。どこかで聞いた話だとは、思わないだろうか。
 要するに、中国が保有する供給能力に対する「デフレギャップ」が発生したわけだが、当然の結果として、中国のCPI(消費者物価指数)は下落した。CPIは、通常は「インフレ率」を指し示すが、09年前半の中国にとっては「デフレ率」になってしまったのである。
(2/3に続く)
(1/3の続き)
 無論、09年前半に、需要の縮小からCPI上昇率がマイナスに転じたのは、何も中国だけではない。「デフレ先進国」たる日本はもちろん、欧米諸国までもが「デフレ率」状態になってしまったのである。
【図80−1 主要国CPI上昇率の推移(単位:%)】出典:外務省
 図80−1の通り、中国は09年2月から10月にかけ、CPI上昇率がマイナスの領域を彷徨っていた。09年以前から叫ばれていた「産能過剰(供給能力過剰)」問題の影響が、露骨に出る形になったのである。
 07年から08年にかけた危機を受け、中国政府はいくつかの対策を実施した。大きくは以下の三つである。
 ◆政府が54兆円の景気対策を実施した ◆人民元の為替レートを固定相場制に戻した ◆銀行に新規融資の拡大を指示した。
 中国当局は、08年7月に人民元の為替レートを対ドル6.8人民元に固定した。無論、自国の輸出産業をサポートするためである。この事実上のドル 固定相場制への回帰は、諸外国、特にアメリカの非難の的となり、現在の中国当局は「為替相場の柔軟性」を拡大している。(いずれにせよ、政府による管理相 場であることに変わりはないのだが)
 また、中国政府は民間銀行(とはいっても、中国の場合は事実上は国営)に新規融資の目標を指示し、実施させる。さらに、政府自体も大規模政府支出 を行うなど、09年の中国は、まさしくがむしゃらに経済成長率の維持を目指したわけである。(もっとも、実際に政府支出をしたのは、中央政府ではなく中国 の地方政府だが)
 いずれの政策にしても、マネーストック(マネーサプライ)を刺激する政策になる。デフレ化の危機を受け、中国政府がひたすらマネーストックの拡大を目指したのは、別に不思議でも何でもない。というよりも、極めて真っ当な政策だ。
 例えば、中国が人民元固定相場制のために為替介入すると、その分だけ人民元が発行され(紙幣を刷っているわけではなく、単なるデジタルデータ)、 ドルが購入される。このとき中国当局が購入したドルが、外貨準備に積み上がるわけだ。逆に、為替介入として発行された人民元が、マネタリーベースとして市 場に出ていく。
 ちなみに、日本の為替介入は、政府が短期証券で銀行から日本円を調達し(=借り)、ドルを買うというものである。ところが、中国の場合はマネタ リーベースを直接増やしてしまっているわけだ。当たり前の話だが、通貨当局がマネタリーベースを増やすと、物価は上昇に向かう「はず」である。
 さらに、当局の指示により、09年に中国の銀行から貸し出された新規融資は、総計で130兆円にも達した。これだけの規模のお金が銀行から企業などに貸し出されたわけであるから、これまた当然の結果として、物価は上昇に向かう「はず」である。
 ところが、図80−1の通り、実際には09年前半の中国は、日本をも上回るようなデフレ状態(CPI上昇率がマイナス)に陥ってたわけだ。この時期の中国経済が、いかに「深刻な危機」だったのかが、改めて理解できる。
 結局、中国経済を下支えしたのは、銀行から雪崩のように貸し出された新規融資による、フロー(GDP)上の民間住宅、すなわち不動産バブルであった。何しろ、09年の新規融資130兆円のうち、およそ三割が不動産投資に回ったのだ。
 日本と中国のフローベースの経済規模(GDP)は、ほぼ同じである。日本で40兆円を超える住宅投資が行われた場合、不動産価格のバブル化を回避することは、まず不可能だろう。当然、中国も同じである。
 現在の中国は、完璧に、「不動産こそ我らが命」 状態に陥ってしまっているのだ。
 とはいえ、もちろん為替介入でマネタリーベースを増やし、一年間に130兆円を超える新規融資があった以上、資産インフレだけで済むはずがない。 当然ながら中国のCPI上昇率は09年下旬に一気に反転し、今度はインフレーションの恐怖に怯える羽目に陥ったわけである。とにもかくにも、中国経済は極 端だ。
(3/3に続く)
(2/3の続き)
 中国共産党にとって最も怖いのは、実は景気低迷ではない。
 無論、景気低迷による失業者増も恐ろしいだろうが、それ以上に怖いのがインフレーションである。1989年の天安門事件は、長引くインフレに怒り心頭に発した市民が、民主化を求める学生に合流したことで、一気に反共産党色が強まってしまった。
 また、不動産のバブル化自体も、中国人民の反発を買うのに大いに貢献している。何しろ、北京や上海の不動産価格は、ほとんど東京を超える水準にま で上昇してしまったのだ。未だに国民所得が3000ドル規模の中国で、東京並に値上がりした不動産など、庶民に手が届くはずがない。
 ちなみに、中国の人々の持ち家志向は、日本人の比ではない。何しろ、中国では今や住宅保有が「結婚の条件」にさえなっているのである。
 人民日報の調査によると、賃貸住宅への嫁入りを受け入れる花嫁の母親は、わずかに18%とのことである。八割以上の母親は、娘を住宅保有者に嫁入りさせたいと強く考えているわけだ。
 とはいえ、インフレを抑制するべく金融を引き締めたり、あるいはバブル抑制のために不動産売買を規制したりした場合、経済成長率の低迷は免れない。また、不動産バブルがハードランディングした日には、それこそ目も当てられない状況になってしまう。
 さらに、中国にとっては、バブルが崩壊するどころか、民間住宅投資が低迷してしまうことすら受け入れられないのである。なぜならば、現在の9%を 超える成長率であっても、中国は自国の失業者を吸収することが全く不可能なのだ。ここに民間住宅投資の低迷が加わると、GDP成長の頭がさらに抑えつけら れてしまう。
 すなわち、現在の中国は「前門のインフレ、後門のバブル崩壊」という難問に直面していることになる。
 中国共産党政府は、今のところインフレとバブルを抑制する方向に動いている。すなわち、金融引き締めだ。12月10日、中国政府は銀行の預金準備率を引き上げると発表したが、近いうちにさらなる利上げに踏み切らざるを得なくなるだろう。
 また、報道によると、中国政府は2011年の新規融資目標について、7兆元(約88兆円)に設定する見通しとのことである。中国政府が目標を設定 した以上、同国の銀行は確実にこのラインの新規融資を実施するだろう。中央政府が「民間銀行」の融資額を決定するというわけで、まさしく同国が資本主義国 家ではないことの証しのようなものである。いずれにせよ、09年の常軌を逸した新規融資総額と比較すると、随分と穏やかな目標ではある。
 だからというわけではないだろうが、中国の金融引き締めについては、なぜか「穏健な金融政策」という意味不明な表現が使われるケースが多い。日本のマスコミの多くがこのフレーズを使っているが、要するに中国共産党政府の発表を、そのまま垂れ流しにしているだけであろう。
 穏健な金融政策とは、果たして何だろうか。日本の新聞などでは「中立的なスタンスの金融政策」ということらしいが、要するにこれまでの金融緩和か ら、金融引き締めに向かうということである。中国当局が最も恐れるインフレの加速が始まっている以上、同国は金融引き締めに走るしかない。
 ところが、前門のインフレを避けようとすると、後門のバブル崩壊が現実化する可能性が出てくる。そのため、住宅市況を刺激したくない中国の金融当局が、「単なる金融引き締め」について、「穏健な金融政策」という意味不明な表現を使用しているわけだ。
 報道に際して使用するフレーズからも、中国政府が経済の舵取りに苦心惨憺している様がうかがい知れるわけである。
【Klugよりお知らせ】


04. 2010年12月18日 17:55:10: cqRnZH2CUM
財政統合なければユーロ崩壊
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20101214/217532/?ST=print
【検証:ユーロ危機2】欧州改革センターのティルフォード氏「南米型のデフォルトが必要」

* 2010年12月17日 金曜日
* 大竹 剛

ユーロ  アイルランド  スペイン  債務再編  PIIGS  EU  IMF  ギリシャ  ポルトガル 

(【検証:ユーロ危機1】から読む)

 財政難を抱え「PIIGS(ピッグス)」と揶揄されるポルトガル、アイルランド、イタリア、ギリシャ、そしてスペイン。こうした国の中でも、競争力がない国はデフレに陥り、実質的に負債が急速に増えていく危険がある。

 英シンクタンクのサイモン・ティルフォード氏は、危機から抜け出すために今すぐにでも債務の再編をすべきだと説く。さらに、長期的にはEU域内で財政統合を進めなければ、ユーロは崩壊することになると指摘する。

(聞き手は日経ビジネスロンドン支局、大竹剛)

―― なぜ、ユーロ圏でソブリン危機が一向に収まる気配を見せないのか。
英シンクタンク、欧州改革センターのチーフエコノミスト、サイモン・ティルフォード氏

 ティルフォード 数か月前と状況が変わったのは、投資家は今、ユーロ圏でデフォルト(債務不履行)が起きる可能性を信じていることだ。一部の投資家は常に、この可能性を考えてきたが、今やより多くの投資家がデフォルトはありえると考えている。長い間、ユーロ圏ではデフォルトは不可能だとの仮定があった。絶対に許されることではないと。

 しかし、今やユーロ圏のいくつかの国では、危機から抜け出す調整過程はとても困難なものに見える。今回の危機を深刻化させたのは、10月中旬にドイツとフランスの政府が、国家が金融危機に陥った際に民間投資家にも大きな損失を強いる、危機解決メカニズムの創設を提案したことにある。民間投資家も返済金額の一部減免を受け入れなければならなくなる。それについては特に議論の余地はないことだが、問題はその議論がとても微妙な時期に出てきて、投資家にデフォルトが今や起こりえるということを確信させてしまった。

債務が膨れ上がる“負のスパイラル”

―― デフォルトがあり得る場合、そこに至る道筋はどのようなものになるのか。

 問題は大きく分けて2つある。1つは国際競争力の問題だ。ユーロという単一通貨を導入しているために、通貨を切り下げることができず、その代わりにほかのユーロ圏よりもコストを引き下げる必要がある。そしてもう1つが、巨額の財政赤字である。

 もし、労働賃金などの引き下げなどでコストをカットしたら、基本的に経済活動を停滞させることになる。収入は下がり、インフレ率も下がる。その結果、負債の実質価値を押し上げることになる。また、賃金と収入の引き下げにより税収も減り、財政はさらに悪化し、さらに公的支出を削減する羽目になる。

 これらすべてのことが、基本的に経済成長を弱め、デフレをもたらす方向に作用する。

 アイルランドは、既に負債の罠にとらわれており、ほかの国もそれに続こうとしている。これらの国に必要なのは輸出の拡大だが、通貨の切り下げができないためにコストを引き下げるしか道はなく、それが経済を低迷させ公的債務を持続不可能なレベルにまで膨れ上がらせる結果になる。

インフレの心配はない、怖いのはデフレ

 ユーロ圏全体で見れば、債務のレベルは政府、民間ともに行き過ぎたものではない。問題なのは、ユーロ圏内での負債の分配にある。ユーロ圏内には、巨大な債権国と債務国がある。これは共生関係とも言えるもので、債権国と債務国は相互に依存し合っている。非難されるべきは債務国だけではないのだ。それは、米国と中国の関係が問題を抱えていることと少し似ている。

 ECB(欧州中央銀行)は、国債を購入することでもっと危機を緩和できるはずだ。これまでもアイルランドやポルトガル、スペインの国債を少しだけ買ってきたが、もっと購入できる。しかし、国債購入はインフレを抑制するというECBの本来の資格を損ないかねないと、ドイツやオランダ、オーストリア、フィンランドなどから強い反対がある。

 個人的には、ユーロ圏でインフレの脅威は存在しないと考えている。もし、脅威があるとすれば、それはデフレだ。債務を返済するために支出削減を迫られている国が数多くあり、その一方で、これまで支出を絞ってきた(ドイツのような)国も、彼らのために支出を増やそうとはしないため、ユーロ圏内で需要が生み出されるところを見つけることは難しい。

1980年代の南米型“デフォルト”が必要

 もし、ユーロ圏が域外貿易で大きな黒字を確保できるのならば、状況は改善するかもしれない。しかし、貿易黒字を確保できる相手国を探すことも難しい。中国での大きな変化がなければ、東アジアが大きな需要を生み出すことは難しいし、ラテンアメリカも十分ではないし、アフリカは小さすぎる。米国も際限なく “コンシューマー・オブ・ラストリゾート(最後の消費者)”になることはできない。

 経済成長がなければ、債務の水準は持続不可能な状態になる。そのため、今後、もっと多くの救済を目にすることになるだろう。しかし、ここで肝に銘じておかなければならないのは、債務免除がないという意味において、それは本当の意味での救済ではないということだ。アイルランドの事例は“救済”と言われるが、EUとIMFが実行したことは、アイルランドに高い金利で巨額の資金を貸し付けただけだ。

 救済とは、債務免除や償還期間の延長など債務の再編を含むことだ。必要なのは、1980年代に米国がラテンアメリカに実施した「ブレイディプラン」と同じような救済策だ。資金調達コストの高止まりが長引くほど、スペインも破綻状態に陥った国の仲間入りをするリスクが高まる。イタリアも同じである。これらの国は負債を借り替えなければならず、もし、高い金利で借り換えを強いられれば、財政状況は悪化することになる。

英独仏の銀行はさらなる資本注入を迫られる

―― 債務の再編が不可避だとしても、いつ、どのように実施したらよいのか。

 それは非常に難しい問題だ。もし、EU諸国がECBに今以上の国債購入を認めず、ユーロ域内の経常収支の格差を改善することにも取り組まないのならば、危機から脱することは容易ではない。もし、2013年以降のデフォルト(債務不履行)への道筋を開く危機解決メカニズムの導入に合意するのなら、デフォルトか債務の再編を今すぐにでも実行してもいいはずだ。

 ユーロ圏の主要な問題は、何をやっても痛みが伴うという点だ。問題はどんどん大きくなっている。いつかは問題の解決に取り組む必要がある。そうなれば、英・独・仏・米の銀行は大きな損失を被ることになる。米国を除き、これらの国の政府は銀行に公的資金を注入することになるだろう。特に、独仏の銀行は大きな融資残高がある。

 しかし、現時点では、アイルランド救済の事例を見れば分かるように、EUとIMF(国際通貨基金)は債務の再編を避けるために、アイルランドに資金を提供した。基本的にアイルランドで起きたことは、ドイツやフランス、英国の銀行が下した間違った判断のツケを、アイルランドの納税者が払わされているようなものだ。不公平な話だ。

 債務の再編は、政治家が明日にでも決断すればいつでも実行できる。しかし、政治的なリーダーシップは見当たらない。米国ではブレイディプランを実行できたが、欧州では加盟国間で合意に至るのは極めて難しい。

負債の統合が長期的な解決策

―― 長期的にEUは統合をさらに進める必要があるのか。

 各国政府はユーロを立ち上げた時、ユーロを上手く機能させるためにはさらなる統合が必要だということを、認めようとしなかった。ユーロ加盟国の政府のほとんどの人が、より密接な経済統合とより強固な政治的統合が必要だと理解していない。彼らは、国内の有権者にそれが必要なのだと説得する必要がある。

 危機を繰り返さない唯一の方法が負債統合、ある種の財政統合だ。ほかに打つ手はない。もし、現在のような経済の不均衡、貿易収支の不均衡がユーロ圏にあり続けるなら、負債の統合は不可欠だ。マネーをある程度、再循環させなければならない。

 問題なのは、負債を統合すれば、それはある国からほかの国への財政移転を意味するということだ。世間の人は不均衡と債務問題の関係を理解していない。ドイツ政府にとって、納税者に向かって「ほかの国にお金を動かさなければなりません」と言うことは政治的に極めて難しい。

ユーロ崩壊を防げるか、政治家の団結力次第

 米国の各州の間に見られるような団結は、ユーロ圏内では見られない。米国なら、コロラド州からウェストバージニア州に資金を移動したところで、誰も憤慨しない。英国なら、イングランドから北アイルランドやスコットランドへ資金を移動することに、イングランド人は不平を言うかもしれないが、それはあくまでもうめいているだけだ。しかし、ユーロ圏には、そのような団結がない。

 政治的な障害を取り除くのは難航するだろう。しかし、ある種の財政統合を受け入れるのか、それともユーロの崩壊を直面するのか。その選択しなければならない段階が訪れたら、各国政府は財政統合が避けられないということを受け入れるかもしれない。ユーロ崩壊に直面するのが、各国政府が改革に乗り出し有権者を説得するのか。政治の団結力にかかっている。
このコラムについて
大竹剛のロンドン万華鏡

ギリシア危機を発端に、一時はユーロ崩壊まで囁かれた欧州ですが、ここにあるのは暗い話ばかりではありません。ミクロの視点で見れば、ベンチャーから大企業まで急成長中の事業は数多くあるし、マクロで見ても欧州統合という壮大な実験はまだ終わっていません。このコラムでは、ロンドンを拠点に欧州各地、時にはその周辺まで足を延ばして、万華鏡をのぞくように色々な角度から現地ならではの話に光を当てていきます。

⇒ 記事一覧


05. 2010年12月18日 17:55:44: cqRnZH2CUM
米で住宅ローン金利が急騰―長期国債に連動
http://jp.wsj.com/Finance-Markets/Foreign-Currency-Markets/node_161552/?nid=NLM20101217
* 2010年 12月 17日 10:03 JST
 
 ニューヨーク債券市場で米長期国債利回りが上昇していることから、それに連動する住宅ローン金利も跳ね上がり、住宅市場に圧力がかかっている。

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ウェルズファーゴ
AP

米銀ウェルズファーゴの住宅ローン店舗(カルフォルニア州)
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ウェルズファーゴ

 連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の住宅ローン金利週間統計によれば、16日に終わった1週間の30年物住宅ローン平均固定金利は4.83%で、前週の4.61%から大幅上昇し、5月以来の高水準を記録した。ただ、昨年同期の4.94%をわずかながら下回っている。

 30年物住宅ローン金利は10月に過去最低に落ち込んだあと、10年物国債利回りの急騰を受けてここ数週間大幅上昇している。10年物国債利回りは16日午前中に3.556%と、5月初旬以来の高水準に達した。

 フレディマックの主任エコノミストであるフランク・ノサフト氏は「成長加速が目先はインフレ高進につながるのではないかとの市場の不安で、米国債利回りは急伸し、連れて住宅ローン金利も上昇している」と述べた。

 30年物住宅ローン金利が11月に付けた過去最低の4.17%に接近し始めた今秋に、ローンの借り換えが盛んになったが、金利が反騰に転じたため借り換え需要は減退に向かうとみられている。住宅購入意欲もそがれることになる。

 フレディマックが集計するローン金利は国債の動きに遅れがちで、調査会社HSHアソシエーツなどが算出するローン金利はすでに5%に接近している。

記者: Mark Gongloff


06. 2010年12月18日 18:01:12: cqRnZH2CUM
TOP経済・時事野口悠紀雄 人口減少の経済学 
【第10回】 2010年12月17日 野口悠紀雄 [早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授] 
2001年以降に変化した国債消化構造の危うさ 
「高齢化社会では資産の運用が重要な課題となるが、日本の場合には将来時点でインフレが発生する可能性が強いので、いかなる資産で運用するかが難しい課題になる」と前回述べた。
 インフレが予想される理由は、国債の発行が今後も際限なく増加し続けると予想されることだ。これまで述べてきたように、高齢化社会の最大の問題は、社会保障給付の増大を通じて財政赤字が拡大することなのである。
 2011年度予算においては、基礎年金国庫負担率引き上げの財源が問題とされているが、恒久財源の手当てができず、再び臨時財源に頼ることが検討 されている。国庫負担率引き上げはすでに2004年度に行われた措置であり、「恒久財源の手当てが必要」と法律に明記されているのに、それが実現されない ままに放置されてきた。2011年度予算を決める今年は、法律に明記されている最終時限であるにもかかわらず、それが実行できないのである。これは、日本 の財政が制御不可能な事態に陥っていることを明らかに示す証拠だ。
 消費税率を20%以上引き上げても財政再建はできないことを前回述べたが、現実は、5%の引き上げもままならない状態なのである。
個人金融資産の残高は国債の担保にはならない
「国債が増えても、その消化に問題はない」とする考えがある。その根拠として言われるのが、「日本には1500兆円を超える個人金融資産があるか ら大丈夫」、あるいは、「個人金融資産から負債を差し引いた純金融資産1250兆円の範囲内までなら、国債残高を増やせる」ということだ。しかし、この考 えは誤りである。
 その理由は、個人金融資産は、手つかずの資金ではなく、すでに「使われて」しまっているからだ。たとえば銀行預金は、すでに企業への貸出しなどに 廻っている。だから、金融資産がいくらあろうと、「大丈夫」ということにはならない。個人金融資産は、国債残高の担保にはならないのである。
 国債を消化するためには、一般政府部門の債務増加に対応して、他部門でネットの資産残高が増加しなければならない。以下で述べるように、90年代 までは、家計の預金が増加することでそれが実現されてきた。しかし、その後は、その構造は変化しているのである。そこで、以下では、部門別の資産・負債の 変化を通じてどのように国債が消化されてきたのかを見ることとしよう(【図表1】参照)。
次のページ>>国債の大部分は金融機関が購入している

国債の大部分は金融機関が購入
 まず、一般政府部門の負債の「株式以外の証券」を見よう。これがほぼ国債と地方債に対応している。96年から01年まで、01年から06年までの間に約190兆円ずつ増加している。
 この大部分は、金融機関が購入している。実際、金融機関の資産のうち「株式以外の証券」を見ると、96年から01年までの間には約170兆円、01年から06年までの間には約130兆円増加している(注)。
 金融機関が国債の購入を進めた結果、金融機関の資産に占める国債の比率が上昇している。96年から06年の間に、貸出は約200兆円減少した半面 で、株式以外の証券は約300兆円増加している。「貸出」と「株式以外の証券」の比率で見ると、96年にはほぼ3対1だったが、01年にほぼ2対1にな り、06年にはほぼ3対2になっている。この10年間の日本の金融機関は、「貸出を減らして国債を買う」というポートフォリオの変更を進めてきたことにな る。
(注)これだけでは、一般政府部門負債の「株式以外の証券」の増に見合わない。残りは、一般政府の資産で「株式以外の証券」が増加することで賄われている。これは、一般政府の中に含まれる社会保障基金(年金の積立金)の国債購入である。
 このプロセスには、財政投融資にかかわる制度変更が影響している。90年代までは、年金積立 金は資金運用部に預託されていた。資金運用部は公的金融機関であり、国民経済計算の制度分類では「金融機関」に含まれる。したがって、公的金融機関が一般 政府の社会保障基金から借り入れる形を取っていたことになる。制度改革後は、財投債が発行されて、これを社会保障基金が購入している。つまり、債券の形で の貸し借りになったのだ。01−06年の期間で一般政府の資産で、「現金・預金」が減り、それとほぼ同額だけ「株式以外の証券」が増えているのは、このた めである。
90年代には家計の預金増加で国債を消化
 上で見た金融機関の国債購入は、どのようにして行われたのだろうか?
 96年から01年までの期間では、これに対応する金融機関の負債面の変化は、「現金・預金」が約130兆円増加したことである。これに加え、貸出 が約20兆円減少している。さらに、負債総額の増加が資産総額の増加を約20兆円上回っている。これらの合計が、資産面での「株式以外の証券」の増加とほ ぼ見合っている。
 他方で、家計部門の資産での「現金・預金」は、この期間にほぼ120兆円増加している。これは、金融機関負債面の「現金・預金」の増加にほぼ見合っている。
 したがって、この期間において国債消化の最大の原資となったのは、家計部門の預金増加だったと考えることができる。
 家計の預金が増えたのは、貯蓄率が高かったからだ。1990年代まで、日本の家計貯蓄率は国際比較で見ても群を抜いて高かったのだ。
2001年以降変化した国債消化構造
 2001年以降の期間では、金融機関の国債・地方債の保有は、上で述べたように約130兆円増加している。これはどのようにして購入されたのであろうか。
 各項目についての純増を示すと、【図表1】の下の部分「再掲(項目ごとのネット増減)」のとおりだ。
 最大の変化は、貸出の減が借入の減を絶対額で約120兆円上回ったことだ。
 その他の項目を見ると、「株式以外の証券」は負債でも増えているので、純増は約30兆円になる。「現金・預金」は負債面で減少したが、資産面でも 減少しており、ネットでは約50兆円の変化だ。「株式」は、負債面と資産面の変化がほぼ釣り合っている。また、負債減が資産減を絶対額で30兆円ほど上 回っている。
 つまり、2001年以降の期間について言えば、貸出減が国債購入を可能にしたということができる。金融機関が国債の大部分を購入したという意味では90年代と変わらないのだが、その原資はかなり変わったのだ。
 以上で述べたことを要約すれば、つぎのようになる。
 90年代までの期間では、家計が預金を増やし、それが金融機関を介して国債を購入している。これは、「正常な国債消化」と考えることができる。
 しかし、2001年以降の国債消化は貸付の減少を主たる原資としたものであり、正常な形態とは考えられない。実際、【図表1】に見るように、この期間では家計の「現金・預金」はほとんど増えていないのだ。したがって、このような形態での国債消化は、どこかで限度が来ると考えざるをえないのである。
「国債の国内消化がどこかで行き詰まり、インフレがもたらされる」と考える基本的な理由は、この点にある。


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