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スウェーデン人は、変化を好んではいません。しかし Re: 強い経済と社会保障をどう両立? スウェーデンの「改革」
http://www.asyura2.com/10/hasan70/msg/501.html
投稿者 tea 日時 2010 年 12 月 30 日 22:12:18: 1W1IXELjjF6i2
 

(回答先: 強い経済と社会保障をどう両立? スウェーデンの「改革」 投稿者 tea 日時 2010 年 12 月 30 日 22:04:22)

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日本総研主催シンポジウム
強い経済と社会保障をどう両立するのか−スウェーデンの「改革」に学ぶ−
後援/スウェーデン大使館
2010 年11 月16 日開催
基調講演‘Economic Growth and Social Security How do we Achieve Both?
Learn from Swedish Reform’
(強い経済と社会保障をどう両立するのか−スウェーデンの「改革」に学ぶ−)
ペール・ヌーデル氏 (元スウェーデン財務大臣)
ご紹介どうもありがとうございます。今回この意義あるシンポジウムにお招きいただき、ここに来られた
ことを大変うれしく思っています。日本総研の方々、さらに、このセミナーをホストしていただいたスウェー
デン大使館、そしてノレーン大使に御礼を申し上げたいと思います。一つの国の経験をそのまま別の国
に当てはめることはできないとは思いますが、それでもお互いに学び合うことはできるということで、今回
のセミナーが開催されているのだと理解しております。
さて、最初に、これまで私たちが経験してきた非常に大きな変化、またこの1 年ぐらいの変化の度合い
について話してみたいと思います。
1.三つの大波
過去20 年間において、三つの大きな波、または革命と呼んでいいかもしれないものが、地球全体を
飲み込みました。
第1 は、民主主義の波です。1989 年、これはベルリンの壁が崩壊した年ですが、当時は、実質的な
民主主義国家は世界の中でも69 カ国しかありませんでした。これはアメリカの独立系のNGO、フリーダ
ム・ハウスの統計によるものです。しかし、今日では120 カ国以上の国々が民主主義国家と認知されて
います。もちろん、全体主義国や独裁主義国が数カ国残ってはいますが、今や人類が共存していくた
めの一つの標準が、民主主義であると考えられています。男女がともに同等で、全員が投票権を持つと
いうのが、この20 年間において、私たちが打ち立てた一つの成果です。
2 番目の変化は、これとまた関係しているわけですが、それは情報社会の到来という目に見えない変
革の波です。私たちのうちほとんどがポケットの中に携帯電話を持っていると思います。しかし、こういっ
た携帯電話というのは、もう単なる電話ではありません。強力なコンピューターです。つまり、ポケットに1
台コンピューターが入っている状態です。IT 革命というのは、日々の生活を変えました。情報技術のお
かげで、まさにフィンランドのノキア社の広告で使われている「Connecting People」、人々はもうつながっ
ているということになるわけです。それと同時に市場はつながり、どんどんと市場が大きくなってきました。
それがまた3 番目の変化につながるわけですが、それは新規市場の台頭です。つまり市場経済に基
づく新しい市場の広がりです。つまり、型にはまって非効率なタイプの経済はもう時代遅れになってしま
いました。このような経済計画、共産主義の衰退とともに、新しい市場経済が生まれてきたわけで、過去
20 年間これが世界を席巻してきました。
そして、1999 年の31 兆ドルから、2008 年の62 兆ドルへと世界経済は成長しました。99 年から2008
年にかけて、グローバル市場は2 倍になったわけです。このように大きな成長があったにもかかわらず、
インフレ率は低く抑えられました。とくに2006 年、2007 年の2 年間は、124 カ国が4%以上の経済成長
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を達成しました。これが20 年間の素晴らしい経済成長の中のピークであったと言えるでしょう。
この民主主義、情報技術、市場経済という三つの変革により、個人にとって、生産活動にとって、そし
て国にとって大きな変化が訪れました。これまでの歴史の中で、たった20 年間という短い期間の中で、
多くの人がこれほどの変化を経験したのは多分初めてでしょう。中国だけで言いましても、実に5 億人が
貧困から抜け出したことになるからです。
成熟した市場経済、例えばスウェーデンなどもそうなのですが、私たちはこのような強力な経済発展
の恩恵を享受することができました。輸出主体の国々は、このような世界の市場拡大によって、大きなメ
リットを得ました。スウェーデンの輸出も1990 年の30%から今日の50%へとGDP 比で伸びたわけです。
しかし、20 年間の素晴らしい世界経済の発展の結果、三つの大きな問題が発生しました。
2.過去20 年間における三つの問題
まず第1 点目が環境問題です。新規に台頭している新しい国々が、CO2 の排出量を削減することと、
富でも社会福祉でも先進国に追いつくことを両立することが非常に難しいことは、皆さんご存じのとおり
です。そして、これがいかに難しい問題かというのは、2009 年のコペンハーゲンの気候変動サミットにお
いても、十分に示されました。この方程式を何とか解かなければなりません。
2 番目の問題は、急速な経済成長によって、非常に大きな世界的な不均衡が生まれたということです。
一番大きなものは、アメリカと中国との間の貿易不均衡でしょう。民間の過剰消費という典型的な経済と、
それから輸出志向で貯蓄の高い国という二つの間の貿易不均衡です。
3 番目の問題は、民主主義は個々の国家のレベルでは間違いなく勝利を果たしましたが、世界全体
で見ますと、まだまだ脆弱であることです。国連のシステムは、1945 年の世界を前提としたものです。金
融危機が発生した後、世界的に何とか一致して、これに取り組まなければならないというときには、
OECD よりも、またはブレトン・ウッズの制度よりも、または国連よりも、実はG20 の方が現在に最も見合っ
た機関として機能することができたのです。
問題は、グローバルレベルでこういった民主的な制度をどうやって打ち立てていくかという点にとどま
りません。国レベルの民主主義もしばしば脅威にさらされています。ヨーロッパの多くの国々においては、
現在、左派のみならず右派もポピュリズムからの挑戦を受けているのです。
つい最近まで、スウェーデンはこのパターンから離れていました。しかし、2 カ月ほど前、ヨーロッパの
ほかの国々と同じように、スウェーデン民主党という反移民を掲げる右派ポピュリスト政党が、議会の代
表に必要な4%の壁を初めて超え、5.7%の票を得たことにより、議会における中道右派政権の絶対多
数を打ち破ったわけです。そういった意味では、ヨーロッパの一般的な国の一つになったことになりま
す。
しかし、このような政治的な激震が起きたにもかかわらず、基本的にスウェーデンは社会福祉を中心
とした国であることに変わりはありません。左派から右派まで、すべての政治環境の中において、今日こ
のスウェーデン・モデルは支持されています。基本的にこの原則は広範囲に受け入れられているのです。
しかし、新しい世界の秩序、つまり新規に台頭しつつある国々からの強力な挑戦の下、これから先スウェ
ーデンのモデルは、このまま残っていくことができるのだろうかという問題が残ります。
世界に起きた大きな改革を思い出してください。何百万人の人たちが政治的に、そして経済的に開
放されました。しかし、同時に新しい問題が起きました。多くのリーダーたちが、これから先、直面しなけ
ればならない問題です。私は、水晶玉による占いは好きではありません。どちらかと言いますと、バックミ
ラーを見て、歴史から学ぶ方が私の好みです。そこでこれまでの経験を振り返りますと、これから先の数
年間というのは、政治的にも経済的にも、相当大変なものになるでしょう。新しい地政学地図が現在形を
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あらわにしつつあります。政治力は、東西で、また北南で調整されることになるでしょう。財政赤字、債務
残高、高失業率に苦しむ国々が多く出てきます。デフレ、国内需要の停滞に苦しむ国も出てくるでしょう。
それに従って、政治不信を生んでいくはずです。そして金融危機が起きたことからも、政治不信、政治
危機が起こるはずです。
しかし、私はまだ信じています。このような金融危機が起きる前よりも、現在のような状況においてこそ
スウェーデン・モデルから学ぶ教訓が多いとますます確信を持つようになっています。もちろん、これが
唯一の答えというわけではありません。しかし、私たちのモデルの一部が、この新しい世界新秩序の中
での回答の一つになると、私は思っています。
3.スウェーデンの歴史から学べること
ご存じのように、19 世紀後半、スウェーデンは欧州における最も貧しい国の一つでした。しかし、その
後スウェーデンは、急速に近代的産業国家へと変化を遂げることができました。その間、国、企業、労働
組合の三者間の暗黙の協定が、スウェーデン・モデルを完成させたのです。
市場経済と高い税率、
収益性の高い産業部門と強い労働組合、
活力ある民間セクターと効率的な公共セクター、
そう、こうした組み合わせは可能なのです。
高名なベルギーの経済学者であるアンドレ・サピール(Andre Sapir)は、かつてのEU の15 の加盟国
を四つに分類しました。社会政策モデルなど、その他の幾つかのファクターを基にして、四つに分けま
した。
最初のグループは、二つのアングロサクソンの国、アイルランドとイギリスです。ここにおいては、社会
支援はあくまでも最後の綱という形で作られています。これは弱い組合、それから比較的賃金格差が大
きく、そして低賃金の比率が比較的大きいという世界です。
2 番目が大陸諸国で、オーストリア、ベルギー、フランス、ドイツ、ルクセンブルグなどで、社会保険方
式の給付金と年金が中心になっていて、組合の組織率は低くなりつつはありますが、それでもまだ強い
ものです。
3 番目が地中海諸国で、ギリシャ、イタリア、ポルトガル、スペインになります。ここにおいては、雇用保
護や早期退職制度などが中心になり、フォーマルセクターでの賃金決定は団体交渉が中心となって、
賃金格差が少ないものです。
最後がノルディック諸国で、この中にはオランダも入れています。ここにおいては、社会的保護がきち
んと行われ、そして社会福祉が全国民に提供されるというタイプの制度です。また労働市場に関しても、
財政的な介入が大きく、労働組合の組織率が高い、それからまた賃金格差が小さいというタイプのもの
です。
サピールは、この四つのグループを分析して次のような結論を出しています。この地中海モデル、つ
まり雇用率が相対的に低く、また貧困に落ちる高いリスクを持っている国々は、公平・効率の双方で良く
はない。アングロサクソン型や大陸型は、公平性と効率の間のトレードオフがある。それに対してノルデ
ィック・モデルは雇用率の高さ、それから貧困に落ちるリスクの低さということで、公平と効率を組み合わ
せることができると言っているわけです。私も同じ考えです。ノルディック・モデルにおいては公平と効率
はコインの両面であるのです。
4
4.1990 年代の構造改革とその結果
スウェーデン人以外の多くの人々にとって、スウェーデンはモデルとしてそれにならうべきものか、ある
いはそれを拒否するか、反応が分かれます。しかし、1994 年の時点では、スウェーデンとそのモデルは
大混乱をしていたので、いろいろ疑問が投げかけられました。1990 年の初め、スウェーデンは1930 年代
以来の最悪のリセッションに陥っていたわけです。当時、3 年間で政府の債務が倍になり、失業率は3
倍になって、財政公的な赤字は10 倍になりました。94 年には、一般政府の財政赤字がOECD 諸国中
最大であり、GDP の10%に達していました。実質金利が急上昇したために国内の需要は落ち込み、家
計の貯蓄率は13%以上高まったのです。その90 年代初頭の問題の一部は、80 年代にクローネをしば
しば切り下げていたことに原因がありました。必要な構造改革が行われなかったのです。
新しい社会民主党政権が94 年に誕生したとき、この切り下げ戦略は失敗だ、だから決然とした行動
が必要だとわれわれは考えたわけです。そして、財政赤字を大幅に削減することによってのみ、スウェ
ーデンは安定と持続的成長ができると。それで何を実施したかというと、われわれは増税を行い、歳出
削減を断行したわけです。GDP の7.5%にのぼる積極的な歳出削減措置を取り、4 年後の98 年には財
政黒字へと持っていったわけです。
財政緊縮プログラムの導入と同時にいくつかの構造改革を行いました。
EU に加盟して域内市場にアクセスしました。
年金制度を、維持できなくなっていた賦課方式の制度から、私的年金と公的年金の組み合わせによ
る、一部積立方式を取り入れた拠出建制に変えました。
新しい予算策定プロセスを設定しました。名目歳出に上限を設け、黒字目標を立てました。この結果、
現在私どもは多分、世界で最も厳しい予算策定プロセスを取っていると思います。
そして、中央銀行に独立性を持たせてインフレ目標率を定めました。
では、このような構造改革をして、厳しく予算をコントロールした結果がどうだったか。
まず高成長です。この10 年で、スウェーデンはEU の平均あるいはOECD の平均よりも、高い成長率
を記録しました。そしてEU 平均より高い雇用率ということで、この数年でEU の中で2 位です。ほとんど
80%の人たちが働いているということで、失業率は4%程度です。
それからインフレ率も低くなっています。民間セクターの成長、生産性が80 年代の2%から、90 年代
には3%にまで上りました。そして、可処分所得も向上しました。生産性が高いということは、2002〜2006
年の間、単位労働コストは変わらずということです。インフレ率が、ヨーロッパの平均よりも低いレベルに
あります。
さらに、健全な財政です。私が財務大臣であったとき、財政黒字はGDP の3%になりました。
5.改革の結果得られた六つの競争優位性
@強力な国家財政
では、なぜそういう成果がもたらされたのか。ほかの国々が学ぶべき競争優位性があるのでしょうか。
私が考えるのは、第1 に、スウェーデンの国家財政がしっかりしていて強固であることが、競争優位性
を生んでいるということです。それは、小さいが開かれた経済における脆弱性を低くするだけでなく、うま
くいく経済、つまり、非常に低インフレと実質賃金が高い経済の基盤となります。
財務大臣になった翌日、減税を求める人の列が私のオフィスの外に並んでいるのを目にしました。3
日目には、歳出増を求める人々が列をなしていました。4 日目になりますと、本当に困ったことに、同じロ
ビイストが両方の列に同時に並んでいるということがありました。それで私は財務大臣就任1 週間で悟っ
たのです。私の政府での役割は「ノー」と言うことなのだと。まず財務大臣は「ノー」と言わなければいけ
5
ない。そして、これは非常に重要な教訓だと思うのですが、単に「ノー」と言うだけではなくて、同時に政
策遂行のために目標の枠組みをきちんと整えるということです。
90 年代、長期的な目標は、政府と議会により設定されました。当初はそういう目標設定は想定されて
いなかったのですが、これは非常に効果がありました。これによって、本当にきちんと削減したのかを検
証できる、実現に役立つツールとなったわけです。ターゲットを設定することによって、政策を継続し、評
価できます。そして、政治家も国民も削減するモチベーションになりますし、責任が明確になるわけです。
そして、これは力のあるコミュニケーションのツールであり、政府の方が優先事項についてはっきりとメッ
セージを出せるわけです。
政府は失業率を4 年で半分にする、つまり1996 年から2000 年の間に8%から4%にすることが最も
重要で高いターゲットであり、まさにこれが雇用に関しての論議の要になったわけです。それは、社会民
主党が何を達成したいのかを明らかにしました。それは全員に対する公平さと富であり、経済の回復と
同時に社会的正義の実現に向けた財政の健全化ということです。こうした政治的な目標を提示すること
に加え、政府はいくつかの財政上の目標も提示しました。その一つは1998 年に予算を均衡させるという
ものです。10%の赤字があった94 年の4 年後には、私どもは実際にその目標を達成し、財政はプラス
に転じました。
もう一つの目標は、景気循環を通じて平均して財政収支をGDP 比で1%の黒字にするということです。
景気回復時に財政黒字に持っていくという最終的な目標にはいくつかのモチベーションがありました。
21 世紀には、財政は高齢化によって大きくに圧迫されることがすでにわかっています。われわれは黒字
目標を設定することによってこの問題に対処しようとしたわけです。GDP の1%の黒字を景気循環を通じ
て維持すれば、景気悪化時に過大な財政赤字を計上せずに財政政策を講じることができます。さらに、
財政黒字は外国からの借り入れを増やさずに高水準の国内民間投資を維持できるという余地を生むこ
とになります。
このような財政黒字のルールは、不況時のスウェーデン経済の脆弱性を減じることができます。そうい
うターゲットを設定したおかげで、スウェーデンはリーマンショック後の金融危機の中でも、比較的安定し
ていることができたのです。私の跡を継いだ財務大臣は、黒字財政を受け継ぐことができたのは本当に
良かったと思っていることでしょう。こうしたことが、金融危機においてスウェーデンが他国に比べてうまく
切り抜けた理由の一つなのです。
A開放経済
そして二つ目に、スウェーデンは開放経済だということです。スウェーデンには、数多くの国際的企業
があります。例えばABB、エリクソン、H&M、IKEA、SCANIA、サーブ、ボルボなどがそうです。スウェ
ーデンの輸出の対GDP比は50%、輸入は42%です。小さな、そして開かれた国として、スウェーデン
は長い間、自由貿易を支持してきました。
しかし、私どもは決して、自由貿易が当たり前にあるものだと思っていません。近年、残念ながら保護
主義が多くの国で台頭してきています。多くの人々は、国際競争の高まりを恐れています。しかし、保護
主義というものは、断じて解決策ではありません。
逆に、過去20 年間、自由貿易が、世界の経済成長の牽引力でした。自由貿易は高い成長を将来に
わたって保証していくために必要です。加えて、われわれは、自由貿易主義者であるだけでは、充分で
はありません。われわれは、公平な貿易主義者でなければならないのです。自国の産業を守るために、
自らの市場に、他国の産業に来てもらっては困るというような態度ではいけません。
それでもなお、世界には大きな貧富の差があります。スウェーデンは、その責任を果たすために、国
6
民所得(GNI)の1%を、ODA に拠出しています。われわれは、G8 のメンバーではありませんが、G1 で
す。このことを非常に誇りに思っています。ぜひ、他の国にも、このG1 に参加していただきたいと思いま
す。
ヨーロッパが市場を開放しない限り、貧しい国に対してODA を拡大して支援していくことは必要です。
私たちは、富と市場を分け合わねばなりません。国際的に競争することはいいことですが、他方、自国
の市場開放という自らに課せられた責務を果さなければなりません。富裕国は、1 日当たり10 億ドルの
農業補助金を使っているのですが、ODA は1日当たり3 億ドル以下です。現在、世界では世界の上位
1,000 人が、下位25 億人の倍の資産を保有しています。上位の10%の人が、全体の85%を所有してい
ます。こういう世界は維持できません。市場の共有という話をしますと、豊かな国のなかで、グローバル化
を否定的に見る人たちが多くいます。市場拡大には明らかに利点があるにもかかわらず、ヨーロッパの
人々は、新しい競争の後に訪れる変化を恐れています。
B信頼できるソーシャルブリッジ
私たちの3 番目の競争優位性に話を移します。それは信頼できるソーシャルブリッジをいかに作って
いくかということです。国際競争の結果、企業が破綻しますと、人々は失業することになります。それは疑
いようもありません。問題は、グローバリゼーションの果実を社会にどのように分配するのかということで
す。
もともと、ソーシャルブリッジという言葉は、数年前、英国とスウェーデンの共同論文のなかで、ゴード
ン・ブラウン氏と私が使いました。産業構造の転換によって、余剰人員が生まれ、その人たちが、新たな
雇用機会を求め、そこに適応していく際、その人たちのコストを抑制する手段、それを私たちは、ソーシ
ャルブリッジと表現したのです。スウェーデンにおいて、ソーシャルブリッジを構成する政策は、労働者の
保護であり、雇用の保護ではありません。
スウェーデンに即して申し上げますと、ソーシャルブリッジは、三つの類型から成り立っています。
第1 点目は生涯学習です。良い教育によって、人々の就業機会は拡大します。就学前教育から大学
まで、その責任を負っています。加えて、それは質が高く、誰でも受けられるものでなければなりません。
もっとも、これは答えの一部分でしかありません。
もう一つの部分は、人々に対して複数回のチャンスが与えられる教育制度であるということです。例え
ば、高校を中退してしまったとしても、20 代、30 代、またはそれ以降でも、もう一度高校の勉強をしたいと
思ったときに、それができるようにしておかなければなりません。
具体的な例を挙げましょう。1990 年代の経済危機の際、スウェーデン政府は、中等教育を修了してい
ない失業者に対する、新制度創設に踏み切りました。政府は、10 万人の失業者に対して、失業給付金
と同額の補助金を受けつつ中等教育を修了する機会を提供したのです。人口900 万人の国における
10 万人です。
また、高等教育は全ての人に開かれていなければなりません。ほかのヨーロッパ諸国と違い、スウェー
デンでは、中等教育を修了していれば、大学に入ることが可能です。つまり、12 歳のときの自ら、あるい
は、両親の下した進路選択がどうであれ、高等教育を受けることができるのです。また、私たちは、大学
の数を増やしました。さらに、新しいタイプの学生に高等教育を開放しました。
スウェーデンの大学には、女性の移民が今どんどん入ってきています。これは人々が一つになる良い
方法です。教育システムをオープンにする、つまり新規参入者に対して門戸を開くことによって、私たち
の経済をより競争力の高いものとすることができます。これから先、スウェーデンという国は、さらに教育と
研究に投資を続けるでしょう。現在、スウェーデンにおけるR&D投資は対GDP 比4%に達しています。
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これはフィンランドや他の数カ国とともに世界トップレベルです。
2 番目のソーシャルブリッジは、進んで適応していくための保険です。失業、疾病、その他の社会的
疎外によって、人々は財政的な支援を必要とすることもあるでしょう。その際、失業保険、疾病保険とい
った給付は、給付期間中に、新しい職を見つけられるよう設計されなければなりません。スウェーデンの
殆んど全ての社会保障給付は、個人の所得にリンクしています。すなわち、今、あなたが仕事をしてい
ないとしましょう。あなたが、これから先また仕事を再開するつもりであることを証明出来ない限り、社会
保障給付を受けることは出来ません。子育て支援制度がありますから、この方針は、シングルマザーに
も適用されます。
そういった意味では、わたしたちは、社会福祉システムというよりも、ワークフェアシステムを持っている
と言った方がいいかもしれません。さらに別の言い方をしますと、この適応していくための保険とは、新た
な仕事に就くために歩いてわたる橋なのであって、その上にずっと立ち止まっていていいとものではな
いのです。
ソーシャルブリッジという概念の3 つめの側面は、就業人生への復帰です。
仕事に長い間就いていない人たちは、もう一度就職をするにしても、それに必要なスキルを失ってい
ます。この人たちに、就業に必要な求められるスキルを身に付けさせるには、積極的労働市場政策によ
って、労働市場への再参入を支援することが必要でしょう。従って、失業者には、新しい職を探すための
手助けと再訓練の機会が与えられなければなりません。わたしたちは、OJT から学校教育までさまざま
な機会を提供しています。重要なのは、高失業率がそのまま受け入れられるような風土を作らないことで
す。
既に申し上げたように、ここでの考え方は、人を守るということです。雇用を守るのではありません。フ
ランスやドイツにあるような法律は、私たちにはありません。そういった法律は、産業が消滅してしまいま
すと、かえってコストを高めてしまいます。一方、私たちは、その産業を生き残らせるためにお金を提供
するのではなく、個人が自分の身を守るために使えるお金を提供するという考え方です。競争が激しく
なることによって自分の働いている会社が例え倒産したとしても、自分の人生は揺るがないのだという自
信を人々に持たせなければなりません。
つまり、ソーシャルブリッジは、古い、競争力をなくした仕事から、新しい競争力のある仕事に人々を
移らせるためのインセンティブにならなければならないわけです。スウェーデン人が変化を好んでいるの
かといえば、それは全くのうそになります。スウェーデン人は、変化を好んではいません。しかし、ほかの
国よりも変化を受け入れる大きな土壌が多分あるでしょう。
何年か前、私はスウェーデン中部の小さな町を訪れました。この町は、一つの産業、鉄鋼工場に全面
的に依存していました。そういった町は、世界中のどこにでもあると思います。町の全てが、一つの産業
だけに支えられており、非常に脆弱です。私は、この鉄鋼工場の労組幹部に会いました。彼らは、私に
こう言いました。「100 人が解雇されなければならない。経営陣との交渉の準備をしているところだ」スウェ
ーデンにおいては、勤続年月が一番短い人から解雇する(last-in first-out)という政策があります。
私は、この労組の一人に、聞きました。「どうやってこれを乗り切るのだ。こんな小さな町に住んでいれ
ば、お互いが知り合いだ。自分の同僚であったり近所の人であったり、または、息子や娘の親友のお父
さんだ。そうしたなかで、どうやって解雇される人を決めるのだ」
その労組の一人はこう言いました。「お分かりでしょう。それをやらなければ、状況はもっと悪くなります。
必要な調整を今やらなかったら、この工場そのものが競争力を失ってしまう。そうなってしまうと、工場そ
のものが閉鎖になってしまうかもしれない。この町そのものが死んでしまうのです」
ストックホルムに戻って、私は自問自答しました。あの鉄鋼工場の労働者たちは、あのように変化をど
8
うして受け入れることができるのだろうか。東京大学でマクロ経済学を学んだわけではありません。答え
は簡単です。ソーシャルブリッジがあれば、たとえ苦しみが伴ったとしても、柔軟性に富む、ダイナミック
な社会を作り出していくことができるからなのです。
C協業の文化
4 番目の競争優位性、つまりスウェーデンが持っているコラボレーション、協業の文化に、話を移して
みたいと思います。数年前、スウェーデンの大手企業の一つ、エレクトロラックスが、掃除機を作っている
工場を閉鎖することを決めました。そこでは400 名が仕事をしており、人口2 万2000 人の小さな町に位
置していました。ですから、この町に対しての影響度は大変なものです。多くの国において、こんなこと
をやることになると、大変な騒ぎになるでしょう。ストライキがあって、その工場は闘争的な労組メンバー
によって、多分のっとられてしまうでしょう。それは、南ドイツで、エレクトロラックスが同様の工場を閉鎖し
たときに、実際に起きたことです。
スウェーデンの場合、最終的にはその決定は受け入れられました。もちろん、喜んで受け入れられた
わけではありません。なぜスウェーデンの労組は、このように変化を受け入れることができるのでしょう
か。
二つの理由があると思います。ソーシャルブリッジがあることはもう申し上げたとおりです。ソーシャル
ブリッジにより、職を失ったからといって、自分の家を売らなければならない状況に追い込まれることには
なりません。なぜなら、ある程度の失業保険があるからです。加えて、教育や訓練を受けることができる
ので、もう一度、拡大する労働市場で雇い入れてもらうことができるようになります。
2 点目として、労働組合は、組織率が高いことによって、非常に先進的であるということです。組織率
の高さは、労働組合に参加していることと失業保険給付を受けることが密接に関係しているからというだ
けではありません。現在、組織率は80%ぐらいであり、それにより、労働組合は非常に強力な組織となり、
非常に大きな責任を担うことができるのです。
別の言い方をしますと、労働組合のメリットを最大限にするのと同時に、社会のメリットも最大限にしよ
うという責任が労働組合には生まれてくるわけです。だからこそ、実質的に賃金がほとんど上がらないと
しても、それによってインフレが低く抑えられるのであればよいといった形で、労働組合は非常に大きな
責任を担っているわけです。これによってコラボレーション、協業という概念が生まれます。
しかし、ここで誤解をしないで下さい。スウェーデンにも、ほかの社会と同じように、いろいろな利害関
係、いろいろな意見があります。しかし、それを大きな紛争にしてしまうほど、大きな国ではないわけです。
従って、私たちにとって、労働組合のストライキをなくせばなくすほど、競争優位性は高まることになりま
す。
Dジェンダー平等政策の経済への影響
5つめの競争優位性として、ジェンダーの経済への影響があります。多くの国々で人口動態的な課題
があります。日本もそうです。高齢化により、もっと多くの人が働かなければいけませんし、出生率を高め
なければいけません。スウェーデンは、他のヨーロッパの国々より、高い雇用率を保持しています。女性
の労働市場への参加率が高いことが、とても重要な役割を果たしていると思います。これは、たまたまこ
うなったのではなくて、政策の結果です。男女ともに親であること、それから、育児と仕事との両立をしや
すいようにしたという政策の結果なのです。
最も重要な政策は、70 年代に保育センターを作り始めたことです。働く親の子は全員そこに入れます。
サービスは、質が高く、母親も父親もフルタイムで働くことができる時間帯で提供されます。フルタイムで
9
利用して、利用料は月に200 ドルが上限です。質もコストも開園時間も使い勝手が悪ければ、親の就労
を妨げてしまいます。
二つ目の重要な改革は、育児休暇です。親は、13 カ月の育児休暇を取ることができ、この間、給料の
80%を、政府からの給付として受け取ることができます。最高3,400 ユーロまでです。その13 カ月のうち
11 カ月を超えて一人で取ることはできません。となると、父親が、少なくとも2 カ月取らなければいけませ
ん。つまり、父親も親としての役割を果たすというインセンティブがあるわけです。そうすることによって、
父親と母親の間で、子育ての責任をより平等に負担させようというわけです。
こうした育児休暇制度は、コストがかかります。大体GDP の1%ほどのコストがかかっています。しかし、
この制度の結果、男女の平等、高い雇用率が可能になったわけです。私の考えでは、男女の平等とい
うのは、平等という正義の側面からのみでなく、もっと純粋に経済的な側面から議論されるべきだと思い
ます。ここに、エコノミストの使命があります。男女の平等は、収益性を高め、競争力の向上をもたらしま
す。
E環境政策
最後の競争優位性は、環境です。スウェーデンは、非常に早い時点から、政策として、生産方式を省
エネルギーと環境に優しいものに変えてきました。今、その結果が現れています。
この10 年間、高い成長率にもかかわらず、現在の温室効果ガス排出量は、1990 年より低くなっていま
す。グリーンであることは、持続可能な社会を創出する重要な手法であると同時に、経済成長の原動力
であると考えています。グリーンな製品、グリーンな技術の市場は、急速に成長しています。
スウェーデンでは、そうした新技術の研究を支援するだけではなく、環境に優しい燃料を使う車には
減税をしています。そうした燃料に対しては、減税だけではなくて、車が都市部に入る場合には駐車も
無料、そして通行料も無料にしています。これはそれほどコストもかからず、バイオ燃料を使う車の増加
を、促しました。
Fまとめ
まとめに入りましょう。開放経済、高い教育・研究、強靭な財政、高い雇用率、男女平等、持続可能な
開発、労働市場における協業の伝統、そして、ソーシャルブリッジによって、変化を是とする社会ができ
てきたわけです。スウェーデンが、過去10 年間、ヨーロッパの平均を上回るパフォーマンスを達成した背
景の一端です。
もちろん、スウェーデンも、パーフェクトな社会ではなく、問題点はあります。一つ申し上げますと、スウ
ェーデンの失業は国際的な基準でみると低いのですが、スウェーデンの基準で見ると、まだ高すぎます。
多くのスウェーデンの人たちも、本当に今後競争力を維持していけるのかと心配しています。親たちは、
子どもたちが自分たちより生活水準が下がるのではないかと心配しています。人々は、低コストの国とそ
の国の労働者たちに、仕事を奪われるのではないかと心配しています。でも、スウェーデンは、競争力
を維持しなければなりません。それ以外に、国際的な経済の中で生き残り、成功する方法はないからで
す。
その競争力の秘訣は何かというと、賃金を引き下げ、減税し、社会保障を削減するのが唯一の道だと
いう人もいますが、私はそうは思いません。スウェーデンは、この10 年、高い税で賄われる非常に大きい
福祉部門があるにもかかわらず、あるいは大きいがゆえに、他国よりも抜きん出てきたわけです。
グローバル化によって、スウェーデン・モデルが強固であることが示されました。グローバル化は、下
への競走ではなく、上への競走です。われわれは、競争力を維持するために、スウェーデン・モデルを、
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絶えず発展させなければなりません。スウェーデン・モデルを変えるのではありません。このモデル自体
が、われわれの競争力の基盤だからです。
こうしたスウェーデンの経験が示していますように、高成長と公平な所得分配が両立しないというのは、
間違いだと思います。むしろ、成長と社会正義は、グローバル化の時代でも両立できるのです。どこでも
同じようにできるとはもちろん思いませんが、スウェーデン・モデルの一部は、普遍性を持っていると思い
ます。
スウェーデン・モデルのアイデアについて、私は、お話ししてまいりました。多くの人々が適応していく
ことを恐れず、新しい競争力のある仕事に移ろうとするならば、国の競争力はさらに高まっていきます。
ですからこそ、信頼できるソーシャルブリッジが、社会正義と経済的成功のための必須条件なのです。
6.金融危機の原因
最後に申し上げたいのは、金融危機は一体何が原因だったのかということです。ここ数年、われわれ
が見てきたもの、経験してきたものは何が原因かということです。これはウォール街の欲が原因だったの
か、あるいは銀行業界における報酬制度のせいなのか、あるいは金融規制の欠如が問題であったのか
ということです。これらの要因は、間違いなく金融危機の原因を考える際に考慮する必要があるものであ
り、それは共通認識になっていると思います。
ここで、私はもう一つ付け加えたいと思うのです。すでに10 年前に亡くなっているある人のもとで行わ
れたことが、結果として金融危機を助長することになったのではないかと。
中国はケ小平氏のもとで市場経済を導入して、外国投資を受け入れ、市場を開いて需要と供給に基
づいた経済を作り出しました。その結果、中国の中産階級は増加し、何百万人もが貧困から脱出しまし
た。スウェーデンとほかの輸出国も、この新しい需要の恩恵を受けました。
そういうことで、多くの中国人と世界もおかげをこうむったわけですが、それと同時にある意味では公
的な社会のセーフティネットが廃止されることになった。ということで、中国人の方々が豊かになればなる
ほど、病気や老齢になってかかるコストに備えて、貯金をするようになってきたわけです。どんどん貯金
しました。そして、民間の貯蓄率は50%ほどに高まり、中国の安いお金が、アメリカのハッピーな家庭へ、
ハッピーな政治家へ、そしてハッピーなウォール街の金融商品を作る人々へと、どんどん入ってきたわ
けです。中国の人々が将来を恐れた。つまりソーシャルブリッジがないわけで、それがアメリカの過剰消
費を煽ることになって、その過剰消費により、金融商品を作り出して自分では責任を取らない人々に、ピ
ッタリの環境ができてしまった。その有毒ローン、いわゆるサブプライムローンが、世界中を網の目のよう
に駆け巡ったわけです。私たちはもうつながっているわけですから、後は皆さま方がご存じのとおりで
す。
ということで、ウォール街の過剰性、そして産業界の過剰性、それがソーシャルブリッジ、つまり年金制
度などの安心を与える仕組みの不十分な中国と組み合わされて、さらに燃え上がった。ここから学ぶ事
柄は、ちょっと皆さま方に挑戦的かもしれませんけれども、中国が北欧モデルをもっと取り入れていたの
ならば、金融危機の一因となったグローバル不均衡をつくりだすことにならなかったのではないか。
そうお思いにならないのなら、こういうふうに私は聞きたいと思うのです。「どんな世界に住みたいです
か? より多くの国家の規制があって、保護主義が台頭する世界なのか。あるいはスカンジナビアの
人々の信じるところ、つまり自由貿易と市場主義のもとでも安心できるソーシャルブリッジは人々が置き
去りになることの防波堤になるような世界か、どちらに住みたいですか」と聞きたいと思います。
以 上  

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