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スウェーデンの外国人政策と立法動向 Re: 強い経済と社会保障をどう両立? スウェーデンの「改革」
http://www.asyura2.com/10/hasan70/msg/502.html
投稿者 tea 日時 2010 年 12 月 30 日 22:16:01: 1W1IXELjjF6i2
 

(回答先: 強い経済と社会保障をどう両立? スウェーデンの「改革」 投稿者 tea 日時 2010 年 12 月 30 日 22:04:22)

国立国会図書館調査及び立法考査局外国の立法246(2010.12) 139
【目次】
はじめに
T 外国人政策の変遷
 1  外国人管理法制の開始
 2  第二次世界大戦後の外国人管理法制
 3  労働市場テストの導入
 4  冷戦の終結
 5  国内問題・高齢化社会への対応
U 2008年の外国人法改正
 1  法律の概要
 2  法案審議の論点
V 2010年の難民就労を促進する法律
 1  法律の概要
 2  法案審議の論点
おわりに
はじめに
 スウェーデンでは、2006年の総選挙で社会民
主労働党政権から、穏健党、中央党、自由党、
キリスト教民主党の4 党からなる中道右派連立
政権に交代した。そして、2010年9 月の総選挙
では、前連立政権を構成していた4 党は、過半
数を取ることができなかったものの、社会民主
労働党を中心とする左派ブロックには勝利し
た。今後は、再び中道右派ブロック中の第1 党
となった穏健党が、左派ブロックの環境党等に
閣外協力を求め、引き続き政権を運営すること
となった。
 前政権は、2006年の政権交代以前から、福祉
国家としてのスウェーデンを支えるための労働
力不足を危惧し、難民受入を中心とした従来の
外国人政策⑴の改革を主張しており⑵、高齢化、
人口減少化の傾向があるスウェーデン社会の将
来を見据え、労働移民の受入れを認め、難民を
労働力として経済活性化、労働市場活性化のた
めに合理的に活用するように政策を変更する必
要性を認識していた⑶。
 この政策を実施するための立法が、2008年11
月12日に国会を通過した外国人法改正である。
2008年の外国人法改正の大きな柱の1 つは、労
働移民を受け入れる際、これまでスウェーデン
が行ってきた政府による労働市場テストの停止
であった。一般的に労働市場テストとは、就労
目的の外国人を受け入れる場合に、国内で労働
力が本当に不足しているかどうかをチェックす
る制度を指す。これについて、前政権で移民・
難民担当大臣であった(2010年の総選挙後も、
引き続き移民・難民担当大臣に就任)トビア
ス・ビルストローム(Tobias Billström)(穏
健党)⑷は、「(労働移民の受入れに際し)政府
が必要な技能や受入れ人数等を定める割当制や
ポイント制は有効に機能しない。(中略)何が
必要かは労働市場にまかせたほうがよい。」と
述べている⑸。
 また、2010年3 月7 日には、難民⑹がスムー
ズに就労し、自活し、スウェーデン社会に定着
スウェーデンの外国人政策と立法動向
海外立法情報課  井樋 三枝子
⑴ スウェーデンでは一般に移民(invandrare)政策と言われる。これは一時的滞在を意図して入国する者以外
はすべて、居住が前提となっているという考え方があるためである。近藤敦「第2 章スウェーデンにおける外
国人政策と市民権」『外国人の人権と市民権』明石書店, 2001, p.68.
⑵ 『海外労働時報』No.336, 2003.3 p.144.
⑶ 大竹剛「移民受け入れは『企業と市場』に任せよ―福祉大国スウェーデンの真実⑶ 移民・難民担当相に聞く」
『日経ビジネスオンライン』2009.1.22.〈http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20091130/210899/〉以後、
インターネット情報はすべて2010年10月28日現在である。
140 外国の立法246(2010.12)
することを目的とした諸制度の新設及び改正に
関する法律が成立した。2010年の立法は、外国
人法の改正により労働移民の自由化を図るとと
もに、難民としてスウェーデンに入国、居住す
る者を有効に労働力として活用することを目的
としたものである。また、その趣旨は、難民の
学歴や職歴、有する資格等を考慮し、難民の能
力を活用できる職業を探し、それを求めている
地域と難民とを迅速にマッチングさせる制度を
整備することにある。
 本稿では、スウェーデンの出入国管理、移民
及び外国人就労に関する政策や法制の流れ⑺と
2008年及び2010年の立法の内容を紹介する。
T 外国人政策の変遷
1  外国人管理法制の開始
 外国人管理法制の開始当初のスウェーデン政
府の立場は、原則は自由な国際移動を認め、出
入国管理は個別的で臨時的な対応として行うと
いうものであった。
 1800年代に旅券による出入国管理が始まった
が、1860年以降は不要となり、自由な国際移動
が認められるようになった。1906年に国内の外
国人に対し、自身が外国人であることを届け出
る義務を課す行政命令が出されたが、出入国原
則自由という方針は、第一次世界大戦前まで続
いた。
 第一次世界大戦が勃発すると、1914年に強制
退去法(utvisningslagen(1914:196) )が制定
された。ただし、これは滞在が好ましくないと
される者に対する、個別的な取扱いを規定する
ものであった。その後食糧不足、不況による労
働市場の衰退等、スウェーデンの国内事情が変
化してくると、労働組合は、労働目的での外国
人の移住に対し規制を求めるようになった。
 そして、次第に外国人管理が包括的なものに
変化することとなり、1927 年に外国人法
(utlänningslagen(1927:333))が制定された。
この法律により初めて、外国人がスウェーデン
に居住する場合に「居住許可」の取得を義務付
けられ、許可の範囲を超えて滞在した者に対し
「国外退去命令」を発することが定められた。
ただ、依然としてこの段階では、第一次世界大
戦後という緊急事態に対応するための時限的立
法という位置付けであった。
 その後、世界情勢はさらに変化し、ナチスド
イツによる迫害を逃れたユダヤ人を受け入れる
必要性等が生じ、1937年に外国人法が全面的に
改正された。この1937年法(1937:344)では、
国による包括的な出入国管理、外国人管理が規
定され、難民の地位や政治的な理由による亡命
について定められた。1937年法も時限的な立法
であったが、延長を重ね、ついに1945年の外国
⑷ 2010年総選挙までは、スウェーデン国会に議席を有する政党は、次の7 つであった。左党(Vänsterpartiet)、
社会民主労働党(Socialdemokraterna)、環境党(Miljöpartiet)(この3 党が2006年国会議員総選挙以後、野
党社民ブロック「赤緑連合」となる)、中央党(Centerpartiet)、自由党(Folkpartiet)、キリスト教民主党
(Kristdemokraterna)、穏健党(Moderaterna)(この4 党が中道右派連立政権)である。この7 政党の中では
穏健党が、最も保守に位置する。中道右派連立政権では22の閣僚ポスト中、11名が穏健党であった。2010年の
選挙後は、閣僚ポストは24となり、穏健党員は13名となった。また、同年の選挙により、右左のどちらのブロ
ックにも属さないスウェーデン民主党が、初めて議席を獲得している。
⑸ 大竹 前掲注⑶
⑹ 原文は、「新着移民(nyanlända invandrare)」であるが、実質は特定の条件に該当して居住許可を得た者(難
民又はそれに類する者)を指しているためこのように訳出した。
⑺ Farid Rezapoor och Laura Youkhanis, “Den svenska asylrätten och dess praxis,” Luleå Tekniska Universitet
Examensarbete, 2004:054 SHU, 2004.3.19, pp.3-5.〈http://epubl.luth.se/1404-5508/2004/054/index.html〉;
前掲注⑴, pp.76-78.
スウェーデンの外国人政策と立法動向
外国の立法246(2010.12) 141
人法(1945:315)により全面的に改正された。
以後、外国人法は改正を重ねて今日まで存在す
る。
 1945年法は基本的に1937年法を引き継ぐもの
であるが、スウェーデン国内に「無条件に」居
住、滞在、就労が可能なのは「国民」に限るこ
とを明確化した。
2  第二次世界大戦後の外国人管理法制
 第二次世界大戦で国土や国内産業に対する打
撃がなかったスウェーデンは、戦後多くの労働
力を必要とし、労働移民を受け入れた。難民も
同時に受け入れていたが、労働移民と比べ、少
なかった。移民はフィンランド等の北欧諸国の
出身者が多く、その他もイタリア、ユーゴスラ
ビア等、ヨーロッパ諸国の出身であった。労働
移民の受入れに際しては、労働組合の関与が大
きく、後には主導的な役割を果たすようになっ
た。
 1954年に外国人法は改正され(1954:193)、
法律で定める条件を満たす場合には、スウェー
デンに入国し、滞在することは外国人の「権利」
であると規定した。また、永住権について規定
し、永住権を保有する外国人は就労許可等を必
要としないことを定めた。そして、政治的な理
由による難民に対しては、明確な理由なくして
庇護を拒まないことを規定した。
 就労目的の移民は増加を続けた。特に、ユー
ゴスラビアからの同目的での移民が急増したた
め、1965年、入国前に労働許可を取得すること
を義務付ける規則が制定され、続いて、1969年
には、外国人に関する問題を扱う独立した庁と
して移民庁(Statens invandrareverket)⑻が設
立された。移民庁の前身機関は、臨時的なもの
と位置付けられていたが、移民庁の設立により
初めて入国管理と外国人統合の政策について包
括的に単一の官庁が責任を負うこととなった。
 この時点の労働移民政策は、一時的労働者と
して短期的な滞在の後、帰国させるのではな
く、永住を前提とし、スウェーデンに統合させ
ることを目指していた。また、上に述べたよう
に、労働移民の受入れには、労働組合主導の側
面があり、移民と従来の労働者との間に賃金競
争を起こさせないという点からも、労働移民に
はスウェーデンの労働者と同等の待遇が労組の
主張により保障されていた⑼。このような受入
れ体制は、就労目的の移民の際限のない流入を
結果的には防止するという側面もあった。
3  労働市場テストの導入
 1970年代以降はスウェーデン経済が悪化し、
外国から労働移民を受け入れる余地がなくなっ
ていった。そこで、1972年に自由な労働移民受
入れは停止され、労働移民受入れに際しては、
政府による労働市場テストが導入されるように
なった。労働市場テストとは、外国から雇用を
する前に、スウェーデン国内(現在は、EU、
欧州経済領域(EEA)やスイスについて、国
内に準じた取扱をしている)での募集によって
求人が埋められないかどうか、国がチェックす
る制度である。これにより、以後は就労目的の
移民はほとんど見られなくなった。しかし、難
民に対しては保護の動きが高まり、法制度も整
備されていったため、彼らの呼び寄せる家族も
急増し、スウェーデンへ移住する外国人のほと
んどが難民という状態になった⑽。
 1980年に外国人法が改正され、外国人がスウ
ェーデンに居住、滞在するためには、入国前に
⑻ 2000年に外国人法改正(2000:292)により、Migrationsverketに改組、改称した。
⑼ 近藤 前掲注⑴, pp.74-75; 小池克憲「スウェーデンの移民政策―多文化主義政策を中心に―」『北欧史研究』
22号, 2005, pp. 27-33.
⑽ 同上
142 外国の立法246(2010.12)
居住許可を取得することが義務付けられた。続
いて、1989年の外国人法改正(1989:529)の際
は、難民に関して「庇護」概念の明確化がなさ
れたほか、居住許可、労働許可等の審査につい
ての規定が整備された。
4  冷戦の終結
 1990年代以降は、冷戦終結やその後のヨーロ
ッパでの内戦等、国際情勢が激しく変動し、難
民とその家族の流入がさらに増加した。そし
て、これによる国庫への負担増が問題視される
ようになった。また、1994年1 月にはEEAが
発足し、スウェーデンの外国人政策において、
ヨーロッパ各国との協調という要素も大きくな
ってきた。これらのことから、スウェーデンに
対し、直接庇護を申請する者の審査を厳格化
し、国際的な割当てに従った難民の受入れを積
極的に行うといった方針転換が行われるように
なった。難民受入れに対する消極化の動きがみ
られるようになったとも言えよう。
5  国内問題・高齢化社会への対応
 近年、高齢化社会の進行による労働力不足が
問題視されるとともに、穏健党等の支持基盤で
もある経営者団体等により、国内に失業者が存
在しているにもかかわらず、必要とされる就業
ポストにマッチする人材が国内で不足している
事態が懸念されている。これを受け、政府は労
働市場テストを停止し、外国からの労働移民を
受け入れる方策や難民を労働力として市場に有
効に組み込むための方策を、数年にわたり検討
してきた。
 そして、2008年に労働市場テストを停止し、
企業が原則自由に海外から求人することを認め
る等の外国人法の改正法が成立し、施行され
た。また、難民増に対する国庫負担の増加、難
民のスウェーデン社会への統合に関する問題に
対応するため、2009年に難民の能力を労働市場
で有効に生かす制度を新設する法案が政府によ
り提出され、2010年に法律は成立した。
U 2008年の外国人法改正
1  法律の概要
 2008年4 月29日に提出された政府提出議案
「労働力移民についての新規制(Nya regler för
arbetskraftsinvandring(Prop.2007/08:147))」
は、2008年11月12日に国会を通過、11月13日に
外国人法改正法(Lag om ändring i
utlänningslagen (2008:884))⑾として公布され
た(2008年12月15日施行)⑿。
 この改正法の内容は、次のとおりである⒀。
⑴ 労働市場テストの停止
 労働市場テストの停止に伴い、企業はEU及
びスイスにおいて必要な人材を集めることがで
きない場合には、自由に他国に求人することが
できるようになる。ビルストローム移民・難民
⑾ 外国人法第5 章第5 条、第10条、第18条、第23条、第6 章第2 条、第7 章第3 条の改正及び第5 条第15a条、
第6 章第2 a条、第12章第12a条の新設。
⑿ EU加盟国であり、シェンゲン協定加盟国であるスウェーデンでは、ビザ発給、移民政策はEUの枠組みや、
協定の規定に基づくことは前提であるが、本稿では記述を省略する。
⒀ Labour immigration. Regeringskansliet ウェブサイト〈http://www.sweden.gov.se/sb/d/3083/a/114169〉;
Nya regler för arbetskraftsinvandring, Prop.2007/08:147.〈 http://data.riksdagen.se/fi l/968b4bdb-a767-4963-
a8d4-8da610875e1d〉; Nya regler för arbetskraftsinvandring, Socialförsäkringsutskottets betänkande
2008/09:SfU3. 〈http://data.riksdagen.se/fi l/10caa696-2087-43ca-96cc-01c23d2dd372〉; New rules for labour
immigration , Ministry of Justice, Jun. 12, 2008.〈 http://www.sweden.gov.se/content/1/c6/10/72/00/2a13eb93.
pdf〉; Nya regler för arbetskraftsinvandring , Justitiedepartementet, maj 15, 2008.〈 http://www.regeringen.
se/content/1/c6/10/51/51/4bbe4bc2.pdf〉
スウェーデンの外国人政策と立法動向
外国の立法246(2010.12) 143
担当大臣は、法施行に先立ちインドの英語紙
『ヒンドゥー』に寄稿し、コンピューター関係
業務に従事しているインド系の労働移民を紹介
して、制度改正によってさらに門戸が広がるス
ウェーデンでの就労をアピールしている⒁(た
だし、法律中には職種等の制限は存在しな
い。)。この改正法の政府広報資料⒂では、企業
が外国からの自由な雇用を必要とする例とし
て、インド風衣料品ブランドの社員、レバノン
の喫茶・パン屋をモデルとしたカフェチェーン
での菓子パン職人、溶接工、国内の学生に不人
気なテクノロジー分野の大学、大学院への留学
生の国内企業での雇用が挙げられている。
 これまで外国人労働者を求める雇用主は、職
業安定所(arbetsförmedlingen: AFM)の用意
した特定のフォームを用いて求人を登録してお
り、登録後は、次の手順でAFMによる労働市
場テストが開始された。まず、AFMが国内の
職業案内システムやEUの職業案内システム
Eures上で、国内及びEU内の求職者に対する
告知を10日間行い(AFMのシステムはEures
と連動し、オンライン上で求職情報の共有がな
されているため、雇用主が求人ポストをAFM
に通知することにより、他国への求人より先に
EUでの求人が自動的に行われる運用となって
いる⒃。)、同時にAFMに登録されている求職者
に適切な人材がいないかどうか調査する。求人
をしている会社の労働組合は、外国人労働者に
提示されている労働条件が、国内の労働者の水
準に達しているかどうかにつき、AFMから意
見を求められる。
 EU、EEA及びスイス市民の雇用を優先させ
ることについては、EC条約(当時)第10条加
盟国の義務における「加盟国はこの条約の目的
の実現を危うくする恐れのあるいかなる措置も
とってはならない」から導き出されるとされ
た⒄。
⑵ 労働移民に対する基本的な労働条件の保障
 従来どおり団体協約や業界の労働慣行での規
定を下回ってはならない。また、従来どおり
EU、EEAとスイスからの雇用が優先される。
⑶ 労働許可の期限延長
 労働許可⒅の期限は、最長1 年間で1 年ごと
の更新であったが、最長2 年間に延長される。
雇用契約期間が2 年より短い場合にはその期間
のみ有効となる。更新は1 回まで可能で、4 年
以上雇用が続く場合は、永住権を取得する。こ
の法改正により、就労目的での滞在が長引いた
場合での永住権取得の可能性が広がる。
 これまで就労目的での永住権が認められたの
は、労働市場テストを通じ、労働力が長期的に
欠乏し、それが企業活動に重大な障害となって
いるとAFMが認定した場合であった⒆。
⑷ 労働許可申請・許可の手続の一本化
 労働市場テスト関係のチェックの実施責任は
これまではAFMにあったが、就労を目的とす
る移民のための手続きは、移民庁
(Migrationsverket)が一貫して行うこととす
る。
⒁ Tobias Billström,“Sweden opens doors for migants,”Hindu , Nov. 4, 2008. Regeringskansiet ウェブサイト
http://sweden.gov.se/sb/d/11160/a/115467
⒂ Ministry of Justice, op.cit(. 13); Justitiedepartementet, op.cit(. 13)
⒃ Prop.2007/08:147, op.cit(. 13), pp.15-19.
⒄ ibid .
⒅ 外交官、北欧諸国やEU、EEA、スイスの市民等の例外はあるが、外国人がスウェーデンで就労するためには
労働許可が必要であり、入国前に許可が下りていなければならない。決定は移民庁が行う。ibid .
⒆ ibid .
144 外国の立法246(2010.12)
⑸ 居住許可、労働許可の申請・更新のための
出国要件の緩和
 居住許可⒇期限内に失職した外国人は、スウ
ェーデンを出国することなく、引き続き3 か月
間国内に滞在したまま、求職活動が可能とな
る。求職のための面接で入国した者も、就職が
決まった場合は、引き続き滞在したまま一度帰
国する必要なく、居住許可、労働許可の申請を
行うことができる。就学ビザで滞在する留学生
は30単位の取得又は同等の研究を修了した場
合、大学院以上の高等教育を受ける留学生は1
学期を修了した場合に、スウェーデンを出国す
ることなく、就学ビザで滞在したまま、居住許
可、労働許可の申請が可能となる。ただし、就
学ビザが切れる前に申請を行うこととする。従
来は、上述したそれぞれの申請・更新の場合に
は、スウェーデンから一度出国する必要があ
り、就学目的の居住許可を根拠としてスウェー
デンに居住する間は、労働許可申請は認められ
ていなかった。
⑹ 庇護申請が却下された外国人に対する労働
許可申請のための出国要件の緩和
 これまで、庇護申請中であっても、移民庁が
4 か月以内に難民として欠格となるかどうか認
定できないと認めた場合に限り、特例的に労働
許可なしの就労が、庇護申請者に対して認めら
れていた。このように就労実績や職を有する庇
護申請者は、最終的に難民としての居住許可申
請が却下された際にも、スウェーデンから一時
出国することなく、滞在を続けたまま居住許
可、労働許可の申請が可能となる。少なくとも
6 か月間の労働実績を有し、申請の時点で、少
なくとも1 年間継続的な雇用が提供されている
ことが条件となる。当該申請は、庇護申請が却
下される最終決定から2 週間以内になされなけ
ればならない。
 この制度改正は、難民に認定されなくても、
すでにスウェーデンの労働市場に定着している
者を労働力として有効に活用することを想定し
ている21。
2  法案審議の論点
⑴ 反対意見
 所管の社会保障委員会、本会議とも政府提出
議案を無修正で採択したが、野党からは、主に
次の2 点について反対意見が出された22。
 @ 労働力市場テストの停止
 国内の労働力が活用されないことが懸念さ
れ、それによる頭脳流出も危惧される。労働
市場テストにおいて行われていた労働移民の
労働条件等についてのAFMから労働組合へ
の意見聴取がなくなることも問題である。
 A 庇護申請却下時の労働移民への振替え
 難民認定されなかった場合に、庇護申請者
がスウェーデンでの居住を求めて、労働移民
へと移行し得ることについては、明確な庇護
審査が損なわれる危険性がある。迫害等の危
険にさらされている庇護申請者は、本来、難
民認定によりスウェーデンの居住許可を得る
べきである。しかし、この制度改正で、就労
実績があればスウェーデンでの居住が承認さ
れる可能性が高まるという認識を庇護申請者
が持つおそれがある。すると、母国に帰り迫
害を受ける可能性と比較し、たとえスウェー
デン人よりも劣悪な環境であってもスウェー
⒇ 外交官、北欧諸国やEU、EEA、スイスの市民等の例外はあるが、外国人がスウェーデンに3 か月を超えて滞
在する場合には、居住許可が必要であり、入国前に許可が下りていなければならない。決定は移民庁が行う。
ibid ., pp.14-15.
21 ibid ., p.23.
22 Socialförsäkringsutskottets betänkande 2008/09:SfU3, op.cit(. 13)
スウェーデンの外国人政策と立法動向
外国の立法246(2010.12) 145
デンで労働する方が良いと庇護申請者が考
え、庇護申請中、雇用主への依存を強めざる
をえない立場に置かれることとなりかねな
い。裏を返せば、高齢者、子ども等就労に適
さない庇護申請者は、この改正では恩恵を受
けることがない。身元証明書類を持たない難
民の労働許可の審査において、必要とする書
類から身分証明書を例外として除外していな
いことも、強い保護理由を有する難民にとっ
て打撃となる。
⑵ 採択理由
 社会保障委員会はこれらの点に対し、次のよ
うな法案採択の理由を挙げた 。
@ 労働市場テストの停止
 労働移民に対して、国内の労働者と同等の
労働条件の付与、居住許可・労働許可の渡航
前発給を徹底することにより、外国の労働力
が国内の労働力を脅かすという可能性はなく
なる。基本的に国内雇用の方が、外国人雇用
より雇用主にとっては容易でもある。
 また、移民庁はすでに、労働移民の労働条
件の問題について、労働組合が労働許可申請
過程で公平で明確な条件を雇用主に対し提示
するための新たな手順に関して、労働組合と
協議を開始している。
A 庇護申請却下時の労働移民への振替え
 庇護申請が却下された時のために就労実績
を積むことを目的として、庇護申請者が劣悪
な労働条件を承諾せざるを得なくなるという
危惧については、雇用主側を取り締まるため
の、この法改正とは別の仕組みを作ることが
解決方法となる。この問題は、雇用主側の不
法行為により引き起こされるためである。例
えば、難民と認定されないまま、不法滞在
し、不法就労を行う者を、雇用主が劣悪な労
働条件で雇用することが、既に社会的問題と
なってきているが、このような事態を解決す
るためにも、雇用主側に対する取締りを行わ
なければならない。外国人であってもスウェ
ーデン国内で就労する場合には、国内の同種
の労働者と同等以上の労働条件で雇用するこ
とが、雇用主側の法的な義務である。これが
徹底されていれば、庇護申請者や難民が就労
にあたり雇用主に隷属するという問題は、そ
もそも生じないと考えられる。審査時間の長
期化の原因ともなっているが、庇護申請者の
多くが身元確認書類を所持していない24。こ
れに対しては、自分の身元確認に積極的に貢
献する庇護申請者については、労働許可申請
の要件から身元確認書類の提示を除外するこ
とにより対応する。
V 2010年の難民就労を促進する法律
1  法律の概要
 2009年11月17日に提出された政府提出議案
「新着移民の労働市場定着導入―専門的立場で
の責任(Nyanlända invandrares
arbetsmarknadsetablering‐egenansvar med
professionellt städ)」(Prop.2009/10:60) は、
2010年3 月17日に国会を通過、5 月18日に「特
定の新着移民のための定着導入に関する法律
(Lag om etableringsinsatser för vissa
nyanlända invandrare (2010:197))」を中心に
学校法(Skollagen(1985:1100))の改正外、
11の法律の改正法として公布された(2010年12
月1 日施行)。
 これらの法律は、先に紹介した労働移民自由
化の流れと難民政策とを連動させたものであ
23 ibid .
24 社会保障委員会に対する移民庁の報告によると、2007年の申請では16歳から64歳の庇護申請者の94%がパスポ
ートその他の身元確認書類を有していなかったとされる。ibid .
146 外国の立法246(2010.12)
る。難民(その中でも、若年層や高齢者以外の
就労可能性の高い年齢層)をできるだけスムー
ズに就労へと導くよう新しい制度を作り、それ
に関連する業務について、地方自治体であるコ
ミューン(kommun)の負担を減らし、国へ
責任を移行することを、主な内容としている。
具体的には、難民受入れに対するコミューン、
レーン行政庁(länsstyrelse)、AFM、移民庁
間の役割分担の変更とコミューンの責任軽減に
ともなう国からコミューンへの補償金額の調整
等が議論された。
 スウェーデンの難民受入れの現状と移民受入
れに関係する諸機関について説明する。スウェ
ーデンでは、直接国に対し庇護申請を行う者を
受け入れるとともに、国連難民高等弁務官事務
所の第三国定住プログラムにも参加しており、
そこからも毎年一定の割り当ての難民を受け入
れている。2009年は約2 万人を難民として認定
し、居住許可を発給している(家族呼び寄せも
含む)25。
 受け入れた難民を最終的に支援するのは、難
民が居住することとなる各コミューンである。
コミューンは、国(移民庁)と任意に協約を結
んで、一定数の難民を受け入れている。
 スウェーデンの行政制度の特色として、政策
立案部門が行政執行機関と別である点や国
(stat, regeringen)及びその出先としてのレー
ン行政庁と地方自治体(コミューン、ランステ
ィング(landsting))との間の関係性があげら
れる26。
 例えば、司法省には法務大臣と移民・難民担
当大臣がおり、政策立案や法案作成を担当する
が、その法律・制度を執行する行政機関とし
て、移民庁等がある。雇用省を統括するのは雇
用大臣だが、雇用副大臣の地位を統合・男女平
等参画省の大臣の1 人である統合大臣が兼務
し、省庁横断的にかかわることもある。そのよ
うにして制定された法律を実際に執行するの
が、行政機関であるAFMというようになる27。
 レーン行政庁はその行政区画(レーンlän)
における、国の業務を主に執行する。例えば、
警察、高速道路、中央政府の地方自治体に対す
る補償金に関する事項等である。レーンは地方
自治体であるランスティングの行政区画とほぼ
同一である。コミューンはガス、水道、学校等
を所管し、ランスティングはより広域的な運営
が望まれるような分野、例えば医療、病院等を
所掌しており、両者の間に上下関係はなく立場
は対等である。通常複数のコミューンの行政区
画を合わせた地域がランスティングとなる。
25 Beviljade uppehållstillstånd 1980-2009, tillståndsstatistik, Migrationsverket. スウェーデン移民庁ウェブ
イト〈http://www.migrationsverket.se/download/18.78fcf371269cd4cda980004203/tabs1.pdf
26 『スウェーデンの地方自治制度』東京都議会議会局調査部, 1978; 萩原金美編著『スウェーデン法律用語辞典』
中央大学出版部, 2007.
27 このような分担については、「省は所管事項に関して行政機関に対する具体的な指揮監督権を有せず、行政機
関は独立して行政を行う反面、これに関する責任はすべて行政機関が負い、その限りでは大臣には国会に対す
るなんらの政治的責任も存しない」という解説がなされている。萩原金美『スウェーデンの司法』弘文堂, 1986,
pp.5-10.
28 “Så vill regeringen påskynda nyanländas etablering i Sverige,” FAKTABLAD , Integration och jämställdhetsdepartmentet,
nov. 2009. 〈http://www.lansstyrelsen.se/NR/rdonlyres/A5848F16-0196-4402-9063-
7E331A66E6DF/179350/faktablad_nyanlanda_invandrares_arbetsmarknadsetab.pdf〉; “Government
reform to speed up the introduction of new arrivals in Sweden,” FACT SHEET , Ministry of Integration and
Gender Equality, Dec. 2009.〈 http://bercy.congressite.fr/evenement/20100607/images/stories/documentation/
Pays_etrangers/8_Suede/5.SuedeIntegration2009.pdf〉; Nyanlända invandrares arbetsmarknadsetablering -
egenansvar med professionellt städ, Arbetsmarknadsutskottets betänkande 2009/10:AU7.〈http://data.
riksdagen.se/fi l/70d80d18-3ad4-4ddc-8ef7-894aaf2a8b68〉
スウェーデンの外国人政策と立法動向
外国の立法246(2010.12) 147
 この法律の内容は、次のとおりである28。
⑴ 「新規認定難民」の労働市場への定着導入
支援等に対する責任を移行すること
 特定の条件に該当する新規に難民等と認定さ
れ居住を開始29した者(以下「新規認定難民」
とする。)30を担当する機関が、移民庁(国)及
びコミューン(地方)からAFM(国)に一本
化され、取扱いが全国で画一化される。新規認
定難民は、どのコミューンで就労しても扱いが
変わらなくなり、より自分に適した就労ポスト
とマッチングしやすくなる。
 コミューンは新規認定難民に該当しない難民
や移民の受入れに関しては、依然として責任を
負う。例えば、住宅支援、学童保育、未就学児
保育、市民生活のためのオリエンテーション、
移住者のためのスウェーデン語学習コース
(SFI)やその他の成人教育の実施等である。
従来、コミューンは、難民受入れについて、移
民庁と任意に協約を結んできたが、この制度は
継続される(コミューンの難民受入れは義務化
しない)。
 難民受入れ業務に関する各機関の責任の範囲
も変更され、レーン行政庁とAFMの責任が増
大する。まず、移民庁が1 年の難民の全受入れ
数を算定する。AFMは各レーン行政庁、移民
庁と協議し、レーンごとの難民受入れ分を決定
する。AFMによるレーンごとの受入れ分算定
では、コミューンにおける新規認定難民が就労
可能な就労ポストの量や種類を十分に考慮す
る。レーン行政庁とコミューンは、コミューン
が受け入れる難民の人数を協定で定める。
⑵ 新規認定難民の就労ポスト斡旋に関する制
度を改善すること
 居住許可が下りると直ちに、AFMは新規認
定難民のバックグラウンド調査、面談を行い、
新規認定難民の資質に応じた今後の就労支援の
ための基礎資料を作成する。コミューンによる
住居探しの支援期間は、従来、居住許可が下り
てから1 か月間であったが、6 か月に延長す
る。
⑶ 定着導入プラン制度を新設すること
 AFMは新規認定難民に対し、労働市場への
定着導入・自活のためのプラン(以下「定着導
入プラン」とする。)を対象者とともに、それ
ぞれの状況に照らして設計する。定着導入プラ
ンは居住許可が下りてから1 年以内に策定され
る。定着導入プランの対象となるのは難民とし
て居住許可を得た者及びその家族であって、20
歳以上64歳以下の者及びスウェーデンに親がい
ない18歳以上19歳以下の者となる。ただし、難
民の家族呼び寄せにより居住許可を得た者につ
いては、最初に家族の1 人が難民認定を受けて
から2 年以内に居住許可を申請した場合のみ定
着導入プランの対象となる。定着導入プランの
対象となる新規認定難民は、このプランへの参
加について制定法上の権利が認められる。
 既にフルタイムの営利活動に従事しているこ
と、通学、病気その他の身体的、精神的な障害
等を理由として少なくとも定着導入プラン全体
の4 分の1 の期間参加することが困難な者は、
定着導入プラン自体に参加できない。定着導入
プランの実施期間は、最大で2 年間となる。定
着導入プラン途中であっても、フルタイムでの
営利活動が半年継続した時点、大学等の高等教
育への進学が決定した時点等31、自活可能と判
29 住民登録簿(folkbokförning)に登録され、個人番号が付与されることとなる。
30 前掲注⑹
31 スウェーデンでは高等教育は基本的に無償であり、就学中には学生ローンの貸与や国からの奨学金支給がある
ため。
148 外国の立法246(2010.12)
断された時点で終了する。
 定着導入プランには、最低でもSFI、市民生
活オリエンテーション、就労準備活動を含む。
SFIと市民生活オリエンテーションは、国民番
号付与のための住民登録後1 か月以内の開始が
義務付けられる。
 定着導入プラン策定の詳細は、下位規則で定
められる。
⑷ 定着導入プラン参加者に対する補償金
 新規認定難民には定着導入プラン参加中、補
償金が支給される。補償金は全国で統一され、
個人単位で提供される。補償金は、課税対象所
得とはならず、他の社会保障上の給付と合わせ
て受領することが可能である(ただし、社会保
障上の給付を受ける場合には、補償金は世帯の
収入として換算される)。この補償金は、全国
どのコミューンに居住していても同額である。
また、世帯にではなく対象者個人に支給するこ
とにより、男女共同参画を促進する目的もあ
る。⑴により、補償金はコミューンを通じてで
はなく、中央政府の財源からの支給となる。従
来は、難民に対する補償金等はコミューン間で
ばらつきがあった。定着導入プランに参加しな
がら、一定程度の就労をすることも可能であ
る。支給のための条件として、定着導入プラン
への出席率等が勘案される。例えば、(認めら
れた場合を除き)定着導入プランへの不参加や
欠席があると、補償金が減額される可能性があ
る。また、受給者の営利活動による収入が一定
額ある場合にも減額となる場合がある。定着プ
ラン終了または中止とともに支給は終了する。
⑸ 市民生活オリエンテーションの義務化
 多様な社会的背景を有する新規認定難民に、
スウェーデン社会共通の価値観である民主主義
の基本的価値の重要性や市民の平等、男女平等
参画の重要性を身につけさせる。これらが社会
参加と就労を促進するための重要な要素と考え
られるためである。特に社会における個人の義
務と権利についての明確な情報を提供すること
が重視される。
⑹ 定着導入プラン実現のための「水先案内人」
制度の新設
 新たに導入される「水先案内」業務は、会社、
労働組合、経営者団体のような非経済的社団
(ideella föreningar)又は経済的活動と収益を
目的とする経済的社団(ekonomiska föreningar)
等の法人格を有する社団及び事業者団体等によ
る民間参入が認められる。水先案内人の活動内
容はAFMの指示の下での、新規認定難民の早
期就労や定着導入プラン実施の支援である。水
先案内人は、新規認定難民に居住許可が下りる
と、対象者ひとりひとりに対して直ちに選定さ
れる。AFMに認可された複数の水先案内人の
中から新規認定難民は自身の案内人を自由に選
択できる。
 これまでAFMによる類似の支援が、裁量的
に一部の難民に対して行われてきたが、実施ま
でに居住許可が承認されてから1 、2 年が経過
していたのが通例であった。「水先案内」業務
はこれを発展・強化したものである。
2  法案審議の論点
⑴ 反対意見
 所管の社会保障委員会、本会議とも政府提出
議案を無修正で採択した。しかし、野党から次
の点について反対意見も出された32。
 @ 新制度の執行責任のAFMへの一本化に
ついて
 難民受入れに伴う負担が年々増加している
32 Arbetsmarknadsutskottets betänkande 2009/10:AU7, op.cit(. 28), pp.10-38.
スウェーデンの外国人政策と立法動向
外国の立法246(2010.12) 149
コミューンから、難民の就労支援の部分の役
割を国が引き継ぐことには賛同できるが、
AFMではなく別の新たな機関を組織して当
たらせるべきである。また、新規認定難民受
入れや定着導入に関係する各機関の責任範囲
が不明確である。近年のコミューンの負担増
への対応としての権限移行であるならば、役
割を引き継ぐAFMに対しても、コミューン
への補償金以上の予算を割り当てる必要があ
る。
 定着導入プランの主要内容の1 つとされて
いるコミューンが実施するSFIは、質の低
下、特に講師の質の低下が問題視されてお
り、改善を必要としていることから、AFM
へ執行責任を一本化するよりも、コミューン
と国が並行して新規認定難民の就労支援を行
うべきである。
A 定着導入プランの対象者の範囲について
 法案では家族呼び寄せの場合には、最初に
家族の1 人が難民認定を受けてから2 年以内
に居住許可を申請した者だけに定着導入プラ
ンの対象が限定されているが、難民の就労を
支援し、労働力の確保を目指すのであれば、
これを最初の6 年以内まで対象を拡大すべき
である。
B 定着導入プランの内容
 難民は様々なリハビリが必要な状態で入国
することも多いため、定着導入プランに、リ
ハビリプログラムも含めるべきである。
 C 定着導入プラン実現のための「水先案内
人」制度の新設、民間の参入
 自由選択システムが機能するためには、前
提として、市場に各人に適合した選択を可能
とする選択肢が多数存在しなければならな
い。社会福祉的要素の強い業務である「水先
案内」業務は、採算性にも疑問があり、民間
企業等がこれを公正に実現することをAFM
が担保できるか、多様な難民の選択に対応で
きる程度の参入が見込めるか等の懸念があ
る。
D コミューンへの難民受入れ分配について
 コミューンの難民受入れを任意にするので
はなく、義務化すべきである。その場合、割
当て人数は各コミューンの人口規模等を参考
にする。仕組みとしては、移民庁とレーン行
政庁が難民の受入れに関する協定を個々に結
び、レーン行政庁は個々のコミューンと一定
の受入れ人数を定め、コミューンとの協定を
その後結ぶようにすべきである。
E コミューンへの国からの補償金について
 一部の難民受入れ関連業務がコミューンか
ら国へ移行することに伴い、これまでコミュ
ーンが国から得ていた補償金がなくなること
によって、国とコミューンの業務連携に影響
を与える可能性が危惧される。市民生活オリ
エンテーション、住居支援、スウェーデン社
会理解の支援等への責任をコミューンが引き
続き負うことはもちろん、定着導入プラン対
象者以外の難民等の受入れについての最終的
な責任もコミューンが負わなければならない
ことから、コミューンの今後の責任を負うべ
き範囲を明確化し、国からの補償を確保すべ
きである。
⑵ 採択理由
 これらの点に対し、委員会は、次のような法
案採択の理由を挙げた。
 @ 新制度の執行責任のAFMへの一本化に
ついて
 従来のコミューンによる難民受入れは、社
会保障的な側面が大きく、難民の労働市場で
の積極的活用の側面は薄かった。難民の迅速
な就労を促進するためには、全国的な規模で
雇用とのマッチングを行う必要があり、国が
一貫して責任を負うことが望ましいと考えら
れる。また、コミューンごとに補償額や取組
みの内容が異なることも、難民が労働市場に
150 外国の立法246(2010.12)
参入する上では望ましくない。
A 定着導入プランの対象者の範囲について
 母国での学歴や職歴を有している難民は、
適切な求人があれば迅速に就労が可能である
にもかかわらず、これまでスウェーデン国内
ではそのようなマッチングが十分に機能して
いなかった。これを改善するのが、新制度の
目的であるため、定着導入プランの対象者の
設定は適切といえる。
 また、家族呼び寄せによる新規認定難民の
場合には、最初に家族の1 人が難民認定を受
けてから2 年以内に居住許可を申請した者に
対象を限定した理由は、スウェーデンに継続
して滞在している家族がすでにいる者は、公
的な支援よりも家族の支援により就労ポスト
を見つける場合が多く、制度の必要性が比較
的低いと判断したためである。
B 定着導入プランの内容について
 母国で特別に困難な事態にあった難民につ
いては、スウェーデンで就労するにあたりリ
ハビリが重要なステップとなることに異論は
ない。しかし、労働能力という点を分けて考
えることも重要である。新制度では、病気や
その他の精神的、肉体的問題があって定着導
入プランに参加できない者については、プラ
ンに参加させず、リハビリ等の措置を講ずる
道を残している。
 C 定着導入プラン実現のための「水先案内
人」制度の新設、民間の参入について
 近年AFMの業務を補完して機能している
人材派遣会社等が良い事例であるように、
「水先案内」業務に参入する者の公正な競争
を妨げることがないよう対策を講じた制度を
構築することにより、新規認定難民に対して
自由選択システムの有効性が保障される。ま
た、新規定着難民側には再選択の自由が認め
られており、民間の水先案内人に満足できな
い場合にはAFMに水先案内人業務を担当さ
せることもできる。
D コミューンへの難民受入れ分配について
 新規認定難民を義務的に全コミューン間に
均等分配することには、雇用へのアクセス改
善等の有益な点があることを認める。しか
し、義務化されていないにもかかわらず、
2009年時点では、290中270のコミューンが移
民庁と難民の受入れ協定を結んでいる。現状
ではコミューンの負担増を引き起こす可能性
のある受入れ義務化は、有効ではないと判断
する。AFMがレーン行政庁と共同して難民
受入れ配分について責任を負うことは、受入
れ配分に労働市場的観点が強く反映され、最
終的な受入れ先となるコミューンの受入れ能
力と割当て数との均衡を管理することに役立
つ。
E コミューンへの国からの補償金について
 この制度改正で、コミューンの責任は減少
するため、難民受入れに関する国からコミュ
ーンへの補償金は変更すべきである。ただ
し、コミューンの難民受入れの負担は、今後
も継続するため、その負担に見合った補償金
のモデル算定をコミューンに行わせ、補償に
不足がないように運用する。
おわりに
 ビルストローム移民・難民担当大臣は、スウ
ェーデンは海外から労働力を集めるという点で
は、他国よりも不利であるとしている。「移民
が求めるのは、英語圏で、税金が安く、気候に
恵まれた国である」というのが理由である33。
さらに大臣は、高齢化するスウェーデンが福祉
国家を維持するために2050年までに必要な労働
33 大竹 前掲注⑶
スウェーデンの外国人政策と立法動向
外国の立法246(2010.12) 151
力のすべてを労働移民に頼ることが可能かどう
かについても悲観視しており、労働移民は高齢
化社会への特効薬ではないと断言してもいる34 。
このような認識に基づくならば、難民を労働力
として取り込み、スウェーデン社会への貢献を
促すという、本稿第V章で紹介した取組みは、
合理的な試みとも言えよう。
 本稿第U章で紹介したスウェーデンの労働移
民の自由化は、2008年12月から実施された。
2008年の労働許可の発給件数は、2 万2882件
で、出身国の内訳は1 位タイ、2 位インド、3
位中国であった35。2009年は1 万4363件であ
り、出身国の順位も2008年度同様であった36。
現状では、運用開始から日が浅く、2008年の移
民制度改革がどれほどの効果を上げたのかは未
知数で、社会に対し何らかの影響があったかを
うかがい知ることも困難である。
 2010年9 月の総選挙において、スウェーデン
国会には、外国人問題を考える上で大きな変化
も生じた。移民排斥を強く主張する極右的政党
であるスウェーデン民主党が、初議席(20議席)
を獲得したことである37。加えて、再び政権を
取るのが中道右派ブロック第1 党の穏健党を中
心とした中道右派連立政権ではあるものの、連
立相手の自由党、中央党、キリスト教民主党の
得票が伸びなかったため、左派ブロックの中で
最も中道寄りの環境党かスウェーデン民主党
が、国会においてキャスティング・ボートを握
る可能性が生じている。
 このような状況下、今後の新政権の外国人政
策の動向は、引き続き注目に値しよう。
(いび みえこ)
34 Ministry of Justice, op.cit(. 13), p.1; Justitiedepartementet, op.cit(. 13), p.1.
35 Tillstånd på grund av arbete 2008. スウェーデン移民庁ウェブサイト〈http://www.migrationsverket.se/
info/1897.html〉
36 Beviljade ansökningar arbete helåret 2009. スウェーデン移民庁ウェブサイト〈http://www.migrationsverket.
se/download/18.6332790112ab7633e5f800020691/Beviljade+arbetstillst%C3%A5nd+hel%C3%A5ret+2009.
pdf〉
37 スウェーデンの国会議員選挙は完全な比例代表制であり、政党は全投票数の4 %以上を獲得しなければ1 議席
も取ることができない(統治法典(Kungörelse(1974:152))第3 章第8 条)。2010年の総選挙では、スウェー
デン民主党は、5.7%を獲得した。  

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