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クルバーン・バイラム――犠牲祭
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投稿者 あやみ 日時 2011 年 11 月 08 日 15:53:04: oZZpvrAh64sJM
 

つれづればな http://turezurebana2009.blog62.fc2.com/blog-entry-62.htmlより転載

- 2011/11/07(Mon) -
ここ数日はひと足もふた足も早い正月気分をあじわっている。筆者の住むトルコは祭り一色、この秋から高校に進学し近くの都市で寮生活を始めた長男が家に帰ってきているのもうれしい。
おとといからの四日間、イスラム世界は「クルバーン・バイラム――犠牲祭」を祝う。


イスラムの教義はすべてクルアーンに明記されており、それを拠りどころに後世のイスラム法学者たちが千年かけて法律、生活規範を整えた。現代の資本主義経済や民主主義社会とはまるで噛み合わないイスラム法であるが、なにか不思議な斬新さと便利さを感じさせる。日本ではなじみがないと思うので犠牲祭という窓から覗いてみたい。


「犠牲」となるのは牛や羊、山羊をはじめとする(イスラム教で認められるところの)食用の四足動物である。血を流し、「犠牲」を神に捧げたあとはその肉を譲り受け、貧しいものと共に分け合う。

犠牲祭で動物を屠るのはイスラム教徒の義務である。ただし余裕のあるものに限ってのことで、貧しいものにはその義務がない。さらに負債のある者にはその資格がない。借金をして動物を仕入れたりカードで決済する者も多いがこれははよろしくない。

羊を40頭飼っているのならその内の一頭をほふり、農業を営んでいるならばその穫れ高の、商人であればその年の儲けの40分の1を、つまり一年の収入の40分の1を犠牲に費やすというのが大よその見当だ。
その肉の3分の1を貧しい家族に施し、ほかの3分の1は来客に振る舞い、そして残りの3分の1を家族で食す事が許されている。また、毛皮はモスクか政府の機関に寄付し自分で使ったり売ったりすることはできない。

家族の元を離れているものは、たとえどんなに儲かる仕事があろうと祭りの当日までには家に戻る。または家族を呼び寄せる。雇用主はそれを認め、援助しなければならない。そして可能な限り親に会いに行く。
仲違いをした親戚や友人があれば祭りの間にお互いを訪れて和解する。先に和解を切り出した者のほうが、神の御加護をより多く得られる。借金やツケは祭りの前日までに潔いにしておかなければならない。

一頭まるごと寄付してしまうこともできる。ただし、ともに食卓を囲む者、特に子供がいる場合は良しとされない。特別な日を家族と共に祝った記憶は子供たちの心と人生を豊かにするであろう。

また、例えば、近所に病人がいて一刻も早い手術が必要だがその費用がない、それならば羊に費やすはすだった資金をそのまま渡しても犠牲祭の義務を果したことになる。瀕死の病人が肉をもらっても困るのである。

生活に余裕のあるものであれば自分の家族のほか、学生寮や孤児院、医療施設、災害による被災地、海外の貧しい国のためにも出資できる。現物に限らず政府や民間の機関を通して送金してもよい。我が家からも及ばずながらアフリカの旱魃地帯とトルコ東部の地震被災地に援助を送ることにした。

自国の通貨が海外に流失してしまうのだが、そんなことは神様の知ったことではない。通貨などは地上を好き勝手に走り回っていれば良い。その振る舞いに人が一喜一憂していては、いけない。

庭や台所が血だらけになる、手を汚したくない、面倒だという理由で送金のみに逃げてしまうと、神のご加護もその分遠ざかってしまう。

仔を身篭った動物を犠牲にすることは厳禁である。そうと知りつつ売っても買ってもいけない。

「今年の羊は痩せてて脂が乗ってないわねえ、ほんとにあんたって見る目がないわ」
「隣が牛だってのにウチは羊だなんて、ああみっともない!これもあんたの稼ぎが悪いからよ!」

と、女房が亭主をなじってはいけない。なぜなら、動物はあたかもご亭主が連れてきたかのようにみえるがそうではなく、神に与えられたのである。ついでに言えば夫婦の縁を結ぶのも神様なのだから相手にいちいちケチをつけないでとりあえず大事にしたほうがいい。

動物にあたえる恐怖と苦痛は最小限に留めなくてはならない。逃げないようにと足の骨を折るなどはもってのほかで、刃物を見せてもいけない。他の動物の悲鳴を聞かせてもいけない。一瞬で仕留めなければ痛みと恐れにもがく動物の血は汚れ、脂は酸化し、肉は硬化し毒素がまわる。これでは犠牲を捧げたことから程遠い。


ひとはここで生きる物の「命をとる」という事態に直面する。さっきまで美味そうに草を食んでいた、罪のない動物の喉元に刃物を当てている自分、何のために? 誰のために? と迷う。手は震える。

―― 自分のためさ、斬れ、殺せ、かまうものか、そして誰にも分け与えずに腹を満たすがいい!」―― 悪魔は誘う。

―― 神は偉大なり 神は偉大なり 神をおいて我の信ずるものはなし ―― 女房と子供たちの歌声で我に返る。

神はなぜに犠牲を捧げよと命じたか。
一人の人間が肉を食べる、食べないは本人が決めることだが、「食べる」事を除いても人の営みが他の生き物の上に成り立つことは否定のしようがない。食料のみならず、住居、衣料、交通、調度品、楽器、武具、農耕すべての文化に動物は欠かせなかった。人間の暮らしを助けてきたのは動物で、それは人間がその命をとることで成立してきた。
しかし今の世の中、食料を調達するのに手を血で染める必要などない。虫も殺さぬ風情の者でも肉を、魚を食べて育つ。だからこそ、生き物の命を奪うことの重さと憂鬱さを知らなければいけない。


己の手によって血を流す動物がこと切れるまでの間、多かれ少なかれ人は胸の中の神と問答する。命とは、なにか。

いけない、ならない口調で述べたことは必ずしも履行されていないのが現実である。偽善、嫉妬、中傷、詐欺、虐待は絶えず、それは犠牲祭に限ったことではない。。しかしそのために逮捕されたり罰金をとられるわけではない。なにせ神様が相手である。
誰とて間違いはおかす。が、人生という限られた時間の中でそれに気づき悔恨することで神に近づくことができる。ただ、その人生がいつ終わるかは神のみぞ知る。


トルコでは家畜を大事に育てる。狭い家畜小屋に押し込んだり配合飼料やホルモン剤で太らせたりもしない。夏は放牧しタイムなどの香草をたべさせ冬は干草やりんご、ジャガイモ、穀類をやる。雪の中、湖の底から水藻を掬い取って食べさせたりもする。

近くの村の農場主が煮沸していない生の牛乳を車で売ってまわり、鍋を持って買いに行く。
先週の牛乳は変だった、ジャガイモのような味がしたと文句をいうと、あっごめんジャガイモ食べさせすぎたとあやまる。
当然だが、食が重要なのは人も家畜もかわらないのだ。よく世話をして大事に育てればそのぶん乳や肉の質が高くなる。
しかしそんな国でも大都市に行くにつれこの理屈が通らなくなる。人口が集中し外食産業が発達すればそれだけ食の質が落ちる。いいものは沢山はつくれない。ましてや生き物なのであるから限界はすぐにやってくる。足りなくなれば無理やり増やそうとするのが人間だ。そして去勢された味覚、いや五感すべてはは身に迫り来る危機を感じ取れない。
店舗で調理された食品がすべて消費されたりはしない。その半分近くが残飯として家畜に食べさせられる。そして運輸の発達が地方の畜産業までもこの悪循環に引き込んでしまうのだ。

祭りの間は、紛争や戦争も休戦しなければいけない。この間に傷ついた兵士を助け国許にかえす。また停戦の道を模索する。たとえ相手が異教徒でも攻撃は許されず防戦に徹する。しかし停戦とは名ばかりに終わることのほうが多く、どちらかの一方的な敗戦によって終戦を迎える。

トルコの東部、イラクとの国境近くには、羊の放牧で生計をたてている人たちがまだ多い。山から山へと牧草を求めて何ヶ月も移動し続け羊を育てる彼らは、世間とはある意味で隔絶されている。財産や教育ともあまり縁がなくて当然だ。

イラク戦争のころの、ある記者と羊飼いの老人との会話、事あるごとに思い出される。


おじいさん、ブッシュってしってる?

―― 知らんよ。

じゃあサダム・フセインは?

―― そんな奴、この山にいたかのう、何する人じゃ?

あのね、あの山の向こうで戦争してる人たちだよ

―― 悪いやつらだ。戦争は、してはいかん。

 

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