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『from 911/USAレポート』第515回    「スキャンダル報道に「ゆるむ」、転換期のアメリカ」 冷泉彰彦
http://www.asyura2.com/10/kokusai5/msg/687.html
投稿者 sci 日時 2011 年 5 月 21 日 13:18:05: 6WQSToHgoAVCQ
 

『from 911/USAレポート』第515回

    「スキャンダル報道に「ゆるむ」、転換期のアメリカ」

    ■ 冷泉彰彦:作家(米国ニュージャージー州在住)




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 ■ 『from 911/USAレポート』               第515回
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「スキャンダル報道に「ゆるむ」、転換期のアメリカ」

 大震災からの復興努力、原発事故収拾の努力などと並行して、エネルギー政策や金
融秩序、財政規律などについては、非常時の混沌が拡大している日本から戻って来ま
すと、アメリカの社会は全くの別世界にように見えます。そこには奇妙な無風状態を
感じるのです。

 確かにアメリカでも様々な事件が起きています。とりわけ、現在進行形のミシシッ
ピ川流域の大洪水や、先月末のアラバマの巨大竜巻の同時多発災害など、歴史的な規
模の大きな自然災害が発生しています。ですが、こうした自然災害は、地震保険や竜
巻保険の加入率が高いこと、保険金支払が恐らくはスムーズに進むと考えられること
から、社会的な激動を招くような事態には至っていません。

 その代わりに、今週のアメリカを騒がせているのは二つの「下半身スキャンダル」
です。確かに、アーノルド・シュワルツネッガー前カリフォルニア州知事の「愛人、
隠し子」という問題、そしてIMFを辞任に追い込まれたドミニク・ストラス=カー
ン前専務理事のレイプ疑惑、この二つは「超メジャーなスキャンダル」に他なりませ
ん。連日のようにニュースのトップ、新聞の一面トップはこの「二人」の「事件」で
占められているというのも当然でしょう。

 超大物の「下半身」の醜聞ということで、一つに括られがちですが、そのトーンに
は違いがあります。まず、ストラス=カーン事件の方ですが、同前専務理事が一連の
欧州金融危機に際して辣腕をふるったことを知っている層、こちらの動揺は激しいも
のがありました。その結果として、経済局のCNBCなどの扱いは極めて大きかった
のです。ただ、ビジネスの世界の人々の関心は「危機に対して奇跡的な才能を発揮し
た人物が消えてしまうことへの不安」が主であり、スキャンダルそのものに対しては
詳細に報じつつ「何故?」という驚きをずっと引きずったままでした。

 一方で、事件が進展するにつれてタブロイド版の新聞や、TVの事件報道は加熱し
て行っています。そこには「ヨーロッパのお高く止まった紳士の転落劇」を眺めると
いった好奇の視線がありました。ですが、本人、夫人、お嬢さんの三人が常に「クー
ルな表情」で対応する中、無実を主張して争う姿勢を見せると、その「ノリ」がアメ
リカ人とは違う一種の毅然さを持っていると感じられたのか、スキャンダル報道に仕
立てる方も、今ひとつ勝手が違うという感じもあります。

 本稿の時点では、1ミリオン(約8千2百万円)の保釈金を積んで拘置所から出た
ものの、GPSシステムの「足輪」をはめられたとか、24時間体制でビデオ監視の
つく「座敷牢」状態だとかいう報道がされていますが、やはりメディアとしてはスキ
ャンダルとして盛り上げるには、外国人ということもあって「文脈への当てはめに苦
労」しているようです。

 この事件に関しては、アメリカで起きた事件ではありますが、アメリカ人としては
ストラス=カーンという人物の「キャラ」が今ひとつ納得できない中、とにかく「フ
ランスの偉い人がアメリカで極悪なことをしでかした」のだから、「絶対に逃亡させ
るな」というのがアメリカの基本的なスタンスです。

 この人物がどこまで「女性に対して悪質」なのか、仮にそうだとして、それはこの
人物の半生とどんな関係があるのか、また家族はどう思っているのか、というような
点については、余り浮かび上がってこないわけで、とにかく「通りすがりの外国人の
犯罪」という位置づけになっています。逆にそう位置付けてしまえば、いくらでもバ
ッシングは可能なわけで、ぎこちない中ではあっても、完全に「社会面」ネタとして
扱われています。

 一方で、シュワルツネッガーは、アメリカの政界・芸能界における超有名人であり、
ケネディ家の一員であるマリア夫人とのコンビも有名です。そのスキャンダルという
ことで、確かに話題を呼んでいるのですが、こちらもあと一歩「スキャンダルとして
盛り上がりに欠ける」部分があるのは否定できません。

 話題として盛り上がりに欠く理由の一つは、鳴り物入りで現職をリコールに追い込
み、出直し選挙に勝って華々しい州政をスタートさせた前知事の時代が、急速に過去
になって行ったということもあると思います。危機的な財政を根本から改革すること
が期待された前知事ですが、結局は資金繰りのウルトラCに力を発揮したのがせいぜ
いで、後は山火事との戦いを続ける住民や消防への「陣頭指揮」が記憶に残るぐらい、
要するに目立った成果を残すことはできなかったのです。

 勿論、芸能人としては大変な知名度を誇る中、ハリウッドへの復帰も計画に入って
いたようで、そちらの方が「オクラ入り」になるということで話題を提供しています
が、それも大騒ぎということにはなっていません。アーノルド・シュワルツネッガー
というブランドそのものが「過去」という影に覆われようとしており、今回の事件は
そのスピードを早めるだけということ、これにマリア夫人の持っている「ケネディ神
話」も同じように人々の心理の中では過去形になって行っている、背景にあるのはそ
んな事情であると思われます。

 ただ、この二つのスキャンダル、中身はかなり異質だと思うのです。仮に報道され
ていることが真実であるならば、ストラス=カーン氏の「犯罪」は今回の事件、そし
て類似の過去の事件などもそうですが、悪質だと思います。これに対して、シュワル
ツネッガー氏の「罪」には、どこか人間的なものを感じるのも事実です。

 オーストリアからの移民として常に英語の発音を批判され続けた一方で、ケネディ
家の一員であると同時に、モデルのような風貌とコンピュータのような頭脳を兼ね備
えたマリア・シュライバーという女性を「射止めてしまった」運命はこの人物にある
種の影を与えたのでしょう。その影の中で、この傷つきやすそうな人物が、何とも庶
民的なグアテマラ出身の家政婦との間に、人に言えない秘密の幸福を抱えていたとい
うのは、人間性の複雑さが析出する例として、最悪のものとは言えないように思いま
す。

 奥さんや子供たちのことを考えると、全く擁護はできないのですが、例えば同じ芸
能人の「不倫」にしても、出世街道を驀進する中で「糟糠の妻」を裏切って若さと知
性をギラギラさせた女に走る、そうした種のストーリーはハリウッドでは退屈するほ
ど転がっているいるわけです。そうしたストーリーの持つ軽率さと比べると、シュワ
ルツネッガーのスキャンダルは、どこか痛々しい人間ドラマを内包しているように思
います。

 ただ、アメリカの、とりわけカリフォルニアという移民社会では、そんな「移民一
世の孤独」とか「名家のムコとしての違和感」などというのを理由に不倫を正当化さ
れてはたまらない、つまり一世も二世もゴロゴロしている社会であるわけです。まし
て、シュワルツネッガーのように、芸能界と政界で頂点を極めた人間に対して、そん
な「移民の孤独」を理由に情状酌量をするようなことがあってはキリがないわけです。

 ひたすらに醒めたバッシングが続いている背景にはそんな事情もあるように思いま
す。ちなみに、この事件に関して言えば、元家政婦の愛人と、シュワルツネッガー氏
との間に生まれた子ども(14歳の男の子だそうです)に関しては、一部のメディア
が愛人の実名を報道している以外は、身元はかなり厳格に守られているようです。そ
うした姿勢にある、ヒスパニック系の人々の権利への配慮や、思春期の真っ只中にあ
る子どもへの配慮といった「節度」は、ある種の救いに思います。

 ちなみに、シュワルツネッガー氏に関して言えば、芸能界への復帰には時間を要す
るでしょう。仮に時間が経ち、世論から許されて復帰という場合も、私はもう「強い
孤独な男」というキャラでの彼のアクションは見たくありません。複雑さを抱えつつ、
ある種の柔らかさを持つ人物として、陰翳の濃い中にも救いのある人間ドラマへの転
身を期待したいように思います。一家の「キャッシュフロー」がもしかしたら許さな
いかもしれませんが、曲折の果ての円熟をどこかで見せてくれないものかと思うので
す。

 それはともかく、こうしたスキャンダル報道ばかりが目立つというのは、明らかに
アメリカ社会の「ゆるみ」を象徴しているように思います。景気も一進一退ながら大
きく崩れてはいない、オバマの支持率は当面は安泰、日本の震災と原発事故報道には
「一段落」の感がある、そんな中ある種の「息抜き」として、こうした事件が過度に
取り上げられている、そう見ることができます。

 ちなみに、今週のアメリカの政局について言えば「オバマの中東演説」が目立って
いました。一連の民主化革命を「中東の春」だと持ち上げて支持を表明、何とか落と
し所へ持ってゆこうという内容ですが、一方でイスラエルに対して「1967年時点
の国境合意」へ戻るように要請、イスラエルからは早速強い反発が出ています。

 ビンラディンを殺す一方で、イスラエルにも強く出てバランスを取りながら、反発
するイスラエルのネタニヤフ首相は、問題の演説の直後にホワイトハウスに招き入れ
て「説得の第一歩」に引っ張り込むなど、相変わらずオバマの手法は「したたか」で
す。その一方で、「民主化」の進むエジプトでは、1993年のNYでのテロ事件で
収監されているアルカイダの指導者の一人、アブドゥル=ラフマーンの釈放要求デモ
が公然と行われるなど、ビンラディン殺害の余波は微妙な情勢への変化となって顕在
化しているようです。

 世間が「スキャンダル報道」に「ゆるんでいる」一方で、オバマはどんどん次の手
を打ってきています。これに対抗する共和党の方は、積年の課題である「移民問題」
で大統領を追い詰めようという作戦を練っているようですが、こちらがどんな展開に
なるかは未知数です。また2012年へ向けての大統領候補選びに関して言えば、草
の根保守を意識したポピュリストのハッカビー、トランプという個性的な「役者」が
既に撤退してしまい、ギングリッチ、ポウレンティなどの地味な実務家中心の展開が
当面は続きそうです。

 オバマの「中東革命支持+パレスチナ和平」というスタンスが果たして短期間で成
果を生むかは全く分かりません。ですが、この動きを別とすると、時代の流れは一つ
の方向性が終わって、新しい流動化が出てくる前の停滞にあるように思います。ニュ
ースメディアが「スキャンダル報道」に埋めつくされているのはその象徴のように思
えます。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大
学大学院(修士)卒。著書に『9・11 あの日からアメリカ人の心はどう変わった
か』『「関係の空気」「場の空気」』『民主党のアメリカ 共和党のアメリカ』など
がある。最新刊『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』(阪急コミュニケーショ
ンズ)( http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4484102145/jmm05-22 )  

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