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米不景気でも犯罪が減少している理由
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投稿者 sci 日時 2011 年 6 月 01 日 13:41:12: 6WQSToHgoAVCQ
 

米不景気でも犯罪が減少している理由
ジェームス・ウィルソン

2011年 5月 31日 18:34 JST
 

 2010年の米国の凶悪犯罪件数は40年ぶりの低水準――。連邦捜査局(FBI)のこの発表に多くの犯罪学者が当惑した。この年は経済状況が悪く、犯罪学では一般に失業と貧困が犯罪発生に深くかかわっていると考えられ、メディアでも長年そう伝えられてきたからだ。この考え方は、合法的な仕事が減れば非合法の「仕事」が増えるという単純な理屈に基づいている。
警官 Getty Images

ニューヨーク市警の警官

 ノーベル経済学賞を受賞したシカゴ大学のゲーリー・ベッカー氏は、この1960年代の古典的な概念を次のように一般理論化した。すなわち、犯罪は合理的な行動であり、犯罪による「期待効用」が別の活動(レジャーや合法的な仕事など)に時間や他のリソースを費やした場合の期待効用を上回る場合に実行される、と論じた。観測によって裏付けられた理論のように聞こえるかもしれない。結局、犯罪率の高い地域は貧困率や失業率も高い傾向にあるのだから。

 しかし、失業が犯罪の原因だとする考え方には昔から問題がある。まず、犯罪が増加した1960年代と犯罪が減少した1990年代後半や2000年代前半とでは、失業率が基本的に同程度であった。また、失業率が25%に達した大恐慌時代、多くの都市で犯罪率が低下した。この点に関しては、大恐慌時代には失業と貧困が一般的であったため家族が親密になり、互いに助け合う気持ちが強く、ともすると犯罪行為に走りがちな若者に常に大人の目が届いていたからだ、と説明することもできる。近年では多くの家庭で絆が弱まり、子どもたちが自立するようになったため、同様の効果は見られなくなった。このため、一部の犯罪学者は、失業率が1%上昇すれば窃盗犯罪の発生率が2%程度上昇すると論じている。

 しかし、先の不況ではそうはならなかった。全国失業率が約5%から10%近くへと倍増するなか、窃盗犯罪の発生率は増加どころか激減した。FBIの報告によると、2009年には全国の窃盗発生率が前年比で8%、自動車窃盗発生率が同17%、それぞれ低下している。大都市圏でも同様の結果が報告されている。2008年から2010年の間にニューヨーク市では窃盗発生率が4%低下し、強盗発生率も10%下がった。ボストン、シカゴ、ロサンゼルスでも同様の減少が見られた。

 失業率は失業と犯罪の関係を証明するための経済的不満の尺度としては大雑把すぎる、と論じる学者もいる。失業率は、職探しをしているが仕事が見つからない人の割合のみを推計した値だからだ。しかし他の経済指標でも状況は似たようなものだ。労働参加率を見れば、仕事も職探しもしていない人々――つまり「労働力人口」とはみなされない人々――の割合が分かる。もし、「景気が悪化すれば犯罪が増加する」という理論が正しいとすれば、これらの人々は特に犯罪を起こしやすい人々ということになるはずだ。しかし、2008年には、犯罪が減少していたにもかかわらず、16〜24歳の男性(犯罪を行う確率が他の属性に比べ極端に高い)のうち労働力となっていた人は約半分と、1988年の3分の2超から減少している。同様の減少はアフリカ系米国人男性(やはり犯罪を行う確率が極端に高い)の間でも見られる。

 ミシガン大学消費者信頼感指数を用いると、違った角度から景気と犯罪の関係を評価することができる。この指数は数千件のインタビュー調査に基づいて作成されるもので、過去1年間の家計の変化、今後1年間の見通し、耐久消費財の購入予定などについて人々に質問する。人々が直面している客観的条件ではなく、人々の感覚を測る指標であり、株式市場の動向を予測する上で非常に有用であることが分かっている。また、人々の信頼感が下がると犯罪率が上昇するという傾向も過去には見られた。しかし、2009、2010年にこの指数が急降下した際には、株式市場が予想通り下落する一方で、犯罪率は低下した。

 このように、最近の犯罪率の低下を仕事や労働市場、消費者信頼感で説明することにはかなり無理がある。では、実際のところ犯罪率はなぜ低下しているのだろうか。

 一つ明らかな答えは、以前に比べ刑務所に収容されている人の数が大幅に増えていることだ。影響の程度は専門家によって異なるが、犯罪率低下の4分の1以上は収監者数の増加によって説明できるとするウィリアム・スペルマン氏とスティーブン・レビット氏の見解がほぼ正しいと思われる。確かに、あまりに多くの犯罪者があまりに長い間収監されていると指摘する識者は多い。下っ端の麻薬密売人や、仮釈放条件違反で再び収監された受刑者などに関しては、そうした意見も当てはまるだろう。しかし現実には、犯罪者が刑務所に入っている限り、犯罪者同士で争うことはあっても、あなたやあなたの家族に危害を及ぼすことはないのである。

 収監が犯罪減少に影響しているという理論は、米国の窃盗、強盗、自動車窃盗の発生率が英国より低いことを説明するのに有用だ。両国の犯罪発生率の差は、有罪の犯罪者を収監する条件の違いではなく(この点は両国ほぼ同じだ)、収監期間の違いによって生じたものである。同じ犯罪でも収監期間は英国より米国の方が長い。しかし、収監だけで米国の犯罪減少を説明することはできない。カナダでは犯罪が米国とほぼ同程度減少しているが、収監率は少なくともここ20年間さほど変わっていない。

 犯罪減少の理由としてもう一つ考えられるのは、被害者になり得る人々が自宅に侵入警報器を取り付けたり、車に複数の鍵を掛けたり、より安全な建物や地域に引っ越したりして自己防衛に努めるようになったという点だろう。ただ、こうした傾向がどれだけ一般的で、犯罪にどの程度の影響を及ぼし得るかは、漠然としか分からない。

 警察の取り締まりも過去20年間でより厳しくなった。最近の警察は、単に逮捕件数を増やすのではなく犯罪を減らすことを重視する傾向にあり、この変化によって犯罪率が低下している。最も重要な新手法の一つは、「ホットスポット・ポリシング」(犯罪多発地帯の集中的取り締まり)と呼ばれるものだ。犯罪の大多数は同じ場所で発生する傾向がある。警察官に緊急通報電話を待ちながらパトロールをせよと指示する代わりに、犯罪多発地帯に警察リソースを積極的に投入すれば、犯罪を減らすことができる。ホットスポットの手法で効果を上げているのがニューヨーク市警の「コンプスタット・プログラム」だ。このプログラムでは、犯罪が発生している場所がコンピューター化された地図にピンポイントで示されるため、そうした地区での重点配備が可能になる。

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米国の失業率と犯罪率の推移

 ホットスポット・ポリシングの精度を高めるための研究も続けられている。犯罪学者のローレンス・シェーマン氏とデイビッド・ワイズバード氏は、ミネアポリスの複数の現場で警官が到着した際の状況を7000件分調べた。その結果、警官が現場に滞在した時間が長くなるほど、警官の退去後にその場所で犯罪が発生しない時間も長くなることが分かった。ただし、それは警官の退去後15分までで、15分以上たつと犯罪率は上昇する。つまり、警官が最も効果的に時間を使うには、ホットスポットにしばらくとどまり、そこを離れ、15分後にまた戻ってくればよいのだ。

 現在、一部の都市では、コンピューター・システムを使って交通事故と犯罪率のマッピングを行っている。これにより、二つの測定結果が合致する傾向にあることが確認された。事故が多いところでは犯罪も多いのである。カンザス州ショーニーで犯罪発生の3分の1を占める、街の4%の地域に警官がより長い時間滞在したところ、その地域では強盗が60%減少し(街全体では8%しか減少しなかった)、交通事故が17%減少した。

 犯罪減少に医学的な理由があることも考えられる。医師の間では数十年前から、血液中の鉛の量が多い子どもほど攻撃的、暴力的になりやすく、非行に走る傾向が強いことが分かっていた。1974年、米環境保護局(EPA)は石油会社に対し、ガソリンに鉛を入れることをやめるよう要求した。同時に、鉛を含んだ塗料を新築住宅に使用することを禁止した(ただし、古い建物の塗料には今も鉛が含まれており、子どもが吸い込む可能性はある)。

 米国人の血中鉛の量は1975年から1991年にかけ、5分の4減少したことが検査で確認されている。エコノミストのジェシカ・ウォルポウ・レイエス氏は2007年の調査で、1990年代の米国における凶悪犯罪の減少の半分以上は有鉛ガソリンの減少によるものであり、今後もこの理由でさらに犯罪が減少する可能性があると論じている。別のエコノミストのリック・ネヴィン氏も、他の国々に関して同様の結論を出している。

 このほか、多くの州でコカインの過剰摂取が減ったことも犯罪減少の一因であると考えられるだろう。コカイン使用を計測することは容易でなく、聞き取り調査や入院率などから推察するしかない。1992年から2009年にかけて、コカインやクラックの摂取による入院件数は3分の2近く減少した。また、1999年には12年生(日本の高校3年)の生徒の9.8%がコカインを使ってみたことがあると答えていたが、2010年にはこの割合が5.5%まで低下している。

 ただ、本当に把握すべきなのは、コカインを使ってみたことのある人が何人いるかではなく、過剰摂取している人がどれだけいるかである。コカインをパーティー用のドラッグと考え、たまに吸うだけの人は、過剰摂取者に比べて重大な犯罪を行う可能性は低いと考えられる。過剰摂取者は欲求を満たすために窃盗や暴力に訴える場合がある。ただし、カーネギーメロン大学のジョナサン・コールキンス氏の研究によると、コカインの総需要は1988〜2010年に減少しており、たまに使用するだけの人、過剰摂取者のいずれについても需要は激減しているという。

 米国の犯罪問題の中核を占めているのは依然として黒人(アフリカ系米国人)だ。しかし、アフリカ系米国人の犯罪率も減少傾向にある。おそらく全般的な犯罪減少の場合と同様に、収監、警察、環境的変化、コカイン乱用の減少といった経済面以外の要因が働いているのだろう。

 特定の民族・人種グループの犯罪率を正確に把握するのは容易ではない。なぜなら、ほとんどの犯罪は逮捕や有罪判決に至ることがなく、至ったとしてもそれらはすべての犯罪のごく一部を表すに過ぎないからだ。しかし、犯罪で逮捕された人々の人種的特徴が明らかになっており、これにより、逮捕された黒人の人数が減少していることが確認されている。ニューヨーク市立大学ジョン・ジェイ・カレッジ・オブ・クリミナル・ジャスティスのバリー・ラッツァー氏によると、殺人やその他の凶悪犯罪で逮捕された黒人の数は、1980〜2005年に全国でほぼ半減している。

 人口の少なくとも80%が黒人というニューヨーク市内の5地区で1990〜2000年に殺人率が78%減少したことも示唆に富んでいる。また、黒人人口の多いシカゴの諸地区では1991〜2003年に強盗が52%、窃盗が62%、殺人が33%それぞれ減少している。疑り深い人は、改善したように見えるのは単に警察がさじを投げ、黒人地区の犯罪を記録しなくなったからだと反論するかもしれない。しかし、同時期にシカゴで行われた世論調査では、黒人の間で犯罪への不安が半減したとの結果が出ている。

 黒人の犯罪が改善したことを示す材料は他にもある。連邦少年司法・非行防止事務局の研究によると、1980年には黒人の若者の逮捕件数は白人のそれを6対1以上の比率で上回っていたが、2002年にはこの差が4対1にまで縮小している。

 黒人の間では、人口全体と比較して、薬物使用に非常に大きな変化が見られる。ラッツァー氏が指摘しているように、1987〜1997年にニューヨークのマンハッタン地区で逮捕された1万3000人(黒人が圧倒的多数を占める)のうち、1948〜1969年に生まれた人にはクラック・コカインの使用が目立った一方、1969年以降に生まれた人はクラックの使用はほとんどなく、マリフアナの使用が多かった。この指摘は、ブルース・D・ジョンソン、アンドリュー・ゴラブ、エロイス・ダンラップの3氏の研究によっても裏付けられている。

 理由は単純だ。アフリカ系米国人の若者は、クラックなど中毒性の高い薬物を使用した揚げ句に刑務所や病院、死体安置所に送られた人を大勢見てきた。それに比べればマリフアナの使用に伴うリスクははるかに小さい。もしこのニューヨーク市での統計が他の地域でも証明されれば、薬物使用の変化が、1990年代に都市部の黒人犯罪率が低下した一因であると言えるだろう。

 ジョン・ドノヒュー氏とスティーブン・レビット氏は、黒人犯罪の減少を説明する別の理論を展開している。人工妊娠中絶の合法化により、黒人の子どもが犯罪者になりやすい環境のもとに生まれることがなくなったというものだ。筆者はこの理論を無視している。ボストン地区連銀の2人のエコノミストをはじめ多方面の学者が反論するなど、いまだ激しい論争の的となっているためだ。

 上記の多くの変化を総合すると、最も深いところで次のようなことが示唆されている。すなわち、米国では大恐慌以来最悪の景気後退にもかかわらず、大きな文化的向上により犯罪が減少している。文化的な議論は曖昧だと考える向きもあるだろうが、過去の書物では大恐慌時の犯罪減少や60年代の犯罪急増が文化的側面から説明されてきた。前者の時代には人々が自制を重視した一方、後者の時代には社会的犠牲と引き換えに自己表現が優勢になったという、いかにももっともらしい説明である。

 しかし、筆者のような社会科学者にとって文化は厄介である。どうすれば文化の研究において具体的な数値や検証可能な理論を示すことができるのか分からない。文化は小説家や伝記作家の領域であり、データを重視する社会科学者の領域ではない。ただ、犯罪減少の推定原因を特定することはそれを正確に測定することよりもはるかに重要であると考えれば、我々にとっていくらかの慰めにはなるだろう。

―ウィルソン氏は、ボストン・カレッジ・クロフ・センターのシニアフェローで、過去にはハーバード大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、ペパーダイン大学で教壇に立った。『The Moral Sense』『Bureaucracy』『Thinking About Crime』など著書多数。本稿は近刊予定の『シティ・ジャーナル』誌(マンハッタン・インスティテュート刊)より取られた。
 

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