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ケーシー・アンソニー無罪判決をOJシンプソン事件と比較する
http://www.asyura2.com/10/kokusai5/msg/761.html
投稿者 sci 日時 2011 年 7 月 16 日 16:41:50: 6WQSToHgoAVCQ
 

『from 911/USAレポート』第523回

    「ケーシー・アンソニー無罪判決をOJシンプソン事件と比較する」

    ■ 冷泉彰彦:作家(米国ニュージャージー州在住)

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 ■ 『from 911/USAレポート』               第523回
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「ケーシー・アンソニー無罪判決をOJシンプソン事件と比較する」

 7月5日に判決の出た「ケーシー・アンソニー事件」は、米国の刑事裁判としては、
1995年に判決が下った「OJシンプソン事件」以来という大変な関心を呼びまし
た。また、状況証拠は真っ黒で多くの物証がある一方で、殺人事件の容疑が刑事では
無罪になったという点でも、OJシンプソンの事件と酷似しています。

 無罪判決は7月5日に出たのですが、主要な「第一級殺人容疑」「児童虐待容疑」
などに関しては無罪となったものの、偽証罪など4つの罪状に関しては有罪となった
ために、被告は禁固4年の判決を受けています。この4年の禁固刑に関しては、勾留
期間を相殺し、また受刑者としての態度が良好であったなどという点を勘案して、今
週末、つまり7月17日の日曜日に釈放が決定しました。

 この日には女子サッカーW杯決勝の日米決戦が予定されているのですが、メディア
はこの「ケイシー釈放」の実況中継も準備しているようです。では、どうしてこの
「ケーシー・アンソニー事件」は、OJシンプソンと同様に全米の関心を呼んだので
しょうか?

 まずOJシンプソン事件ですが、この事件には常に「人種」という問題がつきまと
っていました。事件そのものも、黒人の引退したフットボール選手が容疑者であり、
離婚した白人の元妻と白人の交際相手の男性が殺害された被害者という構図です。仮
にシンプソンが犯人であれば、その動機としては人種の絡んだ男女間の嫉妬というこ
とになるでしょう。

 当時の主任弁護士ジョニー・コクランは、この点を巧みに利用しました。多くの物
証があるにも関わらず、捜査員の中に「人種差別的な偏見」を持つ人物がいるという
ことを使って、多くの証拠についてデッチ上げの可能性を指摘したのでした。現在の
アメリカでは、可能性の低いことですが、事件の発生した1994年というのは、人
種問題を契機としたロス暴動からまだ2年しか経っていない時期でもあり、南カリフ
ォルニアにおける人種の問題は現在進行形だったのです。

 コクラン弁護人は、この人種という要素を思い切り拡大した形の法廷戦術を指揮し、
最終弁論では極めてエモーショナルな「人種問題に関する大演説」をブチ上げていま
す。反対派(OJ有罪の立場)からは「チューバッカ(スター・ウォーズに出てくる
大猿)演説」と言われて非難されているものですが、良くも悪くも歴史に残る最終弁
論であり、またこの無罪判決によってコクランの名声は否が応でも高まることになっ
たのでした。

 ちなみに、そのコクランは2005年に逝去、沈着冷静に法廷を指揮した日系のラ
ンス・伊藤判事はその後も判事職にあって外国人や移民を被告とした刑事法廷におけ
るコミュニケーション精度の向上をライフワークとしているそうです。敗訴となった
ものの検事として知名度を上げたマーシャ・クラーク女史はその後は弁護士兼法律評
論家として、今回の「ケイシー・アンソニー事件」のTV番組にも顔を出しています。

 では、この「ケーシー・アンソニー裁判」は、どうしてOJシンプソン裁判と同じ
インパクトを全米に与えたのでしょうか? その前に、この事件について簡単に振り
返っておくことにしましょう。

 ケーシー・アンソニーという被告は、フロリダ州のオーランドに住む現在25歳の
女性で、シングルマザーとしてケイリーちゃんという幼児を育てながら、この街の主
要産業であるテーマパークの従業員をしていたようです。そのケイリーちゃんは、2
008年に3歳直前で失踪、後にケーシーの両親の家の裏庭の林の中から白骨化した
遺体が発見されました。これに対して実母のケーシー被告が殺人と児童虐待など3つ
の罪で起訴、更に偽証等の微罪容疑も加わる形で法廷が進行しました。

 事件軸に沿って整理をしますと、まず、ケイリーちゃんが母親以外の人間(祖父母)
に元気な姿を目撃された最後が2008年の6月16日でした。以降のケイリーちゃ
んに関する消息は、全て母親のケーシーの証言によるものであり、その一部は証拠に
より否定されて、それが偽証罪を構成することになっています。

 ケイリーちゃんが祖父母に元気な姿を見せた最後の日から2日後、親子で実家を離
れていたケイシー被告は、突然実家の近所に帰ってきて、近くの知人から大きなスコ
ップを借用しています。そのスコップは数時間ですぐ返却されたというのですが、一
つの可能性としてはこの時点でケイリーちゃんは既に死亡しており、その遺体を埋め
るためにスコップが使用されたという可能性があります。

 この間、ケイシーは交際相手の男性と遊びまわっていたようで、ナイトクラブにお
ける「ご乱行」の写真を何枚も撮られています。そんな中、7月の上旬にケーシーの
車が駐車禁止違反でレッカー移動されたのをケーシーの両親が取りに行った際に、車
から異臭がしたなどという情報もあります。これが事実であれば、スコップを借りて
遺体を埋めた時点では、遺体の状態は相当に悪化しており、その痕跡が半月後も残っ
ていたということになります。

 ちなみに、遺体の顔と足には「青いダクテープ(日本で言うガムテープ)」が何重
にも巻かれており、テープを巻かれてクルマのトランクに閉じこめられたことによる
窒息死が直接の死因という説が有力になっています。報道の中では、仮にそうであれ
ば、実の母親が3歳の可愛い幼女を青いテープでグルグル巻きにしたということが
「鬼」であるとして大きく取り上げられています。

 では、どうやってグルグル巻きにしたのかというと、クロロホルムで失神させての
行為だという説があります。このクロロホルムに関しては、問題の自動車の中から検
出されたとか、ケーシーの母親の口から「クロロホルム」という言葉が出たので、家
族ぐるみで証拠隠滅を行っているのでは、などと色々な話題を呼びました。一方で、
遺体にはケイリーちゃんが好きだったハートマークのシールが貼ってあったという報
道もあり、猟奇的な観点から散々に色々な仮説や論評がされたのでした。

 その後、ケイリーちゃんがいなくなったことに関して、両親とケーシーの間で色々
な葛藤があったようですが、7月15日になってケイリーちゃんの「不在」を認めた
母親のケーシーからケイリーちゃんがベビシッターに誘拐されたという届出がされる
に至ります。ただ、ケーシーが犯人呼ばわりしたベビーシッターの女性は、実はケー
シーともケイリーちゃんとも会ったことはないことが証明され、この点でもケーシー
は偽証という告発を受けています。

 一方、警察は捜査を進める中で徐々にケーシーが加害者である可能性を追求し始め、
やがて10月にはケーシーを殺人容疑で逮捕するに至りました。ただ、ケーシーは頑
として司法取引に応じず、一切犯行を否認し続けたのです。この間、ケイリーちゃん
の捜索が地域の人々も動員して続けられましたが、捜索は難航しました。最終的には、
12月になってようやく、実家裏の林の中でほぼ白骨化という変わり果てた状態で、
ケイリーちゃんの遺体が発見された、これが事件の経緯です。

 ここまでお読みになった方の中では、「ケーシーはクロ」という心証を得た方が圧
倒的に多いと思います。ですが、陪審員は「無罪」という評決に至りました。そこに
は大きな二つの理由があったのです。

 一つは、法医学的な理由です。遺体の発見が遅れ、白骨化が進んでいたために遺体
から死因と死亡推定日時が特定できなかった、これが決定的でした。例えば、ここま
でお話しした時間軸での整理のように「容疑」のストーリーを作ったとしても、例え
ばスコップを借りたから遺体を埋めたのだろうとか、異臭がしたからそのクルマで遺
体を運んだのだろうということは言えても、死亡推定時刻と死因がハッキリしない以
上は、物証であっても証拠能力がないということになるわけです。

 状況証拠もあり、物証もあるのですが、遺体の「語るストーリーがない」以上は、
証拠と殺害行為を客観的に結びつけることができないということになります。つまり
は、「他の可能性」が排除できないわけです。そこで、陪審員は「推定無罪」という
法律の原則に立ち返らざるを得ませんでした。

 仮にそうした状況であっても、量刑で調節ができるという考え方もあります。です
が、ここに大きな問題がありました。検察は「第一級殺人」での起訴を行い、初期段
階から「本件では死刑を視野」という発言を行なったのです。日本では考えにくいこ
とですが、子供の人権を優先して考えるアメリカでは、州による違いもありますが、
親による実子の殺人に対しての死刑適用はあるのです。

 検察の判断はフロリダの刑法から見れば特に問題はないのですが、陪審員には大き
な重圧がかかることになりました。状況証拠、物証、証言などは揃っている、だが遺
体が何も語らない中で「もしかしたら冤罪」という確率をゼロにできない事件で、2
5歳の女性に死刑判決を出して良いのか、この問題は「無罪」という評決に至った背
景として無視できません。

 というわけで、「世間」が限りなくクロと思い、メディアが過熱報道を繰り広げる
中で、陪審員が殺人容疑に対して「無罪」という結論を出した、その結果について再
びメディアが大騒ぎをする、この点では正に「OJシンプソン並」というわけです。

 では社会的な位置づけとしてはどうでしょう? 事件や報道の背後にある「時代」
の示すものについては、この二つの事件は決定的に異なるように思います。OJシン
プソン裁判というのは、最初に申し上げたように人種の問題でした。「もしかしたら
OJはクロかもしれないが、簡単にクロにしてしまうのは人種差別に屈することにな
る」という世論が無罪判決の背後にはありました。それは、恐らくアメリカ人の半数
近くを占めていたように思います。

 ですが、無罪判決を期待した人々も、実際に無罪という結果が出てしまうと、そこ
にはある濃厚な「ほろ苦さ」を感じたのです。例えば民事裁判の方で、OJに二人の
死亡に関する責任があるという判決が出たときには、世論は冷静でした。そうしたプ
ロセスを経て、人種間の対立は沈静化していったわけで、クリントン政権の後期には
全米における黒人の生活水準は向上を見ていきましたし、更に時間が流れた結果、バ
ラク・オバマという黒人大統領が誕生するところまで時代は進んだのです。

 元妻を含む2名の殺害事件は血生臭く、また無罪判決も正に「ほろ苦い」ものでし
た。ですが、この事件は回りまわって、人種の和解という歴史の流れにある種の貢献
をしたという評価は可能でしょう。少なくとも世論の間に「今はOJの時代とは違っ
て、有名な黒人であっても事実に反してでも無罪がいいとか、有罪がいいというよう
な雑音に妨げられずに公正な裁判が受けられる」という「事態の改善」は信じられて
いるように思うのです。

 一方のこの2008年に事件発生、2011年に判決を見た「ケーシー・アンソニ
ー事件」の意味合いはどうでしょう? こちらの底流に流れているのは「家族の崩壊」
という問題です。母親が自分の自由のために子供を殺し(た可能性があり)、それに
対して両親が微妙な絡み方をする、また父親はケーシーに対して性的な虐待を行って
いたらしく、その事実が明るみに出ることで両親の関係にも亀裂がある・・・そうし
たエピソードの全てに感じられるのはアメリカ社会に強いイデオロギーとして機能し
ていた「ロマンチック・ラブと核家族」が弱体化しているという兆候です。

 例えばこのケーシー・アンソニーに関しては、性別によってリアクションが異なる
そうで、世論調査をすると「有罪を支持」する数字は、女性が男性の2倍になってい
るそうです。女性に取っては、母親として子供を殺すのは許せないとか、若い女性が
育児放棄の結果凶行に至ったのなら厳罰をという気持ちになるのは自然なのかもしれ
ません。一方で、男性のほうは「それなりに美人の25歳の女性」を死刑にすること
はないじゃないか、という気軽で無責任な発想、あるいは、ヒステリックに「鬼女」
呼ばわりするメディアの女性レポーターへの反発などがあるのかもしれません。この
リアクションにおける男女差というのも、何かやり切れないものを感じます。

 このケーシーには「最も俗っぽいワイドショー」である「ジェリー・スプリンガー」
から1ミリオン(8千万円)での出演オファーが来たとか、アダルトビデオのオファ
ーがあるとか、俗っぽい話題には事欠かない状況です。一方でフロリダで麻薬事犯で
服役中の男性が、自分は殺されたケイリーちゃんの父親であると名乗りでてきて「D
NA鑑定」を要求しているというニュースもありますが、これもカネの匂いのするイ
ヤなエピソードです。

 ちなみに、殺されたケイリーちゃんに対しては、全国から追悼のメッセージが寄せ
られているそうで、このあたりは大阪での幼児虐待餓死事件の犠牲になったお子さん
に対して、全国的な同情が寄せられたという現象に似ています。いずれにしても、こ
の「ケーシー・アンソニー事件」は家族の崩壊という現象について、問題が深刻化し
てゆく一つの象徴のように思えます。残念ながら、そこには希望がないのです。OJ
シンプソン事件がある種のほろ苦さと共に、人種和解の流れに何らかの影響を与えた
のとは、全く異なる事件であり、裁判であったということができるでしょう。

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冷泉彰彦(れいぜい・あきひこ)
作家。ニュージャージー州在住。1959年東京生まれ。東京大学文学部、コロンビア大
学大学院(修士)卒。著書に『9・11 あの日からアメリカ人の心はどう変わった
か』『「関係の空気」「場の空気」』『民主党のアメリカ 共和党のアメリカ』など
がある。最新刊『アメリカは本当に「貧困大国」なのか?』(阪急コミュニケーショ
ンズ)( http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4484102145/jmm05-22 )
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●編集部より 引用する場合は出典の明記をお願いします。
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JMM [Japan Mail Media]                No.644 Saturday Edition
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【発行】  有限会社 村上龍事務所
【編集】  村上龍
【発行部数】97,902部
【WEB】   ( http://ryumurakami.jmm.co.jp/ )  

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