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ゴミ漁り想像力補完計画(『東大オタク学講座』1997年9月26日版)
http://www.asyura2.com/10/lunchbreak44/msg/813.html
投稿者 七瀬たびたび 日時 2011 年 3 月 07 日 20:14:09: bo2NmpzpRHGO6
 

第九講 ゴミ漁り想像力補完計画

http://netcity.or.jp/OTAKU/okada/library/books/otakusemi/No9.html

 村崎百郎氏を語るのは簡単だ。「他人のゴミが好きな人」。この一言につきる。

 ゴミを拾ってくると、いろいろなことが分かる。そうして、この人は、こんな人だろう、あんな人だろうと、想像する。毎日、拾っていれば、同じ人に関する新たな情報があったりもする。さまざまな推理をめぐらすわけだ。

 拾ってきたゴミを、自室で一人開ける時の期待感。これは、他人の秘密を覗く快感だ。実は、僕もこの快感がよく分かる。僕の心にも明らかに存在しているものだからだ。オタクとして、なぜゴミを拾うのかは、スキューバの快感と同じ程度には、十分想像がつく。オタクの心の暗黒面とも言える。

 もちろん村崎さんも立派なオタクだ。エヴァにもちゃんとハマった。ただし、ハマったのは、どこかの女の子がゴミとして出したエヴァのビデオを拾って見たから、という村崎さんらしいハマり方だ。世界でも一番珍しいハマりかただろう。

 村崎さんが普通のオタクじゃないところは、ひとえにゴミに対する情熱の量だ。暑い日も寒い日も、わざわざ外をうろついて拾う。しかも、汚いゴミを手でかき回す。普通は、そんなことまでして手に入れたいほどの快感ではないはずだ。

 が、村崎氏は違うらしい。こういう極端な人の心理を見て、オタク心理のダークサイドを学ぶのもいいことに違いない、と考えて、ゲストとして来ていただいた。

 村崎氏は、巨漢でぶきみな頭巾をかぶっていて、声が大きい。が、話し方は丁寧で、礼儀正しい人だ。その礼儀正しい話し方で、講義の前に、「もし気に入らないヤツがいたら殴ると思いますが、すみません」と頭を下げられた。そんなことを言われると、礼儀正しい分、もっと怖さが増す。

 はっきり言って、学生は引きまくっていた。これもいい経験になったに違いない。今となっては、そう祈るだけである。

 

夜のゴミ捨て場でキラキラ光る

岡田 あの、村崎さん、最前列の人を殴らないようにお願いしますね(笑)。

村崎 いやあ、とんでもない。俺みたいな中卒の工員が日本の最高学府で喋らせてもらえるだなんてなんかこう恐れ多くて。講義にきてる皆さんを見回してみると「中卒の工員がなにを喋れるんだ」という顔をされてるんでとても嬉しいです。

岡田 普通の挨拶しますね。

村崎 なにせ将来エリートとなる、支配階級の皆さんを前にしてるからねえ。お偉いさんや弁護士になったりしたときには皆さんどうか一つ、お目こぼしをよろしく。いつ捕まるか分からないもんで(笑)。

岡田 今回のテーマは「ゴミ」ということで、資料用にいろいろブツを持ってきていただいたんですが、これ、みんな拾ったやつなんですか?

村崎 そうそう、みんな俺が拾ったやつ。今回は東大講義ってことなんで特別にもってきたのが、この「東大文学部便覧」と「東大医学部便覧」ね。文学部の方は男が捨てたやつなんだけど、医学部のは平成六年四月に杉並区某所で女の子が捨てたの。年に八〇冊ぐらいしか出ないヴィンテージ物だよね。

岡田 こういうのって夜、ポリ袋に入ってる状態のを拾うんですか?

村崎 うん。収集日の前の日に捨てる連中ってのが結構いるんだ。そのゴミを漁るといろんなものが出てくる。情報の流出だね。

岡田 どうやってゴミを選んでるのかというか、とりあえずなんでもかんでも拾って、後から選別するんですか? それと、なぜゴミ漁りを始めたのかというあたりもお聞かせいただきたいんですが。

村崎 ゴミの選別については、まあインスピレーションだね。非科学的であてにならない、一種の霊感、電波みたいなもんだよ。で、なんでゴミ漁りを始めたかってことなんだけどさ、俺は青雲の志に燃えて工場就職のために上京して以来一〇年、夜の散歩を趣味としてきたわけよ。この頃はゴミ漁りが目当てではなく、のんびり歩きながら思索っつうか妄想にふけるのが目的だったんだ。女と一発ヤりてえなあとかそんな妄想しながら歩いてると、電柱の下なんかにゴミが集められてるじゃないよ、なんかこう、侘しげな電球の明かりに照らされてさ。その中にマガジンやらサンデーやらが落ちてるんで、こりゃあ儲けたと思って拾ったのが始まりだね。

岡田 雑誌拾った経験はありますよね、たいていの人は。

村崎 さっすが東京、いいもんが落ちてやがるぜってね。で、マンガ雑誌なんかはどこのゴミ捨て場にも落ちてるんだけど、たまに「当たり」があって、エロ本が捨ててあるわけよ。エロは欲しいが金はない、書店の立ち読みじゃあセンズリもこけねえし、こいつはありがてえって、それ以来ゴミ漁りのとき、エロ本を重点的にねらうようになったんだ。当時はビニ本ブームでさ、そういうのが結構捨ててあったんだよ。エロのグラビアでもエポックな時期で、ブスがあまり出なくなり、きれいな娘がヌードグラビアを飾るようになったんだよね、この頃から。そのうちマンガ雑誌やエロ本だけじゃなくて、文房具類とかも目につきだしたんだ。まだ使えるようなペンや消しゴムはあるわ、大して使ってないノートはあるわでさ。もったいないじゃねえの。そういうのを袋ごと持ち帰って開いてみると、日記とかがあったんだ。不思議なことにノート類を破って捨てる奴っていないんだよね。著書の中でもちょっと紹介してるんだけど、俺はこの手の日記類を「情念ノート」と呼んでるの。

岡田 今日はその情念ノートのサンプルも持ってきていただけたんですよね。人の日記読むのってなんかどきどきするなあ。これ、女の子のですね。

村崎 うん、近所で拾ったものだけど、この日記を書いた女の子、最近アニメオタクをやめたらしい。

岡田 なんで分かるんすか、そんなの(笑)。

村崎 読むと分かるんだけどさ、この娘どうやら、『エヴァ』の最終回で頭にきたらしいんだよね(爆笑)。それ系のコミックを大量に捨ててる中で、エヴァ関連の本がやたら目立ってたんだ。

岡田 すると三月二六日(エヴァ最終回放映日)あたりに捨てたわけだ。

村崎 いや、捨ててあったのはそれから二〜三週間経った頃じゃなかったかな。もうすげえ量なのよ。角川のフィルムブックとか貞本義行の少年エース版コミックスとか、二四話放映直後のコミケで売ってたらしいカヲル君の同人誌とか……。

岡田 やけにくわしいっすね。

村崎 実は拾ったのを見ているうちに、俺もハマっちゃってさ(笑)。

岡田 俺、いままでエヴァにハマった人の話いろいろ聞いたけど、ゴミから入った人いないですよ。

村崎 俺さあ、一四話だけたまたま見たんだよ。で、変だなあと思ったのね。オカルト好きだから分かるんだけど、OPでいきなりセフィロトの樹が出てくるわ、使徒の名前はサンダルフォンだわ、なじみのある名前がポンポン出てくるじゃない。それでちょっと興味あったもんだから、フィルムブック読んでたらどんどん続きを知りたくなって。

岡田 じゃあビデオは捨ててなかったんですね。

村崎 さすがにビデオは全部の回までなかったね。書籍類がメイン。これだけ大量に捨てたってことは、その娘はどう考えてもアニメオタクをやめたんだよ。エヴァだけじゃなかったもの。これこそ庵野監督の意図した現実回帰だな(会場大笑)。

岡田 オタクをやめて「おめでとう」って(笑)。

村崎 俺にとってはこの体験さ、自分がオタク化したんじゃなくて「オタクの追体験」だと思うんだよね。ゴミからの情報を元にこの娘のオタク生活を追体験してたわけ。同人誌作る自費出版の領収書とか請求書とか、友達とのファックスとかそういうのを見ながらさ、生活の情報を読み取ってたんだ。

岡田 そうか、そういうのも一緒に捨ててあるんですね。

村崎 そう、他のゴミから、どんな友達とどうやってアニメで盛り上がってたのかとかが分かるわけよ。しかし追体験しながらも「こんだけ深みにハマってたら人生前には進まねえだろうなあ」とか思ってたら、その後のゴミからね、自動車教習所のチケットが出てきてやんの。ああ、この娘はオタクやめてごく普通に車の免許なんか取ったりして、そうやって現実に帰っていくんだなあって。

岡田 いろんなストーリーが組み立てられるなあ。ファックスがありますね……友達もこんなのばかりだ(笑)。

村崎 写真あったけど、まあたしかに幻想とかショタに走ってオタクやるしかないなって感じでね。

でさ、やっぱゴミ漁りの醍醐味ってのはこうした追体験にあるんだよ。情報ゴミの中から人の人生を後追いで組み立てていくんだ。つまり「物」を拾うゴミ漁りから「物語」を拾うゴミ漁りへと進化したわけだな。

岡田 ロマンチックだなあ。

村崎 よそで書いてるんで知ってる人もいるだろうけどさ、こういうのもあったぜ。九六年の正月に、ちょっと電波に呼ばれて近くのゴミ収集所まで行ったんだ。するとそこで目についたのが、「フェンダー」っていうギターメーカーの九二年度カタログなわけ。そいつは山と積まれたパチンコ雑誌の中から出てきたんだけど、なんでこんなものに呼ばれたんだろうと思って裏返したら、ほら、あるじゃない、カタログの最終ページに販売店のスタンプ押す欄が。あそこに山形県なんとか市っていう聞いたこともないような田舎町の楽器店名が記されてるんだよ。ここから物語が浮かんできたね。こいつは四年前にフェンダーのギター買って、ミュージシャンになろうと山形から上京してきたんじゃないかってさ。「ビッグになってやるぜ」って、矢沢や長渕な感じだったんだろうな。俺も地方出身者だからそういうの分かるんだよ。ところが上京したはいいんだけど全然友達ができなくって、バンドも組めず、そのうちに高田馬場のパチンコ屋に開店前から並ぶような生活するようになってさ、ほとんどパチプロみたいなもんだったんだろうけど、どこかで志を捨てられなかったんじゃねえの?

岡田 それが九六年の正月になって突然気がついたんでしょうね。自分は「とりあえずパチンコで食ってるギタリスト」じゃない、単にパチンコやってるだけだって。

村崎 そういう奴らの破けた夢のかけらが、夜のゴミ捨て場でキラキラ光ってたわけだ。なんかそういうのって泣けるよね。

 

あなたの人生、ダダ漏れです

岡田 さっき見せていただいたの、あれ、情念ノートでしたっけ。日記ってのは個人的な情報の中でも特にヘヴィというか、一番すごいゴミですよね。絶対読まれたくないものじゃないですか。

村崎 日記はすごいよお。これ、『鬼畜のススメ』でも紹介したんだけど、俺、一人の女の子が八年間にわたって書き続けた日記を拾ってさ、中を開いたらもうすごいのなんのって、いきなり「二日前、赤ちゃんを殺しました」ってあるの(爆笑)。ガキ堕ろしてどうしたって話なんだけどさ、日記が書かれてるのはそれよりも前、彼女が一四歳のときからなんだ。蛍光ペンの丸っちい乙女字が可愛くってねえ。高校入学と同時に新宿のスナックでバイト始めるっていう感心な娘だよ。で、そのスナックのマスターに恋したんだけどなかなか振り向いてもらえなくて、他のどうでもいいやと思ってる連中と次々に寝ちまうんだ。都合八人ほど。だけどどの相手も一回やってそれっきりだってんだから、容姿についてはなんとなく想像つくよね。それでさ、一八歳の高校卒業間際になって、三年越しの恋が実ってマスターと一発キメてもらえたんだけど、そのときの記述が笑えんのよ。昔の日活パートカラーみたいにそこだけインクの色が変わって、書体まで乙女字になってるんだ(大爆笑)。

岡田 嬉しかったんだろうなあ。

村崎 なのにそのマスターとも一回寝たらそれっきりで、その後スナックを辞めて新宿の某デパート内の某ブティックへ就職。そこでまた男ができて云々ってのが続くんだ。男運がないんだろうね。どの相手とも一回切りってのがほとんど。

岡田 その人、じかに会ってみました?

村崎 いや、住所も割れてるしいつだって見に行けるんだけど、なんかかったるい。日記の最後近くではね、J君っていう歳下の男の子と同棲してて、堕ろしたガキってのはこの男のなんだよ。それがきっかけになったのか結婚しようって話になって、神奈川県にあるJ君の実家を訪ね、ああ、やっとうまくいくのかなあと思ってたら、相手の御両親の前で煙草は吸うわ酒は呑むわ(笑)。そのことを後々まで味ったらしく言われたらしくて「なんでそんなこと言われなきゃならないのよ!」って、叩き付けるように書いてあったね。うだうだモメちまって結婚式を挙げる挙げないで喧嘩になっちゃってさ。その日記と一緒に捨ててあったものから女の子の現在の名字も分かったんだけど、これ、J君の名字じゃないんだよ。やっぱり別れちまって、また別の人とくっついたんだろうね。

岡田 すごい日記ですよねえ。八年間書いて、ページがいっぱいになったんで捨てられたんですか?

村崎 八年間断片的に書いてあったの。ページがいっぱいになったからってより、やっぱ結婚したから捨てたってのが実際のとこじゃないかなあ。

岡田 そうかそうか。それで過去の日記なんて見てられないって気持ちで、ね。なんというか、人生がすべて表れますよねえ、日記って。

村崎 日記はこれまでにも何冊か拾ったけど、ほんとすごいね。風俗嬢の情念ノートで「私は兄に犯された。身体が汚れているからこんな仕事をしてるんだ」なんて書いてあったり、女子高生のだと一夏の経験がとうとうと綴られてたり、小学一年生の女の子の「きょうはお父さんといっしょにおふろにはいりました」みたいなほのぼのしてるのもあったし、人それぞれって感じだよ。

岡田 熟成八年ものの他で特に興味深かった日記というとどんなのが……。

村崎 これも著書で紹介した奴だけど、高校生の交換日記かな。中学三年生のときに相思相愛で付き合い始めたものの、学力が二人を引き裂いて彼氏はいいとこの高校、彼女はアホ高校へ。それで毎日のように駅で日記を交換し合ったんだけど、「僕は自分の高校の女の子とは口をききません」みたいな、さ。あと「一〇の誓い」なんてのも書いてあったよ。「君を一生愛しぬきます」とか(爆笑)。

岡田 青臭え〜!(笑)そんなの拾われるとは思わないですよねえ。

村崎 結局捨てちまったってことは、この二人も別れちゃったんだろうけどね。でも二冊目まで続いてたなあ。

岡田 わりと長続きしたんですね。

村崎 そうらしいよ。二冊目のラストにも「次の日記でもよろしく」みたいなことが書いてあったし。「生まれ変わっても君を愛する」とか熱い言葉が並んでて、たしかに感動的ではあるんだけど、一〇年間結婚続けてからも同じセリフ吐けるかおまえって言いたいよ。夢も希望もない話だけどさ。

岡田 「生まれ変わっても君を愛する」と書いたその数年後には捨てちゃってるし(笑)。

村崎 捨てちゃうんだよねえ。そんな熱い言葉を綴った日記でも、その辺の女性誌と一緒に、しかもくくりもせずにポンと置いてあってさ。そんなの見ると愛の無常ってのを感じるよ。

岡田 むき出しのままってのが寒々しいなあ……。なんかこう、ほんとうに「愛が冷めた」って感じで。せめて外から見えないように包装すればいいのに。

村崎 その日記はちがうけど、面白いことに人間って恥ずかしいものを捨てるときはついつい密封しちまうんだよね。なんでか知らないけど。

岡田 ドキっ。なんだかここに集まってる皆さんの中の「ドキっ」も聞こえたような気が(笑)。

村崎 やっぱ密封するでしょ? 俺、ガムテープでぐるぐる巻きになってるゴミは無条件で持って帰るもの(大爆笑)。

岡田 そういうのを開けてみると絶対見られたくないようなものが出てくるという(笑)。夢のカケラみたいなゴミってのも見られたくないですよね。ほら、司法試験とかあるじゃないですか。そういうの諦めたゴミってありましたか?

村崎 司法試験に関しては、学校の講義テープがずらーっと何巻もまとまって捨てられてるのを見たことがあるよ。あと六法全書とか。

岡田 その人ほんとに大学とか資格予備校に通ってたんですかね。通ってたんだったら「俺は弁護士めざしてたんだ」っていうか、ちょっとした誇らしさがあって捨てられませんよね。

村崎 まあ結果的には諦めたんじゃないの? 人生の節目節目で捨てるもんなんだよ、大切なものは。人間ってのは人生のある時期に何かを諦めないと前には進めないんだろうな。俺の知り合いにも東大めざして気ぃ狂った奴がいたんだけど、そりゃあもう悲惨なもんだったよ。

岡田 なんで気が狂ったんですか、その人。

村崎 「東大出てアイドルデビューしないと自分の人生はない」って思い込んでたの(笑)。それで九浪だか一〇浪だかしてたんだけど、そのくらい滑り続けた頃になるともう受験なんてしないんだよ。受験めざしてるフリだけ。その娘は風俗嬢だったんだけどさ、「自分が東大合格してアイドルデビューして有名になったとき、風俗嬢やってたことがきっとバレてしまうだろう」っておびえてて、そのとき釈明会見でどう切り抜けようかって、そればかり考えてるの(大笑)。東大受験のための勉強もせず、延々と言い訳ばかり考え続けるって生活でね、いやもう、こういう女になに言っていいんだか分かんなくてさ。墓穴ってのは掘ってる本人は気づかないもんだし。まあ俺も人のこと言えないけど、ここに集まってる東大生の皆さんはエリートコースを約束されたようなもんだし、いい人生歩いてるんだから関係ないかもな。

岡田 いやいや、この講義受けてるのはそういうの諦めた人たちですから(会場大爆笑)。

村崎 諦めちゃマズいだろ(笑)。まあ俺が言いたかったのは、世の中そういう人たちだっているけど下には下がいるっつうか、底辺の人間が抱えるひがみ根性やおぞましさってのはみんなの想像力が及ばないようなところにあるかもしれないってことだよ。俺を見れば分かるよね。ゴミという情報は誰でもアクセスできるくらい無防備に捨ててあるんだし、そういうのに触れて人の人生知るってのを体験するのはほんと、面白いよ。

 

ゴミを漁れ。「内なる叫び」にアクセスせよ

村崎 あと、用のない人には大して面白くないんだけど情報としての価値が高いのがこの、東大生の皆さんも将来何人か名前が載るであろう「電通社員名簿」ね(会場爆笑)。役員から末端社員にいたるまで全員の住所・氏名・電話番号が記載されてるんだよ。しかも拾った場所から誰が捨てたのかも特定できちまうし。さっきの東大便覧にしてもそうだけどさ、こういうのを捨てるのってマズいよね。

岡田 電通社員名簿や東大便覧が、名簿屋ではいくらで取り引きされてるのかとかを考えると、たしかにそうですよねえ。結構高く売れそうですよ、それ。

村崎 それをそのまま捨ててしまうんだから無防備でしょ。あと、これも情念ノートの部類に入るんだけど、自分の夢とか書いた雑記ノートをそのまま捨てる奴がいるのね。強い成り上がり根性を持った奴で、おそらくラジオ好きだと思うんだけどさ、延々モーリー・ロバートソンに手紙書いてんのがいるのよ。「なあモーリー。こんな東京の腐った奴らに語りかけてもダメだよ」とか言ってて、おまえだってそうじゃねえかっていうの(大笑)。さらにイカしてたのが、よほどショックなことがあったのか涙文字で「東京は恐くない。東京は恐くない。恐くなんかないんだあっ!」って書いてあった奴。よっぽど恐かったんだろ、おまえ(爆笑)。

岡田 な、なにがあったんでしょうねえ、その人の身に。

村崎 そういうのって必ず破らずに捨ててあるんだよ。どっか「読んでもらいたい」って願望があるのかね。

岡田 ないないないない(笑)。それはたぶん、破るともう一回コミットしてしまうからじゃないですか? 自分自身もそうなんですけど、捨てるときってもう二度と見たくないから二つ折りにしたりするんですよ。でも破るともう一回そのものに対して関わってしまうようで、それがなんじゃないかと。触れたくないっていう。

村崎 皆ゴミ箱に放り込めばはいサヨウナラ、もう自分とは関係ないって思ってるんだろうなあ。関係なくならないよ、そんなのはさ。ゴミってのは焼却して灰にならない限り消えないんだ。たとえゴミに出して安心したって、どの街にも、どの夜にも、どこにだって村崎百郎は存在するんだぜ。

岡田 人々が惰眠を貪っているそのとき、村崎さんは暗闇の中を疾走しているわけですね。

村崎 そう。明確にはゴミ漁りじゃないけど、夜中うろついてておいしいのがさ、宅配裏ビデオってのがあるでしょ。ポストによくチラシ入ってるやつ。あの配達って夜中に回ってるんだよ。少し旧型のワンボックス車で、黒フィルムで側面の窓を塞いでてさ、マンションの前で停まると若いあんちゃんがコンビニ袋片手に出てきて、タッタッタッて階段昇ってくの。そういう場所をマメにチェックしておくと、燃えないゴミの収集日前夜に裏ビデオがまとめて手に入ったりするんだ。

岡田 裏ビデオじゃなくてプライベートのは手に入るんですか? 自分で撮ったテープ。

村崎 ああ、あるある。俺が拾ったので一番ワケ分かんなかったのは、結婚式の二次会かなんからしいカラオケ大会を延々撮ってあったやつ。何気に見てたんだよね……一時間くらい。

岡田 人の結婚式二次会なんてそんなに長く見てられませんよ(笑)。

村崎 いやあ、ぼーっと鑑賞しながら考えたんだけどさ、つまりこの世には俺以外にも人間がいて、そいつらには友達や彼女がいて、結婚して、二次会でこんな風に盛り上がったりもしてるんだなあっていうか、「他の人間がいるんだ」ってのを実感しちまったのよ。

岡田 ああ、リアルですね、それ。

村崎 うん。そういうとこにしかリアルはないんだよ。メディアは複雑化し、現実はどんどん希薄になってるじゃない。近所の人と顔合わせたって挨拶しねえし、道ですれちがう奴らなんてほとんど幽霊みたいなもんでしょ。そういう「人間」に囲まれて俺らは生きてるんだよ。そんな連中に対してリアリティーなんて持てっこないんだけどさ、でもゴミ捨て場で下着やら日記やら拾っちまうと、ああ、現実に存在してるんだなあって強いリアリティーが感じられるし、親近感が湧いたりもするんだよねえ。いってみりゃあゴミによる近所付き合いだよ。俺はこれをゴミュニケーションと呼んでるんだ(会場爆笑)。なんだか漫才やってるみたいだな。東大生がこんなにウケてくれるとは思わなかったよ。感激だなあ。東大生はみんな雲の上の人たちで頭の程度もちがうんじゃないかと思ってたからさ。

岡田 すごく感動したのに、それじゃなんだかネタみたいじゃないですか(笑)。しかし、村崎さんの話聞いてると「それはゴミで拾った情報ですか? それとも電波ですか?」と聞きたくなってしまう(笑)。ゴミから情報を読み取るのもかなりのテクニックを要しますよね。

村崎 拾ってるうちに職業的カンみたいなのが養われるんだよ。だから欲しいと思うものがいつの間にか手に入ってるってのは、別にオカルトでもなんでもなく、単にそういう現象があるってだけのことなんだよね。世の中ってのはそれくらいいい加減にできてるもんなんだよ。

岡田 アイドルとか芸能人のゴミは拾ったことないんですか? それこそ「欲しい」と思ってる人は大勢いそうですけど。

村崎 ないない。俺、メディアのアイドルみたいなのには一切興味ないもの。なんか鼻先にぶら下げられたニンジンみたいな気がするっつうか、「おまえら、これでも見て発情しとけや」ってナメられてるみたいでさ、冗談じゃねえやって思うよね。俺は近所の煙草屋のねえちゃんとか三軒隣の奥さんとか、そういう現実の、自分の目の触れるとこにいる女性に発情していたいんであって、自分とは縁のないアイドルなんて興味ないし、ブスだの美人だのなんてのも関係ないよ。だって人間なんざ皮一枚下は皆同じじゃねえの。皮剥いじまえば血と臓物と膿の詰まったクソ袋なんだしさ。そんな表面の皮一枚にこだわったってどうするんだってね。やっぱ問題は穴だよ穴(爆笑)。

岡田 鬼畜なんだか博愛主義的なんだか(笑)。

村崎 要は上っ面だけでガタガタ騒ぐなってことね。ほら、テレビで動物園見て「可愛い」なんて言ってる奴らがいるけど、実際の動物園って臭えのなんのってたまらないじゃない。動物を愛するってんならその臭さも含めて愛するべきなんだし、俺が言ってんのもそういうことだよ。

岡田 ウンチクのある言葉ですね。アイドルは興味の対象にならないってことで分かりましたけど、それじゃ興味の対象になるというか、たとえば尊敬してる人のゴミを漁ったりは……。

村崎 いや、特にそこまでしようとは思わないな。近所にいる「ちょっといいな」と思った女の子のゴミとか、多少後つけたりして集中的に漁ったってのはあるけどね。そういう経験あるからストーキングのことなら任せてよ。俺自身がストーカーでもあるから。ただしそうやって集中的にねらうことはあっても、わざわざ「あの人物のゴミが欲しい」って出向いてまで拾いたくなるような相手ってのはいないんだよ。俺は基本的に人間がいだからさ。興味ないもの。基本的に自分以外の人間って大いだし、みんな死んじまえと思ってるよ。電波な話になっちまうけど、俺って子供の頃から電波体質で、膨大な量の人の想念が頭に届いてたのね。耳塞いでもなにしてもそういうのが頭に流れ込んできて、そのせいであまり感情のない人間になっちまったんだよ。というか、ドロドロしてて強力な電波を一方的に送りつけられてるから、いちいち共感してたらほんとにどうにかなっちまうって状態だったんだよね。でも感情のあるフリはできるんだ。俺の感情は演技でしかないから、人間の感情とかって実感湧かないし、「生きてる奴らってどういう風にこの世界を感じてるんだろう」って思うのね。それが理由で本読んだりゴミ漁ったりしてるって部分もあるんだ。それでも個人個人に対してはあまり興味なかったりする。求めてるのは個人よりも物語なんだよね。これも本で紹介した話なんだけど、以前身障者のゴミを拾ったときに、なかなかいいなと思ったんだよ。なんで身障者だと分かるのかってえと、捨ててあったノートにむちゃくちゃな字で「今日はリハビリセンターの廊下を四〇メートル歩いた」とか「四階まで階段を三往復できた」とか、そんなことばかり書いてあったからなの。ああ、こいつは生きてたってしょうがないタイプの人間なんだなって、そう思っちゃうじゃない、俺、人でなしの鬼畜だから。けれどそのノートと一緒に『キックの鬼』の落書き帳と、あと古ぼけた原稿用紙が捨ててあったの。それを開いてみたら、両方とも全部白紙だったんだ。『キックの鬼』だぜ。二〇年以上前のアニメだよ。当時のキャラクター商品だろうけど、それがまっさらな白紙の状態で、一度も使われることがないまま日記と共に捨てられていたってのがどういうことなのかというとさ、つまりこいつは二十数年間、落書き帳や原稿用紙を持っていながらも、描くべき絵の一つも、書くべき言葉の一つもなんにもなかったんだろうってことじゃない。書かれた日記からではなく、白紙の落書き帳と原稿用紙から伝わってくるんだよ、そいつの二〇年分の空白が。二十数年間、書くようなことを一つも得られなくて、それでこの先もう二〇年持っててもしょうがないだろうと思って捨てたんだろうね。実際の物語がどうだったかなんて分からないけど。白紙が空白を物語ることだってあるんだよ。俺はそう感じた。

岡田 ……俺は……いま、じ〜んとしてる。

村崎 なんの気なしに拾ってなんとなく見てればただの白紙だけどさ、そういう合わせ技で見繕うっていうか、白紙からそこまで物語を引き出すことだってできるんだよ。「逆コンセプチュアル・アート」っていうか、受け手側が対象の中からどれだけ情報を引き出せるかにかかっているわけだよ。人間はどんな物からだって学ぶことができるという一つの例だよね。俺は、学ぼうという姿勢さえあればどんな物からだって学べると思ってるよ。書いてあることだけから背後を読み取ろうと言ってるわけじゃないけどね。何事でもそうだけど、背後があると思い込めば思い込むほど、今度は逆に陰謀論者みたいになっちゃうからさ。なにかってえと背後にユダヤだの諜報機関だのの存在を妄想して陰謀を感じ取ってしまうような連中ね。それは逆に想像力の幅を狭めてしまう。見えるものだけがすべてじゃないし、その背後に物事を慮り、豊かな物語を見るための想像力を養ってくれるってのもゴミの魅力なんだ。だから、ゴミ漁りってイマジネーション・ゲームなんだよね。それを今日ここに集まったみんなに言うのが俺のゴミ漁り講座「想像力補完計画」というかさ。そういう感覚を磨くことで、上っ面だけの嘘臭え奴らとはちがう「ホントの思いやり」ってもんを考えてほしいんだ。

岡田 上っ面でもっともらしいこと並べたてるより、そちらの方が共感できますよ、実際。

村崎 俺の友人にオカルトマニアがいて、そいつが聖書とか読み漁ってるんだけどね、聖なるもの、清らかなものを求めれば求めるほど、その対極にある穢れたもの、汚らしいものへと考えが向いてしまうっていうんだよ。単に聖なるものだけを求めて汚穢を否定するんじゃなく、そっちの方にも目を向けないと、完全な理解ってのはあり得ないんじゃないかね。俺は最近「汚愛主義」を唱えていて、醜悪なもの、汚らしいもの、穢れたものに対して率先して関わっていこうとしてるんだ。興味っていうより嗜好だよ。岡田さんの好きなオタク分野でいえば、原作の方の『風の谷のナウシカ』。あれをこないだマンガ喫茶で一気読みしたんだけどさ……。

岡田 結構オタクですね。普通、マンガ喫茶で『ナウシカ』最後まで読む奴なんていないですよ。

村崎 なんか読んじゃったんだよ(笑)。でさ、あのまんがにも描いてあるじゃない。完全に潔癖な人間というのを否定するようなくだりが。なんか神様みたいなのが出てきてナウシカに「おまえには淫らな闇のにおいがする」って、俺、それ読んで『ナウシカ』がすごく気に入っちゃったんだよね。やっぱ未来を担う若者たちにはきれいな部分だけでなく、人間のしょうもない弱さや醜さ、汚らしさみたいなダークサイドをしっかり見つめてほしいよ。

岡田 そのための具体的な「ステップ1」とかは……。

村崎 とりあえず今夜にでもゴミを漁れ(大爆笑)。あと、俺もそうだけどゴミ漁りやってたって自分のゴミ漁られるのはだしおっかねえから、これからは個人情報に関する防衛意識を持つことだね。俺の場合だと、自分のゴミと特定しにくいよう、アパートの他の住人の領収書とかを混ぜて捨ててる。ゴミから想像力と妄想を膨らませていろいろな物語に触れることができるんだし、ゴミを通して人間の存在をリアルに感じることだってできるんだ。俺は世の中の底辺に生きるゲス野郎だけど、この電波体質と人並み外れた妄想力・想像力で豊饒な情報世界にアクセスしてるんだよ。まずはゴミ漁りを経験してみることだね。

岡田 講義聴いてるみんな、自分もゴミ漁りたくなったでしょ?(会場爆笑)いやいや、村崎さんの話を聞いて「自分もゴミ漁ろう」と思えなかったら、君ら好奇心に欠陥がありますよ、マジで。俺も二〇〇〇年までには東大全学部の便覧揃えてみせます(大笑)。

   

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