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よみがえる産業政策の亡霊 官僚たちの夏 『諸君!』2007年1月号所収
http://www.asyura2.com/10/senkyo100/msg/717.html
投稿者 gikou89 日時 2010 年 11 月 29 日 23:08:16: xbuVR8gI6Txyk
 

http://www003.upp.so-net.ne.jp/ikeda/shokun.pdf

よみがえる産業政策の亡霊
池田信夫
城山三郎氏の『官僚たちの夏』は、一九六〇年代の通産省の最盛期を描いた小説である。通産官僚である主人公・風越信吾は、資本自由化で外資が日本に進出してくることに危機感を抱き、企業の合併などによって外資に対抗し、国際競争力を高める法律をつくろうとする。しかし民間の経済活動への官僚統制をきらう政財界の抵抗によって、この法律は審議未了で廃案となり、風越は事務次官レースに敗れて通産省を去る。
風越のモデルは実在の通産次官・佐橋滋であり、特振法(特定産業振興臨時措置法)が一九六四年に廃案になったのも事実だが、特振法のような官僚統制が六〇年代に終わったわけではない。実際には、その後も特振法の精神は通産省の行政指導に受け継がれ、外資を排除して国内企業の「体質強化」をはかる産業政策が続いたが、そのほとんどは失敗に終わった。もはや日本は発展途上国ではないのだから、国内産業を保護することは有害無益だと批判され、産業政策は姿を消したはずだった。
ところが最近、経済産業省は再び特定の産業に補助金を投入する「ターゲティング政策」を打ち出し、死に絶えたはずの産業政策が亡霊のようによみがえろうとしている。この背景には、日本の官僚機構の深い病がある。
論議を呼ぶ「日の丸検索エンジン」
かつてマイクロソフトがコンピュータのOS(基本システム)を独占していることが問題になったが、いま情報産業のガリバーになろうとしているのは、世界最大の検索エンジン、グーグルである。一九九八年にスタンフォード大学の二人の大学院生が創立したベンチャー企業は、わずか八年で時価総額が一五〇〇億ドル(二〇〇六年十一月現在)を超える怪物企業になった(日本でこれを上回る企業はトヨタしかない)。全世界の検索シェアでも五〇%を超え、独占状態に近づいている。
これに対抗して、日本独自の検索エンジンを研究開発しようという「情報大航海プロジェクト・コンソーシアム」が二〇〇六年七月、経済産業省を中心にして設立された。これにはNTT、NEC、富士通、日立製作所などの企業のほか、東京大学や早稲田大学など五十六団体が参加し、経産省は三年間で三〇〇億円の予算を投じる予定だ。その最初の予算五〇億円が、来年度の当初予算に概算要求された。
しかし、まずわからないのは、検索がアメリカに独占されていると、何が困るのかということだ。このプロジェクトの中心である経産省の八尋俊英情報経済企画調査官は、あるインタビューで、こうした疑問に以下のように答えている。
「グーグルを使って,あるキーワードを検索して何万件というWWWサイトが引っ掛かったとしても,実際に表示できるのはそのうちの上位一〇〇〇件だけです。(中略)悪く考えれば『この検索結果を日本のユーザーに見せるのは都合が悪いから隠しちゃえ』といった具合に検索結果を細工されても,我々には分かりません」

たしかにグーグルが特定のサイトを表示しない「グーグル八分」という現象は、しばしば指摘されているが、国産ならそれがなくなるという保証はあるのだろうか。むしろ「オールジャパン」で政府が中心になった検索エンジンができると、問題のありそうなコンテンツを検閲する可能性はグーグルより高い。ユーザーからみて、検索エンジンが独占(あるいは寡占)になっていると困る理由は見当たらないのである。だとすれば、なぜ国産エンジンが必要なのか。八尋氏はこう主張する。
「他人が作ったものの上に乗っかるのと、自分が一から作れるというのとでは、産業の利益構造からして違います。PC産業でインテルやマイクロソフトが大きな利益を上げたのと同じことです」
つまり、これは国産メーカーの「利益構造」を改善するための産業政策なのである。たしかに情報産業の中核技術となろうとしている検索の分野で日本企業が遅れをとったら、ただでさえ立ち遅れている日本の情報産業がアメリカに決定的に差をつけられるという経産省の懸念はわかる。しかし、このように行政が介入することで状況は改善されるだろうか。事実はむしろその逆であることを歴史は教えているのである。
「大プロ」の栄光と挫折
かつて通産省には、特定の技術を開発するために主要企業を集め、巨額の補助金を支出する「大プロ」(大型プロジェクト=大型工業技術研究開発制度)と呼ばれる制度があった。その成功例としては、一九七六年から始まった「超LSI技術研究組合」が名高い。これは十年かけて一〇〇〇億円の国費を投じ、一メガビットのDRAM(半導体メモリ)を開発するプロジェクトで、大成功を収め、日本の半導体産業が世界を制覇する要因となったとされる。
この成功体験で、大プロには巨額の予算がつくようになり、一九八〇年代には数百億円規模の壮大なプロジェクトが次々に立案された。中でも有名なのは、十年間で一〇〇〇億円を投じて、人間と同じように考える「人工知能」をつくろうという「第五世代コンピュータ」だろう。国産コンピュータ・メーカー各社からエース級の技術者が出向したこのプロジェクトは、一九八二年に発足した時点では全世界の注目を浴び、欧米でもこれに追随するように人工知能を開発する国策プロジェクトが発足した。ところが中間発表(一九八四年)のころには期待はずれとの評価が多く、最終発表(一九九二年)のころはニュースにもならなかった。
というのも、第五世代プロジェクトは、プログラミング言語ではなく日本語のような自然言語で命じると動くコンピュータの開発をめざしたものの、実際に着手すると、問題は予想以上にむずかしく、この目標は途中で放棄されたからである。結局、「並列推論マシン」というハードウェアが開発されたが、その中身の人工知能ができていない状態では実用的な用途はなく、商品化されたが売れなかった。研究自体が暗礁に乗り上げてしまったために予算も使い切れず、最終的には一〇〇〇億円から五七〇億円に減額された。
一九八〇年代初頭は、コンピュータ産業の大きな分岐点だった。八一年に登場したIBM−PCによってコンピュータの主役は大型機からPCに移り、世界的に「ダウンサイジング」が進んだからだ。しかし第五世代プロジェクトは、結果的には在来の大型機を高度化する方向に国内メーカーをミスリードし、ダウンサイジングへの国産メーカーの対応を遅らせるという大きな弊害をもたらしたのである。
それでも第五世代プロジェクトは学術研究としては一定の成果(人工知能の実用化は困難だという否定的な結論ではあったが)が出たという評価もできるが、このあと実施された「シグマ計画」は、大プロの最大の失敗例として知られている。
シグマ計画は、一九八五年から五年かけて二五〇億円の国費をつぎこみ、国内のコンピュータ・メーカーを集めて、日本語で使える開発ツールの標準規格をつくろうという計画だった。しかし全メーカーのコンセンサス(合意)によって進めたため、研究開発よりも、各社の大型機で使われていた既存のツールを作り直して共通化することが主な作業になってしまった。しかも本来はソフトウェアのプロジェクトだったのに、主要なメンバーがハードウェア・メーカーだったため、予算の大部分はハードウェアにつぎ込まれた。
結果的には、予算のほとんどはコンピュータやネットワークの調達コストに浪費され、全国に性能の悪い「シグマワークステーション」をばらまいただけに終わった。こうした失敗にこりて、通産省は一九九〇年代以降は大プロをやめてしまった。
「日の丸検索エンジン」の担当者に、あるとき『サンデー毎日』の記者が「かつての第五世代コンピュータやシグマ計画が失敗に終わったことをどう考えるか?」と質問したところ、「それは何ですか?」と逆に聞かれたという。プロジェクトの事後評価がほとんど行われていないため、失敗が失敗として総括されず、同じ失敗が繰り返されるのである。
産業政策はなぜ失敗するのか
では、なぜ情報産業で産業政策は失敗を重ねたのだろうか。政府が大企業に補助金を出して技術開発を行うメリットがあるのは、高度成長期の製造業のように、技術進歩の方向が長期にわたって安定していて目標が明確であり、主要な困難が設備投資や資金調達にともなう「規模」の問題であるような場合に限られる(DRAMも製造業型の製品だ)。
ところが情報技術の世界では、市場の動向や技術革新の方向が急速に変わるので、ある時期の技術を前提にして巨額の設備投資を行うことはリスクが大きい。他方、設備コストは「ムーアの法則」(半導体の集積度が十八カ月で二倍になるという経験則)と呼ばれる指数関数的な技術革新によって急速に下がっているので、主要な制約ではなくなる。
いいかえると、製造業では需要の存在は確実であり、供給側の規模だけが問題だったのに対して、情報産業では供給側の設備の規模よりも需要や技術革新の不確実性が問題になるのである。こういう場合には、あらかじめ特定の目標を設定して大規模な投資を行うよりも、多くの「実験」に分散投資し、事後的に見直して失敗したプロジェクトから撤退するオプション(選択肢)を広げることが重要になる。
その意味で、通産省型の産業政策の対極にあるのが、シリコンバレーのベンチャーキャピタルである。ベンチャーキャピタルは多くのベンチャー企業に薄く広く投資し、ラウンドごとに成果を見直して投資を継続するかどうかを決める。激しく変化するインターネットの世界では、何が成功するかはだれにもわからないのだから、十のプロジェクトに投資したうち一つ当たればもうけものと考えるしかない。グーグルも、こうした「ダーウィン的競争」で生き残った企業だ。

こうした観点から「日の丸検索エンジン」を考えると、政府が五十六もの大企業や大学などを集めて検索エンジンを開発することは、むしろリスクを極大化することになる。多くのメンバーで開発すると、合意形成に時間がかかりスピードが遅くなるばかりか、多くの大企業や官庁にも理解できる無難なプロジェクトばかりが採用され、実験が困難になるからだ。
検索エンジンも、グーグルが創業したころは十数社あったが、今ではヤフーとMSN以外はほとんどOEM(他社からの供給)である。それは二〇〇〇年にネットバブルが崩壊したとき、ほとんどの企業が「検索はビジネスにならない」と考えて自主開発を放棄したからだ。そのころグーグルもほとんど売り上げがなかったが、ベンチャーキャピタルの資金で開発を続けた。グーグルが検索に連動した広告によって急成長しはじめたのは、二〇〇二年からである。もしこれを日の丸プロジェクトのような体制で開発していたら、とっくの昔に開発は止まっていただろう。
官民のコンセンサスで運営する方式では、悪いプロジェクトを採用するリスクは減らすことができるが、情報産業で大事なのは、よいプロジェクトを採用しないリスクである。だれもが有望だと思うようなビジネスが、革新的であるはずがない。役所の予算要求で認められるようになったときは、もうビジネスとしては終わっている(あるいは勝負はついている)というのが情報産業の経験則である。日の丸検索エンジンは、情報産業におけるプロジェクト管理の常識を無視したプロジェクトというほかない。
改革派の敗北
通産省内部でも、こうした失敗を重ねて、従来型の産業政策がうまくいかなくなっている、という認識が少しずつ広がっていった。産業政策に固執する「ターゲティング派」に対して、一九九〇年代後半には、官庁は競争政策などの枠組だけを決め、あとは市場にゆだねるという「フレームワーク派」が主流を占めるようになった。
特に橋本龍太郎首相のもとで着手された省庁再編では、フレームワーク派を中心とする通産省が主導権をとって、霞ヶ関全体の改革を行おうとした。許認可権による民間指導を放棄し、新しい枠組みを作ろうとしたのである。特に情報産業(通産省)と通信産業(郵政省)を所管する官庁がわかれているのは、コンピュータとネットワークが融合する時代には適していないという問題意識から、通産省は、郵政省の郵便部門は公社に分離し、通信部門の規制機能は独立行政委員会に分離して、振興機能は「経済省」が吸収する構想を描いた。同時に経済企画庁も経済省に吸収し、「大通産省」をつくる計画だった。
一九九七年に行政改革会議が出した中間報告では、この構想どおり経済省を設置する案が出された。当時の行政改革会議の議事録には「発展途上国型の産業振興を、市場原理を中心に据えた経済運営に転換した行政を行う省として、経済省を設置する」と書かれている。
しかし、これには「通産省の焼け太りだ」と他省庁から批判が集中した。特に郵政省は郵政族議員を総動員して行政改革会議の案をつぶしにかかり、郵政省の通信部門と通産省の情報部門を合わせて「情報通信省」を設置する案を打ち出すなど、省庁の組み合わせは二転三転した。最後は、郵政省が丸ごと自治省と合体して総務省になり、通産省は経済産業省と看板をかけかえただけに終わった。当時、通産省から出向して行政改革会議の事務局を務めた松井孝治氏(現・参議院議員)は、その過程を次のように振り返っている。
〈橋本総理の影響力が低下するや、族議員の猛烈な巻き返しが始まり、行革チームは政治の力に連戦連敗を繰り返します。結論から申せば、私たちが精魂込めて作り上げてきた改革案もほとんど水の泡に帰することになるのです〉(松井議員のホームページより)
松井氏はその後、通産研究所の総括主任研究官として、独立行政法人・経済産業研究所(RIETI)の設立にかかわったが、その設立の直前(二〇〇〇年)に退官し、民主党から選挙に出て参議院議員になった。霞ヶ関の内部から改革を行うことに絶望したためだった。
私は二〇〇一年から三年間、RIETIに上席研究員として勤務した。これは経産省の改革の目玉として、霞ヶ関全体のシンクタンクとすべく、青木昌彦・スタンフォード大学教授(当時)を所長として、従来の通産研を大幅に改組して発足したものだ。しかしスタートから三年で青木氏は所長を辞任し、彼にまねかれて研究員となった多くのスタッフ(私を含む)が去ったRIETIは、他の政府系研究機関と同じ「役所の付録」になってしまった。
松井氏の通産省の同期に、村上ファンドの村上世彰元代表がいる。彼は入省以来の親友で、通産省をやめてからも「松井孝治を励ます会」の発起人になるなど、親しく交際を続けてきた。松井氏の秘書の給与を村上元代表が肩代わりしていた(それを政治資金報告書に記載していなかった)という問題も指摘されたが、彼らは省内の閉塞状況に耐えられない点でも共通していた。村上元代表は、通産省を退官するときの挨拶状に次のように書いている。
「行政官として行ってきたことの多くは、本来マーケットで解決すべきではなかったか。特に昨今の経営効率化要求は、本来、株主が声を大にして主張すべきことではないのか。(中略)特に、M&Aの手法を使いながら企業のシステムを変えていきたいとの気持ちを抑えられなくなり、今日の起業に到りました。」
彼らの先輩に、安延申氏(フューチャーアーキテクト社長)がいる。彼は電子政策課長として小渕内閣のIT戦略会議を設立するなど、通産省のIT(情報技術)政策の中枢だったが、二〇〇〇年に退官した。本人いわく「ITがおもしろくなった。この業界では、もう役所にできることはない。省内にいても、ローテーションで違う部署をぐるぐる回るだけなので、ITの世界でやっていこうと思った」。こうした改革派の総帥だったのが、林良造氏(東京大学公共政策大学院教授)である。彼は経済産業政策局長をつとめ、事務次官になるものと目されていたが、当時の村田成二次官と対立して退官した。
ここにあげた全員がRIETIの関係者だったのは偶然ではないだろう(村上氏の最終経歴は通産研法令審査委員、林氏はRIETIコンサルティングフェロー、安延氏も二〇〇三年まで同じ)。省庁再編をきっかけにして「発展途上国型の産業振興」を脱却しようとした改革は挫折し、その最後の拠点だったRIETIも解体されてしまったのである。
通産省は、市場原理のリーダーを演じることによって霞ヶ関の改革派として主導権を握ろうとし、みずから許認可権を放棄した。しかし他の省庁は権限の縮小に抵抗し、省庁再編を骨抜きにしたため、結果的には通産省だけが権限を失って「霞ヶ関評論家」などと揶揄されるようになった。これに不満をもつターゲティング派がふたたび力を増し、フレームワーク派は役所を去ったのである。
その保守派の筆頭が、現在の北畑隆生次官である。彼は官房長のとき、岡松壮三郎RIETI理事長(元通産審議官)と組んで青木所長を辞任に追い込み、経産局長になってからは「新産業創造戦略」なるターゲティング政策を打ち出した。二〇〇四年には、ダイエー問題をめぐって産業再生機構による再建に抵抗して経産省主導の「自主再建」にこだわり、三カ月にわたって霞ヶ関を混乱させた。この当時の北畑氏(経産局長)と、杉山秀二次官、迎陽一・商務流通審議官、石黒憲彦・大臣官房総務課長は、「新四人組」と呼ばれて省内から批判を浴びた。
「国のかたち」の見直しが必要だ
日本経済は「失われた十五年」の長期低迷からは脱したものの、二十一世紀をリードする新しい産業は育っていない。グーグルが示しているように、インターネットで創造されている市場の規模は巨大だが、それに参加している日本企業はほとんどない。この意味で、「日の丸検索エンジン」は、その問題意識においては間違ってはいない。
しかし問題は、その手法である。高度成長期のように、先進国(特にアメリカ)という手本が明らかだったときは、ターゲティング政策も有効だったかもしれないが、日本が世界のトップランナーとなった今では、そういう手本はない。日本の企業が自力でフロンティアを切り拓くには、なるべく多様な実験を行って市場で解をさがす必要がある。その大部分は失敗に終わるだろうが、情報産業では失敗は当たり前である。むしろ失敗が多いほど、画期的なイノベーションも生まれる。
こうした競争環境の変化は、市場にまかせていても生まれない。日本企業の情報産業での苦戦は、日本の産業構造や、それを支える制度の特性に根ざしているので、これを変える「制度設計」は政府の仕事である。特に重要なのは、資本市場である。銀行の融資の原資は元本保証の預金なので、大きなリスクを負うことができない。大企業は資本市場で資金を調達できるが、ベンチャー企業の資金調達は困難だ。これを是正するには、企業買収や対内直接投資への規制を撤廃し、ベンチャーキャピタルや再生ファンドのような株式型の資金調達の道を広げる必要がある。
さらに根本的な問題は、日本企業の親会社と下請けの長期的関係のネットワークは、製造業で品質を管理するには適しているが、中小企業が市場に直面しないため、淘汰のメカニズムが働かず、大きなイノベーションを生み出しにくいということだ。日本の情報産業をだめにしている最大の原因は、新しい企業が旧来の製造業型の系列構造に組み込まれ、ベンチャーではなく下請けになってしまうことである。特にソフトウェアは、特定の企業向けのカスタム製品が多く、親会社が仕様を決めて発注するので、それを受注する中小企業は、いつまでたっても独立できない。
こうしたピラミッド構造の頂点にあるのが政府調達だ。政府が「ITゼネコン」と呼ばれる大手IT企業に大型機とカスタム・ソフトウェアを発注し、そこに孫請け・曾孫請けがぶら下がる構造が諸悪の根源なのである。政府が音頭をとってITゼネコンを糾合する日の丸検索エンジンは、その典型である。経産省の役割があるとすれば、こうした古い産業構造を解体し、新しい企業の参入を促すことだろう。その範を示すため、経産省がみずから情報大航海プロジェクトを解散し、民間企業だけで「大航海」に船出させてはどうだろうか。
ただ参入を自由にすると、ライブドアや村上ファンドのような「異分子」が侵入してくる。中にはルール違反をおかすものも出てくるだろう。そういう場合にも事前に規制するのではなく、紛争は当事者どうしで法的に解決し、ルール違反は事後的に監視して処罰する司法的なしくみを強化する必要がある。
明治以来、日本は行政に権限と情報を集中し、民間の資源を総動員して「富国強兵」をめざす国家体制をとってきた。こうした集権的な統治機構は、追いつき型近代化の局面では一定の効果を上げたが、立法や司法によるチェックがきかないため、脱線したり老朽化したりした場合でも、軌道修正がむずかしい。その劇的な失敗例がかつての戦争だが、敗戦後は軍は解体されたものの、官僚機構は内務省を除いてほぼ温存された。そのため霞ヶ関には、いまだに富国強兵の遺伝子が強く残っている。これを清算して明治以来の「国のかたち」を見直し、資本市場や司法改革によって、問題を民間で分権的に解決する制度設計を行うことが日本の課題である。
こうした改革を官僚自身が行うことは困難だが、経産省の若手官僚には危機感が広がっている。このままでは彼らの天下りポストもないし、かつて大蔵省と並んで「就職偏差値」の高かった通産省(経産省)が、最近ではリクルーターが大学に行っても見向きもされないという。
日本の官僚が優秀で清潔だというのは事実であり、『官僚たちの夏』に描かれたような高い志は今も変わらない。悲劇的なのは、そのエネルギーがいまだに特振法のような有害無益な政策に浪費されていることである。こうした状況に見切りをつけ、政治の世界で改革を志す官僚も増えている。明治憲法以来一二〇年の歴史の中で日本社会に根を張った「官治主義」を是正することは容易ではないが、今はこうした若い世代に期待を託すしかないだろう。


 

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コメント
 
01. 佐助 2010年11月30日 00:13:54: YZ1JBFFO77mpI : GnuRgcG5J2
池田信夫と聞いただけでも腹立つわ,
はあ・・・・日本経済は「失われた十五年」の長期低迷からは脱したものの・・・
脱出していませんよ。それどころかドロ沼に嵌っています。

第一次世界大戦ブームで経済成長した米国は、1929年の最高の経済指数を、三分の一以下に縮小させるスーパーバブルに直撃された。それは十年を経過しても、生産・販売・株式・雇用・投資・貿易の指数を回復できなかった。この恐怖の体験を日本は避けられない。

2011年〜2012年に、その経済指数(生産・販売・株式・雇用・投資・貿易)を、三分の一以下に縮小させる。それも日本だけが、90年代に経験した失われた10年間の苦痛を、再び10年以上も経験しなければならないことになる。

市場拡大のインパクトのある商品を開発できなかった企業は、縮小&倒産は避けられない。90年代の失われた10年を、激烈な輸入と店舗拡大競争によって成長した流通企業と不動産企業は、借金が売上を上回る。そのために、その縮小スピードを、景気の縮小速度より遅延させれば、倒産消滅は避けらない。つまり新しい技術や先覚商品の開発に成功しなければ生き延びることは不可能。だから二番煎じの考えだと,倒産消滅は避けらないということ。

法人税減税して貿易拡大・外資導入・緊縮財政・補助金・信用の拡張で乗り切ると不景気は沈静化しないのがわからないのか,バカではないかのう。エコポイント,補助金などにより先送りされている沈静化する節目がずれ込むだけではないか。また世界的な一括関税引き下げも挫折する,一部貿易協定に走るが,内需が各国で縮小して外需の拡大でカバーできない,関税引き下げと外需で益々市場の縮小が加速してしまうのもわからないだろう。


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